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雑誌目次

論文

臨床検査47巻4号

2003年04月発行

雑誌目次

今月の主題 漢方医学と臨床検査 巻頭言

漢方薬の普及と臨床検査の役割

著者: 福澤素子

ページ範囲:P.347 - P.348

 日本の伝統医学である漢方は,中医学を基として江戸時代にわが国独自の発展を遂げ確立された医学大系であるが,明治維新以後,医学教育は西洋医学のみとなり,漢方医学は衰退を余儀なくされた.しかし戦後,漢方の有用性が再び見直され,次第に現代医療に取り入れられるようになった.1960年には漢方の原料生薬が薬価収載され,現在242品目の生薬が収載されており,煎じ薬も保険で処方することができる.また医療用漢方エキス製剤は,1967年に4処方が初めて薬価収載されたが,その後処方が追加され,1987年には148処方となり,現在に至っている.

 漢方薬は現代医療のなかで積極的に使用されるようになってきているが,それには明確な理由がある.まず第一に,漢方では「心身一如」といって,人体を心身ともに包括的に捉え,全人的治療を行うという大きな特徴がある.この点で漢方医学は,疾患別,臓器別に治療を行う西洋医学とは決定的に異なっている.現代のストレス社会では,実に様々な身体的な悩みを抱える人々が増えており,冷え,のぼせ,動悸などの不定愁訴,抑うつ,不安,不眠などの心の問題,そして心と身体が密接に関連した心身症やアトピー性皮膚炎など,問題は一様ではない.しかし上記のような疾患は,西洋医学は苦手とするところであり,実際にあまり有効な手立てをもっていない.一方,心と身体は切り離せないものとして捉える漢方にとってはむしろ得意分野であり,西洋医学では治療の困難な症状や疾患に対して,満足すべき治療効果を上げている.

総説

漢方薬の副作用を検査で診断する

著者: 丸山征郎

ページ範囲:P.349 - P.352

〔SUMMARY〕 漢方薬といえども決して副作用がないわけではない.それは「効果」の裏返しでもある.このなかで甘草による低カリウム血症と,遠志による血中1,5-AGの上昇について解説した.

漢方薬と免疫マーカー

著者: 前田長正

ページ範囲:P.353 - P.361

〔SUMMARY〕 末梢血単核球(PBMC)中の単球/T細胞の比率とCTL活性の関連性について検討し,免疫能の指標となる新しい臨床マーカーを開発した.単球マーカーにCD11b,T細胞マーカーにCD3を用い,フローサイトメトリーで両者の比を測定し,M/T ratioとした.M/T ratioは,CTL活性と負の相関にあった.M/T ratioは,再発群の79.1%が経過中1.0以上に上昇し,1.0以上となる時期は腫瘍マーカー上昇時期より3.4か月前であった.M/T ratioは宿主免疫能の指標または再発の早期予知に有用なマーカーと考えられた.このM/T ratioを指標として,抗腫瘍免疫能を誘導する漢方(十全大補湯:TJ-48)の免疫特性を検討した.In vitroおよびin vivoにおいてTJ-48はCD11b陽性細胞を低下させ,M/T ratioを有意に低下させた.TJ -48の投与により,in vitro,in vivoでCTLの誘導が可能となり,adoptive immunotherapyの補強や,tumor dormancyとしての免疫療法として,また再発予防の点からも有用と考えられる.

各論

漢方製剤による低カリウム血症と最近の知見

著者: 林松彦

ページ範囲:P.362 - P.366

〔SUMMARY〕 漢方薬で用いられる甘草が低カリウム血症を生じることはよく知られている.この作用は,甘草中に含まれるglycyrrhizinが,腎臓からのK排泄増加作用を有するアルドステロン標的細胞において,その受容体を糖質コルチコイド結合から保護している代謝酵素である11β-hydroxysteroid dehydrogenaseを抑制することによることが明らかとなった.前向き研究では,実際に低カリウム血症を生じる頻度は低いことが示されたが,近年,アルドステロンによる心臓などの線維化促進作用が着目されており,甘草の影響に関して今後の検討が必要である.〔臨床検査 47:362-366,2003〕

漢方薬による肝障害とリンパ球幼若化試験

著者: 萬谷直樹

ページ範囲:P.367 - P.372

〔SUMMARY〕 漢方薬に対するリンパ球幼若化試験(LST)偽陽性現象のために,診断に苦慮した自己免疫性肝炎の症例を紹介した.また,21年間の漢方薬による肝障害を集積した検討結果から,漢方薬による肝障害と他の原因による肝障害との鑑別にLSTが役立たないことを示した.さらに,わが国の薬物性肝障害の診断基準においてLSTが重視されていることなど,漢方薬による肝障害の診断をめぐる困難な現状について概説した.〔臨床検査 47:367-372,2003〕

