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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査45巻8号

2001年08月発行

雑誌目次

今月の主題 薬剤耐性菌をめぐる最近の話題 巻頭言

薬剤耐性菌をめぐる最近の話題

著者: 猪狩淳

ページ範囲:P.809 - P.810

 ここ10~20数年来新しい薬剤耐性菌が相次いで報告され,医療上はもちろんのこと社会的にも問題となっているものが多数あり,耐性菌による感染症が「再興感染症」として注目を集めている.
 耐性菌による感染症で,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症が社会的に大きな話題になったことは記憶に新しい.ほかにも欧米では,バンコマイシン耐性腸球菌感染症の蔓延,ペニシリン耐性肺炎球菌による化膿性髄膜炎などがあり,わが国でも欧米ほどではないが症例が報告されている.

総説

臨床現場において警戒が必要な薬剤耐性菌と関連する諸問題

著者: 荒川宜親

ページ範囲:P.811 - P.819

 MRSAやVREなどグラム陽性菌の多剤耐性菌が世界的規模で問題となっている.一方,これまで有効性が期待できる抗菌薬が多数存在し,何とかコントロールが可能であった緑膿菌やセラチア,エンテロバクター,肺炎桿菌などのグラム陰性桿菌においてもニューキノロン,カルバペネム,アミノグリコシドなどに多剤耐性を獲得した臨床分離菌が出現しつつあり,それらの蔓延は21世紀の医療にとって大きな脅威となりつつある.

いま話題の耐性菌

アンピシリン耐性インフルエンザ菌

著者: 渡辺彰

ページ範囲:P.821 - P.826

 市中発症呼吸器感染などで肺炎球菌の次に重要なインフルエンザ菌のampicillin耐性は,以前はβ-lactamase産生が主でβ-lactamase阻害剤で対応し得たが,近年,β-lactamaseを産生せずにペニシリン結合蛋白の変異による耐性を示す(BLNAR)株が増えている.分離率は5~40%前後と報告により差はあるが,β-lactamase産生株に代わって増加しつつある.幸いに耐性度は低く,PIPCやCTRXなどのβ-ラクタム薬やキノロン薬の適応が高い.

フルオロキノロン耐性淋菌,セフェム耐性淋菌

著者: 小野寺昭一

ページ範囲:P.827 - P.832

 わが国における淋菌感染症の疫学的動向について述べ,近年の薬剤耐性淋菌の出現の背景について概説した.フルオロキノロン耐性淋菌は,現在17~65%に存在し,現時点では淋菌感染症には使用できない状況となっている.さらにここ1~2年の間に,フルオロキノロン耐性で新経口セフェム薬耐性の新たな耐性淋菌が増加しており重要な問題となっている.淋菌感染症に対する抗菌薬の投与方法について,根本的な見直しが必要な時期に来ている.

ESBLs産生グラム陰性桿菌

著者: 岡本了一 ,   佐藤優子 ,   中野竜一

ページ範囲:P.833 - P.839

 1990年代に入ると,わが国でもESBL産生菌が分離されるようになってきた.その分離率は増加傾向にあるものの,施設によって大きく異なっている.わが国で検出されるESBLsはToho-IやMEN-1などいわゆるCTX-Mグループに属するものが主であるが,最近では欧米のようにSHV型やTEM型に属するものも分離されるようになってきた.ここでは,これらESBL産生菌の臨床的重要性やその検出法などについて解説した.

メタロ-β-ラクタマーゼ産生グラム陰性桿菌

著者: 柴田尚宏 ,   土井洋平 ,   荒川宜親

ページ範囲:P.840 - P.850

 メタロ-β-ラクタマーゼ(metallo-β-lactamase)は,その活性中心に亜鉛をもつβ-ラクタマーゼで,ペニシリン系,セフェム系抗生物質を分解するだけでなく,クラブラン酸,スルバクタムなどのβ-ラクタマーゼ阻害剤,さらに各種のβ-ラクタマーゼに安定とされるカルバペネムをも分解してしまう酵素である.そうした酵素を産生する耐性菌が,わが国における臓器移植,免疫療法,癌治療などの高度医療の発展に伴い,グラム陰性桿菌感染症で問題になりつつあり,さらにそれらが高度耐性を獲得するような場合,臨床的に非常に問題となると考えられる.しかし現状では,従来のディスク拡散法,微量希釈法により,第三世代セフェム薬,セファマイシン系薬に耐性を示す菌が,メタロ-β-ラクタマーゼを産生する株なのかあるいはESBLや基質拡張型のAmpC型β-ラクタマーゼを産生する株なのか区別することは難しい.そこでわれわれの開発した2-メルカプトプロピオン酸(2-MPA)やメルカプト酢酸ナトリウム(SMA)を用いたメタロ-β-ラクタマーゼ産生菌の検出法は安価で簡便であり,臨床現場での耐性菌の早期発見,院内感染対策にも役立つと期待できる.

