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雑誌目次

論文

臨床検査43巻8号

1999年08月発行

雑誌目次

今月の主題 輸血検査 巻頭言

輸血検査

著者: 池田久実

ページ範囲:P.841 - P.842

 輸血検査の主な目的は輸血に伴う副作用を予防し,安全な輸血を実施することである.日本赤十字社医療情報部によって集計された副作用のうち,最も多いのは発熱,蕁麻疹,血圧低下など比較的軽度の非溶血性副作用で,集計件数の約80%を占めている.多くの場合,原因は解明されていない.一部は感作個体による,血液製剤中の白血球や血小板上の抗原(HLA, NA, HPA, ABHなど)に対する免疫反応であろうと推定される.感作状態の患者で長期反復して輸血が必要な患者には不適合輸血を避けることが必要なことかもしれない.赤血球抗原の検査に比べ,白血球や血小板の抗原の検査は普及しているとは言えない.同種抗原感作による血小板輸血不応は放置できない危険な状態であり,適合血小板の輸血が唯一の解決策と言える.感作状態の把握や適合血小板の選択のために行われる輸血検査は患者血清中の抗体検査,患者やドナーの抗原タイピング,交差適合試験などである.患者血清中の抗体を同定する場合,感度特異性とも優れた方法でなければ輸血不応の原因を解明できない症例がある.適合血の選択は,従来血清学的タイピングで行われてきたが最近はHLA,HPA,NAなどの多型が由来する遺伝子型を調べることが行われている.一方,副作用予防のため,白血球をできるだけ除去した血液製剤の輸血が有効であることが知られ,白血球除去フィルターが使用される.106個の白血球が同種抗原感作に必要であると言われているが,フィルターの有効性を確認するためには残存白血球の数を正確に計測する必要がある.免疫反応でなくとも,輸血前の保存条件によっては血液製剤中の白血球や血小板由来のサイトカインやケモカインが遊離し副作用の原因になっているかもしれない.非溶血性副作用に血漿成分の輸血がどのように関与しているか,解明された部分は非常に少ない.
 溶血性副作用も少数ながら報告されている.単純なミスのほか,遺伝子検査によって解明されるような不適合輸血も含まれているようである.ABH抗原のような糖鎖型赤血球抗原については糖転移酵素をコードする遺伝子の多型が,Rh型のような蛋白抗原についても由来する遺伝子の多型がほぼ解明されているので血清学的検査よりも強力な解析手段となり得る.

総説

輸血後ウイルス感染症スクリーニング検査の動向

著者: 吉原なみ子

ページ範囲:P.843 - P.850

 輸血後ウイルス感染症のスクリーニング検査には高感度な検査で簡便で短時間に結果が得られ,フルオートであることに加えて安価であることが望まれている.これらのうちで近年最も重要視されているのがwindow期を短縮するための高感度な検査法であり,すなわち遺伝子検査法である.遺伝子検査法は確かに高感度であるが変異ウイルスが検出できない,現時点ではフルオートの機器がない,検査に時間がかかり,高価であるなど問題点もある.現在,血液センターは500検体ミニプールの遺伝子検査を導入する計画であるが適切なプールサイズと感度および経済効率など検討すべきことがある.遺伝子検査のみではなく高感度な血清検査の採用も検討する必要があろう.

各論―血液型の遺伝子検査

赤血球

著者: 鈴木洋司 ,   阿南和昭 ,   小林賢

ページ範囲:P.851 - P.856

 ABO式,Rh式血液型など多くの血液型遺伝子が解明されつつある.ABO式血液型については,遺伝子型が判定できるようになり,亜型,型変異,モザイク・キメラの判定に有力な手段となっている.また,多形性が多種類認められることがわかり,移植の生着確認,親子鑑定,民族調査などに有用である.
 遺伝子検査法としては,PCR増幅DNAのRFLP解析(制限酵素切断による解析),PCR-SSP (配列特異的PCR),PCR-SSCP (一本鎖DNA構造の解析)などが用いられる.