MRSAと補剤―臨床の立場から

著者: 北原正和

ページ範囲:P.373 - P.377

〔SUMMARY〕 意識障害例のMRSA感染に対する補剤(十全大補湯,補中益気湯)の効果を検討した.喀痰からMRSAが検出された110例に対する投与結果では,104例(94.5%)で陰性化した.またMRSA感染防御における効果では,入院後1週間以内に投与を開始した261例中喀痰からのMRSA検出は22例であったが,非投与例では251例中81例と高率にMRSAが検出された.意識障害例では末梢血リンパ球数が減少するが,補剤にはこれを正常化する効果も認められる.これらのことから,補剤は生体の免疫能,感染防御能を改善し,MRSA感染に対して有効に作用することが推察される.〔臨床検査 47:373-377,2003〕

MRSA感染防御と補剤―基礎的研究

著者: 山口宣夫 ,   清水昌寿 ,   松葉慎太郎 ,   泉久子

ページ範囲:P.379 - P.387

〔SUMMARY〕 感染性微生物と宿主によって展開される攻防のドラマ「感染症」は時々刻々変貌をとげる.そこに治療操作が加われば予想外の展開が広がる.そのなかには宿主の防御能力の後天的不全と,寄生しようとする微生物の耐性獲得という状況の変化が知られている.この報告ではまず,MRSA臨床株に対する感染防御実験システムを利用して,宿主側の抵抗力賦活を漢方方剤で試みた.同時に,適用する漢方方剤がMRSAの抗生剤耐性の感受性を高めることも併せて見出した.このように漢方方剤が宿主と寄生体に対して同時に作用して,感染病態を収束する方向に作用する点を述べた.〔臨床検査 47:379-387,2003〕

話題

漢方薬(補剤)は癌の悪性化進展および転移を抑制するか?

著者: 済木育夫

ページ範囲:P.389 - P.394

 1. はじめに
 高齢化社会の進行とともに医学的,社会的難題として認識されつつある多くの疾患の1つに,癌が含まれる.わが国では,癌による死亡数が増え続け,今や国民の3人に1人以上が癌で亡くなっている.特に肺癌,大腸癌や乳癌による死亡数は増加の一途をたどり,また,多くの場合遠隔組織への転移が直接的あるいは間接的にその死因にかかわっている.化学療法をはじめとする癌に対する近代医学の進歩にもかかわらず,依然として再発・転移による死亡を阻止することが難しく,克服すべき大きな課題となっている.さらに,合成医薬品のもたらす劇的な治療効果に対して,その重篤な副作用(免疫抑制あるいは毒性など)が逆に疾患の完治あるいは根絶を困難にしている.QOL(Quality of Life:生活の質あるいは生活の輝き)の概念の確立とともに,生体と癌が首尾よく共存・共生しようとする考え方もある一方で,これに対応すべく癌治療への新たな方法論や方向性を導入する動きがある.こうした現状のなかで,漢方薬などの伝統薬物,いわゆる天然薬物への社会的関心や期待から,これらを用いた基礎的および応用研究が活発に行われつつある.

 臨床における漢方方剤は,術後の全身状態の改善あるいは放射線照射・化学療法による副作用の軽減などを目的に使用されている.最近では,癌治療の免疫応答修飾剤(biological response modifier;BRM)の1つとして漢方方剤が注目され,数多くの報告がなされている.なかでも,十全大補湯,補中益気湯あるいは人参養栄湯を含む補剤は,免疫賦活作用を有し抗腫瘍・抗転移効果を発揮する漢方方剤として知られている.

術前自己血貯血における十全大補湯の効果について

著者: 青江尚志 ,   太田雅博 ,   河原伸明 ,   早田桂 ,   繁田浩三 ,   赤松信雄

ページ範囲:P.395 - P.399

 1. はじめに

 最近は輸血に関するインフォームド・コンセントおよび同意書が煩雑となり,同種血輸血を施行する場合でも施設によっては自己血輸血の説明をしなければならないのが現状であると思われる.当科では,同種血輸血の可能性のある手術予定全症例に術前自己血貯血を説明しており,多くの症例では自己血貯血を希望されている.

 産婦人科の対象は当然女性に限られ,また性器出血による貧血を呈している症例にたびたび遭遇する.そのため術前自己血貯血を施行する場合,鉄剤に加えてエリスロポエチン製剤(以下,EPO)を併用しても貧血により予定の貯血ができなかったり,術前のヘモグロビン値が低値を示すことがある.

