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雑誌目次

論文

臨床検査43巻1号

1999年01月発行

雑誌目次

今月の主題 TDMの臨床応用 巻頭言

TDMの臨床応用

著者: 菅野剛史

ページ範囲:P.7 - P.8

 TDM (therapeutic drug monitoring,治療薬物濃度モニタリング)の臨床応用が今月の主題である.臨床応用以外にTDMはないと言われたらそれまでのような主題であるが,最初のTDMのように血中の薬物の濃度を測定することだけではないことを強調したいばかりに,蛇足ともいうべき言葉を繰り返した.今日の"TDM"は基礎としての薬物の生体内の吸収,分布,排泄などの動態学的理論を背景とした薬物の動力学的解析を中心に,臨床の場で,最も効果的に,かつ安全に薬物治療を患者に実施することを総括した概念である.したがって,実際に医療の現場では,TDMは,治療のデザインに始まり,血中濃度を監視し,その効果と安全性を確認し,効果的な治療を実施することを意味する.すなわち,医師に始まり薬剤部を中心に,検査部,看護部を含め,院内の関連する部署の密接な連係のもとに実行されなければならない業務なのである.さらに,医療の現場でコメディカルの概念が定着し,必要ならばevi-dence-based medicine (EBM)や,クリティカル・パスの概念まで徹底していないと実施できない問題でもある.さらに,経済的視点からの効果も考慮すると,適正さを欠いた治療薬の投与を抑制し,まさにEBMの実践にほかならない.
 しかし,基礎的な薬物動態を把握することなしに臨床はあり得ない.総説として薬物の吸収,分布,代謝,排泄を冒頭に持ってきて,基礎的概念を十分に把握したうえでと主題の内容を提供したのはそのためである.そして,この基本的な理解は,検査の領域の方には最も重要なことである.

総論:基礎と臨床

薬物の吸収,分布,代謝,排泄

著者: 上野和行

ページ範囲:P.9 - P.16

 薬物の体内動態に関して,吸収・分布・代謝・排泄の基本的な考え方を解説した.吸収では受動拡散,能動輸送および初回通過効果について,分布では蛋白結合について,代謝では主に薬物代謝酵素P450の分子種と遺伝的多型性について,排泄では尿細管分泌について解説した.また,薬物間相互作用についてもそのメカニズムと考え方について述べた.

TDMの臨床応用

著者: 平田純生 ,   田中一彦

ページ範囲:P.17 - P.23

 TDMは血液あるいは尿,唾液中などに含まれる薬物濃度を測定し,その測定結果を薬物動態学的理論と薬物動力学的理論によって解析し,患者個別に有効かつ安全な薬物療法を実現する手法である.TDMの円滑な実施には医師,検査技師,薬剤師,看護婦などの医療従事者間の良好なチームワークが不可欠である.TDMを臨床応用することによって的確な投与設計,中毒性副作用の防止が可能になるだけでなく,さらには薬物の適正使用による医療費の軽減につながることが考えられ,今後より普及していくものと思われる.

各論:応用の具体例

臓器移植:シクロスポリン,タクロリムス

著者: 橋田亨 ,   乾賢一

ページ範囲:P.25 - P.32

 今日の臓器移植において免疫抑制療法の基盤をなす薬剤は,シクロスポリンおよびタクロリムスである.両剤は体内動態の個体間・個体内の変動が大きく,十分に免疫抑制作用を発揮し,感染症や種々の副作用を回避するためにはTDMが不可欠とされる.生体肝移植を中心に,両剤におけるTDMの活用についてこれまでの経緯と最近の知見を述べる.

感染症:バンコマイシン,アルベカシン―MRSAを中心として

著者: 河波秀旭 ,   結城祥充 ,   唯野貢司 ,   高橋保志

ページ範囲:P.33 - P.40

 近年,MRSAは易感染患者にとって厄介な院内感染の起因菌となっている.MRSA感染の治療に用いられる,グリコペプチド系抗生物質であるバンコマイシン(Vancomycin;VCM)と,アミノグリコシド系抗生物質であるアルベカシン(Arbekacin; ABK)はMRSAに対し優れた抗菌力を示す.しかし,両薬剤とも副作用として聴覚障害,腎障害などが知られており,安全で有効な治療を行うには,治療薬物濃度モニタリング(TDM)を行う必要がある.
 本稿では,バンコマイシンとアルベカシンの血中濃度の測定法,その特徴および実際の臨床への応用について述べることとする.

