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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査44巻10号

2000年10月発行

雑誌目次

今月の主題 脂質代謝関連検査項目についての再検討 巻頭言

脂質代謝関連検査項目の再検討

著者: 高橋伯夫

ページ範囲:P.1049 - P.1051

1.時代が求める脂質関連検査
 社会の高齢化に伴い,動脈硬化症を基盤として発症する脳血管障害(血管性痴呆),虚血性心疾患(狭心症,心筋梗塞),腎障害(腎不全),閉塞性動脈硬化症(ASO)などが社会問題として注目されている.動脈硬化症の危険因子では高血圧,糖尿病,高尿酸血症などと同等かそれ以上に重要なのが高脂血症である.高脂血症,特にLDLコレステロール(Chol)の増加により動脈硬化症の発症頻度が高まることは周知である1).すなわち,疫学的に飽和脂肪酸を多量に食する習慣を有する民族では虚血性心疾患の発症頻度が明らかに高いこと2),スタチン系高脂血症治療薬の長期投与でLDL-Cholを持続的に減少させた際には虚血性心疾患の二次予防だけでなく一次予防にも有効であることなどから明らかにされている3).このほかにもさまざまな動物実験結果から高脂血症が動脈硬化の発症と進展に重要な役割を演じることについては明確にされている.

総論

血清脂質と動脈硬化症についての基礎的成果

著者: 横出正之

ページ範囲:P.1052 - P.1058

 血清脂質が粥状動脈硬化に如何に関与するのかという設問に対する回答のきっかけは,モデル動物の開発に加えて近年の分子細胞生物学の進歩が大きく寄与している.分子レベルの検索により粥状動脈硬化病変進行の各段階に関与する分子群が相次いで同定されるとともに,発生工学技術の進歩により単に培養細胞の実験系にとどまらず個体レベルでも実証されつつある.本稿では脂質代謝と粥状動脈硬化の病因論について最近の成績をまじえて考察したい.

臨床検査医学の立場から

著者: 宇治義則 ,   岡部紘明

ページ範囲:P.1059 - P.1066

 日常診療における一般的な脂質検査の選択と解釈および続発性高脂質血症,原発性高脂血症について概説する.血液化学的検査のほとんどは保険診療上包括化が進み,1度の採血で多くの検査を依頼しても保険請求はできない.それぞれの検査の意味を理解し効率的な検査依頼をすることが肝要である.脂質検査ではTC,HDL-C,TGの検査値だけからでも多くの情報が得られ,異常をみたときに他の脂質検査を段階的に進めていくことが望まれる.

動脈硬化病変の治療と血清脂質

著者: 藤山二郎 ,   栗山勝

ページ範囲:P.1067 - P.1073

 虚血性心疾患では,高コレステロール血症が大きな危険因子であり,強力な脂質低下剤であるHMG-CoA還元酵素阻害剤による確実なコレステロール低下作用に基づく多数の大規模臨床試験の成績が報告された.そして,冠動脈硬化症の発症予防を目的とした一次予防試験でも,再発予防を目的とした二次予防試験でも,その有用性が実証されている.したがって,虚血性心疾患の予防,進展阻止には,コレステロール低下療法が重要である.

各論

各種脂質代謝関連検査の実質的意義の再評価

著者: 山本章

ページ範囲:P.1074 - P.1079

 総コレステロール,LDLとHDLコレステロール,トリグリセライドは一般の医師にとって動脈硬化の危険因子を正しく評価するうえで不可欠の数値である.これと電気泳動あるいは高速液体クロマトグラムによるリボ蛋白パターンがあれば,治療効果の評価に役だつ.アポリポ蛋白は一度測定して大きな変動や欠損を把んでおけばよい.あとの詳しい項目(small denseLDL;Lp (a),リパーゼなど)はサービス機関としてのリピドクリニックにまかせて総合判定を還元してもらうのが最善のやり方と考えられる.

酸化LDL検査の臨床的意義

著者: 長谷川昭

ページ範囲:P.1080 - P.1084

 板部らが作成したヒトの粥状動脈硬化巣ホモジネートを抗原としたモノクローナル抗体(DLH3)と抗アポB抗体とを用いた酵素免疫測定法により血中酸化LDLを測定した.健常者では性別による差はなく,加齢により上昇傾向を認めた.リボ蛋白(a)と相関を認め,LDL―コレステロールとは弱い相関を認めた.冠動脈硬化患者は酸化LDLが有意に上昇していたが,病変枝数との関連性はなかった.酸化LDLは動脈硬化性病変の存在を示す指標と考えられる.