 そこで,貧血に対して効果があるとされている漢方薬のうち十全大補湯を鉄剤とEPOに併用して,良好な結果を得ることができたので報告する.

漢方薬による薬剤アレルギー診断におけるDLSTとLMITの意義

著者: 宇野勝次

ページ範囲:P.401 - P.405

 1. はじめに

 1989年の築山ら1)の報告以来,小柴胡湯による間質性肺炎の報告が急増し,近年では小柴胡湯以外の漢方薬による間質性肺炎や肝障害の報告も多い2).佐藤3)は,全国各施設から報告された小柴胡湯単独関与に起因すると思われる間質性肺炎100例の診断根拠の32%が薬剤添加リンパ球刺激試験(drug -induced lymphocyte stimulation test;DLST)に依存していることを報告している.しかし,DLSTを根拠とした報告のほとんどはcontrol study(薬剤非過敏症者に対する薬剤の影響の検討)がなされておらず,反応濃度も記載されていない.また,小柴胡湯をはじめとする漢方薬のなかにはマイトジェン活性を有しているものがあることが報告4,5)されている.したがって,DLSTで漢方薬に陽性を示した今までの報告が漢方薬の抗原性を証明しているかは疑問が残る.また,筆者ら6~11)はアレルギー起因薬剤同定試験として白血球遊走阻止試験(leukocyte migration inhibition test;LMIT)の有効性を報告してきたが,漢方薬のなかにはリンパ球のサイトカインやケモカインの産生にも影響を与える報告12~14)があり,漢方薬アレルギーにおけるLMITでも漢方薬自体の免疫活性について検討する必要がある.

 そこで,小柴胡湯とその構成生薬7種類についてDLSTおよびLMITにおける影響15)について述べ,漢方薬アレルギーにおけるDLSTおよびLMITの注意点について言及する.

血糖コントロールの指標である血清1,5アンヒドログルシトール(1,5-AG)に影響を及ぼすオンジ配合漢方剤―糖尿病患者における偽高値の出現

著者: 龍野一郎

ページ範囲:P.406 - P.409

 1. はじめに

 糖尿病の治療の目的は臓器障害の予防・抑制,QOLの維持,生命予後の悪化を阻止することであり,それは糖尿病患者の血糖コントロールを正常者に限りなく近づけることによって達成されるわけである.その意味で直接的な血糖の測定(空腹時,食後,日内変動など)を頻回に行い治療に反映させることが理想的であるが,日常診療においては現実的でない.この目的で,長期的な血糖コントロールを判定するために,様々な間接的な指標が開発されてきた.例えば,ブドウ糖が蛋白を非酵素的に糖化することから,ヘモグロビンの糖化度をみるHbA1C(約1.5か月前から採血時までの血糖値の平均値を反映)やグリコアルブミン,フルクトサミン(過去2週間の血糖値の平均値を反映)が広く臨床応用されてきた.一方,1,5アンヒドログルシトール(1,5-AG)は,体内では高血糖に伴い排泄されたグルコースにより尿細管での再吸収が拮抗阻害を受け,尿中へ喪失されて直ちに血中濃度が低下することから,直近の血糖コントロール状況を鋭敏に反映する指標として,軽症糖尿病患者にHbA1Cなどと同様に臨床応用されている.しかし近年,多量の1,5-AGを含む漢方剤の服用により糖尿病のコントロールと無関係に,影響を受ける可能性が指摘されている1,2)

 本稿では,まず1,5-AGの測定の原理および臨床検査上の注意点などを述べ,多量の1,5-AGを含むオンジ含有漢方剤の検査値に及ぼす実際を自験例を用いて示し,糖尿病の血糖コントロールの指標として臨床検査上の解釈における留意点を概説する.

今月の表紙 電気泳動の解析シリーズ・4

出現前より経過を観察し,量的変化を追跡したALP結合免疫グロブリン症例

著者: 堀井康司

ページ範囲:P.344 - P.346

 酵素結合性免疫グロブリンは自己の酵素と結合し,高分子複合体を形成している異常な免疫グロブリンであるが,通常アイソザイム分析中に酵素の異常活性として検出される.さて,今回紹介するのはアルカリ性ホスファターゼ(ALP)結合免疫グロブリン例で,手術後に突然出現し,しかもその出現前からの量的変化を解析することができた非常に貴重な症例であり,その変化も劇的であった.

