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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査39巻11号

1995年10月発行

雑誌目次

特集 免疫組織・細胞化学検査

著者: 坂本穆彦

ページ範囲:P.7 - P.8

 免疫組織・細胞化学的手法による検査は病理検査の一翼を担うものであり,近年その有用性に対する評価はますます高まりつつある.この領域での染色方法や抗体の開発の進歩は目覚ましいものがあり,次々に新しい創出がなされ,実地においての利用経験によるチェックが行われている.そして,あるものは徐々に評価を定着させ,また,あるものは淘汰されてゆくという流れの中にある.まさにきわめて活動的なサイクルの真只中にある検査方法であると言える.
 本誌では,このような活動性,流動性を抱えている免疫組織・細胞化学検査の原理・原則的側面と,実地応用の両面にスポットを当て,それらの全体像を過不足なく解説することを目指している.すでに本誌と同様な主旨で企画された成書も少なからず存在するが,それらとの差異は,本書においてはできるだけ今日的な状況に即した内容を盛り込んであるという点にある.しかしながら,本誌もただちに時代の流れにさらされる宿命にある.したがって,本誌の真の価値は今後どの程度の増補,改訂が可能かにかかっていると言える.

基礎と技術

10.判定のポイント

著者: 中村靖司 ,   覚道健一

ページ範囲:P.84 - P.86

はじめに
 近年,免疫組織化学は研究目的だけでなく,日常の病理診断へも広く用いられることとなってきた.特に,免疫組織化学はある特定の物質(抗原)の組織・細胞標本上での局在を証明することが可能であり,診断において組織型の決定や良・悪性の判定などに有力な情報を与えてくれる.しかしながら,結果の判断に迷うケースが多々みられ,免疫組織化学を行ったがゆえに診断が二転,三転することもしばしば経験される.
 この項では,免疫組織化学における判定の要点とその注意点を主に解説する.

5.固定法

1)組織固定法

著者: 菅野純

ページ範囲:P.24 - P.26

 形態学的研究は生きたままの状態の組織を観察できれば理想的である.しかし,現実には生体から組織を摘出して観察することが多い.観察し終えるまで可能な限り理想に近い状態を維持する操作を"固定"と定義できよう.固定法に要求される第1の機能は,組織構築を含め,存在する構成要素(分子)が移動しないようにすることにある.そのために,分子間に架橋を形成させたり,溶出しやすい分子を不溶化したりする操作が行われる.第2の機能は,組織中の分解酵素系を失活させて組織の変性を阻止することである.免疫組織染色を目的とする場合には,第3の機能として,抗原性の維持が要求される.
 第1,第2の機能を得るために考案されてきた固定法の多くは,蛋白質間の架橋形成,蛋白変性や凝固がその主作用である.抗原性は抗原決定部位に架橋が生じたり,3次構造が変化することで失われることが多いので,第3の抗原性の維持とは相反することが多い.その点,未固定凍結切片は抗原性の維持には最適である.しかし,固定されていないので,染色操作中に抗原分子,特に低分子の流出の危険性が大きいという問題点がある.よって,現状では免疫染色に関するオールマイティな固定法は存在せず,目的とする抗原の性質に適した方法を選択せざるをえない.以下に,抗原分子の性質別に固定法を述べる.

2)細胞固定法

著者: 山岸紀美江

ページ範囲:P.27 - P.29

 細胞レベルの免疫化学検査において,信頼性の高い,正確で恒常的な結果を得るためには,組織レベルでの固定上の留意事項に加えて,細胞レベルでの注意点に気を配る必要がある.

6.染色法

1)酵素抗体法

著者: 米澤傑 ,   有村佳子

ページ範囲:P.30 - P.34

 酵素抗体法は,優れた抗体や染色キットが数多く市販されている今日,蛍光顕微鏡のような特殊な機器も必要なく,通常の組織染色が可能な施設であればごく限られたスペースで施行できる.さらに,染色切片を形態観察と照らし合わせながら,じっくり時間をかけて観察することが可能であり,また,長期間保存しておくことも可能なので,振り返って何度でも鏡検できる利点がある.本法に関しては,すでに優れた吾書があり1,2),すべてのことはそれらの中で詳しく述べられているので是非参照していただきたい.
 本稿では,日常の臨床検査の実際の場面で最も対象となるホルマリン固定パラフィン切片における光顕レベルの酵素抗体法について述べる.酵素抗体法には西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)などの酵素を標識にした特異抗体を直接組織切片と反応させる"直接法",非標識の特異抗体(1次抗体)をまず組織切片と反応させ,1次抗体に対する特異抗体(2次抗体)にHRPを標識したものを反応させる"間接法",アビジンとビオチンとの特異的かつ強固な結合を利用した"ABC (アビジン・ビオチン化ワサビペルオキシダーゼ複合体)法"などの方法がある.それらの原理は前述の成書1)や染色キットのパンフレットに詳しいきれいな図解が出ているので是非ご覧いただきたい.

2)蛍光抗体法

著者: 浦田洋二 ,   小西英一 ,   村田晋一 ,   芦原司

ページ範囲:P.35 - P.38

はじめに
 細胞内の分子に対する特異的な蛍光染色標本は,解像度とS/N比が高く,適切なフィルターを用いれば多重染色した場合でも極めて分別性が高いという優れた特性を持っている.また,蛍光標識は生化学的特異性を得やすく,その蛍光強度は一般的に物質の量に比例するため,蛍光画像を定量的に取り扱うことが可能である.
 蛍光染色標本のこのような特性はデジタル信号処理技術に適しているため,現代の技術革新(高感度CCDカメラ,共焦点レーザー顕微鏡,フローサイトメトリーなどの光学的技術の発達とコンピュータや画像処理技術などの発達)を背景として,蛍光組織細胞化学は細胞解析技術の新たな可能性につながり,今やその新時代が訪れている1)

3)発色法(重染色法)

著者: 稲田健一 ,   長村義之

ページ範囲:P.39 - P.41

 免疫組織化学における重染色法とは,同一組織切片上の複数の抗原の局在を,異なる抗体と色素で染め分けることにより同時に証明する染色法である.反応のステップが単染色より多いため日常の病理診断にはやや使いにくい反面,研究室レベルでは広く行われてきた.数々の癌遺伝子や癌抑制遺伝子,増殖因子やホルモン受容体と細胞の分化増殖,癌の浸潤転移と接着分子など,近年の細胞生物学や病理学の進歩に伴い,その有用性はますます増していると考えられる.重染色法の中では,二重染色法が最も一般的である.三重染色も可能であるが手技的に繁雑であり,また,十分に考えて行わないと色素の識別が困難となり,特殊な用途以外には使いにくい.したがって二重染色法に話しを絞って概説する.細かい技術面の解説は多くの成書があるので,詳しくはそれらを参考にしていただきたい.ここでは研究レベルでの実際的な利用方法に重点を置きたいと思う.

4)核対比染色

著者: 伊藤仁 ,   堤寛

ページ範囲:P.43 - P.45

 免疫組織化学的手法により特定の抗原が検出され,顕微鏡観察が可能となるが,その陽性像だけでは組織構造の観察,細胞の同定および抗原の局在部位の確認が困難である.そこで,組織構造および細胞をより明瞭に識別するために核染色を行う.核染色は免疫組織化学による発色反応産物を溶解あるいは変質させてはならない.また,反応産物の色調とコントラストをなす色調であることが最も重要であり,補色(余色)の関係の発色剤と核染色を選択するとよい.核染色にはメチル緑,ヘマトキシリン,ケルンエヒトロート,フォイルゲン反応などいくつかの種類があるが,実際にはメチル緑とヘマトキシリンが最もよく用いられる.

7.抗原性の賦活法

1)酵素処理

著者: 小林晏

ページ範囲:P.47 - P.49

 ホルマリン固定,パラフィン包埋切片を用いて免疫組織化学的染色を行う場合,トリプシン,ペプシン,プロテアーゼ(プロナーゼ)などの蛋白分解酵素による前処理を行うことによって,組織切片中の抗原性が賦活化される.この抗原性の消失はホルムアルデヒド固定液により抗原性が遮蔽されるからである.その理由の第1は遊離アミノ基の消失に基づく抗原決定基そのものの変性による非可逆的なものであるが,第2の理由として,抗原決定基を含む蛋白分子内の架橋ないし周囲のほかの蛋白分子との間の架橋に基づく立体障害による可逆的な場合が挙げられる.後者の場合は,架橋によって形成される立体障害のため抗体分子が抗原決定基と反応しえなくなるのである.この立体障害を取り除く目的のため蛋白分解酵素処理が行われるのである1,2).従来から通常よく用いられたのはトリプシンであるが,最近では,ペプシンやプロテアーゼ(プロナーゼ)を用いることが多い3).未処理のホルマリン固定,パラフィン包埋切片ではほとんど反応性を欠く場合に,蛋白分解酵素処理を施行することにより,初めて再現性のある安定した染色結果が得られ,十分に目的とする抗原の同定と局在性を観察できるようになる3).さらに多くの場合,本処理により背景の染色性を低下させる効果がある4).しかしながらアルコール,ブアン,アセトン固定パラフィン包埋切片や凍結切片では蛋白分解酵素処理は全く無効であり,行う意味がないと言える1,2)

2)熱処理

著者: 宇都宮洋才 ,   中村圭吾 ,   河野伊智郎

ページ範囲:P.50 - P.51

はじめに
 免疫組織化学とは,目的とする抗原の組織細胞内における正確な局在を証明することである.そのため,組織細胞の基本構造がよく保存されていることが前提となる.そのためには,組織や細胞の基本構築を構成している蛋白質,脂質,糖質を水分や有機溶媒に溶け出さないようにし,組織や細胞の変性を極力食い止める必要があり,これを"固定"と呼ぶ.
 このように,生体内における状態にできるだけ近い状態を保持し,その局在位置に抗原を正しく固定しなければならない.免疫組織化学における固定はこの相反する条件を満たさなければならないが,蛋白質を不溶化し,抗原を固着化する目的で使われる固定剤はかなり多くの抗原の抗原性を失活させる.形態の保持を高めるために固定を強くすると,その結果,抗原性が弱くて観察できない抗原物質がある.その例として,パラフィン切片では免疫染色の不可能な抗原がある.

