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雑誌目次

論文

臨床検査45巻13号

2001年12月発行

雑誌目次

今月の主題 検査領域でのリスク・マネジメント 巻頭言

検査領域でのリスク・マネジメント

著者: 菅野剛史

ページ範囲:P.1619 - P.1620

 リスク・マネジメントは,組織体での「事故」に対する対応とその管理機構を示すものと考えられる.卑近な例がY乳業での安全管理とそれに対する対応の問題,M自動車のクレーム隠蔽事件と管理体制,米国でのタイヤ事故とその対応など,いずれも安全管理上の問題が,組織体の管理機構の甘さから,事故につながっていった事例として考えられる.一方,医療の領域でも「医療事故」と考えられる事故が,それなりに報道され国民の関心を引いているが,報道が大大的であること,報道内容からは医師がパターナリズムにあぐらをかいた独裁者的な扱いを受けたり,医療の密室行為が非難されたり疑いを前提とした内容には,医療人の真摯な取り組みが無視されているような気風さえ感じられてならない.
 しかし,事故は事故である.どのように事故を回避し,完全に根絶するかは不可能であるかも知れないが,医療の現場で,安全対策の手順が明確にされ,それを遵守する姿勢は,必ず事故を回避し,患者さんが致死的な状態や,後遺症を残すような事例に陥ることを避ける第一歩であると確信するものである.事故を未然に防ぐために「事故は起こりうる」ことを前提として,医療行為の各段階を,どのように点検しながら次の段階に進むかを手順として明確にし,さらに点検が不十分な場合には先へ進んではいけない手順書を,各人が遵守することが重要であり,かつ手順書の作成が重要である.

総説

TQMとリスク・マネジメント

著者: 中甫

ページ範囲:P.1621 - P.1628

近年,医療の分野における医療事故,医療訴訟に関連するニュースをしばしば見聞きするようになり,リスク・マネジメントの必要性が叫ばれている.リスク・マネジメントはリスクを防止(予防)するための仕組みと活動と理解してよいが,さらに顧客が満足するような製品とサービスを提供することを目的とした全企業的なTQMの一環と考えられている.その点は医療も同じで,TQMの視点で医療(臨床検査)におけるリスク・マネジメントを考え,実践する必要がある.

リスク・マネジメント部門に要求される条件

著者: 内田宏美

ページ範囲:P.1629 - P.1642

 医療におけるリスク・マネジメントは,組織の人的・物的・財的資源の損失を最小限にするために計画された,「高度な意図性」「誠実な努力」「知的な管理」「熟練した実践」による,医療の質の向上をめざす包括的な活動である1・2).したがって,人間尊重の理念に裏打ちされたチーム医療の推進者として,水平で開かれた組織運営を基盤として,協力して問題に対処し変革を生み出すリーダーシップの発揮が,リスク・マネジメント部門に要求される.

インシデント・レポートのあり方

著者: 山中勝 ,   大迫智之 ,   加藤充 ,   田中則次 ,   谷家恵一 ,   稲村幸枝 ,   東哲明 ,   川崎勝弘 ,   大城孟

ページ範囲:P.1643 - P.1651

 臨床検査部門のインシデント・レポートのあり方は,基本的にはすでに整備されている看護部門のそれと同じであるが,様式のあり方については,①出来事の領域分類はさらに明確にすること,②業務のプロセスとエラーの内容がわかるように構成すること,③どの程度の機械化がどの範囲まで可能なのかがわかるように構成すること,報告のあり方については,報告率の向上と高報告率の維持をめざすこと,報告事例の絶対的不足については,近隣病院中央検査部とのネットワーク化で対応することを強調した.また,同レポートを補完するために"アッ!!"良カッタ報告を提言し,その利点を述べた.

各論―リスク・マネジメントの実際

輸血におけるリスク・マネジメント

著者: 安藤高宣 ,   高本滋

ページ範囲:P.1677 - P.1682

 輸血には輪血副作用,輸血過誤といった一定のリスクが存在する.輸血副作用は感染性および非感染性副作用に大別され,さらに非感染性副作用は溶血性,非溶血性,輪血後GVHDに分類される.輸血過誤で最も深刻なものはABO不適合輸血であり,輸血学会の調査によれば5年間で約2割の施設が経験している.これら輸血に伴うリスクに対しては,検査技師による24時間体制の確立および過誤防止のために二重三重の予防機構を持ったシステムを構築することが重要であるが,根本的な対策は適正輸血を推進し不必要な輸血を行わないことである.

環境汚染に対する予防と対策(医療廃棄物処理)

著者: 岡田淳

ページ範囲:P.1683 - P.1689

 医療廃棄物による環境汚染を防止するためには,適切な分別後に可能な限りの中間処理を行って排出することが肝要である.感染性廃棄物は確実に滅菌される方法を選択すること,廃液や細胞毒性薬剤などの化学物質はできる限り不活化すること,さらに焼却後に発生するダイオキシンなどの内分泌攪乱物質の発生を極力抑えること,などが大切である.医療人は医療廃棄物のリスクを認識し,地球環境を守る意識をもたなくてはならない.

