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雑誌目次

論文

臨床検査41巻4号

1997年04月発行

雑誌目次

今月の主題 Internal Quality Control 巻頭言

internal quality controlの再認識

著者: 片山善章

ページ範囲:P.361 - P.365

internal quality controlの管理事項
 臨床検査における精度管理(quality control)は,広い意味では患者試料を採取する時点(採血時点,採血方法,採血器具などの条件が加わる)から始まるのであるが,一般的にQCとは患者試料が検査室に提出されてからの管理を表す場合が多く,特にコントロール血清,あるいはプール血清など,いわゆるモニター試料を用いて分析装置の分析状態を管理する統計学的精度管理(satis-tically quality control;SQC)が行われている.しかしSQCは図1に示すように,SQCを行う以前の管理事項,①試料採取,試料保存の条件管理,②分析機器の保守管理,③試薬管理,④技術水準の向上,が十分に管理されていなければ,SQCは効力を発揮しないのである.したがってSQC以前の管理事項を含めたQCを総合的精度管理(total quality control:TQC)と言い,TQCの実施ができてこそ,本来のQC (内部精度管理,外部精度管理)を行う価値が認められるのである.
 本稿ではそのQCの中の内部精度管理(inter-nal quality control: IQC)を取り上げ,その重要性を実例を挙げて再認識したい.

総説

quality controlの歴史

著者: 中甫

ページ範囲:P.366 - P.372

 臨床検査の精度管理は産業界における品質管理に由来する.臨床検査における精度管理の必要性が論じられ始めたのは1940年代半ばで,それ以来半世紀の歴史がある.初期には測定時における統計的精度管理が中心であったが,その後測定時のみならず測定前,測定後も含めた総合的な精度保証としてとらえられるようになり,さらに医療機関全体の信頼性を維持するためのクオリティマネジメントという考え方にまで発展している.この発展の歴史的過程について解説する.

精度保証と内部精度管理

著者: 桑克彦

ページ範囲:P.373 - P.379

 臨床検査における精度管理は,検査の質管理として新たに整備され,検査の質の改善システムとして組み立てられている.これは検査の質の保証と質管理の運営からなる.このうち検査の質保証は検査前管理,検査管理,検査後管理にそれぞれ機能的に分けられる.内部精度管理は検査管理の1つとして,測定に関しては測定値の評価,精密さの管理,正確さの管理および個別検体管理として機能する.

statistical quality controlの意義

著者: 細萱茂実 ,   久米章司

ページ範囲:P.380 - P.386

 臨床検査における精度管理の主対象は,測定値の誤差であり,一般的には精度管理は誤差管理ととらえることができる.測定誤差は分析法が本来的に持つ固有誤差と,試薬・機器などの時間的変動への対処法,また,測定体系からの正確さの伝達手段やその値の長期的維持の問題など,いわゆる分析法の校正に関する要因に分けられる.それら要因別の誤差変動の大きさ(誤差特性)を把握・制御し,分析法が持つ本来の性能を,安定的に発揮できるような状態を保つことが精度管理の目的となる.それには分析法の誤差特性に適した管理法を採用し有効に活用することが重要となる.

技術解説

管理試料を用いる精度管理

著者: 山本慶和

ページ範囲:P.387 - P.398

 管理試料を用いる精度管理手法のX―R管理図法,X―Rs-R管理図法,マルチ・ルール管理法,臼井法(プラスマイナス),累積和法(Cusum)および双値法(Youden plot)を取り上げ,管理図の作成,管理限界の計算,判定,意義と限界,および分析工程における各管理法の適用について解説した.

患者データを用いるQCの実際

著者: 市原清志

ページ範囲:P.399 - P.413

 臨床検査値の総合的な精度保証には,精密度(値の再現性)と検査過誤(検査ミス)の両面から日常データを細やかに管理する作業が重要となる.
 この意味で,通常の管理用試料だけに依存した精度管理だけでは不十分で,日常検査情報の活用が不可欠となる.従来この作業には細心の注意力が要求されたが,最近の進んだ情報技術を活用すれば,精度保証の2つの側面を効率よく管理できる.
 本稿では,その代表的方法論として,精密度の管理では,患者データ平均の利用法,クロスチェック法,精度プロフィール法を,検査過誤の管理では,相関チェックとデルタチェック法などの主要なものを取り上げ,その運用の実際を述べる.