8.免疫電顕法

1)包埋前染色法

著者: 岸川正剛

ページ範囲:P.52 - P.56

免疫電顕法の原理
 酵素抗体法を応用した染色原理については,光顕観察と電顕観察との間には基本的違いはない.光顕観察では標識酵素の組織化学反応産物を組織標本上で直接観察するのに対し,電顕観察では,この反応産物にオスミウム酸を反応させてオスミウムブラックという高電子密度の物質を形成させて観察する.このような方法は1966年,Nakaneら1)により開発され,抗原抗体反応という特異的反応を基盤に免疫組織化学を応用した方法である.この方法は電顕観察のためのエポキシ樹脂包埋の前に,抗原抗体反応を行うので,preembedding法とも言われている.電顕観察では,4~8μmの凍結切片組織に標織抗体を十分に浸透させることが必要である.そのため,光顕観察の場合の4~5倍以上の抗原抗体反応時間が必要である.そこで抗体の浸透を容易にするため,抗体分子の活性を持ったフラグメントであるFabあるいはFab'のような少さい分子にした抗体を実際には用いる.酵素抗体法の詳細な内容については,すでに専門書が出版されている2)ので,今回は筆者の経験に基づいた具体的な方法について述べる.

2)包埋後染色法

著者: 小幡博人

ページ範囲:P.57 - P.59

はじめに
 免疫電顕法(immunoelectron microscopy)とは,抗原抗体反応の特異性を利用して,組織・細胞に存在する特定の物質を可視化し,透過電子顕微鏡で観察する方法である.免疫電顕法の代表的な方法の1つとして,包埋後染色(post-embedding)法がある.それは,固定された組織を樹脂包埋後,超薄切片を作製し,グリッド上で免疫染色を行う方法である.ここでは,筆者が行っている金コロイドを用いた包埋後染色法について概略を述べる.なお,詳細な手法については,成書などを参考にしていただきたい1~3)

3)凍結超薄切片法

著者: 鈴木英紀

ページ範囲:P.60 - P.64

はじめに
 凍結超薄切片法はTokuyasuの改良により,数ある免疫電顕法の中で最も信頼性のある方法として確立されてきた1).樹脂包埋した切片を用いるpost-em-bedding (包埋後染色)法2)に比較すると,本法は未包埋のために,抗原性の保持あるいはその露出が良く,高い標識密度が得られる3).したがって,凍結超薄切片法はポリクローナル抗体を使った包埋後染色法では十分な標識密度が得られない場合4,5),さらにモノクローナル抗体による染色が,凍結切片でしか陽性反応が得られない場合に特に有効である6).一方,凍結超薄切片法の形態は,通常のエポン超薄切片に比較すると劣るとされるが,免疫染色後,四酸化オスミウム固定してLR Whiteで包埋,封入すると,その形態はかなり改善される3)
 本稿では特にTokuyasuの方法1)の実際について解説する.本法は凍結時の氷晶形成防止にポリビニルピロリドン,免疫染色後の包埋にポリビニルアルコールを使うことが特徴である.さらに,本稿では凍結超薄切片法の限界についても述べる.

9.特殊技術・応用

1) in situ hybridization

著者: 小路武彦 ,   中根一穂

ページ範囲:P.65 - P.69

はじめに
 機能状態の異なる多様な細胞から成る組織切片において,細胞個々のレベルで特定の蛋白質発現を把握することは,各細胞の生理状態を理解するにとどまらず,組織全体の構造的あるいは機能的バランスを理解するうえで必須と考えられる.ここで免疫組織化学が威力を発揮するわけであるが,ホルモンやサイトカインなどの分泌される蛋白質の場合,存在が必ずしもその細胞での合成を意味しないことが判明している.また,最近では最終生産物の蛋白質については詳細不明にもかかわらず遺伝子の塩基配列については明らかにされる例が頻発している.このような先端的分野においては,遺伝子発現状態の組織細胞レベルでの検索方法としてin situ hybridization (ISH)の利用が不可欠である.
 一方,免疫組織化学の技術的な問題点として,仮にシグナルが陰性であった場合,抗原性が用いられた条件下で本当に保存されていたのか? あるいは反応性は維持されていたのか? という疑問が付きまとう.ISHの標的が核酸という一定の化学物質であるのに対し,免疫組織化学では抗原物質は化学的に多様で固定液などの影響も一様ではないからである.事実ステロイドホルモン受容体1,2,3)に見られるように,最近のマイクロウエーブやオートクレープによる抗原性の賦活化により,以前は陰性と思われていたものが,実は陽性であったと判明した例も相次いでいる.

2)フローサイトメトリー

著者: 松田壯正 ,   西谷巌 ,   松田眞弓

ページ範囲:P.70 - P.73

はじめに
 フローサイトメトリー(flow cytometry)は,検体細胞を細胞浮遊液として細い流水中を流し,これにレーザー光線を照射し,細胞から発生する光信号を電気信号に変換し,細胞表面や細胞内物質を解析する方法論であり,細胞瞬間自動解析分離法とも言われる.フローサイトメトリーはコンピュータと連動し,ソフトの開発に伴い細胞周期の解析(図1)のみならず,さまざまな細胞情報を解析することができる.さらに,この解析結果に基づいて細胞を分取(sorting)する機能があり,ある特定の性質を持った細胞群の収集が可能である.
 現在検査室レベルとして普及しているフローサイトメトリー機器はコンパクトであるが十分な機能を有し,DNA測定による細胞周期やプロイディ(ploidy)分析,モノクローナル抗体を用いた細胞表面抗原の解析に汎用されている.

3)硬組織

著者: 澤田隆 ,   栁澤孝彰 ,   長谷川英章 ,   渡辺慶一

ページ範囲:P.74 - P.78

はじめに
 免疫組織化学は抗原抗体反応という極めて特異性の高い免疫化学反応を組織切片上で行い,目的とする物質(抗原)の局在を証明する方法である.これにより,従来の形態学的観察では得られなかった情報を容易に入手できることから,今や本法は臨床診断や研究に必須の手段となっている1)
 ところで,歯牙・骨などの硬組織を対象とする場合には切片作製の困難さに加えて,脱灰による抗原性物質の流失あるいは抗原性の低下,失活などを伴うために,免疫組織化学的アプローチが困難であった.しかし,固定液や固定法を考慮し,適当な脱灰液や包埋剤を選択することでこの問題も解決されつつあり,その応用範囲は広がってきた.

4)共焦点顕微鏡

著者: 村田晋一 ,   寺内邦彦 ,   浦田洋二 ,   芦原司

ページ範囲:P.79 - P.83

はじめに
 今日の組織細胞化学や免疫組織化学の発達は,細胞内でのDNAやRNA,あるいはさまざまな蛋白などの生理活性物質を特異的に染色することを可能にしている.細胞の増殖・機能の研究で,この特異的染色像に基づく生理活性物質の局在や細胞の微細構造の解析は,ますます重要性を増している.その際,生きているときにできるだけ近い形態を保った細胞・組織の染色像を,高解像度で,また,2次元的のみならず3次元的に捉えることが必要である.しかし,従来の標本作製法や光学顕微鏡技術では,像のボケの原因である非焦点面からの像を取り除くことや,薄切することなしに標本の3次元構造を観察することは困難であった.
 焦点面の像に重なったボケを除去し,高解像度の光学的断層像(または光学的切片像)を捉える手法の1つが,共焦点顕微鏡である.今日の共焦点顕微鏡は,ずっと以前の1957年にMinsky1)が原理を示し,近年の応用光学,電子技術,コンピュータなどの発達により,光学理論値にほぼ等しい高解像度を生み出す新しい型の光学顕微鏡として実用段階に入ってきたものである.本稿では,最も広く用いられている落射型共焦点レーザ顕微鏡を中心に,その原理,特性および応用について述べる.

抗原の種類による応用例

2.ホルモンと生理活性物質

著者: 佐野寿昭 ,   山田正三

ページ範囲:P.95 - P.98

はじめに
 免疫組織化学的な検討対象となりうるホルモンあるいは生理活性物質(酵素や神経伝達物質など)はきわめて多種類あり,それらの具体的な事例は内分泌系を中心とした臓器別応用例に述べられるので,本稿ではこうした物質を抗原にした免疫組織化学の施行上の全般的な留意点といくつかの応用例を述べることにしたい.

3.細胞骨格

著者: 逸見明博

ページ範囲:P.99 - P.102

はじめに
 真核細胞の細胞質には蛋白線維の複雑なネットワークがあり,これらの構造を細胞骨格と総称している.細胞骨格にはマイクロフィラメント(microfilament;MF),中間径線維(intermediate filament; IF),微小管(microtubule; MT)の3つの主要骨格と,それぞれの線維に結合する種々の関連蛋白が含まれる1).ここではこれらの要素について概略を記し,細胞骨格の免疫染色の応用例として組織の全載標本を用い,共焦点レーザー走査顕微鏡(CLSM)での観察例を提示する.

4.細胞接着因子

著者: 石井源一郎 ,   張ケ谷健一

ページ範囲:P.103 - P.107

はじめに
 個体の発生・分化の際に,あるいは細胞の局所への遊走の際に,細胞同士を互いに接着させる現象は,生体の有機的かつ機能的な連絡にとって必須の現象である.この接着現象を仲介する分子は,接着分子と呼ばれている.すなわち,接着分子は,細胞―細胞,細胞上細胞外マトリックス間の接着を仲介し,局所における微小環境構成の一因子として機能を有している.しかしながら,近年におけるさまざまな研究から,接着分子は,個体の発生・分化・成熟といった正常な生理学的現象のみならず,悪性腫瘍の浸潤・転移においても,きわめて重要な役割を果たしていることが想定されている.また,接着分子は,細胞接着のための単なる"糊"として機能するばかりでなく,細胞内外の情報伝達に関して重要な機能を有していることも判明してきている.
 個体の発生・分化・成熟に関する接着分子の果たす役割については他書に譲り,本稿では臨床的に遭遇することの多い悪性腫瘍の浸潤・転移における役割について概説する.