医療事故防止へのヒューマンファクターズ・アプローチ

著者: 芳賀繁

ページ範囲:P.1690 - P.1694

 医療の現場で働く人がヒューマンエラー防止,医療事故防止のための実践活動を行うのに役立つであろうヒューマンファクターズの基礎知識として,うっかりミス(スリップ)と錯覚・勘違い(ミステイク)の発生メカニズム,違反と不安全行動の心理的要因,機器デザインに関する人間工学的原則を解説した.これらを踏まえて,スリップ発生要因の除去,チーム・パフォーマンス訓練技法の開発,TQMによる安全文化醸成などの必要性が示唆される.

医療事故の予防と対策(1)

検体取り違えの防止

著者: 中野幸弘

ページ範囲:P.1653 - P.1657

 臨床検査室においてもバーコードを利用することが一般的になってきた.近年このバーコードの国際標準が勧告され,今後統一が進むものと考えられる.しかし,バーコードが統一されても検体の取り違えや検体の破損はなくならない.この原因について,リスクの把握,リスクの分析,リスクの改善方法について検討を行ったところ,サンプリング時または検体提出時の患者(様)の認識に問題があると考えられた.現段階では作業の標準化やマニュアル化が必要不可欠であり,これらに準じて作業することでリスクを少なくするしかない.
今後は患者とサンプリング容器などを共通のシステムで管理できるようにし,検体の取り違え防止を図るシステムの開発が必要である.

医療事故の予防と対策(2)

データの取り違えの防止

著者: 初田和由 ,   辻哲 ,   片山善章

ページ範囲:P.1658 - P.1664

 検査業務は分析装置やコンピュータの導入によって自動化・システム化が進んでいるが,人が介在することにより種々の過誤が発生することがある.検査作業の過誤を減らすには,作業マニュアルの作成を行い,作業の工程管理を実施することが求められる.さらに,測定装置導入前の検討を十分に行って,信頼性を高める必要がある.最終の確認段階として,結果報告前にデータの間違い,誤報告を防止するシステムを構築することによって,質の高い検査業務の実施が可能となる.

院内感染の予防と対策(1)

サーベイランスとアウトブレイク

著者: 沼口史衣

ページ範囲:P.1665 - P.1670

 アウトブレイクとは,日常よりも高いレベルで特定の感染症が発生することをいう.微生物検査室からの情報は,感染管理専門家にとって,アウトブレイク発生を知らせる最初の警告である.アウトブレイクが発生した場合は,調査を行い,感染源,感染のリスク因子および伝播経路を明らかにし,伝播防止策を実施する.日常的なサーベイランスからアウトブレイクを察知し,速やかに対応することは,医療施設におけるリスク・マネジメントの重要な手段である.

院内感染の予防と対策(2)

針刺し事故

著者: 森下芳孝

ページ範囲:P.1671 - P.1675

近年,医療現場で針刺し事故が多発しており,多くの施設では,使用針のリキャップ禁止,安全器材の導入,作業手順の見直しなどにより,管理・運営面からの事故防止対策が行われつつある.一方,感染予防としては,事故発生後の対応が迅速に行われることが重要であり,HBV,HIVなどに感染した場合の適時のフォローアップのための対応マニュアルを常備しておく必要がある.また,あらゆる血液や体液は潜在的に感染力を有する危険な感染物であり,針刺し事故やその他の鋭利器材事故すべてに対して,被災者は事故報告書を作成し,安全管理担当の専門職員に提出することが重要である.〔臨床検査 45:1671-1675,2001〕

座談会

医療の質向上をめざしたリスク・マネジメント

著者: 池田康夫 ,   岩田進 ,   児玉安司 ,   高橋高美 ,   菅野剛史

ページ範囲:P.1695 - P.1704

 菅野(司会) 本日は「医療の質向上をめざしたリスク・マネジメント」と題しまして,検査領域および検査とかかわりを持つ方々に,それぞれのお立場からお話をうかがいたと思います.
 リスク・マネジメントという考え方を実際に医療の領域にどう適応させていくかという問題について,まず児玉先生にお話しいただければと思います.

