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雑誌目次

論文

臨床検査47巻1号

2003年01月発行

雑誌目次

今月の主題 緊急検査 巻頭言

緊急検査の現状と将来

著者: 菅野剛史

ページ範囲:P.7 - P.8

 緊急検査は,検査情報を直ちに入手することで臨床医が患者の急変に対応するために生まれたものである.当初は血球計測にしても,計算盤が中心であったり,電解質測定の炎光分析にしても装置の保守と安定性の問題,ドライケミストリーなどを中心とした簡便な検査機器でも,精度管理上の問題など多くの問題をはらみながらも必要性が優先され対応がなされていった.検査項目も限られ,対応にもどかしさが伴ったのが実情である.

 その過程で,酵素的測定法の進歩が固定化酵素の開発としてドライケミストリーの進歩を促し,生化学検査の多数の項目で迅速な検査が可能となっていった.また,血球計測の技術の進歩は,小型で簡便な血球計測を可能とし,緊急の現場での血球計測を容易にするとともに比較的容易に白血球分割が可能な装置も出回ることとなった.また,免疫化学領域での進歩は,分離分析を要求した分野でも特異的な阻害抗体を利用して数種類のアイソザイムを分画するほかに,イムノクロマト法などの新しい迅速・簡便な技術を提供しこの領域でも迅速な緊急対応を可能としていった.

総論

緊急検査の概念

著者: 渡辺清明

ページ範囲:P.9 - P.12

〔SUMMARY〕 緊急検査は多様性をもって考える時代となった.つまり,緊急検査の概念は患者の救急救命時の検査ということから,どのような患者でもより迅速に検査するということに変わりつつある.

 緊急検査に救急事態のための検査のほかに,外来患者の診療前の至急検査や入院患者の治療決定や経過観察のための迅速検査などを加える要がある.そのためには日常の検査結果をより速く臨床側に返すシステム作りが課題となる.また,緊急や迅速検査に対する適切な経済的評価がなされることも重要となる.

緊急検査法の変遷

著者: 関口光夫

ページ範囲:P.13 - P.21

〔SUMMARY〕 約40年前の緊急検査は,電解質と白血球数検査が中心で,項目数も少なく貧弱であった.1975年(昭和50年)代には,単項目から6項目程度の測定装置が登場し活躍するようになった.一方,測定試薬系は強酸,強アルカリの試薬系で加熱処理を必要とするような反応系から,温和な試薬で短時間に測定可能な酵素的測定法の開発が進み,緊急検査への適用が容易となった.1980年(昭和55年)代以降は,緊急割り込みや検査項目が任意に選択できる緊急検査向けの機能を意識した装置が登場し,迅速性が増した.さらに,検査依頼の発生源入力が可能なコンピュータシステムの普及も相まって緊急検査への総合的な対応に大きく貢献している.

緊急検査コンピュータシステム化

著者: 米田孝司 ,   片山善章

ページ範囲:P.23 - P.34

〔SUMMARY〕 緊急検査室の依頼頻度は早朝に集中しているため当直者の負担が大きく効率が悪い.特に,夜間・祝日緊急検査には不慣れな検査を担当することもあり,検査業務量も増大するため省力化に対応した緊急検査業務とシステム化が重要になる.緊急検査システムとオンラインされた測定装置がバーコード運用されているとワークシートを作成する必要もなく,検査ミス(検体および項目の間違い)を少なくできる.また,精度管理や前回値および異常値チェックなどにより検査技師が正しい結果を確認し,迅速かつリアルタイムに臨床側へ報告できる.

各論

緊急検査項目の選択(基準)

著者: 高木康

ページ範囲:P.35 - P.39

〔SUMMARY〕 緊急検査は生命の存続に危険があるほどに重症で,緊急処置を必要とする患者に実施される.このため,迅速性が最重要視され,検査結果は患者診療に即刻活用され,適切な対応がなされるべきである.多くの臨床検査(検体検査ばかりでなく生理機能検査,画像診断でも)は機器・試薬の開発により迅速かつ簡単に検査可能となってきた.今後は診療効率に優れた検査項目の選択・設定が良質な医療を行ううえで必要となる.

