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雑誌目次

論文

臨床検査39巻3号

1995年03月発行

雑誌目次

今月の主題 骨髄移植 座談会

骨髄移植をめぐる最近の話題

著者: 柴田弘俊 ,   浅野茂隆 ,   高上洋一 ,   池田康夫

ページ範囲:P.257 - P.265

 着実に症例数が増加している骨髄移植.しかし,その適応を判断し治療法を選択・決定することは必ずしもやさしくない.そこで,骨髄移植の現状や問題点を整理し,それをどう克服していくか,夢も込めて語っていただいた.

総説

造血幹細胞移植の成績

著者: 岡本真一郎

ページ範囲:P.266 - P.270

 現在,造血幹細胞移植は種々の致死的疾患の根治療法として盛んに行われ,各疾患の治療戦略上への位置づけが次第に明らかになりつつある.造血幹細胞のsourceとしては,從来,同種骨髄,自家骨髄・末梢血が用いられてきたが,最近では同種末梢血,臍帯血も用いられるようになった.造血幹細胞の成績を規定する主要な要因としては,移植施行時の病期,造血幹細胞のsourceが挙げられる.

ドナーの選択

HLAのDNAタイピング

著者: 木村彰方

ページ範囲:P.271 - P.279

 HLAは自己・非自己の認識に関与する重要な分子であり,著明な個体差が存在する.HLA型の一致が骨髄移植の成否の1つの鍵であることはよく知られているが,現在では血清学的には検出できない多くのサブタイプの存在が明らかにされている.これらのサブタイプをDNAレベルで検出する方法,すなわちHLA-DNAタイピング法の概略とその骨髄移植における意義を紹介する.

MLCとその他の検査

著者: 涌井昌俊 ,   岡本真一郎

ページ範囲:P.280 - P.284

 移植片対宿主病(GVHD)やgraft rejectionなどの移植免疫反応に伴う合併症を回避するために,同種骨髄移植では組織適合性をできるだけ一致させたドナーを選択することが望まれる.この目的のために,長年行われてきた検査がMLC (リンパ球混合培養)試験である.MLCは簡便な検査ではあるが,よりよいドナーを検索するという点では必ずしも満足のいくものではない.最近,これに代わる組織適合性検査としてmodified MLC, HTL-p, CTL-pの検索が開発され,現在その有用性が検討されている.

移植造血幹細胞の評価

コロニーアッセイ

著者: 池淵研二

ページ範囲:P.285 - P.290

 実地にメチルセルロースコロニー形成法を概説した.骨髄移植,末梢血幹細胞移植や今後の臍帯血移植を実施していくうえで,なくてはならないアッセイ系と考える.また,習熟すれば他の多くの細胞系の培養も容易となる.間違いない点は,目の前で細胞の動き,増殖,分化する様が目撃でき楽しいことである.

造血前駆細胞の表面抗原と分化増殖能

著者: 福島敬 ,   中内啓光

ページ範囲:P.291 - P.297

 種々の血液細胞に分化する能力を持つ造血前駆細胞の表面には,CD 34抗原が特異的に発現されているため,モノクローナル抗体を用いて骨髄,末梢血などに含まれるCD34陽性細胞の比率を求めたり,CD34陽性細胞を濃縮純化した状態で得ることができる.さらに,c-kit,CD33またはCD38などの表面マーカーを用いて,より幼若なCD34陽性細胞の検出,同定も試みられている,本稿では,より幼若な造血前駆細胞を選別することに主眼を置き,CD34陽性細胞の分化段階と表面マーカーとの関係について述べる.

移植片中の混入腫瘍細胞の検査

著者: 宮本敏浩 ,   原田実根

ページ範囲:P.299 - P.304

 自家骨髄移植および末梢血幹細胞移植においては移植後再発が最も重要な問題である.移植片中の微少残存病変(MRD)の混入が移植後の再発に関与する可能性が考えられ,検出感度がきわめて鋭敏なPCR法がMRDの検出に頻用されている.しかしながら,移植片中のMRDが移植後の再発にどの程度関与しているかは十分明らかにされておらず,今後はgene mark-ing study, purgingによるrandomized trial,および再輸注されるMRDの定量的評価など,MRDと移植後再発との関連を検討することが重要と考えられる.