リアルタイム精度管理(QC)の実際

著者: 栢森裕三 ,   片山善章

ページ範囲:P.415 - P.426

 自動分析装置の多項目測定化に伴って発生するデータは膨大な量になっている.これらの臨床検査データの報告に際して,そのデータが許容できるかどうかは精度管理データから判断される.従来の精度管理は管理血清を利用した方法が一般的であったが,本来の精度管理は患者データが精度よく測定されているかを目的とするものである.そのため,患者データを利用した個別管理手法が応用されるようになってきたが,これはコンピュータの発達によるものであり,データを迅速・正確に処理することを可能にした.この章ではこれらの方法による当センターでの患者データ結果報告の実際について述べる.

話題

出現実績ゾーン法によるquality control

著者: 千葉正志 ,   堀本光

ページ範囲:P.428 - P.432

1.はじめに
 臨床検査の精度管理は,管理血清や患者試料測定値の統計的処理による内部精度管理,各種の機関が実施している外部精度管理,さらには,患者試料測定値の個別管理がある.これらの内部精度管理,および外部精度管理方法は,系統的誤差の検出には強力な威力を発揮し,臨床検査の正確度や精密度の精度向上に大いに貢献している.
 一方,個別管理は臨床検査結果の信頼性を検証する方法であり,Nosanchuckら1)がデルタチェック法を提唱したことに始まり,現在では異常値チェック,特定項目の組み合わせによる相関チェック,同一患者の過去のデータと比較するデルタ・チェックなど2~10)が実施されている.

常用酵素標準物質(ERM)

著者: 小川善資 ,   木村孝司 ,   牧瀬淳子 ,   山口正 ,   池谷均 ,   須郷秋恵 ,   斉藤奈々子 ,   伊藤啓

ページ範囲:P.433 - P.440

1.はじめに
 日本臨床化学会は6種類(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(EC 2.6.1.1;AST)1),アラニンアミノトランスフェラーゼ(EC 2.6.1.2;ALT)2),クレアチンキナーゼ(EC 2.7.3.2;CK)3),アルカリホスファターゼ(EC 3.1.3.1;ALP)4),乳酸デヒドロゲナーゼ(EC 1.1.1.27;LD)5),γ-グルタミールトランスフェラーゼ(EC 2.3.2.2;γ-GT)6)のヒト血清中酵素活性の測定方法に対する勧告法を提示し,この方法に準じた常用基準法が設定されている7).この常用基準法で得られる正確な測定値を,日常検査法に正確に伝達させるために用いられる酵素標準液が,常用酵素標準物質(ERM)である.この関係を図1に示した8)
 酵素活性測定値の施設間差をなくし,正確な酵素活性値に導くための重要な役割を課せられたERMを確立させるため,日本臨床化学会では1992年10月,酵素,標準品情報,精度管理の3つの専門委員会の合同でERM研究会が組織され,1994年3月には指針案が提案された.これを受け,ERMを製造するためのワーキンググループが作られ,多くの討議が繰り返された.これら議論をまとめたものとして,常用酵素標準物質の規格が公表されるに至った8).この規格に記載されていることが現状でのERMに関する最も正確な情報のすべてであるが,本稿では若干解説を加えさせていただく.

今月の表紙 深部皮膚真菌症の臨床シリーズ・4

まれな深部皮膚真菌症

著者: 山口英世 ,   内田勝久

ページ範囲:P.356 - P.357

 これまで述べてきたスポロトリコーシス,クロモミコーシス,フェオヒフォミコーシスのいずれとも異なる病態の深部皮膚真菌症の原因となる比較的まれな糸状菌が少なからず知られている.こうした真菌が引き起こす代表的な疾患は,主に足や手の皮膚や皮下組織(ときには骨まで)を冒す慢性局所性感染であり,足菌腫またはマズラ菌症と呼ばれる.臨床症状としては,顕著な腫脹(肉芽腫),瘻孔,顆粒状膿などを特徴とする.
 足菌腫の起因菌としては,Exophiala jeansel-mei, Pseudallescheria boydii(不完全世代Scedo-sporium apiospermum),Madurella mycetomatis, M.griseaなどの黒色真菌,Fusarium spp.,Acre-monium spp.,Aspergillus nidulansなどの非着色糸状菌,合せて15菌種ほどが挙げられている.さらに,足菌腫以外の病態を呈する深部皮膚真菌症を引き起こす非着色糸状菌もあり,わが国ではPaeciloimyces spp.が比較的高い頻度で分離される.幾つかの代表的菌種について形態学的特徴を以下に示す.

