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雑誌目次

論文

臨床検査48巻6号

2004年06月発行

雑誌目次

今月の主題 小児の成長・発育と臨床検査 巻頭言

小児の成長・発育と臨床検査

著者: 菅野剛史

ページ範囲:P.611 - P.612

 少子化の傾向が強くなってきたとともに,エンゼルプランなる施策が少子化対策として平成6年 (1994年) 以降で推進されている.この施策が正しく推進され,効果を挙げるために,臨床検査の領域に携わる者に,何か役に立つことはないのであろうか? シルバープランの恩恵を目前にしている人物から提案されたのが,この特集であると考えてよい.一般に,このエンゼルプランを推進しているのは保育サービス,子育ての環境支援のような領域に携わる人たちである.しかし,母子保健医療という視点で正しく小児医療を見つめる視点が確立されていないと,健全な子どもは育たないし,一方,われわれは専門外の人間として片隅に押しやられ,重要な視点の埒外として抜かされていく危険性がある.
 臨床検査が医療のなかで重要な位置を占めるようになって,何年が経過しているのであろうか.その間に検査のデータの施設間差は解消し,基準範囲は共有化されようとしている.日常診療で利用した検査のデータをそのまま他施設への依頼状に記載する(将来は記載する必要がなくなるかもしれない)ことで,情報の共有化は格段と進んでいる.このような現実の前に,小児領域での検査の利用も格段の変化を遂げるに違いない.年齢差,性差の微妙な変化が生理的変動の結果としてのみで理解されてよいのであろうか.そして,この小児の基準範囲の問題も近い将来に取り上げられるに違いない.しかし,その前提に,小児のもつ小児としての特性・問題点が十分に理解されている必要があるものと考える.

総説

今後の次世代育成支援の展開

著者: 井之口淳治

ページ範囲:P.613 - P.618

〔SUMMARY〕 急速な少子化の進行は,今後,わが国の社会経済全体に極めて深刻な影響を与えるものであることから,少子化の流れを変えるため,改めて国,地方公共団体,企業などが一体となって,従来の取組に加え,もう一段の対策を進めることが必要である.このため,次世代育成支援対策を国の基本政策と位置づけたうえで,次世代育成支援対策推進法において,すべての大企業(従業員が300人を超える企業)に加えて,すべての地方公共団体に対して,平成17(2005)年3月末までの間に行動計画を策定することを義務づけた.

マススクリーニング

著者: 青木継稔

ページ範囲:P.619 - P.626

〔SUMMARY〕 小児期におけるマススクリーニングについて,現在わが国において行政的に実施されている先天代謝異常・内分泌疾患等新生児マススクリーニングを中心に解説した.特に,フェニルケトン尿症,クレチン症はマススクリーニング効果が大きく極めて有用である.6か月児尿を用いる神経芽腫マススクリーニングは2004年3月にていったん休止されることになった.今後導入が検討されている疾患を紹介した.

成長・発達期の小児の特性―小児神経の視点から

著者: 三牧正和 ,   五十嵐隆

ページ範囲:P.627 - P.635

〔SUMMARY〕 成長・発達は小児の最大の特徴である.主として「成長」は形態的変化を,「発達」は機能的変化を指すが,小児科診療においては両者を総合的に評価することが大切である.小児神経の診療で汎用される脳MRIと脳波は,それぞれ形態と機能を評価するのに極めて有効な手段であるが,その所見は成人とは全く異なり,年齢による正常変化が非常に大きい.小児の成長・発達の評価や疾患の診断においては,臨床検査の生理的変化を熟知することが不可欠である.

各論

周産期としての一貫した管理体制

著者: 山田美恵 ,   伊藤茂

ページ範囲:P.637 - P.641

〔SUMMARY〕 今日,超音波診断の普及により,胎児の発育は診療に欠かせないものとなっている.妊娠中の過程を通して超音波検査の役割は妊娠週数によって異なっている.当院では初期(妊娠16週未満),中期(妊娠16~28週未満),末期(妊娠28週以降)の各1回の計3回行っている.妊娠初期には胎児心拍により妊娠が正常に成立したことを確認し,妊娠中期以降では胎児発育異常や胎児奇形のチェックを行うことが必要である.

