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雑誌目次

論文

臨床検査44巻2号

2000年02月発行

雑誌目次

今月の主題 血流 巻頭言

レオロジー,その病態・治療に持つ意義

著者: 磯貝行秀

ページ範囲:P.123 - P.125

1.用語について
 レオロジー(rheology)なる用語は1929年ECBingham (米)により命名され"変形と流動の科学"と定義された.適当な邦訳がないまま今日まで汎用されている.中国では"流変学"である.本来コロイド化学・化学工学・高分子化学・物理学の一部分を構成していたが,内容的に生物学と共役する部分があるのでAL Copley (米)は,1948年第1回国際レオロジー学会がオランダ,Scheveningenで開催された折,バイオレオロジー(biorheology)なる用語を提唱した.すなわち,生体より直接得られた試料を扱うレオロジーとした.バイオレオロジーは次の6つのカテゴリーに分けられる.①hemorheology,②rheology of circulation,③cellular rheology,④molecular rheology,⑤rheology of biological fluid,⑥rheology of solid tissues.
 ここではhemorheologyについて内科臨床との関連で病態生理学的意義について述べる.

総説

コンピュータシミュレーションによる血流動態の解析

著者: 山口隆美

ページ範囲:P.126 - P.133

 粥状硬化斑周囲の血流と血管壁の力学的相互作用に関する計算力学的研究,培養内皮細胞の計算力学モデルを用いた流れへの適応現象のシミュレーション研究,および,最近の離散要素法を用いた血栓形成過程のシミュレーションを紹介し,計算バイオメカニクス研究の現状について考察した.血流に関する計算バイオメカニクス的研究では,流体力学など他分野において進化した理工学的手法を生体問題に応用してみるという段階を越えて,生物学と力学の両方を統合した課題の解明が必要となっていることを示した.

Shear stressと血管内皮細胞・血液細胞

著者: 川合陽子 ,   桜井公美

ページ範囲:P.134 - P.143

 血管内皮細胞や血小板・白血球などの血液細胞は絶えず血流に曝されている.血流により生ずるずり応力(shear stress)は内皮細胞の抗血栓性を中心とする生体の恒常性維持に重要な役割を担っている.ずり応力がこれらの細胞機能に与える影響やそれらの相互作用は,遺伝子レベルで緻密に制御されている.血流による制御機構を理解することは,動脈硬化の発生機序ならびに血栓症や臓器における虚血再灌流の病態解明や治療戦略上重要である.

各論―血流測定とその意義

血流Doppler

著者: 北川剛 ,   重松宏

ページ範囲:P.144 - P.147

 超音波Doppler法はcolor Doppler断層法の発達により,簡便かつ正確に形態そして血流動態を評価することが可能となった.心臓,脳,上下肢などの血流を評価するに当たり,超音波Doppler検査は非侵襲的かつ繰り返し行うことができ不可欠な検査と考えられる.今回,その原理と具体的な頸動脈,四肢動脈の検査法につき紹介する.

トレーサーを用いた心筋血流分布の解析

著者: 黒木茂広 ,   島田和幸

ページ範囲:P.148 - P.154

 心筋虚血,心筋viability (心筋生存能)の評価には放射性同位元素を用いた心臓核医学検査が不可欠である.従来より,タリウムを用いた負荷心筋シンチグラフィが主に利用されていたが,最近テクネシウム製剤による急性心筋梗塞の初期診断や治療効果判定としての検査が注目されている.

心腔内血流の解析

著者: 赤石誠 ,   馬場彰泰

ページ範囲:P.155 - P.161

 心腔内の血流は,心臓の拍動に伴い,波形を作っている.静脈から心房へ,心房から心室へ,心室から大血管へと血流は,心周期に合わせて変化している.この血流波形は,静脈の容量特性,心房の伸展性,心房収縮性,左室弛緩,左室拡張期の伸展性,心臓外の心膜や胸腔からの圧迫の影響を受けている.これらをすべて勘案して,波形から心機能を評価することは困難であるが,いくつかの臨床的に有用な指標が提唱され,普及されつつある.さらに,血流速度の計測により,心腔内圧を推定することが可能となり,これは現在の心エコー図検査にはなくてはならないものとなっている.

