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雑誌目次

論文

臨床検査41巻3号

1997年03月発行

雑誌目次

今月の主題 白血病・最近の進歩 カラーグラビア

AML with trilineage dysplasia (TLD)

著者: 栗山一孝

ページ範囲:P.243 - P.247

1.はじめに
 このタイプの急性骨髄性白血病(AML with trilineage dysplasiaまたはmyelodysplasia;AML/TLD1)またはTMDS2,3))は骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndrome;MDS)が先行した形跡がない初発白血病(de novo leukemia)と考えられるが,増殖芽球の背景にある骨髄3血球系の成熟細胞に異形成(dysplastic change)4)が存在することが最大の特徴である.したがって,その診断は主に血球形態異常を見いだすことによって行うことが多い.そこで以下にTLDの診断,特に形態学的診断に的を絞って述べてみたい.

急性リンパ性白血病の形態と表面形質

著者: 川合陽子 ,   三ツ橋雄之

ページ範囲:P.249 - P.253

1.はじめに
 急性白血病は白血病細胞(芽球)が主として骨髄中で腫瘍性に増殖する疾患である.大きく急性リンパ性白血病(acute lymphoblastic leukemia;ALL)と急性骨髄性白血病(acute myelocytic leu-kemia;AML)に分類され,芽球の性質によりさらに細分類される.ALLは未熟なリンパ球系の芽球の腫瘍性増殖をきたす疾患として位置付けられている.
 急性白血病の分類として現在普及しているのは,1976年にBennetらによって発表されたFAB分類である1).FAB分類は現在までに数回の改訂が繰り返され,ALLの分類では1981年に診断一致率の向上のためにscoring systemが加えられた2)

総説

白血病のFAB分類とその問題点

著者: 長井一浩 ,   朝長万左男

ページ範囲:P.254 - P.260

 白血病細胞の系統とその分化度を基盤とする急性白血病のFAB分類は,形態所見に免疫学的マーカー所見を加えた追加改訂を重ねている.病型診断のポイントは芽球の系統の確定と比率の算定であるが,そのためには芽球と分化傾向を持つ細胞との鑑別および特異的免疫学的マーカーの選択が重要である.さらに本分類法をベースに,より生物学的にも臨床的にも明確な細分類を可能にする必要がある.
 慢性(成熟)リンパ性白血病の分類も形態とマーカー所見を主軸とするものである.鑑別困難な症例については,各病型の臨床像や染色体,遺伝子所見,予後との関連が大きいので,これらを総合して診断する必要がある.

白血病細胞の染色体・遺伝子異常

著者: 平井久丸

ページ範囲:P.261 - P.270

 白血病の分子機構はシグナル伝達研究の進歩,染色体転座点遺伝子の単離,さらには最近の細胞周期制御因子の発見などにより詳細に理解されるようになった.増殖因子から受容体を経て核内に伝わるシグナル伝達経路上のさまざまな分子,あるいは細胞周期やアポトーシスにかかわる数々の分子なども遺伝子異常を生じると白血病発症にかかわることが示されている.

技術解説

FISH法

著者: 田中公夫 ,   新谷貴洋 ,   鎌田七男

ページ範囲:P.271 - P.275

 FISH法はビオチンやディゴキシゲニンでプローブを標識しFITCやローダミンの蛍光物質をつけ,染色体上や間期核上でシグナルの位置や数を観察し,DNAの変異を検出する方法である.この方法を詳細に述べ,各ステップでポイントとなるところを指摘した.白血病にみられる特異的染色体異常に関与する癌遺伝子部位をプローブとしてFISH法を行い,染色体上のみでなく間期核上にシグナルを得ることで,白血病の確定診断や治療効果判定に応用することが可能であることを示した.

微量残存白血病細胞の検出

著者: 森茂久

ページ範囲:P.277 - P.282

 微量残存白血病細胞(白血病におけるMRD)の検出は再発の予測と早期治療,治療効果の判定,移植片中に混在する腫瘍細胞の検出などに役だつ.MRDの検出法としてサザン法,FISH法,PCR法などがある.そのうち感度,定量性が高い代表的な方法として競合的PCR法がある.PCR法を用いたMRD評価は白血病の種類,状態,治療などにより異なる.MRDの臨床的意義を明らかにするためには定性的ではなく定量的解析が必要である.