乳幼児健診

著者: 内海裕美

ページ範囲:P.643 - P.650

〔SUMMARY〕 子育ち環境,子育て環境が大きく変わり,乳幼児健診の果たす役割が様変わりしている.親支援の立場から,そして子どもが健やかに育つためには何を保障していったらいいのか,現代の子どもの育ちの問題は何なのか,子どもの正常な発育・発達を知る小児科医は子どものおかしさにいち早く気がつく存在でなければならない.時代の流れに敏感であることも必要である.次世代育成という大きな概念で乳幼児健診をとらえていく時代になった.

学校保健法での学童期の健診

著者: 森蘭子

ページ範囲:P.651 - P.661

〔SUMMARY〕 学校保健法で行う健康診断は,詳細に定められている.健診の実施に当たり,その意義を理解し,方法を熟知したうえで,学校関係者や学校医と連携しつつ行う.異常が発見された場合,疾患の診断,治療,生活指導など,事後措置が大切である.疾病構造の変化などから今後は生活習慣病検診などが注目される.学童期の小児の健康管理という面で学校健診のはたす役割は重大で,社会的な期待も大きい.

少子化と生殖医療

著者: 苛原稔 ,   松崎利也 ,   桑原章

ページ範囲:P.663 - P.669

〔SUMMARY〕 少産少子化のなかで,生殖医療のあり方が問われている.日本において生殖補助医療で生まれる子どもは1%に達したが,このような生殖医療の発展と普遍化の一方で,多くの問題点を抱えている.すなわち,①不妊治療による副作用の発生,②高齢妊娠による母体合併症や児の異常の誘起,③不妊治療の経済的負担,④倫理問題などである.妊娠率が一定の段階に達した現在,良質の妊娠を追求する時代になっており,今後はこの観点から,少子化時代の生殖医療を見直して行かねばならない.

話題

小児期に特徴的なウイルス性疾患

著者: 細矢光亮

ページ範囲:P.671 - P.676

 1. ウイルス感染症の季節性と好発年齢
 小児科の一般外来で診察する患者の大部分は感染症であり,またその多くをウイルス感染症が占める.ウイルス感染症は,その種類により好発する季節や年齢がある.国立感染症研究所の感染症情報センターが報告している感染症発生動向調査の結果をもとに,2003年第15週より2004年第14週までの,主なウイルス感染症の週別報告患者数をまとめ,図1に示した.報告数が多いのは,インフルエンザと感染性胃腸炎で,秋から春にかけての流行がみられる.7~9月の夏季には手足口病やヘルパンギーナなどのエンテロウイルス感染症が流行する.このような病態を呈さないエンテロウイルス感染症が多いので,エンテロウイルス感染症全体の患者数はもっと多い.古典的発疹症で最も報告数の多いのは水痘であるが,これらに比較すると少ない.アデノウイルスの代表として流行性角結膜炎の報告者数を挙げた.アデノウイルス感染症はほぼ年間を通じて発生する.図2に発疹症などの報告者数を示した.水痘は秋から春にかけての発生が多く,夏から初秋にかけて減少する.突発性発疹,流行性耳下腺炎,伝染性紅斑の報告数は水痘に比較して少なく,年間を通しほぼ一定の発生がある.麻疹の報告数はさらに少ない.2002年より続いた地域的流行が,2003年秋まで続き収束した.これに変わり,2004年からは風疹の発生数が増加してきている.このほかに,冬季にはRSウイルスやヒトメタニューモウイルスによる下気道炎があり,ライノウイルス,コロナウイルス,パラインフルエンザウイルスによる上気道炎がほぼ年間を通してみられる.さらに,溶連菌などの細菌感染症やマイコプラズマなどの流行が加わり,小児科外来を多彩にしている.
 2003年の福島県感染症発生動向調査より,年齢別の患者報告者数を求め,図3に示した.1歳未満の乳児期には,突発性発疹,感染性胃腸炎,この図にはないがRSウイルス感染症などが多い.1歳になると,突発性発疹は減少し,その他の感染症は増加する.インフルエンザは学童期まで発生が続く.感染性胃腸炎,水痘は幼児期に発生が多い.ヘルパンギーナ,手足口病は1~3歳に,流行性耳下腺炎は4~7歳にピークがある.麻疹の報告数は少ないが,年齢別に見ると2歳までの乳幼児が多い.

