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雑誌目次

論文

臨床検査46巻7号

2002年07月発行

雑誌目次

今月の主題 糖尿病 巻頭言

糖尿病診断の過去,現在,未来

著者: 富永真琴

ページ範囲:P.709 - P.710

 ライフスタイルの変化に伴い日本も含め全世界で糖尿病とその予備軍が増えている.検診などで発見される糖尿病は無自覚・無症状であることが多いが,慢性の高血糖が放置されると糖尿病に特有の網膜症,腎症などの細小血管障害性の合併症ないし糖尿病に特異的ではないが心筋梗塞や脳卒中などの大血管障害性の合併症が生じるリスクが高いことが知られている.糖尿病が増えこれらの慢性合併症が増えることは早世や身体障害の原因となるので,「健康日本21」計画でも国民の健康対策の課題・分野の1つとして取り上げられている.細小血管と大血管障害のリスクを認識すること,つまり,糖尿病診断は極めて大切である.
 一般に診断に用いる検査は食事や運動などの影響を受けず安定した代謝状態を反映するとされる空腹時の採血が適切であると考えられている.食後の検査は外来などやむを得ない場合に行うという理解であった.しかし,過去の糖尿病の診断基準は事情が異なっていた.糖尿病と正常を分けるパワーは空腹時よりも一定量のブドウ糖を負荷したテスト(OGTT)の血糖値のほうが大きい.空腹時血糖値よりOGTTに重きを置かれた.負荷量としては75gが適当であり採血時間としては2時間後が適切であることが一般的に受け入れられた.

病態解説

糖尿病の新しい診断基準の積極性と問題点

著者: 関根信夫 ,   門脇孝

ページ範囲:P.711 - P.720

 1999年5月,ADA (1997),WHO(1998)に続いて日本糖尿病学会から糖尿病の新しい分類と診断基準が発表され,既に日常臨床において広く用いられている.この診断基準は,国際的な報告との整合性に配慮しつつ日本人のデータを十分に活用した,極めて実用性の高いものであるといえる.新基準では糖尿病域の空腹時血糖値が従来の140mg/dl以上から126mg/dl以上と引き下げられ,HbA1c6.5%以上という項目も診断根拠の1つとして新たに加わったほか,糖尿病の早期治療・合併症予防を目ざした様々な配慮が盛り込まれている.

糖尿病の新しい病型分類とその診断

著者: 田港朝彦

ページ範囲:P.721 - P.727

 1999年に改定された日本糖尿病学会の糖尿病の診断基準では,糖尿病は,成因によって,1型糖尿病,2型糖尿病,その他の特定の機序,疾患によるもの,そして妊娠糖尿病の4病型に分類された.
病型分類とは別に,病態・病期についても記載された.病態は正常血糖と高血糖に分けられ,病期は「正常領域」「境界領域」「糖尿病領域」と表記される.さらに糖尿病のなかにもインスリン治療要否により,「不要」,「血糖是正に必要」,「生存に必要」,の3段階を区別する.

技術解説

HbA1Cの国際標準化を目ざすIFCC法

著者: 梅本雅夫

ページ範囲:P.729 - P.734

 IFCCのグリコヘモグロビンワーキンググループのHbA1C測定の標準化は,現在その最終段階にある.このIFCCの標準化はHbA1Cの定義の明確化と,一次キャリブレーターおよびレファレンス法の確立からなり,標準化に関係する各国の学術団体および機器・試薬メーカーは,それにどう対応するかを決めなければならない.しかし,従来のHPLCによる値との差が大きいためIFCCの値をアンカーとして用いることになりそうである.

わが国におけるHbA1Cの標準化

著者: 大橋徳巳 ,   武井泉

ページ範囲:P.735 - P.738

 HbA1Cの測定値は不安定型グリコヘモグロビンなどそのほかの共存物質の影響で変動しうる.またHPLC法,免疫学的方法,アフィニティー法での測定も行われるようになり,施設間差をさらに増大させる要因があった.そこで1993年JDSに設置された"グリコヘモグロビンの標準化に関する委員会"において,わが国におけるHbA1Cの戦略的標準化が行われてきた.その後,化学量論的な測定法が検討され,これに基づいた世界的なHbA1Cの標準化が進行している.

血糖自己測定の標準化

著者: 桑克彦

ページ範囲:P.739 - P.746

 SMBG(血糖自己測定)の標準化は,SMBG測定器による測定値の装置間差を是正するためのものである.装置間差の原因は主に校正に用いる試料と比較対照法の組み合わせによる.校正法が設定され,健常人の静脈全血を用いて,グルコース溶液を添加して得た濃度系列を測定試料とする.これをそのままSMBG測定器で測定し,さらに遠心血漿を比較対照法で測定し,得られた測定値から回帰分析により校正式を設定する.

