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雑誌目次

論文

臨床検査42巻3号

1998年03月発行

雑誌目次

今月の主題 生物・化学発光の新しい展開 巻頭言

今,なぜ,生物・化学発光?

著者: 片山善章

ページ範囲:P.261 - P.262

 臨床検査において,今,生物・化学発光が話題に取り上げられているのはなぜか?それは免疫測定法の進歩,発展の流れを簡単に述べることによって理解できると思う.
 従来,生体試料中の微量成分の免疫学的な測定法は赤血球凝集反応,受身赤血球凝集反応,補体結合反応,免疫粘着反応,中和反応,溶血反応,液内沈降反応,ゲル内沈降反応などが用いられていた.その後,1959年にBersonとYallowによって血中インスリン測定に放射免疫測定法(radioimmunoassay; RIA法)が開発され,RIA法は免疫測定法に革命を起こしたといっても過言ではないとまで言われた.まさしくそのとおりで,RIA法によって下垂体機能,甲状腺機能,膵・消化管機能,副腎皮質機能,性腺機能,胎盤機能などの各種ホルモン(フェニル誘導体ホルモン,ステロイドホルモン,ペプチドホルモン)やレニン活性,アンギオテンシン,AFP, CEAなどの微量物質の測定が行われ,RIA法の操作上,繁雑なB/F分離のステップの自動化された装置も開発された.

総説

生物発光と化学発光の種類と発光機構

著者: 前田昌子

ページ範囲:P.263 - P.271

 臨床化学や分析化学領域で,よく知られている生物発光や化学発光反応の種類とその反応機構についてまとめた.発光の機構は,両者ともに酸素が反応に関与する酸化反応で,生成する不安定な中間体であるジオキセタンや過酸化物またはジオキセタノンなどが分解によって生成する励起状態の化合物が発光する機構がほとんどである.

フォトン検出器とフォトンイメージング―光子計数法を中心として

著者: 大須賀慎二

ページ範囲:P.273 - P.282

 生物発光のような極微弱な発光現象の定量において,光子(フォトン)を1個1個検出して計数する光子計数法は非常に強力な計測手段となる.ここでは,光子計数法とその二次元的な拡張である光子計数撮像について概説した.特に,光子計数法を適用できる光強度範囲の上限については,測定系の不感時間との関係において詳しく検討した.

技術解説

発光性化合物を用いる化学発光イムノアッセイ

著者: 中井利昭 ,   磯部和正

ページ範囲:P.283 - P.286

 化学発光を利用したイムノアッセイは,周辺技術の進歩により著しい発展を遂げた.感度の点では従来のRIAやEIA法以上の高感度測定法であり,また測定機器に光源や分光装置が不要でありコンパクトであると同時に経済的な利点を持っている.臨床検査においては,全自動化学発光イムノアッセイ装置や種々の検査試薬が開発され,ホルモン,腫瘍マーカー,ウイルス,免疫グロブリンなど多くの検査項目が測定可能となった.

酵素と発光物質を用いる発光免疫測定イムノアツセイ

著者: 笠原靖

ページ範囲:P.287 - P.292

 種々免疫測定法の中で,酵素発光免疫測定法は酵素反応で発光量が増幅され計測されるシグナル強度が高く,加えて発光に光源や電子の付与を必要としない利点がある.本法は適切な酵素,発光基質,エンハンサーの選択を必要とするが,測定原理はすべて酵素免疫測定法(EIA)と同じである。本法の実用測定感度は通常のRIAの50~100倍であるが,さらに約二桁感度を改良できるポテンシャルを有す.本法の検出感度は今まで不可能であった,検体中に存在する微量成分からの新規検査項目の発掘を可能にするものと期待される.

電気化学発光イムノアッセイ

著者: 難波祐三郎 ,   金島才仁

ページ範囲:P.293 - P.300

 抗原抗体反応を電気的に検出するさまざまな手法があるがその中に標識物を電気化学的に発光させる電気化学発光法(ECL)と呼ばれる手法がある.これまでのECLでは芳香族炭化水素やRu錯体などを単に電解酸化して発光させるにとどまっていたので,化学発光に匹敵する感度には至っていなかった.最近筆者らが開発したTPAを発光補助剤として用いる手法は電解酸化されたTPAが強力な還元作用を発揮しRu錯体を効率よく励起させるので高感度でダイナミックレンジの広いECLが実現,化学発光を凌ぐイムノアッセイが可能となった.本稿ではこうした電気化学発光の原理や特徴,およびこの新しい技術を使ったイムノアッセイシステム機器PICOLUMI®の優れた特性について言及した.

