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雑誌目次

論文

臨床検査46巻5号

2002年05月発行

雑誌目次

今月の主題 筋疾患 巻頭言

筋疾患診断のすすめ方

著者: 埜中征哉

ページ範囲:P.465 - P.466

 筋疾患は大きく神経原性と筋原性に2大別されるので,しばしば神経・筋疾患と総称される.神経原性疾患は脊髄前角細胞が侵される筋萎縮性側索硬化症や脊髄性筋萎縮症が主な疾患である.筋原性疾患には筋ジストロフィー,代謝性筋疾患(ミトコンドリア病や糖原病など),炎症性筋疾患などがある.いずれの疾患でも代表的で普遍的な症状は筋力低下である.筋力低下をみたら,どのように診断をすすめていけばよいか概説したい.

総説

筋ジストロフィー

著者: 武田伸一 ,   平田彰

ページ範囲:P.467 - P.478

 筋ジストロフィーの分野では,分子遺伝学の発展をもとに原因遺伝子とその産物の解明が進んでいる.原因遺伝子の解明は,各病型の診断を確実にしたばかりでなく,従来,用いられてきた遺伝形式と臨床症状に基づいた病型の分類に対して,ジストロフィノパチー,サルコグリカノパチー,ジスフェルリノパチー,カルパイノパチーなどの原因遺伝子に基づく新しい疾患概念の提唱に結び付いた.今後は分子病態の理解を背景に根治的治療法の開発が求められている.

代謝性筋疾患

著者: 杉江秀夫 ,   杉江陽子

ページ範囲:P.479 - P.486

 代謝性筋症は先天的なATP産生の障害により,骨格筋細胞へのエネルギー供給が破綻することにより起こる.グリコーゲン(グルコース),脂肪酸は重要なエネルギー源であり,この基質を分解できない先天性の障害が主な基礎疾患である.2つの大きな症状として運動負荷に由来する筋痛,筋硬直,ミオグロビン尿症をきたす症状群と,筋力低下を示す症状群の2群が臨床症状として認められる.代謝性筋症はその代謝の障害部位を診断し理解することで,筋細胞のエネルギー供給の破綻につながらないような生活指導を十分に行い,重篤な合併症を予防することが大切である.

ミトコンドリア病の進歩

著者: 小牧宏文 ,   後藤雄一

ページ範囲:P.487 - P.493

 ミトコンドリア病はミトコンドリアDNA,核DNAおよびその両方の遺伝子変異により起こる。ミトコンドリアDNAの変異はヘテロプラスミー,組織特異性,母系遺伝などの特徴を持っているために,表現型のみならず遺伝形式も複雑である.近年の分子生物学を中心とした進歩により多くの病因が明らかになってきた.

横紋筋融解症―薬物誘発性を中心に

著者: 菊地博達

ページ範囲:P.495 - P.501

 ミオグロビン尿症と同意語である横紋筋融解症は種々の原因で発症する.筋疾患を扱う分野以外で,多くの医師にとって薬物誘発性横紋筋融解症は大きな問題である.特に高脂血症治療薬での本症発生が注目を集めている.また,揮発性吸入麻酔薬で発症する悪性高熱症もその本体は横紋筋融解である.その背景にある骨格筋疾患と本症発生について,骨格筋の細胞内カルシウム・イオン動態の機能障害の観点から解説した.

技術解説

筋生検―適応,方法,組織化学

著者: 西野一三

ページ範囲:P.503 - P.508

 筋生検は,筋疾患の診断を目的として行われる.光学顕微鏡レベルの病理標本用には,検体は新鮮凍結して固定される.筋組織学の組織化学染色は,他の組織の病理とは異なる独自の発展を遂げてきており,酵素活性に基づく染色法が発達しているからである.組織標本の作製は,人工産物との戦いであり,大部分の人工産物が凍結固定時と運搬時に形成される.これらの人工産物により,組織診断が不可能になることが多いので,検体の処理には細心の注意が必要である.