心不全:ジゴキシン

著者: 大橋京一

ページ範囲:P.41 - P.46

 ジゴキシンは古くから心不全の治療薬として用いられたジギタリス配糖体である.最近の大規模臨床試験においてもその有効性が再確認されている.ジゴキシンは有効治療血中濃度域と中毒域が接近しており,ジギタリス中毒を起こしやすいことでも知られている.このためジゴキシンを用いるときは,個々の患者においてジギタリス中毒の誘因因子を検討し,薬物動態を熟知したうえで,TDMを利用した適正な投与計画をたてなければならない.

小児のてんかん:抗てんかん薬

著者: 荒木博陽 ,   二神幸次郎 ,   五味田裕

ページ範囲:P.47 - P.54

 てんかんの薬物治療を行ううえで最も重要なことは発作型を正確に判断し,それに適した薬物を選択することである.この薬物に応じた適切な治療を行うためには,血中の薬物と代謝物の濃度測定を行うことが必要である.加えて,そのデータを薬物動態学的に解析し,患者個人の投与計画を立てることが求められている.特に小児てんかん患者は,年齢とともに発作型が変化したり,クリアランスが成人と異なることから,診断,薬物の選択,血中濃度測定結果に基づく投与量の決定など,きめ細かい医療スタッフ間の連携が必要となる.

話題

遺伝子解析と薬物体内動態

著者: 喜多知子 ,   奥村勝彦

ページ範囲:P.55 - P.59

1.はじめに
 近年,ヒトに関する遺伝子構造解析が進展した結果,病因となる遺伝子上の変異や感染した病原体の遺伝子を検出して病気を診断する"遺伝子診断"が飛躍的に増加してきた.また,技術面においても,polymerase chain reaction-restrictionfragment length polymorphism (PCR-RFLP)法やsingle strand conformational polymorphism(SSCP)法などさまざまな遺伝子解析(genotyp-ing)法の開発により,簡便に遺伝子変異の有無が検出できるようになった.
 一方,古くから抗結核薬イソニアジド,抗てんかん薬S-メフェニトインなど一部の薬物服用患者において,同一服用量であるにもかかわらず,薬物血中濃度ならびに薬効・副作用に個体差が認められた1,2).これは,主に肝代謝能の差異に帰因すると考えられ,代謝酵素が,遺伝,年齢,性別,病態,食事,併用薬,喫煙などによって影響を受け,活性などに違いが生じたためである.なかでも,遺伝的多型性は,酵素欠損によって代謝能が皆無になる場合もあり,また一卵性および二卵性双生児の検討で,遺伝形質は環境因子より強い影響を及ぼしているという報告3)から,重要であると考えられる.現在,遺伝子解析法の進展に伴い,こういった代謝酵素欠損ならびに活性低下または上昇の原因となる遺伝子変異が国内外で解明されつつある.

TDMと診療報酬

著者: 森嶋祥之

ページ範囲:P.60 - P.64

1.診療報酬1)
 1)診療支払方式
 わが国の主な診療支払方式は,各診療行為についてそれぞれの評価を行い,個別に行った各診療行為の評価額の合計を診療報酬として支払う個別出来高払方式である.各診療行為の評価は,各診療行為を直接金額で一律に評価せず,各診療行為の難易度などに応じている.このような方法で点数化したのが,診療報酬の点数である.
 診療報酬の決定は,厚生大臣が中央社会保険医療協議会(略称:中医協)に諮問し,その意見を聞いて最終的に決定する.中医協の構成は健康保険などの被保険者,事業主,保険者の代表(通称:1号側委員,支払側委員)8人,医師,歯科医師,薬剤師の代表(通称:2号側委員,診療担当者側委員)8人および公益の代表(通称:公益委員)4人からなっている.