 症例の57歳男性は,大動脈弁僧帽弁閉鎖不全があり,当院で大動脈弁僧帽弁置換術を行ったが,人工心肺使用の経過観察のためクレアチンキナーゼ(CK)アイソザイムの依頼があり,まったくの偶然で術後2日の血清中にALP結合免疫グロブリンが検出された.このため急ぎ廃棄前の術前よりの保存血清を確保した結果,術後27日で軽快退院するまでのALP結合免疫グロブリンの詳細な量的変化を観察できたわけである.

コーヒーブレイク

船に乗れば

著者: 屋形稔

ページ範囲:P.400 - P.400

 本誌にコーヒーブレイクの執筆を始めてからだいぶ過った.当初の編集主幹は河合忠先生で,臨床検査全般に絶えず目を配る真面目な物堅い方なので内容には気を使ったが,やはり時々脱線することも多かった.数年前から菅野剛史先生が主幹を代られたが,ご自身も東海道線各駅停車など時々脱線する紀行エッセイなど書いていられるし,もともと私同様訛る方なので幾分気楽になった.

 先般(2002年晩秋),東京の帝国ホテルで不肖の私の喜寿を祝う会があった.酔生夢死の謗りを免れない身なのに大勢の方,特に検査関係の方々の温情に囲まれて,表面にこやかに振るまったが内心恐懼と感激の嵐であった.発起人の一人の猪狩淳先生も本誌編集委員のお一人で,この方も福島訛のスピーチで満場の笑いを誘った.この日は検査関係福島県人会,本誌編集関係者のほか,ゴルフ仲間,飲み仲間など趣味や遊び仲間など多彩な人種の集いの観があった.

シリーズ最新医学講座・Ⅰ 免疫機能検査・28

総説・神経疾患

著者: 等誠司 ,   楠進

ページ範囲:P.411 - P.417

はじめに

 血液-脳関門や血液-神経関門に守られた神経系は,免疫反応の比較的少ない部位とされている.しかしながら,感染症や腫瘍,脳梗塞によって脳組織に損傷を受けた際には,脳内にもともと存在するアストロサイトやミクログリア,さらに末梢血からリクルートされたリンパ球などからサイトカインが盛んに分泌され,免疫反応が誘起される.また,自己免疫機序によると考えられている神経疾患も,決して少なくはない.

 免疫反応には,大きく分けて細胞性免疫と液性免疫の2種類がある.これらを制御するヘルパーT細胞にも1型と2型があり,主に分泌するサイトカインによって分類されている.1型ヘルパーT細胞(Th1)はインターロイキン(IL)-2やインターフェロン(IFN)γなどを産生し,細胞性免疫に関与している.多発性硬化症(別項参照)では,Th1がTh2に対してアンバランスに優位であり,Th1の活性化によるミエリンの破壊がその発症機序として考えられている.一方,2型ヘルパーT細胞(Th2)はIL-4,5,6などを分泌し,B細胞による抗体産生を促進する.後述する重症筋無力症や傍腫瘍症候群では,自己抗体が病態を引き起こしていると考えられており,Th2の関与が示唆される.ただし,自己抗体を有する神経疾患患者で,必ずしもTh2優位が認められるわけではない.また,自己抗体産生の引きがねも,先行感染に引き続くギラン・バレー症候群などを除けば,明らかではないことが多い.

シリーズ最新医学講座・Ⅱ シグナル伝達・4

計画細胞死のシグナル伝達機構

著者: 猪原直弘

ページ範囲:P.419 - P.427

はじめに

 人体には発生段階での形態形成や恒常性の維持のために,不要な細胞や障害を受けた細胞を除去するしくみが備わっている(図1).これらの有害な細胞の除去に異常が生じると,癌や自己免疫などの疾患の原因となる1,2).健常な場合,疾患の原因となるこれらの細胞は免疫系の貪食細胞で除去されるが,その前段階として,除去される細胞そのものが細胞内在性のしくみで自滅的な反応,すなわち,計画細胞死を誘導する.治療という観点からみると,虚血による傷害を受けた細胞の死をいかに防ぐかが梗塞性疾患治療の要であるし,逆に放射線照射や化学療法剤により傷害することで癌細胞の死を誘導することに利用されている.計画細胞死はそのしくみが生物によって若干異なるものの,最も単純な多細胞生物である線虫からヒトや昆虫まで広く認められる.B細胞リンパ腫などの計画細胞死に異常を伴う疾患やこれらモデル動物の解析がきっかけになり,その後,分子レベルでこの現象を説明しようとする試みが積極的に行われ,現在に至っている.医学的観点から離れて考えても,計画細胞死・生の自己放棄は哲学的にたいへん興味のもたれる現象である.

