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雑誌目次

論文

臨床検査43巻9号

1999年09月発行

雑誌目次

今月の主題 生活習慣病 巻頭言

生活習慣病

著者: 戸谷誠之

ページ範囲:P.955 - P.956

 今世紀の半ばに経験した世界大戦後に,わが国の健康政策は大幅に転換された.こうした変革の結果として,それ以前には国民病と言われていた急性感染症や結核などの感染性病変が激減し,国民の多くが期待していた長寿化への願望が今日では現実のものになった.しかし,その一方では少子高齢化が深刻な社会問題としてクローズアップされるに至っている.
 このような現状にあって,国民はより健康で充実した生活(QOL)を全うできるような医療・保健環境が作られることに対して大きな期待を抱いている.そこで,1997年に厚生省はこれまでの保健政策を発展的に再構築する施策として新たに健康日本21計画を創設し,その目玉の1つとして生活習慣病対策を掲げた.

総説

生活習慣病とは

著者: 千村浩

ページ範囲:P.957 - P.961

 わが国では,従来,脳卒中,がんなどの悪性腫瘍,心臓病などを「成人病」として,二次予防に重点をおいた対策を講じてきた.これにより,早期発見・早期治療が効果的であるとの認識を醸成し,国民の検診受診の推進に効果を挙げてきた.人口の高齢化に従って,今後これらの疾患が増加することが予想される一方,これらの疾病の発症には「生活習慣要因」が関与していることが明らかになってきたことから,「生活習慣病」概念が導入された.健康的な生活習慣を確立することにより,これらの疾病の危険因子を回避することがまず重要との認識に立ち,今後の生活習慣病の予防対策を進めていくこととしている.

一次予防と臨床検査

著者: 野口慶久 ,   有吉聡子 ,   樽原真二 ,   丸山征郎

ページ範囲:P.963 - P.968

 わが国においてはライフスタイルの欧米化,すなわち,食事脂肪の増加や運動不足,ストレスなどによって急速に疾病の構造が変わりつつある.これらは最近生活習慣を基盤にした疾患という意味で生活習慣病と言われている.
 そのなかでも現在注目されているものは肥満,特に内臓脂肪型肥満とそれに伴う疾患群である.すなわち,内臓脂肪型肥満はインスリン抵抗性を基盤として脂質代謝異常,糖代謝異常,高血圧などの種々の疾患を引き起こすことが判明して注目されている.
 この内臓肥満症候群に続発する種々の合併症には,脂肪細胞が大きな役割を果たすことがわかってきた.内臓脂肪は古くは単なるエネルギー貯蔵庫であると考えられていたが,最近ではレプチンをはじめとするアディポサイトカインと総称される種々の生理活性物質を分泌し,生体のエネルギー代謝調節のみならず血圧,免疫,凝固系などに関与する重要な内分泌臓器であることが明らかになっている.したがって,この過剰は糖代謝異常,動脈硬化,高血圧,血栓症など種々の合併症を引き起こすことになる.

食習慣と臨床検査

著者: 渭原博 ,   橋詰直孝

ページ範囲:P.969 - P.974

 栄養素摂取の過不足を明らかにすることにより食習慣が原因の生活習慣病の発生を予知し予防することができる.臨床検査は身体徴候の現れる前の食習慣の偏りの発見に有効であり,食事調査の成績をより定量的に裏づけることができる.血液検査による栄養状態の評価には栄養素(糖質・蛋白質・脂質・ビタミン・ミネラル)の過不足を直接測定し求めるものと,栄養素欠乏で引き起こされる代謝異常や代謝産物を調べる場合がある.

運動と生活習慣病

著者: 太田壽城 ,   石川和子

ページ範囲:P.975 - P.982

 運動の効果と運動指導の基本に関する文献的検討を行い,運動指導の効果と運動指導の内容についてレビューした.次に,肥満,高血圧,高脂血症と糖代謝異常の発症に対する身体活動の影響を示した.さらに,これらの病態に対する運動指導とその継続に関する介入研究を行い,運動指導の効果と運動指導継続の効果を検討した.最後に,生活習慣病予防と健康増進のための運動指導の方法を,運動指導の対象,ヘルスチェックの基準,運動指導の方法,運動の動機づけについてまとめた.

