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雑誌目次

論文

臨床検査48巻4号

2004年04月発行

雑誌目次

今月の主題 ワクチン―その開発と将来展望 巻頭言

ワクチンの開発と今後の方向性

著者: 神谷齊

ページ範囲:P.361 - P.362

 20世紀の医学において最大の発展をしたのはワクチンであろう.少なくとも過去2年間に15以上の遺伝や免疫療法治療薬としてワクチンが市場に出現し,少なくとも25以上の薬剤が臨床試験の最終段階に来ている.最近米国の調査会社Theta Reports(本社ニューヨーク)はワクチンの開発の状況と世界市場調査を行い体系的にまとめた報告書Vaccines 2003 world Market and Developmentを発行した.このなかでは世界ワクチン市場における2001年から2002年にかけての進展のトレンドを分析して,治療用ワクチン,遺伝子療法,免疫性蛋白,抗体などに基づいた新しい治療法に焦点を当て,癌,自己免疫疾患,循環器系疾患,消化器疾患,性感染症,一般感染症の分野におけるワクチン開発状況を示している.
 それによると2002~2007年における世界のワクチン市場での伸び率はワクチンタイプによって以下のように予想している.小児ワクチンは年間1件程度,成人のワクチンすなわち肝炎,インフルエンザ,ライム病,マラリア,天然痘,旅行者下痢症などの危機対策用が15件,新しい癌,感染症用,免疫療法用ワクチンが13件,全体的で分類しにくいもの12件と報告している.

ワクチン開発の新しい展開

遺伝子工学的手法によるワクチンの開発

著者: 白木公康

ページ範囲:P.363 - P.368

〔SUMMARY〕 ワクチン開発に新しい方法論として,遺伝子工学的手法が最初に取り入れられ実用化されたのはB型肝炎ワクチンである.そして,組換え技術の発展がワクチン開発にも取り入れられ,生ワクチンの弱毒性と免疫原性の利点を生かし他の感染防御抗原を発現させた多価組換え生ワクチン,病原性の克服のためのDISCワクチン,Hybridワクチン,DNAワクチンなど,これまでのワクチンの問題点を克服できる可能性を示す種々の有望な成果が得られつつある.〔臨床検査 48:363-368,2004〕

粘膜ワクチンの実用化

著者: 中島夏樹 ,   勝田友博 ,   立山悟志 ,   本庄綾子 ,   松宮千春 ,   加藤達夫

ページ範囲:P.369 - P.374

〔SUMMARY〕 呼吸器,消化器,泌尿器などの臓器の内腔を覆っている粘膜は,多くの病原微生物の主たる感染経路であり,同時に生体の免疫機構の最前線である.この部位にワクチンを接種することにより,病原微生物の生体への侵入を初期の段階で阻止し,同時に全身の免疫応答をも誘導しようというのが粘膜ワクチンである.本稿では粘膜ワクチン開発の現状,将来の展望,および問題点について述べる.〔臨床検査 48:369-374,2004〕

わが国における現行ワクチンの今後の課題

DTPワクチン

著者: 岡田賢司

ページ範囲:P.375 - P.383

〔SUMMARY〕 ジフテリア・破傷風・百日咳(DTP)ワクチンの効果をワクチン実施率と3疾患の患者数の推移で検討した.ワクチンの主な副反応(局所反応と発熱)を予防接種後健康状況調査報告書から抜粋した.3疾患の年齢別抗体価から,年長児や成人の百日咳罹患が多いこと,ジフテリアはどの年代も抗体価が比較的減衰していないこと,破傷風はワクチン接種世代と非接種世代との格差が大きいことなどを解説した.〔臨床検査 48:375-383,2004〕

BCG

著者: 須知雅史

ページ範囲:P.385 - P.390

〔SUMMARY〕 2003年4月から,それまで小中学校1年生に行われてきたツベルクリン反応検査とその陰性者に対するBCG接種(再接種)が廃止された.いまだBCG接種そのものを廃止できるまん延状況に達していないわが国では,乳幼児期に1回となったBCG接種はその重要性が増し,接種率の向上,早期接種の促進,経皮接種法による接種技術の向上がますます求められている.〔臨床検査 48:385-390,2004〕