緊急検査の経済性

著者: 片山善章 ,   米田孝司

ページ範囲:P.41 - P.48

〔SUMMARY〕 緊急検査の経済性は日常検査のなかで対応するか,緊急検査装置を導入して独立させた体制で実施するかによって異なる.施設の経済的な事情を先行してしまうと患者中心の医療から逸脱してしまうとも限らない.選択した検査方法の経済性については,測定試薬だけのコストではなく,検査過程に関係するすべてのことを総合して計算したランニングコストで判断しなければならない.

緊急検査結果(情報)の扱い方

著者: 松尾収二

ページ範囲:P.49 - P.56

〔SUMMARY〕 緊急検査で極異常値が出た場合,いろんなデータチェックをやっている余裕はない.検体異常(溶血,凝固など)の確認,時系列データの確認や関連項目との比較など簡便で効果的な方法で対処しよう.さらに今後は患者の病状を把握することを付け加えよう.そして極異常値の報告は配達を心がけよう.それはデータの保証のみならず,速やかな報告にもつながる.また臨場感を味わうことで生きた検査ができる.

緊急検査としてのPOCTの位置づけ

著者: 福田篤久 ,   石田浩美 ,   久保田芽里 ,   小島義忠

ページ範囲:P.57 - P.61

〔SUMMARY〕 筆者らが救急医療において試行錯誤を繰り返してきた緊急検査のあり方について,POCTを対比させて解説する.その結果,POCTに求められる要素や基本的な条件は,われわれが求め続けてきた緊急検査と相同性が高く,特に救急医療や集中治療の領域では本質的に同じであると思われた.したがって,POCTは今後さらに複雑化される医療現場において,迅速簡便に行われる緊急検査として期待されるものになると考える.

話題

緊急検査(輸血検査も含む)と勤務体制

著者: 眞重文子

ページ範囲:P.63 - P.65

 1.はじめに

 1996年の秋,米国を代表する4つの病院を見学することができた.4病院とも,検査室は,臨床化学・臨床血液検査室,細菌検査室,輸血検査室に分かれており,検査室毎の24時間,週7日のワークシフト(交替制勤務)が敷かれていた.その内の1つの救急病院に小さな緊急検査室があったが,ほかの3病院では,“24時間稼働しているラボが50メートルのところ(外来や病棟から)にあるので緊急検査室は必要ない”ということで緊急検査室はなかった.当時,東京大学医学部附属病院では,輸血検査の24時間体制を整えるべく悪戦苦闘していたので,米国の24時間体制の充実振りには感動したものだ.しかし,日本でも,ここ数年ほとんどの病院で緊急検査に加えて,技師による輸血検査の24時間体制が整えられ,臨床検査技師の本来の役目を担えるようになっている.

緊急臨床検査士認定資格について

著者: 伊藤機一 ,   櫻井典子

ページ範囲:P.67 - P.70

1. はじめに

 日本臨床検査医学会(旧日本臨床病理学会)と日本臨床病理同学院が共催する緊急臨床検査士資格認定試験は平成14年度で第20回(関東),第21回(関西)を迎えた.平成14年度は例年に比べ受験者数の著しい増加がみられた.その背景として,緊急検査の役割が救命救急医療の拡充化の中で重要視されてきたことと,各種の専門認定技師の取得者が増加する反面,ジェネラリストとしての意味をもつ本資格を取得する必要性の認知が高まったことがあると思われる.本稿では,本試験の経過と試験内容の概要について述べる.