筋生検―電子顕微鏡

著者: 若山吉弘

ページ範囲:P.509 - P.514

 生検筋の電子顕微鏡(以下電顕)による検索は診断だけでなく病態解明に大切である.ポストゲノム時代を迎え電顕の各種応用を含めた利用はますます重要になると思われる.電顕試料作製に際しては試料の固定方法は,固定による人工産物との関係や,固定方法による微細構造の見え方の違いとも関連して大変重要である.本稿では電顕の試料作製技術,特に試料固定技術を中心に概説し,さらに一部の筋疾患の電顕所見についても説明した.

筋生検―免疫組織化学

著者: 林由起子

ページ範囲:P.515 - P.522

 多くの原因遺伝子産物が明らかとなっている筋疾患の診断には,特異抗体を用いてその蛋白質の発現や局在をみることのできる免疫組織化学法ならびに蛋白質の量や分子量の変化をみることのできるイムノブロット法がしばしば有用である.本稿では,実際に診断に有用である疾患に的を絞り,紹介する.

筋疾患の電気生理学的検査

著者: 園生雅弘

ページ範囲:P.523 - P.529

 同芯針筋電図が筋疾患における電気生理検査の代表であるが,その第一の役割は筋原性であることの診断である.これには,筋力低下のある筋で弱収縮でも容易に干渉波を形成する所見が,最も確かな手がかりとなる.個々のMUPについては,筋原性でも肥大線維や様々な機序によるlocalgroupingによって高振幅や巨大MUPが出現し得る.線維自発電位などの安静時活動の出現の有無によって,筋疾患をある程度分類することが可能である.

遺伝子検査

著者: 南成祐

ページ範囲:P.530 - P.536

 近年の分子遺伝学の隆盛によって,筋疾患の原因遺伝子が数多く明らかにされている.遺伝子検査は従来の筋生検や画像検査に加えて,強力な確定診断法として認知され,臨床の現場において身近なものになりつつある.また,保因者診断など遺伝相談にも役立っている.本稿では,遺伝子検査の適応,基本技術,検査材料について概説した後,比較的よく行われている疾患の遺伝子検査法について解説する.

画像検査

著者: 川井充

ページ範囲:P.537 - P.542

 X線CTは標準的撮像法を行うことにより短時間で全身の筋のスクリーニングができる.筋萎縮や脂肪化の判定に威力を発揮する.深部の筋や肥満の症例の筋の評価にも有用である.MRIは撮影に時間がかかるが解像力がよく,特に炎症の評価に有用である.超音波エコー法はリアルタイムという特徴を生かし,表面から観察できない筋線維束収縮を発見するのに役立つ.MDPシンチグラフィーは筋の炎症の分布のスクリーニングに有用である.

話題

福山型先天性筋ジストロフィーの分子生物学―糖鎖,新たな展開

著者: 戸田達史 ,   小林千浩

ページ範囲:P.543 - P.547

1.福山型先天性筋ジストロフィー(FCMD)1) FCMDの特徴
 福山型先天性筋ジストロフィー(Fukuyama-type Congenital Muscular Dystrophy;FCMD)は1960年福山らにより発見された,常染色体性劣性遺伝を示す筋ジストロフィーである.わが国の小児期筋ジストロフィーのなかではDuchenne型の次に多く,近年の比較的大規模な調査である2.9/10万人とすると日本人の約90人に1人が保因者となる計算である.日本に1,000~2,000人くらいの患者がいると推定されているが,診断確実例の海外からの報告はほとんどないに等しく,日本人特有の疾患である.
 本症は重度の"筋ジストロフィー"病変とともに,多小脳回を基本とする高度の"脳奇形"(胎生期の神経細胞移動期の障害であるII型滑脳症)が共存し,さらに最近は網膜周辺部の特異な円形病変,近視,白内障,視神経低形成,網膜剥離などの"眼症状"も注目されている.すなわち本症は,遺伝子異常により骨格筋―眼―脳を中心に侵す一系統疾患である.

