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雑誌目次

論文

臨床検査48巻10号

2004年10月発行

雑誌目次

今月の主題 輸血・細胞療法と臨床検査 巻頭言

“血液新法”と輸血医療の今後

著者: 半田誠

ページ範囲:P.1075 - P.1076

 2003年7月末,輸血医療の根本にかかわる2つの法律(血液新法)が施行された.1つは薬事法(改定薬事法)で,もう1つが血液法(安全な血液製剤の安定供給の確保等に関する法律)である.いずれも従来の法律を改定したものであるが,特に後者では輸血に関する根本的な考え方が示され,わが国の輸血医療の今後に大きな影響力を及ぼすことになった.

 改定薬事法では,血液製剤などの感染症伝播のリスクがあるものを特定生物由来製品と定義して,感染症などの副作用発生に対応した報告事項や安全措置要件が新たに規定された.一方,血液法では,血液製剤について安定的供給を確保するとともに,いっそうの安全性向上を図るため,従来の「採血及び供血あっせん業取締法」を大幅に改定し,国民の保健衛生の向上のための基本理念として,血液製剤の安全性の向上,安定供給の確保(献血による国内自給の原則),適正使用の推進,血液事業運営に係る公正の確保と透明性の向上の4つが基本骨子として掲げられた.そして,その基本理念を遂行するための,血液製剤の採取から製造,使用に至る関係者(日本赤十字社,製造業者,医療機関)やそれを指導・監督する行政側(国,地方公共団体)の責務が明確化された.すなわち,これら血液新法の成立により,われわれ医療機関においては,輸血管理体制を整えたうえで,安全かつ適正な輸血療法を行う義務が付加されたことになる.

総論

輸血管理体制と認定輸血検査技師の役割

著者: 前原光江 ,   大戸斉

ページ範囲:P.1077 - P.1081

〔SUMMARY〕 血液法の施行に伴い,より安全な輸血が義務づけられた.ここでは輸血医療の現状と問題点を法制面から述べるとともに,アンケート調査により実態を明らかにする.また近年病院機能評価を受審する施設が増えているが,このなかでも輸血管理体制の整備は重要事項に位置づけられている.そして,1995年に認定輸血検査技師制度が発足し,多くの検査技師が認定されているが,認定輸血検査技師の役割についても述べる.〔臨床検査 48:1077-1081,2004〕

ドナーの安全性と検査

著者: 塩原信太郎

ページ範囲:P.1083 - P.1088

〔SUMMARY〕 アフェレーシスドナーは健康人でありながら種々のリスクを負っている.すでに社会的合意の得られた血小板ドナーや骨髄ドナーに比べ,新しく開発されたばかりの同種末梢血幹細胞ドナーは中長期の副作用がまだ調査中である.これらのドナーを安全に管理していくには,検査と同時に安心を提供できるしくみが必要である.輸血部は供血者の立場に立ちドナーの安全管理と安心を提供できる部署として,しくみを整えていく必要がある.〔臨床検査 48:1083-1088,2004〕

ルーチン検査

赤血球関連検査と自動化

著者: 上村知恵

ページ範囲:P.1089 - P.1094

〔SUMMARY〕 血液型検査から輸血実施までをシステム化し管理することは,輸血業務のリスクマネジメントの観点から重要である.赤血球関連検査の自動化はシステム化の根幹であり,検査におけるヒューマンエラー防止のために有用である.赤血球関連検査の自動化とコンピュータ(輸血管理プログラム)によるシステム化は,患者輸血データの基本となるABO血液型管理のみならず,検査履歴の検索,遡及調査への対応,輸血歴データの保管などの点においても,安全性向上,業務効率化のために不可欠である.〔臨床検査 48:1089-1094,2004〕

抗血小板抗体検査法

著者: 秋田真哉 ,   河村久美子 ,   能勢義介

ページ範囲:P.1095 - P.1101

〔SUMMARY〕 抗血小板抗体は,特発性血小板減少性紫斑病(ideopathic thrombocytopenic purpura;ITP)などの自己免疫性疾患において産生される自己抗体と,頻回輸血や妊娠によって産生される同種抗体があり,血小板輸血不応(platelet transfusion refractoriness;PTR)における免疫学的要因において,抗HLA抗体についで重要な因子となっている.すなわち,PTR患者に対する血小板輸血に際しては,抗HLA抗体・抗HPA(human platelet antigens)抗体の両者を検出することが重要であるとともに,近年は血小板に対する交差適合試験を実施する試みもなされている.〔臨床検査 48:1095-1101,2004〕