各種発光分析装置の種類と特徴

著者: 前川真人

ページ範囲:P.301 - P.307

 特異性・高感度化・測定レンジの広さ・測定時間の短縮を追求した結果,化学発光・電気化学発光イムノアッセイが開発されてきた.測定機器の進歩も手伝って,従来の生化学自動分析機と同様の操作性も獲得してきている.したがって,緊急検査・診療前検査にも十分対応が可能である.本稿では,各社メーカーが販売している各種発光分析機のハードの特徴と測定可能な試薬項目のラインアップについてまとめた.

発光分析の将来展望

著者: 菅野剛史

ページ範囲:P.309 - P.312

 発光分析は高感度の分析法として注目されている.化学発光の分析法がイムノアッセイに応用されると,イムノアッセイの感度が著しく上昇した.分析の高感度化が進むと,測定対象は拡大した.そして,微量成分の情報が医療の領域で利用されるようになった.情報は血清以外の細胞成分からも得られるようになり,よりいっそう生体試料の情報が重要視されるようになっている.臨床検査に新しい夢を提供する領域と考えられる.

話題

リコンビナントで製造されるルシフェラーゼ

著者: 梶山直樹 ,   中野衛一

ページ範囲:P.313 - P.315

1.はじめに
 生物発光反応を用いた分析法は,短時間かつ超高感度な微量成分の検出法として,近年盛んに研究されている.特に,ホタル由来ルシフェラーゼの発光反応は,アデノシン5′-三リン酸(ATP)を必要とするため(図1),微量ATPの測定や微生物の検出,あるいはATPの生成・消費をもたらす共役酵素の活性や,その基質の鋭敏な検出系として,幅広い用途が考えられている.このように多くの需要が見込まれるルシフェラーゼであるが,市販のものは北米産ホタルから抽出されたものに限られており,その安定供給には限界があると考えられていた.また,北米産のルシフェラーゼは熱に対して不安定であるとの報告もあり,より安定な酵素の供給も期待されていた.
 これらの問題を解決するため,筆者らは,80年代後半からホタルルシフェラーゼに関する研究を開始した.これまでにルシフェラーゼ遺伝子のクローニング,大腸菌での発現1),酵素の機能変換などに成功しており,現在は本酵素を用いたさまざまなキットの開発に注力している.本稿では,ここ数年の成果の中から,ルシフェラーゼの発光色変化と熱安定性の向上に関して紹介する.

バイオフォトン

著者: 平松光夫

ページ範囲:P.316 - P.318

1.はじめに
 バイオフォトンとは,外部からの光照射や物理的刺激をしないで,生物から自発的に放出される,人間の目では感知できないほどのきわめて微弱な発光である.非侵襲的であり,生物をありのまま観察するためには,このうえなく優れた方法である1)
 バイオフォトンと臨床検査との接点としては,白血球の1つである好中球が細菌と戦い,貪食する際に放出される極微弱発光を挙げることができる.この発光を高齢患者の抵抗力のモニターに使えないかとずっと以前に実験したことがあるが,この経験が,次のバイオフォトンと生体防御の研究のヒントになった.

資料

発光免疫測定の精度管理

著者: 細萱茂実 ,   尾崎由基男

ページ範囲:P.319 - P.322

 発光免疫測定など生体微量成分の測定法に関する信頼性評価法や精度管理法は,臨床化学などに用いられる一般的な定量分析法の場合と異なる点も多い.ただし,その場合も基本的には,測定法の本来の性能を事前に把握し,その誤差特性に合った精度管理法を実践することが信頼性の保証につながる.一方,検量線の作成や校正方法など測定値の正確さに直接影響を与える要因や,最小検出限界など臨床的有用性に関連する特性などについての評価法は十分に確立されておらず,これら領域の現状と今後の展望について解説した.

今月の表紙 血液・リンパ系疾患の細胞形態シリーズ・3

急性骨髄性白血病(AML-M2)