多剤耐性の遺伝子検査

著者: 宮地勇人 ,   小林広幸 ,   竹村譲

ページ範囲:P.283 - P.289

 近年,抗腫瘍剤耐性の分子機構の解明とDNA操作技術の開発は,白血病における耐性遺伝子の検出を可能にした.多剤耐性の分子機構として,①化学構造が異なる多剤を細胞外に排出する細胞膜のP糖蛋白質(P-glycoprotein;P-gp)をコードするmdr 1遺伝子発現,②トポイソメラーゼ阻害剤やDNA架橋薬剤の標的酵素トポイソメラーゼⅡ(トポⅡ)活性低下では,遺伝子発現低下または変異,さらに,③ATP結合性多剤耐性関連蛋白質(multidrug resistance-associat-ed protein;MRP)遺伝子が新たに単離され,その発現と耐性との関係が解明されつつある.これら遺伝子発現の検出に,特定の遺伝子断片を特異的に増幅するポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)法は,感度高く迅速かつ簡便な方法である.定量的解析には,増幅反応条件の設定と対照遺伝子の同時増幅が大切である.多剤耐性遺伝子の検査は,簡便,迅速に治療反応性の指標を提供するため,白血病のより適切な診断と治療成績向上に貢献しうる.

白血病細胞のサイトカイン受容体検査

著者: 松村到 ,   金倉譲

ページ範囲:P.291 - P.295

 サイトカインは正常の造血制御のみでなく,白血病細胞上に発現されているサイトカイン受容体を介して,in vitroで白血病細胞の増殖を促進することが報告されている.またサイトカイン/受容体系の異常発現や恒常的活性化が,造血細胞の腫瘍化や過剰増殖をもたらすことも明らかにされてきた.白血病の病態解明には白血病細胞のサイトカイン受容体の解析が重要であると考えられ,本稿では,その検査法について簡単にまとめてみた.

血液疾患におけるクロナリティ検査

著者: 碁石祥子 ,   槍澤大樹 ,   厨信一郎

ページ範囲:P.297 - P.301

 非クローン性血液疾患から移行した造血器腫瘍性疾患の症例が集積されるにつれて,もとの病態におけるクロナリティの有無が注目を集めている.ヒトX染色体上にあるアンドロゲン受容体遺伝子の多型性を利用した造血組織のクロナリティ解析は,女性例にしか応用できない欠点はあるが,これまでの方法に比較して解析可能症例の頻度が高く,このような症例における腫瘍性疾患移行前の病態解析や質的な治療効果の判定に利用できよう.

白血病コロニー法

著者: 宮内潤

ページ範囲:P.302 - P.306

 白血病細胞集団は正常血液細胞と同様に,増殖能と自己複製能という幹細胞としての2つの重要な機能を有する細胞,すなわち白血病幹細胞によって維持されている.白血病患者の予後は白血病幹細胞の自己複製能と密接な関係があり,白血病治療の最終目標は,白血病幹細胞の自己複製を阻害し,これを根絶することにあると言っても過言ではない.白血病コロニー法は白血病幹細胞の増殖と自己複製の機構をin vitroで検討する方法であり,白血病幹細胞に及ぼす造血因子をはじめとするさまざまな生物活性物質や薬剤などの作用を明らかにし,白血病治療に役だてるものである.

話題

治療関連白血病薬剤

著者: 幸田久平 ,   新津洋司郎

ページ範囲:P.307 - P.311

1.はじめに
 成人の急性骨髄性白血病(AML)はAra-CもしくはBHACとダウノマイシン,6MP,プレドニゾロン(PSL)を併用した化学療法により約80%が完全寛解(CR)に達する.最近ではこれにミトキサントロン,イダルビシン,エトポシド(VP 16)などの薬剤が積極的に導入され,強力な地固め療法と維持療法により20~30%が長期生存するようになってきた.一方,成人の急性リンパ性白血病(ALL)はサイクロホスファミド,アドリアマイシン,ビンカアルカロイド,PSLなどを中心とした多剤併用療法が行われているが,成績は小児に比べるときわめて不良と言わざるをえない.このように化学療法で治癒困難な症例には,骨髄移植や末梢血幹細胞移植を利用した超大量化学療法がなされ,多くの白血病は治癒可能となりつつある.
 本稿では白血病治療薬の最近の話題として,all-trans retinoic acid (ATRA)による急性前骨髄球性白血病(APL)に対する分化誘導療法,難治性AMLや骨髄異形成症候群(MDS)に対する顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)併用Ara-C少量療法,難治性造血器腫瘍患者のquality of life(QOL)の向上を目ざしたVP-16少量経口投与,慢性骨髄性白血病(CML)のインターフェロン(IFN)療法について概説する.