臨床側からみたTDMの施設間差

著者: 打田和治 ,   高木弘

ページ範囲:P.65 - P.69

1.はじめに
 機器および測定法の進歩と内部精度管理の普及により,施設内の測定値の精密度は近年著しく向上している.その結果,主に施設ごとの正確度の偏りに起因する測定値の施設間差がクローズアップされるようになった.この施設問測定値の誤差をなくするために,外部精度管理が行われ,参加した施設の正確度を推定し,また誤差の原因を解明する情報を提供する試みが行われている.このために古くから日本医師会,日本臨床衛生検査技師会あるいは地域単位,都道府県単位のサーベイが行われている.しかし,これらの多くは検査を行う側からの働きかけであった.ところが,近年の臓器移植免疫抑制療法の進歩,特に新しい免疫抑制剤シクロスポリン(CS)の発見による移植療法の普及は,オーダーを出す臨床医に治療薬物濃度モニタリング(therapeutic drug monitoring;TDM)の必要性を認識させ,その基礎となる薬物濃度測定値の正確度,精密度としてその施設間差に目を向かせる結果となった.
 今回,腎臓移植免疫抑制療法の基礎免疫抑制剤シクロスポリン血中濃度測定に対するqualitycontrol(QC)の歩みを紹介したい.

TDMとコンピユータでの利用

著者: 谷重喜

ページ範囲:P.71 - P.74

1.はじめに
 TDMとは,therapeutic drug monitoringをキャピタルで表現した略称であり,一般的には薬物血中濃度測定(分析)業務を意味している.これは,単に薬物血中濃度測定(therapeutic druganalysis;TDA)だけでなく,その測定結果の解析,薬剤投与計画への参画までを含む業務を意味する.このためTDMが意味するのは,薬物の血中濃度測定によって得られる客観的なデータを基にして,薬物の効果をモニタリングしていく業務と理解すべきである.
 薬物による治療のために,適切な薬物の投薬量を決定する目的に,このTDMを利用することは有効な手段である.しかしながら,患者の状態,薬物の種類などの諸条件により,薬物の投薬量を決定することは,容易ではない.サンプリングなどの条件も深く考慮しなければならないが,投薬された薬物が示す複雑な挙動の結果として,薬物の血中濃度推移をシュミレーションするためにコンピュータを利用することは,有効な手段の1つでもある.ここでは,TDMへコンピュータを利用するうえでの注意を述べる.

今月の表紙 血液・リンパ系疾患の細胞シリーズ・13

特殊急性白血病・二次性白血病

著者: 栗山一孝 ,   朝長万左男

ページ範囲:P.2 - P.3

 二次性白血病あるいは治療関連白血病は化学療法や放射線療法を受けた担癌患者に二次的に発生してくる白血病である.癌治療,特に化学療法と放射線療法の進歩が著しい分野で,長期生存者が増えてくるにしたがって多く認められるようになる.従来から二次性白血病は,化学療法ではアルキル化剤の使用例や放射線療法との併用例に高頻度に発現することが明らかにされてきた.このような二次性白血病では約半数に形態学的に3血球系に異形成を伴うなど,形態異常が強いことが特徴とされていた.しかし,トポイソメラーゼⅡ阻害剤であるエトポシドが導入されて以来,これを使用して発生してきた二次性白血病は約半年から5年という早期に発症し,染色体異常も治療反応性も形態学的にも初発白血病と変わりがないことが特徴とされている.次に最近経験した二次性白血病例を紹介する.
 第1例目は成人T細胞白血病(adult T cell leu-kemia;ATL)と診断され,化学療法(CHOP療法)によって約8か月間寛解状態を維持していたが再発し,化学療法(エトポシドを含む)でコントロールされていた.しかし,約6か月後に白血球数41,900/μlを呈し,芽球と単球の増加を認めるようになった.骨髄像(図1)は,骨髄芽球と幼若顆粒球とやや未熟な単球を認め,急性骨髄単球性白血病(AML-M4)と思われた.myeloperox-idase (MPO)染色(図2)では,芽球の一部は陽性であり,原形質が広い単球あるいは前単球は弱陽性あるいは陰性であることがわかる.図3に示すようにesterase二重染色では単球(茶色)と穎粒球(青色)の混在が認められる.本例は染色体異常t (8;16)(p11;p13)を有していた. AML-M4は化学療法に反応して寛解状態に入ったが,原疾患であるATLが増悪して死亡した.次の症例は24歳時に子宮頸癌のために広汎子宮摘出術を受け,50Gyの放射線照射と5FUを1年半投与されている.29歳になり,AMLを発症した.骨髄(図4)は,原形質に乏しいが,一部に少数のアズール穎粒を有するやや小型の芽球が90%以上を占めており,MPO (図5)はほぼ100%陽性であったためAML-M1と診断した.免疫学的マーカーはCD13/CD33であり,染色体は正常核型であった.本例は,idarubidnとAra C併用によって完全寛解に導入された後,非血縁ドナーからの骨髄移植を行い,1年6か月寛解を維持している.最後の症例は,ATL発症後化学療法によって,約9年間寛解増悪を繰り返していたが,ここ2~3年はエトポシド少量を反復使用することによってATLは上手くコントロールされていた.しかし,ATLの増悪とともに図6に示すように骨髄に豊富なアズール穎粒を有する前骨髄球にアウエル小体を有する芽球とその右方に原形質に空胞を有し,核網は豊富だがやや繊細なATL細胞を認めた.ATLにAML-M 3を併発してきたと考えられ,RT-PCR法によってPML/RARαを認めたため診断確定した.オールトランスレチノイン酸(ATRA)投与を試みたが,ATLの病勢が強くなりATRAの効果判定はできないまま死亡した.

