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雑誌目次

論文

臨床検査45巻9号

2001年09月発行

雑誌目次

今月の主題 蛋白質の活性と蛋白量 巻頭言

蛋白質の活性と蛋白量

著者: 菅野剛史

ページ範囲:P.927 - P.928

 蛋白質は生体成分を構成し,生物活性を持った高分子化合物である.ある場合には生体の構造を保つ物質であったり,生体の代謝をつかさどったり,形態機能を制御する情報伝達に関与したり,多くの機能が知られている.そして,臨床検査の領域では,疾病の診断の目的に,生体の機能の状態を知る目的で,機能回復の予測などを目的として蛋白質の定量が広く行われている.しかし,この測定法には大別して蛋白質の構造を免疫学的に認識して定量する場合と,蛋白質のもつ酵素活性などを活性として捕らえ定量する場合とに大別できる.そして,この2つの方法はそれぞれ特徴があり,かつその特徴を十分に理解しないと上手に利用することはできない.
 まず,免疫学的測定法であるが,この方法は被測定物質に対しての抗体を作製し,抗原抗体反応を利用して結合した非測定物質を定量する方法であり,抗体を標識することにより蛍光測定,化学発光,生物発光と超高感度の測定系を組み立てることができる.すなわち,蛋白質の量を測定するシステムである.しかし,抗体にモノクローナル抗体を利用した場合には,エピトープが遺伝性変異などで構造などが異なった場合に抗原抗体反応に変化をもたらし,十分測定できない場合も考えられる.さらに,エピトープは存在するが,蛋白として不完全な構造を取った場合などは,測定はできても作用しない蛋白が測れたことになる.臨床症状と矛盾する測定値が得られてしまうことになり検査のピットホールになってしまう.

総説

蛋白量として測定する血中酵素―血中酵素の酵素化学的測定と免疫学的測定

著者: 小川道雄

ページ範囲:P.929 - P.935

 血中酵素は血中で生理作用をもつもの(血中に分泌される酵素)と,生理作用のないもの(細胞からの逸脱酵素)に分けられる.最近までこれらの酵素量は,その生理活性すなわち酵素活性で主に測定されてきた.そして失活した酵素は意味がないものとみなされてきた.しかし血中の逸脱酵素量の増減からその由来臓器の疾患の有無や障害の程度を推定しようとするなら,失活した酵素も含めた酵素蛋白量そのものの変動を測定しなければならない.活性が重要な意味をもつはずの血中のホルモンを蛋白量あるいはペプチド量として測定し,活性が意味のない血中の逸脱酵素量を酵素活性として測定してきた従来の誤解を正し,蛋白量として血中酵素量を測定する意義を示した.

血液凝固・線溶系蛋白質の活性測定の問題点

著者: 中垣智弘 ,   岩永貞昭

ページ範囲:P.937 - P.945

 血中の凝固・線溶系蛋白質の濃度や活性を測定することは,出血傾向や血栓性疾患を診断したり,その発症の危険性を予知したり,また治療効果を判定するうえでも極めて重要である.そのため凝固・線溶系因子およびそれらの制御因子の活性と抗原量は,検査目的に応じて,ある場合は各因子を個別的に,他の場合にはフィブリン塊形成を目安に測定されてきた.また,各種の凝固・線溶因子から生成される反応産物を対象にした測定法も知られている.
本稿では主に,それら因子の測定の問題点や意義について,凝固因子のプロトロンビン,Ⅶ因子,Ⅷ因子を例に述べるとともに,欧州の血栓症研究において重要な役割を果しているECAT (European Con-certed Action on Thrombosis)の活動について,線溶反応産物の架橋フィブリンDダイマー測定を例に紹介したい.

技術解説・血中酵素測定

アミラーゼ

著者: 小川道雄

ページ範囲:P.947 - P.950

 急性膵炎発症後の急速な血中アミラーゼ活性の低下が,プロテアーゼによるアミラーゼ蛋白の分解による酵素活性の失活ではないかと考えて,アミラーゼの免疫学的測定を確立した.筆者らの系では膵および唾液線アミラーゼ・アイソザイムを分別定量することは不可能であったが,その後のモノクローナル抗体技術の発展によって,現在では膵および唾液線アミラーゼ・アイソザイムを分別することが可能となった.ただ酵素活性の失活は同時に免疫活性の失活を伴うことが多く,初めの命題にはまだ解答が得られていない.酵素活性として測定しうるアミラーゼについて,その蛋白量も併行して測定することにより,両者の解離から病態を明らかにするという新しい研究が,今後進められるであろう.