5.複合糖質抗原

著者: 塚崎克己 ,   久布白兼行 ,   福地剛 ,   野澤志朗

ページ範囲:P.109 - P.112

はじめに
 細胞の表面は図1に示すように二重の脂質膜に覆われており,この二重膜のところどころに埋め込まれた蛋白質や脂質の一種であるセラミドには糖鎖が結合し,おのおの糖蛋白質,糖脂質を構成している.そしてこの両者を総称して複合糖質と呼んでいる.最近,癌細胞では細胞表面の複合糖質,特にその糖鎖部分の構造が変化し,正常細胞では存在しないような種類の糖鎖が出現してくる,すなわち糖鎖の発現異常が起こることが明らかとなった1,2).また,複合糖質の糖鎖部分は,細胞の形態や組織構築,細胞相互の認識などにも必須な構造的基盤を与えており3),さらに近年,癌細胞における細胞表面の糖鎖が,浸潤や転移など,癌細胞の細胞生物学的特性に影響を与えることが明らかになったことから4),複合糖質に関する研究は多くの領域において,きわめて重要なテーマとなってきた.そして,個々の組織や細胞レベルでの複合糖質の発現や分布をin situで明らかにしたり,実際に細胞間相互作用が引き起こされている現場で可視化したりするための免疫組織化学的手法は今や複合糖質研究において必要不可欠のものとなっている5)

6.細胞外マトリックス

著者: 川島篤弘 ,   中西功夫

ページ範囲:P.113 - P.116

 細胞外または細胞間マトリックスは,細胞と細胞の問を埋めている高分子構造物を総称している.この構造物は化学構造の類似性から,①コラーゲン蛋白質,②プロテオグリカン(硫酸化されたグリコサミノグリカンを持つ蛋白質で従来の酸性コム多糖),③糖蛋白質(フィプロネクチン,テネイシン,ビトロネクチン,トロンボスポンジン,オステオポンチンなど),④エラスチン,ヒアルロン酸,などの4つに大別される.
 形態学的にみると,細胞外マトリックス(ECM)は線維構造をとる膠原線維や弾性線維,膜状構造の基底膜,ヒアルロン酸とプロテオグリカンの粒子―フィラメント構造,およびこれらの間や細胞周囲に介在分布する糖蛋白の無定形ないしフィラメント状構造である.ECMは全身に広く分布し,各々の臓器,組織に適した3次元的立体構築をとり形態を維持しているのみならず,細胞接着因子インテグリン(ECMに対する膜貫通性受容体で,α鎖とβ鎖より成る二量体)を介して,細胞―マトリックス応答を行い,細胞の接着,移動,増殖,細胞分化に深くかかわっている.

7.増殖因子,癌遺伝子産物

著者: 矢澤卓也 ,   中村靖司 ,   菅間博 ,   小形岳三郎

ページ範囲:P.117 - P.121

はじめに
 近年の分子生物学的研究により,多くの腫瘍性・非腫瘍性疾患における,増殖因子・癌遺伝子産物の病因・病態学的,生理学的な役割が明らかになってきている.その知見は,人体材料を用いた病理形態学の領域にも影響を与え,多くの疾患でそれらの病理学的な意義づけに関して検討がなされつつある.しかしながら,癌遺伝子産物発現による癌の悪性度診断を除き,現時点では,増殖因子・癌遺伝子産物の発現状態をもとに,癌腫か否かの確定診断を行うにはまだまだ検討の余地が残されている.また,検索対象があくまでも遺伝子産物である蛋白などであり,加えて,病理形態学的診断の大多数はホルマリン固定パラフィン包埋標本であるため,増殖因子,癌遺伝子産物の発現の同定には技術的に多くの制限と問題点が山積している.このように,現状では増殖因子,癌遺伝子産物の検索および疾患におけるその発現の意義づけには,多様の問題点があるわけであるが,これらデータの担う,ヘマトキシリン-エオシン染色(hematoxylin-eosin staining;H・E染色)標本に基づく病理診断の補助診断としての役割は今後大きくなるものと考えられる.この項では,増殖因子,癌遺伝子産物(蛋白)についての概説を述べ,代表的なものについて実際の例を含め述べる.

8.細胞回転(細胞周期)

著者: 村上知之 ,   木村由香 ,   小賀厚徳 ,   辻龍雄 ,   佐々木功典

ページ範囲:P.122 - P.126

細胞回転(細胞周期)
 細胞には増殖状態(増殖相)と非増殖状態(非増殖相)とがある.分化した神経細胞は永久に非増殖相にとどまる.末梢血リンパ球は通常非増殖相にあるが,抗原やPHA (phytohemagglutinin)の刺激で増殖相に移行する.また,粘膜,皮膚,骨髄のように常に増殖相の細胞(幹細胞)を含む組織もある.
 増殖相の細胞はデオキシリボ核酸(deoxyribonu-cleic acid; DNA)を2倍に複製し,分裂して2つの細胞にならなければならない(減数分裂などは例外).そこで増殖相を次のように4つに分けるのが一般的である.DNA合成期(S期),分裂期(M期),M期の終わりからS期が始まるまでのG1期,S期とM期との間のG2期である.増殖を続ける細胞はG1―S-G2―M-G1を繰り返す.非増殖相はG0期と呼ばれる.細胞周期(回転)とは,G1―S-G2―Mのサイクルのみならず,増殖相と非増殖相(G0期)との相変換,さらに死による細胞集団からの脱落を含む,細胞の生活環全体を言う(図1).

9.アポトーシス

著者: 橋本知子 ,   一井重利 ,   吉川麗月 ,   中嶋泰典 ,   喜多野征男

ページ範囲:P.127 - P.131

はじめに
 アポトーシス(apoptosis)は,細胞死の機構として最近注目を浴ている.この現象は以前から知られており,Kerrらが1972年にこの名称を用いた1).アポトーシス研究が進むにつれて,これは細胞が自ら死を選ぶ機構が働いていることがわかり,programmed cell deathとも呼ばれるようになった.ところで"apop-tosis"の発音は,4番目のpが無音であるのでアポトーシスが正しいとされるが,アポプトーシス,エイポプトーシス(いずれもトーにアクセント)と発音されていることもしばしば耳にする.

1.病原微生物

1)ウイルス

著者: 椎名義雄 ,   郡秀一 ,   飯島淳子 ,   広川満良 ,   三宅康之

ページ範囲:P.88 - P.91

はじめに
 ウイルス感染症の確定診断は病原体の分離同定であるが,経済性や時間的制約から本法を臨床診断に応用することは困難である.そのため,簡便な方法として血清抗体価を調べる種々の方法に加え,近年免疫学的抗原検出法やDNA診断が急速な進歩を遂げている.
 一方,病理・細胞診の分野におけるウイルス感染症の診断には,古くから蛍光抗体法が応用され,現在に至ってもそれは必須な方法である.しかしながら,抗原の存在を確認するだけでなく,感染細胞における封入体や核内構造などの形態学的変化を同時に観察したい場合は酵素抗体法が優れている.また,近年既知のDNAプローブを用いたin situ hybrydization法も普及し,手軽に応用可能なキットの入手も容易になり,今後幅広い分野での応用が期待される.

2)その他の病原微生物

著者: 小野田登 ,   川井健司 ,   堀貞明 ,   堤寛

ページ範囲:P.92 - P.94

はじめに
 感染症の確定診断における病理診断の重要性に関して,異論をはさむものはいないだろう.例えば,胃炎,消化性潰瘍の原因として,ヘリコバクター・ピロリ感染を病理組織学的に証明することが病理診断に求められている.結核症が病理検査で確定診断されることは,よく経験される.また,思いもかけない感染症組織に遭遇することもまれではない.表1には,病理組織学的診断が求められる主な感染症を列記する.
 感染症病変の病理組織は,適切な部位からの十分な量の組織が得られれば,HE染色においても,菌体あるいは虫体が直接観察される(ヘリコバクター・ピロリ,アメーバ原虫など).

臓器別応用例

8.皮膚

著者: 橋本隆

ページ範囲:P.247 - P.250

はじめに
 皮膚は人体を被い外部からの侵襲を妨げるとともに体液の流出を防ぐ.しかし皮膚自体は独自の機能を営み,面積では平均1.6m2,皮下組織を加えた重量は9kgに及び人体最大の組織と考えることができる.また,皮膚疾患は多種多様であり,多くの皮膚抗原蛋白に対する免疫組織学的検索がその診断に大きな役割を果たしている.本稿ではまず皮膚の構造・機能およびそれらに重要な役割を有する構成蛋白について解説し,その後各皮膚疾患について概説する.

9.中皮細胞

著者: 横井豊治

ページ範囲:P.251 - P.254

はじめに
 中皮(mesothelium)は中胚葉に生じた腔の内面を覆うところから付けられた名称である.正常時には臓器のいちばん外側と体壁の内側を覆うだけの目だたない存在である中皮細胞が,ひとたび病的状態が生ずるや体腔液の貯留とともに多数出現し,姿を変え悪性細胞をも模倣する.そしてまれながら中皮自身も悪性腫瘍になりうる.中皮細胞が検査医学の領域で,特に細胞診の分野で長年にわたって注目され,主要な研究テーマとなっているのはこのような理由からであろう.
 日常診療上しばしば困難な問題を投げかける中皮細胞に対して免疫組織化学の光が当てられる端緒となったのは,腺癌と中皮腫の鑑別診断へのCEAの適用であろう(Wangら,1976年).以来さまざまな抗体が試みられかなりの成果が上がっているが,今なお的確な鑑別を行うには限界があるのも事実である.

10.小児腫瘍

著者: 田中祐吉 ,   佐々木佳郎

ページ範囲:P.255 - P.258

はじめに
 小児腫瘍およびその周辺状況には,以下に述べるようないくつかの特殊性がある.
 (1)小児腫瘍では,成人期の腫瘍と比べて,圧倒的に肉腫の占める割合が高い.小児悪性腫瘍の中で半数前後を占めるのが白血病である.同形腫瘍では,脳腫瘍,神経芽腫,悪性リンパ腫,腎芽腫,肝芽腫,骨軟部腫瘍(骨肉腫,横紋筋肉腫,Ewing肉腫ら)などが主体で,成人期の腫瘍の内訳とは大きく異なる.