移植関連検査

著者: 甲斐俊朗 ,   荒木延夫

ページ範囲:P.1102 - P.1108

〔SUMMARY〕 造血幹細胞移植は,骨髄以外に末梢血幹細胞や臍帯血が用いられるようになり,また,骨髄非破壊的移植やHLAのバリアーを超えた移植も開発され多様化してきた.これらの移植関連検査として,ドナー選択のためのHLA検査,移植細胞中に含まれるCD34陽性細胞やコロニー形成細胞の測定法や評価,生着確認や早期再発診断のためのキメリズム検査とともに,移植関連合併症の診断に必要なルーチン検査の現状について論述した.〔臨床検査 48:1102-1108,2004〕

特殊検査

血液型と遺伝子検査

著者: 鈴木洋司

ページ範囲:P.1110 - P.1116

〔SUMMARY〕 ABO遺伝子はABO糖転移酵素をコードする遺伝子であり,AアリルとBアリルでは7つの塩基置換,4つのアミノ酸置換がある.多型性は亜型などに関連する場合がある.Rh血液型遺伝子はRHD遺伝子とRHCE遺伝子から構成されている.RHDはD抗原蛋白をコードし,D抗原陰性者の90%は完全に欠失している.RHCEはC,c,E,e抗原の蛋白をコードし,C/c抗原の違いは塩基307などの塩基置換,E/e抗原は塩基676の置換による.おもな遺伝子検査法としてPCR-RFLP,PCR-SSP,PCR-SSCP,PCR-SBTを紹介し,ABO血液型遺伝子検査の実際を解説した.〔臨床検査 48:1110-1116,2004〕

即時型輸血反応と抗血漿蛋白質抗体

著者: 嶋田英子

ページ範囲:P.1117 - P.1123

〔SUMMARY〕 即時型の非溶血性輸血副作用には,悪心,発熱反応,蕁麻疹などの軽微なものから,稀に発生するアナフィラキシーなど重篤なものまであるが,患者血中に産生された抗血漿蛋白質抗体はこれらの発生の原因の1つとして関与すると考えられている.筆者らは,市販後調査の一環として1993年より非溶血性輸血副作用発生症例の抗血漿蛋白質抗体の検査を実施し,国内にhaptoglobin欠損者が約4,000人に1人存在し,輸血などの同種免疫によって抗体を産生し,その後の輸血でショックを伴うアナフィラキシーを惹起することを見出した.〔臨床検査 48:1117-1123,2004〕

血液製剤の安全性確保のための核酸増幅検査(NAT)

著者: 岡田義昭 ,   水沢左衛子 ,   種市麻衣子 ,   梅森清子 ,   斉賀菊江 ,   小室勝利

ページ範囲:P.1125 - P.1130

〔SUMMARY〕 血液製剤の安全性確保のために核酸増幅検査が導入され,これまでの血清学的検査では検出できなかったwindow期の血液を排除することが可能になった.一方,核酸増幅検査は高感度であるが種々の条件によって感度が影響を受けるため,精度管理のための国際標準品が整備された.〔臨床検査 48:1125-1130,2004〕

輸血による細菌感染症

著者: 高橋雅彦 ,   名雲英人 ,   佐竹正博

ページ範囲:P.1131 - P.1140

〔SUMMARY〕 海外で問題となっている輸血関連の重篤な副作用として,ABO不適合輸血,輸血関連急性肺傷害と並んで細菌感染症がある.わが国における輸血による細菌感染症の実態は不明であるが,2000年の副作用調査から肺炎球菌に汚染された血小板輸血後に死亡した例が報告されており,軽視できない状況にある.輸血用血液への細菌混入は,無症侯の菌血症ドナーからの採血や穿刺部位からの混入である.現在,細菌汚染などのリスクの低減化をめざし普遍的保存前白血球低減化,初流血除去,病原体微生物の不活化,細菌スクリーニング検査の導入について検討が進められている.〔臨床検査 48:1131-1140,2004〕