著者: 栗山一孝 ,   朝長万左男

ページ範囲:P.256 - P.257

 FAB分類のAML-M2は芽球が30~90%を占め,前骨髄球より成熟した顆粒球が少なくとも10%以上認められるいわゆる分化型のAMLである.比較的芽球が多い例ではM1と,芽球が少ないと骨髄異形成症候群(MDS)との鑑別を要する.また単球の増殖は認めないが,一部の症例では単球が目立ち(多くても20%) AML-M4との連続性が認められる.このようにM2は広範囲にわたるのでAMLの中では最も頻度が高く30~35%を占める.
 典型的なM2は30~40%を占める染色体異常t (8;21)(22q;22q)を伴ったタイプであろう.このタイプは形態学的特徴を有しているために形態学的所見から染色体異常を約90%の確率で予測することができる.図1の症例では左方のAuer小体を有した芽球に接して小型で核の異形性が強い芽球を認める.右の大型の細胞は原形質にアズール顆粒が少し出現しているので芽球と言うより前骨髄球であろう.このように小型で複雑な核の切れ込みを持つ芽球とAuer小体を認めるのはこのタイプの特徴の1つである.また図2の症例では上部3個の細胞中左方は前骨髄球,右方の2個は骨髄球と思われ,いずれも脱顆粒は強いが原形質は完全に白色に抜けておらず淡いピンクを伴った灰色に染色されている.さらに図3の症例では左方のAuer小体を有する原形質の広い芽球とそれに接して2個の好酸球が続いている.これらもt (8;21)を有するタイプの特徴である.また芽球のmyeloperoxidase (MPO)陽性率は高く,好中球alkaline phosphatase (MAP)のスコアは低い.

コーヒーブレイク

原爆の詩

著者: 屋形稔

ページ範囲:P.271 - P.271

 1987年7月,定例の日本エッセイストクラブ総会に出席した.お目当てはこの年のエッセイストクラブ賞の1人に女優の渡辺美佐子さんが選ばれたためである.素顔も美しく,スピーチも落ちついた語り口であった.
 舞台やテレビでは一人芝居でも常に大勢のスタッフに横から裏から見つめられ,たすけられて仕事ができてゆく.しかし初めて書くことになったエッセイという仕事は,生まれて初めて得られたたった1人の時間ということで,完成するころには名残り惜しいくらいであったという感想であった.

所詮こどもは旅人なり

著者: 寺田秀夫

ページ範囲:P.308 - P.308

 11月中旬から,しきりに喪中を知らせる葉書を戴く.毎年20通くらいに達するが,自分の年齢になると増えるのは仕方がない.しかしここ2~3年大学の同窓生が亡くなられたという奥様からのお知らせも年々増えて,とても淋しい気持ちにかられる.事実今年も親友の葬儀で友人代表として弔辞を2回述べさせて戴いた.お2人とも開業医として地域医療に尽くされた方々で,惜しまれてならない.
 しかし人間はいつかは必ず死が訪れるわけであるが,せめても肉親たちの暖かい眼差しに囲まれて昇天したいものである.自分のように大学や大きな病院に長い間勤務してくると,入院患者のいろいろな死に遭遇する.いつかNHKのテレビで有名な料理の先生である老婦人の話の中で,"所詮こどもは旅人なり"ということを語られた.そのときは少し淋し過ぎる思いであったが数年前のある女性の死はまさにこの言葉を思わせるもので,主治医であった自分には今も忘れられない辛い思い出となっている.

シリーズ最新医学講座―遺伝子診断 Technology編

染色体テロメア配列の検査法

著者: 山田修 ,   神田尚俊

ページ範囲:P.323 - P.328

はじめに
 真核生物の染色体DNAは直鎖であり,その末端(テロメア)を構成する特異的なDNAがテロメア配列と呼ばれる.この配列は広範な生物種において著しく共通性が高く,進化の過程で長い間保存されてきた1).哺乳動物のテロメア配列は(TTAGGG)nで,ヒト体細胞では1回の分裂ごとに各染色体末端から50~200塩基短くなると考えられ,細胞老化のマーカーとなる細胞分裂時計として注目されている2,3).しかし,このようなテロメア配列の短小化は生殖細胞では起こらず,また,腫瘍細胞のテロメア配列制限酵素断片長はしばしば短小化しているが,そのサイズは一定に保たれている.これは,これらの細胞では染色体末端にテロメア配列を付加する機能を持つテロメレース(テロメア配列伸長酵素)が働いているからである.テロメレースはRNA蛋白複合体で,酵素内にあるRNAはテロメア配列合成の鋳型となる.つまり,この酵素は逆転写酵素の活性を持っているのである4).腫瘍細胞におけるテロメア配列の短小化やテロメレース活性の有無も腫瘍の性状と関係していると考えられている5,6)
 本稿ではテロメア配列の平均断片長の測定法とテロメレース酵素活性のアッセイ法を紹介する.