11.臓器移植

著者: 伊藤雅文 ,   中川温子 ,   鈴木利明

ページ範囲:P.259 - P.262

はじめに
 臓器移植は今日すでに多くの臓器において治療法として確立したものになりつつある.移植医療においては,各種領域の専門家がチームを組み治療することがその成否を左右する.病理はそのチームにあって重要なメンバーとして,移植後に連続的に発生する種々の局面で病理診断粒を行う専門的な役割を与えられている.
 本稿においては,移植医療の種々の局面での病理診断と,その病理診断への免疫組織化学の応用を中心に述べる.

1.消化器系

1)唾液腺

著者: 林良夫

ページ範囲:P.134 - P.136

はじめに
 唾液腺は耳下腺・顎下腺・舌下腺の3大唾液腺と口唇腺・口蓋腺・頬腺・舌腺など多数の小唾液腺よりなる外分泌腺である.いずれも口腔内に唾液を分泌し混合唾液として機能を果たしている.大小の唾液腺は総体として消化器系の入口に位置し,その分泌液である唾液が消化作用・粘膜の保護・咀嚼や嚥下の円滑化・抗菌作用など重要な役割を果たしている.

2)消化管

著者: 中村眞一 ,   菅井有 ,   小野貞英 ,   新井冨生

ページ範囲:P.137 - P.141

はじめに
 ヒトの消化管は口腔から始まり,肛門管まで,ひと続きの管状構造を取る.しかしこの管状構造は,食道,胃,十二指腸,小腸,大腸(虫垂),直腸とそれぞれ固有の機能と構造を持った器官に分けられている.これらのひと続きの器官が有機的に働き,摂取した食物から栄養素や水分を消化・吸収し,糞便として排泄する役割を担っている.また消化管には豊富なリンパ装置が分布していて,免疫監視や生体防御を営む粘膜免疫機構を有している.
 消化管には各器官に特有な病変が起こる.胃や大腸には腺癌が好発するのに対して,胃と大腸の問の小腸には上皮性腫瘍はまれである.潰瘍性大腸炎では炎症は大腸に限局し,小腸まで病変が及ぶことは滅多にない.

3)肝・胆・膵

著者: 齋藤勝彦 ,   中沼安二

ページ範囲:P.143 - P.146

はじめに
 肝・胆・膵は消化器臓器としてお互い密接な関係にある.胆汁の産生分泌は肝の代表的機能の1つであり,産生された胆汁を肝から十二指腸まで排出する経路が胆道である.また,膵管は胆道と合流し,十二指腸に開口している.
 胆・肝・膵疾患の特徴の1つは,原因の多様性に比較し,病理組織形態の多様性に乏しいことであろう.病理組織所見のみから特定の原因を究明することは困難であることが多い.免疫組織・細胞化学的検査はこの病理組織形態の弱点を補強してくれる有用な手法と考えられ,肝・胆・膵の腫瘍診断においても必要不可欠な情報を提供してくれる.肝・胆・膵の悪性腫瘍は近年増加傾向にあるもののまだ早期発見,早期診断の難しい領域であり,免疫組織化学の発達進歩は多大な恩恵を与えてくれている.

2.呼吸器系

1)肺腫瘍

著者: 岡輝明

ページ範囲:P.147 - P.152

はじめに
 呼吸器系(肺・気道)にはきわめて多種類の腫瘍が発生し,その組織像は多彩であり,組織型に基づいて治療法が決定されたり予後が推定されるため,正確な組織診断が求められる.組織診断はHE染色標本で行うが,特殊染色(粘液染色,Grimelius染色などのほか,肺の構造との関係を明らかにしたり血管侵襲や胸膜浸潤を確認するためにElastica van Gieson染色などの弾性線維染色は必須),免疫組織化学染色の結果や電顕所見などを参考にしつつ診断を確定する.ただし,病理診断は患者情報,画像所見,肉眼像などの正確な把握なしには行えず,むしろこのことこそが重要であることを強調したい.
 手術例や剖検例では十分な量の組織が観察可能であり,特殊な例を除き,HE標本でおおむね適切な診断に到達しうるが,低分化癌,大細胞型の悪性リンパ腫,悪性黒色腫あるいは胚細胞腫瘍などは組織像が類似していて,HE標本のみでは相互の鑑別が難しい場合もある.このような場合,keratinなどの上皮性マーカー,リンパ球マーカーのleukocyte commonantigen (LCA),S 100蛋白あるいは悪性黒色腫のマーカーであるHMB45,およびplacental alkalinephosphataseなどを染色すれば容易に鑑別できることがある.一方,小さな生検検体では診断確定の困難なことも少なくない.

2)炎症性肺疾患

著者: 玉井誠一

ページ範囲:P.153 - P.158

はじめに
 鼻腔などの上部気道を経て気管支・肺胞などに至る呼吸器系は,大気と常に直接接しており,しかも,皮膚のような厚い保護の膜に覆われておらず,飛沫に含まれるウイルスや細菌などの病原微生物,亜硫酸ガスなどの刺激性ガス,あるいは粉塵中の各種抗原物質などの侵襲により容易に障害を受ける.実際,健康人でも"風邪をひく"ことに代表されるように,炎症性の呼吸器疾患は罹患率の比較的高い疾患である.
 侵襲による障害は気管・気管支樹から成る気道の粘膜の炎症にとどまることが多いが,気道の炎症の波及あるいは侵襲因子の直接的な障害によりその末端にある肺胞領域の炎症を引き起こすこともある.

3.泌尿・生殖器系

1)腎臓

著者: 伊藤信夫

ページ範囲:P.159 - P.162

はじめに
 腎疾患の有病率は比較的高いが,幸いなことに,心疾患や他臓器の悪性腫瘍に比べると,腎疾患が直接の死因となることはかなり少ない.血液透析や腎移植は多くの慢性腎不全患者の社会復帰を可能にしている.
 腎臓の構造は非常に複雑であるので,腎疾患もそれに見合って,奇形,代謝疾患,感染症,糸球体腎炎,血管病変,腫瘍など多種多様である.このうち,糸球体腎炎は慢性腎不全の原因の多くを占める重要な疾患であり,慢性に経過し,悪化してゆく機序に関しては不明な点も多く,いろいろな糸球体腎炎についてたくさんの研究が行われている1).糸球体腎炎の診断には,従来から,蛍光抗体法を用いた免疫グロブリンや補体の沈着の有無の検索が必須とされている.免疫組織化学の応用という点では,腎臓は先駆的臓器といえる.

2)前立腺

著者: 白石泰三 ,   松陰宏 ,   矢谷隆一

ページ範囲:P.163 - P.164

はじめに
 アメリカでは前立腺癌の有病率は悪性腫瘍中第1位,死亡率は肺癌に次いで2位ともっとも多い癌の1つである.社会の高齢化および生活様式の欧米化に伴い,わが国でも前立腺疾患が増加し,前立腺は注目される臓器となりつつあるが,解剖・機能を含め不明な点が多い.ここでは前立腺の構造と病態を紹介し,併せて,免疫組織染色の適用について解説する.

3)睾丸

著者: 本山悌一

ページ範囲:P.165 - P.169

はじめに
 睾丸(testis)は精巣とも呼ばれ,男性生殖器の1つで,女性における卵巣に対応する.睾丸のもっとも重要な役割は性腺(gonad)として精子を作り出すことであるが,同時に男性ホルモンを産生分泌する内分泌臓器であるという重要な面を持っている.したがって,睾丸に発生する疾患はすべて多かれ少なかれこれら2面にかかわってくることになる.

4)子宮

著者: 鈴木雅子 ,   飯原久仁子

ページ範囲:P.170 - P.173

はじめに
 子宮は,女性の小骨盤腔内の膀胱,直腸間に位置する妊娠や分娩のための重要な器官である.その機能上,性ホルモン(エストロゲン,プロゲステロンなど)の影響を受け,幼年期,性成熟期,閉経後では,生理的に大きさや内膜の組織形態に変化が見られ,性成熟期においても,性周期,妊娠により変化する.子宮の病変を理解するには,その変化を把握することが大切である.
 子宮癌検診の普及により癌の早期発見がなされ,癌死亡率は減少してきたが,いまだ子宮癌は女性の癌死亡率の中で高順位に位置しており,罹患率の増加や若年化傾向をがみられる点でも注目すべき重要な疾患の1つである.また,近年,HPV (human papilloma-virus)感染と頸部癌発生との関連性が注目されており,HPV感染の検索ならびに,その後の経過観察が重要であると思われる.

5)卵巣

著者: 清川貴子 ,   坂本穆彦

ページ範囲:P.174 - P.176

はじめに
 卵巣は女性の小骨盤内,子宮の左右に1つずつ存在する卵円形の臓器であり,卵胞発育とホルモン産生を担い生殖生理をつかさどっている.卵巣の病理において,免疫組織化学は卵巣腫瘍の組織型の鑑別診断にもっともその力を発揮する.また,最近では癌遺伝子産物や細胞増殖抗原に対する抗体の開発により,これらの免疫組織化学的検索が行われるようになり,卵巣腫瘍の発生や病理病態解明さらに量後因子として今後その役割がさらに拡大していくと思われる.

6)乳腺

著者: 土屋眞一 ,   松山郁生

ページ範囲:P.177 - P.181

はじめに
 乳腺疾患の中でもっとも重要な病変は乳癌であることは言うまでもない.欧米諸国に比べて著しく低かった日本の乳癌発生率は,最近では急激な上昇傾向を示しており,21世紀のごく早い時期には日本女性の癌の発生率の第1位となることが確実視されている.したがって,病理医ならびに検査技師が乳腺腫瘍を取り扱う機会はこれからますます増えてくることが予想される.
 一般的に,組織診断は細胞の構造や配列,異型度によってなされるが,乳腺にはその基準が当てはまらない病変が多くみられる点が最大の特徴とされる.その結果として,良・悪性鑑別に難渋する症例がしばしばみられ,常識的な診断尺度ではともすればUnderdiagnosis(過小診断)したり,反対にoverdiagnosis(過剰診断)することが少なくない.

