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雑誌目次

論文

臨床検査48巻1号

2004年01月発行

雑誌目次

今月の主題 感染症における危機管理 巻頭言

医療従事者の危機的感染症における危機管理の基本理念

著者: 戸塚恭一

ページ範囲:P.9 - P.10

1. はじめに

 近年,新興・再興感染症が大きな問題となっており,先進国サミットでも取り上げられるまでになっている.特に牛海綿状脳症(BSE)などの食物に関連した感染症の増加は食の安全への脅威となっている.現在,日本をはじめとした,アジアにおける鳥インフルエンザH5N1の大流行を認めており,ベトナム,タイ,カンボジアにおいてはヒトへ感染し,数名の死亡例が証明され,ヒトからヒトへ感染する新種のインフルエンザウイルスの発生が懸念されている.また2003年には新種のコロナウイルスによるSARSが広東省から香港を経て世界的に流行をきたし,8,422人が罹患し916人が死亡(死亡率10.9%)して大問題となった.これらの感染症はまさに危機的感染症であり,危機管理の判断を誤れば人類の存亡にも影響を及ぼす感染症である.SARSがあれほどに拡散したのは広東省における感染症に対する初期の危機管理が不十分であったことが一因とされており,情報を公開して正面から感染症の拡散を抑制することがいかに重要であるかが示された事例であった.SARSは今までヒトには存在しなかった新たな感染症で,一地方省や一国での解決は困難な感染症であった.その後WHOを中心とした国際的な共同研究が短期間に目覚しい成果を上げたことは,各国の英知を集中して,拡散抑制に対処することがいかに重要であるかを示したものである.

 このように,われわれの周囲において,現代はこのような危機的感染症がいつおきても不思議ではないほどの状況に至っており,突然の危機に対して医師や検査技師がどのように対応すべきか考えておくことが必要である.

総説

バイオテロに使用される微生物の分類と特性

著者: 三瀬勝利

ページ範囲:P.11 - P.17

〔SUMMARY〕 バイオテロは病原微生物学の影の部分であるが,世界情勢の不安定化とともに,今後多発する可能性がある.バイオテロ兵器は簡単に製造できるうえに,核兵器や化学兵器を上回る大量破壊兵器にもなりうる.バイオテロに使用される可能性の高い微生物の特性と分類法を記述するとともに,数少ない予防法や治療法についても紹介する.〔臨床検査 48:11-17,2004〕

強毒微生物曝露への対応

著者: 箱崎幸也 ,   赤沼雅彦 ,   桑原紀之

ページ範囲:P.19 - P.27

〔SUMMARY〕 2001年9月米国同時多発テロ後の炭疽菌感染患者の発症で,バイオテロの脅威が現実となった.バイオテロ攻撃の多くは秘匿的であり,大きな社会的混乱が予測される.特に天然痘ウイルス・炭疽菌が,致死率が高く,エアロゾル状態で安定などの理由で最も恐れられている.バイオテロ対策は通常の感染症対策(迅速/的確なサーベイシステム,標準的予防策)の延長線上にあるが,さらにRaPiD-T(Recognition, Personal Protection, Decontamination and triage/Treatment:認知,個人防護,汚染除去とトリアージ/治療)での対応が必須である.初期患者は一般医療機関が最初に対応するが,医療機関で認知できなくとも十分に訓練された検査センターが病原体を特定できれば,バイオテロ拡大への最大の防御となる.生物剤への知識・認識を,医師・看護師だけでなく検査技師を含めた全医療従事者がもつことが,バイオテロ拡大を未然に防ぐと考えられる.〔臨床検査 48:19-27,2004〕

危機的感染症・危機管理の現状と問題点

著者: 岩﨑惠美子

ページ範囲:P.29 - P.34

〔SUMMARY〕 交通機関の発達や進む国際交流は,感染症対策をも変えた.一地域の感染症,SARS(重症急性呼吸器症候群)が簡単に国境を越えて流行したように,エボラ出血熱のような野生動物の生息地でしか発生しない重症感染症でさえも,地球上を感染拡大する可能性は否定できない.さらに,この不穏な時代では,病原体を使ったテロでの感染症流行の可能性も高まっており,感染力の強い感染症に対しては,地球規模での対応が必要となっている.〔臨床検査 48:29-34,2004〕

臨床微生物検査室におけるバイオハザードに対する日常的安全管理

著者: 長沢光章

ページ範囲:P.35 - P.41

〔SUMMARY〕 臨床微生物検査室におけるバイオハザードに対する日常的安全管理として,業務感染の防止,設備の整備とメンテナンス,病原微生物の保管管理,病院感染対策などがある.