血小板

著者: 半田誠

ページ範囲:P.857 - P.862

 現在確立されている13種類の血小板特異抗原系(HPA)は同種免疫に起因した血小板輸血不応状態や新生児同種免疫性血小板減少症の原因として近年,その重要性が認識されるようになった.遺伝子タイピング法としてPCRを基礎とし,制限酵素を使用したRFLP法やアリル特異性のプライマーを使ったSSP法など種々の方法が行われている.そのなかで,わが国で重要なHPA-1~-6wの遺伝子タイピングが同時に可能な,一般検査室でも使用できる,ミニシークエンス法を応用した市販ELISAキットが有用である.遺伝子タイピングの導入により血液センターでのHPA適合ドナーの選択が容易となり,全国的なHLA/HPA適合血小板の供給体制の確立が可能となるであろう.

HLA

著者: 石川善英 ,   赤座達也

ページ範囲:P.863 - P.868

 HLAはT細胞への抗原提示を担う,免疫反応の中心的存在であり,その検査は輸血,移植の成績を左右する重要な検査である.HLA遺伝子は多型性が高く,しかもアリル特異的配列が少ないタイピング困難な遺伝子であるが,いろいろな原理のタイピング法が考案され,タイピングキットも市販されている.これらキットも含め,HLAのDNAタイピング法の実際を概説する.

各論―同種抗体の検出

好中球

著者: 倉田義之 ,   林悟

ページ範囲:P.869 - P.873

 抗好中球同種抗体を検査する検査法には,①蛍光抗体法,②好中球凝集法,③赤血球受身凝集法(MPHA),④MAIGA assayなどの方法がある.各方法には利点,欠点があり現在のところ標準的な検査法は決まっていない.蛍光抗体法,好中球凝集法が最も広く実施されている.一方,わが国においてはMPHAが普及している.抗好中球同種抗体は新生児同種免疫性好中球減少症や非溶血性輸血副作用(輸血後の発熱反応や輸血関連急性肺障害)などに関与している.

血漿蛋白に対する抗体と輸血副作用

著者: 比留間潔

ページ範囲:P.874 - P.879

 アナフィラキシー反応も含め即時型の非溶血性輸血副作用の大半は原因が不明である.一部は血漿蛋白の多型性に対する同種抗体や,血漿蛋白欠損における抗体が輸血副作用の原因になる.現在までに輸血副作用の原因として明らかな抗体は,IgGのallotypeであるGm特異的抗体,IgAに関してはクラス特異的抗体,サブクラス特異的抗体,allotype特異的抗体,およびβリポ蛋白のallotype,Ag (a)特異的抗体などである.欧米ではIgA欠損者に存在する抗IgA抗体による重篤な副作用が最も問題になるが日本では頻度が低い.

技術解説

輸血後GVHDの診断のためのマイクロサテライト法

著者: 内田茂治 ,   矢作裕司 ,   田所憲治

ページ範囲:P.880 - P.886

 輸血後の移植片対宿主病(graft-versus-host dis-ease;GVHD)は血液製剤中に含まれるドナー由来のリンパ球が輸血を受けた患者に拒絶,排除されずに,逆に患者の組織を非自己と認識して攻撃することによって起こる病態で,死亡率の高い重篤な輸血副作用である.輸血後GVHDの診定診断には,患者の末梢血中や組織に他人のリンパ球が生着していることを証明する必要があり,マイクロサテライト法は迅速・簡便な方法として有用である.

血液製剤中の残存白血球数の測定

著者: 野村昌作

ページ範囲:P.887 - P.891

 血液製剤中の微量白血球の測定法を紹介する.フローサイトメトリーは微量の検体でも測定が可能であり,白血球のサブポピュレーションの解析も可能である.ナジェットヘモサイトメーターは,どの施設でも測定可能であり,自動血球カウンターでよく問題となるノイズなどを検出する恐れがないが,測定者間による結果のばらつきの危険がある.より高感度の測定法として,サイトスピン法やPCR法も有用である.

話題

白血球除去フィルター使用によるショックと臨床検査

著者: 池淵研二

ページ範囲:P.892 - P.896

1.はじめに
 輸血の安全性は格段に高まってきているが,さらに高めるためにいくつかの対策が血液センター内で考えられている.ウイルス感染症に対するドナースクリーニング法の高感度化が推進されつつあり,HBV,HCV,HIVの核酸増幅検査(NAT)が導入される予定になっている.またウイルス不活化工程が可能な新鮮凍結血漿に対しては,感染性因子の不活化に関するプロジェクト内で検討が行われ,Solvent/Detergent (S/D)不活化血漿の導入が検討されている.血球製剤(赤血球,血小板製剤)のウイルス不活化は従来大変難しいテーマであったが,最近ソラレン系薬剤と紫外線照射とを組み合わせた不活化法が開発され,欧米で臨床第3相試験が展開されている.
 感染症に加えて輸血に関連する副作用のなかには,血液製剤に混入した白血球に由来するものが知られ,同種抗原感作,輸血不応症,非溶血性副作用,移植片対宿主病などが報告されているが,これらに関して若干の考察を加えたい.