リボザイムによる白血病細胞の増殖抑制

著者: 松下弘道

ページ範囲:P.312 - P.316

1.はじめに
 分子生物学的手法の導入により発癌機構の解明は急速に進歩し,癌遺伝子の発現および癌抑制遺伝子の異常が発癌の一因を担うこと,またこれらがシグナル伝達系や細胞周期と密接にかかわりあうことが明らかにされてきた.造血器悪性腫瘍の領域においても,これらの分子生物学手法が研究および臨床面において,染色体異常と発癌,薬剤耐性とその克服,微量残存病変の検出と治療の評価・治療方針決定などさまざまに応用されてきた.しかし治療に関しては現在までのところ化学療法および骨髄移植などの抗癌剤を主体としたtotal cell killの概念に基づく腫瘍細胞の根絶を目的とする治療が中心となっており,発癌機構に立脚した,新しい観点からの治療法の確立が期待されている.近年の分子生物学的研究から特定の造血器悪性腫瘍の発症には特定の遺伝子異常が密接に関係していることが解明され,これを治療へ応用しようとする試みがさまざまになされている.遺伝子発現を修飾する手段としてはアンチセンスが有名であるが,その1つにリボザイムがある.本稿ではこのリボザイムの造血器腫瘍への治療応用について概説する.

トランスジェニックマウスを用いた白血病発症機構の研究

著者: 浅野嘉延 ,   仁保喜之

ページ範囲:P.317 - P.319

1.はじめに
 近年の発生工学的手法の進歩により,個体レベルでの遺伝子操作が可能となった.理論的には各種動物の遺伝子改変が可能であるが,実際には取り扱いが容易なこと,性成熟期間が短いこと,臓器構成が比較的ヒトに類似していることなどから,マウスを実験対象とすることが多い.遺伝子改変マウスには,目的とする特定の遺伝子を個体内で過剰発現させた遺伝子導入マウス(トランスジェニックマウス)と,特定の遺伝子に変異を導入し遺伝子機能を欠損させた遺伝子破壊マウス(ノックアウトマウス)がある.これらの遺伝子改変マウスの表現型を解析することで,特定の遺伝子の生物学的な機能を個体レベルで検討することができ,さらにヒトの疾患に関与する遺伝子を導入あるいは破壊することで疾患モデルマウスの作製を試みることができる.
 一方,白血病の発症には各種の癌遺伝子や癌抑制遺伝子の多段階な変異が関与していると考えられている.これまでに,白血病の病型に特異的な染色体異常の検討などから,白血病発症に関与する数多くの癌関連遺伝子が同定されてきた.これらの遺伝子の白血病に及ぼす影響を個体レベルで発症から死亡まで包括的に解明するため,遺伝子改変マウスを用いた種々の検討が行われ,いくつかの白血病モデルマウスが報告されている.本稿では,遺伝子改変マウスの作製法の説明は割愛し,癌関連遺伝子の遺伝子改変マウスを用いた白血病発症機構の研究について,最近の進歩を概説する.

白血病の転写因子異常

著者: 木崎昌弘

ページ範囲:P.320 - P.322

1.はじめに
 細胞内の情報伝達機構は,最終的には核内の転写機構に集約するものと考えられるが,この真核細胞の転写制御の研究は分子レベルで驚異的に進展している.その中心となる研究は,遺伝子の発現制御にシスに働く制御配列の決定,その配列に結合して機能する転写因子の同定であるが,これらは,in vitroでの転写再構成系の実験の進展あるいは酵母の系でのtwo-hybrid systemの開発,トランスジェニックマウス,ノックアウトマウスの作製といった技術開発により,さらに研究が進歩している.また,転写因子の機能が明らかになるにつれ,転写因子による制御機構の破綻によって生じる疾患も次第に明らかにされつつある.本稿では造血に関与する種々の転写因子と白血病における転写因子の異常について概説したい.