 また,微生物検査の日常業務におけるリスクマネージメントから微生物検査室が関与する病院感染やバイオテロリズムに対するクライシスマネージメントまでを含めて対応する必要がある.

 業務感染の防止の基本は,標準予防策で手袋の着用,手洗い,必要に応じたガウン,マスク,ゴーグルの着用である.特に,バイオハザードレベル3の結核菌,炭疽菌およびSARS疑い患者の検体を取り扱う場合は,安全キャビネットやバイオハザード対策遠心機の導入も不可欠である.〔臨床検査 48:35-41,2004〕

話題

重症急性呼吸器症候群(SARS)材料取扱いのためのWHOバイオセーフティーガイドライン

著者: 松山州徳 ,   多田有希 ,   岡部信彦 ,   田代眞人 ,   田口文広

ページ範囲:P.43 - P.50

 1.はじめに

 2002年11月に中国広東省に端を発した重症急性呼吸器症候群(SARS)は,2003年2月から瞬く間に世界に拡がり,その拡大の早さと高い死亡率から,発生国のみならず全世界を震撼させた.世界保健機関(WHO)は即座に全世界に向け注意喚起(Global Alert)を発し,発生状況の把握や病原体の解明などが世界規模で開始された.WHOの発表した症例定義に基づいて,各国から報告された症例数(SARS「可能性例」数)は8,098人,死亡者数は774人である(2003年9月26日時点).また世界の研究機関での共同研究によって,2003年4月16日,SARSの原因病原体はコロナウイルス科に分類される新しい型のウイルスであると決定され,「SARSコロナウイルス」と命名された.SARSコロナウイルスは従来のコロナウイルスとは異なり,ヒトに高い病原性を示し,ヒトからヒトへ咳などにより飛沫感染することから,その取扱いは原則としてBSL3実験室で行うよう推奨されている.本稿では,SARS材料取扱いのためのWHOバイオセーフティーガイドラインについて概説する.また,国立感染症研究所でWHOガイドラインに従って行われているSARS診断法やSARS診断用の検体採取に関する情報も合わせて紹介する.

炭疽菌を疑う材料の取扱い上の安全管理―日本臨床微生物学会の炭疽菌検査マニュアルより

著者: 奥住捷子 ,   小栗豊子 ,   佐藤智明 ,   長沢光章 ,   西山宏幸

ページ範囲:P.51 - P.58

 1.はじめに

 日本臨床微生物学会では,2001年米国で発生した炭疽菌テロにより国内での種々な体制強化が課題となったのを機会にワーキンググループ(委員:太田美智男,熊坂一成,荒川宜親,菅野治重,山中喜代治,山口惠三)のもとで炭疽菌検査マニュアルを出版した.執筆担当委員は,小栗豊子(順天堂大学医学部),佐藤智明(静岡県がんセンター),長沢光章(防衛医科大学校),西山宏幸(駿河台日本大学病院)と本稿の筆者・奥住捷子である.Bacillus anthracis(炭疽菌)は,元来は家畜の感染症の原因菌であり,わが国ではヒトへの感染例は稀で,臨床経験のある医師がほとんどいないことや,病院などの検査室では検出,同定した経験がないことが多い.炭疽菌は4類感染症に分類されており,B. anthracisは,一般的にP2レベルの安全キャビネットがあり,グラム染色,溶血性,運動性試験などで推定できる.しかし,生物テロの場合は通常では考えにくい感染経路であること,臨床材料以外のものも検査対象となっていること,感染初期には検査材料からの検出が難しいことなどの問題がある.本学会マニュアルは,炭疽菌の検査法を中心としたマニュアルで,病院検査室および臨床検査センターにおける「臨床材料を対象とした検査法」に限定してある.わが国では,日頃より危機管理意識が薄く,検査室の安全体制も例外ではない.このマニュアルには,最低限の防御設備,グラム染色などの基本的操作,連絡体制の整備などが記載されている.炭疽菌検査マニュアル(Ver.1,2001(平成13)年12月20日発行:日本臨床微生物学会)を改めて炭疽菌を疑う材料の取扱い上の安全管理という視点から抜粋し紹介する.