遺伝子標識

著者: 谷憲三朗

ページ範囲:P.305 - P.308

 遺伝子標識は,遺伝子治療の安全性と有効性を探索する前段階臨床研究として行われている.これまでにすでに22種のプロトコールが提出されており,一部結果が公表されたものである.これらの研究からは,臨床上きわめて重要な情報が明らかにされてきている.しかし一方で,わが国においては,この種の試験的色彩の強い研究に対しては慎重な態度をもって臨むべきであるという意見も多い.本稿ではこれらの現況について概説した.

合併症の検査

GVHD

著者: 武元良整 ,   金丸昭久

ページ範囲:P.309 - P.314

 GVHDは骨髄移植後に特有の病態である.血液疾患での移植療法の地位が確立されてきた現在では,GVHDは移植後の成績を左右する大きな要因である.すでに,T細胞がその発症に重要な役割を果たしていることは明らかである.近年,その他の各種サイトカインの役目も知られてきている.毎年増加する移植例にとって,GVHDのリスクが低くなり,安全に移植が行われるように,基礎的および臨床的研究の発展を願う.

骨髄移植後のウイルス感染症

著者: 権藤久司

ページ範囲:P.315 - P.320

 同種骨髄移植後,ウイルス感染症は免疫不全を背景に発症し,GVHDの合併は免疫不全を助長する.骨髄移植後のウイルス感染症の特徴は,時期によって病因ウイルスが異なり多彩であること,発症後は遷延化・重症化しやすいこと,回帰感染が多いこと,である.抗ウイルス剤や迅速診断法の導入によりウイルス感染症による死亡率は低下しているが,移植適応の拡大に伴い易感染宿主の増加が予想されており,骨髄移植後のウイルス感染症に対する予防・診断・治療法の確立が望まれる.

移植環境の整備

無菌室の管理

著者: 舟田久

ページ範囲:P.321 - P.325

 無菌室の管理は定期的な環境診断でほぼその目的を達成しうる."無菌"への固執は不要な検査の繰り返しとなり,無用の結果に翻弄されるのが落ちで,費用対効果に見合わない.無菌室治療の成否は,監視培養による患者無菌化中の菌叢の推移からおおむね判断できる.また,監視培養は無菌室治療中の感染に対する原因菌予測に有用なこともある.それゆえ,無菌室隔離とはいえ,患者に必要な培養検査を優先することが最も大切である.

話題

骨髄バンクの現状

著者: 土肥博雄

ページ範囲:P.326 - P.328

1.はじめに
 骨髄移植推進財団は1991年12月に発足し,ドナー登録は翌1992年1月から始まった.1994年10月現在でドナー登録は約55,000人に達している.1992年6月からは患者受付けも始まった.非血縁者間骨髄移植の第1例が実施されたのは1993年1月である.以後順調に進み,1994年10月には非血縁者間骨髄移植の総数は250例を超えた.本稿ではその現状と問題点を整理し,今後ドナーバンクの進むべき方向性について述べてみたい.
 なお,ここで用いた統計の図,表はすべて骨髄移植推進財団の資料である.