コラーゲンの異常による筋ジストロフィー―ウールリッヒ型先天性筋ジストロフィー

著者: 樋口逸郎

ページ範囲:P.549 - P.553

1.はじめに
 近年,福山型,メロシン欠損型などの先天性筋ジストロフィーの病因解明が進んでいる.ウールリッヒ型先天性筋ジストロフィー(ウールリッヒ病)は生下時からの筋力低下,筋萎縮,近位関節の拘縮と遠位関節の過進展を特徴とする疾患であるが,1930年にドイツのウールリッヒが初めて報告1)して以来,症例数が少ないこともあり,遺伝子座も欠損蛋白もこれまでのところ不明であった.また,本症の独立性を疑問視する一部の研究者も存在するが,最近われわれはウールリッヒ病の病因と考えられるcollagen VIの蛋白欠損と遺伝子異常を明らかにし2,3),本症を一疾患単位として確立したので,自験例を中心に本症を概説したい.

蛋白質「分解」酵素の「異常」による筋ジストロフィー―カルパイノパチー

著者: 反町洋之

ページ範囲:P.555 - P.560

1.はじめに
 今回特集されているように,筋ジストロフィーの責任遺伝子にコードされるものはほとんどが酵素活性をもたない構造蛋白質であり,膜の周辺に局在する分子である.それゆえ,肢帯型筋ジストロフィー2A型(カルパイノパチー)の責任遺伝子が,骨格筋特異的カルパインp941)(カルパイン3とも呼ばれる)の遺伝子CAPN3であるとBeckmann博士のグループによって1995年に報告されたこと2)は,大きな衝撃を持って迎えられた.カルパインという細胞質に存在する蛋白質切断酵素の遺伝子の欠損が他の筋ジストロフィー同様の症状を引き起こすという事実は,筋ジストロフィーの発症メカニズムに関して大きなパラダイムの変換を予感させるものであった.その後のBeckmann博士や埜中征哉博士をはじめとする日本のグループの臨床データの積み重ねにより,現在までに100以上の病原性変異がCAPN3遺伝子座に見いだされており,この遺伝子の欠損がカルパイノパチーを引き起こすことに現在では疑問をはさむ者はいない(図1参照)3~6)

脊髄性筋萎縮症

著者: 伊藤万由里 ,   斎藤加代子

ページ範囲:P.561 - P.564

1.はじめに
 脊髄性筋萎縮症(Spinal muscular atrophy;SMA)は,脊髄前角細胞の変性による筋萎縮と進行性筋力低下を特徴とする常染色体性劣性遺伝の疾患である.SMAは,International SMA Con-sortium1)により発症年齢と臨床経過に基づいて,Ⅰ型(Werdnig-Hoffmann病,重症型),Ⅱ型(中間型),Ⅲ型(Kugelberg-Welander病,軽症型)に分類されている.Ⅰ型は生下時から6か月までの発症で,坐位保持不可能,人工呼吸管理をしなければ,2歳までに100%が亡くなる重症型である.Ⅱ型は1歳6か月までに発症し,起立または歩行が不可能で2歳以上に生存する.Ⅲ型は小児期から成人期に発症,歩行が可能な型である.臨床的重症度はそれぞれの型のなかでも多様である.近年,SMAの原因遺伝子と蛋白質の研究が進み,病態の解明もされつつある.

今月の表紙 電気泳動異常パターンの解析シリーズ・5

抗IgA(α鎖)抗血清でspurを形成するM蛋白

著者: 藤田清貴

ページ範囲:P.462 - P.464

 日常検査では,量的あるいは質的異常を示す様々な検体に遭遇する.特に,病態とかけ離れた異常な数値,あるいは奇妙な電気泳動パターンがみられた場合,どのような原因で起こったのか,それをどのように処理し解析したらよいのか判断に迷うことが少なくない.
 図1に67歳,男性のアガロースゲル電気泳動パターンを示す.midからslow-γ位にM蛋白帯が検出された.免疫電気泳動検査を行ったところ,M蛋白帯はlgA-x型M蛋白と同定されたが,抗lgA(α鎖)抗血清に対してspurを形成する2本の沈降線が観察された(図2)1).この現象は抗血清のメーカーを変えても全く同じであった.免疫グロブリンの定量ではIgA4,310mg/dlと著増し,IgGは705mg/dlと減少傾向を示したが,総蛋白量と血清蛋白分画値から算出されたM蛋白量(6,450mg/dl)と血清IgA濃度には明らかな乖離現象が認められた.