コーヒーブレイク

青春

著者: 屋形稔

ページ範囲:P.46 - P.46

 「青春とは人生のある期間をいうのではなく,心の様相をいうのだ」というのはサミュエル・ウルマンの有名な青春という詩の始めの言葉である.驚異への愛慕心,人生への歓喜と興味を胸中に抱く限り,年は70であろうと16であろうと青春であるというのである.希望ある限り若く,失望とともに朽ちるということは老人には限りない鼓舞となる言である.
 しかし一方で年老いて急に青春が蘇えるわけのものではなく,若いころにほんとうに力一杯生きてロマンチシズムを追い求めることが大切な要素なのではという気もする.若さ,特に年齢の若さは何物にも代え難い貴重なものであることは明かなことである.近年は物資は豊かになったが,年月を空費して顧みない若者をみると何ともったいないことかと詠嘆の溜め息が出るのは年寄りの取り越し苦労であろうか.こういう人には年老いてからウルマンの言う青春が蘇える望みは薄い気がする.

シリーズ最新医学講座―遺伝子診断 Technology編

Srcチロシンキナーゼ

著者: 松田覚 ,   宮崎耕 ,   浜口道成

ページ範囲:P.75 - P.80

はじめに
 レトロウイルスの研究から,強い発癌性を示すラウス肉腫ウイルスが細胞癌化の形質維持に働く遺伝子を持っていることが明らかとなり,特定の遺伝子によって細胞癌化が起こりうることが明確になった.最初に同定されたラウス肉腫ウイルスの発癌遺伝子は,現在v-srcと呼ばれている.その後の研究の展開により,v-srcに対応する遺伝子が正常細胞の中にも見いだされc-srcと呼ばれるようになった.
 srcは分子量約60kDaのチロシンリン酸化される蛋白質をコードしているが,この遺伝子産物Src自体にも標的蛋白質をチロシンリン酸化する活性を持つことが明らかにされている.さらに,同様な活性を持ついわゆるチロシンキナーゼが続々と発見されてきたが,それらはいずれも細胞内の情報伝達に深く関与していることが示されてきている.

Application編

糖尿病

著者: 井原裕 ,   清野裕

ページ範囲:P.81 - P.86

はじめに
 最近の厚生省の調査では日本の糖尿病患者数は約700万人に達し,年々増加の一途をたどっている.糖尿病の発症には遺伝素因と環境因子が関与していると考えられているが,日本人が元来持っている遺伝素因に,生活環境様式の変化が影響を及ぼしたためと考えられる.インスリンによる血糖調節は,大きく分けると膵β細胞(インスリン合成,グルコースの感知および代謝,インスリン分泌など)と末梢組織(インスリン受容体を介したシグナル伝達,糖輸送など)でなされており,これらのどの段階にかかわる遺伝子に異常が生じても血糖の恒常性が破綻しうる.
 近年,急速に発展した遺伝子解析法によりさまざまな糖尿病原因遺伝子が同定された.そこで本稿では,近年糖尿病との関連が明らかになったいくつかの遺伝子変異について概説する.

