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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査40巻7号

1996年07月発行

雑誌目次

今月の主題 ニューロパチーの臨床検査 巻頭言

ニューロパチーの臨床検査

著者: 木村淳

ページ範囲:P.757 - P.759

 末梢神経障害は,その原因病態によって遺伝性,代謝性,感染性,自己免疫性,中毒性のほか膠原病に伴うもの,腫瘍と関連するparaneoplastic neur-opathyなどがある.また臨床的な障害様式から単神経障害(mononeuropa-thy),多巣性単神経障害(multiple mononeuropathy),多発神経障害(polyneur-opathy)のようにも分類する.単神経障害は,外傷か圧迫性あるいは絞扼性神経障害が多く,個々の神経で障害されやすい部位とされにくい部位がある.多巣性単神経障害は,複数の神経が個々に障害されている状態で,健常な神経も残存することが多く,polyarteritis nodosa, sarcoidosis,multifocal motorneuropathy,悪性腫瘍の浸潤,アミロイドーシスなどがある.
 ニューロパチーの分類・診断には,生検神経を用いた病理学的検索のほか,電気生理学的検査法が重要で,これには神経伝導検査や針筋電図がある.このうち神経伝導検査は,末梢神経障害の非侵襲的検査法として,脱髄と軸索障害との区別,病変部位の局在,経過観察などに特に有用と考えられている.このような電気診断法を効果的にかつ能率よく遂行するためには,末梢神経の組織学的特性のみならず各種ニューロパチーの病態に関する知識が必須である.

総説

ニューロパチーの病態とその病因

著者: 安田武司 ,   祖父江元

ページ範囲:P.760 - P.766

 末梢神経疾患すなわちニューロパチーを理解するうえでその解剖および構成成分の機能を知り疾患との関連を明らかにすることは大切である.ニューロパチーの症候学はその病巣,病態を解く糸口となるため重要な臨床症候について述べる.また,従来の臨床,電気生理,病理分類に加えて分子生理学,生化学による新しいニューロパチーの分類が試みられておりそれについても概説する.〔臨床検査 40:760-766,1996〕

脱髄の電気生理学

著者: 梶龍兒

ページ範囲:P.767 - P.770

 脱髄は神経の絶縁体である髄鞘の破壊によりおこる.正常では髄鞘は高電気抵抗・低電気容量であるが,脱髄に陥ると特にキャパシタンスが増大するために活動電流の散逸がおこり,伝導の遅延やブロックがおこる.臨床症状ともっともよく相関するのは伝導ブロックである.〔臨床検査40:767-770,1996〕

軸索変性の電気生理学

著者: 馬場正之

ページ範囲:P.771 - P.778

 軸索変性はほとんどすべてのニューロパチーに普遍的にみられる病態である.脱髄が主病変である疾患においてさえ,患者の予後は軸索変性の寡多によって左右されることが多い.したがって,軸索変性の程度を診断することは臨床的に大変重要である.軸索数の減少は複合神経(筋)電位の振幅低下を生む.伝導速度は不変の場合が多く,低下する場合でも正常下限の20%ないし25%止りである.再生神経の伝導速度はきわめて遅いが,軸索直径と髄鞘厚の増大につれて正常化する可能性がある.また,遠位性軸索変性は障害神経遠位部での検査ほど異常所見が増強するという特徴を持つ.神経最末端部の伝導ブロックはしばしば軸索変性に似た所見を呈するので,注意が必要である.〔臨床検査 40:771-778,1996〕

技術解説

運動神経伝導検査

著者: 尾崎勇

ページ範囲:P.779 - P.785

 ニューロパチーは病理学的に軸策変性型と脱髄型に大別される.運動神経伝導検査は運動神経の脱髄病変を鋭敏に捉える方法である.脱髄病変の電気生理学的所見は,急性期にみられる局所の伝導ブロックと髄鞘再生によりインパルスの伝導が再開する回復期にみられる伝導遅延である.本稿では上肢の伝導検査を対象として検査法の実際と異常所見の捉え方について概説するとともに,インチング法の意義についても言及する.〔臨床検査 40:779-785,1996〕

