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雑誌目次

論文

臨床検査42巻8号

1998年08月発行

雑誌目次

今月の主題 受容体 巻頭言

受容体異常とシグナル伝達の破綻

著者: 菅野剛史

ページ範囲:P.843 - P.844

 生体内では,いろいろの細胞と細胞との間で,また細胞の中で化学物質を介して情報の伝達が行われている.そして,この情報伝達(シグナル伝達)の機構の破綻が,多くの疾病の原因となっていることが明らかにされつつある.それらの異常は受容体の異常であったり,細胞内シグナル伝達物質の異常であったり細胞周期制御にかかわる因子の異常であったりと,内容は多彩であり,新たな機構がさらに加えられたりしている.この多彩なシグナル伝達異常の中から,この号では受容体の異常によるシグナル伝達の破綻をまとめることとした.
 これら受容体には,細胞膜表面の受容体としてチロシンキナーゼ型受容体,G蛋白共役型受容体,サイトカイン受容体などがあり,細胞内受容体としてステロイド受容体などが挙げられる.また,これらの受容体異常は内分泌疾患でのホルモン不応症に始まり,免疫不全症,悪性腫瘍,ひいては神経筋異常症まで内容が多彩である.この号でこれらの受容体異常症と疾患群をすべて網羅することは不可能であるので,基本的な考え方と,臨床検査の観点からその診断法に焦点を合わせてまとめてみることとした.

総説

受容体とシグナル伝達

著者: 多田尚人 ,   網野信行

ページ範囲:P.845 - P.853

 生体内のすべての細胞はホルモンやサイトカイン,神経伝達物質などの細胞外情報伝達分子による信号によって,調和の取れた働きをするようその機能を制御されている.細胞応答のダイナミックスはあまりに複雑で得られている知識は断片的なものにすぎない.受容体は,大きく2つの群に分けられる.1つは,細胞膜表面にある受容体で,一般に水溶性のリガンドが結合することにより活性化して細胞内に情報を伝達する.受容体以降の機構としてGTP結合蛋白をシグナルトランスデューサーとしてcAMP増加からAキナーゼを活性化する系,PIレスポンスから細胞内Ca濃度増加とCキナーゼを活性化する系,イオンチャンネルを制御する系,またチロシンキナーゼによるチロシンリン酸化を主とする系などがある.もう一群は,細胞膜を透過する脂溶性のホルモンをリガンドとする細胞内にある受容体である.作用は遺伝子の転写がされ,翻訳されて支配下にある蛋白質が合成されてからその蛋白質の働きとして現れる.

甲状腺ホルモン受容体の機能解析

著者: 長屋敬 ,   妹尾久雄

ページ範囲:P.854 - P.861

 甲状腺ホルモン受容体(TR)は,核内受容体の1つで,ホルモン依存性に転写を制御する転写因子である.TRの機能をさまざまに解析することにより,この変異による遺伝性疾患である甲状腺ホルモン不応症(RTH)の病態を明らかにすることができる.酵母細胞を用いた実験系の導入などにより,実験室レベルでの機能解析法がより簡便化し,臨床検査室レベルでの応用が可能となれば,臨床診断,治療指針に大いに有用となってくる.

ステロイドホルモン受容体異常症

著者: 佐藤文三

ページ範囲:P.862 - P.870

 ステロイドホルモン受容体は,転写因子でもあり,分子生物学者の注目も浴びている.近年,ホルモン結合型受容体とのみ結合し,転写促進に重要なコアクチベーターと呼ばれる核蛋白が次々にクローニングされている.このような進歩を基に,受容体異常症の詳細の解明も進んでいる.従来から多くの報告があるアンドロゲン受容体異常症以外に,グルココルチコイドやエストロゲン受容体異常症が発見されるに至った.これらの症例の発見は生物学にも大きなインパクトを与えた.