麻疹ワクチン

著者: 中山哲夫

ページ範囲:P.391 - P.397

〔SUMMARY〕 毎年全世界で3,000万人以上の子供たちが麻疹に罹患し,約80万人が麻疹で死亡している.わが国の予防接種率はやっと80%に達したものの,いまだに毎年2~3万人の患者が感染症サーベイランスに報告されており,5歳未満のワクチン未接種児と中高大学生のワクチン既接種者でのSecondary vaccine failureが問題となっている.麻疹撲滅のためには現行の生ワクチンの接種率を向上させることが唯一の手段であり,2回接種法を含め,接種年齢の下限の撤廃,保育園や小学校入学に際してワクチン接種の徹底などの具体策を講じて世界の麻疹対策に歩調を合わせて麻疹撲滅を目ざす時期にある.〔臨床検査 48:391-397,2004〕

日本脳炎ワクチン

著者: 根路銘令子 ,   倉根一郎

ページ範囲:P.399 - P.415

〔SUMMARY〕 日本脳炎ワクチンは,ウイルス常在地域の住民およびその地域への旅行者に免疫を賦与することにより,日本脳炎を予防するものである.
 日本,韓国,台湾では1965年以降,国のワクチン政策などにより患者発生数が激減しており,これに現行(マウス脳由来不活性)ワクチンが果たした役割は大きい.一方,1969年以降東南アジア,インド亜大陸地域では患者数が増加傾向にある.
 今後,これらの地域住民に広く接種できる,安価なワクチンの開発が期待される.〔臨床検査 48:399-415,2004〕

インフルエンザワクチン

著者: 菅谷憲夫

ページ範囲:P.417 - P.422

〔SUMMARY〕 インフルエンザの診断治療では,日本が世界で最も進み,外来やベッドサイドで迅速診断を実施し,抗ウイルス剤で治療することが確立した.インフルエンザの治療は新しい時代を迎えたが,予防の重要性には何ら変化はない.今後は,高齢者と基礎疾患をもつハイリスク群のワクチン接種を徹底すべきである.乳幼児のインフルエンザ予防には,家族内感染防止を目標に,乳幼児をもつ家族全員のワクチン接種が必要である.〔臨床検査 48:417-422,2004〕

わが国で使用すべきワクチンとその展望

肺炎球菌ワクチン

著者: 石田正之 ,   永武毅

ページ範囲:P.423 - P.429

〔SUMMARY〕 肺炎球菌は市中肺炎の起因菌として最も頻度が高く,髄膜炎,敗血症などの重症感染症の原因にもなりうる細菌の代表である.また最近の10年でペニシリンやマクロライド耐性肺炎球菌(PRSP)が急増し,時に難治性の重症感染症も認められる.予防策としては23価ポリサッカライドワクチンが米国CDC(Center for Disease Control and Prevention)より推奨され,わが国においてもワクチンの認知度は徐々に高まりを見せている.これまで抗菌薬による予防・治療が主軸となっていたわが国において,今後はワクチンを含めた総合的な感染予防・治療戦略が求められる時代となっている.
 しかるに,わが国でもワクチン認識の高まりを見せ,ワクチン接種は向上をしている.また,海外ではコンジュゲートワクチンなどの新たなワクチンも実用・開発されている.〔臨床検査 48:423-429,2004〕

インフルエンザ菌b型結合型ワクチン

著者: 上原すゞ子 ,   石和田稔彦

ページ範囲:P.431 - P.439

〔SUMMARY〕 インフルエンザ菌b型(Hib)感染症はワクチン予防可能な疾患である.Hibの萊膜多糖体抗原(PRP)に蛋白キャリアを結合させて免疫原性を高めたHib結合型ワクチンが予防接種計画に含まれている国々では,乳幼児髄膜炎を主とするHib全身感染症は稀になった.優れた予防効果と安全性が世界的に確認されているこのワクチンは,わが国では第Ⅲ相臨床試験は終了したものの,いまだ認可されず先進国としては例外的である.本ワクチンに関する内外の状況を紹介しながら,早期認可と導入に向けてHi全身感染症の迅速な診断,Hiの血清型別などの実施を要望する.〔臨床検査 48:431-439,2004〕