4.内分泌系

1)下垂体

著者: 前田環

ページ範囲:P.182 - P.185

はじめに
 日常の病理形態学的検査で扱われる下垂体は,主に外科的に切除された下垂体腫瘍である.下垂体腺腫に対する内科的治療の発達で,外科的切除の適応症例は減少傾向にあるため,下垂体は形態学的検査では影の薄い存在と言えるかもしれない.しかし下垂体は甲状腺,副腎,生殖器などの機能を制御する何種類ものホルモンを分泌し,その異常はさまざまな病態を引き起こすので,きわめて重要で興味深い臓器である.
 下垂体の重量は0.5~0.8gで,視床下部から数ミリの茎で下垂しており,顔の正面から見ると両眼の中間あたり,鼻根部の奥に位置している.下垂体腫瘍の切除は上口唇下の歯肉粘膜から鼻腔(鼻粘膜と鼻中隔の間)を介して経蝶形骨洞的に行われるHardyの手術が一般的である(図1).

2)甲状腺

著者: 山下裕人

ページ範囲:P.186 - P.189

はじめに
 甲状腺は最大の内分泌腺であり,前頸部で甲状軟骨に接して存在するところから甲状腺と命名された.甲状腺はその解剖的位置から触診や視診により容易に病変が見いだされ吸引細胞診も行いやすい臓器であり,甲状腺の細胞診を行う施設も増加している.
 細胞診で問題となるのは癌と非癌との鑑別であるが,1cm以下の微小癌の頻度は高く(10人に約1人),甲状腺癌についての正確な知識を有することはきわめて重要なことである.

3)副腎

著者: 河合紀生子

ページ範囲:P.191 - P.194

はじめに
 副腎は腎臓の上部内側に位置する黄色三角形の小さな内分泌臓器である.1563年初めてその名が記載されたが,1855年Addisonが生命維持に必要な臓器であることを指摘し,その機能が初めて注目されるようになった.その後,Henchが副腎皮質ホルモンであるコルチゾールがリウマチ様関節炎に劇的効果を示すことを発見し,ノーベル賞を受けて以来,広く知られるところとなった.
 副腎は生命維持や生体防衛反応に重要な役割を演じているとはいえ,副腎疾患は頻度が少ないうえ病態像が複雑で,ホルモン異常を示す疾患と病変の関連や解釈が難しく,他の内分泌臓器に比べてなじみが少ないため苦慮することがしばしばである.

4)膵内分泌

著者: 諸星利男

ページ範囲:P.195 - P.196

はじめに
 膵臓は外・内分泌機能を合わせ有しており,この意味で特徴的な臓器である.しかし最近のAPUD系あるいは消化管ホルモンの概念に従えば,これらの特徴は消化管に一般的なものであり,必ずしも特異的ではない.しかし消化液を分泌する最大の臓器であり,消化管ホルモン産生臓器として最も大きな内分泌細胞の集積(膵島)を有する点で,やはり特異的臓器といえる.以下に膵内分泌系,特に膵島を中心にその形態と病理について述べる.

5)カルチノイド

著者: 木村伯子

ページ範囲:P.197 - P.200

はじめに
 カルチノイドとは"がんもどき"癌類似腫瘍という意味である.すなわち,上皮細胞が腺癌のような形態をとっているが,細胞異型および生物学的態度は癌ほどは高度に悪性でない.最も特徴的なことは,カルチノイドは内分泌細胞のみから成る腫瘍であり,発生母組織が全身の上皮に散在性に存在する神経内分泌細胞であることである.したがって,カルチノイドは気管支,腸管はもとより,中耳,喉頭,腎,生殖器に至るまでありとあらゆる部位に生ずる.しかし幸いなことに神経内分泌細胞はアミンとペプチドホルモンを産生する細胞であるところから,それらに対する抗体を用いて免疫組織化学を行うことにより,診断は比較的容易にかつ確実になされ得る.本稿ではカルチノイド腫瘍の診断の仕方,腫瘍が産生する活性物質と臨床症状,良・悪性の判定などについて記述する.

5.造血器系

1)造血機構

著者: 和田結花 ,   池淵研二

ページ範囲:P.201 - P.204

はじめに
 造血幹細胞,前駆細胞の研究はin vitroの造血コロニー形成法およびin vivoの細胞移植系を中心に進められてきた.近年の免疫学の進歩からリンパ球の表面抗原に対する各種抗体が開発されると同時に,造血系の各種細胞種および分化段階にかかわる細胞表面抗原に対する抗体が開発され,細胞の同定や純化に盛んに応用されるようになった.

2)白血病

著者: 村上純子 ,   大島年照

ページ範囲:P.205 - P.209

はじめに
 すべての血液細胞は,造血幹細胞(hemopoieticstem cell)が分化・増殖してできる.造血幹細胞には階層性(hierarchy)があり,未熟な幹細胞は1個の細胞から赤血球,白血球,血小板,リンパ球などのさまざまな成熟血液細胞を作り出す能力(多分化能)を持つと同時に,自己複製能力を持ち,多能性幹細胞(multipotent stem cell; MSC)とも称される(前項"5.造血器系 1)造血機構"を参照).
 白血病は造血器系の代表的な腫瘍で,造血器系のおおもとである多能性幹細胞以降の種々の分化レベルの細胞が,何らかの原因によって腫瘍化し,正常の制御機構を逸脱して増殖する疾患である.白血病の原因としては,成人T細胞白血病におけるレトロウイルス(HTLV-1)や,放射線の大量被曝,ある種の薬剤などが知られているが,ほとんどの症例は原因不明である.通常,白血病は腫瘍化した1個の細胞が単クローン性に増殖して起こる.そのため白血病細胞は,形態学的にも機能的にも,腫瘍化を生じた段階の正常造血細胞の特徴を多少なりとも残している.

3) Tリンパ腫

著者: 上平憲

ページ範囲:P.211 - P.213

はじめに
 悪性リンパ腫(malignant lymphoma;ML)とは,リンパ組織(主にリンパ球)に発生する悪性腫瘍性病変で,臨床的にはリンパ節を中心に腫瘤を形成する疾患と定義される.リンパ球は免疫学的にB,T細胞の二大サブセットに分類され,この中のT細胞由来のものがT-MLである.従来,MLは組織形態学的に同定・分類されていたが,1970年以降の現代免疫学の進歩は,リンパ腫細胞の生物学的特性をも次々に解明し,免疫学的T,B細胞同定も容易になり,MLの疾患概念の理解や分類・命名法などに多大の影響を与えた.
 一方,MLの腫瘍細胞の研究成果が,正常B,T細胞分化過程の理解に対しても大きな役割を担ってきた.悪性リンパ腫自体は,今も昔も同じ"病気"であるが,分子生物学的な新しい細胞同定法はさらに新たな発見をもたらし,同じ疾患に別々の病名が付けられたり,ときにはB-MLとされていたものが実はT-MLであったなど,いまだ流動・発展の途上のものも多く,ときに混乱することもある.特に,T-MLは腫瘍細胞の単クローン性の同定が煩雑なことや腫瘍細胞の機能(主にサイトカインの分泌)のからみで病理組織像のみならず臨床像にも多様性があり,B-MLに比較すればいまだ未知の部分も多い.

4) Bリンパ腫

著者: 阿部正文 ,   若狭治毅

ページ範囲:P.215 - P.217

はじめに
 悪性リンパ腫はリンパ組織(リンパ節およびリンパ装置)から発生するリンパ球系腫瘍の総称で,Hodg-kin病と非Hodgkinリンパ腫の2つに大別される.非Hodgkinリンパ腫の組織分類は増殖様式(濾胞性増殖かびまん性増殖)と細胞型(細胞の大きさ)によって細別され,さらに免疫表現型によってTリンパ腫とBリンパ腫とに分けられる.一般にBリンパ腫はTリンパ腫に比して予後の良いことから,免疫組織化学染色による表現型の同定は重要である.さらに,リンパ球の分化抗原に対する種々の単クローン抗体の開発はどの分化・成熟段階におけるリンパ球が腫瘍化しているかを同定でき,Tリンパ腫あるいはBリンパ腫の亜型分類と病態把握に寄与している.本稿ではBリンパ腫の分類および診断・鑑別診断における免疫組織化学の有用性を中心に述べる.

5)骨髄異形成症候群

著者: 川合陽子 ,   清水長子 ,   松井栄美

ページ範囲:P.218 - P.221

はじめに
 骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndrome; MDS)は骨髄中の幹細胞の異常が原因で,治療反応性の低い後天性の造血異常をきたす疾患である.組織化学的検査は補助診断として不可欠であるが,免疫組織学的検査はあまり普及していない.

6.神経系

1)神経系の発生異常

著者: 渡辺芳夫 ,   高橋雅英

ページ範囲:P.223 - P.226

はじめに
 腸管神経系の研究は,免疫組織化学の発達によって,構造や機能の面だけでなく,その発生に関しても急速な進歩を遂げつつある.
 腸管神経系は,一般に神経節における神経伝達物質や微細構造上の特徴が,交感神経系や副交感神経系の神経節と異なり,中枢神経系と類似していることから,第3の自律神経系と考えられている.FurnessとCostaによれば,ヒトの腸管に内在する神経細胞の数は107~108個と試算されており,これは脊髄の全細胞数にも匹敵する.

2)腫瘍

著者: 中里洋一

ページ範囲:P.227 - P.230

はじめに
 神経系の腫瘍に関する知識は,免疫組織化学の応用により飛躍的に増大してきた.腫瘍組織および細胞内における物質の局在は,従来の形態学的手法では十分に知ることはできなかったが,今や免疫組織化学的手法により数多くの抗原物質の腫瘍内における存在の有無を容易に確認することが可能となった.その結果,神経系腫瘍の診断や病態の解明は急速に進歩し,また,新しい腫瘍型の発見も行われてきた.
 免疫組織化学が神経系腫瘍の検索に応用される目的には,①腫瘍の病理組織学的診断,②腫瘍の増殖能の検討,③腫瘍の生物学的性格の認識,などがある.本稿ではこれらの実例を示しながら,神経系腫瘍の検索に免疫組織化学が果たす役割について解説する.