受容体異常の診断

インスリン受容体抗体を用いたインスリン受容体の機能診断

著者: 志伊光瑞 ,   岡田有美 ,   吉田雅樹

ページ範囲:P.871 - P.875

 インスリン受容体の機能は受容体α-サブユニットのインスリン結合とそれに続くβ-サブユニットの内因性チロシンキナーゼ活性化である.今回単クローンインスリン受容体抗体を固層化第1抗体とし,ランタノイド系金属であるユーロピウムで標識したインスリン,抗インスリン受容体抗体,抗ホスホチロシン抗体をリガンドとした時間分解蛍光サンドイッチ法を開発した.これによるインスリン受容体の機能診断法の概略,実際の臨床例での応用を述べる.

受容体異常症の遺伝子診断

著者: 巽圭太 ,   網野信行

ページ範囲:P.876 - P.879

 受容体のcDNAや遺伝子は分子生物学の進歩とともに1980年代に次々と単離され,受容体蛋白の一次構造が明らかにされてきた.その結果,最近では受容体異常症の遺伝子診断が次々と可能になってきた.ここでは,受容体異常症の一般的な遺伝子診断法と,遺伝子異常の実例を紹介する.

受容体異常症の診断

著者: 会田薫 ,   多和田真人 ,   女屋敏正

ページ範囲:P.880 - P.885

 遺伝子工学の応用により,多くの受容体cDNAや遺伝子がクローニングされてきた.それにより,これまで受容体の異常と考えられていた疾患が,遺伝子のレベルで解明されてきている.これまでに多くの受容体異常症で遺伝子変異が同定されている.受容体異常症と考えられていながら,受容体遺伝子がまだクローニングされていないため病態が十分明らかでない疾患も今後,順次解明されていくと思われる.

話題

Ca2+感受性受容体と家族性低Ca尿性高Ca血症

著者: 森本勲夫

ページ範囲:P.886 - P.888

1.はじめに
 カルシウムイオン(Ca2+)はさまざまな生体機能に関与する.細胞外Ca2+レベルは副甲状腺ホルモン(PTH),ビタミンD3,カルシトニンなどにより調節されるが,その値を一定に保つ機構は不明であった.1993年にウシ副甲状腺のCa2+)感受性受容体(Ca2+-R)がクローニングされた1).その後,高Ca血症あるいは低Ca血症を呈する3種類の遺伝性疾患がCa2+-Rの異常によること,すなわちこの遺伝子異常による受容体の不活性化が家族性低Ca尿性高Ca血症(ヘテロ接合体),新生児重症副甲状腺機能亢進症(ホモ接合体),逆にその異常による受容体の活性化亢進が家族性副甲状腺機能低下症であることが判明した2)

レチノイン酸受容体と急性前骨髄球性白血病

著者: 北村邦朗 ,   直江知樹

ページ範囲:P.889 - P.891

1.はじめに
 白血病においては,臨床型に応じて極めて特徴的な染色体転座が認められ,病型のマーカーになっており,染色体転座部位には病因と深いかかわりのある遺伝子が存在すると考えられている.レチノイン酸(all-trans retinoic acid;ATRA)による急性前骨髄球性白血病(acute promyelocyticleukemia;APL)に対する分化誘導療法は,まず臨床上の有効性が中国から報告され1),これが契機となってAPLに特徴的な染色体転座t (15;17)の分子解析へと発展した.t (15; 17)転座は,PML遺伝子とレチノイン酸受容体(retinoic acidreceptor; RAR)α遺伝子間の再構成であり,その結果生じるキメラ蛋白PML-RARαは,細胞分化を抑制し増殖を促進する.レチノイン酸による分化誘導療法は,この分子を標的にした画期的な分子標的療法でもあり分化ブロックの解除に働く2)