川崎病

著者: 知念詩乃 ,   鮎沢衛

ページ範囲:P.677 - P.683

 1.はじめに
 川崎病は,1967年に川崎によってまとめられた4歳以下の乳幼児に好発する原因不明の急性炎症性疾患である1).発症者数は徐々に増えつつあり,最近5年間は年間約8,000人と報告され2),小児の日常診療では比較的よく遭遇する疾患である.約4~6週間で沈静化する全身の中小動脈の血管炎と考えられており,無治療の場合には,発症者の20%前後に,冠動脈の拡大や瘤状の変化(冠動脈瘤)を合併するため,的確な診断と治療によって,これらの冠動脈病変を防止し,後遺症を最小限にとどめるように管理することが重要である.
 川崎病の診断は,診断の手引き3,4)をもとに,臨床症状によって決定される(表1)が,臨床検査として,心電図,胸部X線,断層心エコー図,血液生化学検査,血清検査,尿検査,髄液検査などの所見が参考条項として診断の手引きの文中に挙げられている.これらをはじめとして,川崎病の診療において,確定診断や,治療効果の判定のために各検査結果は考慮すべき重要な意義をもっている.主な検査所見とその注意点について述べたい.

小児の救急医療

著者: 市川光太郎

ページ範囲:P.689 - P.694

 1. はじめに
 小児救急医療はその体制を中心に全国的な社会問題と化し,厚生労働省のいくつかの補助事業開始を初めとして,多くの地域でその再構築に向けての議論がなされるようになってきた.しかし,受療者のニードの多様性やその高揚に十分対応できる体制作りは種々の問題から抜本的な対応ができるまでには至っていない.その大きな背景因子は小児医療の不採算性と小児科医不足に起因していることは明白であるものの,この改善にはわが国の医療そのものの見直しを含めた長期的な視野にたっての努力が必要であり,中央・地方行政のみならず国民・地域住民そのものの理解と協力が求められている.
 このような状況下,わが国の小児救急医療の抱える問題点を整理して,その改善に向けての展望について述べてみる.

子どもたちへのインフォームド・アセント

著者: 藤井裕治 ,   本郷輝明

ページ範囲:P.695 - P.699

 1. はじめに
 もし医療者が何も説明せず抵抗する子どもを取り押さえて,マルクやルンバールなどの疼痛を伴う処置を行ったとしたら,それが医療行為であったとしても,子どもたちにとっては『医療の名を借りた白衣の虐待』にほかならず,子どもたちに精神的トラウマとしていつまでも残る危険性がある(図1).「子どもだから説明しても理解できない」とか「子どもだから説明しても無駄である」と大人たちの勝手な判断で,自分の問題を自分で考える機会を奪い,不安や恐怖のなかに閉じ込めてはいないだろうか.イラストや平易な言葉を用いて,年齢や発達の程度に応じて病気や検査・処置の説明を行えば,病気を正しく理解し,医療者を信頼して自ら進んで検査や処置を受けようとする積極性が生まれてくる1,2)

小児と家族性腫瘍―家族性大腸腺腫症の遺伝子検査による若年者診断を中心に

著者: 石川秀樹

ページ範囲:P.685 - P.688

 1. 小児の家族性腫瘍
 成人の腫瘍の多くは癌腫であるが,小児では,癌腫は稀であり,肝芽腫,神経芽細胞腫などの胎児性腫瘍,白血病などの造血器腫瘍や脳腫瘍,肉腫などが多い.15歳未満では,頻度は白血病が最も多く,次いで脳腫瘍,神経芽細胞腫,リンパ腫が多いが,一般には成人に比べて発生頻度は極めて低い.
 しかし,家族性腫瘍では若年からの発癌も比較的多い.家族性腫瘍のほとんどは常染色体優性遺伝様式をとる.したがって,両親のどちらかが,家族性腫瘍に罹患した既往がある場合,その子どもは50%の確率でその体質を保有しているため,小児期における発癌の早期診断をどうするかが重要になる.

