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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査46巻4号

2002年04月発行

雑誌目次

今月の主題 再生医療と幹細胞 巻頭言

再生医療と幹細胞

著者: 菅野剛史

ページ範囲:P.347 - P.348

 発生学という領域が存在し,解剖学の一環として教育を受けたことが思い出される.卵が受精し,いろいろな分化・誘導を受けながら個体として成熟していく過程は非常に興味ある領域であった.この学問領域が基盤となり,両生類の四肢の再生などが取り上げられたりし,再生という課題が発生学のテーマの1つになっていったことも興味ある事実であった.そのうちに,骨髄を中心に未分化で増殖能の高い幹細胞の存在が知られ,これら一群の細胞が多機能をもつことと,いくつもの組織・臓器にそれぞれ組織・臓器の幹細胞が見出され,それぞれの組織・臓器に分化していく機構が明らかにされていった.この考え方は,欠損した組織の機能回復に利用できないかと展開され,1984年に人工皮膚を用いて大火傷を負った患者の救命に成功するに至り,再生医療として脚光を浴びることになった.21世紀に展開される新たな医療の領域であることには間違いないこの領域を,いかに自分の身近なものにするかは,われわれにとって重要な問題である.これが,臨床検査に特集として再生医療を取り上げた背景である.
 再生医療の展開を期待するためには,この領域に対しての十分な理解が必要とされる.特に,未分化で多くの機能を持つ幹細胞,ヒト胚性幹細胞(ES細胞)などを取り扱う場合に倫理問題は避けられない問題かもしれないが,本稿では,その前提として再生医療,その材料の1つと考えられる幹細胞の特性を十分理解することに焦点を当てることとした.

総説

ミレニアム・プロジェクトとしての再生医療

著者: 日下英司

ページ範囲:P.349 - P.357

 2000(平成12)年度から始まるミレニアム・プロジェクトにおける高齢化分野のプロジェクトの1つとして,再生医療研究が実施されている.また,近年のめざましい科学技術の進歩に対し,その倫理面および安全面での保証が問われるようになってきており,総合科学技術会議においては,クローン技術やES細胞研究についての検討を行うこととなっている.こうしたなか,厚生労働省は専門委員会を立ち上げ,ES細胞を含めた幹細胞の利用のあり方に二定の方向性を与えることとなった.

再生医学のなかでの材料学と要求される試験

著者: 田畑泰彦

ページ範囲:P.358 - P.366

 細胞を利用することによって,自己のもつ自然治癒力を高め,生体組織の再生あるいは臓器機能の代替を行う試みが再生医学である.これが医療応用できれば,人工臓器を用いた再建外科治療あるいは他人の臓器に依存した臓器移植に続く第3の治療法となる.再生医学に必要なものは細胞,細胞の足場,および細胞増殖因子であるが,これらのいずれの要素にも生体材料が不可欠である.本稿では,再生医学における生体材料の役割とその試験法について概説する.

幹細胞の可塑性

著者: 川田浩志 ,   安藤潔 ,   堀田知光

ページ範囲:P.367 - P.374

 ES細胞が様々な臓器・組織の細胞に分化しうることから「万能細胞」といわれて脚光を浴びている.さらに最近では,成体の骨髄や神経などに存在している組織幹細胞も,ES細胞のような可塑性を示して他組織の細胞に分化しうると報告され,話題になっている.そして,これらの可塑性を有する幹細胞から組織や細胞を作り出して治療に用いようとする,新たな再生医療の可能性が注目されている.そこで本稿では,「幹細胞の可塑性」について,最近の知見を紹介するとともに,この可塑性を応用した将来の研究・医療の方向性や問題点などについて考察を加えた.

各論

ES細胞を利用した細胞移植

著者: 宮崎純一

ページ範囲:P.377 - P.383

 胚幹細胞(embryonic stem cells;ES細胞)は,初期胚中の未分化細胞に由来するもので,体外でその未分化状態を維持したまま培養可能となった全能性幹細胞である.マウスES細胞は,invivoで受精卵とほぼ同様,すべての種類の細胞に分化できる全分化能を有しているが,この細胞のもつ重要な性質は,in vitroでの培養下でも,その条件を変えることにより分化能を引き出すことができる点である.1998年に,アメリカのグループが相次いでヒトES細胞の樹立を報告したことにより,ES細胞は,その細胞移植の材料としての有用性がクローズアップされることとなった.本稿では,ES細胞の移植医療の材料としての可能性について論じる.