3)変性疾患

著者: 小林槇雄

ページ範囲:P.231 - P.234

はじめに
 変性疾患とは,神経細胞の萎縮,変性による進行性の障害で,末期には非可逆的な脳脊髄の萎縮をもたらす神経難病である.原因のいまだ不明のものが多いが,運動ニューロンを選択的に障害する難治性神経筋疾患である筋萎縮性側索硬化症では,脊髄後索の変性を伴う遺伝性症例の一部で原因遺伝子としてCu/Znsuperoxide dismutase(SOD)遺伝子の突然変異が相次いで報告され,病因との関連が注目されている.
 臨床的に進行性の痴呆を主症状とするアルツハイマー病(Alzheimer's disease;AD)の脳では,大脳皮質全般にわたる神経原線維変化と老人斑を病理学的特徴としている.これら病変の帰結が,広範かつ選択的な神経細胞脱落であり,細胞脱落の程度は臨床上の痴呆の程度に最もよく相関する.また,海馬CA 1の錐体細胞脱落は,同部位の神経原線維変化とよく相関し,画像解析によると,連合野皮質のIII,V層の錐体細胞が選択的に脱落を示す.細胞間隙に形成される老人斑は,ADに特異性が高く,中央にアミロイドと呼ぶ線維状構造物が集積した芯を持ち,その周囲に変性した神経突起やシナプスが存在する.この構造物の特徴から,アミロイド線維が脳の細胞間隙に沈着して,周囲の神経突起を変性させ,ついにはニューロンを死に至らしめるものと推定されている.

7.運動器系

1)軟部

著者: 福永真治

ページ範囲:P.235 - P.241

はじめに
 軟部組織はその構成細胞が多種で,それから発生する軟部腫瘍は当然その発生母地が多岐にわたり組織像も多彩である.日常業務で組織診断に難渋することも多く,良悪性の判定が困難な症例にも少なからず遭遇する.鑑別診断法として従来の種々の特殊染色,電顕的観察に加え免疫組織化学的検索が強力な武器となっている.さらに細胞の形質や分化を把握するのにこの免疫染色は不可欠である.しかし免疫染色が日常業務として比較的簡単に行えるようになったと同時に,その結果の過大評価により組織診断を誤る危険性も少なくない.
 本稿では軟部腫瘍および腫瘍様病変の基本的特徴,分類と免疫組織化学的特徴について,また通常のホルマリン固定パラフィン切片で染色可能でかつ現在広く普及ないし普及しつつある代表的なマーカーとその意義と留意点について述べる.

2)骨・関節

著者: 野島孝之 ,   佐々木恵子 ,   平賀博明

ページ範囲:P.242 - P.246

はじめに
 成人の骨格は206個の骨から成り,80個の体幹骨と126個の体肢骨に大別される.体幹骨は23個の頭蓋骨と6個の耳小骨,26個の脊柱骨,1個の胸骨,24個の肋骨から成り,一方,体肢骨は上肢と下肢を形成するそれぞれ64個と62個の骨から成る.これらの骨は生きた組織であり,活発な代謝活動を営み,生命現象の維持に不可欠な働きを行っている.骨や関節病変の診断においては,病理組織学的診断が必須であるが,他臓器に比して特殊性があり,常に整形外科医,放射線診断医と臨床情報の交換が必要である.特に,画像から得られる情報は重要で,疾患によっては組織像のみでは誤診をしたり,確定診断に至らない場合が多い.近年,免疫組織化学のめざましい進歩により,組織診断の客観的情報が比較的容易になってきたが,患者の年齢,発生部位や画像所見を併せて免疫染色の結果を判断しないと,誤った診断と治療を引き起こすことにもなる.

ミニ情報

免疫組織化学における分子遺伝学の役割―電顕レベルのin situ hybridization

著者: 松野彰

ページ範囲:P.17 - P.17

 電顕レベルのin situ hybridization(EMISH)は個々の細胞内でのDNA,mRNAの局在を明らかにするためには必須であり,本法には,①preem-bedding法,②postembedding法,③超薄凍結切片を用いる方法,の3つがある.③は形態の保持の点に問題があり,①と②が望ましい.その手法についてラット下垂体細胞におけるGH mRNAのEM-ISHを例に概説する.
 (1) preembedding法:4%paraformaldehydeで固定後の6μmの凍結切片を作製し,ビオチン化oligomlcleotide probeを用い,hybridizationを37QCで1晩行う.hybridization signalはstrept-avidin-biotin-horseradish peroxidase (HRP),diaminobendizine(DAB),H2O2で検出し,osmifi-cation後,Quetol-812に包埋し,電顕下に観察する.図1(左)のとおり粗面小胞体上polysomeにosmium blackとしてmRNAが認められる(bar=0.2μm).

技師の技術研修

著者: 黒川和男

ページ範囲:P.29 - P.29

 近年の病理技術の進歩には目覚ましいものがある.約100年前から行われているパラフィン包埋,HE染色,光学顕微鏡で観察といった形態学から大きく変わりつつある.組織切片上での免疫染色を機にin situ hybridization,PCR,フローサイトメトリー(FCM),電子顕微鏡などの所見が病理診断には不可欠なものになっている.なかでも免疫染色は特別の検体処理が必要でなくパラフィン包埋切片から染色でき,高価な設備や場所もいらず,小さな検査室でもすぐに実施できるため,広く行われている.
 当科でも以前から免疫染色を日常検査に取り入れているが,ますますその重要度が増してきている.当科で免疫染色を本格的に始めたのは8年前の病理医着任以後である.それまではキットを中心に2,3の項目に限って行っていた.当時は保険点数,抗体の種類や質,価格,病理医のオーダーなどの諸条件より,実施件数はわずかだった.現在は一次抗体100種類を凍結保存し,年間730件の染色を行っている.技師の研修には免疫染色担当技師を当て,各種学会,講習会,研修会などに参加し,技術研修を行った.そして抗体についての解説書,コントロールスライド,染色マニュアルの作成を行い,その後全員が技術習得できるように短期間でローテーションを実施した.その成果は病理科内での勉強会,学会発表,論文発表などで行い,科内の勉強会は免疫染色を含め,週3回全員持ち回りで行っている.

細胞標本免疫染色のための保存方法

著者: 社本幹博

ページ範囲:P.34 - P.34

 細胞診標本をしばらく保存する必要がある場合の保存方法について,未固定標本と固定標本とに分けて述べる.未固定標本については十分に乾燥固定後シリカゲルを入れた完全に密封可能な容器に入れ保管する.-80℃の冷凍保存であれば1年ぐらいは保存できる.-20℃でも2~3か月は十分に保存可能である.通常の冷蔵庫では1~2日しか持たない.いずれにしろ未固定標本であるので完全に密封して保管することが重要である.固定標本の場合はアセトン固定後乾燥して上記の方法で保存できる.冷蔵庫内保存も未固定標本よりは長期間保存が可能である.アルコールや10%ホルマリン固定の場合には固定液に入れたまま保存することになるので,固定時間が長くなると細胞内物質の溶出などのため,抗原性の失活の原因となる.したがって長期間の保存は好ましくない.もちろんアセトン固定やアルコール固定では免疫染色が不可能な抗体もあるので注意を要する.染色時-80℃から室温に戻すときには,-20℃,4℃と徐々に温度を上げてゆき室温に戻し再度風乾する.急激に室温中に取り出し標本上に水滴などが付くことがないよう注意する.同一症例で数枚の標本を作製し,その一部の標本のみを免疫染色し,他の未染色標本は別の機会に染色したいような場合には,初めから別の容器に分けて保存するよう心がける.何度も保存標本を室温に戻すことは避けるべきである.

リンパ管と毛細血管

著者: 岡田英吉

ページ範囲:P.41 - P.41

悪性腫瘍の組織診断に際して毛細血管と毛細リンパ管を鑑別することは重要であるが,通常の組織標本では鑑別が難しい.現在この両者を確実に鑑別する実用的な方法は酵素組織化学的な内皮細胞の性質の差を利用するものである.このためには酵素を失活させないために通常のホルマリン固定・パラフィン包埋法は使用できないが,冷アセトン固定・凍結切片では可能である.血管内皮細胞はその毛細血管の後半部(静脈側)でジペプチジルペプチダーゼIV(DP-IV)の酵素活性が高く,その前半(動脈側)ではアルカリホスファターゼ(ALP)の酵素活性が高い.Lojda法によるDP-IVの酵素組織学反応とBur-stone法によるALPの反応を二重に施すことにより,それぞれ赤色と青紫色に毛細血管の全長を染色できる.毛細リンパ管内皮はどちらの反応も陰性である.毛細リンパ管内皮細胞は5’-ヌクレオチダーゼ(5NA)の酵素活性が毛細血管より高い.したがって,適当なパラフォルムアルデヒド後固定を施した後にWachstein法による5NA反応を施すと毛細リンパ管内皮を選択的に黒褐色に染色できる.組織をアセトン固定→凍結・薄切→DP-IV反応→ALP反応→後固定→5NA反応の順で処理すると,同一切片上での三重染色が可能である.また,冷アセトン固定・

病理検査室の未来像

著者: 広川満良

ページ範囲:P.42 - P.42

 病理検査室の未来はどのようになるのだろうか.近年,医学は加速度的に進歩しており,それを予測するのは容易なことではない.したがって,ここに述べる内容は私個人の夢物語だと思っていただきたい.
 まず,この数年間を振り返ってみよう.検査室にはやたらコンピュータが増え,肉眼像や組織・細胞診の画像までもコンピュータ処理可能となってきている.欧米ではコンピュータで細胞診のスクリーニングを行い,細胞検査士は顕微鏡を見ることなく,モニター上で異常細胞の判定を行っている施設さえある1).通信機器の進歩もめざましく,各施設間を電話回線で結んで画像を送り,離れた所にいる専門家に診断してもらうこともできるようになった2).また,診断の手法では,形態学に加えて,免疫組織化学や遺伝子検索なども日常的になりつつある.