インスリン抵抗性の糖尿病

著者: 高橋義彦 ,   門脇孝

ページ範囲:P.892 - P.894

1.はじめに
 現在生活習慣病として位置づけられているインスリン非依存型糖尿病の発症機序として,インスリン抵抗性とインスリン分泌の低下との2つの要素が考えられている.インスリン抵抗性とはインスリン作用不全であり,インスリンが血中から毛細血管壁を透過して標的細胞に至るdeliveryの過程,インスリン受容体との結合,それにより起こるインスリン受容体チロシンキナーゼの活性化,その基質のチロシンリン酸化とその下流の情報伝達といった作用発現のプロセスのいずれかが障害されて起こると考えられる.ヒトではインスリン受容体異常症が顕著なインスリン抵抗性疾患として遺伝子解析されているが,臨床の場で遭遇するさまざまな程度のインスリン抵抗性症例の病態は多岐にわたり,必ずしも糖尿病を呈するわけではない.しかし糖尿病を呈さなくても,動脈硬化性疾患などとの有意な相関がみられ,インスリン抵抗性は生活習慣病の病態に深く関係していると言える.糖尿病は多因子遺伝疾患と考えられているが,最近ジーンターゲティングにより生まれたノックアウトマウスの臨床型から1つないし2つの遺伝子の欠損で糖尿病が発症することが明らかになっている.本稿ではそうしたモデル動物の解析を中心に最近の話題を紹介する.

血清可溶型トランスフェリン受容体

著者: 高後裕

ページ範囲:P.895 - P.897

1.はじめに
 トランスフェリンは,血清中の鉄イオンを搬送する蛋白質で,その細胞内への取り込みには,細胞表面の受容体(トランスフェリン受容体;TFR)との結合を介して行われる.鉄イオンは細胞の増殖,分化,生体酸化などに必須の金属であり,すべての細胞で必要とされるが,特にヘモグロビンを含有する赤血球とその前駆細胞である赤芽球での需要が生体内では最大である.この需要に対応して赤血球の前駆細胞にはTFRが多数発現し,血液中のトランスフェリン鉄の細胞内への取り込みに備えている.筆者らは,このTFRが血液中に可溶型TFRとして存在することを1986年に初めて報告1)し,その後その血液中での定量が,生体の造血,特に赤血球造血の非侵襲的指標になり得ることを明らかにした2).その後この仮説は,欧米の多くの施設で追試され,血清中の可溶型TFRの測定が,鉄代謝の新しい血清マーカーになることが認識されてきている2,3,5)

今月の表紙 血液・リンパ系疾患の細胞形態シリーズ・8

急性骨髄性白血病(AML-M7)

著者: 栗山一孝 ,   朝長万左男

ページ範囲:P.838 - P.839

 AML-M7は,当初FAB分類には含まれていなかった.これは形態学的に巨核芽球を同定することが難しく,またこれを支持する簡便な診断方法が確立していなかったからと思われる.巨核芽球は電子顕微鏡的に血小板ペルオキシダーゼが陽性だと確診できるが,電子顕微鏡を使用した煩雑な方法のため臨床検査法としては限界があった.一方,巨核球/血小板系に特異性が高いCD 41(glycoprotein Ⅱ b/Ⅲ a)などの免疫学的マーカーが発見されると,その利用の簡便さから急速に普及するようになり,急性巨核芽球性白血病はAML-M7としてFAB分類に追加された.
 AML-M7の頻度は全AMLの1~3%である.骨髄線維化を伴いやすくdray tapのことがあり,吹き付け標本しか得られないことも少なくない.このようにAML-M7は巨核芽球の同定もさることながら悪条件を背景に診断を強いられることもあり最も形態学的診断が難しいタイプの1つである.巨核芽球はミエロペルオキシダーゼ(MPO)陰性であるので他のMPO陰性芽球との鑑別が必要となる.