髄膜炎菌ワクチン

著者: 高橋英之 ,   渡邊治雄

ページ範囲:P.441 - P.448

〔SUMMARY〕 敗血症,髄膜炎を主症状とした髄膜炎菌性感染症例は日本においては稀であるが,ヨーロッパ先進諸国やアフリカ北部を中心とした発展途上国では今なお髄膜炎菌性感染症の流行が起こっている.航空機の頻繁な往来により世界の地理的な境界がなくなりつつある現代においては日本でも髄膜炎菌性感染症の対策措置の一環として髄膜炎菌ワクチンの導入を考慮する必要性が生じてきていると考えられる.〔臨床検査 48:441-448,2004〕

コレラ不活化ワクチン

著者: 山本達男 ,   種池郁恵 ,   中川沙織

ページ範囲:P.450 - P.457

〔SUMMARY〕 コレラ流行は依然活動期にある.その流行地域は,過去15年の間に南米,インド,アフリカと大きく変化した.経口輸液(ORS)の普及,飲料水や環境衛生の改善などが制御に有効であるといわれているが,難民キャンプなどでは徹底が難しい場合が多い.このためワクチンの使用が検討されてきた.現在WHOが推奨するワクチンは2つの経口ワクチンである.流行が予測されるキャンプなどの難民に対しては野外実験で実績のあるWC/BS不活化ワクチン(2回接種)を考え,汚染地域に向かう旅行者にはボランティア実験で実績のあるCVD103-HgR生ワクチン(単回接種)を考える.安価なベトナム製WC不活化ワクチン(2回接種)はベトナムでのみ使用する.このような現行ワクチンとは別に,60Co照射不活化ワクチン開発など新しい技術開発も活発に行われている.〔臨床検査48:450-457,2004〕

特別寄稿

インフルエンザワクチン―高品質化への軌跡

著者: 根路銘国昭 ,   堀本泰助 ,   杉田繁夫 ,   河岡義裕

ページ範囲:P.458 - P.470

〔SUMMARY〕 品質管理においては必要最少要件(Minimum requirement)を満たせばよいといっても,ワクチン開発では常に高品質化を標榜しなくてはならない.この思想に沿い,日本の不活化インフルエンザワクチンもサブユニットワクチンの実用化へ向かうべきであり,低年齢層ではCa生ワクチンの導入を政策的に考えてもよいのではないか.またパンデミック時代の到来を前に,簡便で,しかも優れたリバースジェネティック技術が登場したことはことのほか喜ばしい.〔臨床検査 48:458-470,2004〕

今月の表紙 臨床生理検査・画像検査・4

乳腺疾患

著者: 尾本きよか

ページ範囲:P.358 - P.359

 乳房は皮下脂肪組織のなかに存在する臓器である.乳頭を中心として円錐に近い形の乳腺が皮下脂肪組織に取り囲まれて,表皮と胸筋の間に存在している.乳腺を支持する結合織は皮膚とも連続し,これをクーパー靭帯といいこれにより乳腺は吊り上げられた構造になっている.乳房の画像検査には,マンモグラフィ,超音波検査,CT検査,MRI検査などがある.マンモグラフィは乳房を挟み込んで撮影するだけの簡単な検査で,特に集団検診などのスクリーニング検査として汎用されている.一方,超音波は簡便かつ非侵襲的な検査で,スクリーニングのみならず精査としても利用されている.表在用超音波プローブは近年技術の向上により,その解像度はかなり上昇しており詳細な形状把握や性状組織診断が可能になってきている.さらには超音波ガイド下の穿刺吸引細胞診も外来で容易に施行でき,確定診断におおいに寄与している有用な検査である.
 ところで,超音波で乳腺実質は一般に均一な高エコー域として観察されるが,年齢によってその所見が異なってくる.成熟女性になると,乳腺症の変化として囊胞,線維化,硬化性腺症などを生じてくるため乳腺組織の存在する領域にびまん性の小斑状低エコー像いわゆる“豹紋状mottled pattern”を呈することが多い.

コーヒーブレイク

ある作家の回想

著者: 屋形稔

ページ範囲:P.398 - P.398

 近ごろ年のせいか何度も読んだはずの本をとり出して読むと始めて目にするような気がすることがある.向田邦子のドラマやエッセイなどもそれで,1冊読み出したら止まらなくなり本棚にあった彼女のほぼ全著作をそんな気分で読み通してしまった.もっとも以前からその気があったらしく同じものを2冊買いこんでいたのが数件あった.
 彼女が事故死して早くも22年が過ぎた.「父の詫び状」や「女の人差し指」などのエッセイを読むと,この人は並みの人の数倍の人生を歩んだように思われる.日常些事のなかの思い,人間に対する目,家族や自分の歩みへの確かな記憶と繊細な感性に魅きつけられる.