リポ蛋白リパーゼ

著者: 廣尾祐二 ,   村野武義 ,   白井厚治

ページ範囲:P.951 - P.955

 リポ蛋白リパーゼ(LPL)は血管内皮細胞表面に係留し,血中のカイロミクロン,超低比重リポ蛋白(VLDL)の中性脂肪を水解する酵素で,主に脂肪細胞で合成され,活性発現にアポCIIを必要とする.本酵素の機能低下により,高中性脂肪血症を呈する.LPLの測定は,ヘパリン静注10分後採取した血漿を用いての蛋白量および活性が行われ,その結果から高中性脂肪血症をLPL欠損型,LPL発現低下型,LPL機能低下型,アポCII異常,阻害因子などが原因のLPL正常型に分類鑑別できる.また,ヘパリンを静注しない血中にも活性はないLPL蛋白の存在が認められ,個人のLPL発現量を反映すると考えられている.

CK-MB

著者: 片山善章

ページ範囲:P.956 - P.962

 CK-MB活性の測定法は抗M抗体によりCK-MM, CK-MBのMサブユニット活性を阻害して,残存する活性を測定してCK-MBとする免疫阻害法が自動分析法として繁用されている.心筋梗塞診断時に測定するため緊急検査として扱われている.この方法は心筋梗塞ではCK-BBは存在しないことが前提になっており,問題点はミオキナーゼ,ミトコンドリアCK,マクロCKの影響を受ける.一方,CK-MB蛋白量測定はCK-BとCK-MBのモノクローナル抗体のサンドイッチ法を化学発光により測定する免疫化学発光法が利用されており,感度,特異性に優れていることから,CK-MBの精密測定法と位置付けている.AMI時の活性値と蛋白量の測定の結果は大きく二つの症例に分けられる.活性値と蛋白量とほぼ平行して逸脱・消失する症例と,特に消失時に乖離する症例である.

技術解説・凝固線溶系測定

プロテインC,プロテインS

著者: 鈴木宏治

ページ範囲:P.963 - P.971

 プロテインC (PC)とプロテインS(PS)は,生理的な血液循環の維持に不可欠なPC凝固制御系の中心的な血漿蛋白質である.前者はセリンプロテアーゼ前駆体として,後者は活性化PC(APC)の補酵素蛋白として機能する.両蛋白質の先天性欠損症は先天性血栓性素因として臨床的に重要である.また,両蛋白質はビタミンK依存性血漿蛋白質で,ビタミンK欠乏症や抗ビタミンK製剤の服用によりその機能は低下し,血中の蛋白量と活性値が異なる場合が生じる.さらに,血中のPSのAPC補酵素活性は補体系制御因子のC4b結合蛋白質(C4BP)の影響を受け,PSの蛋白量と活性値はしばしば乖離する.

アンチトロンビン(Ⅲ)

著者: 新谷憲治

ページ範囲:P.972 - P.976

アンチトロンビンⅢ[AT(Ⅲ)]はセリンプロテアーゼ・インヒビター(serpin)ファミリーに属し,トロンビンをはじめ,活性化第X因子や第Ⅸ因子などを不活化して,凝固反応を制御する重要な凝固阻止因子で,本因子の欠損により深部静脈血栓症などの血栓症が発症する.AT(Ⅲ)欠乏症は,AT(Ⅲ)分子そのものが減少するタイプⅠとAT分子は存在するがその分子の構造異常により抗トロンビン活性が低下するタイプⅡに大別される.また,AT(Ⅲ)は肝障害やネフローゼ,DICで減少する.したがって,血栓症やDIC症例さらにヘパリンで抗凝固療法をするような場合には,血漿中のAT(Ⅲ)活性を測定する必要がある.本項では,AT(Ⅲ)の活性とその抗原量を測定する方法を解説した.

t-PAの測定法

著者: 岡田清孝 ,   松尾理

ページ範囲:P.977 - P.983

 線溶系は凝固活性化の最終産物であるフィブリンを分解し血栓を溶解する系である.この線溶能は亢進すると出血傾向に,低下すると向血栓性に傾く.血管内での線溶能を把握するのに重要な因子としてt-PAが上げられる.すなわち,急性心筋梗塞などの血栓症や出血傾向をきたした状態での線溶能を把握する際,t-PA量が判断の指標となる.本稿ではt-PAの蛋白と活性に対する測定法について述べる.