今月の表紙 深部皮膚真菌症の臨床検査シリーズ・3

フェオヒフォミコーシス

著者: 山口英世 ,   内田勝久

ページ範囲:P.238 - P.239

 フェオヒフォミコーシスは,同じ黒色真菌感染症とはいえ,前号で述べたクロモミコーシスとは明らかに異なる病態および病理組織像を示す.本症においては,組織内に硬壁細胞が認められず,さまざまなかたちの褐色菌糸,仮性菌糸様菌要素,暗色円形細胞(酵母様細胞)などがみられるだけである.発症すると,通常,皮下組織に膿瘍性または疣状の病巣をつくり,特に免疫不全患者においては全身性ないし播種性に拡大する.
 国内でみられるフェオヒフォミコーシスの主要な原因菌は,Exophiala (Wangiella) dermatitidisおよびE.jeanselmeiであり,そのほかにAlter-naria sp.(特にA.alternata)が知られている.さらに諸外国ではXylohypha bantiana (旧名Cladosporium bantianum, C.trichoides),Phialophora richardsiae, Pseudallescheria boydiiなどが原因菌として分離される.

私のくふう

第28回"私のくふう賞"発表

著者: 医学書院

ページ範囲:P.295 - P.295

入賞
該当論文なし

コーヒーブレイク

医療とは優しい言葉かけ

著者: 寺田秀夫

ページ範囲:P.301 - P.301

 有名な米国の内科医ウィリアム・オスラー教授(Sir William Osler)のいくつかの教えの言葉の1つに,"Fifteen minutes at the bedside is betterthan three hours at the desk"という言葉がある.3時間机上で患者の病態や治療法を研究するよりも,ベッドサイドで患者と15分間でも話し合って,病人に気持の安らぎと励ましを与えることが医療人にとってより大切であるという意味であろう.
 定年を2回(昭和大医学部・聖路加看護大大学院)終え,内科医として40年余を過してきた自分を顧みると,ややもすれば病気だけを見て,病人を診なかった場合もあったのではないかと悔まれる.幸いに健康に恵まれ現在も診療を続けているが,最近診察を終った患者さんから,"暑いですから先生もお身体を大切に"と言われることがしばしばで,その度に自分の年齢を思い返すわけである.しかしその患者さんに対して,とても温かな心のぬくもりを感じ,"ありがとうございます"と返事する.

成熟と若さ

著者: 屋形稔

ページ範囲:P.330 - P.330

 この3月にわが国の臨床検査にとって最大の貢献をされた河合忠先生が自治医科大学を定年退職されることになった.もちろん今後にわたってこの世界をリードされることは疑いないが,先生がLab-Topicsという季刊誌面に昨年1月から"私の臨床検査史"という自伝を連載されている.
 今まであまりこの種のエッセイをお書きになっていない方でもあり,まだ最初の部分であるが練れた文体とこの命題では余人の追随を許さぬ人なので必読の興味ある読み物である.現在接するあの流暢な英会話も,当初は苦手で中学時代に不可をとり心中挑戦を決意したという話は,苦手の人々にとってすこぶる励みの材料となろう.

シリーズ最新医学講座―遺伝子診断 Technology編

血餅からのDNA抽出

著者: 金井信行

ページ範囲:P.323 - P.325

はじめに
 遺伝子診断はPCR (polymerase chain reaction)をはじめとした方法が容易であるため,特に研究の分野で急速に普及している.今回,臨床検査室でヒトゲノム遺伝子の検体としては最も入手が容易な血餅を利用した簡単なDNAの抽出方法を解説する.

Application編

Wilson病

著者: 清水教一

ページ範囲:P.326 - P.329

はじめに
 Wilson病は,常染色体劣性遺伝形式をとる先天性銅代謝異常症の代表的疾患である.肝臓,中枢神経,角膜および腎臓などの各種臓器に銅が過剰に蓄積することにより,種々の症状が出現する.わが国における発症頻度は,3.5~4.5万人に1人と先天代謝異常症としては比較的頻度の高い疾患である1).臨床的には,肝硬変,錐体外路症状そしてKayser-Fleischer角膜輪を3主徴とする.また,肝型,肝神経型,神経型,劇症肝炎型および発症前型に病型が分類される1).特徴的検査所見としては,血清銅値およびセルロプラスミン値の低下,尿中銅排泄量の増加および肝銅含量の著明な増加が挙げられる.本症の病態としては,肝臓における胆汁中への銅の排泄および活性型セルロプラスミン合成の障害が主体であると考えられている.これにより肝細胞内に銅が過剰に蓄積し,肝細胞壊死を引き起こす.また,肝臓よりoverflowして血液中へ流出した非セルロプラスミン銅が,中枢神経,角膜あるいは腎臓などの種々の臓器へ沈着し,それらの臓器障害を引き起こす.