感覚神経伝導検査

著者: 長谷川修

ページ範囲:P.786 - P.792

 末梢神経幹における大径感覚線維の状態を推定する検査法として,感覚神経伝導検査とマイクロニューログラフィーの臨床応用について述べた.前者には逆行法と順行法とがあり,手軽であるが,得られる電位が小さく大径有髄線維密度を表現する定量性に欠けるといった欠点を持つ.後者では,微小電極を神経幹内に刺入する煩わしさはあるが,前者の欠点の多くを解決し,より定量的な評価が可能となった.〔臨床検査40:786-792,1996〕

マクロ筋電図・単一筋線維筋電図

著者: 有村公良

ページ範囲:P.793 - P.799

 単一筋線維筋電図・マクロ筋電図はニューロパチーの診断において,通常の神経伝導検査・筋電図検査を補完するものとして用いられるが,特に軸索障害の診断には鋭敏である.さらにその病態を定量的に評価できることから,軸索機能の生理学的指標としてニューロパチーのフォローアップ,予後の推定,治療の判定にも有用である.〔臨床検査40:793-799,1996〕

F波伝導検査

著者: 幸原伸夫

ページ範囲:P.800 - P.807

 F波の記録そのものは基本を守れば比較的容易に行える.F波は長い距離の伝導を反映しており,通常の伝導検査よりもポリニューロパチーなどの診断には鋭敏であり,また近位部の情報も得ることができる.ただしその形成機序は複雑であり,その基本を十分理解しておく必要がある.そのうえで今後F波はすべての施設において必須検査項目とする必要がある.〔臨床検査 40:800-807,1996〕

話題

ニューロパチーとsympathetic skin response (SSR)

著者: 横田隆徳

ページ範囲:P.808 - P.810

1.はじめに
 1888年にフランスの臨床家Féréが痛みの後に皮膚抵抗が低下することを発見して以来,この現象は"galvanic skin response;GSR"の名称で広く用いられている.GSRは交感神経系の生理学的研究に用いられる一方,これが外因性の刺激だけでなく,内因性の精神的動揺でも大きく変化することから心理学,精神科領域で応用されてきた.
 1984年,Shahaniら1)は,末梢神経に電気刺激を加えた後,手掌―手背間に生じる電位変化を交感神経皮膚反応(sympathetic skin response;SSR)と名づけ,初めて交感神経節後無髄線維の評価法として臨床応用した.さらに,1985年,Knezevic and Bajadaはほぼ同様の現象をpe-ripheral autonomic surface potentialとして報告した2)

体性感覚誘発電位による末梢感覚神経伝導の観察

著者: 高田博仁 ,   尾崎勇 ,   馬場正之

ページ範囲:P.811 - P.813

1.はじめに
 感覚神経活動電位(SNAP)を誘発できない末梢神経障害例は少なくない.しかし,そのような場合でも,末梢感覚神経の伝導機能を客観的に評価するパラメーターは必要である.一方,SNAPが誘発されない症例でも,体性感覚誘発電位(SEP)の皮質成分ならば導出可能な場合が比較的多い.そのSEPに着目し,近位部刺激と遠位部刺激とによって得られる皮質SEPの潜時差から感覚神経伝導速度(SCV)を算出した試みが散見される.その場合,SEP成分は頂点潜時によって測定されるのがこれまで一般的であった.しかし,SEPによる伝導速度測定の場合でも,一般の末梢神経伝導検査と同様に,最速神経線維の伝導時間が反映される立ち上がり潜時によってSCVを算出するのが,臨床的観点からは望ましい.しかし,対側頭頂部-Fzの1チャンネルによる導出法では,皮質SEP(N20-P20など)の立ち上がり潜時を同定しにくい場合が多い.こういった立場から,われわれは複数のチャンネルからの同時記録からSEP成分の立ち上がり潜時を測定する方法を考案し,その方法で得られたSCVが従来の頂点潜時による測定よりも正確であることを主張してきた1,2).皮質SEPの立ち上がり潜時からSCVを算出する方法の臨床応用の一例として,健常人および遺伝性運動感覚ニューロパチー(HMSN)症例における結果を紹介したい.