輸血とプリオン病

著者: 比留間潔

ページ範囲:P.897 - P.901

1.はじめに
 英国では1980年代後半,家畜牛に狂牛病と呼ばれる牛海綿状脳症(BSE:bovine spongiformencephalopathy)の発生が増加し,それから数年の後,人間に新変異型のクロイツフェルト・ヤコブ病(nvCJD:new variant of Creutzfeldt―Jakob disease)の症例が認められるようになった1).このnvCJDは狂牛病からプリオンという蛋白質の新しい病原媒体を介して伝播した可能性を示す研究報告がなされたため大きな社会問題となった.nvCJDの予後は悪く,もし国民に蔓延した場合,極めて深刻な問題になると受けとめられた.また,nvCJD保因者の供血により血液を介して伝播する可能性もあり,輸血の安全性を考慮するうえで重大な問題となったのである.
 本稿では,プリオン病およびプリオンが輸血を介して伝播する可能性と現時点で考えられる対策について解説する.

アルブミン製剤の有効性に関するCochrane報告

著者: 高本滋

ページ範囲:P.902 - P.907

1.はじめに
 従来,ショック,火傷,低アルブミン血症などはアルブミン投与の適応1~3)であり,アルブミン投与による治療効果の向上,結果としての救命率の上昇が期待されていた.しかしながら,1998年7月,英国の"Cochrane Injuries Group Albu-min Reviewers"より,重症患者の治療に際し,アルブミン投与がかえって死亡率を上昇させるという,まさにショッキングな報告4)が発表された.以降,欧米を中心に本論文の妥当性,信頼性についての議論5~8)が起こっている.
 本稿では"Cochrane報告"を概説するとともに,その問題点などを指摘したい.

HIV感染における長期未発症者―わが国における実態を踏まえ

著者: 三間屋純一

ページ範囲:P.908 - P.912

1.はじめに
 HIV感染後無治療にもかかわらず10数年以上経過してもAIDSを発症しない長期未発症者(long-term non-progressor;以下LTNP)の存在が,世界的に注目を集めている図1~4)).これらの症例ではCD4リンパ球数が500cells/μl以上と比較的免疫能が保たれ,しかも血清中ならびにPBMCs (peripheral-blood mono-nuclear cells)中のウイルスDNA量が低値を示すことが特徴とされている5,6).本稿では,その定義,特徴,要因およびわが国におけるLTNPの実態について概説することとする.

今月の表紙 血液・リンパ系疾患の細胞形態シリーズ・20

リンパ増殖性病患・悪性リンパ腫

著者: 前田隆浩 ,   栗山一孝 ,   朝長万左男

ページ範囲:P.836 - P.837

 悪性リンパ腫はHodgkin病と非Hodgkinリンパ腫とに大別され,さらに前者はRye分類,後者はREAL分類によって細分類されている.しかし,リンパ腫細胞の発生起源に基づいたREAL分類は臨床応用しにくい点が指摘されており,臨床的には従来のWorking Formulation分類が重宝されている.化学療法の進歩によってHodgkin病のtype間の予後の差はなくなってきたが,非Hodgkinリンパ腫はWorking Formulation分類,病期,internationalprognostic indexなどによって標準的治療法が異なり,層別化治療の概念が一般に浸透してきている.
 1例目は頸部リンパ節腫脹を主訴に来院した19歳の男性である.生検したリンパ節のスタンプ標本で,図1に示すように小型リンパ球の中に大きく明瞭な核小体を有する著しく大型の多核あるいは単核の細胞を散見した.病理標本では,図2のような多核あるいは単核で大きく明瞭な核小体を有する大型のHodgkin細胞,Reed-Sternberg細胞を認め,また,明らかな結合織性の隔壁も見られたためHodgkin病nodularsclerosisと診断された.