血管内皮前駆細胞を利用した血管再生

著者: 室原豊明 ,   明石英俊 ,   新谷理 ,   岡崎悌之 ,   吉本幸治 ,   佐々木健一郎 ,   嶋田寿文 ,   秋田孝子 ,   江上公康 ,   上野高史 ,   本間友基 ,   池田久雄 ,   佐田通夫 ,   青柳成明 ,   今泉勉

ページ範囲:P.385 - P.393

 虚血組織をターゲットとした,血管新生療法の研究・開発が進んでいる.欧米では,遺伝子治療による臨床応用が先行しているが,ベクターの選択や安全性など,いまだ解決すべき問題点も多い,一方,従来成人における血管新生は既存の血管内皮細胞の増殖と遊走によるもののみであると理解されてきたが,成人の末梢血液中には,内皮細胞に分化しうる内皮前駆細胞が存在することが最近明らかにされた.これらの内皮前駆細胞は,成人においては骨髄より動員されると考えられている.事実,自己骨髄細胞移植により,虚血組織の血管新生ないしは血流を増強できうることが最近動物実験で明らかにされ,さらにこの分野の臨床応用もわが国では開始されている.本稿では,このような血管新生療法の最近の動向と問題点について述べたい.

皮膚の組織工学

著者: 矢永博子 ,   山本美佐

ページ範囲:P.394 - P.402

 熱傷や潰瘍,外傷などの広範囲皮膚欠損創を治療する場合の問題点は,創を閉鎖するための自家皮膚を採取するのに限界があることである.この問題を解決するためにin vitroでヒト表皮細胞を単細胞から培養し,表皮組織を再生する細胞工学の技術が考案された.ついでin vitroで再生された培養表皮を用いた新しい治療が発展してきた.臨床的には広範囲熱傷,慢性潰瘍などの皮膚欠損創の治療に対して,世界中で約1,000例以上の症例に培養表皮は用いられている.しかし,この治療が始まって約20年が経過した現在,培養表皮を用いた治療の優れた点と問題点が明らかになってきた.ここでは,皮膚の組織工学の草分け的存在である培養表皮を用いた治療について述べるとともに,この治療の優れた点と現在の問題点について概説し,今後の課題にっいて記載した.

関節軟骨再生と組織工学

著者: 服部高子 ,   脇谷滋之 ,   山本鉄也

ページ範囲:P.403 - P.408

 関節軟骨は関節面を覆い,外圧に対する衝撃吸収,関節の円滑な可動,などの重要な役割を果たしている.関節軟骨は一度損傷を受けると欠損部は完全に元の硝子軟骨で修復されることはないため,様々な組織あるいは細胞移植が実験的に行われてきたが,十分な成績を上げられるものはなかった.近年,自己培養軟骨細胞移植あるいは骨髄問葉系細胞移植により,軟骨欠損の修復が促進されることが明らかとなった.しかしながら十分な成績とはいえず,さらに成績を向上させるために,成長因子投与あるいは遺伝子導入など,様々な方法が研究されている.

造血幹細胞移植

著者: 塚田唯子 ,   岡本真一郎

ページ範囲:P.409 - P.411

 造血幹細胞は,すべての血球の母細胞であるとともに破骨細胞,肝クッパー細胞,肺胞マクロファージなど15種類以上の細胞の母細胞であり,自分自身と同じ細胞を複製する(自己複製)能力をもった細胞である.この特性を利用して,致死的血液疾患だけではなく,化学療法に感受性の高い固形癌や,先天性代謝異常症,自己免疫疾患,免疫不全などの多岐にわたる疾患への治療として造血幹細胞移植が行われるようになってきた.さらに最近では,幹細胞の種々の細胞への分化能が証明されたことにより,組織や臓器を再生して治療に利用する研究も盛んに行われている.本稿では,造血幹細胞移植の実際について概説する.

再生医学で必要となる検査

著者: 辻直樹 ,   渡辺直樹

ページ範囲:P.413 - P.417

 再生方法としては,多能性幹細胞や組織幹細胞をex vivoで目的の細胞に分化誘導し移植するものと,患者に増殖再生因子を直接投与するものの2つがある.前者では幹細胞の効率的な分離法の確立が,一方,後者では血液や体液中の増殖再生因子の濃度を的確に把握できる高感度測定法の開発が,それぞれ急務となっている.本稿ではこれらの点を中心に,再生医学で必要となる検査について概説した.