MRIからみたCarpal Tunnel症候群

著者: 杉本英治

ページ範囲:P.814 - P.816

1.Carpal Tunnel症候群
 Carpal tunnel syndrome (CTS)は正中神経の絞扼性末梢神経障害の1つで,手根管内の正中神経が圧迫されることにより起きる.女性に多く,しばしば両側性であり,多くは特発性である.正中神経支配領域の知覚・運動障害,Tinel's sign,神経伝導速度測定により診断される.
 CTSの診断におけるMRIの役割は,これまでに2つの側面から検討されてきた.1つは,CTSが手根管内の占拠性病変により生じている疑いのある症例で,その病変の有無,正確な解剖学位置ならびに組織学的性状を診断することである.手根管内に生じる占拠性病変には,ガングリオン(図1),神経鞘腫などがある.これらの疾患はMRIによりある程度特異的に診断できる.

シャルコー・マリー・ツース病の遺伝子解析

著者: 早坂清 ,   池田博行 ,   池上徹

ページ範囲:P.817 - P.820

1.はじめに
 シャルコー・マリー・ツース(CMT)病は遠位筋の筋力低下および萎縮を特徴とする遺伝性末梢神経疾患である.罹病率は2,500人に1人と非常に高く,一般的に学童期以降に発症し,初期に下肢が侵され歩行障害で始まり,進行し上肢にも及び手の筋力低下を訴える.槌状趾や凹足などの足の変形,深部腱反射の消失,手袋靴下型感覚障害なども特徴的症状である1).しかし,症状には多様性があり,すなわち,同一遺伝子異常を有していても重篤なものから日常生活に支障なく罹病に気づかないものまでさまざまである.

ギラン・バレー症候群とガングリオシド抗体

著者: 楠進

ページ範囲:P.821 - P.823

1.はじめに
 ギラン・バレー症候群(GBS)は,急性の運動麻痺を主症状とするニューロパチーであり,多くの場合,上気道感染や消化器感染などの先行感染があり,その約1週間から10日後に発症する.単相性の経過をとり,通常は再発などのない疾患であり,病態としては自己免疫が考えられている.補助診断検査としては,髄液の蛋白細胞解離や電気生理学的検査における異常所見が知られているが,近年血中ガングリオシド抗体の測定が有用であることが明らかになってきた.
 ガングリオシドは糖鎖部分にシアル酸を含む糖脂質であり,糖鎖構造の違いによりさまざまな分子種が存在する(図1).特に神経系に豊富に分布しており,細胞表面に表現されて,細胞認識や相互作用に関与していると考えられている.自己免疫機序によるニューロパチーでは,しばしば血清中にガングリオシドなどの糖鎖を認識する抗体が検出されることがわかってきた1).なかでもGBSでは症例により認識されるガングリオシドの分子種が多様であり,なかには臨床症状との特異的な対応がみられるものもあり,抗体価は経過とともに低下消失するなどの特徴があることから,診断的意義が高い.

ニューロパチーの診断に神経バイオプシーは必要か

著者: 馬場正之

ページ範囲:P.824 - P.825

1.神経生検と臨床診断
 生検はいろいろな臓器で疾病の最終診断を目的に行われる有力な手段である.神経領域における筋生検や脳生検のほとんども,それを目的として施行される.しかし,末梢神経生検にもその原則が通用するだろうか.多くの場合,その答えは"否"である.末梢神経疾患の臨床的表現形は筋力低下や感覚障害など,原因のいかんにかかわらず,比較的一様である.それにもかかわらず,原因となる背景疾患はきわめて多岐にわたる.それが多くの医師に鑑別診断を困難に感じさせる理由になっている.そこで,診断に直接結びつく"何か"を期待して,神経生検登場の余地が生まれる.しかし,臨床的に五里霧中のときに神経生検から確定診断を望むのは,人身御供を供して雨乞いをする行為に似た,誤解に基づく注文であると言わざるを得ない.