Lp(a)測定の臨床的意義

著者: 奥村太郎 ,   一瀬白帝

ページ範囲:P.1085 - P.1090

 Lp(a)の最も重要な臨床的意義は,動脈硬化性疾患の危険因子となることである.近年,アポ(a)遺伝子の解明が進んだので,単に血中濃度を論じるだけでなく,アポ(a)のフェノタイプや遺伝子多型も考慮して病原性を判定できるようになりつつある.また,Lp(a)の血中濃度はほぼ遺伝的に決定されているので,予防医学の面からも重要であり,Lp(a)濃度を低下させる有効な薬剤が開発されれば,動脈硬化性疾患の予防につながるものと期待される.

脂質代謝関連遺伝子診断:LPL,CETP

著者: 村野武義 ,   渡邊仁 ,   白井厚治

ページ範囲:P.1091 - P.1100

 リポ蛋白リパーゼ(LPL)は,血中のカイロミクロンや超低比重リボ蛋白(VLDL)の中性脂肪を分解する酵素で,主に脂肪組織で合成される分子量61kDaの糖蛋白である.LPL遺伝子は第8染色体短腕に存在し大きさは約30kbで10個のエクソンから成る.本酵素の機能低下は,高中性脂肪血症をもたらし,特にLPL遺伝子異常では,I型高脂血症(高カイロミクロン血症)を呈する.LPL遺伝子異常は世界で50以上見いだされており,日本人でも10以上報告されている.
 コレステロールエステル転送蛋白(CETP)は,高比重リポ蛋白(HDL)中のコレステロールエステルを超低比重リポ蛋白(VLDL)や低比重リポ蛋白(LDL)といったアポB含有リポ蛋白に転送する酵素でありその遺伝的欠損により著明な高HDL血症を呈する.CETP遺伝子異常は日本人症例で主に認められている.
 これらの遺伝子異常については,リポ蛋白代謝異常の要因のみならず,動脈硬化への関与についても示唆されている.

脂質代謝関連遺伝子診断:アポE

著者: 山村卓

ページ範囲:P.1101 - P.1107

 アポEを合成する遺伝子には,一般人口中に3種類の対立遺伝子(ε4,ε3,ε2)が存在し,それぞれ1アミノ酸残基ずつ置換したアポEイソ蛋白(E4,E3,E2)を合成する.このうちアポE2はリポ蛋白受容体結合能を欠損しⅢ型高脂血症の原因となる.また,各イソ蛋白によって,リポ蛋白代謝の異なることも知られている.アポE遺伝子には特殊な遺伝子変異も比較的多く,Ⅲ型高脂血症やリポ蛋白糸球体症の発症と関連する.アポE遺伝子解析はこれらの病態の解析に重要である.

技術

LDLコレステロール測定の問題点

著者: 齋藤和典

ページ範囲:P.1108 - P.1113

 直接法の登場でLDLコレステロールが簡便に測定できるようになった.通常の検体では,直接法の正確性や精密性は世界的な標準化システムにより評価され,超遠心法などの対照法とも一致した結果が得られている.LDLコレステロールの測定法は直接法を含め8種の測定システムが報告されている.本稿ではこれら測定法を比較して長所短所をまとめた.また直接法で生ずる特殊なリポ蛋白を含む例での測定値乖離についても加えて報告する.

レムナント様リポ蛋白コレステロール

著者: 中野隆光

ページ範囲:P.1114 - P.1120

 レムナント様リポ蛋白コレステロール(RLP-C)測定法はレムナントを定量的に測定できる世界で初めての検査法として開発された.抗アポA-Iモノクローナル抗体(H-12)でカイロミクロン(CM)とHDLとを,また抗アポB-100モノクローナル抗体(JI-H)でVLDLとLDLとを吸着除去し,残りのCMレムナントとVLDLレムナントのコレステロールを測定する方法である.RLP-C値とmid-bandおよびIDLとの相関が認められた.冠動脈疾患患者ではRLP-C値の高値が認められ,糖尿病患者,腎透析患者でもRLP-C値の高値が認められた.RLP-C測定の臨床的有用性は,今後欧米での大規模臨床試験の結果からもさらに明確になると考えられる.