緊急医療のなかでの臨床検査

著者: 柴田泰史 ,   山本保博

ページ範囲:P.71 - P.74

1. はじめに

 かつて臨床検査は,各種疾患の診断に際して理学的所見による診断を補助するものであった.しかし,今日では理学的所見だけではなく,臨床検査は診断と治療のうえで重要な部分を担っているが,ことに緊急(救急)医療における臨床検査,いわゆる緊急検査も例外ではない.単に病気の診断に役立せるためだけではなく,重症度や緊急度の判断,病態の把握,緊急処置や治療の効果などに対する有用性の高さから,救急医療ではその重要性はいっそう大きくなる.それは救急医療施設のなかでもとりわけ救命救急センターに搬送される救急患者は,様々な病態を呈し,かつ重症であることが多いからである.刻々と状態が変化する救急患者に対して,どのような検査を,どのようなタイミングで行ったらよいのかを選択し決定していくことは難しいことである.重症の救急患者を診断,治療し救命するには,医師の技量や看護体制のみではなく,緊急検査が緊急度や優先順位によって迅速かつ円滑に行われなくてはならない.医療内容が高度かつ複雑になるにつれ,最善の診断,治療が行われるためにも,従来にもまして臨床検査技師の積極的な関与とともに,救急医療における臨床検査システムを理解しなければならない.本稿では,救急医療システムとその現状,救急医療に即した臨床検査の現状について,救急医療に携わる医療従事者の視点から述べてみる.

緊急検査機器開発の戦略―Micro Slide Technologyから次世代システムの開発

著者: 樋渡亮二 ,   成瀬美華 ,   平井智子 ,   古坊孝志

ページ範囲:P.75 - P.80

1. はじめに

 わが国における臨床検査の自動化は1957年に臨床化学検査のための自動分析装置Auto Analyzer(当時の米国テクニコン社)が導入されたのが始まりである.このAuto Analyzerは当時のテクニコン社の商標であるが,わが国においては自動分析装置の代名詞的に表現されるほど画期的な装置であった.そして1960年以降における,臨床化学検査分野の発展に大きく貢献し,世界的な臨床化学検査の自動分析装置開発のきっかけとなった.したがって,現在では多種多様の自動分析装置の機種が開発・利用されている.そのような変遷の中で緊急検査に対応できる自動分析装置は,歴史的にどのような機器が利用されていたのだろうか.

 今回,特に臨床化学検査の緊急検査機器について,その具備条件,機器の変遷および主に緊急検査機器として利用さているジョンソン&ジョンソン社(J&J)のDry Reagent Chemistry方式(以下ドライケミストリー)であるビトロスの緊急検査機器としての開発目的と特徴,次世代ビトロスのコンセプトについて言及する.

今月の表紙 電気泳動の解析シリーズ・1

リポ蛋白の異常症例

著者: 塚本秀子

ページ範囲:P.4 - P.6

 臨床検査の日常分析のなかから,今回リポ蛋白の電気泳動で異常パターンを呈した低脂血症(症例1)と高脂血症・高カイロミクロン血症(症例2)を紹介する.

 1.低脂血症(症例1)

 17歳・女子高生.12歳時から野菜中心の食事をするようになり偏食を続けた.16歳ころから体重減少が目立ち,17歳の時,感冒で近くの医院を受診し,極度のるい痩を指摘された.偏食を続けるうちに自力歩行が困難となり当院精神科に全身管理の目的で入院した(入院時,身長161cm,体重25.5kg,BMI9.6).

 リポ蛋白泳動パターン(図1,2)と検査データ(表1)を示した.入院時,リポ蛋白による電気泳動では,αリポ蛋白のみで,βリポ,pre -βリポ蛋白はほとんど観察されず無βリポ蛋白を思わせた.また,TG4mg/dl,アポB4mg/dlと極度に低値を示した.末梢血では多数のacanthocytosisが出現した.中心静脈栄養と経口摂取を開始し,図1の経時観察で示したように,順次pre-β,βリポは増加しTC,TG,アポBも増加した.HDL-Cは低下した.acanthocytosisも減少した.退院時55日目には体重36.5kg,BMI13.7まで回復し自力歩行も可能となり,データも正常にもどった.

コーヒーブレイク

風立ちぬ

著者: 屋形稔

ページ範囲:P.22 - P.22

 「風立ちぬ いざ生きめやも」というフレーズは,詩人ポールバレリイ(仏)の詩集海辺の墓地を堀辰雄が訳したもので,彼はこの風立ちぬを題名とした私小説を1938年に発表した.当時からこの言葉は私の琴線に触れるものがあり,今に至るまで時々唇にのぼる.