糖尿病と生活習慣病

著者: 葛谷英嗣

ページ範囲:P.983 - P.987

 いまや2型糖尿病の増加は著しく,国民の最も重要な健康問題の1つにさえなっている.これはわれわれの生活様式の西欧化と関係が深い.2型糖尿病の発症には遺伝的素因と環境因子が関与しているが,肥満や身体活動の低下,脂肪(ことに飽和脂肪酸に富んだ動物性脂肪)が多く穀類など糖質の少ない食生活はいずれもインスリン抵抗性を引き起こし,糖尿病発症に促進的に働く.

循環器疾患と予防

著者: 門脇崇 ,   早川岳人 ,   渡辺至 ,   岡山明 ,   上島弘嗣

ページ範囲:P.989 - P.994

 高齢社会の進展に伴って,脳卒中・心臓病などの循環器疾患は増加している.これらの疾患の多くは生活習慣病と位置づけられている.また,罹患すると,たとえ生命の危機を脱しても,後遺症のためにADLの低下をきたすために,健康な老後を過ごすための障害になる可能性がある.本稿では,生活習慣が循環器疾患に与える影響を示し,罹患を予防するための生活指導の要点について概説する.

話題

栄養調査とバイオマーカー

著者: 𠮷池信男

ページ範囲:P.995 - P.998

1.栄養調査とは
 "栄養調査"とは,ヒトの栄養状態を総合的に評価する栄養評価システム(Nutritional Assess-ment System)の中核を成すものである1).食べ物や各種栄養素の摂取量を調べる"食事調査"とほぼ同義にとらえることもあるようだが,基本的には生体内での栄養状態の評価をも含む概念であると考えられる.
 現在,わが国の栄養問題としては,過剰栄養およびそれが大きな原因となっていると考えられる生活習慣病が中心的事柄である.しかし,地球レベルでは,エネルギーや各種栄養素の欠乏がいまだに最重要の問題である.この栄養素欠乏状態を例に取ると,栄義評価は表1のように整理される1,2).すなわち,第1段階では,食事調査により"何をどれだけ食べたか"を把握する.第2,3段階では,体内の貯蔵組織や体液・血液中の各種栄養素濃度を生化学検査などで測定する.第4段階では,体内での栄養素の欠乏が細胞や組織レベルで引き起こす機能低下の程度を評価する.ある栄養素に依存する酵素活性の低下などがその良い例である.一方,脂肪組織内に蓄えられる脂肪量の変化は,身体計測値の変化として検出され得る.第5段階は,"病気"の段階には達していないものの,個体として何らかの機能変化が生じている状態である.例えば,亜鉛欠乏による味覚低下,ビタミンA欠乏における暗順応の低下などは生理学的検査でとらえられるものである.最後の第6,7段階では,"病気"として,種々の症状,身体所見の変化が出現してくるものであり,臨床的に診断・評価が行われる.

リスク因子分析―生活習慣改善への応用

著者: 中村正和 ,   井岡亜希子 ,   木下朋子 ,   増居志津子 ,   生山匡 ,   大島明

ページ範囲:P.999 - P.1002

はじめに
 生活習慣病対策として生活習慣に着目した一次予防対策の充実が求められている.生活習慣は,基本的には個人が自らの責任で選択する問題であるが,実際には,個人の力のみで,その改善を図ることはむずかしい.そこで,個人が健康的な生活習慣を確立できるよう,社会環境の整備とともに,教育面から支援を行い,行動変容への動機づけや行動変容に必要となる知識・スキルの習得を促すことが必要である.アメリカでは,集団の観察から得られたリスク因子の疫学的知見を個人に当てはめ,個人の健康リスクを予測する"健康危険度評価"(Health Risk Appraisal;HRA)が考案され,リスク因子改善の教育ツールとして職域などで広く用いられている.
 本稿では,アメリカでのHRAの開発の歴史と最近の動向を紹介するとともに,筆者らが開発した日本人向けのHRAについて述べることとする.