クラリスロマイシン耐性Helicobacter pylori

著者: 山口勝 ,   川上由行 ,   小穴こず枝 ,   勝山努

ページ範囲:P.851 - P.856

 Helicobacter pylori (H.pylori)感染による慢性の胃・十二指腸潰瘍は,その除菌による治療効果が極めて高いことから,抗菌薬とプロトンポンプ阻害薬を組み合わせた多剤併用療法が積極的に行われるようになった.しかしながら,除菌不成功例においては,薬剤耐性菌の関与も少なからず取りざたされている.
 除菌治療に際して使用されるクラリスロマイシン(CAM)は,その耐性菌の出現率も10%前後と高率であり,除菌治療前に医師はその情報を得ておくことが望ましいと考えられる.
本稿においては,H.pyloriの概要について解説したうえで,CAM耐性のH.pyloriについて,その耐性機構および分離菌動向の現状を示し,現在挙げられている問題点について述べる.

バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)

著者: 大野章

ページ範囲:P.857 - P.861

 1986年に出現したバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)は,1990年代には欧米を中心に世界的な広がりを見せている.日本では1996年にはじめて分離報告がなされ,その後散発的にではあるが,全国的に分離されるようになった.VREの出現の背景にはバンコマイシンと同系のアボパルシンの動物成長促進剤としての長期使用が関わるとされており,本稿では欧米におけるVREの疫学的背景,日本における輸入鶏肉から分離されたVREと人由来VREの関係,あるいは健康人におけるVRE保菌調査などに視点を当て,VREの現状を概説する.

多剤耐性バクテロイデス・フラジリス

著者: 加藤直樹

ページ範囲:P.863 - P.868

 Bacteroides fragilisは嫌気性菌感染症から最も高率に分離される嫌気性グラム陰性桿菌である.一般臨床で広く使用される多くのペニシリン系薬,セフェム系薬に耐性を示すため,β-ラクタマーゼ阻害薬との合剤が推奨されている.また,クリンダマイシン,マクロライド系薬,テトラサイクリン系薬に耐性の株も多く見られる.既存のニューキノロン系薬には感受性が低い.カルバペネム系薬は嫌気性菌に強い抗菌力を示し,切り札的抗菌薬であるが,耐性株が数パーセント検出されており,今後の動向を注目する必要がある.

多剤耐性結核菌

著者: 飯沼由嗣

ページ範囲:P.869 - P.874

 耐性結核はわが国では頻度が少ないものと考えられてきたが,最新の統計資料では世界の趨勢とほとんど同じであることが判明している.結核菌の耐性化の機序は,新たな外来性耐性遺伝子の獲得によるものではなく,染色体遺伝子の突然変異によることが判明している.迅速感受性診断キットの開発も盛んに行われているが,ジーンチップ,分子ビーコンやラインプローブアッセイなどの耐性遺伝子検査による迅速診断も可能となってきた.

話題

薬剤耐性マラリア

著者: 大友弘士

ページ範囲:P.875 - P.878

1.はじめに
 細菌感染症の化学療法における最大の隘路は,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に代表される耐性菌出現の問題である.同様に原虫感染症においても,薬剤耐性マラリアの出現と熱帯各地への拡散がマラリア対策を著しく困難にしており,しかも致死的感染をもたらす熱帯熱マラリア原虫の薬剤耐性株の出現が近年熱帯各地から報告されているため,事態はいっそう深刻である.そこで,本稿では薬剤耐性マラリアをめぐる最近の知見について解説する.