シリーズ最新医学講座―遺伝子診断 Technology編

発蛍光プローブとその応用

著者: 石黒敬彦

ページ範囲:P.898 - P.904

はじめに
 DNAは相補的な塩基同士で結合し,二本鎖を形成して安定化しようとする性質を有する.そこで,その高い特異的な認識能力を細菌やウイルスの臨床検査に応用しようという試みがなされてきた.特に,polymerase chain reaction (PCR)法の登場は,従来は高感度なイムノアッセイをもってしても容易ではなかったHIVやHCVなど血液試料中の微量なウイルスそのものの検査をより身近なものとした.
 しかしながら,これまで,増幅産物の分析には電気泳動やHPLCなどの分離手段を直接用いる以外には,蛍光物質や酵素を末端に標識したDNAオリゴマーをビーズや膜などの固相上で標的核酸とハイブリダイゼーションさせるプローブハイブリダイゼーション法が一般的であった.しかし,この場合も未反応のプローブは固相から除去する必要があり,多数の検体を処理する臨床検査の現場への適応には操作が煩雑で時間もかかり,また自動化も容易ではない.

Application編

家族性高脂血症

著者: 山本章 ,   山村卓 ,   三宅康子 ,   高木敦子 ,   池田康行

ページ範囲:P.905 - P.909

 高脂血症(高リポ蛋白血症)のうち,家系の解析を通じて遺伝性が立証されたものを家族性高脂血症と呼ぶ.それらのうち単因子性で遺伝子異常が検出されているものはかなり重度のものに限られている(表1).普遍的な高脂血症の原因となる,あるいは一般的な血漿リポ蛋白のレベルを規定する因子として確認されたものにアポリポ蛋白E (アポE)の同位体があるが,最近遺伝子多型性の解析が進むにつれて,いくつかの新しい候補因子が提唱されている.今回は一応高脂血症への関連が確認された遺伝子異常について述べるが,アポEの同位体以外の変異はいずれも極めて多様であって,簡単な遺伝子診断の条件を満足させ得ないことを初めにおことわりしておきたい.

トピックス

動物飼料添加抗菌薬と耐性菌出現―アボパルシンとVRE

著者: 大野章

ページ範囲:P.910 - P.911

1.はじめに
 抗菌薬耐性菌の蔓延は,適切な治療薬の選択幅を狭めることになり,臨床上多くの問題を起こす.特に最近では,ほとんどすべての抗菌薬に耐性を獲得したスーパー多剤耐性菌も蔓延し始め,世界的に深刻な問題となりつつある.
 耐性菌の出現には種々の要因が関与するが,家畜の成長を促進する目的で,抗菌物質を家畜飼料に添加してきたことが,一部関係しているとの議論がある.

バイオハザードとコンタクトレンズ―アカントアメーバ

著者: 山田誠一 ,   宮本豊一 ,   原沢功 ,   山田利津子

ページ範囲:P.911 - P.913

 われわれはめがねによって視力を調整でき,不自由さが改善された.そして,人間の果てしない欲望はめがねでも不自由さがまだ残るということで,目に直接レンズをはめ込み(角膜上にレンズを置き),視力を矯正させる方法を工夫した.そのレンズも材質のいっそうの向上が計られ,ハードコンタクトレンズからソフトコンタクトレンズへと開発がなされ,また,長時間の連続装用も可能となってきた.
 しかし,いいことばかりでなく,コンタクトレンズ装用者に,難治性の角膜炎が発症することがあるとわかった.1974年,Nagingtonら1)によって,アカントアメーバ(Acanthamoeba)による角膜炎感染症が報告され,わが国では,1988年に最初に報告2)されて以来,80余例をみるほど多くなった.