コーヒーブレイク

あけくれの夢

著者: 屋形稔

ページ範囲:P.441 - P.441

 1996年の夏の終りごろ,文化勲章作家遠藤周作氏が74歳で逝去した.この方は医療問題をテーマにしたエッセイも数多く書いている.例えば,産経新聞に1991年から2年間に99回連載し好評だった「花時計」をまとめた「心の航海図」などをひもとくと,約5分の1は医療問題である.
 さり気なくわかりやすいタッチの中で深刻な医療問題を取り上げ,読者に訴えかけている.いきおい老人問題にも筆が向く.ご自分でも,"このところ病院問題ばかり書いている.しかし老齢化社会が広がり,どこの病院へ行っても年配の人で待合室が埋っているのを見ると,病院問題は20世紀の日本の一番大きな社会問題と思わざるをえない"と書いている.また,"私が今一番望むのは長寿ではなく,他人に迷惑をかけないうち,また自分があまり孤独にならぬうちにそう痛くない病気でこの世をおさらばすることだ"というのもある.

シリーズ最新医学講座―遺伝子診断 Technology編

定量的RT-PCR法

著者: 戸田年総

ページ範囲:P.443 - P.448

はじめに
 1985年に発表されたPCR法1)(遺伝子増幅法)は,特定の塩基配列に挟まれたDNA領域を,試験管内で増幅する大変ユニークな方法であり,特に1988年に耐熱性のTaq DNAポリメラーゼ2)が導入されてからは,遺伝子研究に欠かせない技術となっている.このPCR法の改良法の1つであるRT-PCR法3)は,特定の塩基配列を有するRNAをcDNA断片の形で増幅する方法である.両者は,技術的には非常によく似ているけれども,目的の点で決定的に異なる.PCR法は,遺伝病の原因遺伝子の検出や同定などを目的としてゲノムDNAの塩基配列を解析する際に利用されることが多い.これに対しRT-PCR法は,細胞の分化(differentiation)や不死化(immortalization)の分析を目的として,発現遺伝子のmRNAの種類や量を検出する際に利用されることが多い.したがって,PCR法ではあまり重視されなかった定量性がRT-PCR法には求められることになる(PCR法の原理については,「遺伝子操作技術マニュアル」[日本臨床化学会関東支部監修,医学書院]などを参照されたい).

Application編

遺伝性ムコ多糖症

著者: 折居忠夫 ,   戸松俊治 ,   福田誠司 ,   祐川和子

ページ範囲:P.449 - P.454

はじめに
 ムコ多糖症(mucopolysaccharidosis;MPS)はムコ多糖代謝異常症,ムコ多糖蓄積症とも言い,酸性ムコ多糖(ムコ多糖)を水解するリソソーム由来の4つのグリコシダーゼと5つのスルファターゼ,それと水解酵素でない1つのトランスフェラーゼ活性の低下症である.全身組織の細胞内リソソームに不完全に分解されたデルマタン硫酸(DS),ヘパラン硫酸(HS),ケラタン硫酸(KS),コンドロイチン硫酸(CS)が蓄積する.蓄積するムコ多糖の種類,程度,部位によってさまざまの徴候を呈する.臨床的には特異な顔貌,ごつい体つき,多毛症,軟骨内骨化障害,関節の運動制限,肝脾腫,心障害,角膜混濁,精神運動発達遅滞などの症候を有し,ムコ多糖尿を伴うことを特徴とする.現在,表1のように分類されている.
 本稿では遺伝子レベルでの病因が解明されているⅠ,Ⅱ,Ⅲ A,B,D,Ⅳ,ⅥおよびⅦ型のうち,Ⅰ,Ⅱ,ⅣおよびⅧ型を中心に概説したい.

トピックス

近赤外光による脳機能計測

著者: 星詳子

ページ範囲:P.455 - P.456

はじめに
 ヒトにおける脳活動を非侵襲的に評価する方法は,EEG (electroencephalogruphy)などのように神経細胞の電気活動を測定する,より直接的な方法と,PET (positron emission tomography)などのように神経活動に伴う循環代謝の変化から間接的に検討する方法に大別される.新しい脳機能計測法として近年注目されている近赤外分光法(near-infrared spectroscopy;NIRS)は後者に属する.NIRSは優れた時間分解能を有し,酸素代謝と血流の変化をリアルタイムかつ連続的に体外から測定しうる.本稿では,NIRSによる脳機能計測を紹介し,高次脳機能研究における本法の有用性を論じる.