座談会

バイオテロリズムに対する微生物検査室の対応

著者: 谷口清州 ,   熊坂一成 ,   加來浩器 ,   長沢光章 ,   山口惠三

ページ範囲:P.59 - P.74

バイオテロリズムの概念

 山口(司会) 本日は「バイオテロリズムに対する微生物検査室の対応」というテーマで座談会を開くことになりましたが,先生方には師走の一番忙しい時期にご出席をいただき,ありがとうございます.

 バイオテロに関しては,アメリカの学会ではかなり以前からシンポジウムなどでも取り上げられ,いつバイオテロが起きてもおかしくないという警鐘が鳴らされ続けていました.そして,これが現実化したのは,例の2001年9月11日のニューヨーク多発テロに引き続いて起きた炭疽菌によるバイオテロ事件です.このニュースは瞬く間に世界中に広がり,わが国でも一時的とはいえかなり大きく取り上げられ,バイオテロ対策について真剣に取り組まねばならない状況に追い込まれました.

今月の表紙 臨床生理検査・画像検査・1

超音波のアーチファクト1

著者: 谷口信行

ページ範囲:P.4 - P.7

 画像による検査では,本来の構造物以外による虚像(アーチファクト)が出現することはよく知られている.特に,音の直進性は光,X線のそれに比べ劣るため,超音波検査では,組織の組成,構造の異なる境界面での反射や屈折が起こりやすい.しかし日常の超音波検査では,これを逆手にとって利用することで,対象物の性質を知ることができるため,超音波検査に携わるものはその現象に精通することが求められる.ここでは,最もよく知られている4種類のアーチファクトを挙げた.

 Bモード断層像に表示されるアーチファクトを理解する前に知っておきたいのは,超音波断層像の作られ方で,これにより多くのアーチファクトが理解できる.画像作製で最も基本的なことは,画像は発射した超音波が探触子に返ってくるまでの時間を距離に換算して表示されていることであり,早期に返ってきたエコーは浅部に存在するように,遅れて返ってきたエコーは深部に存在するように表示される.この前提と異なる状況で起こるのがアーチファクトであり,括弧内に出現するものを示す.画像を作製するうえでの他の前提としては,対象臓器すなわち生体での音速は均一で1,530m/sであること(音速によるdisplacement),超音波はまっすぐ進むこと(屈折),反射して探触子に返ってくるのは1本のみであること(サイドローブ)などが重要である.しかし,これらの前提は,超音波像が生体の構造の不均一性により作られることと相反するところであり,肝臓,腎臓,血液などの構造物は音速が1,560~1,570m/s前後とほぼ一定であるが,脂肪組織は1,450m/sと低く,線維性組織の音速がやや速いことなどは,超音波のアーチファクト出現に関与することになる.骨にいたっては3,360m/sと2倍以上の音速であり明瞭な画像をえられないだけでなく,強い反射が一因で音響陰影が出現する.

コーヒーブレイク

新春風景

著者: 屋形稔

ページ範囲:P.18 - P.18

 枕草子に“ただ過ぎに過ぐるもの 帆かけたる舟.人の齢.春夏秋冬.”なる文言がある.あれよあれよという間に年を重ね,1年は矢の如く後ろにとび去り把えることもできない.新年に当たり心を鎮めて何とか回春の助けにと印象に残る俳句などをめくって想いを巡らす.

 年の暮れには苦労して賀状を書いた分新年の楽しみの賀状をていねいにめくっていると思いがけぬ消息などに巡り合う.しかしよく知られた句に心がつきさされる思いもある.

シリーズ最新医学講座・I 転写因子・1

転写制御機構の概説

著者: 川内潤也 ,   北嶋繁孝

ページ範囲:P.75 - P.85

はじめに

 ヒトゲノム全配列を決定するゲノムプロジェクトが完了し,ヒト遺伝子数は3万から4万前後であることが明らかとなった.この結果,われわれは,いわば「生命の設計図」を手に入れたことになる.しかしながら,個体が正常に発生し生命を維持していくためには,これら設計図に基づいて,遺伝子が適切な時期に,適切な場所で,適切な量,他の遺伝子と適切な組み合わせをもって発現されることが必須である.われわれの細胞では,すべての細胞に同様に与えられた「設計図」から,時間・空間的に特異的な遺伝子情報の取り出し,すなわち遺伝子発現が正しく行われなければならない.