話題

抗酸化LDL抗体―エピトープによって異なる臨床的意義

著者: 河野弘明

ページ範囲:P.1121 - P.1124

1.はじめに
 動脈硬化の成因として多くの学説が提唱され,多くの研究がなされてきた.1989年,Steinbergら1)が酸化LDLは動脈硬化の成因として重要な役割を果たしているという仮説を提唱して以来,動脈硬化の研究領域において,酸化LDLが注目されるようになってきた.酸化LDLは血中の単球に対し,遊走因子として働き,単球を内皮細胞下に誘導することが見いだされている2).単球は内皮下において,マクロファージとなり,スカベンジャー受容体を発現し,このスカベンジャー受容体を介して酸化LDLはマクロファージに取り込まれ,泡沫細胞へと変化すると考えられている3).また,酸化LDLは培養血管内皮細胞において,接着分子ICAM-1,VCAM-1の発現を誘導し,単球の内皮細胞への接着を増加させ,平滑筋細胞増殖因子である血小板由来成長因子(PDGF-A,PDGFB)やヘパリン結合性表皮成長因子様成長因子(HB-EGF)の発現を著明に誘導することが示されている4).さらに,マクロファージのアンジオテンシン変換酵素(ACE)の発現を増大させ,血管収縮物質であるアンジオテンシンの生成を亢進させる一方で,ブラジキニンの分解を促進させ,血管拡張物質である一酸化窒素(NO)の生成を抑制することも示されている5)
 このように酸化LDLは動脈硬化発症要因として注目されている一方で,酸化LDLの構造,生成,代謝についてはまだ部分的にしか明らかにされていない.酸化LDLの基となるLDLは分子量500kDaもあるアポ蛋白B-100と種々の脂質との混合粒子で複雑かつ多様性があり,加えて酸化LDLは,LDLを構成する種々の成分の酸化が連鎖的に進行し単一の物質ではないことなど酸化LDLの解析をさまざまな要因が困難にしてきた.このように分析が困難な物質,酸化LDLに対して,免疫学的方法が威力を発揮するとの期待のもと,抗酸化LDL抗体の作製がいろいろな方法で試みられてきた.

抗リン脂質抗体症候群―最近の知見について

著者: 深江淳 ,   渥美達也 ,   小池隆夫

ページ範囲:P.1125 - P.1128

1.歴史
 1980年代,動・静脈血栓症,習慣性流死産,血小板減少を合併する全身性エリテマトーデス患者(SLE)において,抗リン脂質抗体(antiphos-pholipid antibodies;aPL)と呼ばれる自己抗体が病態に関与することが知られるようになった.その後,SLEの基準を満たさないaPL陽性者においても,同様の血栓症が高頻度に認められることが明らかとなってきた.
 1986年Hughesら1)により,aPLが認められ,上記臨床症状と関連する一連の群を抗リン脂質抗体症候群(antiphospholipid syndrome;APS)という独立した概念として扱うことが提唱され,SLEなどの基礎疾患を伴う場合,続発性(二次性) APSとされ,明らかな基礎疾患を伴わない場合,原発性APSと呼ばれるようになった.

Small dense LDL

著者: 原納優 ,   吉村安崇 ,   植田福裕

ページ範囲:P.1129 - P.1133

1.はじめに
 糖尿病1),肥満2),冠・脳血管障害3,4),本態性高血圧5)などいずれもインスリン抵抗性あるいは,耐糖能異常が知られている病態における脂質代謝異常の特徴は,アポB含有リポ蛋白粒子数の増加,HDL-コレステロール(chol)の低下とLDL中のchol/アポB比の低下である.LDL-chol/LDL-アポB比の低下は,small denseLDLの存在を強く示唆する.その機序として,高トリグリセライド(TG)血症が強調されているが,アポB合成の充進,microsome transferprotein活性,コレステロール逆転送蛋白,肝性リパーゼの関与が想定されている.

今月の表紙 帰ってきた寄生虫シリーズ・10

クリプトスポリジウム・サイクロスポーラ

著者: 藤田紘一郎

ページ範囲:P.1046 - P.1047

 クリプトスポリジウムCryptosporidium par-vumは世界中に広く分布し,ヒト以外にもウシ,ブタ,サル,ヒツジ,イヌ,ネコ,ネズミなどに自然感染している.宿主の腸粘膜上皮細胞の微絨毛内で無性生殖と有性生殖とを繰り返しながら増殖し(図1),下痢便中には感染性を持つ成熟オーシストが排出される.オーシストは直径約5μmの類円形で,内部にバナナ状をした4個のスポロゾイトと顆粒状の残体とを含んでいる.
 ヒトへの感染経路はオーシストに汚染された生水や生野菜などの飲食物,汚染物が付着した手指,ヒトからヒトへの糞便汚染による伝播など多様である.