今月の表紙 表在性真菌症の臨床検査シリーズ

皮膚糸状菌症 4.顕微鏡観察による形態学的特徴

著者: 山口英世 ,   内田勝久

ページ範囲:P.752 - P.753

 主要な皮膚糸状菌が菌種固有のコロニーの発育上ならびに形態上の特徴を持ち,それが菌種の鑑別や同定に役立つことはこれまで述べてきた.しかしよほど典型的な特徴を備えた菌株でない限り,それのみで菌種を確実に同定することは困難であり,菌種の確定には通常,顕微鏡レベルの形態学的特徴の観察が不可欠となる.
 一般に真菌の顕微鏡的形態の最大の特徴は,無性胞子,特に分生子のサイズ,外形,表面性状,着生・配列様式などにみられる.また皮膚糸状菌などにおいては,菌糸が特殊化して生じる特殊な構造体(器官)も特徴的である.こうした顕微鏡レベルの形態学的特徴を観察するために,従来からいくつかの方法が用いられてきた.簡便な方法としては,斜面培地のヘリから試験管に沿って発育菌糸や着生分生子などを試験管のガラス越しに直接に鏡検する方法,斜面培地または平板培地上の発育コロニーの一部をかき取ってスライドグラスの上に載せ,組織針でほぐした後に鏡検する方法などがある.しかし詳細な観察を行うためには,スライド(載せガラス)培養法が最適であり,可能な限りこの方法をとることが奨められる.

コーヒーブレイク

武蔵野

著者: 屋形稔

ページ範囲:P.778 - P.778

 2月下旬の朝日新聞に"団地の雑木林"という記事が写真入りで紹介されていた.場所をみると土地勘のある東京・板橋・志村の辺である.次の週うすら寒いが晴れた日に地下鉄を降りて歩くと15分ほどのところに沢山のマンションや団地と雑木林が点在していた.もともと残っていた林の周辺に建物が立ったものと思ったら,ベンチにのんびり坐っていた住民の人によると,有志の努力で武蔵野の雑木林を復元したという話である.白い壁に囲まれた美しい変化に富んだ木々の集合であった.
 大体に首都といっても公園が割合に多く緑に恵まれていると感ずるのは緑の少ない砂地の新潟に住んでいる私だけの感想であろうか.そのなかでも,この団地のように曲がりのひどい木や病害虫にやられた木などを整理し,生きた人間の心を大切にするようにいい雑木林を保とうとする努力が払われているのは珍しい.

シリーズ最新医学講座―遺伝子診断 Technology編

制限酵素の種類と使い方

著者: 中川原寛一 ,   森光子 ,   三岡周子

ページ範囲:P.826 - P.835

はじめに
 特定の遺伝子あるいはその中の一部分を取り出す際に必要なのは,一定の部位で切断する技術である.このような目的に使われるのが制限酵素である.この酵素は二本鎖DNAの特定の塩基配列を認識し,その部分あるいは近くで切って断片にする酵素のことである.今日では当たり前のように使っている制限酵素は,実は1970年以降やっと見い出されたものである.制限酵素として初めて大腸菌から分離されたEco BやEcoKはI型酵素に属するが,酵素が認識する塩基配列とDNAの切断点とが異なるなど,複雑な性質のため特異的なDNAの断片を得る目的には利用できなかった.その後,単純な性質を持ったHemophilusinflnenzaeのⅡ型酵素が発見されてから特異的なDNAの断片を調整するうえで遺伝子操作の実験に欠かせないものとなったのである.