造血幹細胞のin vitro増幅

著者: 高橋恒夫 ,   門脇絵実 ,   関口定美

ページ範囲:P.329 - P.332

1.はじめに
 造血幹細胞および造血前駆細胞は,骨髄,臍帯・胎盤血,胎児肝に多く含まれるが,末梢血にもごくわずかではあるが存在する1)(表1).わが国における骨髄移植は骨髄移植推進財団が発足して以来,非血縁者間でこれまで約250名に行われている.一方,末梢血中の幹細胞は化学療法後一過性に動員され,顆粒球コロニー刺激因子(granulocyte colony-stimulating factor;G-CSF)の投与によりその数はさらに増大する.アフェレーシスによりこの幹細胞を集めて移植する自己末梢血幹細胞移植が進められてきている2,3).同種末梢血幹細胞移植を行うため,健常人へG-CSF単独あるいは顆粒球―マクロファージコロニー刺激因子(granulocyte/macrophage colony-stimulating factor;GM-CSF),その他のサイトカインを組み合わせて投与し,末梢血へ幹細胞を動員する試みも行われている4,5)
 最近注目されている臍帯・胎盤血には骨髄と同程度の造血幹細胞が含まれていることが知られており,より未熟なコロニー形成細胞(colony for-ming cells;CFC)であるmixedコロニー形成細胞(mixed-CFC)を多く含む6,7).臍帯血幹細胞移植は世界で60例近く施行され,最近日本でもその第1例が報告された(1994年11月).

臍帯血幹細胞移植

著者: 中畑龍俊

ページ範囲:P.333 - P.336

1.はじめに
 造血幹細胞は増殖,分化し,すべての血液細胞を産生するとともに自己複製能を持った細胞とされている.骨髄移植は造血幹細胞移植にほかならず,移植された造血幹細胞が骨髄に定着し一生の間,血球を供給し続けると考えられている.
 同種骨髄移植は難治性血液疾患,白血病,先天性代謝異常症など多くの疾患において,治癒を目指す治療法の1つとして確立してきた.しかし,同胞の少ないわが国にあっては,HLA適合同胞を得ることは比較的困難であり,1993年から開始された公的骨髄バンクからの非血縁者間骨髄移植に大きな期待が集まっている.すでに250例を超える非血縁者間骨髄移植が行われているが,ドナーへの負担の問題,適合ドナーを得るまでの時間的問題,登録数,重症GVHDの増加などさまざまな問題点も明らかとなってきた.

今月の表紙 臨床細菌検査

Legionella pneumophila

著者: 猪狩淳

ページ範囲:P.250 - P.251

 1976年7月,米国フィラデルフィア市のあるホテルで開かれた全米在郷軍人大会で原因不明の集団肺炎が発生し,参加者に死亡者が出た.この原因菌としてCDC(Communicable Disease Cen-ter)によって新しい病原菌が発見され,Legionella pneumophilaと命名された(1979年).この細菌はLegionella科のLegionella属に包含され,その後Legionella属には次々と新しい菌種が発見され続けている.
 Legionella属菌は偏性好気性グラム陰性の短桿菌で,中央部が膨らんだ多形性を示す.極単毛菌で運動性を持つ.莢膜,芽胞を作らない.糖非分解であり,カタラーゼ弱陽性,オキシダーゼ弱陽性~陰性を示す.通常の細菌検査用培地には発育せず,発育には鉄イオン,L-システイン,L-メチオニンなどを必要とする.したがって,固形培地に活性炭を加え,寒天中の発育阻害物質を吸着除去したB-CYE (buffered Charcal Yeast extract)寒天培地,α-ケトグルタル酸を加えたB-CYEαの培地が用いられる.発育至適pHはきわめて狭く,pH6.9±0.05に調整する.この培地で十分湿度を保って,35℃,3~7日間培養する.青白色の表面光沢のあるスムースな大小不揃いの小集落を生じる.

コーヒーブレイク

病気との出合い

著者: 屋形稔

ページ範囲:P.290 - P.290

 昭和25年ごろの話である.当時私は新米医師として内科教室に入りたてであった.それがいきなり新しい入院患者の受持ちにさせられた.24歳の未婚婦人で数年前から無月経になり,少し食べると胃が一杯になり次第に痩せて健康時41kgの体重も24kgに減り,女性ホルモンを使っても月経発来せず入院した.文献上の下垂体性るい痩(やせ)症という概念によく似ていたが,当時は基礎代謝測定のほか,いっさいホルモン検査法などなく,確定診断に迷い新任の鳥飼龍生教授からは後に有名になった赤エンピッ指導で鋭いしごきにかけられ,こちらが死にたくなるような毎日であった.
 ところが英国誌"Lancet"などを漁っていると,わが国ではまとまった報告例がなかったが,若い女性で種々の精神的ショックから食欲不振をきたし,その持続が恐らく間脳に影響し無月経をきたすが回復可能と思われる神経性食思不振症(anorexia nervosa)という病気の記載を見いだした.問題は下垂体性のものとの鑑別方法が見当たらないことであった.