話題

糖尿病と血中アルドース還元酵素蛋白量

著者: 金子晋 ,   中川理 ,   立川智一 ,   相澤義房

ページ範囲:P.984 - P.986

1.はじめに
 糖尿病は生活習慣病の1つであり近年ライフスタイルの欧米化に伴い年々患者数が増加している.また20世紀初頭のインスリンの発見,その後の治療薬の開発により高血糖そのものによる死亡数は激減したが同時に合併症に苦しむ患者数は増加してきている.
 糖尿病性血管合併症の予防や治療のためにその成因,発症機序について様々な基礎的研究,臨床的研究が多施設で行われている.

コレステリルエステル転送蛋白(CETP)

著者: 齋藤和典

ページ範囲:P.987 - P.990

1.はじめに
 コレステリルエステル転送蛋白(cholesteryl ester transfer protein; CETP)は,末梢組織のコレステロールを,血漿中のリポ蛋白を介して肝に転送するコレステロール逆転送系で重要な役割を演じ,血漿リポ蛋白代謝を制御している蛋白質である.ヒトのCETPは,分子量64~74 kDaの疎水性の高い糖蛋白質で,肝,小腸,脾臓,副腎,脂肪組織,骨格筋などで合成される.ヒトCETPの遺伝子は第16染色体上でレシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ(LCAT)遺伝子と近接して存在し,16個のエクソンと15個のイントロンから構成され476個のアミノ酸をコードしている.血漿リポ蛋白を構成する非極性脂質であるコレステリルエステル(CE),トリグリセリド(TG)はCETPにより,血漿リポ蛋白間を移動している(図1)1)

誘導型NO合成酵素

著者: 岡本真一郎 ,   赤池孝章

ページ範囲:P.991 - P.995

1.はじめに
 1980年代後半,ガス状の非常に単純な無機ラジカル化合物である一酸化窒素(nitric oxide;NO)が,血管内皮細胞から産生される血管平滑筋弛緩因子の本態であることが明らかにされた1).以来,この新たな内因性ラジカル種に関する研究が急速に進展したことは周知のとおりである.現在ではNOは内因性血管弛緩因子としてだけでなく,神経情報伝達の調節や,炎症反応,感染防御,さらに細胞死の制御など様々な生理機能や病態生理活性の発現に関与していることが明らかにされつつある2).このようなNOの生物活性の多面性は,単純な無機ラジカルとしてのNOの多様な化学的反応性に基づいている.そこで本稿においては,NO合成系の発現誘導機構とNOの病態生理活性について,NO合成酵素のうち特に誘導型NO合成酵素(iNOS)に焦点を当て概説する.あわせて,NO由来の反応性窒素酸化物であるパーオキシナイトライトなどのバイオマーカーとして注目されているニトロチロシンの新しい測定法について紹介する.

アルギナーゼ

著者: 池本正生 ,   恒川昭二 ,   戸谷誠之

ページ範囲:P.997 - P.1001

1.アルギナーゼとは
 ヒトを含む哺乳動物において,アルギナーゼは主に肝臓(アルギナーゼ-Ⅰ)1~9)に局在し尿素回路を構成する酵素の1つであり,アミノ酸代謝の最終段階,すなわちL-アルギニンを加水分解し尿素とL-オルニチンを生成する反応を触媒する酵素である.本酵素は43726の分子量を有する塩基性蛋白質(pI=10.5)であり,肝細胞の細胞質に単量体として発現している10,11).そのほか,ヒト赤血球中12~14)および腎臓(アルギナーゼ-Ⅱ)15)にもその存在が確認されているが,肝臓と腎臓のアルギナーゼはアミノ酸配列が明らかに違っており,細胞内における生理的役割が異なっていると考えられる.一方,白血球内には肝アルギナーゼ型のmRNAは発現していないが,最近の研究において,肝型アルギナーゼが白血球細胞膜表面に結合することを見いだした.