 さて,遺伝子発現は,遺伝子DNAから最終的に活性をもつ蛋白質が生合成される全過程を含む.その中で,DNA情報を読み取る最初のステップが「転写」である.転写は,遺伝子発現のオン・オフを制御する最も有効な調節段階であり,その仕組みは,酵母からヒトの間で高い相同性で保存されている.転写は,開始・伸長・終結・再開始の転写サイクルから構成され,mRNA合成をつかさどるRNAポリメラーゼⅡ(polⅡ)を中心に,多くの蛋白因子(転写因子およびその周辺因子)によって制御される.最近の研究は,転写がプレmRNA産物の成熟・修飾・輸送過程と緊密にカップルしていること,ヒストン修飾によるクロマチン構造変換とそれによるエピジェネティックな遺伝子発現制御機構を明らかにしつつある.転写を独立した部分反応でなく,細胞の核を場とした遺伝子発現の統合的な反応の一部として捉えることが可能となった.

 今や,転写因子の異常が様々な疾患を引き起こすことは広く知られており,医学,生命科学領域における転写因子研究の重要性はいうまでもない.転写因子は,臨床に携わる医師や検査領域にかかわる技師にとっても日常必須の知識になった.この特集では,この概説に続いて疾患と転写因子とのかかわりについての総説が1年を通じて論じられる.したがってここでは,基本的な転写機構,それを制御する転写制御因子について概説し,クロマチン制御など転写の統合的理解に向かう最近の知見を紹介する.本稿に続く各転写因子特集の理解の一助になれば幸いである.

シリーズ最新医学講座・Ⅱ 病理診断に役立つ分子病理学・1

総説:分子病理学の病理診断への適用

著者: 林祥剛

ページ範囲:P.87 - P.93

分子レベルで考える疾患

 ヒトの身体は,約60兆個の細胞から,成り立っている.それぞれの細胞には,それぞれの役割がある.例えば,肝細胞には,アルブミンなどの肝臓に特異的に産生される蛋白を必要に応じて産生するという役割がある.心筋細胞では,血液を全身に送るための収縮活動に必要な蛋白が作られる.それぞれの細胞が勝手気ままに活動すると全体としての身体の統一された働きが破綻する.これが病気である.人の身体はオーケストラのようなものである.どの細胞が指揮棒を振っているのかは,まだ明らかでないが,互いに連絡を取り合って調和のとれた働きをしている.われわれの社会では,外の様子を知らせるために,空中に飛び交う電波を使って各家庭に多くの情報を送る.細胞も同様である.血液,体液中にはリガンド(ホルモン)といわれる特殊な蛋白質が流れている.このリガンド(ホルモン)が身体の様子を個々の細胞に知らせるのである.血圧が下がった,血糖値が上がった,過重な運動で手足の筋肉が酸欠状態だなどと知らせるのだ.電波を捕らえるアンテナのような働きをしているのがレセプターである.多くのレセプターは細胞膜を貫通するアンテナのように立っている.このレセプターにリガンドが付着し,レセプターに情報が伝達される.次にレセプターを伝わって外界の情報は細胞膜直下に伝えられる.ここから核までの距離は遠い.レセプターに伝わった情報を核まで伝えるのに多くの分子が,まるで伝言ゲームを行うかのように次から次へと情報を伝えていく.この伝達物質をシグナル伝達物質といい,伝言ゲームは,言葉で情報を伝えるがシグナル伝達物質は主にリンイオンを介して伝えるのだ(図1).核では,核蛋白(ヒストン)の中でDNAが折りたたまれている.DNAには蛋白の設計図になる3~4万個の遺伝子と呼ばれる部分が散在している.それぞれの遺伝子近傍には,プロモーター・エンハンサーと呼ばれる特殊なDNA配列をもつ部分が存在し,プロモーター・エンハンサーに特定の核蛋白が付着するとその部分のDNAが適当な立体構造をとり,mRNA(メッセンジャーRNA)が転写され(mRNAの段階で,核外に移動して細胞質に存在する),リボゾームの働きでアミノ酸に翻訳されて蛋白が合成される(図2).