ppm

著者: 𠮷野二男

ページ範囲:P.304 - P.304

 よくご承知のとおりparts per million, 1/100万のことで,最近では公害,環境衛生などで,有害物質の濃度を表すのに用いられています.
 慣れていて使っていますが,大気中のNOxやCOをppmで示すときには,容積比なのでしょうか,重量比なのでしょうか.大気にも重量はありますし,NOx,COにも重さがあります.しかし,気体同士ですから容積比と理解しやすいです.

学会だより

第22回日本臨床免疫学会総会

著者: 平野隆雄

ページ範囲:P.298 - P.298

 1994年9月20~22日3日間,第22回日本臨床免疫学会総会が東京虎ノ門の教育会館で,廣瀬俊一・前順天堂大学膠原病内科教授(現伊豆長岡病院院長)を会長に開催された.本学会は基礎免疫学の臨床応用,臨床事象から基礎免疫学へのフィードバックなど,この学会で啓蒙していることを主眼としている.また,本学会では会長がディスカッションの多い学会にと希望したこともあり,シンポジウム14題,ワークショップ14題と豊富であり,時間的にもシンポジウム3時間,ワークショップ2時間と十分に取られていた.
 初日のシンポジウムI"トレランスの維持と破綻"〔司会:小林清一(北大),八木田秀雄(順大)〕では,Sjögren症候群,コラーゲン関節炎,自己免疫性糖尿病モデル動物(NODマウス)など,多彩な疾患,疾患モデルにおけるトレランス誘導の機序,治療応用と興味ある話題が続いた.午後のセッションでは特別講演が2つあった.特別講演I"Targeting IL-2 Rece-ptors for Diagnosis and Therapy"〔Nelson DL,司会:奥村康(順大)〕では,抗Tac抗原を用いたATLの治療効果を得たというすばらしいデータが紹介された.

第36回日本臨床血液学会総会

生命科学としての臨床医学の現在,将来を見つめる

著者: 鶴岡延熹

ページ範囲:P.349 - P.349

 第36回日本臨床血液学会総会は,東京医科大内科外山圭助教授の主宰で,11月8~10日の3日間,新宿の京王プラザホテルで開催された.従来は,都市センターおよびその周辺施設で行われることが多かったが,会員の移動に配慮した会長の試みであった.
 内容は,会長講演,招請講演2,特別講演1,教育講演8,教育シンポジウム1,シンポジウム5,ワークショップ8(演題数114),サテライトシンポジウム7,一般演題657題で,臨床血液学の多方面にわたり,豊富な内容が盛り込まれた.

第5回尿路感染研究会

泌尿器科,内科,小児科,産婦人科,基礎の立場から尿路感染症の取り扱いを討議

著者: 小栗豊子

ページ範囲:P.361 - P.361

 尿路感染症研究会は,尿路感染症に興味を有する人々に自由な研究討論の場を与えることを目的に発足,1990年に第1回研究会が開催され,今回は第5回である.会員は,泌尿器科の医師を中心に,内科,小児科,産婦人科の医師,臨床検査室の医師や技師などにより構成され,現在,313名が登録されている.今回は,松田静治(江東病院産婦人科)会長のもとに,1994年10月29日,アサヒビール吾妻橋ビル(東京)で開催された.内容は一般演題が20題,特別講演1題,それに4人の演者によるパネルディスカッションが行われた.
 一般演題の第1席で山田(医療法人山田内科医院)は,呼吸器感染症でバイオフィルム・ディジーズとしてよく知られている緑膿菌感染症に,トスフロキサシン(TFLX)とクラリスロマイシン(CAM)の併用療法が効果があるとの報告があるが,尿路緑膿菌感染症ではこの2剤では不十分であるため,セフトリアキソン(CTRX)を追加したところ,菌消失に成功した例も認められたと報告.なお.CTRXの代わりにセフタチジム(CAZ)を用いてみたが.1日1回の投与では効果が不十分とのことであった.