健康日本21計画と医療

著者: 長谷川敏彦

ページ範囲:P.1003 - P.1007

1.はじめに
 1)成功と課題
 (1)世界一の健康結果,日本
 日本は最近,世界一の健康結果を達成した.国の健康状態を表すのに最もよく使われる"平均寿命"と"乳児死亡率"は1984年から今日まで,世界一の実績を示すに至っている.戦後,先進国の間では最下位であった日本は比較的短期間にすべての先進国を追い抜き,最上位に躍り出た.

座談会

生活習慣病と健康生活

著者: 吉池信男 ,   吉村學 ,   片山善章 ,   戸谷誠之

ページ範囲:P.1009 - P.1020

 「生活習慣病」という言葉が次第にわれわれの日常で使用されるようになってまいりました.毎日の生活でこのようなことに注意をすれば,将来糖尿病,高血圧,肥満,高脂血症,骨粗鬆症などの発症を抑えることができる,または,発症を遅らせることができるという,一次予防・二次予防の対策に,臨床検査がどのようにかかわることができるのかを中心にご討議いただきました(編集室).

今月の表紙 血液・リンパ系疾患の細胞形態シリーズ・21

リンパ増殖性疾患・慢性リンパ

著者: 前田隆浩 ,   栗山一孝 ,   朝長万左男

ページ範囲:P.950 - P.951

 広義の慢性リンパ性白血病(CLLs)は成熟リンパ球の形態を呈した白血病細胞が単クローン性に腫瘍性増殖をきたす疾患群である.一般に,緩徐な経過をとって次第に進行するが,ときに長期間にわたって進行が認められない症例や急激な経過をたどる予後不良の症例も存在する.FABグループは細胞形態学に免疫学的診断法を加えて,CLLsの分類を提唱した.これによるとCLLsはT細胞性とB細胞性に大別され,さらにおのおのがまたいくつかの病型に分類される.この代表的疾患がB細胞性慢性リンパ性白血病(B-CLL)である.発生頻度の人種差が特徴の1つであり,欧米では全白血病に占める割合が20%前後と高率であるのに対して,わが国では1.5~3%程度と低頻度である.わが国では,成熟小型リンパ球が増殖する典型例は少なく,多くの症例で大型のリンパ球が混在した亜型的性格を帯びている.細胞形態上,核小体を有した幼若形態のリンパ球prolymphocyteの混入が10%以下の症例を典型例とし,11~55%を占める症例をCLL/PLとして区別している.今回は典型的なB-CLLをはじめ,CLL/PL,有毛細胞白血症(HCL),前リンパ球性白血病(PLL)などを紹介する.
 B-CLLの典型例では,凝集した核クロマチンを有した,細胞質の少ない成熟小型リンパ球の形態をした白血病細胞の増殖が認められる(図1).図1の症例ではCD 5+,CD 10-,CD 19+,CD 25-の表面形質を有し,モノクローナルな表面免疫グロブリンは弱陽性であった.わが国では,このような典型的なB-CLL症例を診ることは比較的少なく,細胞質の広いリンパ球が優位を占める症例(図2)や,核網がやや繊細で核小体を有した大型の細胞prolymphocyteがさまざまな比率で混在する症例(図3)が多く認められる.