脳血流の測定と病態

著者: 田中耕太郎

ページ範囲:P.162 - P.170

 正常な脳機能は常時,適切な脳血流の供給に全面的に依存しており,脳循環は種々の調節機能によって幾重にも保護されている.各種神経疾患における脳血流測定は,病態の把握のみならず,治療方針の決定や予後推定に大変重要な情報を与えてくれる.

肝血流の測定と病態

著者: 竹井謙之 ,   佐藤信紘

ページ範囲:P.171 - P.178

 肝は特徴的な循環系を有しており,心臓と腹腔内臓との中間に位置することから,腹腔諸臓器の機能維持や血行動態の緩衝臓器として全身循環の調節に役だっている.腹部諸臓器から静脈が集合して肝に流入する門脈は種々の肝障害の影響を受けやすく,肝内外の血管抵抗の変化や血流動態の撹乱により臨床的に重要な門脈圧亢進症や肝外シャント,肝虚血が招来される.肝循環動態を適切に評価することはこれらの疾患の病態を正しく把握し,適切な治療を行ううえで有用な情報を提供する.

腎血流の測定と病態

著者: 浅野健一郎 ,   渡辺毅

ページ範囲:P.179 - P.183

 腎血流量測定には放射性物質を用いて正確な分腎機能(RPF,GFR)が得られるレノグラム,非侵襲的に繰り返し血流速度が測定できる超音波Doppler法のほか,dynamic CT,dynamic MRIなどが川いられる.腎血管性高血圧,移植腎,腎の腫瘍性病変,血管性病変などでは腎血流の測定が診断に有用であり,各測定法の利点を生かしながら応用されている.

話題

動脈硬化プラーク破裂と血流

著者: 福原慎也 ,   由谷親夫

ページ範囲:P.184 - P.188

1.はじめに
 急性冠動脈症候群(acute coronary syn-drome,以下ACSと略)急性心筋梗塞,不安定狭心症,突然死を含む用語として用いられている1).このACSの病態の基本となるものは,冠動脈壁における粥腫の破綻とそれに伴う冠動脈血栓の形成である1~9)

High-Intensity Transient Signals(HITS)の測定

著者: 山上宏 ,   長束一行

ページ範囲:P.189 - P.192

1.はじめに
 1982年にAaslidら1)が開発した経頭蓋超音波Doppler法(Transcranial Doppler;TCD)は,2MHzの超音波探触子を側頭部に固定し,Dop-pler信号により中大脳動脈などの頭蓋内主要脳動脈の血流速度を無侵襲に測定する方法である.この方法を用いて,くも膜下出血後の血管攣縮や頭蓋内血管の狭窄性病変の診断,手術中や虚血性脳血管障害例の脳循環の評価など,さまざまな頭蓋内の情報が得られることが報告されてきた.
 一方,1960年代から潜水病や開心術中に動脈血流を超音波でモニタしていると,空気または他の気体と思われる一過性の強いDoppler信号が捉えられることが報告されていた.本来,Dop-pler法は血管内の血液の速度に依存した超音波信号の変化により血流速度を測定するものだが,正常血液の構成成分とは大きさも音響インピーダンスも異なる物体(栓子)が通過したときに強いDoppler信号が捉えられる.これを一般にhigh-intensity transient signals(HITS)あるいは微小栓子信号(micro-embolic signals;MES)と言う.

エコノミークラスシンドローム

著者: 丸山征郎

ページ範囲:P.193 - P.195

1.はじめに
 エコノミークラスシンドロームとは,言い得て妙の症候群である.狭い座席に同じ姿勢を強いられて,エコノミークラスに"詰め込まれて"海外旅行すると,相当なストレスとなる.そして時にこれが下肢静脈血栓や肺梗塞などの血栓を併発することもあり,これをエコノミークラスシンドロームと言う.
 本稿ではエコノミークラスシンドロームの概念を述べ,その発症機構などについて述べる.