シリーズ最新医学講座・Ⅰ 転写因子・4

転写因子と血液疾患

著者: 峯岸直子 ,   山本雅之

ページ範囲:P.473 - P.481

はじめに
 骨髄のなかでは,日々に新しい血液細胞が生み出されている.赤血球からリンパ球まで,それらすべての系列の血液細胞は造血幹細胞から分化する.造血幹細胞は,骨髄移植などにより長期にわたって造血能の再建が可能な細胞であり1),血液を構成するすべての細胞成分に分化する能力をもち(多能性),無限に近い増殖能をもっている.そして,細胞分裂により,より分化した造血前駆細胞を生み出すと同時に,一方の細胞は造血幹細胞として自己複製し,個体が生き続ける限り血液細胞を供給し続ける.1段階分化が進んだ造血前駆細胞にも多能性をもつものがあり,また,単能性の細胞も成熟血液細胞の産生を行っている.造血幹細胞,造血前駆細胞とも非常に高い増殖能力をもっているが,それらの細胞の比率がほぼ一定に保たれるように増殖能は厳密に制御されている(図1).細胞外因子,細胞膜表面の蛋白質,細胞内シグナル伝達系,転写制御系などによる精密な制御により血液細胞の恒常性が維持されているのである1)
 主な血液疾患には,造血幹細胞から造血前駆細胞の分化段階において異常細胞が出現し,その細胞が他の正常細胞の増殖を抑えて異常増殖する白血病と,再生不良性貧血のように血液細胞の産生が低下している病態や,血液細胞のもつべき機能が低下している病態がある(図1).以前より,転写因子の異常が血液疾患,特に白血病の発症に強くかかわっていることが示され,多数の遺伝子異常が報告されてきた.最近の報告では骨髄性白血病症例の半数以上が何らかの遺伝子異常を有し,それらの多くが転写因子の異常を伴っているという2).異常はいろいろな遺伝子に起こりうるが,その結果として他の細胞よりも増殖や生存のうえでアドバンテージを得られる場合に白血病を起こす.したがって,血液細胞の増殖や分化を制御する遺伝子の異常が白血病の発症につながる可能性が高い.本稿では,血液細胞の産生を制御する転写因子,白血病発症にかかわる転写因子異常について概説し,その臨床的な意義を明らかにしたい.

シリーズ最新医学講座・Ⅱ 病理診断に役立つ分子病理学・4

肝・胆道の炎症性疾患

著者: 全陽 ,   中沼安二

ページ範囲:P.482 - P.489

はじめに
 肝・胆道系には様々な炎症性疾患が発生する.最も頻度の高い疾患として,ウイルス性肝炎があり,近年,A型,B型,C型,D型,E型肝炎ウイルスが同定され,血清学的,ウイルス学的な診断学が確立されつつある.そして,病理組織学的には,急性肝炎の分類(巣状壊死型,架橋性壊死型等),さらに慢性肝炎では病期(肝線維化を中心とした病期分類:F0-F4),活動度(肝実質や門脈域の壊死炎症の程度:A0-A3)の判定,および病期と活動度を基盤とした治療効果の判定が,診断病理医の重要な仕事となりつつある.
 しかし,いまだ病態や原因(病因)が解明されていない肝胆道系炎症性疾患も多く残されている.これら疾患において,近年,急速に進歩しつつある分子病理学的手法や知識をもとに肝胆道系疾患の病態解析や病理診断が行われつつある.現在,病理検査室で免疫染色やin situ hybridizationが行えるようになり,肝胆道系の炎症性疾患を分子レベル,遺伝子レベルで理解し,これらの知識を病理診断に用いることが今後ますます必要になると思われる.
 本稿では,近年注目されつつある代表的な肝胆道系の3つの炎症性疾患を取り上げ解説する.栄養障害性疾患である非アルコール性脂肪性肝炎(non-alcoholic steatohepatitis;NASH),自己免疫性疾患である原発性胆汁性肝硬変(primary biliary cirrhosis;PBC),一般的な細菌感染症を基盤とする肝内結石症の分子病理学を,最近の文献的知見とわれわれの成績を中心に解説する.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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