脂肪組織からクローニングされた新たな遺伝子

著者: 栗山洋 ,   松澤佑次

ページ範囲:P.913 - P.916

1.はじめに
 過剰な栄養摂取,運動不足に傾いている現代社会においては,脂肪の過剰蓄積,すなわち肥満による,糖尿病,高脂血症,高血圧やこれら危険因子の集簇による動脈硬化疾患の発症が問題となっており,特に腹腔内内臓脂肪の蓄積がこれらの疾患発症に深くかかわっていることが明らかになってきた1~6).さらに最近の細胞生物学的研究により脂肪細胞は単なるエネルギー貯蔵臓器ではなく,さまざまな生理活性物質を分泌する代謝的に活発な臓器であることが明らかになり,脂肪蓄積に伴う疾病発症の分子機構の解明に新たな展開が生まれつつある.筆者らは脂肪組織の未知の機能を解明するため,脂肪組織発現遺伝子プロファイルを作成し,脂肪組織に特異的に発現する新規遺伝子のクローニングを試みてきた.本稿では,筆者らが最近,脂肪組織からクローニングした2つの新規遺伝子について解説する.

栄養指導と検査値

著者: 中村丁次

ページ範囲:P.917 - P.918

1.はじめに
 栄養指導とは,教育的技法により対象者の栄養状態を改善することである.そして,疾病の予防,治療,再発防止に貢献させることを目的にしている.一般に医療機関においては,医師が疾病を診断し,治療効果を上げるべき適正栄養量を決定し,管理栄養士に指示することにより栄養指導は行われる.
 管理栄養士は,医師の指示を基に患者への問診やアンケート調査,身体計測,さらに臨床検査値から,患者の病態や栄養状態を把握し,食事や栄養上の問題点を分析し,指導目標を決定し,個人指導や集団指導を実施する.そして,実施後には,その効果の評価を行い,残された問題点があれば再指導を行い,このことを繰り返すのである.以上の経過の中で,臨床検査値が必要となる理由は2つあると思う.

質疑応答 臨床生理

乳幼児の啼泣時肺活量(CVC)などの呼吸機能の測定法,臨床的意義および保険適用

著者: 長谷川久弥 ,   K生

ページ範囲:P.919 - P.922

 Q 乳幼児における啼泣時肺活量(CVC)の測定,臨床的意義および保険適用について御教示ください.

一般検査

米国での便潜血反応の現状

著者: 久野豊 ,   k生

ページ範囲:P.922 - P.924

 Q 便潜血反応検査は,日本ではグアヤック試験,オルトトルイジンラテックス法(OC―ヘモディア(栄研),ヘモテスタ(第一化薬品)などが用いられていますが,米国ではどのような方法が用いられているのでしょうか.

その他

デジタル百科事典の意義と応用

著者: 鹿島哲 ,   SO生

ページ範囲:P.924 - P.928

 Q 最近優れた百科事典のCD-ROM版が数種発売されたようですが,その利用法と長所および短所を教えてください.

研究

閉塞性動脈硬化症におけるinterventionalradiologyの評価―超音波法による検討

著者: 谷内亮水 ,   清遠由美 ,   長山恵美 ,   藤田亀明 ,   金光尚樹 ,   割石精一郎 ,   天白宏典 ,   岡部学 ,   中村隆澄 ,   北村文夫

ページ範囲:P.929 - P.933

 間欠性跛行を主訴としてinterventional radiology (IVR)を受けた6例7肢を対象に,超音波法を用いて術前後で浅大腿動脈,膝窩動脈,後脛骨動脈,足背動脈のパルスドプラ波形を比較した.術後に最大血流速度の有意な増加を認めた.また,2例の内膜剥離例とステント留置例を経験し,病変部を明瞭に描出することができた.超音波法で得られた流速は,IVR前後の客観的および定量的評価の指標となり得ると考えられ,合併症の診断も可能であった.

生体肝移植におけるフローサイトメトリークロスマッチの意義

著者: 二ツ山和也 ,   阿部正浩 ,   安尾美年子 ,   渕之上昌平 ,   阿岸鉄三

ページ範囲:P.935 - P.938

 生体部分肝移植において,術前の抗ドナーリンパ球抗体の有無と術後の経過について検討した.対象は東京女子医科大学において生体部分肝移植を施行した31症例である.抗体の検出はフローサイトメトリークロスマッチ(FCXM)により行った.抗体の有無により,対象を陽性群と陰性群との2群に分けて検討した.その結果,陽性群と陰性群の両群間において,急性拒絶反応,血栓症,生存率などに有意差を認めなかった.FCXMでの抗体の存在の有無は肝移植後の経過に影響を及ぼさなかった.