トピックス

グリコヘモグロビンの標準化に関する委員会の活動状況

著者: 島健二

ページ範囲:P.331 - P.333

 1993年6月,日本糖尿病学会グリコヘモグロビンの標準化に関する委員会(以下委員会)は全国107施設を対象にHbA1C測定の精度管理調査を行った1).その結果,健常者新鮮血,糖尿病患者新鮮血を検体とした場合の測定値の分布は二峰性になり,その際の変動係数(CV)はそれぞれ10.4,10.5%ときわめて大きく,測定値が施設間で著しくばらついていることがわかった(図1).精度管理調査結果を種々検討し,この大きな施設間差の原因として2つの因子が浮かび上がってきた.その1点は不安定HbA1Cを含んで測定している施設と安定型HbA1Cのみを測定している施設の存在,他の因子は,用いている機種による測定値の差(機種間差)である.委員会としては安定分画のみの測定を勧告した.また委員会は基準となる標品を作製し,それに値付けし,この表示値で測定値を補正するという方策を提案した.この2つの方策,すなわち安定型のみの測定,標品での測定値の補正に従って測定した場合,測定値の施設間差がどのように改善されたか,1994年4月に前記107施設を対象に調査した2).新鮮血材料のみの結果を図2に示す.A,Cが健常者新鮮血,B,Dが糖尿病患者新鮮血で,C,Dがそれぞれ標品の測定値で補正した測定値の分布を示したものである.図1と異なり,分布は2峰性でなく1峰性になっていること,さらに補正したC,Dにおいては分布幅が一層縮まっていることが明らかである.

血圧の中枢性調節と高血圧症

著者: 浜窪隆雄

ページ範囲:P.334 - P.336

はじめに
 高血圧症の成因を考える立場として,中枢神経系の異常として捉えるものと末梢臓器(腎,血管系など)の異常として捉えるものとに分けることができる.両者を必ずしも対立するものとして考えなければならないわけではなく,逆に密接な連関を保っているものであるはずだが,高血圧症の研究を理解するうえでは分けて論じたほうがわかりやすい.中枢神経系の高血圧症への関与を指摘していたページ(Page IH)が亡くなってから中枢神経派はやや押され気味という見方もできるが,ここ数年来,従来の電気生理学的手法に加えて免疫組織化学的手法や定位脳手術による局所への微量注入法などの進歩,さらにさまざまな神経伝達物質の受容体分子の遺伝子クローニングなどの分子生物学的手法の発達により,自律神経系の中枢での調節機構に関する知識は深まってきている.またストレスや免疫系とのかかわりも研究されるようになり新しい概念が生まれつつあると言える.本稿では本態性高血圧症との関連において重要と思われる仮説を概説する.

質疑応答 血液

骨髄異形成症候群と巨赤芽球性貧血の骨髄像変化所見

著者: 高橋益広 ,   TY生

ページ範囲:P.337 - P.339

 Q 髄像変化がみられるため判断に困ることがよくあります.臨床的にまた他の情報から識別可能とされますが,骨髄像を観察する際に注意すべき所見をお教えください.

臨床生理

Ⅰ波導出困難なABRの記録法

著者: 川名ふさ江 ,   Q生

ページ範囲:P.340 - P.343

 Q 感音難聴があり,聴神経腫瘍を疑われて聴覚脳幹誘発反応(ABR)の検査を依頼されることがよくあります.聴神経腫瘍の診断はⅠ-Ⅴ波間潜時,Ⅰ-Ⅲ波間潜時で評価されるためI波の導出が不可欠となります.しかしながら感音難聴の人はI波導出が困難な場合が少なくなく,音圧を上げても導出できないことがあります.何か良い方法があったら教えてください.

研究

生化学検査値の日内リズムとその再現性

著者: 河口豊 ,   市原清志 ,   濱野政弘 ,   中桐逸博 ,   石田博 ,   松田信義

ページ範囲:P.345 - P.352

 生化学検査値の個体内変動のリズム性とその再現性を健常成人7名を対象に調べた.鉄,総ビリルビン,無機リンは明瞭なリズム性を示し,食後の中性脂肪,血糖の変動は昼と夕で異なった.各変動はどの個体でもほぼ一様で,かつ2週間間隔3回の反復実験で個体内でも高い再現性を示した.また本データに枝分かれ分散分析法を適用し,生理的変動を個体間変動,日内リズム,個体内ランダム変動の3成分に分解し,基準範囲の診断的意義を明確にした.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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