今月の表紙 帰ってきた寄生虫シリーズ・24

ノミ・シラミ

著者: 藤田紘一郎

ページ範囲:P.1616 - P.1617

 日本には約80種のノミが分布し,そのなかでヒトノミ(Pulex irritans),ネコノミ(Ctenoce-Phalides felis),イヌノミ(C.canis),ケオプスネズミノミ(Xenopsylla cheopis)が衛生上重要である.ネコノミはネコだけでなくイヌやヒトにも寄生し,現在,日本でみられるノミはほとんどがネコノミである.成虫の体長は雄1~2mm,雌2~3mmで,褐色,扁平で翅はなく,脚が発達している.頭部の前縁はゆるく湾曲し,前胸部と頬部に櫛棘がある(図1a, b, c).宿主のネコの毛の間で交尾し産卵する.卵は床や地上に産み落とされ,数日で孵化する.幼虫は1~2週間で蛹となり,その後約1週間で成虫になる.生存の割合をみると成虫5%,卵50%,幼虫35%,蛹10%なので,駆除するためには,ネコやイヌに昆虫発育阻止作用のある薬剤を使用したり,よくいる場所を定期的に清掃,殺虫剤処理する必要がある.ノミ刺症はノミの唾液に対するアレルギー反応で,激しい掻痒感や浸潤性紅斑などがみられる(図2).刺される頻度が多くなると,遅延型の反応から即時型反応を生じ,徐々に免疫を獲得して無反応となる.ネコノミ症は膝から下に好発する.

コーヒーブレイク

半世紀の歩み

著者: 屋形稔

ページ範囲:P.1670 - P.1670

 2001年も間もなく終わるが,臨床検査関係ではこの年は日本に臨床病理学が呱々の声をあげて50周年を迎えたという一つの区切りの年でもあった.この学会名も前年には日本臨床検査医学会と呼ばれることになったが,8月には最近3代の会長である河合忠,河野均也,櫻林郁之介の若手3氏に,石井暢氏と私という古手2人を加えた記念座談会がもたれ,様々の歴史が語られた(臨床病理12号所載).
 私にとってもこの半世紀は医師としての年輪にほぼ合致するが,途中から特に臨床検査の歩みと奇しくも軌を一にして歩むことになった.新潟医大を卒業したのが1948年で,翌年新任間もない鳥飼龍生教授の内科に入局した.当時定量検査は尿糖のPavy―隈川法とかNPNのキエルダール法とか数項目を数えるのみであったが,教授は患者診療に不可欠であるから自分で習熟するよう新入医局員に数か月のクルズスを課された.

シリーズ最新医学講座―免疫機能検査・12

運動が免疫機能に及ぼす影響

著者: 赤間高雄

ページ範囲:P.1705 - P.1710

体力としての免疫機能
 運動する目的として体力の向上を考える人は多い.体力は行動体力と防衛体力に大別される.行動体力は,走る,跳ぶ,投げる,などの運動する能力のことで,体力テストで測定できる体力である.これに対して,防衛体力は「体力が落ちて病気になってしまった」などと言うときの体力のことであり,体の恒常性を乱す様々な要因(ストレッサー)から体の健康を守る能力のことである.ストレッサーには,物理化学的,生物的,生理的,および精神的なものがある(図1).このうち生物的ストレッサーは,細菌やウイルスなどの病原性微生物のことで,生物的ストレッサーによる疾患は感染症である.感染症に対する生体防御機構は免疫系が担っている.すなわち,生物的ストレッサーに対する防衛体力とは免疫機能のことである.
 感染症は,現在においても人類の健康にとって大きな脅威であり,最近話題になった感染症としては,インフルエンザ,病原性大腸菌,AIDS,多剤耐性菌などがある.高齢者では加齢による免疫機能の低下に伴って,インフルエンザによる死亡が増加することが知られており,高齢化社会においては加齢による免疫機能の低下を防ぐ方策が必要である(図2).また,一般人よりは行動体力レベルが高い一流スポーツ選手においても上気道感染症や消化器感染症は数多く発生するため,選手のコンディションを維持するには選手の免疫機能を保持しながらトレーニングすることが必要である(図3).

トピックス

三重県における遠隔細胞診断(テレサイトロジー)

著者: 奥田容山 ,   村田哲也 ,   白石泰三

ページ範囲:P.1711 - P.1715

はじめに
 三重県内の14施設では遠隔画像診断装置(T2000/ニコン社)が導入され遠隔病理診断ネットワーク(三重パソネット,図1)注1が構築されている1~4).遠隔画像診断が導入されている施設では遠隔病理診断と遠隔細胞診断(テレサイトロジー)が実施されている.遠隔細胞診断では遠隔病理診断に比較し三次元的な細胞集塊の観察,標本内の非連続的に存在する細胞所見の選択など大きな違いも明確になっているので,その問題点,運用方法,遠隔診断の概要や実施環境も合わせて紹介する.
 注1)三重病理医会の人的ネットワークを基盤に,行政支援(半額負担)と施設の負担により構築された.

質疑応答 微生物

ディスク法の感受性試験に対するMICの利用

著者: K生 ,   大野章

ページ範囲:P.1716 - P.1716

 Q MICは抗菌薬の菌に対する最小発育阻止濃度といわれますが(MRSA 8μg/mlで耐性?),実際にこの値は細菌検査でどのように利用されているのか,またディスク法の感受性試験にどのうように利用されているのか,お教えください.

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「臨床検査」 第45巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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