 計画細胞死の多くが核の凝縮と断片化,膜のブレビングによる細胞質の断片化(アポトーシス小体の形成・放出)といった共通の形態学的変化を伴う細胞死すなわちアポトーシスである(図2).こうした特有の形態学的変化は,caspaseを中心とした蛋白質分解酵素(プロテアーゼ)などによる細胞の形態を規定しているしくみの破壊の結果であり,アポトーシスの定義となる.すなわち,細胞骨格蛋白質,ゲノムDNA,細胞生存に重要な酵素群の分解,次いで細胞膜組成の変化など,いずれもcaspaseの活性化に依存する.こうして当初の計画細胞死の研究は主にアポトーシス,すなわちcaspaseの活性化の機構に注目して行われた.不要細胞内での自己分解は,死という不可逆的な反応としての意味合いに加えて,貪食細胞が標的の死細胞を認識したり,DNAなどの免疫応答を起こすような物質を分解・除去するのを助ける役割ももつ2,3)

トピックス

NKT細胞の特徴と感染防御における役割

著者: 松本哲哉

ページ範囲:P.429 - P.433

 1. はじめに

 NKT細胞という名前になじみのない方も多いかと思われるが,この細胞は,最近様々な領域で関心を集めている免疫系の細胞である.その名前からもわかるように,NKT細胞はNK(ナチュラルキラー)細胞とT細胞の両方の性格を有するユニークなリンパ球である.この細胞は末梢血や脾臓などの免疫系組織中には稀にしか存在せず,当初はその機能についてもあまり知られることはなかった.しかし近年の様々な研究によって,肝臓や骨髄ではT細胞の半数に達するくらい豊富に存在していることがわかり,悪性腫瘍,自己免疫,および感染症など幅広い分野で,NKT細胞が少なからず関与していることが明らかとなってきた.本稿では,新たなリンパ球として注目を集めているNKT細胞の主な特徴について触れ,さらに感染防御におけるこの細胞の役割について解説する.

研究

血球自動計数分析装置による体腔液細胞診の一次スクリーニング

著者: 札辻寛 ,   倉留久隆 ,   早川昭 ,   園田隆 ,   金山良男 ,   中嘉一郎

ページ範囲:P.435 - P.438

〔SUMMARY〕 血球自動計数分析装置(ADVIA120)に体腔液を吸引させるとサイトグラム画面ペルオキシダーゼチャンネル上端に通常の血球成分とは異なる細胞集団が幅広く出現する例がある.このような細胞がみられた49症例中の22例が細胞診陽性であり,みられなかった56例すべてが陰性であった.細胞集団は腫瘍細胞,中皮細胞,マクロファージとそれらの集塊が画面上端に表示されたと考えた.この方法により細胞診陽性の可能性がある体腔液検体を迅速,簡便に一次スクリーニングできた.

臨床検査におけるアロマターゼ活性測定法

著者: 古澤良雄 ,   菅原辰雄 ,   岡崎豊 ,   熊谷幸博 ,   菊池克代 ,   竹﨑孝行

ページ範囲:P.439 - P.444

〔SUMMARY〕 アロマターゼ活性の測定法に基質3H-Aを用いたトリチウム水遊離アッセイ法で基礎的検討を行い,3H-A濃度5μCi/ml,反応37℃,60分間の条件を設定した.本法での検出限界は0.19fmol/hr/ml,定量限界は0.58fmol/hr/mlで,同時および日差再現性の精度,希釈直線性も良好であった.検体の安定性試験では,組織のまま-65℃以下で凍結保存し,2年間の安定性が確認された.本法の臨床検査への適用は,乳癌などのエストロゲン依存性疾患の診断,治療指針の決定に有用であると考える.

編集者への手紙

他の投与薬剤の影響により血中バルプロ酸濃度に著明な低下を認めた1症例

著者: 山田満 ,   河村ゆき江 ,   小味渕智雄

ページ範囲:P.446 - P.447

 1.はじめに

 大阪赤十字病院臨床検査部では,抗てんかん剤をはじめ強心剤,抗癌剤および気管支拡張剤など,合計7種の血中薬物濃度の測定を酵素免疫測定法ならびにラテックス凝集比濁法を用いて,日常の臨床検査項目として実施している.最近,この血中薬物濃度の測定において,抗てんかん剤のなかでも当院で汎用されているバルプロ酸(デパケン:協和醗酵工業株式会社)の血中濃度が,バルプロ酸の投与量とその測定値の間に理解しがたいほどの急速な濃度の低下を示した症例を経験した.今回,その原因を追求するため当該患者の病態ならびにその治療方法などについて調査したので報告する.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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