Application編

B型肝炎ウイルス

著者: 阿部賢治

ページ範囲:P.836 - P.842

はじめに
 B型肝炎ウイルス(HBV)感染症の診断は,血球凝集反応やELISA法などによる免疫血清学的手法でHBV関連抗原・抗体を検出することにより容易に可能である.PCR法は,その目的によって血清や組織からのHBV-DNAの高感度検出法として,またHBV遺伝子の変異と肝炎の病態解明の手段として用いられる.したがって,HBVの血清診断に際しては,その目的に応じて最適な方法を使い分けることがまず重要である.本稿では,PCR法によるHBV遺伝子の検出法と,その診断的意義について述べる.

トピックス

アルカリ性ホスファターゼ

著者: 小山岩雄 ,   菰田二一

ページ範囲:P.843 - P.844

 近年,遺伝子工学の発展によりアルカリ性ホスファターゼ(AP)に関して構造や遺伝子上での研究が著しく進歩した.すなわち,臓器非特異型APに分類される肝・骨・腎型遺伝子は染色体1P34→36.1領域に存在し,約50 kbで12個のエクソンと11個のイントロンよりなる1).肝型と骨型AP遺伝子の大きな違いは,プロモーターを含むエクソン1に存在する肝型特異的エクソン1Lと骨型特異的エクソン1Bにあるが,筆者らの成績からは腎型AP遺伝子は骨型APに類似していた.ただし,これらのAP蛋白一次構造は同一とされているので,臓器非特異型AP間の差異はそれらが持つN-結合型糖鎖が互いに異なることにあり,さらにその糖鎖構造が癌性変化することを筆者らは報告してきた.最近,ラットAH-130肝癌細胞から得たAPのN-結合型糖鎖構造によれば,正常肝APよりもフコシル化した高マンノース型と混成型が増加するらしい2)
 しかしながら,依然としてAPの生理的意義については不明な点も多い.しかし注目すべきは,最近の報告よりマウス臓器非特異型APは,ピリドキサルリン酸(ビタミンB6の代謝に直接関与するという点である3)

凝集コロイド

著者: 広川満良

ページ範囲:P.844 - P.846

 甲状腺は大小さまざまな類球形の濾胞からなり,その内腔には濾胞上皮細胞によって分泌されたコロイドが蓄えられている.このコロイドは,HE染色にて淡赤色,均一に染まり,特定の形態をしていないが,ときに顆粒状~塊状の形をしたコロイドが見られることがあり,凝集コロイドと呼ばれている1,2).凝集コロイドの出現機序やその成分は明かにされていないが,最近細胞診標本中における凝集コロイドの存在が良性を示唆する指標になると報告3)され,脚光を浴びている.
 凝集コロイドは剖検例の正常甲状腺にてしばしば観察される(図1,2).染色性はやや好塩基性を示し,Azan染色で赤色を呈することが多い.1つの濾胞内における凝集コロイドの数は数個のものから多数のものまでさまざまで,濾胞内に均等に分布しているものや一側に集まっているものもある.凝集コロイドが少ない濾胞では背景に通常の好酸性コロイドが観察されるが,凝集コロイドを多く含む濾胞では正常の好酸性コロイドはほとんどみられない.手術材料においては,副甲状腺機能亢進症症例の甲状腺組織で,特に凝集コロイドが目立つ症例が多い.また,腺腫様甲状腺腫や濾胞性腺腫では,ほぼ正常の大きさ(normofollicular lesion)か,それより大きい濾胞性病変部(macrofollicular lesion)で凝集コロイドが観察されることがある.