話題

糖尿病療養指導士制度の発足―臨床検査技師に望まれるもの

著者: 梶沼宏

ページ範囲:P.747 - P.749

1.日本糖尿病療養指導士認定制度誕生の背景
 糖尿病は全身的な管理が必要な疾患であり,したがって,糖尿病の治療効果を挙げるためにはチーム医療が欠かせないことは周知のことである.まず内科あるいは小児科の糖尿病専門医を中心にして,これに腎臓,循環器,神経内科,血管外科の専門医,さらに眼科医のほかに産科医などの医師群の協力が必要である.
 同時に重要なことは,医師以外で糖尿病治療についての十分な知識と経験を有する医療担当者の参加である.すなわち,看護師,管理栄養士,薬剤師,臨床検査技師,理学療法士などのコメディカルの参加が必須であり,これを抜きにして糖尿病の万全な治療はないといってよいであろう.

健康日本21と糖尿病

著者: 葛谷英嗣

ページ範囲:P.751 - P.755

1.はじめに
 20世紀にわが国は長寿社会を達成した.平均寿命は男性で77.2歳,女性で84.0歳と,いずれも世界一である.21世紀はいよいよ超高齢化社会の到来である.老年人口(65歳以上)は1999年には16.7%であったものが,2010年には22.0%,2020年で26.9%にも及ぶと推定されている.このような人口の高齢化とともに医療や介護を必要とする人々の増加,寝たきり老人の増加が大きな問題となってきた.2025年には要介護者が520万人に達するということである.これからは単に寿命を長くするだけでなく,健康寿命をいかに長くするかが大きな課題となる.健康で質の高い生活をより長期に続けていくためには,寝たきりや介護の原因となる疾病を予防していくことが何より重要である.その根幹となるのは生活習慣病対策である.
 1996年,厚生省の公衆衛生審議会成人病難病対策部会で,従来の成人病に代わるものとしてはじめて生活習慣病という名称が決められた.「成人病」は加齢に着目した名称であるが,「生活習慣病」は生活習慣を見直すことによって病気の発症を予防しようとするコンセプトで提唱された名称である.そして,すべての人が健康で明るく元気に生活できる社会の実現を目ざして,21世紀における国民健康づくり運動「健康日本21」が2000年に策定された.

慢性合併症の予防―熊本スタディから学ぶ

著者: 岸川秀樹 ,   荒木栄一 ,   和氣仲庸 ,   大久保康生 ,   七里元亮

ページ範囲:P.757 - P.762

1.はじめに
 近年,厳格な血糖コントロールにより糖尿病性慢性血管合併症の発症,進展阻止を阻止しうるかを検討した無作為前向き調査研究の成果が,国内外であいついで報告され,「厳格な血糖コントロールにより糖尿病性慢性血管合併症の発症,進展を阻止しうる」ことが明確になった1~10).本稿では,2型糖尿病を対象とした筆者らの熊本スタディ1~3)を中心に,慢性血管合併症の発症,進展を阻止するための厳格な血糖コントロールに関する国内外の調査研究を紹介する.

糖尿病性腎症治療の最前線

著者: 羽田勝計

ページ範囲:P.763 - P.768

1.はじめに
 近年,糖尿病性腎症に起因する慢性腎不全のために透析療法を導入される症例が急増しており,日本透析医学会の集計では,1998年に慢性腎炎を抜いて新規導入症例の原疾患の第一位となった.この傾向は継続しており,2000年には全導入症例(31,925例)中36.6%(11,685例)を占めるに至っている1).この現状を打破するためには,腎症を早期に診断し,まだ可逆性の時期に治療を開始することが重要である.腎症の治療法に関しては,これまでに多くのランダム化比較試験の成績が発表されており,いわゆるエビデンスに基づく治療が可能になってきたと考えられる.さらに最近,腎症のremission (緩解),regression (退縮)も生じ得ることが報告されている.そこで本稿では,これらの点に関し腎症治療の最前線を解説したい.