今月の表紙 帰ってきた寄生虫シリーズ・21

自由生活性アメーバ

著者: 藤田紘一郎

ページ範囲:P.924 - P.925

 自然界の水や土壌中で自由生活をしているアメーバでヒトに病害性を示すものには,眼に寄生して角膜炎を起こすアカントアメーバと髄膜脳炎を起こすアメーバとがある.眼に寄生するアカントアメーバにはカステラーニアメーバ(Acanth-amoeba castellanii),多食アメーバ(A.polypha-ga)がある.日本では,1988年に初めてアカントアメーバ角膜炎患者が報告されて以来,ソフトコンタクトレンズの使用者増加に伴ってアカントアメーバ症患者も増加傾向にある.
 アカントアメーバの生活環は,栄養型と嚢子(シスト)からなる.栄養型は20~30μmで胞体からトゲ状小突起(thorny spike)が出ている.シストは10~20μmの球形で,シストの外壁と内部の虫体の細胞膜が数か所で接近しているため,五角形の星状に見える(図1).アカントアメーバ角膜炎は,多数のアカントアメーバが角膜の微細な傷から侵入して発症する.症状としては,病巣部に淡い混濁,結膜毛様充血が見られ,強い眼痛を伴い,角膜輪部から角膜視神経にそって放射状角膜神経炎を認めることが多い.さらに,視力障害,虹彩炎を伴う角膜の混濁,浮腫,角膜の輪状潰瘍を示し,難治性である(図2,3).病変部の角膜掻爬・擦過物やコンタクトレンズ保存液から五角形の嚢子や栄養型を検出して診断する.

コーヒーブレイク

臨床検査・ひとつの力

著者: 屋形稔

ページ範囲:P.935 - P.935

 臨床検査の世界も医療をめぐる環境の変化により困難な時代であることは周知のところである.しかし基本的にこれに従事する核となる医師と検査技師が一体となった力が働いていれば依然として大きく医療に貢献する原理は変わることはない.
 私の住んでいる新潟県に県医師会センター協議会というものが発足したのは1973年であるから間もなく30年になる.発足時大学の検査部長として県医師会と技師会の双方に関与していたので顧問としてこの設立にもあずかることになった.10年前の定年退官時感謝の集いなどしていただいたのに顧問は相変らずで,現在まで30年間毎年2回の講演会,会議に欠かさず出席し成長を見続ける身となった.

先生,私胃癌になりました!!―ペプシノゲン法の功罪

著者: 寺田秀夫

ページ範囲:P.1001 - P.1001

 先日外来診察中に電話が入り,数年前から通院している神経質な性格の中年女性患者から,悲愴な声で「先生,私胃癌になりました」という.よく事情をたずねるとある区の検診を受けた際,血液のペプシノゲン(pepsinogen:PG)検査もされ,PG Ⅰ/PG Ⅱの比が3.0以下で胃癌の疑いが強いから,なるべく早く大きな病院で胃内視鏡検査を受けるように奨められたという.私は先走ってあまり心配しないように話して,翌週友人に頼んで胃カメラ検査をして貰った.結果は軽度の慢性胃炎であった.
 さてこのペプシノゲン検査の詳細は省くが,PGは胃液中に含まれるペプシンの前駆体で,PG ⅠとPG Ⅱに分けられ,PG Ⅰは胃底腺粘膜に存在し,PG Ⅱはそのほか噴門腺,幽門腺,十二指腸腺と広範囲に存在している.胃粘膜の萎縮が進行すると幽門腺領域が増加して胃底腺領域が減少するからPG Ⅰの産生が減少し,PG Ⅰ/PG Ⅱの比が減少する.

私のくふう

細胞診における好酸球顆粒染色の変法

著者: 五十島美千子 ,   林真也 ,   坂本直喜 ,   森田俊

ページ範囲:P.996 - P.996

1.はじめに
 好酸球顆粒を染めるルナ染色1)は,顆粒が橙から赤に染まり,好酸球検索に有用であるが,鉄ヘマトキリンを使用しているため,その都度,染色液を作製しなければならない.また,細胞診において,原法5分間の染色時間では,染まっている顆粒の数が少ないように思われる.そこで,ルーチンに使用している細胞診ヘマトキシリン(ギルのヘマトキリン)を利用し,顆粒が濃く染まる方法を検討した結果,使用時染色液作製の必要がない下記の方法が適当と思わる.