Application編

男性不妊症

著者: 山岡和子 ,   神辺眞之

ページ範囲:P.329 - P.336

はじめに
 男性不妊症の病因には,精子形成障害,精子輸送路通過障害,副性器感染症および性機能障害に大別される.この中で精子形成障害によるものが不妊症の病因の93.6%を占め,そのうちの特発性精子形成障害が男性不妊症の原因の半数以上を占めている1)が,その病因,病態はほとんどわかっていない.
 最近,Y染色体上の精子形成にかかわる遺伝子が,一部の無精子症患者に欠失していることが判明し2),Y染色体の長腕に存在するAZF (azoospermic fac-tor)の欠失部位と特発性精子形成障害との関係の研究が盛んに行われているが2~4),まだAZF遺伝子部位は明らかになっていない.本稿では,AZFが存在すると言われているY染色体の長腕Yq11の部位の欠失(microdeletion)の検査法および最近の話題について紹介する.

トピックス

糖尿病性腎症と遺伝―renin-angiotensin系に関する候補遺伝子多型の解析

著者: 小沼富男 ,   河盛隆造

ページ範囲:P.338 - P.340

はじめに
 糖尿病性腎症の発症,進展には高血糖,高血圧,高脂血症などの代謝異常のほかに,遺伝的要因が関与すると考えられる.近年その候補遺伝子に関する研究が盛んになり,数種の遺伝子多型と腎症との関連が認められている.本槁では,まず最初にその遺伝素因の関与を支持するこれまでの報告を概説し,次にその候補遺伝子のうち,re-nin-angiotensin系の遺伝子多型と腎症との関連について述べる.

ESIMSによる糖化Hbの定量分析

著者: 中西豊文 ,   宮崎彩子 ,   岸川匡彦 ,   清水章

ページ範囲:P.340 - P.343

1.はじめに
 糖化ヘモグロビン(GHb)測定は,糖尿病患者の血糖管理,将来の合併症の発現・進展を防止するための中~長期血糖管理マーカーとして信頼性の高い検査である.GHb測定には電気泳動法,カラムクロマト法,アフィニティ法,高速液体クロマトグラフィ(HPLC)法,免疫法などがある.わが国においては,大半の施設でHPLC法が用いられているが,近年β鎖N末端から数個のアミノ酸を含む糖化ペプチドを認識する特異抗体を用いた免疫法がキット化され,多量検体処理可能な自動化にも成功した.しかし,上記方法を用いてGHbを測定する際,不安定Hb (labile-Hb),修飾(アセチル化,カルバミル化など) Hbおよび異常Hbの共存による正・負誤差や測定法間のデータ乖離例などが報告されており,関連学会が中心となり標準的GHb測定法の確立と標準物質の作製などが試みられている.
 われわれのグループは,これまでにエレクトロスプレ―イオン化質量分析(ESIMS)法を用い,異常Hbや変異トランスサイレチン,変異銅/亜鉛結合スーパーオキシド・ジスムターゼなど疾患関連異常蛋白質を検出し,病気の診断に寄与してきた.本法は,正常蛋白質と分子量が近接した異常蛋白質を完全分子のまま検出・定量可能という利点を有しており,GHb定量には,従来法のような標準物質を必要とせず,しかも高精度な分析法である.

DNAソースとなる試料の採取と保存に関連した倫理的問題

著者: 恒松由記子 ,   掛江直子

ページ範囲:P.344 - P.346

はじめに
 ヒトゲノム解析プロジェクトは着々と進んでいて21世紀の初めに全解読が終わるという.遺伝子診断も日常遭遇する疾患を予知する時代に入り,より正確な診断,治療そして,プライマリー・ケアにおける予防戦略の有用性が期待されている.
 1997年の11月にパリで開かれた国連教育科学文化機関(ユネスコ)総会ではヒトの遺伝研究に関する国際倫理ガイドラインとして"ヒトゲノムと人権に関する世界人権宣言"を全会一致で採択した.宣言ではヒトの遺伝情報を"人類の遺産"とし,特に遺伝差別の禁止をうたっている.また,遺伝研究や遺伝子の研究,遺伝子診断,遺伝子治療の際には事前にインフォームドコンセント(以下,IC)が必要であるとした.本槁ではDNAのソースとしての試料の採取と保存に関する倫理的問題についての最近の動向を解説したい.

質疑応答 臨床生理

ABR, SEP, VEPの検査時の注意点と良いデータをとるコツ

著者: 田村東子 ,   T生

ページ範囲:P.347 - P.350

 Q 聴性脳幹反応(ABR)や体性感覚誘発電位(SEP),視覚誘発電位(VEP)の検査をするときの注意と良いデータを取るコツなどをお教えください.また,データの読み方とどういう判断をすればいいのかも解説ください.