輸血部門の新たな役割

細胞プロセッシングとGMP

著者: 笠井泰成 ,   前川平

ページ範囲:P.1141 - P.1146

〔SUMMARY〕 近年,造血器幹細胞移植,細胞移入免疫療法,遺伝子治療,再生医療などを含む細胞治療の開発研究が盛んに進められている.細胞治療には,細胞プロセッシング(Cell Processing)という細胞の調整,培養,加工などの工程が必要となるが,これらの工程には安全性と信頼性を担保する目的でGMPに準拠した品質管理が必要とされている.細胞治療に関する基礎研究の成果を新しい治療法として臨床応用する探索的臨床試験研究(トランスレーショナルリサーチ)にも,GMPに準拠した細胞プロセッシングが必要不可欠である.今後,わが国でも細胞治療を発展させるためには,インフラや規則などの環境整備が急務である.〔臨床検査 48:1141-1146,2004〕

樹状細胞療法と検査

著者: 井上直樹 ,   田野崎隆二

ページ範囲:P.1147 - P.1152

〔SUMMARY〕 癌に対する特異的免疫療法として注目される樹状細胞療法は多くの施設で試みられ,当院でも臨床試験を進めている.細胞治療を取り巻く環境が大きく変化した現在では,GMPに準拠した細胞処理が求められ,細胞製剤の安全性と有効性を保証するための様々な検査が行われる.複雑化する細胞処理技術と検査のために,細胞治療では専門的役割をもつ技師の活躍が期待されている.〔臨床検査 48:1147-1152,2004〕

血管新生療法の検査法

著者: 石田明

ページ範囲:P.1153 - P.1157

〔SUMMARY〕 血管新生療法は,四肢の末梢動脈閉塞症や虚血性心疾患に対して骨髄または末梢血の細胞を病変部周囲に注入し,血管新生を誘導して組織血流を改善させる治療法である.近い将来,標準的治療として臨床治療に導入されることになれば,細胞の質的量的評価に関する検査や使用細胞の保存管理などを治療と連動しながら進めていく,技術的にも時間的にも密度の高い体制の構築が輸血部に求められることになるであろう.〔臨床検査 48:1153-1157,2004〕

今月の表紙 臨床生理検査・画像検査・10

心疾患―血栓と腫瘍

著者: 小野倫子

ページ範囲:P.1072 - P.1073

 1. はじめに

 心エコーは,心臓の動きをリアルタイムに観察する検査法で,Bモード断層法,Mモード法,ドプラ(カラー,パルス,連続波)法の3種類から成る.通常は探触子を胸壁から当てる経胸壁心エコー法(transthoracic echocardiography;TTE)を指すが,探触子を食道に挿入して観察する経食道心エコー法(transesophageal echocardiography;TEE)も行われている.

 腹部や体表の超音波検査の記録は,写真(静止画)を用いるのに対し,心エコーはビデオ(動画)を用いることが多い.すなわち心臓の“動き”を評価することが心エコーの本質であり,その結果を静止画で伝えることは非常に難しい.したがって今回は種々の心疾患のなかから,静止画でも評価のしやすい血栓と腫瘍に焦点を当てて解説していきたい.

コーヒーブレイク

青春の歌

著者: 屋形稔

ページ範囲:P.1082 - P.1082

 最近もカラオケは依然根強いファンをもって繁昌しているようで,人間は元来あらゆる時に歌うことを好むもののようである.一時期歌声喫茶などが流行をみたこともあったし,戦時中も軍歌あり国民歌謡ありで,歌は消えず人々を鼓舞し続けた.

 戦後暫くして旧制高校は消滅の憂目をみたが,それまでの高校生と呼ばれる若者達が歌ったのは,寮歌という彼ら自身によって作詩作曲された歌である.永い間彼らの生活の中心には寮生活があり寮歌があった.