私のくふう

パップペンを用いた細胞診標本の作製

著者: 川西なみ紀 ,   上坊江知美 ,   波多秀明 ,   平岡春光 ,   則松良明

ページ範囲:P.1134 - P.1134

1.はじめに
 尿,体腔液などの液状検体での標本作製はオートスメアがない施設の場合,すり合わせ法や引きガラス法で作製しているのが一般的である.しかし,それらの方法はオートスメア法のように塗抹の範囲が一定でなく,スライドガラス全面に塗抹される傾向にあるため,鏡検しにくい,時間を要するなどの問題がある.われわれは,上記問題点の改善のため,免疫染色時に使用しているパップペン(大同産業社)を用い,スライドガラス上に非親水性の型枠を作り,枠中に沈渣を塗抹,スプレー式固定液:メルコフイックス(メルクジャパン社)で固定したパップペン枠標本を作製した.

シリーズ最新医学講座―遺伝子診断 Technology編

PLACE-SSCP

著者: 馬場真吾 ,   林健志

ページ範囲:P.1135 - P.1140

はじめに
 Single Nucleotide Polymorphisms (SNPs)はゲノム中に最も高頻度にみられる塩基配列多型でありその高密度地図の作成は遺伝子多様性の解析に有用であると考えられている.現在世界中の研究機関でSNPsを効率的に収集する研究が行われている.PCR-SSCP (single strand conformation polymorphism)法はPCRで増幅したDNAフラグメントを熱変性して一本鎖DNAとした後,非変性条件のポリアクリルアミドゲルで泳動することにより1塩基の違いによって生じる高次構造の変化を泳動距離の違いとして検出する方法である.突然変異やDNA多型などのゲノム中のDNA塩基配列の違いを迅速かつ容易に検出する方法として,広く用いられており,優れたSNPs検出法の1つである1,2)
 いくつかの改良がこの方法に対して行われているが,なかでもPLACE-SSCP (Post-Labeling Auto-mated Capillary Electrophoresis)法はポストラベル法を用いることにより複数の蛍光色素でのラベルが可能で,キャピラリーシークエンサーで泳動を行うことにより,電気泳動からデータの収集,解析までを自動化できるという利点がある3,4).これはDNA解析の大規模化,ルーチン化を行ううえで有利であり,今後ますます有用になると思われる.

Application編

リウマチ性疾患

著者: 山口晃弘 ,   山本一彦

ページ範囲:P.1141 - P.1146

はじめに
 リウマチ性疾患とは筋肉・関節・皮膚などの症状を主とした全身性慢性炎症性疾患の総称である.本疾患群の原因として,免疫システムの異常が自己の組織を障害してしまう機序(自己免疫異常)が考えられている.
 この免疫システムの破綻の原因は不明であるが,本疾患群は複数の遺伝要因と環境要因が組み合わさって成立する"多因子疾患"であるとされている.

コーヒーブレイク

朝市の風景

著者: 屋形稔

ページ範囲:P.1140 - P.1140

 朝市は全国いや世界のどの街でもよく見られる風景である.生活にとけこんだ風景とも言えるし,旅で見たこの風景ほど旅情豊かなものはない.
 1966年頃イタリーのナポリで見た朝市のこぼれるくらい積まれたオリーブのつやつやしい色彩は見事であった.1979年にフィンランド(スオミ)を旅して白い都ヘルシンキのロマンチシズムを満喫したが,さらに車で6時間ほど走った古都トウルクも別の味わいがあった.ヘルシンキのロシヤ正教大寺院近くの大市場は冬の長い国の貴重な野菜や果物がふんだんに供給されていたが,トウルクのホテルの前の大広場の朝市も活況を呈していた.公認の移動式くじびき屋があちこちに開かれていたが,試みに1マルカ(100円)を投じて1枚ひいて目覚まし時計を当てたのも忘れ難い.

トピックス

バーシカン

著者: 古賀友之 ,   川島博人 ,   宮坂昌之

ページ範囲:P.1147 - P.1149

1.はじめに
 プロテオグリカンは,グリコサミノグリカンがコア蛋白と共有結合した糖蛋白であり,コラーゲンなどとともに結合組織の細胞外基質の主要な構成成分である.グリコサミノグリカンは,ウロン酸(D-グルクロン酸またはL-イズロン酸)とアミノ糖(D-ガラクトサミンまたはD-グルコサミン)の二糖繰り返し構造から成り,糖残基には多数の硫酸化を受け,強く陰性に荷電されている.アミノ糖やウロン酸の種類および硫酸基の付加する位置の違いにより,ヒアルロン酸,コンドロイチン,コンドロイチン硫酸,デルマタン硫酸,ヘパリン,ヘパラン硫酸,ケラタン硫酸などに分類される.これらは以前はムコ多糖と呼ばれ,その構造はムコ多糖分解酵素の先天性欠損によるリソソーム蓄積症の研究などにより解明された.
 バーシカンは,血管,脳,皮膚,軟骨などの組織に比較的広範に分布する大型コンドロイチン硫酸プロテオグリカンである.本項では,バーシカンのさまざまな疾患へのかかわりについて,最近の報告を基に概説する.