生体における微小循環内での血小板の挙動解析

著者: 末松誠 ,   片山富博 ,   伊藤昌春 ,   石村巽

ページ範囲:P.196 - P.198

1.はじめに
 血小板がADPやノルエピネフリン,コラーゲンなどの物質と接触し活性化されることは血小板凝集検査にこれらの刺激物質を用いることにみるまでもなく古くからよく知られている現象である.教科書的には血小板は血管内皮細胞の近傍では,プロスタサイクリンや一酸化窒素(NO)などの抗血小板物質の作用により活性化が抑制されており,内皮細胞の損傷によるコラーゲンとの接触があって初めて活性化されると考えられてきた.一方,血小板が流れに伴うshear stressにより活性化されることとその分子機構がin vitroで明らかにされつつある.しかしながら流体下でかつ生体内での血小板の挙動解析とその分子機構については,血管内を高速で流れる微小粒子である単一血小板を画像化して捉えることが技術的に困難であるために極めて知見が乏しかった.
 本稿ではこの問題を解決するために開発された生体の微小循環における血小板の撮像技術について紹介する.

今月の表紙 帰ってきた寄生虫シリーズ・2

顎口虫

著者: 藤田紘一郎

ページ範囲:P.120 - P.121

 顎口虫は野生動物の胃壁や食道壁に寄生している寄生虫で,ヒトを本来の宿主としないため,ヒトでは幼虫のまま体内を移行して種々の病変を起こす(幼虫移行症,larva migrans).1940~1960年ころにはライギョの生食による有棘顎口虫感染例がみられたが,その後の食生活の改善に伴って国内での感染はみられなくなった.ところが,1980年代に入って,九州,西日本を中心に輸入ドジョウのおどり喰いによる剛棘顎口虫の感染例,1985年には九州南部でヤマメなどの渓流魚の生食によると思われるドロレス顎口虫感染例,1988年には三重県下で日本産ドジョウの生食による日本顎口虫の感染例が相次いで報告された.現在でも散発的に報告がみられ,また,輸入感染症としても重要である.
 国内でみられる顎口虫は,イヌ,ネコの胃壁に寄生する有棘顎口虫(Gnathstoma spiniger-um),イノシシの胃壁に寄生するドロレス顎口虫(G.doloresi),イタチの食道壁に寄生する日本顎口虫(G.nipponicum)と日本にはなく東南アジアのブタの胃壁に寄生する剛棘顎口虫(G.hispidum)の4種である.

シリーズ最新医学講座―遺伝子診断 Technology編

TaqMan-ASA法

著者: 李雪 ,   成澤邦明

ページ範囲:P.201 - P.207

はじめに
 既知の一塩基置換の検出は遺伝病の遺伝子診断ばかりでなく,家族性腫瘍やcommon diseaseの危険因子の検査,さらには個人識別などの法医鑑定上でも極めて有用な手段となっている.これまでにも既知微小変異検出法としてASO法,PCR-RFLP法,アレル特異的PCR (ASPCR)法などがあるが,いずれもPCR後にハイブリダイゼイションや電気泳動が必要であり,自動化や技術の標準化が困難であった.
 ここに紹介するTaqMan ASA法はASPCRとPCR産物量をリアルタイムで定量できるABI PRISM 7700 Sequence Detection System (PRISM 7700)とを組み合わせた方法で,PCR後の処理を全く必要としないことから自動化が可能な方法である.

用語解説

用語解説・2

著者: 前川真人

ページ範囲:P.208 - P.212

ゲノム
 ゲノムとは,DNAの1次構造すべてを指すものと考えればよく,ヒトゲノムは30億塩基対すべての配列を指す.このなかには,10万種類の遺伝子が存在する.遺伝子は遺伝情報を持った1単位であり,ゲノム上には遺伝情報を持たない遺伝子と遺伝子のつなぎのような部分も存在するため,ゲノムは全遺伝子よりも大きい概念と言える.
 ヒトにおいては,精子と卵子から生じた受精卵から出発し,ヒト1個体を形成する約60兆個の細胞にまで分裂,分化していく.それぞれの細胞には22対44本の常染色体と1対2本の性染色体の合計46本の染色体があり,10万種類の遺伝子を含んだゲノムがたたみこまれている.各遺伝子は,染色体の決められた位置に局在し,遺伝子のプローブがあれば,in situ hybridizationによって,その遺伝子の局在を決定することも可能である.個々の細胞の核内には父親・母親由来のそれぞれ1個づつの遺伝子が存在し,この対を成す遺伝子を対立遺伝子(allele)と呼ぶ.