コーヒーブレイク

一期一会の人々

著者: 屋形稔

ページ範囲:P.1002 - P.1002

 一期一会という言葉は茶会の心得の真髄ということである.生涯にただ一度まみえるという人生の深い境地を洞察したものであろうが,実際振り返ると一度だけでなくともそれに近い交わりを持った人々は数多い.名もない人もいれば高名な人もいるが,いずれにしろ長い年月を経てその人々がふと蘇って惜別の念が何とも深まるときがある.年月の貴重さと,光陰矢のごとく感ずるのはこうした一刻である.
 まる40年前に米国東部を歩いたときに相まみえ別れた医学関係の人々のこともすぐ頭に浮ぶ.当時サンフランシスコに留学中であったが,中東部の主として内分泌学者を訪れ,心に残る印象を与えられた.ハーバード大学のThorn博士は副腎疾患の最初のテストになったThornテスト(副腎刺激テスト)で世界に名の知られた方で,恩師Forsham博士の兄弟子でもあった.そのせいか初対面から親しく患者の回診を見せてくれた.当時クッシング症候群診断に登場したばかりのSU(メトピロン)テストを初めて知り,帰国後の追試の1つになった.この方は米国でよく耳にする仕事に寸暇を惜しむ余りに奥さんと離婚に至ったことを後で聞かされ,学者の厳しさを実感した.

久し振りのニューヨーク

著者: 寺田秀夫

ページ範囲:P.1059 - P.1059

 アトランタを午前10時30分に離れて約2時間,一面の白い雲海を抜けて,機はラ・ガディア空港の上空に達すると,美しいクライスラービル,エンパイア・ステートビルなど懐しい巨大な高層ビルの林立するマンハッタン(Manhattan)が機内から一望された.約10年振りに降りた空港は暑い日射しに輝き,予約しておいた市に乗り,快適な車内の冷房にホッとしながら,車はクイーンズボローブリッジを渡り,マンハッタンの上部のLexington Ave.にある古風なバルビゾンホテルに着いた.
 車窓から見たニューヨークの街の第一印象は各所に建築工事が行われていること,アメリカの好景気を反映するものであろうか.ホテルの窓から見える高層ビルを眺めながら,さて今日から数日間この青空を鋭く切りとって林立する摩天楼の街New York, 世界の一流のものがここに集まり,大きなビジネスが動くこの街に滞在すると思うと,気持の高ぶりを抑えることができなかった.さて翌日はあいにく烈しい雨に降られながら,街一杯に走っているタクシー(yellow cab)を拾って,今度の旅の最大の目的であるSt.Stephens教会で行われた現代音楽作曲家の受賞式に参加するため,スーツとネクタイに着替えて,静かな街並にある赤レンガの瀟酒な教会に着いた.決して盛大とは言えないが,静かな落ち着いた雰囲気のなかで数曲の受賞曲が演奏された.演奏会が終わると急に教会内は利やかなムードに変わり,私どもも数年前来日した数人の知人・友人と旧交を暖めることができた.

シリーズ最新医学講座―遺伝子診断 Technology編

蛍光PCR-SSCP法

著者: 牧野鈴子

ページ範囲:P.1021 - P.1024

概要
 遺伝性疾患における原因遺伝子の同定および変異,細胞の癌化における癌遺伝子,癌抑制遺伝子の変異の関与について,多くの研究がなされてきている.さらに,これら遺伝子の変異の検出,DNA多型を利用した遺伝子欠損の検出は臨床の面からも疾病の診断や治療法を決定するうえでも重要である.遺伝子の変異や多型を検出する方法にはいくつかあるが,polymer-ase chain reaction-single-strand conformationpolymorphism (PCR-SSCP)法は簡便で高感度であり,大変よく用いられている方法である1).従来のPCR-SSCP法ではDNA断片の検出に放射性同位元素を用いるが,本法の利用範囲を広げるために,放射性同位元素を用いない検出法が開発されている.非放射線による検出系としては,蛍光色素標識,銀染色などが挙げられる.ここでは蛍光標識を用いたPCR-SSCP法について紹介する2)