フルコナゾール耐性カンジダ・アルビカンス

著者: 山口英世

ページ範囲:P.879 - P.883

1.はじめに
 薬剤耐性真菌に関して近年最大の関心事となってきたのは,いうまでもなくフルコナゾール(fluconazole;FLCZ)耐性Candida spp.,特に二次耐性Candida albicansの出現である.それには次のような理由が挙げられる.
(i)Candida感染症(カンジダ症)は深在性真菌症の第1位を占め,その最多起因菌がC. albicansである.(ii)アゾール系抗真菌薬,特にFLCZによる治療は,アムホテリシンB(amphotericin B;AMPH)のそれとならんで現行の抗真菌化学療法の主流となっている.(iii)アゾール系薬剤に対する二次耐性は極めて起こりにくいとされてきた.(iv)FLCZ耐性C. albicansの大半は,イトラコナゾール(itraconazole;ITCZ)をはじめ他のアゾール系薬剤と,また一部はAMPHとも交叉耐性を示す.

アマンタジン耐性インフルエンザウイルス―特に本邦のアマンタジン耐性株出現状況

著者: 斎藤玲子 ,   押谷仁 ,   鈴木宏

ページ範囲:P.884 - P.887

1.はじめに
 インフルエンザウイルスは冬季に増加する超過死亡の主な病因であり,新興感染症として,近い将来新型インフルエンザの到来も懸念される.基本対策はワクチン接種であるが,現行ワクチンでは効果の限界があり,抗ウイルス剤の役割は大きい.米国では,アマンタジン(Am)は抗A型インフルエンザ剤として治療・予防に有効であるとして1960年代より用いられている.しかし,副作用の多さと耐性インフルエンザウイルスの出現が問題となっている.
 本邦では1998年末に抗A型インフルエンザ適応追加後,Amの処方量は急増しており,これまでにない耐性株の大量発生とその伝播が危惧されている.しかし,耐性株に関する分子疫学的研究とインフルエンザ予防・治療への影響について国内で十分調査されているとは言いがたいのが現状である.

今月の表紙 帰ってきた寄生虫シリーズ・20

トリパノソーマ

著者: 藤田紘一郎

ページ範囲:P.806 - P.807

 ヒトに病原性を有するトリパノソーマには,アフリカ睡眠病の病原体であるガンビアトリパノソーマ(Tripanosoma brucei gambiense)とローデシアトリパノソーマ(T.b.rhodesiense),およびシャーガス病を起こすクルーズトリパノソーマ(T.cruzi)がある.
 ガンビアトリパノソーマはアフリカ中央部から西部に,ローデシアトリパノソーマはアフリカ東南部に分布している(図1a).最近,ウガンダでは,スーダン人難民の移入によって感染が拡大し,問題となっている.また,サファリなどの観光旅行での感染例も増加している.ヒトの血液,リンパ液内では錐鞭毛期(トリポマスチゴート)型が二分裂で増殖している(図2).大きさは14~33×2~4μmで変異に富んでいる.この血中のトリパノソーマは,虫体表面の糖蛋白の抗原性を次々と変化させることによって,宿主の抗体による攻撃から逃れて長期間寄生し,感染の機会を待っている.ツェツェバエに取り込まれたトリポマスチゴート型は,中腸内で上鞭毛期(エピマスチゴート)型から発育終末トリパノソーマ型に発育し,ツェツェバエの刺咬時に新しい宿主に注入される.

コーヒーブレイク

デュッセル旅情

著者: 屋形稔

ページ範囲:P.839 - P.839

 今年の11月には世界病理臨床検査医学会連合がドイツのデュッセルドルフで開かれる筈である.つい昨年10月にはここを出発点としてドイツのアウトバーンのほぼ3,000キロを10日ほどかけてベンツを走らせた.1966年来7回のドイツ訪問の6回までがライン沿いのここを基点としており,私の気に入りの街である.
 街の中央にホフガーデンという大きな公園があり,緑豊かで堀と噴水に恵まれた心なごむ場所である.20年ほど前にこのお堀沿いの繁華街ケーニヒスアレーを歩いて偶然日系の商社ビルを見つけて立ち寄った.その時いた社員のSさんに街中や郊外の古城(Schlob Benrat)などを案内して頂いた思い出がある.奥さんが日本テニス界の女王と呼ばれた方で,後々世界的選手になった娘さんはまだ子供であった.

シリーズ最新医学講座―免疫機能検査・8

漢方薬の免疫機能に及ぼす効果とその評価

著者: 趙重文 ,   丁宗鐵

ページ範囲:P.889 - P.895

はじめに
 漢方薬の免疫機能に及ぼす効果について,様々な方面から検討が加えられ,特に最近の10年間は臨床医学,基礎医学を問わず,国内の報告だけでなく海外での報告も目立つようになってきた.そして,漢方薬の免疫調整作用とその免疫薬理学的機序も徐々に解明され,報告されてきている.
 免疫の分野でこれだけ多くの研究や報告がなされているのは,日本において頻用される漢方方剤(処方)が,現代医学的適応症でいう免疫異常や炎症に関係するものが多いということに起因している.この理由は,日本の漢方が中国で感染症の治療を目的に編纂された古典を重要視してきたからであるとされている.