 分子生物学が発達した現在,すべての疾患はこのリガンド(ホルモン),レセプター,シグナル伝達物質,核蛋白,DNA(ゲノム)のどこかに破綻があるために起こると考えてよい.

トピックス

ライム病の皮膚所見と検査診断

著者: 橋本喜夫

ページ範囲:P.95 - P.99

 1.はじめに

 ライム病は起因菌のBorrelia burgdorferi sensu lato(広義B. burgdorferi:B.b.)を保有するマダニ類の媒介により生じる全身性感染症である.1977年に,米国コネチカット州ライム地方で,若年性関節リウマチ様関節炎が集団で発生し,ライム関節炎として初めて報告1)された.ライム病の原因菌であるB. burgdorferi(B.b.)はgenotypeによる分類が行われつつあり,現時点ではB. burgdorferi sensu stricto(B.b. ss)(狭義のB. burgdorferi), B. garinii, B. afzeliiの3種が記載されているが,今後も亜種が増えていく可能性がある.ライム病は現在,北米,ヨーロッパ,オーストラリア,アジアと広く分布し,北半球で毎年数万人の患者が発生している.ライム病は早期(Ⅰ,Ⅱ期),後期(Ⅲ期)に大別され,早期は慢性遊走性紅斑(erythema chronicum migrans;ECM),ボレリア性リンパ球腫,循環器症状,神経症状,関節痛などをきたし,後期には慢性萎縮性肢端皮膚炎,関節炎,慢性の神経障害などを呈する.わが国では1987年に長野で1例目が報告2)されて以来,主に北海道,本州中部以北で約200例の報告がある.わが国のライム病3,4)は,現在までのところ,媒介者はI. persulcatus(シュルツエマダニ)のみであり,皮膚症状,神経症状など早期症状でとどまる例がほとんどである.ライム病の診断はダニ刺咬の有無,ECMなどの臨床所見,抗体価測定などによるが,確定診断には患者,もしくは付着したマダニからB.b.を検出することが重要である.以下に臨床診断と検査診断について述べる.

新たな摂食調節ペプチドグレリン

著者: 伊達紫

ページ範囲:P.100 - P.103

 1.はじめに

 摂食は,中枢と末梢で産生される摂食亢進物質と抑制物質の複雑な相互作用により,巧妙かつ精巧に調節されている.近年の分子生物学やペプチド化学の急速な進歩により,エネルギー代謝調節に関与する多くの神経ペプチドが単離・同定され,物質レベルでの摂食調節機構が明らかにされつつある.1999年,国立循環器病センターの児島,寒川らは,オーファン受容体GHS-R(growth hormone secretagogue receptor,成長ホルモン分泌促進因子受容体)の内在性リガンドである新規ペプチドホルモン グレリンをヒトとラットの胃から発見し,構造を決定した1).グレリンは成長ホルモン分泌促進作用のみならず強力な摂食促進作用をもち2),絶食によりその分泌が促進されることから,空腹信号として機能していることが推測される.本稿では,グレリン産生細胞の分布と摂食調節作用および胃から脳へのグレリン情報伝達機構を述べる.

ピロロキノリンキノン

著者: 笠原和起 ,   加藤忠史

ページ範囲:P.104 - P.106

 1.はじめに

 ピロロキノリンキノンという不思議な名前.魔法の呪文のようで,一見すると,「ピロリ菌」に似ているが違う.ピロロキノリンキノン(pyrroloquinoline quinone;PQQ)の「ピロロ」は,ピロール環をもつ(図1)ことに由来し,「ピロール」はギリシア語で「赤」の意味である.偶然か必然か,PQQは赤橙色の有機化合物である.ちなみに,ピロリ菌の「ピロリ」は,この菌の発見部位である胃の幽門(pylorus<ギリシア語で「門番」)に由来する.ピロリ菌の発見が胃潰瘍についてコペルニクス的転回をもたらしたように,PQQも臨床上に大きな変化を引き起こすかもしれない.本稿では,新しいビタミンとしてのPQQについて,これまでと未来を述べる.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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