話題

樹状細胞療法(免疫細胞療法)

著者: 高橋強志

ページ範囲:P.419 - P.422

1.はじめに
 樹状細胞は抗原未感作のT細胞を抗原特異的に活性化できる唯一の,また休止期のT細胞を最も効率よく活性化できる抗原提示細胞である1).マウスにおいては,腫瘍抗原ペプチドや腫瘍細胞RNAあるいは腫瘍細胞抽出物などを添加した樹状細胞を体内に戻すことにより抗腫瘍効果が得られることが確認されている2,3).一方,樹状細胞のヒトへの応用もすでに多施設において開始されている.本稿では,癌に対する免疫細胞療法としての樹状細胞療法について述べる.

培養角膜上皮細胞を用いた眼表面の再建

著者: 平野耕治

ページ範囲:P.423 - P.426

1.はじめに
 角膜は強膜とともに眼球の外壁を形成する,透明で強靭な膜であり1),0.5~1.0mmの厚さの中に,(1)上皮,(2)ボウマン層,(3)実質,(4)デスメ膜,(5)内皮という5層の構造を認めることができる(図1).角膜の最表層に位置する角膜上皮は5~7層の細胞層からなる重層扁平上皮である.角膜全体を通して約50μmという一定の厚さで,無血管の結合組織の上に存在するという特徴があり,涙液とともに平滑な光沢面を形成して光を透過させる一方で,細胞間の堅固な結合によって細菌や化学物質など病原の侵入を防ぐバリアとして機能している1).角膜上皮は角膜輪部を介して結膜に連なっているが,この角膜,結膜,および角膜輪部の表面外胚葉由来の眼粘膜をまとめてocular surface (眼表面)として捉えていこうという考えが1977年Thoft2)によって提唱されて以来,細胞生物学や免疫学の進歩に伴って広く受け入れられてきている.現在ではこれら粘膜組織に涙や眼瞼もその概念に加えて,眼表面疾患の病態の把握とともにその治療法,すなわち「眼表面再建」について様々な方向から研究されている.
 本稿では,自験例の報告とともに,角膜輪部障害に対する培養角膜上皮移植による眼表面再建について述べる.

骨再生をめぎしてのBMP/骨髄間葉系幹細胞複合体

著者: 池内正子 ,   大串始

ページ範囲:P.427 - P.430

1.はじめに
 整形外科,口腔外科,形成外科における疾患において古くから行われてきた骨移植は,通常患者自身の骨を採取するので採取量には限りがあり,また採取部の合併症も必発である.患者の骨採取を必要としない方法として,近年ハイドロキシアパタイト,ガラスセラミックなどの人工骨が使用されている.これらは生体親和性がよく骨伝導能を有するが,人工骨そのものは骨形成能をもたない無機物で,その応用範囲には限界があり,いまだ自家骨に優る骨再建材料がないのが現状である.そこで,われわれはセラミック多孔体に骨形成能をもたせるために骨髄中に存在する間葉系幹細胞を複合することで,この複合体が優れた骨形成能を有する移植材となることを報告してきた.また,最近ではbone morphogenetic protein(BMP)を複合体に添加し,新生骨形成能をさらに高める研究を行っている.また,移植手術を必要としない注入型の人工骨材料として,BMP/骨髄細胞/コラーゲン溶液複合体における骨形成に関する研究も行っている.本論文では,セラミック内での骨髄細胞の骨形成の概略と,BMP/骨髄細胞複合体の骨形成促進効果について論じる.

今月の表紙 電気泳動異常パターンの解析シリーズ・4

異常アミラーゼアイソザイムの解析・その2

著者: 堀井康司

ページ範囲:P.344 - P.345

 さて,先月号では電気泳動によるアミラーゼアイソザイム分析で認められる異常像について,典型例を示し解説した.今回はそのうちのマクロアミラーゼについて解析し,得られた知見のいくつかを述べてみたい.

コーヒーブレイク

イチローとジェームス・ディーン

著者: 屋形稔

ページ範囲:P.383 - P.383

 今年も日本プロ野球や米大リーグが始まろうとしている.去年は大リーグ新人王とMVPに輝いたイチローのプレーに年間通じて楽しませて貰ったが,今年も何より期待される生活の中の楽しみである.私には彼の成績よりも時々に彼の語るコメント,抱負,持ち前の心情に魅きつけられる.そしていつからかその風貌が,人種は異なれ今は伝説となった米国男優のジェームス・ディーン(J.D.)に極めてよく似ていることに気付いた.
 J.D.は1955年,24歳の若さで事故死するまでわずか18か月のハリウッド生活で,3本の映画に主演し,不滅のヒーロー,永遠のスターと呼ばれるに至った.当時の若者の旗手といわれたことは今の若者にも記憶されていると思うが,生きていればもはや70歳となる.にもかかわらずその3本の映画,『理由なき反抗』,『ジャイアンツ』,『エデンの東』は今見直しても鮮烈な個性と演技力で絶大な感銘を人に与え続ける名作である.それはその短かい人生を生きることに熱中し,若さと苦悩を表現すべく努力した故であろうと思われる.