 誰が風を見たでせう 私もあなたも見やしないという歌の通り風は元来目に見えるものでないが,常に私達の周囲で確かな存在を示している.この小説は死の近づいた重症の婚約者につき添って山岳地帯の療養所へ行き,そこでの閉ざされた生活のなかの短い一生の間をお互いにどれだけ幸福にさせ合えるかを書いたものである.この女主人公の死を迎えてから1年後に書いた彼女への鎮魂歌を合わせて完成し,むしろ閉塞された環境のなかで幸せを求める道筋を語っている.

パニック値

著者: 寺田秀夫

ページ範囲:P.66 - P.66

 昨年の夏の暑さは例年よりも烈しく,通勤途中の地下鉄や電車の中で,また緊張するような会議などで,動悸,発汗,息苦しさなどのいわゆるパニック発作を起こした人が時々緊急外来を訪れている.

 さてここで述べたいパニック値すなわち臨床検査における緊急異常値は,各検査センターが速やかに依頼された側に報告すべき異常値である.このパニック値が各施設によりいろいろ異なり,その標準化の試みが進められている.

 しかし各々の検査センターでの検査方法の違いによる基準値の差異などから難しい問題も多く,また依頼する医療者側の専門の違い,例えば,がんセンターと循環器病センター,また透析患者が主な腎センター,また臓器移植を専門に扱う移植センターなどでは,一般病院の求めるパニック値とは異なってくることは当然であろう.先日ヘモグロビン(Hb)が4.1g/dlであまり自覚症状もなく初めて外来を訪れた中年女性の鉄欠乏性貧血の患者,血小板数2.5×104/μlで出血症状もほとんどない特発性血小板減少性紫斑病の30歳女性など,患者1人1人で異常値と臨床症状との間に差があることが珍しくない.それは原因となる病態の違いによるのであるが.

シリーズ最新医学講座・Ⅰ 免疫機能検査・25

X連鎖重症複合免疫不全症(X -SCID)の病因追求

著者: 久間木悟

ページ範囲:P.81 - P.88

はじめに

 重症複合免疫不全症(SCID)という病名は,本症患児が細胞性免疫および液性免疫に“複合”的に機能異常を呈し,総じて幼児期に死亡する“重症”な疾患であることから,約25年前にイギリス人小児科医John Soothillによって名付けられ,以降広く用いられるようになった.本疾患の最初の報告は1950年にスイスの小児科医GlanzmannとRinikerによってなされた1).そのきわだった特徴は,末梢血中のリンパ球がほとんど存在しないことであった.患児の臨床症状は成長障害,口腔咽頭の真菌症,重症の肺炎,持続性の下痢といったものであり,重症感染症のため,患児は2歳の誕生日を待たずして死亡する.1958年にスイスのHitzigらは患児に無ガンマグロブリン血症も存在することを示した2).このような歴史的背景から,SCIDはSwiss型無ガンマグロブリン血症と呼ばれていた.その後,1966年にRosenらが調べたSCIDの3家系では患者がすべて男性であった3).特にそのなかの1家系では,3世代にわたり保因者である女性を介して9人の男性患者が発症していた.このことからSwiss型無ガンマグロブリン血症のなかに典型的なX連鎖の遺伝形式をとる疾患が含まれることが示され,これがX連鎖重症複合免疫不全症(X -SCID)の疾患概念の確立につながった.X -SCIDはSCIDの約半数を占め,発症頻度は約10~15万人に1人といわれている.X -SCIDの責任遺伝子座については,リンケージ解析の結果からXq13.1 -q21.1に存在することが知られていたが,1993年にインターロイキン(IL) -2受容体サブユニットの遺伝子,γc鎖遺伝子がこの遺伝子座に連鎖することが判明した4,5)

シリーズ最新医学講座・Ⅱ シグナル伝達・1

シグナル伝達概要

著者: 北島勲

ページ範囲:P.89 - P.101

はじめに:何故,臨床検査領域に シグナル伝達が必要なのか

 多くの疾患は細胞の機能異常に起因する.その機能異常はどのようなメカニズムで起こるのであろうか.1980年代から「細胞内のシグナルが正常に伝わっていないから病気が起こるのでないだろうか」という視点からの研究が爆発的に進められてきている.すなわち,細胞内シグナル伝達機構の研究は「細胞表面に届いたシグナルはどのようにして細胞内に伝わり,細胞の機能発現を制御しているのだろうか」という命題に対する解答への模索である.事実,シグナル伝達解析により,細胞の生存と死,細胞極性と運動,細胞周期などの分子病態が次々と解明され,個体発生,癌,免疫,神経など様々な疾患の原因が解明されてきた.