Application編

プロテインS異常症

著者: 濱崎直孝 ,   木下幸子 ,   脇山マチ子 ,   中原睦子 ,   飯田廣子

ページ範囲:P.1025 - P.1031

はじめに
 血栓症発症に体質的要因があることは昔から考えられており,その考えにある程度の裏付けを与えたのが,血栓症患者家系において,アンチトロンビン活性の低下と血栓症発症との相関を調べたEgebergの報告である1).この報告は1965年に行われ,それ以来,凝固関連諸因子と血栓症との相関が主として欧米で調べられており,プロテインS,プロテインC,アンチトロンビンなどの活性低下が血栓症発症の原因になると論じられてきた.しかしながら,欧米の研究ではプロテインS,プロテインC,アンチトロンビンなどの機能異常は血栓症患者の5%以下であり,決定的な因果関係を論ずるまでにはなっていなかった.
 われわれは九州大学医学部附属病院検査部において,血栓を形成している,あるいは,形成している可能性が高い疾病と凝固・線溶関連因子との関係を系統的に検査をすることで,血栓止血亢進をきたすさまざまな因子と疾病との関係を調べている.その結果,これらの疾患の中で凝固制御因子,特に,プロテインS・プロテインC凝固制御系に異常がある症例が予測以上に多いことが判明してきた2).発症との因果関係を厳密な意味で証明しているのではないが,われわれはこれらの因子異常が血栓形成の主要な要因になっていると推測している.一方,1993年にDahlbackらは"欧米白人種の家族性血栓症患者の80%がプロテインS・プロテインC凝固制御系に抵抗性を示す凝固第V因子(Factor V Leiden)を持っている"と報告している3~5).Factor V LeidenはプロテインS・プロテインC系に抵抗性で,その結果,プロテインS・プロテインC凝固制御系による凝固の制御がかからないために,現象としては,プロテインS・プロテインC凝固制御系の機能異常と同じことになる.このような事実を考慮すると,プロテインS・プロテインC系は生体内で適正な凝固制御を行い過剰な血栓形成ができないように作用し,その機能低下が血栓症発症の1つの原因になっている可能性が推測できる.白人血栓症患者にFactor V Leiden遺伝子を持っている人が多く,Factor V Leiden遺伝子を持っていないと言われている6,7)日本人血栓症患者ではプロテインS・プロテインC凝固制御系の異常が多いのは頷ける気がする.

トピックス

color-Doppler法を用いた甲状腺濾胞癌の診断

著者: 福成信博 ,   宮島邦治 ,   三村孝 ,   伊藤公一 ,   伊藤國彦

ページ範囲:P.1032 - P.1035

1.はじめに
 甲状腺悪性腫瘍は,乳頭癌,濾胞癌,髄様癌,未分化癌の4つに分類され,日本においては,乳頭癌88%,濾胞癌7%,髄様癌,未分化癌はそれぞれ1%程度の発生頻度である.乳頭癌が多くを占め,1cm以下の微小癌も含めて,90%以上が診断可能であるのに対して,濾胞癌はいまだに超音波および細胞診によってもその診断率は50~60%というのが現状である.濾胞癌は,血行性転移をきたしやすく,遠隔転移率が乳頭癌より高いという報告もあり,米国では,10mm以下の小さなものでも全摘+RI治療が勧められている1).しかし,その診断に関しては,術前の診断のみならず術後の病理組織診断においても,被膜浸潤や脈管浸潤の判定が困難な症例もあり,手術の適応,術式の選択,術後の追加治療,経過観察の指標など臨床的判断において苦慮する場合も多い.
 color-Doppler超音波断層法は,当初は,心・大血管などの高速血流の血行動態解明が主たる対象であったが,機器・手法の感度の向上により,細い血管の遅い血流までも観察可能となり,乳腺,甲状腺といった体表臓器に対しても施行されるようになってきた2).われわれも1987年ごろより,color-Doppler法を甲状腺腫瘍に対して臨床応用を開始し,甲状腺疾患,特に濾胞癌診断において有用な知見が得られたので,その具体的な方法と臨床的有用性について述べる.

細胞の自殺機構における別種のプログラム―カスパーゼ非依存性細胞死

著者: 口野嘉幸

ページ範囲:P.1035 - P.1039

はじめに
 最近のアポトーシス研究に関する急速な進展によって,この活性型プログラム細胞死の実体がかなり明らかになってきた.それによるとアポトーシスの実行にはcaspaseと名付けられた一群のシステインプロテアーゼの活性化が要求され,Bcl-2ファミリー蛋白質因子がその活性化の調節に関与していることがわかってきた.ところが,昨年度当たりからアポトーシスとは死にゆく細胞の形態学的特徴を異にし,カスパーゼの関与を必要としないなどの特徴を持った細胞死のシステムが存在していることが明らかになってきた.そこで本稿ではわれわれの研究を中心に,この別種の細胞死について概略し,その存在意義を考察する.