ビタミンと臨床検査

著者: 橋詰直孝

ページ範囲:P.456 - P.458

はじめに
 一般に,ビタミン学とは過去の学問と思われていたが,最近,抗酸化ビタミンとして先端科学にときどき顔を出すようになった.しかし,先人が克服したビタミン欠乏症の問題は本当に解決したのであろうか?
血中ビタミンの測定はビタミン欠乏症の診断のために発展してきた.古くは微生物定量法であり,分光光度計法,蛍光法となり,今日では一部のビタミンを除きHPLC法が主流となった.ビタミンの測定はビタミン欠乏症の診断に本当に役立っているのだろうか?

ret遺伝子の変異とヒトの疾患

著者: 浅井直也 ,   岩下寿秀 ,   村上秀樹 ,   高橋雅英

ページ範囲:P.458 - P.460

はじめに
 ret遺伝子は癌原遺伝子であり,受容体型チロシンキナーゼをコードする.癌原遺伝子とは,癌の原因となる遺伝子異常が起こる遺伝子で,retの活性型変異により細胞の癌化が起こる.ret遺伝子産物は,細胞膜を貫通する構造の蛋白で,細胞活性化因子(リガンド)が細胞外領域の受容体部に結合すると細胞内領域のチロシンキナーゼの活性化が起こり,細胞の分化や増殖をコントロールする.
 retの変異によりヒトの細胞に癌化・分化異常が起こり,病気が発症することがわかっている.特に,retは複数の遺伝性疾患の原因である点,臨床像のまったく異なる疾患が同一遺伝子の変異の違いによって発生する点で注目されている.

質疑応答 臨床化学

テロメラーゼ活性の測定方法

著者: 立松謙一郎 ,   石川冬木 ,   N生

ページ範囲:P.461 - P.464

 Q DNA複製の回数に対して制限的な役割を持つテロメアを伸長するテロメラーゼは,細胞の老化と癌化のキーになるようですが,テロメラーゼ活性を測定する方法についてお教えください.また,この酵素の活性化因子や阻害因子(例えば,金属イオン)がわかっていましたらお教えください.

その他

Windows3.1とWindows95を1台のパソコンで使い分ける方法

著者: 鹿島哲 ,   T生

ページ範囲:P.464 - P.465

 Q 1995年未に新しいOSとして"Windows 95"が大々的に売り出されましたが,Windows 3.1で論文や報告を書き,多数のソフトを使っているので,OSをWindows 95に変えるわけにいきません.どのようにすれば2つのOSを両立させ,かつ使い分けることができるのでしょうか.

研究

非放射性プライマーを用いたクローナリティー解析法の検討

著者: 石下郁夫 ,   江石義信 ,   神山隆一

ページ範囲:P.467 - P.470

 細胞集団のクローナリティーを解析することによって,腫瘍性増殖と非腫瘍性増殖を鑑別することができる.しかし,従来法において簡便で客観性のある方法は報告されていない.そこで,ホルマリン固定パラフィン包埋切片由来DNAを使用し,蛍光標識プライマーによるPCR法と自動DNAシークエンサーによる解析を併用した,簡便で客観的な解析法を考案し,その有用性を検討したので報告する.

Triton X-100を加えたグリメリウス染色法―大阪市大法

著者: 佐々木政臣 ,   若狭研一 ,   八幡朋子 ,   櫻井幹己 ,   田部正則

ページ範囲:P.471 - P.473

 グリメリウス染色の硝酸銀液にTriton X-100を加えて染色を行ったところ,優れた染色効果がみられた.TritonX-100の濃度は0.1~0.2%で,0.03%硝酸銀液に溶解し染色した.膵臓の外分泌腺の共染が少なく,ラ氏島α細胞の分泌顆粒が鮮明に染まった.また通常の方法(TritonX-100非添加)では反応の弱かった胃カルチノイドの神経分泌顆粒も鮮明に染色できた.

資料

臨床分離株を用いた昭和ディスク用接種菌液調製キット"バイオピックTM"の有用性評価

著者: 樫谷総子 ,   岩田守弘 ,   石川光延 ,   安井久美子 ,   湯本重雄 ,   遠藤日奈子 ,   丸井あゆみ ,   森千佳子 ,   古谷信彦 ,   松本哲哉

ページ範囲:P.475 - P.478

 昭和薬品化工(株)により開発された昭和ディスク用菌液調製キット"バイオピック"について,臨床分離株を用いて従来法との比較検討を行った.その結果,阻止円直径に差異は認められず,推定MICおよび4段階の感受性判定区分の成績は従来法と同等であった.操作の簡便性,また操作時間の短縮等,有用であると考えられた.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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