凍結切片・パラフィン切片の特殊性

著者: 前田邦彦 ,   鈴木一志 ,   松田幹夫

ページ範囲:P.46 - P.46

 凍結切片は本来迅速病理診断に用いられてきたが,抗原性が良好に保存されることから,免疫組織化学に広く応用されてきた.新鮮凍結法による凍結切片では通常のホルマリン固定パラフィン包埋切片に比較すると細胞形態や組織構築の保持に不十分な点があるが,PLP固定やparaformaldehyde固定などの特殊固定後の凍結切片では,形態の保持も改善され,免疫電顕のpreembedding法の主要な方法ともなっている.
 他方,パラフィン切片においても,近年,ホルマリン固定やその後の脱水・包埋過程に抵抗性の抗原エピトープを認識する新しいモノクローナル抗体の開発や,いわゆる抗原性の賦活化unmasking (トリプシンなどの蛋白分解酵素による消化,マイクロ・ウエーブ照射やオート・クレープによる加熱,塩酸やギ酸による酸性処理,DNaseによる核酸の消化,界面活性剤による処理など)1),染色感度の増強などの染色技術の改良によって,免疫染色の応用が著しく広がっている.

病理検査室におけるコンピュータ管理

著者: 小俣好作

ページ範囲:P.64 - P.64

 病院内の病理検査室における業務には,組織および細胞診標本の作製,診断報告書の作成のほかに,それら標本および報告書の保管,管理があり,特に報告書の十分な活用にはコンピュータの使用が不可欠である.常勤の病理医および細胞検査十にとって,与えられた標本の診断報告書を作成するだけでは不十分であり,その患者さんの過去の病理学的検査結果は,たとえネガティブデータであっても,すべて検鏡前あるいは検鏡中に参照し,必要に応じて過去の標本を取り出し,再検鏡すべきである.それにより,診断書の内容を質的に高めることができ,病理診断の内部精度管理にもつながる.現在,病理検査が日常診療において頻繁に行われており,かつ,患者さんの治療方針に決定的な要因となることから,その精度管理においてこのような対応が必要であることは言を待たない.
 データベースソフトを用いてパーソナルコンピュータで病理診断台帳を作成する方法あるいは光ディスクファイリングシステムを用いて報告書を丸ごと保管する方法が,現在各施設で行われているが,将来的には病理検査依頼書をコンピュータ画面上で呼び出し,その中の病理診断スペースに直接入力して,報告書を作成,同時に保管,必要に応じて転送できるようなシステムができるであろう.

細胞診免疫組織化学への工夫

著者: 谷口恵美子 ,   西村千枝子 ,   中村圭吾 ,   山岸美雪 ,   覚道健一

ページ範囲:P.78 - P.78

 細胞診において液状検体を用い免疫組織化学検査を必要とすることがある.しかし,沈渣成分を使って標本を作製する場合は,パパニコロウ染色用,PAS染色用,ギムザ染色用の3種類を作製し,残りの検体はそのときにはすでに処分されていることが多い.また,スメアの未染を何枚かを予備として作製していても,目的とする細胞がガラス標本に必ずあるわけではなくまた,少数しかないこともある.このようなときは広い面積を免疫染色することは抗体の量を多く必要とするだけでなく乾燥などのアーチファクトが起こりやすいなど材料として望ましいものではない.これらのことを解決するため,われわれの施設では沈渣成分からコロデイオン膜を使ってパラフィンブロックを作製し,この切片を用い免疫染色をはじめ,良好な結果を得ているので紹介したい.この方法は長所として,セルブロック法と同様,①何枚でも検体を作製できる,②細胞密度が高い,③固定した検体を用い変性が少ない,④保存が簡単,⑤微量の検体に適している,⑥セルブロック法と違い,自動脱水包埋が可能で簡便である点が優れている.

急速凍結ディープエッチング法と免疫組織化学

著者: 大野伸一

ページ範囲:P.83 - P.83

 電顕形態学分野での急速凍結ディープエッチング(QF-DE)法は,水分を多最に含む生物試料を急速凍結後割断し,低温・高真空の装置内で氷を昇華(ディープエッチング)させた後,白金と炭素を回転蒸着して鋳型(レプリカ膜)を採り,電子顕微鏡下で観察する.しかし通常のQF-DE法では,細胞組織内に存在する可溶性蛋白質などが,ディープエッチングに伴い,細胞小器官や細胞外基質構造に非特異的に付着し,微細構造を修飾してしまう.そこで電顕免疫染色のためには,一定条件下で可溶性蛋白質を取り除く必要がある.また,この処理は免疫染色時に抗体を細胞組織内に十分に浸透させるためにも必要である.さらに可溶性蛋白質を除去された細胞組織は,その後速やかに免疫染色とレプリカ膜作製が行われる.
 洗浄緩衝液中の軽く固定された試料は,通常の免疫染色手順に従い,各々の1次抗体で処理される.細胞骨格のように,微細構造が単純な場合には,1次抗体のみの修飾で十分に識別が可能である.しかし,未知の構造である場合には,光学顕微鏡所見と比較するために,次のゴールド粒子やペルオキシダーゼ標識2次抗体で免疫染色をする必要がある.この場合,ペルオキシダーゼのDAB反応は,反応時間をできるだけ短くすることが重要である.さらに免疫染色された試料は,レプリカ膜作製前に必ず光学顕微鏡下あるいは実体顕微鏡で免疫反応陽性をチェックする必要がある.

抗核小体抗体

著者: 竹内勤

ページ範囲:P.91 - P.91

 抗核抗体は,全身性エリテマトーデス,強皮症,多発性筋炎などの臓器非特異的な自己免疫疾患患者血清で陽性となり,診断に重要な免疫血清学的検査となっている.その中で抗核小体抗体は,従来から行われてきた間接蛍光抗体法で核小体型の染色パターンを示し,強皮症との関連が指摘されてきた1).最近,他の抗核抗体と同様に核小体を構成する分子やその機能が詳細に検討され,全容が明らかとなってきた1,2).これに伴って,抗核小体抗体は,核小体を構成するさまざまな分子に対する自己抗体として,さらに細かく分けて検出されるようになってきた.表1に示すように,さまざまな核小体の成分に対する自己抗体が見いだされている.その多くが,強皮症と関連している.強皮症の90%以上が抗核抗体陽性とされ,抗核小体抗体は15~25%ほどに陽性となるが1),その中にこれらの自己抗体陽性例が含まれる.また,免疫ブロット,免疫沈降法などのこれまで行われてきた方法に加え,アンチセンスリボプローブを使った新しい検出法も最近報告され,感度が高く簡便な方法が今後開発されるものと期待される3).一方,動物モデルでは,抗核小体抗体の産生のメカニズムが検討され始めた.興味深いことに,マウスにおいては,硝酸銀,水銀などの金属によってある種の系統においてのみ,抗フィブリラリン抗体や抗U3RNP抗体の産生が誘導されることが明らかにされている4,5)

抗DNA抗体

著者: 福田優

ページ範囲:P.108 - P.108

 モノクローナル抗単鎖DNA抗体を用いた免疫染色による癌細胞核DNAの特異的分染法が日常の癌診断に用いられる可能性が出てきた.癌細胞の核DNAが正常細胞のそれに比して有意に不安定であることがFeulgen反応の基礎的研究の過程で見いだされた.
 2N-HCI,30℃,8~9分間の緩やかな加水分解後にAcridine orange (AO)で染色すると,この条件下では二重鎖が保持される正常細胞核DNAにintercalationにより結合したAOはIE染性の緑色蛍光を出すのに対して,単鎖化した癌細胞核DNAにdye-stuckingにより結合,重合したAOは異染性の赤橙色の蛍光を発して美しいコントラストを示すことが知られた1)

新しい暗視野照明法

著者: 仙波恵美子

ページ範囲:P.126 - P.126

 蛍光抗体法による免疫組織化学やRI標識in situhybridization法では切片の観察に暗視野照明を用いる.暗視野照明には透過型と落射型があり,蛍光顕微鏡では落射型が主流である.この場合,対物レンズをコンデンサーとして共用するため,特殊な対物レンズを必要とする.×1~×4の対物レンズを用いることができないので,巨視的な写真を撮るためには×10のレンズで撮った写真を何枚も貼り合わせなければならないという難点があった.しかし,ニコンで開発された新しい暗視野照明法(側射照明法,図1)1)を用いると,通常の対物レンズをそのまま使用できるので低倍率の写真撮影を容易に行うことができる.また,RI標識プローブを用いたinsitu hybridization後の切片の観察や写真撮影には,非常にコントラストが高いことから暗視野照明がよく用いられる.暗視野コンデンサーを用いる透過型暗視野照明が一般的であるが,その難点は視野の中心部と周辺部での光源ムラが大きいことで,特に低倍の写真撮影は不可能である.しかし,側射照明を用いると,低倍でも全く光源ムラのない写真を撮ることができる.このように,側射照明法は画期的な照明法として注目されている.
 側射照明法の原理:光源(水銀ランプ)からの光は,集光レンズによって集められ,励起フィルターを通った後,光通信用の純粋石英ファイバーを用いたライトガイドによって,スライドグラスの側面切口から入射する.

マイクロウエーブを用いた迅速免疫染色

著者: 森吉臣

ページ範囲:P.136 - P.136

 マイクロウエーブ(以下MWと略す)照射は免疫反応を促進させるので迅速免疫染色に応用できる.
 1次抗体,2次抗体,あるいはストレプトアビジンなどの反応時にMW照射を行って反応時間を短縮する.MW照射の条件は使用するMW照射装置によって異なっている.ここでは病理検査用に開発されたMI-77型(東屋医科機械)を使用した場合について述べる.

免疫組織化学標本の効果的な写真撮影―酵素抗体法を中心に

著者: 伊東𠀋夫

ページ範囲:P.142 - P.142

 免疫組織化学の酵素抗体法,蛍光抗体法によって作製された標本は,染色濃度(蛍光強度),コントラストなどの点において一般的なHE染色標本とは異なり,色調が淡く顕微鏡写真撮影に関しては,種々の補正が必要となるが,特に重要なことは,コンデンサー開口絞りを正しく設定することである.コンデンサーの開口絞りの役割は解像力とコントラストの調整であり,写真撮影の中でもっとも重要な操作である.調整の方法は,接眼レンズを外し対物レンズの射出瞳に結ばれるコンデンサー絞りの像を確認する方法,対物レンズの開口数表示の数値を確認する方法,直接鏡検しながら最適な絞り値を決定する方法とがある.