尿中微量アルブミン測定の標準化の現状と問題点

著者: 伊藤喜久 ,   渡津吉史

ページ範囲:P.769 - P.772

1.はじめに
 糖尿病性腎症は糖尿病に合併する細血管症で,持続的高血糖による一連の代謝異常により引き起こされる.病初期の正常排泄量の時期(腎症前期)を経て,徐々に腎糸球体における選択的透過機能が失われると基準範囲を超えて,アルブミンの尿中排泄が増加する(早期腎症).これを微量アルブミン尿(ミクロアルブミン尿,microalbuminuri-a)と呼び,1日排泄量で30~300mg/day,クレアチニン(Cr)で濃度補正したアルブミン指数で1日排泄量,随時尿で15~30mg/g・Cr,時間夜間尿で10~200mg/分,Cr補正で10~30mg/g・Crの範囲と定義される.この上限を超え顕性期(尿試験紙検査で陽性化)に入ると,短期間で急激に腎機能は低下して腎不全に至る1).したがって,顕性期以前の腎症前期,早期腎症のより早期の段階で,血糖コントロール,血圧コントロールなどの治療を進め,発症防止,進展の予防が図られなければならない.今や尿中微量アルブミン測定は,腎症の診断,治療,経過観察のマーカーとして,世界的に不可欠な検査となっている.
 筆者らは日本腎臓病学会腎機能(GFR)・尿蛋白測定委員会委員として腎機能検査の標準化に携わる機会を得た2)

今月の表紙 電気泳動異常パターンの解析シリーズ・7

異常なテイリング像を示すアルカリホスファターゼの解析

著者: 堀井康司

ページ範囲:P.706 - P.708

 血清アイソザイム分析を行っていると時々びっくりするような異常な像に出会うことがある.今回紹介するアルカリホスファターゼ(ALP)の分析中に認められた4症例もその1つである.図1をみていただきたい.図下段に示した蛋白分画像からわかるように4症例はいずれも原点(塗布点)よりアルブミン易動度までテイリング状の幅広い活性を示す異常な像であった.しかもこれらの異常ALPはいずれも全例死亡直前に出現した.
 ALPアイソザイムは検出される易動度によって陽極側から順にALP1からALP6に分類される.正常な場合に認められるのはALP2(肝由来)とALP3(骨由来)でありALP5(小腸由来)も一部検出される.ALP4(胎盤由来)は妊娠後期に認められるが,腫瘍が産生するものも知られている.またALP1は肝・胆道疾患時に出現し膜成分と結合しているため高分子である.同様にALP6も高分子であるが,これは免疫グロブリンとの結合による.これらアイソザイムは,易動度的に一部重なる場合があるが通常バンドとして検出され,これらの症例のようにテイリング状に活性染色されることはない.4症例の年齢・性・診断名・死因および異常ALP出現時の血清酵素活性を表1に示した.共通しているのはいずれも死因が肺炎であることとALPと乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)の活性上昇で,特にLDHはLDH2,3の上昇であった.

コーヒーブレイク

見ぬかたの花

著者: 屋形稔

ページ範囲:P.734 - P.734

 その昔の中学生の学力はふり返るとかなり高いものであったと思える.1~2年生で既に徒然草を副読本として全文読まされていた.これを書いた吉田兼好は天皇に仕えた北面の武士であったが,30歳頃出家してつれづれなるままにこの名随筆を書いたのは50歳前後と思われる.戦時中で教師も少なくなっており私達に本書を講義してくれたのは田舎町に残っていた寺の若い坊さんであった.始めて人生なるものを考えさせてくれた本書とともに,この若い坊さんの音吐朗々たる声が忘れられない.
 自然や人事に対する随想や教訓,批評,人生観,趣味観,処生訓などがちりばめられていた.例えば,このなかの第7段「あだし野の露消ゆる時なく」などをみると,「世は定めなきこそいみじけれ」(世のなかは無常であることがほんとうによいのだ)とか,「つくづくと1年を暮らすほどだにも,こよなうのどけしや」(人間がゆったりとおちついて1年を暮らす間だけでもこのうえなくのんびりしたことなのだ)などの感懐が綴られていた.

シリーズ最新医学講座―免疫機能検査・19

アレルギー反応の機序とその検査

著者: 茆原順一

ページ範囲:P.773 - P.776

はじめに
 そもそも,アレルギーにしても,1907年,Peter,Clemens,Cesenatico von Pirquetによって,ギリシア語のAllos(alter)とErgon(action)とを語源に提唱した"反応能力が変化している"という意から発しており,その変化は量的関係が増強された場合を過敏状態(hypersensitivity)としてアレルギーと把握される.したがって,抗原抗体反応の生体に及ぼす作用は,防御と過敏性で,前者は生体にとってbenefitな反応で,免疫反応として呼ばれ,後者は生体にとって不利な反応で,アレルギー反応と呼ばれるわけである.したがって,免疫反応もアレルギー反応も抗原抗体反応という1つの線上に存在し,これが生体にとって有利かどうかという一点が異なるわけである.一方,アトピーの本質は,Coombs&GellのⅠ型アレルギー反応における易IgE抗体産生の遺伝的素因として把握できる.
 アレルギー性疾患の好発部位は皮膚,上気道,気管・気管支,腸管などで,これらはとりもなおさず,外来抗原に常にさらされる部位であり,さらに興味深いことには,生理的な状態においても好酸球の多く分布している部位でもある.