コーヒーブレイク

江戸と半七

著者: 屋形稔

ページ範囲:P.912 - P.912

 近頃江戸ばやりの傾向がみられる.NHKの「お江戸でござる」の視聴率が高いと言われるのもその1つである.毎回ゲストに出る杉浦日向子という女性江戸研究家の語り口が,あたかも現実江戸に住んでいる入のように見えるのも人気のもとのようである.
 世界の中で揉まれ続けている明治以降に比べて,300年の長い間将軍のお膝下で鎖国平安の夢の中にいた江戸はわれわれにとって確かに心惹かれる時代である.大江戸神仙伝(石川英輔)という小説にも,現在からタイムスリップした男が,欠点だらけだが魅力的な当時の江戸に生きるという意表をつく姿が描かれており興趣を覚えさせられる.

シリーズ最新医学講座―遺伝子診断 Technology編

Competitive NASBA法

著者: 川口竜二 ,   小林優

ページ範囲:P.913 - P.918

はじめに
 Nucleic acid sequence-based amplification(NASBA)は主としてRNAの鋳型に対して一鎖のRNA断片をin vitroで増幅する方法である1,2).NASBAはもともとself-sustained sequence replica-tion (3 SR)と呼ばれる方法で開発され,またTran-scription-mediated amplification (TMA)法ともその源を一にする.現在NASBAの商業的使用権はOr-ganon Teknika社が有する.
 mRNAは蛋白の翻訳源であり,RNA測定に有利なNASBA法のメリットは定量測定に,より発揮される.従来,生体で発現する遺伝子量を定量化するためには,ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の定量測定を含めて,標準濃度の核酸を被検核酸(材料)に添加してサンプルの核酸と同時に増幅する方法が一般的に行われてきた(competitive RT-PCR).しかしこの方法では,測定対象のテスト数が増加するという欠点がある.ここでは,われわれが開発した内部標準法と外部標準法を組み合わせて,被検テスト数を最小限にした,ダイナミックレンジの広いCompetitive NASBAによる測定法について述べる.

Application編

乳癌の遺伝子異常

著者: 松尾文恵 ,   三木義男

ページ範囲:P.919 - P.925

はじめに
 発癌が遺伝子の変化によって引き起こされることが解明されてから,乳癌についても,さまざまな遺伝子について,その異常が検討され機能解析が行われてきた.
 現在知られている乳癌に関連する遺伝子を検体,方法を選択し検査することによりそれぞれの目的に応じた遺伝子診断を行うことができる.例えば,乳癌の場合では,生検標本や穿刺吸引細胞診標本を用いた腫瘤の良悪性の診断,手術検体を用いた,予後判定や,薬剤,放射線感受性といった癌の性質の診断,手術切除標本の切除断端や,リンパ節を用いた,癌の広がりや転移の程度の診断,遺伝性乳癌の発症前診断などがある.これらは,従来の病理学的,生化学的検査に加えて,分子レベルで検査を行うことにより,さらに癌診断の精度,感度を高めようとするものである.また,遺伝性乳癌の原因遺伝子を検査することによる遺伝性癌の発症前診断は,乳癌の家族歴を持つ保因可能者がそのリスクを知り,診断結果が陽性の場合,頻回の検診を受けることによって,早期発見や予後の改善に大いに役だっと考えられる.

トピックス

筋交感神経活動

著者: 岩瀬敏 ,   間野忠明

ページ範囲:P.927 - P.932

1.はじめに
 ヒトにおける筋交感神経活動(muscle sympa-thetic nerve activity;MSNA)は,ヒトの末梢神経内の筋神経束からマイクロニューログラフィーにより記録される.MSNAは細動脈の括約筋を支配し,圧受容器反射の影響を強く受け,ヒトの血圧制御に重要な役割を果たす(図1).
 MSNAは,1968年にHagbarthら1)により最初に記録され,皮膚交感神経活動(SSNA)と同様にWallinら2)のグループにより詳細に研究されたが,1980年代にアメリカにおいてその手法が導入され3),多くの研究者が研究手段としている.MSNAは,SSNAとは別々に記録されるが,その記録方法は同様であるので,前回のSSNAの記録方法を参照されたい.本稿においては,MSNAの特徴と臨床応用について述べる.