トピックス

破骨細胞をターゲットにした慢性関節リウマチ遺伝子治療

著者: 田中栄 ,   中村耕三

ページ範囲:P.897 - P.900

 破骨細胞は多核の巨細胞でアメーバ状の外観をしており,高い走化性を有している.また最終分化した細胞であり,その生存期間は極めて短い(生体では数週間,培養すると数日で死んでしまう).骨吸収をつかさどる唯一無二の細胞であり,その分化,あるいは機能の亢進,抑制が骨の代謝,成長に決定的な影響を与える.慢性関節リウマチ(RA)は慢性に経過する全身性の関節炎を特徴とするが,その末期においては著明な骨関節破壊を呈し,患者のADLを障害する.したがって,骨関節破壊の抑制はRA治療の重要な目的の一つである.近年RA骨・関節破壊に破骨細胞が重要な働きをするという知見が集まってきたこと,そして破骨細胞の形成・活性化の分子メカニズムが明らかになってきたことから,破骨細胞を治療ターゲットにした新しいRA治療法が現在脚光を浴びている.本稿では,RAの骨・関節破壊のメカニズムについて最近の知見を概説し,破骨細胞をターゲットとした骨関節破壊治療についてわれわれのデータも含めて解説したい.

食欲調節と成長ホルモン分泌に作用する新しいホルモン グレリン

著者: 中里雅光 ,   椎屋智美 ,   伊達紫 ,   松倉茂

ページ範囲:P.900 - P.903

1.はじめに
 グレリンは1999年に胃から発見された新規ペプチドホルモンである1).グレリンは28アミノ酸よりなり,分子内に脂肪酸の修飾があり,しかもこの修飾が生物活性発現に必要であるという特徴のある構造をしている(図1).グレリンは強力な成長ホルモン(GH)分泌活性のみならず,摂食亢進や胃機能調節などエネルギー代謝調節にも機能している2).近年の摂食調節ホルモンの研究により,複雑な食欲ならびにエネルギー代謝調節機構が明らかになりつつある.グレリンの発見とその生理作用ならびに血漿濃度と病態との関連について概説する.

質疑応答 免疫血清

IgM-FTA-ABS法における非特異反応

著者: K生 ,   堀井隆

ページ範囲:P.904 - P.905

 Q 梅毒トレポネーマ抗体検査法においてIgM-FTA-ABS法(特にFTA-ABS)における非特異反応は認められますか.成書によると,IgG型TP (Treponema pallidum)抗体による競合反応やリウマチ因子による非特異反応があると解説してありましたが,わかりやすくご教示下さい.

資料

医療従事者におけるラテックス感作の実態調査報告

著者: 奥田勲 ,   椛沢靖弘 ,   田中司 ,   伊藤幸子 ,   望月規央 ,   斎藤信一 ,   青木貞男

ページ範囲:P.907 - P.912

 医療従事者を対象にラテックス感作状況を調査したところ,全対象者におけるラテックス特異IgE抗体陽性率は10.4%(45名/431名)であった.陽性者45名の内訳は,看護婦が30名(66.7%)と最も多かった.ラテックス特異IgE抗体陽性者は,バナナ・キウイ・アボガドなど交叉反応性のある果物による間接的な感作の可能性が示唆された.ラテックス製手袋使用量とラテックス感作に相関関係は認められなかった.

精度管理用感染症コントロール血清(ヴィラトロール®)を用いた北海道地区感染症コントロールサーベイ

著者: 森山隆則 ,   伊藤敬子 ,   安士孝則 ,   高田鉄矢

ページ範囲:P.913 - P.917

 新しく開発された感染症コントロール血清(ヴィラトロール®)を用いて,梅毒TP抗体,HBs抗原およびHCV抗体3項目の地域サーベイを実施した.その結果,各項目の定性判定に問題はなく,さらに,2種類の陽性血清の測定値の比はバラツキはみられたものの矛盾はみられなかった.ヴィラトロール®は,これら3項目の共通の精度管理用血清として,あるいは感染症コントロールサーベイの試料として大変有用であると考えられた.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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