質疑応答 一般検査

骨髄穿刺検査

著者: 新倉春男 ,   K生

ページ範囲:P.1150 - P.1151

 Q 骨髄穿刺に際し,塗抹標本のほかにclot section   を作ることの必要性についてお教えください.

学会だより 第11回日本臨床微生物学会

よしやるぞ,との心意気をもらって

著者: 奥住捷子

ページ範囲:P.1152 - P.1152

 本年2月5日(土)と6日(日)に第11回日本臨床微生物学会が横浜(県民ホール・ワークピア横浜)で伊藤章(横浜市立大学)会長,田澤節子(昭和大学藤ケ丘)副会長によって開催され約800名の参加者があった.本会に参加する度に思い出すのが,紺野昌俊帝京大学名誉教授によって運営された第1回日のあの熱気.真冬なのに参加者の頬は上気し,会場は,階段に座る者,演壇裏の楽屋の座敷の荷物に埋もれながら漏れ聞こえてくる講演内容をノートに取る者まで見られた.紺野会長から,帝京大学臨床病理・中央検査部の方々への労いの言葉,閉会を宣言しても拍手の嵐で席を立とうともしない微生物検査・技術を学ぼうとする仲間たち,微生物を可愛がっているこんなにたくさんの方々と一緒に勉強できた感激は,11年後の今でも忘れることができない.あの喜びが,「学会に行きましょう」と,この学会への参加を勧める源と思う.

第41回日本臨床細胞学会総会

細胞診自動化への動きは急

著者: 椎名義雄

ページ範囲:P.1153 - P.1153

 第41回日本臨床細胞学会総会は,慶應義塾大学医学部産婦人科教授である野澤志朗会長のもとで,2000年5月31日から6月2目の会期で開催された.内容は招請講演3題,特別講演1題,要望講演2題,教育講演2題,シンポジウム2題,ワークショップ4題,一般講演339題とスライドセミナーであり,いずれも20世紀最後の総会にふさわしいものであった.
 "細胞診の自動化―現状と将来"と題したシンポジウムは,細胞診における黒船の再来として危機意識が高まりつつある問題を取り上げたものである.細胞診の自動化は21世紀後半に築かれたわが国における細胞診断学の体系を根底から揺さぶるもので,本総会で最も注目されたテーマである."1.細胞診自動化の最先端"では,田中昇先生が歴史的背景と現状を紹介され,現在ではmonolayer標本のみならず通常標本においても解析可能で,わが国においては検査企業での精度管理におけるrescreeningとして利用度が高まることを予測された.また,米国からは1995年に米国FDAの承認が得られているAutoPap(ThinPrepPapTest;TPPT)に多数例の子宮頸部擦過材料への応用例が報告された.そのうち,TPPT導入による不適標本の減少,異型細胞の検出率の増加を協調し,その有効性をアピールした.続いて,"2.本邦における細胞診自動化の方向性"と題し,わが国におけるAutoPap,AUTOCyteの導入成績およびThinPrepを用いたmonolayer標本と従来法を比較した成績が報告された.このセクションでは本紙面では紹介できないほどのさまざまな意見が出されたが,異型細胞をスクリーニングする点においてはFDAが承認した基準であればその精度は大方の支持が得られた感はある.しかし,Review Rateの適正な設定,人間と機械の作業分担率の明確化,責任の所在などの課題も残された.また細胞検査士側からは,liqid baseで採取された標本の細胞像が従来法とは異なる点が指摘された.筆者は本総会後に米国北東部地区の細胞検査士ワークショップに参加したが,そこではmonolayer標本とconventional標本における細胞形態の相違が主なテーマであった.既に米国ではmonolayer標本をスクリーニングするための認定制度(Cytyc社)があり,それは90点以上が合格という厳しいものであるが,ThinPrepを導入している施設ではその認定を受けた細胞検査士の就職が有利とのことで,わが国においてもその必要性が議論される時期はそう遠くはないであろう.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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