海外レポート

中華人民共和国―白求恩医科大学三院検験科

著者: 康熈雄

ページ範囲:P.337 - P.339

■長春市
 中国(中華人民共和国)の地図を鶏にたとえて,鶏の頭のほうを東北,目にあたる部分を長春と考えれば,すぐ長春の地理的な位置が頭に浮かぶだろう.長春市の朝陽区は吉林大学,東北師範大学,吉林工業大学,長春地質学院などの大学と中国科学院の物理研究所,応用化学研究所,光学技術研究所などがそろっている文化区である.朝陽区には静かできれいな街として有名な新民大街がある.この街の両側にはアジア風の雄大な建物群があり,白求恩医科大学はこの街の主な建物を占めている.以前は偽満州国務院,民政部,経済部,軍事部,外交部などの建物として使われていたという.

座談会 PartⅢ 最近の進歩・1

遺伝子検査

著者: 山森俊治 ,   桜井兵一郎 ,   高久史麿 ,   村松正實 ,   河合忠氏

ページ範囲:P.341 - P.344

 今まで一通り遺伝子検査の問題点を討論していただきました.3回目の今回からは"最近の進歩"として,遺伝子検査は現在どこまで進んできたのか,またその臨床的な応用はどこまで可能かなどを探っていただきました.

目でみる症例―検査結果から病態診断へ・27

LDH2の陰極側に過剰活性帯を伴った高LDH血症

著者: 戸沢辰雄

ページ範囲:P.345 - P.348

検査結果の判定
 LDHアイソザイム電気泳動(セルロースアセテート膜)像とデンシトグラム(図1)では,第2レーンの患者血清で,正常位置に泳動する各LDHアイソザイムに加え,LDH2の陰極側に明白な過剰LDH活性帯(LDH2ex)を認める.これらのLDHアイソザイムの分画%は,LDH1が67%,LDH2が15%,LDH2exが10%, LDH3が5%,LDH4が2%,LDH5が1%と,LDH1の分画%は異常に高かった.なお,このLDH2exは真のLDHであることが確認された.この血清は溶血サンプルではなかったことから,このLDH2exは腫瘍由来であると判定した.

トピックス

隔壁性細胞質内空胞

著者: 広川満良

ページ範囲:P.350 - P.351

 甲状腺の穿刺吸引細胞診は,その簡便さと正診率の高さから近年盛んに行われるようになってきた.そして,甲状腺の悪性腫瘍のほとんどを占める乳頭癌には,診断に役だつ種々の細胞形態学的特徴かあることがわかってきた.隔壁性細胞質内空胞(septate cytoplasmlc vacuoles)もその1つである.隔壁性細胞質内空胞とは乳頭癌細胞の胞体内に存在するブドウ状に集合した空胞のことであり,空胞間に明瞭な隔壁状の細胞質か介在することを特徴とする.この空胞の存在は1985年AbeleとMillerによって最初に報告された1)が,まだ多くの成書には記載されておらす,細胞診業務に携わるものにとって耳慣れないことばであるかもしれない.そこで,本稿では隔壁性細胞質内空胞の形態学的特徴やその診断的意義について簡単に説明する.
 隔壁性細胞質内空胞は,塗抹標本上,細胞質がライトグリーンに好染し,細胞境界が明瞭ないわゆる化生細胞(metaplastlc cell)と呼ばれているタイプ1)の乳頭癌細胞か集合重積性に出現する場合に観察されやすい.理由はわからないが,個々散在性に出現する腫瘍細胞に見いだすことは困難である.空胞間には明瞭な隔壁状の細胞質か介在し,腫瘍細胞の細胞質かライトグリーンに好染していることか明瞭な隔壁状になることに関与しているものと思われる.個々の空胞は小型でほぼ同じ大きさを呈するためブドウの房のように見える(図1).