トピックス

CETP欠損症研究の最近の進歩

著者: 千葉仁志

ページ範囲:P.213 - P.215

 コレステリルエステル転送蛋白(cholesterylester transfer protein;CETP)は血管壁から肝臓へのコレステロール逆輸送において重要な役割を果たしている.すなわち,HDLは血管内皮細胞より遊離型コレステロールとリン脂質を引き抜き,それらからレシチン:コレステロールアシル基転移酵素がエステル型コレステロールを合成し,それをCETPはVLDLやLDLなどのトリグリセリドと交換する.CETP欠損はエステル型コレステロールのHDLへの蓄積を招き,高HDLコレステロール血症を生じる.日本人研究者はCETP欠損研究で最大の貢献をなしてきた.CETP欠損はまた臨床検査の分野でも少なからぬ波紋を生じた.1990年代後半にHDLコレステロールおよびLDLコレステロールの自動測定試薬がいくつかの日本企業によって実用化されたが,CETP欠損は試薬間乖離の原因の1つとして検査室の関心を集めている1,2)
 CETP欠損の原因として最初に同定されたイントロン14のスプライシング異常(Int 14G(+1) A)は日本人の約1%に見いだされる変異で,ホモ接合体では血漿CETPの活性,抗原ともに消失し,120~200mg/dlに及ぶ高HDLコレステロール血症を呈する3).まれであるが,エクソン10の309番目のグルタミンが終止コドンに置き換わる変異4),エクソン6の181番目のグリシンが終止コドンに置き換わる変異5),イントロン10の第2塩基におけるT G変異によるスプライシング異常6),などの日本人家系も報告されている.これらはホモ接合体ではCETP活性は完全に消失し,Int 14Aと同様に著しい高HDLコレステロール血症を呈する.

質疑応答 資格・制度

感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律

著者: 本田達郎 ,   K生

ページ範囲:P.216 - P.218

 Q 1999年4月から「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」が施行されましたが,同新法の改正の要点についてお教えください.

資料

新型瞳孔計(DK-101)の健常者における基礎的検討

著者: 磯谷治彦 ,   木之下徹 ,   味木幸 ,   高橋良当 ,   平尾紘一 ,   鈴木吉彦 ,   松岡健平

ページ範囲:P.219 - P.223

 小型軽量化を目指した新型瞳孔計"DK-101"(スカラ社)の開発を指導し,その基礎的検討を健常者84例を対象に,多施設で行った.その結果,従来のopen-loop型瞳孔計での報告と同様高い再現性を示し,対光反応の各因子は年齢依存的に加齢の影響を認めた.特に面積値の各因子は優れた信頼性が得られたが,一部の反応速度については若干のばらつきがみられた.操作も簡便で,面積を中心に評価すれば,自律神経機能検査として有用な機器である.

コーヒーブレイク

(続)三枚の絵

著者: 屋形稔

ページ範囲:P.223 - P.223

 水の都といえばベネチアが最も有名であろう.ベニスと言ったほうが馴染み深いこの町の1枚の風景画を私は物心ついた昔から見てきた.亡父の診察室の一隅に架けてあった画家の名もわからぬ小さな油絵をその死後は私の座右で朝夕眺めた.
 外国への淡い憧れは私のr中にこの画から醸し出されたのかもしれず事実3回ほどこの水都を訪れたものである.そして運河から眺められる水に浮かんだ大理石のサンタマリア・デラ・サルーテ教会がその画であることも確かめた.実際のベネチアの小路はごみごみとしており有名なホテルの印象もそれほどよいものではなかったが,全体のイメージはやはりその画の幻想的な美しさを裏切るものではなかった.

編集者への手紙

ポリアクリルアミドゲルを使って行うアミラーゼ活性の簡便な検出法

著者: 小林(長島)陽子 ,   石井裕子 ,   李暁峰 ,   関啓子

ページ範囲:P.225 - P.227

 アミラービは生物界に広く存在する酵素の1つで,ヒトをはじめとする動物の唾液中に多量に含まれ,また,多くの微生物も産生することが知られている.筆者はヨウ素デンプン反応を利用して,デンプンを含むポリアクリルアミドゲル上でアミラーゼ活性を透明帯として視覚的に検出する方法を考え,細菌が産生するアミラーゼの分子量を概算した.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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