トピックス

セラチアを原因とする院内感染症の集団発生

著者: 増田剛太

ページ範囲:P.777 - P.779

1.はじめに
 今日の日本の医療現場で最も多く遭遇し,臨床的にも問題とされる院内感染の原因菌はメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)であるが,これに対し,最近数年間にわが国でグラム陰性桿菌であるセラチアによる特異な集団院内感染事例が連続して3件発生した.一般には耳慣れないこの細菌による感染症は,現代の医療体制の盲点,問題点上に立脚して生じた極めて示唆的な事件であったといえる.本論文ではこれらセラチアによる院内感染例の分析を通じ,その成因と改善すべき方向性を明らかにし,その再発防止などについても触れてみたい.

HIV感染とケモカインレセプター遺伝子多型

著者: 照沼裕

ページ範囲:P.780 - P.783

1.はじめに
 HIVが細胞に吸着する際の主要な受容体はCD4分子である.しかし,CD4だけでは吸着したウイルスは細胞内に侵入できない.そこで第2受容体としてコレセプターの存在が推測されていた.そして10年以上にわたる検索の末に1996年に,ケモカイン受容体ファミリーがHIV-1のコレセプターとなっていることが明らかになった1).ケモカイン受容体は7回膜貫通G蛋白質共役受容体で,その本来の機能はリガンドであるケモカインと結合して細胞内にシグナルを伝達して炎症部位への細胞の遊走などの細胞応答を引き起こすことである.以下,このケモカイン受容体がHIV-1の細胞指向性を決定し,さらにその遺伝子多型が病態進行にもかかわっていることを概説する.

質疑応答 病理学

核内封入体

著者: T生 ,   長沼廣

ページ範囲:P.784 - P.788

Q 甲状腺乳頭癌のABCやメラノーマなどでみられる核内封入体はどのようにしてできるのでしょうか?

研究

超音波画像ファイリングシステムの開発

著者: 荒谷清 ,   松下淳 ,   麻生啓子 ,   夕川佐和美 ,   赤迫善満 ,   林実 ,   大田俊行 ,   箕輪静男 ,   加藤真司

ページ範囲:P.789 - P.797

 超音波検査の施設間のレベル格差の是正および電子カルテ化を目的として臨床ニーズに十分対応でき容易な操作で診断所見入力・報告書作成が可能な超音波画像ファイリングシステムを開発した.
 本システムはオーダリングシステムとの連携により依頼情報が自動取得される.検査時はボタン1つで画像転送され,統一された所見入力と報告書が作成できる.また,時系列比較機能により過去所見・画像データを瞬時に検索でき検査精度が向上した.さらに,電子保存となり省スペース化とともに業務効率がアップし経済効果にも寄与できた.

資料

イムノクロマトグラフィーによるメシル酸ナファモスタット特異的lgE抗体簡易測定法の確立

著者: 本間玲子 ,   鈴木祥之 ,   越山良子 ,   望月剛 ,   来海正輝 ,   松本一彦

ページ範囲:P.799 - P.803

 薬物による副作用の1つにアレルギー性の機序によるものが知られている.われわれは,蛋白分解酵素阻害剤であるフサンによるアレルギーの確定診断の一助としてフサンの有効成分であるメシル酸ナファモスタット(NM)特異的IgE抗体の酵素免疫測定法(ELISA)を確立し,測定してきた.しかし,本方法は結果を得るまでに数日を要し,迅速性に欠けている.そこで,特別な装置を必要とせず簡便な,薬物特異的IgE抗体をELISAと同様に感度よく短時間(30分)で検出できるイムノクロマトキットを開発した.50名の血清を用いて,抗NM IgE抗体をELISAと本キットを用いて比較測定したところ,よく一致した結果を得た.他の薬物アレルギーへの応用も可能であり,今後,広く臨床での活川が期待される.

総コレステロール測定法におけるCDH-UV法の実用化

著者: 渡津吉史 ,   岸浩司 ,   白波瀬泰史 ,   片山善章 ,   岡部紘明

ページ範囲:P.805 - P.812

 総コレステロールの測定法は,化学法から酵素法へと替わった.その酵素法のなかでもCOD-POD法は日常検査法として汎用されているが,その反応原理における諸問題点が指摘されてきた。一方,コレステロール脱水素酵素(CDH)を用いた方法も可逆反応であることが問題であった.近年,COD-POD法の問題とCDHの可逆反応性を克服し,また実用基準法になる可能性を秘めた新しい酵素法(CDH-VU法)が実用化された.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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