膵癌発生におけるmucous cell hyperplasia-adenoma-carcinoma sequence(粘液細胞過形成-腺腫-癌腫連鎖)―癌遺伝子Ki-ras codon 12突然変異の立場から

著者: 柳澤昭夫

ページ範囲:P.846 - P.849

 近年画像診断の進歩により多数見つけられるようになった膵管拡張型粘液性嚢胞腫瘍(図1)1,2)は,組織学レベルでの検索で腺腫と腺癌が共存することから,この腫瘍の癌は腺腫を経て発生するadenoma-carcinoma sequenceが成り立つことが疑われていた.筆者らは,この腫瘍について通常型膵管癌に高頻度にみられるシグナル伝達系に関するGTP結合蛋白p21をコードしているRAS遺伝子の変異,特に,Ki-ras codon 12の点突然変異の有無を検索した結果,同一症例の腺腫部分と腺癌部分の変異はいずれも同様であったことより,両者は同一クローンであり,遺伝子解析の立場からもこの型の膵癌の発生には腺腫に由来するものがあることを報告した(図2,表1)3).また,変異がみられるこの腫瘍の多数の箇所からDNAを抽出しKi-ras遺伝子の変異を検索した結果,変異は腫瘍内の異型度の低い粘液細胞過形成から異型度の高い腺腫あるいは癌すべてにみられ,その内容はすべて同一であった。すなわち,異型度の低い粘液細胞過形成にGGT→GAT(Gly→Asp)の変異がみられた症例は,腫瘍のどの部位の変異もすべて同一であり,異型度の高い組織学的に腺腫あるいは癌と診断される病変まですべてGGT→GAT(Gly→Asp)の変異であった(図1).

質疑応答 免疫血清

サンドイッチELISA法によるケラタン硫酸の測定

著者: 花嶋美奈子 ,   高岸憲二 ,   糸満盛憲 ,   K生

ページ範囲:P.850 - P.851

 Q 「臨床検査』35巻13号(1991年12月1,289ページ)に血清ケラタン硫酸測定法(北里大学医学部整形外科 高岸憲二先生)について記載されており,そこでは阻害ELISA法でケラタン硫酸を測定してありますが,サンドイッチELISA法では測定できないのですか.また,EIA測定方法がありましたらお教えください.ケラタン硫酸の臨床的意義についても触れていただければと思います.

臨床生理

R-R間隔のパワースペクトル解析で得られる情報

著者: 沼澤てるひこ ,   Q生

ページ範囲:P.852 - P.854

 Q ホルター解析を行っているCE技士ですが,ホルター心電図の解析と同時にR-R間隔のパワースペクトル解析の依頼がときどきあります.このパワースペクトル解析によってどのような情報が得られるのでしょうか.

研究

尿中α2-マクログロブリンのラテックス免疫比濁測定法の確立

著者: 山口哲司 ,   伊藤喜久 ,   浅野泰 ,   河合忠

ページ範囲:P.855 - P.858

 腎後性出血のマーカーとして期待される尿中α2-マクログロブリン(α2-M)のラテックス免疫比濁測定法を開発した.α2-Mの測定系の感度は,80ng/mlであり,特異性,精度,添加回収など良好な結果を示した.尿中安定性は,4℃,pH 6以上で,1か月間安定であった.任意の患者検体93例の測定では,健常値を超えるものが16例あり,腎後性出血および腎糸球体の選択的濾過能の評価における病態検査上の意義が示唆された.

ミエロペルオキシダーゼを免疫学的に測定する新しい尿中白血球の検出法

著者: 後藤明子 ,   内田壱夫 ,   冨田仁

ページ範囲:P.859 - P.863

 尿中白血球の新しい検出法として好中球の顆粒内蛋白であるミエロペルオキシダーゼを免疫学的に測定する方法を考案した.本法の測定感度は10ng/mlであり,健常者群から求めたカットオフ値は95.2ng/mlであった.これは好中球数に換算すると約90/μl(従来法は10/μl)に相当し,従来法より偽陰性の少ない尿中白血球検出法と考えられた.今後,尿路感染症の経過観察時の膿尿の微妙な動きを知る有用な方法となると思われた.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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