トピックス

SEREX法による新しい癌抗原の単離およびCT抗原の腫瘍マーカーとしての意義

著者: 小野俊朗 ,   中山睿一

ページ範囲:P.1002 - P.1005

1.はじめに
 1991年,BoonらによりcDNA発現クローニング法を用いて癌特異的細胞傷害性T細胞(CTL)が認識する癌抗原が同定された1).それ以来,多数のCTL認識抗原が同定されてきたが,そのほとんどは悪性黒色腫に見いだされたものである2).このような癌抗原の解析には,CTL株と標的となる培養癌細胞株が必要であり,悪性黒色腫以外の腫瘍ではそのいずれの培養株も作製は容易ではない.1995年,Pfreundschuhとその共同研究者は癌患者血清を用いて癌細胞由来のcDNAライブラリーをスクリーニングしてIgG抗体認識癌抗原を同定するSEREX(serological identification of antigens by recombinant expression cloning)法を開発した3).SEREX法にはCTL株,培養癌細胞株ともに必要なく,癌組織と患者血清があればよい.そのため,この方法はほとんどすべての癌に応用可能であり,現在さまざまな癌について抗原の単離,同定が進んでいる.現在1,500を超える癌抗原が同定されており,これらは国際的にSEREXデータベース上に登録されている.本稿ではSEREX法の概略とこれにより同定された抗原とその分類,そして特に癌・精巣(cancer/testis;CT)抗原についてその臨床的意義について紹介する.

新しい精子受精能力検査

著者: 寺田幸弘 ,   村上節 ,   八重樫伸生 ,   岡村州博

ページ範囲:P.1005 - P.1008

1.はじめに
 子供をもうけ慈しんでゆきたいという気持ちは,人間の本質に基づいた希望であり,われわれ医療従事者が最も尊重しなければならない事柄の1つである.しかし,近年の生殖補助技術(体外受精胚移植:in vitro fertilization and embryo transfer;IVF-ET,卵細胞質内精子注入法: intracytoplasmic sperm injection;ICSI,など)の極めて急速な発達は,前述した大前提を盾にして臨床技術としての安全性の検討が不十分なままに成し遂げられてきたこともわれわれは銘記すべきである.すなわち,人類の将来を担う次世代にかかわる大切な技術が科学的な根拠が未熟なまま施行されている現実が存在するのである1).今後,われわれがなすべきことは,新技術の開発とともに,最も適切かつ必要最低限の不妊症治療を行うための客観的な情報をもたらす検査体系を確立することである.不妊症の検査は各原因ごとに種々存在するが本稿では男性不妊症検査の中心となる精子機能検査について,現在までの知見とこれからの方向性について解説する.

ビフィズス菌を使用した腫瘍特異的な遺伝子治療

著者: 佐々木貴之 ,   中村俊幸 ,   藤森実

ページ範囲:P.1009 - P.1013

1.はじめに
 固形癌の遺伝子治療の問題点の1つに,いかに特異的に腫瘍組織に目的の遺伝子を運ぶかという問題がある.現時点では全身投与ですべての腫瘍に選択的に遺伝子を導入すること,すなわち腫瘍ターゲッティングは極めて困難である.
 固形癌はその種類にかかわらず,腫瘍内が正常組織に比べて嫌気的環境であることが報告されいる1).木村,谷口らは20年前にすでにこの腫瘍内が正常組織に比べて嫌気的環境であることに注目し,嫌気性菌であるBifidobacterium bifidum(LacB)を担癌マウスの尾静脈より全身投与すると,LacBが腫瘍特異的に集まり,増殖することを報告している2).最近になって,欧米でも腫瘍内の嫌気的環境をターゲットにした固形癌の治療が注目されており3),Foxらは嫌気性菌であるClostridiaを4),Pawelekらは栄養要求性菌のSalmonellaを腫瘍ターゲッティングに応用している5).しかし,ClostridiaやSalmonellaはヒトの体内において病原性を有することから,必ずしも固形癌の遺伝子治療において安全な遺伝子輸送担体とはいえない6,7).また腫瘍ターゲッティングに関しても,Salmonella typhimuriumにおいては,腫瘍以外の組織,特に肝臓への集積が少なからず認められる点に問題がある.