質疑応答 臨床化学

RT-PCR法に用いる酵素

著者: 吉村眞一 ,   長村義之 ,   Y生

ページ範囲:P.933 - P.934

 Q RT-PCR法でウイルス感染症の検査をしていますが,逆転酵素やDNAポリメラーゼにはさまざまな種類があり(例えば,M-MLV RTase,AMV RTase,Taq,Tth polymerase)どれを使用するのが一番よいのかわかりません.それぞれの酵素の特徴をご教示ください.

資格・制度

アメリカで生理学,神経学を学ぶには

著者: 大石実 ,   Y生

ページ範囲:P.934 - P.935

 Q アメリカで生理学,特に脳波,神経学を勉強するに当たり,日本の学歴や職歴をどこまで生かせるか,また,具体的に外国人を受け入れてくれる学校・病院を調べる方法を教えてください.また,どういった学校へ入学したらよいか教えてください.

私のくふう

ケルンエヒト赤迅速調製法―Non Boiling Method

著者: 若松菊男

ページ範囲:P.936 - P.936

1.はじめに
 鉄イオン染色,メラニン色素染色などの後染色として,ケルンエヒト赤が多用されている.これは,人工的に合成されたタール色素であり,水に溶け難く,染色液を作るには沸騰させた5%硫酸アルミニウムに溶かす.完全に溶かすためには,10分間以上,煮沸を続ける必要があり,時間のかかる方法である.
 保存の面では,5%硫酸アルミニウム溶液なので,カビ,細菌が繁殖しやすく長期保存は困難である.

研究

One-step PCR法によりVero毒素1型,2型およびEscherichia coliを同時に検出する方法

著者: 大森智弘 ,   原幸子 ,   太田茂子 ,   林恵美子 ,   今関ひろみ ,   大谷一 ,   三宅和夫 ,   松下幸生 ,   樋口進

ページ範囲:P.937 - P.940

 腸管出血性大腸菌による感染症では,迅速な診断が必要とされている.われわれはPCR法による1回の反応でE.coli,VT1,VT2の3種題の遺伝子断片を同定する方法を考案した.この方法では,E.coli,VT 1,VT 2のすべてにおいて,PCR法による標的遺伝子の増幅の有無と,細菌学的な毒素血清型や菌名同定が100%一致していた.本法は今後,正確な迅速検査として腸管出血性大腸菌の検出に応用されることが期待される.

輸入腸管感染症原因菌の効率的な糞便検査

著者: 竹垣友香子 ,   宮城和文 ,   古川徹也 ,   上田泰史 ,   高橋直樹 ,   鈴木則彦 ,   野田孝治 ,   廣瀬英昭 ,   橋本智 ,   中野康夫 ,   佐野浩一 ,   森松伸一 ,   宮田義人

ページ範囲:P.941 - P.945

 関西空港検疫所では輸入腸管感染症原因菌の検出検査を実施している.病原菌の分離にはTCBS寒天,ビブリオ寒天,SS寒天およびDHL寒天を用いている.今回,自然排便と直腸スワブからの検出成績と,分離培地上での分離成績を調べ,効率的な糞便検査について検討を加え以下の結果を得た.①下痢原因菌全体の陽性率は自然排便のほうが直腸スワブに較べて約4%高かった.②Vibrio属の場合,特に腸炎ビブリオでは自然排便が直腸スワブの約2倍の陽性率を示した.また,自然排便ではVibrio属全体で約7%の検出率増がみられた.③赤痢菌はいずれの検体においても増菌分離平板よりも直接分離平板のほうが圧倒的に検出率が高いので,特に直接分離に重点を置くべきであると考えられた.④Salmonella属は自然排便の増菌後の分離培養からの検出率が極めて高かったことから,増菌培養に力点を置くべきであると考えられた.⑤Plesiomonas属とAeromonas属の増菌にはpH8.2のアルカリ性ペプトン水が有効であった.また,Aeromonas属の分離培地としてはDHL寒天よりSS寒天のほうが優れていた.⑥Vibrio属の検出率はビブリオ寒天を用いなくてもTCBS寒天のみで98.7%,また,腸内細菌,Aeromonas属およびPlesiomonas属の検出率はDHL寒天を省略しても94.0%を示した.したがって, TCBS寒天とSS寒天だけで検出率をほぼ維持しながら効率的な検査が行えると思われた.⑦すなわち,上記の成績を参考に培養法を組み立てると,全菌種について効果的な糞便検査を行うことができると考えられた.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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