シリーズ最新医学講座―免疫機能検査・16

EBウイルス感染症とリンパ球検査

著者: 大石勉 ,   荒井孝 ,   高野忠将 ,   岡崎実 ,   芥直子 ,   山口明 ,   藤井紀行 ,   山本英明

ページ範囲:P.431 - P.439

はじめに
 Epstein-Barr (EB)ウイルスは潜在的に発癌性を有するヘルペスウイルスで,ガンマ(γ)ヘルペスウイルスサブファミリーに属する.EBウイルスは唯一のヒトγ1ヘルペスウイルスであり,カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(ヒトヘルペスウイルス8)はγ2ヘルペスウイルスに属する.
 EBウイルスは咽頭上皮を経てヒトに感染し,他のヘルペスウイルスサブファミリーと同様に潜在感染(latent infection)することを特徴とする(図1)1).2歳までに約70%の乳幼児が感染し,その多くは不顕性感染あるいは一過性の上気道炎症状のみを呈する.思春期以後の初感染ではほぼ50%が伝染性単核症を発生するといわれている.

トピックス

動脈硬化症における可溶性FcγRIIIaの増加

著者: 桝田緑 ,   高橋伯夫

ページ範囲:P.441 - P.443

1.はじめに
 IgGのFc部分に対するレセプタータイプⅢ(FcγRIII:CD16)には,NK細胞とマクロファージ(Mφ)に発現しているIIIa型(ⅢaNKとⅢa)と,好中球に発現しているⅢb型があり1,2)(図1),両者とも活性化によって細胞表面から放出され,可溶型(soluble FcγRⅢ;sFcγRⅢ)として血漿中に存在している3~8).FcγRⅢbにはNA1とNA2のアロタイプがあり9),FcγRIIIaとⅢaNKは修飾糖鎖が異なる6).一方,アテローム性動脈硬化症の初期病変では,Mφの血管内皮下での集積が認められ,さらに,内皮下組織Mφによる脂質の蓄積,泡沫細胞の形成と進行していく.実際,動脈硬化部位におけるFcγRⅢaの発現が報告されている10).そこで,FcγRⅢaに特異的なモノクローナル抗体(MKGR 14:IgM)を作製し,血漿中のsFcγRIIIaを測定した.

質疑応答 免疫血清

HIV抗体陽性患者に対する自己免疫検査

著者: 畠山修司 ,   K生

ページ範囲:P.444 - P.446

 Q HIV抗体陽性患者におけるRAおよび抗DNA,抗核抗体などの自己免疫検査の結果はどのように出てくるのでしょうか.

研究

未分化大細胞型リンパ腫に出現する核内細胞質封入体とanaplasticlymphomakinase発現に関する検討

著者: 佐藤康晴 ,   麻奥英毅 ,   若槻真吾 ,   藤原恵

ページ範囲:P.447 - P.449

 末分化大細胞型リンパ腫(anaplasticlarge cell lymphoma;ALCL)に出現する核内細胞質封入体とanaplastic lymphoma kinase (ALK)の発現について検討した.その結果,ALK陽性ALCL症例では全例(6/6)に核内細胞質封入体を認めた.これに対してALK陰性ALCL症例では5例中1例に核内細胞質封入体を認めたのみであった.以上のことから,核内細胞質封入体の存在はALK陽性ALCLを示唆する重要な所見であると考えられた.

資料

HPLC法によるヘモグロビンA1C分析時におけるサンプリングに関する問題点

著者: 山田満廣 ,   南口隆男 ,   小味渕智雄

ページ範囲:P.451 - P.455

 大阪赤十字病院臨床検査部では,2001年2月,従来より使用してきた糖尿病関連検査機器である電極法によるグルコース,ならびにHPLC法によるヘモグロビンA1c(HbA1c)の分析装置をミニ搬送を装備した"DS-120システム"に更新したところ,HbA1cの測定値が従来の分析装置に比較してほとんどの検体で高値を得る結果となった.そこで,その原因について追求したところ,遠心分離後における血球層のいずれの部分からサンプリングを行うかによって,測定結果に乖離を生じることが判明した.すなわち,HbA1cは血球下層よりサンプリングし測定した場合に高値化し,さらに遠心分離速度については高速であるほど高い値を示すことが確認された。

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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