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雑誌目次

論文

臨床検査48巻13号

2004年12月発行

雑誌目次

今月の主題 脳機能 巻頭言

脳機能へのいざない

著者: 菅野剛史

ページ範囲:P.1603 - P.1604

 今月の主題は「脳機能」である.この領域が,画像診断に限られることなく,化学分析を中心としてきたわれわれにも手が届き,お手伝いができるのではないかという気持ちになるのは,PET(positron emission tomography)の出現によるところが大きい.それは,いろいろな元素で標識した化合物を機能解析に扱うことができるようになったからであると考える.少なくとも,陽電子を放出する放射線同位元素として,炭素(15C),酸素(11O)など生体の化合物を構成する元素が利用できることは,あらゆる生体反応を解析できる可能性を秘めている点で興味がある.

 このことは,生体成分として水,酸素,グルコース,アミノ酸の代謝過程を追うことが可能であり,受容体に対して反応するリガンド,トランスポーターなどを介しながら,生体の代謝過程に関与する物質の消長と反応性まで解析できることを示している.まさに,研究面だけの利用ではなく,臨床的にも比較的非侵襲的に病態が解析できることを意味している.

総説

機能解析を可能とする化合物群のデザイン

著者: 間賀田泰寛

ページ範囲:P.1605 - P.1612

〔SUMMARY〕 PETやSPECTといった核医学的手法による脳機能解析には,目的に合致した放射性医薬品をそれぞれ準備する必要がある.現在の脳機能イメージングには神経伝達に関連する反応を画像化する場合と,神経活動に伴い変化する脳組織の局所代謝や循環を画像化する場合とがある.それぞれの放射性医薬品は血液脳関門透過性や画像化対象反応に対する親和性,選択性などを満足するようデザインされている.〔臨床検査 48:1605-1612,2004〕

PETを用いた脳機能イメージング

著者: 松本良平 ,   須原哲也

ページ範囲:P.1613 - P.1620

〔SUMMARY〕 PETは放射性同位元素で標識した各種分子(リガンド)の生体内での動態観察を行えるため,神経伝達物質受容体の分布やリガンドの結合能の計測といった分子レベルでの神経伝達機能イメージングが可能であり,PETを用いた研究により精神疾患の病態や認知機能との関連性が解明されつつある.また,抗精神病薬によるドーパミンD2受容体占有率や抗うつ薬によるセロトニントランスポーターの占有率とそれらの経時変化の解析を通じて,より客観的な向精神薬の評価や投与方法が提唱されており,新薬の臨床治験にも用いられている.今後,PETは生体における分子レベルでの脳機能解明に加え,創薬などにも寄与することが期待される.〔臨床検査 48:1613-1620,2004〕

MRIでの脳機能イメージング

著者: 川上俊幸 ,   平田幸一

ページ範囲:P.1621 - P.1625

〔SUMMARY〕 近年のMR検査における高速撮像法の進歩により,以前では評価が困難であった超急性期の脳梗塞の病巣の描出,局所の脳血流評価,また運動機能や言語機能などの高次脳機能に関しても画像化が可能となってきた.本稿ではfunctional MRI, diffusion weighted image, perfusion weighted imageの原理と撮像法を簡単に解説するとともに,臨床の場で施行されているMR検査を用いた脳機能評価の実際を紹介した.〔臨床検査 48:1621-1625,2004〕

各論

脳機能MRIの臨床応用の現状

著者: 藤田典彦

ページ範囲:P.1627 - P.1631

〔SUMMARY〕 MRIは解剖学的,病理学的構造の描出のみならず,既存のどの方法を用いても困難である人間の脳の機能構造の描出にも迫ろうとしている.方法論的には,正常人を対象とする脳機能MRIは成熟段階にあり,神経科学の領域での応用がめざましい.しかし,その方法論をそのまま臨床に供することには,かなりの問題があり,脳機能MRIの臨床応用については,その潜在的な可能性を模索しているのが現状である.〔臨床検査 48:1627-1631,2004〕