シリーズ最新医学講座・Ⅰ 転写因子・10

転写因子と内分泌疾患Ⅱ:ステロイドホルモン

著者: 高柳涼一 ,   河手久弥

ページ範囲:P.1159 - P.1166

はじめに

 ステロイドホルモン過剰状態が存在するにもかかわらず,そのホルモンの作用不足を呈する状態,あるいは,ホルモン過剰症状を示さない病態はステロイドホルモン不応症という疾患概念で理解されている.これらの大部分はステロイドホルモン受容体をコードする遺伝子の変異により引き起こされる.ステロイドホルモン受容体は類似の構造をもつ核内ホルモン受容体(核内受容体)ファミリーの一員であり,リガンド依存性の転写調節因子である.近年の急速な核内受容体による転写調節制御の研究の進展に伴い,ステロイドホルモン不応症という概念はステロイド受容体分子の異常という概念から,広く核内受容体の異常,さらに,受容体から基本転写装置に至るシグナル伝達系の異常として考えられるようになり,これらは核内受容体異常症という概念でとらえられる.本稿では,ステロイドホルモン受容体を中心とした核内受容体異常症の成因論と,その実例としての共役因子病(coregulator-related disease)について筆者らの成績を含めて概説する.

シリーズ最新医学講座・Ⅱ 病理診断に役立つ分子病理学・10

肺癌

著者: 石川雄一 ,   土屋永寿

ページ範囲:P.1167 - P.1172

はじめに

 昨年2003年は,WatsonとCrickのらせん型DNAモデルの提出から50年たった記念すべき年で,いくつかのジャーナルではその特集記事を掲載していた.この50年間で,生物学の分野には革命的ともいえる変化がもたらされ,医学でもやはり,分子生物学の方法とそれによる知見は医学自体を大きく変えつつある.臨床検査の領域でも,遺伝子診断や分子病理学が話題となり,現に病院でも取り入れられつつある.

 しかし,肺癌の病理診断,臨床検査の分野に限ると,遺伝子診断や分子病理学の応用はそう簡単ではない.Aの突然変異が見つかるとAA病であり,Bの染色体転座が証明されるとBB症候群であるという,ある意味での単純な1対1対応は報告されていない.つまり,肺癌の診断に非常に有用な分子病理学的項目はないといってよい.一方,血液疾患や骨軟部腫瘍では,遺伝子検索,染色体異常検査,融合遺伝子の検出,マーカーの免疫染色によって,病理組織像がちょっと合わなくとも診断が確定することがある.なぜ,このような違いが起こるのだろうか.

 染色体異常の検査をすると,血液性腫瘍や骨軟部腫瘍は特徴的な染色体異常(転座など)がしばしばみられ,染色体の異数性もそれほど高度ではない.一方,頻度の高い癌である肺癌,胃癌,大腸癌などでは,転座がみられることはあるが特徴的とはいえず,3倍体以上の多倍体が多く,複雑な染色体異常が多い.一口に染色体不安定性というが,その実態はかなり複雑で,融合遺伝子を作ることが重要なステップである腫瘍と,そうでないものとがあるのだ.発癌のステップ数(あるいは多段階発癌)という観点からも,血液腫瘍,骨軟部腫瘍ではステップ数が少なく,例えば網膜芽細胞腫ではn=2でその発生プロセスを説明できるが,大腸癌ではn=6~7個と推定されている.すなわち,通常よくみられる癌は発生プロセスがより複雑で,少数の指標では診断に不十分であるということのようだ.

 とはいえ,肺癌の分野でも,診断以外の事項,例えば発癌の原因,予後の推定,治療感受性の予測などの領域では,分子生物学的知見が大きな役割を果たしていることも少なくない.本稿では,それらのいくつかを見ていきたい.

学会だより 第93回日本病理学会総会

「ワークショップ・病理医と病理技術者」を主体として

著者: 広井禎之

ページ範囲:P.1174 - P.1175

 2004(平成16)年6月9日(水)より11日(金)まで,北海道札幌市・札幌コンベンションセンターにおいて第93回日本病理学会総会(北海道大学大学院医学研究科分子細胞病理学教授・長嶋和郎会長)が行われた.本学会は病理学の多様性と普遍性をキーワードとし,一般演題1,132題,指定演題181題,合わせて1,313題が発表されたいへん盛会であった.以下,「ワークショップ22.病理医と病理技術者」についての印象を報告する.

 「ワークショップ・病理医と病理技術者」は学会3日目,午前8:00~9:30に行われた.病理医と病理技術者に関するワークショップは今年で3回目であり,医療(病理診断)の向上を目的として臨床検査技師をパートナーとして認める,そして何らかの資格認定を行いたいというのが本ワークショップの主旨である.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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