質疑応答 その他

骨髄吸引検体の保険点数(診療報酬)

著者: K生 ,   家入蒼生夫 ,   杉田憲一 ,   小宮正行

ページ範囲:P.1014 - P.1016

 Q 骨髄の吸引検体についてスメアを作製し特殊染色をした場合,POD(ペルオキシダーゼ染色),Fe (鉄染色),PAS (パス染色),ES(エステラーゼ染色)は各々,保険点数がとれると思いますが,免疫染色(例えば,CD 41)を行った場合は保険点数がとれるのでしょうか.とれるとすれば何点になるのでしょうか.

電波時計

著者: 桑原 ,   鹿島哲

ページ範囲:P.1016 - P.1018

 Q 近年,電波時計が普及してきましたが,それが正確な時刻を示す根拠を説明して下さい.

シリーズ最新医学講座―免疫機能検査・9

喫煙と免疫機能

著者: 山下直宏 ,   松井祥子 ,   小林正

ページ範囲:P.1019 - P.1025

はじめに
 喫煙と健康の問題は以前から重要であると考えられており,肺癌,慢性閉塞性肺疾患などの呼吸器疾患,狭心症・心筋梗塞などの循環器疾患への関与のほかにも,動脈硬化,妊婦・胎児への影響など様々な形で取り上げられている1,2).また,近年の疫学調査から,喫煙が健康に及ぼす様々な害がはっきりしており,健康への直接的および間接的な影響を考えると,喫煙は多くの致死的な疾患のうち,予防可能な最大の要因であると言える.
 一方,喫煙者には農夫肺に関連した血清中の抗体が少ないことや3),サルコイドーシスが少ないことが報告されており4),これらはいずれもリンパ球の活性化を伴う疾患であり,喫煙の免疫機能に及ぼす影響が考えられる.

研究

血清シスタチンCの小児期における基準範囲設定と腎機能評価に関する検討

著者: 山本英明 ,   荒井孝 ,   山口明 ,   藤井紀行 ,   鬼本博文 ,   大野勉 ,   村松康男 ,   赤司俊二

ページ範囲:P.1027 - P.1032

 血清シスタチンC (Cys-C)の小児期における基準値とその評価について検討した.幼児期から成人までの血清Cys-C値はほぼ一定の値を示し男女間差も認められなかった.新生児期の血清Cys-C値は高値であったが,その後直線的に減少し1歳以上の幼児期には一定の値を示した.慢性腎疾患患児の血清Cys-C値とCr値との比較より,血清Cys-C値はCr値では予測不可能なGFRの低下を反映していることが示唆された.

資料

近畿地方における病理検査の内部精度管理アンケート調査

著者: 佐々木政臣 ,   三原勝利 ,   布引治 ,   奥野万里子 ,   新川由基 ,   林孝俊 ,   嶋田智恵子 ,   田中真理

ページ範囲:P.1033 - P.1036

 2000年11~12月にかけて,近畿85施設における病理検査の内部精度管理に関するアンケート調査を行ったので報告する.アンケートの内容は,検体の取り扱いマニュアル,リスクマネージメント,コンピュータシステム,検査機器の保守と点検,標本作製の管理,検査伝票とプレパラートおよびパラフィンブロックの管理状況に関する20の項目について行った.
 結果は,検体の取り扱いに関するマニュアル,結果報告の遅延症例の記録簿,検体受付拒否の記録簿,ヒヤリ・ハット,インシデントの記録簿の各記録簿の作成が不十分であった.また,コンピュータによる患者情報,病理診断などの管理は多くの施設で行われていたが,病院診療システムとの連携が進んでいなかった.したがって,院内オーダーリングシステム導入によるバーコード対応や標本ブロック,プレパラートの自動印字機の導入など,標本作製から病理診断書の報告,搬送さらに標本貸し出しに至る一貫したコンピュータ管理システムの構築が必要と考えられた.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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