 この20年間,細胞内に複雑に張り巡らされたネットワークをひもとき,疾患との関連を解明するシグナル伝達研究が分子生物学の潮流であった.この学問進歩は,疾患を分子の立場から解明するいわゆる「分子病態学」が臨床検査に必要不可欠なものとなってきた.臨床検査分野も,疾患の病態を蛋白レベルで検査する時代から,遺伝子レベルでの解析が付加される時代になったことは誰もが認めることであろう.したがって,これから臨床検査に携わる者は,この分野を無視することはできないと考える1).しかし,この分野は複雑で,シグナル分子の略語を理解するのさえうんざりするという方も結構多いのではと思われる.さらに,シグナル伝達機構の研究は日進月歩であり,1人の研究者がすべてをフォローすることは不可能である.「臨床検査」の新シリーズ「シグナル伝達」において,筆者がトップバッターとして「シグナル伝達の概要」を執筆するように仰せつかった.初学者の臨床検査技師を対象にシグナル伝達に関する基礎知識を得るために「わかりやすく」をモットーに心がけたつもりである.今後に引き継がれる各論の理解に役立てていただければ幸いである.

トピックス

婦人科癌における血管新生とその制御

著者: 植田政嗣

ページ範囲:P.103 - P.108

1.はじめに

 血管新生とは既存の血管から新しい血管が形成される組織反応であり,創傷治癒や肉芽形成に重要な役割を果たすほか,女性生殖器では卵胞発育・黄体形成や子宮内膜の増殖・分化に密接に関与している.一方,腫瘍発育において癌組織が径1~2mmを超えて増大するためには,周囲への血管新生の誘導とそれを介する酸素や栄養の補給が必須であり,また癌細胞はこの新生血管を経て他臓器へと転移していく.すなわち,腫瘍の異常増殖および浸潤・転移は血管新生に依存しており,これを惹起する種々の血管新生因子の役割が注目されている.したがって,腫瘍の血管新生機序を解明しこれを制御する方法を確立することは画期的な癌治療へと発展する可能性を秘めている.抗血管新生療法は,腫瘍の血管新生阻害により長期間にわたって腫瘍の増大・転移を抑制する“tumor dormancy therapy”を目指すものである.手術療法,化学療法,放射線療法,免疫療法からなる癌の集学的治療法がほぼ確立された現在,種々のプロテアーゼや血管新生因子を分子標的とした癌の浸潤・転移の診断とその抑制法の開発は,21世紀の画期的な対癌戦略として期待されている.本稿では,最近の国内外における血管新生阻害剤による分子標的治療の試みについて概説するとともに,新規血管新生抑制物質(F -spondin)の遺伝子治療への応用などの自験データを紹介したい.

質疑応答

免疫血清 感染症コントロール血清のウイルス不活化

著者: 上村八尋 ,   河合忠

ページ範囲:P.110 - P.111

Q

感染症コントロール血清のウイルス不活化と検査室の安全性について,お教え下さい.(東京都・N生)


A

1.はじめに

血液製剤(全血,血液成分製剤,血漿分画製剤)は,2重3重の厳しい検査を経て患者に投与される.このなかの血漿分画製剤(アルブミン,グロブリン,第8因子など)は,さらに2重3重のウイルス不活化工程を経て製造されるので,ウイルスに対する安全性はより高い.このように,患者のウイルス安全性にはだれもが注意を払っているが,患者を診療または検査する医療従事者のウイルス安全性についても,各自が十分に注意する必要がある.健康と思える人の血液でも,ウイルスが陰性とは限らない.しかし,輸血関連ウイルスの特性を理解していれば,不要な不安を避けられる.少なくとも,感染症コントロール血清は,ウイルス不活化処理を施す必要がある.今回,上村ら1~3)により加熱処理と界面活性剤処理を施した感染症コントロール血清ヴィラトロール(Viratrol)が開発された.その紹介をしながら,検査室の安全性についても考えてみたい.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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