研究

肺機能検査における自動判読機能付検査システムプログラム(Version2)の開発

著者: 荒谷清 ,   松下淳 ,   赤迫善満 ,   道崎勇二 ,   池田勝義 ,   林実 ,   大田俊行 ,   小林利次

ページ範囲:P.351 - P.355

 今回,われわれの提案したプログラム(Version2)をフクダ電子社製FUDAC70に搭載した.本プログラムは,換気障害の分類はもとより,スパイログラム・フローボリュームカーブ・肺拡散能力・クロージングボリューム・薬剤投与などの各種検査においてそれぞれ自動判読がなされるとともに,障害の重症度にもコメントがなされている.
 また判読医によりオーバーリード後にコメントの追加・削除などの編集処理が可能である.
 今回のシステムプログラムでは自動判読機能により,判読医間による判読誤差などが少なくなるうえ,判読医制度を持たない施設では技師や臨床の負担が少なくなると考えられる.

GC/MSによる代謝異常マススクリーニング法の検討―ウレアーゼ処理直接乾固法と溶媒抽出法の比較

著者: 山口清次 ,   木村正彦 ,   付暁巍 ,   伊賀三佐子 ,   大家隆晴

ページ範囲:P.357 - P.363

 尿100μlを用いてウレアーゼ処理し直接乾固して誘導体化する方法(直接法)が考案され,GC/MSによる有機酸代謝異常などのマススクリーニングが検討されている.この方法と,従来から有機酸分析に用いられてきた溶媒抽出法を比較検討した.有機酸,アミノ酸などの市販標準品で回収率を比較し,代謝異常症40例(有機酸代謝異常30名,アミノ酸代謝異常10名)の尿を用いて実際の診断精度を検討した.
 有機酸の回収率は,αケト酸以外は直接乾燥法も溶媒抽出法も一部を除いて大きな差はなかった.一方,直接法では,有機酸に加えてアミノ酸や糖類なども検出され応用範囲は広がる可能性がある.両者ともに,微量の尿でも異常物質が多量に排泄される疾患では診断に問題ないが,診断指標物質の量が少ない一部の疾患では,false negativeもありうることがわかった.これらに関してはいくつかの工夫が必要である.

超音波ドプラ法による下肢動脈における血流の検討―血管造影による硬化性病変との比較

著者: 谷内亮水 ,   清遠由美 ,   長山恵美 ,   岡田由香里 ,   藤田亀明 ,   大脇嶺 ,   小川聡 ,   山本克人 ,   西村直己

ページ範囲:P.365 - P.368

 骨盤動脈造影を施行した44例85肢において外腸骨動脈,膝窩動脈,足背動脈のドプラ波形を記録した.壁不整の程度により骨盤動脈造影所見を4群に分類し,それと最大血流速度,最小血流速度,平均血流速度,PI, RI,逆流相の有無を比較検討した.足背動脈において,動脈壁不整の広がりとともに最大血流速度の低下,最小血流速度の増加,逆流相の消失が変化し,末梢の流速波形から動脈硬化を検索する可能性が示された.

資料

in situ hybridizationにおけるパラホルムアルデヒドとエチルアルコールによる組み合わせ固定の検討,およびp53mRNA検出の試み

著者: 西野信一 ,   小林英昭 ,   長山裕之 ,   小松信男 ,   河村正敏 ,   草野満夫

ページ範囲:P.369 - P.372

 PFAとEAの組み合わせ固定においてハイブリダイズ可能なRNAの保存条件を検討した.4℃4%PFA24時間前固定,4℃70%EAの後固定によってRNAが保存された.また,この固定法を利用し結腸癌組織中のp53mRNAの検出を試みた.検出に際してユリシスビオチン標識プローブとビオチン-チラミドによってシグナルを増幅させた.その結果,p53mRNAが検出され,この固定法による臨床材料のmRNAは保存可能であり,臨床応用が期待できる.

私のくふう

眼球プレスバンド

著者: 堺雄三

ページ範囲:P.373 - P.374

 脳波検査に際し最も煩わしいアーチファクトの1つに眼球の動きがある.そもそも角膜と網膜の間には定常電位があり,眼球の動きに伴う電界の変動が波形として,眼球に近い部位の電極を介して記録される.眼球の動きによって生じる波形は前頭領域の脳波をマスクしたり,異常脳波に見誤らせたりする.またコンピュータによる脳波解析に際しても,脳波と混在して解析精度を低くする原因の1つになる.被検者に注意を与えて動きを抑えられればよいのであるが,随意に抑えられないことも多い.これまで瞼にタオルを当てたり,テープを貼ったりするなどの工夫がなされていたが,あまり効果がない.そこで筆者は目を軽く圧迫すると動きが軽減することに着目し,簡単に使えて,動きをきわめて効果的に抑える眼球プレスバンドを作製したので報告する.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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