P糖蛋白とMDR 1遺伝子

著者: 竹村譲

ページ範囲:P.146 - P.146

 従来から,ドキソルビシン(アドリアマイシン)やビンクリスチンなど癌治療に幅広く使われている抗腫瘍剤に獲得耐性化した腫瘍細胞は,他のanth-racycline系薬剤,vinca alkaloidsばかりでなく構造や作用機序が異なる他の抗腫瘍剤に対しても広範な交差耐性,すなわち多剤耐性(multidrug resis-tance;MDR)形質を示すことが知られており,この現象は細胞外への薬剤の能動的排出の亢進によってもたらされることが明らかにされた.このようなMDR形質を示す多剤耐性細胞の膜には分子量170kDaの糖蛋白(P-glycoprotein;P糖蛋白)の発現が認められ,このP糖蛋白が細胞外への薬剤排出の能動的ポンプとして機能していることが示されている.この糖蛋白は獲得耐性化した腫瘍細胞ばかりではなく,副腎,腎,膵,肝,胆管,腸管などの正常組織の細胞にも発現が観察され,代謝産物,毒性物質を含む化学物質や薬剤を細胞・組織外へ排出する機能を営んでいるものと考えられている.また,これら組織由来の癌がもともと化学療法に抵抗性を示す(自然耐性)原因の1つに挙げられている.
 薬剤耐性マーカーとしてのP糖蛋白の発現を検出する方法として,モノクローナル抗体を用いた免疫組織染色やウエスタンブロット法,あるいはフローサイトメトリー法などが開発されている.

p53

著者: 土橋洋

ページ範囲:P.169 - P.169

 1989年,Vogelsteinらが大腸癌において染色体の17pの欠失領域にはp53遺伝子が存在していることを報告して以来,p53遺伝子は癌抑制遺伝子として注目され続けてきたが,その機能については明らかでなかった.結合蛋白として,DNAウイルスのSV 40大型抗原,ヒトパピローマウイルスのE6蛋白のほか,gadd 45(growth arrest,DNA dam-age-inducible gene),MDM 2(murine double min-ute)蛋白などが挙げられ,それらの機能を調節するという間接的な役割が強調されていたにすぎなかった.しかし,ようやく1993年,p53の主たる標的蛋白p21(Waf 1/Cip 1/Sdi 1)が同定されるに至った.p53はp21のプロモーター領域に結合し,その転写を活性化する.図1に示すようにp21は,サイクリンとともに細胞周期の進行を担うサイクリン依存性キナーゼ(cdk)に結合し,その活性を抑制する1,2).p53はこうして細胞周期の進行を負に制御しているのである.
 p53は,またアポトーシスの誘導に関与しているという報告が相次いでなされている.放射線照射などによるp53の発現亢進,トランスフェクションによる強制発現で細胞はG1期で停止し,続いてアポトーシスが観察される.

免疫組織化学を使った画像解析の応用

著者: 後藤正道 ,   佐藤栄一

ページ範囲:P.181 - P.181

 免疫組織化学の標本を画像解析する場合には,さまざまな手法が考えられる.ここでは免疫染色の陽性部位を,視覚情報処理にできるだけ近似した方法で認識するために,色相分析を応用した筆者らの試みを紹介する.
 細胞質が陽性となる抗体をDAB (茶色)で発色し,ヘマトキシリン(青)で核染色した標本を顕微鏡テレビカメラで取り込み,RGBカラー画像とする.各画素の赤,緑,青の絶対強度R,G,Bから,相対強度r=R/(R+G+B),g=G/(R+G+B)を求め,rを横軸,gを縦軸の色度図へプロットすることによって,色相が表現できる.この処理によって,一般的な濃度閾値処理では分離できなかったDABの茶色の部位が,ヘマトキシリンならびにバックの白から明確に分離できるようになり,その陽性面積を求めることが可能になった.次に元画像のDAB陽性部位を白で塗りつぶせば,通常の濃度閾値処理で核/細胞比も算出できる.

in situ PCR法

著者: 小山徹也 ,   引野利明

ページ範囲:P.189 - P.189

 in situ PCR (polymerase chain reaction)法は組織切片上で,PCR法を行うものである.DNAを増幅後,DNAの検出を行う.すなわち通常のinsitu hybridizationにPCR法を導入したものであり,その感度(sensitivity)の増加を期待して開発されたものである.
 in situ PCR法には直接法と間接法がある.直接法はdTTPの代わりに,ジゴキシゲニンで標識したdUTPを使用してPCRを行い,抗ジゴキシゲニン抗体を使用して発色するものである.間接法はPCRで増幅後,ジゴキシゲニン標識オリゴヌクレオチドプローブを使用して,通常のin situ hybridi-zationで発色するものである.直接法の場合,プライマーと関係なくDNA修復や内因性のプライマー反応などの機序によって,PCR法に伴うTaq伸長反応があり,dUTPが取り込まれるため,非特異反応が起こると考えられる.このため一般的には標本切片上の検出には向いていないとされている.一方,間接法は複数のプライマーの組み合わせで増幅反応させることが必要とされている.

エストロゲン受容体

著者: 落合和徳

ページ範囲:P.221 - P.221

 エストロゲンは卵巣から分泌される女性ホルモンの1つで,標的器官の細胞増殖,分化,機能調節に働いている.エストロゲン作用は,エストロゲンレセプター(ER)を介して発現するが,ERの存在は子宮(内膜,筋層),腟,卵管,卵巣,乳腺などの女性生殖器官,およびエストロゲンのフィードバックシステムを持つ視床下部,脳下垂体前葉,さらには肝,腎,膵,胸腺,骨,睾丸などでも証明されている.
 ERは,古典的Jensenモデルでは,リガンド非結合型ERが細胞質に存在し,リガンドと結合することにより結合型ERが核内に移行すると考えられていた.しかし,モノクローナル抗体を用いた研究や脱核法などによる研究から,ERはリガンド結合の有無にかかわらず核内に局在することが明らかとなった.ERは他のステロイドホルモン,サイロイドホルモン,レチノイン酸のレセプターとともに共通の構造を持ち,核内レセプターと呼ばれるファミリーを形成している.これらはリガンド結合依存性の転写制御因子であり,標的遺伝子の転写制御領域にあるエストロゲン応答性エレメント(estrogenresponsive element)に結合し,その遺伝子の転写を直接コントロールすることによって働いている.ERの測定には従来からdextran coated charcoal法(DCC法)やショ糖密度勾配法(SDG法)などが用いられてきた.

RB遺伝子

著者: 橋本知子

ページ範囲:P.226 - P.226

 網膜芽細胞腫(retinoblastoma; RB)は乳幼児に網膜から発生する腫瘍である.発症の頻度は出生約2万人に1人と低いが,この腫瘍の解析から癌抑制遺伝子の概念が確立された.1986年に至ってpositional cloningの最初の例として,RBで欠けている遺伝子であるRB遺伝子がクローニングされた1)
 RB遺伝子は脊椎動物で共通して見いだされ,構造もよく似ているにもかかわらず,実験動物でのRBの報告はなく,RBはヒト特有の疾患であるらしい.また,正常RB遺伝子を発現するRBは報告がない.一方,RB患者の約14%に骨肉腫,軟部腫瘍などの2次腫瘍がみられ,RB遺伝子の欠失がこれらの発症に関連することが示されている.それ以外に肺小細胞癌,乳癌,前立腺癌など種々の腫瘍にもRB遺伝子の変異がみられる.

免疫組織化学と廃液処理

著者: 林雄三

ページ範囲:P.234 - P.234

 近年,地球規模での環境問題,特に廃棄物の問題がクローズアップされている.その中で医療機関から排出される医療廃棄物の処理は極めて重要な問題である.わが国では高度成長期の公害に対応して1970年に「廃棄物の処理及び清掃に関する法律(「廃掃法」)が作られ,それなりの成果を上げたが,その後の社会情勢の変化で実情に合わなくなり,1991年に改正(翌年施行)された.厚生省はこの改正「廃掃法」に準拠した医療廃棄物の処理指針「廃棄物処理法に基づく感染性廃棄物処理マニュアル」1)を示したが,これによると医療廃棄物の多くは産業廃棄物に分類され,さらに感染性の廃棄物は,特別管理産業廃棄物としてその処理に厳しい制約が加えられた.そして医療機関はこれら廃棄物を自らの責任において(自らまたは他に委託して)処理しなければならないと規定した.
 さて,各施設で,実験,研究,検査に際し,各種の重金属,有機溶媒,試薬類など実験系廃棄物と称される人体や環境に対して有害な物質が排出される.これら廃棄物は,従来から水質汚濁防止法,下水道法,公害対策基本法等の法令によっても規制されていた.免疫組織化学検査においては,従来から発色試薬DAB (diaminobenzidine)の発癌性が問題となっており,その取り扱い時の注意が指摘されていた.

アミロイド

著者: 河村俊治

ページ範囲:P.262 - P.262

 アミロイドはコンゴー赤で橙赤色に染まり,これを偏光顕微鏡下で観察すると緑色複屈折を呈し,電顕的には幅8~15nmの枝分かれのない細線維の集積より成っている.これらの形態学的特性を有するアミロイドは,生化学的には現在15種類の蛋白がその主構成蛋白として固定されている.アミロイドが組織の細胞外に沈着することにより引き起こされる病態がアミロイドーシスであるが,この病型もアミロイド蛋白の種類によって分類されるようになり,1992年,厚生省特定疾患原発性アミロイドーシス調査研究班でもこれに基づいてアミロイドーシスを分類している.沈着しているアミロイド蛋白の種類は免疫組織化学的検索により比較的容易に知ることができるようになってきている.アミロイド蛋白あるいはその前駆蛋白に対する市販抗体を用いホルマリン固定後のパラフィン切片で可能である.
 アミロイドに関するわが国での最新動向を幾つか紹介する.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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