ノックアウトマウスの医学への応用

著者: 須永真司

ページ範囲:P.351 - P.353

1.ノックアウトマウスとは
 近年,遺伝子操作技術の進歩により,新しい遺伝子組換え動物をつくることが可能となった.ノックアウトマウスとは,目的とする遺伝子が破壊(ノックアウト)されたマウスのことである.例えば,インターロイキン6(IL-6)遺伝子を破壊されたマウスは,"IL-6ノックアウトマウス"と呼ばれるが,この場合,IL-6遺伝子以外の遺伝子に変化は起きていない.このように,研究者がねらった(標的とした)遺伝子のみを選択的に改変する技術を,標的遺伝子組換え(ジーンターゲティング)法という.以下に,ジーンターゲティングについて,簡単に紹介する.

赤血球分化と赤血球型物質の発現

著者: 梶井英治 ,   池本卯典

ページ範囲:P.354 - P.355

 近年の赤血球型研究は,分子生物学的解析法の導入により,次々と赤血球型物質の抗原決定基の分子構造を明らかにするとともに,その生理的機能の解明にも迫りつつある.この稿では,赤血球分化におけるRh抗原,sialosyl-Tn抗原,P抗原などの発現に関する新知見を紹介するとともに,赤血球分化における赤血球型物質の発現の意義について考察したい.
 RhポリペプチドをコードするcDNAは,パリとブリストルにある2つの研究グループ1,2)によりクローニングされた.筆者ら3)も2種類のRhポリペプチドcDNA (RhPI, RhPII)のクローニングに成功し,さらにこれらのスプライシングアイソフォーム・マップを作成した4)

スペクトリン

著者: 漆谷徹郎 ,   長尾拓

ページ範囲:P.355 - P.357

 赤血球を溶血させて作る膜標品(赤血球ゴースト)をSDS―ポリアクリルアミド電気泳動すると,構成蛋白が分子量に従って並ぶが,同定が進むまではこれらは順に,バンド1,2,3と呼ばれていた.スペクトリンは2つのサブユニットα・βから成り,それぞれバンド1と2に対応する.その名は,ゴースト(幽霊)を意味する"specter"にちなんでつけられたが,後に赤血球以外にも類似蛋白(ホドリンあるいはカルスペクチンと呼ばれる)が発見され,細胞膜裏打ち構造を担う普遍的な蛋白であることが明らかとなった.
 スペクトリンは分子量240kDaのα鎖と220kDaのβ鎖のヘテロマーである.αとβの構造は似ていて,106個のアミノ酸から成る繰り返し構造(スペクトリンリピート)がαでは20~22個,βでは17個つながっており,α,βがより合わさった紐を形成し,それが2つくっついて約200nmの細長い紐となる.この四量体が他の細胞骨格蛋白や膜蛋白と相互作用する様を図1にまとめた.図1は,1つのスペクトリンを中心に一次元的に示したもので,実際は各結合部位から放射状に編み目構造が広がっている1).ちなみに,デュシェンヌ型筋ジストロフィーの欠損蛋白として見いだされたジストロフィンは同族蛋白で,24個のスペクトリンリピートを持ち,骨格筋において類似の機構で細胞骨格と膜蛋白を架橋している1)

質疑応答 臨床化学

尿蛋白測定の国際標準品

著者: 伊藤喜久 ,   Y生

ページ範囲:P.358 - P.359

 Q 第26回日本臨床検査自動化学会の一般演題のセッヨンで尿蛋白標準品が話題となりましたが,国際的な尿蛋白標準化の動向についてお教えください.