コーヒーブレイク

友ありて

著者: 屋形稔

ページ範囲:P.494 - P.494

 今年の正月は粉雪で始まった.窓外の信濃川の河面に霏々と舞う雪を眺めながら一杯飲んだ.沢山の年賀状の中に目を惹く一通が混じっていた.馬の蹄を直している兵卒を描いた版画で,1945正月イダ2等兵と書いてある.旧制高校の友人イダのもので,当時の賀状を再現したのかと思ったが昭和20年は午年でないし,2等兵の彼が賀状を出すはずもない.午年の今年に当時を思って版画にしたものと解釈し,構図の妙と共に感心した.
 60年前高校入学以来の永いつき合いが懐しく断片的に浮んできた.つい去年の秋も東京在住の連中から全国旧制高校卒業生の制作展が開かれるので見学がてらクラス会を催すから出てこいという案内がきた.あまり行ったこともない王子駅の近くのビルで沢山の絵画や書から版画,彫刻まで展示され,素人ばなれしたものが多く,趣味の豊かさに感服した.イダもきており,その版画はかなり高い評価のようであった.荒波の海辺で岩海苔とりをしている女達の姿が描かれていた.アフガンの女のように覆面をしているので場所は新潟の笹川流れか山形海岸だろうといったら福井の東尋坊だという答えであった.

シリーズ最新医学講座―免疫機能検査・17

臓器特異的自己抗体の検査

著者: 岩﨑良章 ,   辻孝夫

ページ範囲:P.565 - P.572

はじめに
 自己抗体として多くのものが知られているが,抗核抗体のように特定の臓器に限らず普遍的に存在する抗原に対する抗体もあれば,抗胃壁抗体のように特定の臓器にしか存在しない抗原を認識する自己抗体も知られている(表1).前者は臓器非特異的自己抗原・抗体,後者は臓器特異的自己抗原・抗体と分類されうる.しかしながら,普遍的に存在する自己抗原であっても,対応する自己抗体が疾患特異的に出現し病変が特定の臓器にのみ限られる場合もあり,必ずしもその定義は一定でなく意見の分かれるところである.
 本稿では主要な臓器特異的白己抗原・抗体検査について,最新の知見を中心に紹介する.

トピックス

データマイニング手法と医療過誤

著者: 松岡喜美子 ,   横山茂樹

ページ範囲:P.573 - P.577

1.はじめに
 医療技術は急速に発展し,その結果,治療法や臨床検査も的確になり,内容も複雑となった結果,「ニアミス」発生のリスクも増加しているともいえる.
 医療現場で発生した事故は医療事故といわれ,最近は,医療事故についてよく報道されるようになった.全日本大学高専教職員組合病院協議会の調査結果によると,国立大学病院看護町職員の93%が,医療ミスやニアミスを経験している.また,全日本医学生自治会連合会の全国調査では,大学病院研修医の8割は1人で診療しており,そのうち9割が医療ミスを起こすのではないかという「不安」を抱いているという.これらの報告が示すように,医療事故は,医療従事者のすべてに発生する可能性がある.

質疑応答 臨床化学

DNA配列のもつ意昧とサンガー法

著者: 前川真人 ,   K生

ページ範囲:P.579 - P.583

 Q 人間のもつすべてのDNA配列のなかで意味をもつ部分はおよそ5%であるとある科学雑誌に書かれていました.そうしますと,残りの95%のDNA配列はどのような意味があるのでしょうか.
 また,DNAの解読作業で利用されているサンガー法についてわかりやすく解説下さい.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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