脳磁図と視機能評価

著者: 大出尚郎

ページ範囲:P.1632 - P.1640

〔SUMMARY〕 脳磁図(magnetoencephalography;MEG)は,脳波がつくる微弱な磁場変化を計測して脳の機能局在をMRI上に示す機能画像検査法である.非侵襲的検査であり,ヒトの脳機能を解明する有力な手段である.臨床においても,てんかんの発生源の同定や脳腫瘍の術前検査として利用されるようになってきた.2004年春より保険適用となった.本論文では,MEGの計測原理の説明と,臨床検査を目的とした視覚刺激を行うための方法論,およびMEGによる視機能評価法について述べる.〔臨床検査 48:1632-1640,2004〕

脳機能画像検査を用いた摂食障害の病態解明

著者: 白尾直子 ,   岡本泰昌

ページ範囲:P.1641 - P.1646

〔SUMMARY〕 近年,SPECT,PET,機能的MRIなどの脳機能画像検査の発展に伴い,摂食障害(ED)を対象とした脳機能画像研究も数多く行われるようになった.本稿では,これまでに蓄積されたEDを対象とする主な脳機能画像研究を検査法ごとに概観し,われわれの研究結果についても一部紹介した.脳機能画像検査を用いたED研究は始まったばかりであるが,今後EDの病態解明に大きく貢献していくことが期待される.〔臨床検査 48:1641-1646,2004〕

精神科領域でのMRSの応用

著者: 木村輝雄 ,   中田力

ページ範囲:P.1647 - P.1653

〔SUMMARY〕 磁気共鳴スペクトロスコピー(magnetic resonance spectroscopy;MRS)は,生体内の代謝動態を非侵襲的に「透視」する画期的な方法論である.しかし,臨床への普及は極端に遅れており,いまだに画一された検査法として市民権を得るまでには至っていない.臨床MRSの将来は,現場の臨床医がどこまでMRSを身近に感じることができるかにかかっているといっても過言ではない.構造解析による病態検索が困難な精神疾患において,機能解析が果たすべき役割は高く,そのなかでもMRSは重要な位置を占め,精神疾患の臨床における欠かせない検索過程の1つとなりつつある.〔臨床検査 48:1647-1653,2004〕

話題

非侵襲的脳機能評価としての画像診断と小児の神経学

著者: 飯沼一宇

ページ範囲:P.1655 - P.1658

1. はじめに

 20世紀後半になり,CTの開発をきっかけとするかのようにコンピューターが医療の世界に応用され診断技術を格段に進歩させ,今では不可欠の手法となっている.最近は脳の形態を描写するにとどまらず,機能を可視化する技術が開発され,機能的画像診断と呼ばれている.特に中枢神経に関しては,単に画像を用いて診断するというよりは,疾患の病態解明や神経興奮伝達の様相などの把握という意味をもつので,神経(脳)機能検査と呼ぶほうがふさわしいだろう.

 脳機能検査を仮に世代を追ってみると,第1世代:電気活動の増幅である脳波,第2世代:加算平均法を応用した各種誘発電位,第3世代:画像再構築を用いたCTおよびMRI,第4世代:画像に機能を加味したPET,SPECTおよびfMRI,電流によって生じた磁気信号を検出するMEG,物質の組織(細胞)の性質と代謝を信号化したMRSやDTI,第5世代:三次元構造表示に時間軸を加味した光トポグラフィ(四次元表示)ということになろう.

 本稿では,われわれの大学および関連施設で行っている非侵襲的脳機能検査を紹介し,今後の展望を述べる.第1~3世代についてはすでに日常化した手法であり最新の知見に乏しいので,第4世代から記述する.

急性期脳血管障害の新しい診断法

著者: 五十嵐博中 ,   片山泰朗

ページ範囲:P.1660 - P.1664

1.はじめに

 1996年アメリカにおいて,FDAは発症3時間以内の脳梗塞すべての病型にt-PAの経静脈投与による血栓溶解療法を認めた1).日本においても同療法の認可のために努力が続けられている.超急性期の血流再開を目的とした治療法は,今後日本においても普及すると考えられる.このときに求められるべき画像診断は,急性期に脳虚血の状態を短時間で評価でき,治療法選択の鍵となるものでなければならない.本稿では初めに,脳血管障害における画像診断の現状を述べ,さらに近年普及しつつあるMRIによる病態診断法,および将来の臨床応用が期待される撮影法を,主に急性期脳梗塞の病態把握の面から述べていきたい.