トピックス

破骨細胞分化因子の同定

著者: 宇田川信之 ,   須田立雄

ページ範囲:P.88 - P.90

1.はじめに
 破骨細胞は通常骨組織にのみ存在し,石灰化した組織を破壊吸収する唯一の細胞である.したがって,骨吸収を亢進させるためには,破骨細胞の数を増加させるかまたは1つ当たりの破骨細胞の有する骨吸収活性を促進させるかのいずれかに頼ることになる.これまでわれわれは,破骨細胞の分化形成過程を解析するために,マウスの骨芽細胞あるいは間質細胞と血液細胞を用いた共存培養系を確立した.その結果,破骨細胞への分化には,骨芽細胞(間質細胞)との直接接触が必須であることが明らかとなった1,2).今から10年ほど前のことである.そして,この破骨細胞の分化過程は,活性型ビタミンD,PTHのような全身性ホルモンのほかに,骨芽細胞や血液細胞が産生するさまざまなサイトカインによって制御されていることが明らかとなった.そのようななか,雪印乳業生物科学研究所の創薬研究グループは,破骨細胞の分化の抑制を指標として,ヒト線維芽細胞株からTNFレセプターファミリーに属する新規サイトカインであるosteoclastogenesis inhibitoryfactor (OCIF)の同定に成功した3).また,OCIFの結合蛋白質のcDNAクローニングを行った結果,この分子は骨吸収促進因子によって骨芽細胞の細胞膜表面に発現誘導される破骨細胞分化因子(osteoclast differentiation factor;ODF)であることが明らかとなったものである4).ODFはTNFリガンドファミリーに属する膜貫通部分を有するサイトカインであり,われわれが想定した骨芽細胞の細胞膜に発現する破骨細胞形成を制御する蛋白質そのものが分子レベルで明らかとなった.また,ODFは破骨細胞の分化のみならず成熟破骨細胞の骨吸収機能にも関与していることが証明された.

肝線維化にかかわる活性化肝星細胞に強発現するNa・Ca交換トランスポータ

著者: 中村敏夫 ,   有井滋樹 ,   岡田泰伸

ページ範囲:P.90 - P.94

1.はじめに
 肝線維化の過程には活性化した星細胞(伊東細胞とも呼ばれる)が重要な役割を果たしている.その活性化の分子機序はいまだ十分には明らかにされておらず,これらの解明は肝線維化の早期診断,肝硬変への進展阻止など予防的,治療的見地からも重要である.
 肝星細胞は肝実質細胞と類洞内皮細胞の間(Disse腔)に存在する間葉系由来の細胞で,正常状態では細胞内にビタミンAを含む脂肪滴を多数有している(図1).星細胞は肝障害により活性化され筋線維芽細胞様に形質転換して種々のサイトカインや細胞外マトリクッスを産生する(図2)1~3).それらの過程には細胞内Ca2+がシグナルとして関与する反応が多数あるが,その細胞内Ca2+濃度を調節する膜輸送蛋白(チャネルやトランスポータ)に関してはこれまでほとんど知られていない.筆者らは,Na・Ca交換トランスポータ(NCX)が培養星細胞の活性化に伴って強発現すること,さらに星細胞活性化が深く関与する肝硬変(肝線維化)モデルにおいて実際に肝臓の星細胞に遺伝子発現がみられることも明らかにした4).これらの結果と意義につき概説したいと思う.

質疑応答 臨床化学

イオン交換クロマトグラフィーとイオン交換容積計算

著者: 松下至 ,   I生

ページ範囲:P.95 - P.98

 Q 血液中や尿中の塩基性物質を分取してHPLCで測定したいと思います.前処理法としてイオン交換樹脂を用いたいと思いますが,どのような型のものがよいか,教えてください.また,交換容量はメーカーによって差があると言われていますが,その判定手法,計算法を教えてください.

病理

前立腺癌の腫瘍容積を推定する種類と測定法

著者: 金村三樹郎 ,   柯建興

ページ範囲:P.98 - P.100

 Q 前立腺癌の腫瘍容積を推定する種類と測定法,また,予後との関連についてを詳しくお教えください.