CA反復配列多型を用いた胎児共存奇胎のDNA診断

著者: 原田直樹 ,   阿部京子 ,   東野昌彦 ,   幡谷功 ,   柏村賀子 ,   池田敏郎 ,   牛垣由美子 ,   永田行博 ,   新川詔夫

ページ範囲:P.939 - P.944

 多胎妊娠に胞状奇胎を合併する症例はまれである.われわれは胎児共存奇胎妊娠3例(双胎2例,品胎1例)を経験し,各妊娠産物の染色体分析を施行するとともに,DNA(CA反復配列)多型を用いて両親と各妊娠産物の遺伝子型を解析した.DNA多型解析では全例の奇胎組織に父由来のアレルしか存在せず,2例はヘテロ全奇胎,1例はホモ全奇胎であると診断可能であった.また染色体分析でヘテロ全奇胎の2例はともに核型46,XY,ホモ全奇胎の1例は核型46,XXであり,DNA診断結果との矛盾はなかった.CA反復配列多型を用いて両親と奇胎組織の遺伝子型解析を行い,その発生由来を確認することは,全奇胎を確定診断するうえで大変有効な方法だと思われる.

コーヒーブレイク

患者とナースの語らい―急性骨髄性白血病が治癒した主婦と看護大学大学院生との会話

著者: 寺田秀夫

ページ範囲:P.934 - P.934

 発病は1982年10月で,1985年4月から全く無治療で,現在2~3か月に1回,念のため外来通院している70歳の主婦.16年前の入院中はいつも知性と明るさを同室の人に感じさせる人柄で,回診の際には私の問い掛けにいつも明るい笑顔で答えてくださった方である.この会話は1995年初秋の午後,内科外来で行われたものの一部である.
 問い:大変な病気を克服された貴方の最も苦しかった頃のことを少しでも話してくださいますか?

松陰の旅

著者: 屋形稔

ページ範囲:P.944 - P.944

 吉田松陰というわずか29年の生涯を幕末に生きて,武蔵の野辺で刑死した人はあまりにも有名である.晩年に萩郊外で開いた松下村塾という私塾から輩出した門下生たちが,明治維新という日本史上の大革新を成就した起爆剤としての役割を成し遂げたからである.
 生来恵まれた学問環境にはあり17歳で長州の藩校明倫館の教授になったが,独学的方法で大成し,学校教育は一度も受けなかったという.司馬遼太郎は彼の成長過程に旅行好きを指摘している.最初の旅が20歳のときで,藩に九州平戸の兵学山鹿流の宗家への勉学を請願し,4か月の西国の旅をした.また21歳で1年ほど江戸留学をしている.この間,師匠たちには失望したが生涯の友人多数に恵まれたという.しかもこの後半4か月は私費で東北の旅に出た.

資料

ラテックス凝集法を用いた血清中の腸管出血性大腸菌O 157 LPS抗体検出キットの開発

著者: 小野智子 ,   高田真人 ,   前田俊郎 ,   伊藤昭夫 ,   神野英毅 ,   川村尚久 ,   竹田多恵

ページ範囲:P.945 - P.947

 操作が簡便・迅速なスライド板を用いたラテックス凝集法による大腸菌O 157 LPS抗体検出キットを開発した.本キットは臨床上有効な特異性および再現性を保有し,妨害物質の影響もなく,他のO血清型大腸菌LPSに対する抗血清との交差反応はなかった.臨床検体では,感染初期にO 157抗体が感度よく検出された.
 従来の便培養検査では陰性だがO 157感染が疑われる患者に対して,感染早期における本キットの診断応用が期待された.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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