脳脊髄液を用いたアルツハイマー病の臨床検査診断

著者: 玉水昌子 ,   丸山将浩 ,   荒井啓行

ページ範囲:P.1665 - P.1671

1.はじめに

 高齢化社会を迎えている現在,痴呆症患者数は150万人を超え,中枢神経系疾患では最もありふれた疾患(common disease)となりつつある.そのために近年様々なアプローチによる抗アルツハイマー病(Alzheimer's disease;AD)治療薬の開発が急がれる一方で,ADの早期診断の重要性が求められている.1995年われわれは,脳脊髄液タウ蛋白濃度測定がADの診断マーカーになりうる可能性を発表し,その後世界中のグループから追試され確認されてきた.その後,脳脊髄液タウ測定は,ADの早期診断さらにはADに進行する予測診断にも使えることを明らかにしてきた.

今月の表紙 臨床生理検査・画像検査・12

下肢静脈

著者: 小野倫子

ページ範囲:P.1600 - P.1601

1.はじめに

 下肢静脈超音波検査の対象は,血栓と弁不全の2種に大別される.静脈血栓では血栓の範囲や血流の状態を,弁不全では逆流の有無を評価する.

コーヒーブレイク

再び残日録

著者: 屋形稔

ページ範囲:P.1626 - P.1626

 本誌に藤沢周平の「三屋清左衛門残日録」によせる感慨を綴ってからまた10年がたった.古今,洋の東西を問わず,人間は老いてなお命の輝き,魂のゆらぎの中を生きてゆかねばならない.同時代の作家池波正太郎が常に口にしていた言も「人は生れたその日から死に向って歩んでゆく」ということである.さだめとはいえ人生とは厳しいものである.

 医療にたずさわる人間などは生き死にに直面する場合は一番多い筈である.しかし生老病死について真剣に考えることは,自らが老い,かつ身体の不調を感じて医療に身を委ねて初めて訪れるといってもよい.世上「生き方上手」なる書が大分読まれているようである.しかし一家言を有する医者仲間には「生き方に上手下手などある筈がない」と反撥する人も多い.

シリーズ最新医学講座・Ⅰ 転写因子・12

エピジェネティクス制御とその異常

著者: 古海弘康 ,   佐々木裕之

ページ範囲:P.1673 - P.1679

はじめに

 エピジェネティクス(epigenetics)とは「DNA塩基配列の変化を伴わずに子孫や娘細胞に伝達される遺伝子機能の変化と,この現象を探求する学問」と定義され1),その語源から「後成遺伝学」と訳される場合もある.エピジェネティクスが近年注目を集めるようになったのは,ゲノムに記された遺伝情報の発現制御への重要な役割が認識されるようになったためである.エピジェネティクスは発生,老化,癌化など,様々な生命現象や病気と関連している2)(図1).

 生命現象の基盤となる遺伝情報の発現は,DNA→RNA→蛋白質という直線的な図式に,いつどこで働くのかというダイナミックな視点を加えてこそ理解できる.エピジェネティクスはそのようなダイナミックな視点の1つであり,その研究の進展により複雑な生命現象の理解が深まることが期待される.臨床的にも新たな病因解明,診断につながる可能性を秘めた重要な分野である.本稿では,エピジェネティクス制御機構を概説し,その異常による疾患や解析法について述べる.

シリーズ最新医学講座・Ⅱ 病理診断に役立つ分子病理学・12

DNAマイクロアレイと病理診断

著者: 谷口浩和 ,   油谷浩幸

ページ範囲:P.1681 - P.1687

はじめに

 DNAマイクロアレイはここ数年で急速に普及してきた技術の1つであり,生命現象を包括的網羅的に捉える手段の1つとして広く用いられている.

 2003年の日本病理学会総会では,「遺伝子診断・DNAチップはHEに勝てるのか?」と,いささか刺激的なタイトルのシンポジウムが行われた.DNAマイクロアレイは今後の病理学にどのような影響を及ぼすのかが議論されるなか,「DNAマイクロアレイという言葉はよく聞くが,実際のところそれが何物であるかよくわからない」という声を聞くことも多い.そこで本稿では,マイクロアレイの原理を基本から解説してその特徴を明らかにし,病理診断との接点について考察してみたい.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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