研究

淡明細胞型腎細胞癌の淡明性に関する検討

著者: 有安早苗 ,   村木紀子 ,   広川満良 ,   植嶋しのぶ

ページ範囲:P.101 - P.104

 淡明細胞型腎細胞癌の細胞質の淡明さについて光学顕微鏡的,電子顕微鏡的観察を行った.対象は淡明細胞型腎細胞癌7例で,光学顕微鏡的にI型(大型細胞,泡沫状細胞質),Ⅱ型(小型細胞,空虚状淡明細胞質),Ⅲ型(I型4とⅡ型の中間型)の3型に分類できた.そして,Ⅰ型では脂質量が多く,Ⅱ型では脂質が乏しくグリコーゲンが多く,Ⅲ型はその中間であることが判明した.このことから,HE標本で肺瘍細胞の淡明さの原因を推測することが可能と思われた.また,他組織の淡明細胞を観察する際にも利用できる可能性が示唆された.

Helicobacter pylori検出における13C-尿素呼気試験と生検法との比較

著者: 井上貴夫 ,   中澤三郎 ,   芳野純治 ,   乾和郎 ,   若林貴夫 ,   奥嶋一武 ,   小林隆 ,   西尾浩志 ,   中村雄太 ,   嘉戸竜一 ,   渡辺真也 ,   梶原正宏 ,   飯田克巳 ,   高取和彦

ページ範囲:P.105 - P.107

 13C尿素呼気試験は,Helicobacter pyloriが持つ強力なウレアーゼ活性を利用することで呼気サンプル中の13CO2を測定しH. pylori感染の有無を検出する方法である.本法は,非侵襲的で繰り返し検査が可能であり,胃内におけるH. pylori感染を的確に評価できると考えられている.今回,当科で上部消化管内観鏡検査を実施した120例および除菌治療後の77例(経過観察29例)を対象とした.本法の有用性について生検法と比較検討した結果,除菌判定時および経過観察時に高い感度と特異度を有し,除菌治療後の判定には不可欠な検査であると考えられた.

同一胃生検材料でのPCR法と培養法によるHelicobacter pylori検出の比較

著者: 櫻井伊三 ,   牧隆之 ,   小林勝博 ,   平久江政典 ,   箱崎幸也 ,   大庭健一 ,   桑原紀之

ページ範囲:P.109 - P.111

 胃十二指腸潰瘍と深い関連性を有するHelicobacterpyloriを,同一胃生検材料を検体として,polymerasechain reaction (PCR)法および培養法により検査し,両者の検出度の違いをみた.検査した118例中9例が両者で乖離を示した.乖離した9例中8例はPCR法陽牲,培養法陰性の検体であり,そのうち7例は組織学的検査では陽性,残り1例もcoccoid formらしき菌が多数認められた.PCR法は増幅した菌が死菌か生菌かの判別がつかないという欠点がある.しかし,除菌療法により菌数が減少した場合,あるいは環境変化などによりcoccoid formになった場合などは培養が不可能なことから,H.pylori診断の最終判定には,PCR法は有用であると考える.

遺伝子発現解析におけるmRNA Selective PCR法の臨床的有用性

著者: 浮田博之 ,   村上普美 ,   大島由子 ,   千葉幸恵 ,   鎌田一

ページ範囲:P.113 - P.119

 メッセンジャーRNA(以下mRNA)の検出にはノーザンブロット(northern blot hybridization)法やRT-PCR(reverse transcription-Polymerase chain reaction)法が用いられているが,抽出した総RNAの純度および分解やDNAの混在がmRNAをターゲットとする解析において問題となっている.本研究では非フェノール性試薬と蛋白質凝集剤を使用し,比重の違いにより遠心操作で中間に凝集層を形成させる凝集分配法と,一般的なフェノール,グアニジンチオシアネート法を用いて培養細胞からの総RNA抽出効率を比較検討したところ,収量は前者がよく,DNAの混在は両者に認められた.こうしたDNA混入は従来のRT-PCRキットを用いた場合に非特異的産物やスメアーとして観察された.これらはDNAからの増幅を阻止できるmRNA Selective PCR Kit (TaKaRa)の使用で回避でき,今後の応用が期待された.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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