血清カリウム値の測定法による乖離

著者: 大澤進 ,   T生

ページ範囲:P.359 - P.360

 Q 血清カリウム値が,ドライケミストリー(富士山)で0mmol/l,ISE法で20.8mmol/l,炎光光度計で18.7mmol/l,酵素法で16.5mmol/lという結果となり,同日昼12時30分に再採血した血清ではいつもどおりの4.3mmol/l (ドライケミストリー法)という結果が出ました.これをどのように解釈したらよいのでしょうか.

研究

初期診療(総合診療科)における生化学検査迅速検査システム導入の評価

著者: 下條信雄

ページ範囲:P.363 - P.366

 現在の初期診療に臨床検査は不可欠といえる.総合診療科の初期診療に生化学検査の迅速検査システムを導入し,その評価を行った.代謝内分泌系疾患や肝・腎疾患で検査異常が多く,検査項目ではAST/ALT, Kが20%以上に,GGT, TGも20%近くに異常がみられた.精査,倦怠感,浮腫を動機とした検査では患者の70%以上に異常がみられた.迅速検査は全体の30%で診断に直接寄与し,臨床への貢献が明らかになった.

糖尿病患者における尿中トランスフェリン測定の有用性

著者: 古川尚志 ,   板垣英二 ,   小沢幸彦 ,   林栄時 ,   丸山雅弘 ,   滝沢誠 ,   片平宏 ,   吉元勝彦 ,   武島英人 ,   村川章一郎

ページ範囲:P.367 - P.370

 尿蛋白陰性インスリン非依存型糖尿病患者134例中の尿中トランスフェリン(Tf)を測定し,その有用性を検討した.尿中Tfの陽性率は尿中徴量アルブミン(Alb)の陽性率に比し有意に高率で,Alb陰性例の約1/3がTf陽性であったが,Tf陰性でAlb陽性例は1例のみであった.尿中Tf排泄量は網膜症の有無,罹病期間と関連があり,尿中Albと高度の正の相関を示し.その回帰直線からAlbより早期に上昇することが示唆された.また,随時尿での検討が可能であり,糖尿病性腎症の早期診断検査法として有用と考えられた.

資料

全自動蛋白電気泳動装置CTE-5000に組み込まれたM分画自動検出機能の有用性に関する検討

著者: 岩下祥美 ,   黒川浩 ,   金森きよ子 ,   一色由紀江 ,   奈良信雄

ページ範囲:P.371 - P.373

 全自動蛋白電気泳動装置CTE-5000に組み込まれたM分画自動検出機能によるM分画の検出率を検討した.本機能は,M分画含量が中等量以上の検体では,熟練判定者による肉眼観察に匹敵するM分画検出機能を持つことが示された.しかしながら,M分画含量が微量の場合にはその検出率に低下が認められ,検討課題と考えられた.CTE-5000は高い検体処理能力を持ち,さらにプログラミングを改良することで,M分画自動検出機能を日常検査に導入することが可能になるものと考えられた.

編集者への手紙

アフリカのある地域のSTD検査

著者: 山田誠一 ,   潘悦 ,   森有加 ,   月舘説子 ,   藤田紘一郎

ページ範囲:P.375 - P.375

1.はじめに
 日本の経済規模が大きくなるとともに人々の交流も盛んになっている.最近,PKOのようにアフリカの特定の地域にたくさんの日本人が派遣されることもある.日本においても世界中の病気について,取り組む必要が年々高まっている.
 以前報告したアフリカのモザンビークQuelimane付近住民38名について梅毒血清検査を行い,14名を梅毒と血清診断できた1).今回,そのほかの一部STDについて同じ血清を用いて血清検査を行ったので,若干の考察を加え報告する.

肺腺癌におけるCEAとSLXの検討

著者: 沖本二郎 ,   大場秀行 ,   狩野孝之 ,   宮下修行 ,   吉田耕一郎 ,   長友安弘 ,   副島林造

ページ範囲:P.376 - P.376

1.目的
 肺癌の腫瘍マーカーの中で,CEAとSLXは腺癌に特異性が高いといわれる.そこで,肺腺癌においてCEAとSLXのどちらが鋭敏であるかを検討した.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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