乳管内視鏡下穿刺吸引細胞診―"Shooting Biopsy Oytology"

著者: 長瀬慈村

ページ範囲:P.1040 - P.1041

 乳管内病変における重要な症状の1つである異常乳頭分泌に対する検査法として,乳頭分泌物細胞診,乳頭分泌物中CEA測定,乳管超音波検査,乳管造影などがあるが,1988年には乳管内視鏡検査が試みられ1),この10年間に急速な進歩を遂げた2,3)(図1).
 超早期乳癌診断のための検査法の1つとして当院では,乳管内視鏡下穿刺吸引細胞診"狙い撃ち細胞診:Shooting Biopsy Cytology"を1995年4月より行っており成果を上げている.従来の乳管内病変に対する細胞診の方法に比し,本法は,直視下に病変を確認しながら穿刺吸引できるため,極めて正確な診断法である(図2).

質疑応答 微生物

梅毒検査におけるガラス板法とRPR法との不一致

著者: 菅原孝雄 ,   N生

ページ範囲:P.1042 - P.1044

 Q 先日,婦人科の梅毒検査を実施したところ,次のような結果になりました.ガラス板法 2+,RPR法(-),TPHA法(-)ガラス板法とRPR法との不一致はどのような場合に出てくるのでしょうか.

研究

インスリン非依存性糖尿病患者におけるアンジオテンシンⅠ変換酵素遺伝子多型と合併症との関連

著者: 能登勝宏 ,   柏原早苗 ,   庄司和行 ,   小久保武

ページ範囲:P.1045 - P.1048

 アンジオテンシンI変換酵素(ACE)は,イントロン16に存在する287塩基対の有無により挿入(I)アレル,欠失(D)アレルと表現されII,ID,DDの3型が存在する.今回筆者らはインスリン非依存性糖尿病(NIDDM)患者において,この遺伝子型と合併症との関連を検討した.正常対象群とNIDDM患者の遺伝子型頻度はほぼ同じであった.糖尿病性網膜症,高血圧症合併患者においては非合併患者と比較してアレル頻度に差はなかったが,糖尿病性腎症,冠動脈疾患合併患者は有意にDアレル頻度が高かった.このことはNIDDM患者における腎症および冠動脈疾患の発症とDアレルの関与を示唆した.

リウマチ様関節炎患者の剖検肝に見られる色素顆粒の微小部X線分析による解析

著者: 村木紀子 ,   有安早苗 ,   鐵原拓雄 ,   広川満良 ,   日野洋介

ページ範囲:P.1049 - P.1052

 リウマチ様関節炎患者の剖検肝に見られる色素顆粒の微小部X線分析を行った.リウマチ様関節炎患者29例中12例にHE標本で色素顆粒が見られ,うち8例に金とルビジウムが検出された.残り3例には鉄・硫黄・リンが検出され,金は検出されなかった.肝臓のHE標本に見られる黒色の微細粒子状顆粒は金製剤に由来し,ルビジウムも含まれていることが判明した.そして,この顆粒は,門脈域に存在する組織球の胞体内に取り込まれているのが特徴と思われた.また,茶褐色で光輝性を有す顆粒は,微小部X線分析で鉄が検出されたことによりヘモジデリンであると思われた.

資料

パーソナルコンピュータを用いた過呼吸モニタの開発

著者: 末永和栄 ,   大木昇

ページ範囲:P.1053 - P.1058

 日常の脳波検査では過呼吸賦活によるbuild-up (振幅の増大と徐波化)の判定を視察に頼っている.そこでわれわれはパーソナルコンピュータを用い,過呼吸前の安静時の脳波を対照として,過呼吸中および過呼吸後の振幅の変化を周波数別にパワースペクトルによって定量的かつ経時的に評価するソフトを開発した.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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