今月の表紙 臨床生理検査・画像検査・6

肝臓疾患

著者: 尾本きよか

ページ範囲:P.608 - P.610

 腹部領域における超音波検査は科を問わず,今や最も頻繁に行われている画像検査の1つである.超音波検査はリアルタイムに,低侵襲的に,簡便に施行でき,その用途は検診などのスクリーニング検査,診断・精査,穿刺のガイドや治療後の評価判定など広範にわたる.今回は,腹部領域のなかでも最も有用な肝臓疾患について特徴的な超音波写真を提示しながら説明していく.
 肝臓の腫瘤性病変を良性と悪性に大別すると,良性腫瘍は上皮性の肝細胞腺腫,非上皮性は血管腫,血管筋脂肪腫,その他には囊胞,過誤腫,限局性結節性過形成などが含まれる.日常臨床で圧倒的に遭遇する機会の多いものは,肝囊胞と肝血管腫である.肝囊胞に関しては,他領域の囊胞と同様にその特徴的所見から容易に診断できるので,説明は割愛する.良性の充実性腫瘤で最も多い肝血管腫は,その大部分は病理組織学的には海綿状血管腫である.その超音波像の特徴は大きさによって多少様相が異なってくる.一般に血管腫が小さい場合には,図1のように境界明瞭,内部エコーは比較的均一,辺縁は細かい凹凸を認め,高エコー像を呈する.サイズが大きくなると,内部に低エコーな部分が混在する不均一な像を呈するようになる.その辺縁は,肝細胞癌などでみられる低エコー帯(halo)とは逆に高エコー(marginal strong echo)であることが特徴である.また体位変換や経時的観察で内部エコーが変化することがあり,他の充実性腫瘤との鑑別に役立つ所見といえよう.カラードプラ法では,辺縁に血流シグナルを認めることはあるが,内部に認めることは少ない.

コーヒーブレイク

先達に学ぶ

著者: 屋形稔

ページ範囲:P.642 - P.642

 昨年暮れに元東海大臨床病理学教授の丹羽正治先生が「福祉のこころ」という冊子を出版された.全国重症心身障害児(者)を守る会,地域福祉の会の主要メンバーとして30有余年にわたる活動を通じて学ばれた福祉のこころをまとめられたものである.まさしく人間の生き方への示唆に富んだ書で,86歳という高齢とは見えぬ若々しい気魄に溢れている.
 先生はエッセイストとしても優れた方で,昭和63年東海大を退職されたときの記念出版「歩んだ道」のなかに活動の全容がうかがわれ,同学の後輩として少なからぬ指針をいただいた.同大では臨床検査の後継者として只野寿太郎,伊藤機一氏などの逸材を育てられたが,すべての行動に一貫した流れが感じられる.

シリーズ最新医学講座・Ⅰ 転写因子・6

転写因子と癌Ⅱ:BRCAと発癌

著者: 吉田清嗣 ,   三木義男

ページ範囲:P.701 - P.709

はじめに
 家族性乳癌の原因遺伝子として同定されたBRCA11),BRCA22)は,その発見から10年を迎え,めざましい研究の進展により機能や異常について理解が深まりつつある.と同時に,その機能が多岐に渡ることから機能間の整合性という点において相反する報告も多い.一方,その生殖細胞変異による遺伝子異常は多数明らかにされており,欧米では家族性乳癌の発症前リスク診断としてのBRCA1,BRCA2の遺伝子診断が日常診療として行われている.その結果保因者であった場合には積極的に予防的処置がとられており,実際に欧米では家族性乳癌の60%程度に,わが国でも50%程度にBRCA1あるいはBRCA2に生殖細胞変異がみられると推測されている3).またBRCA1は卵巣癌にも関与しており,乳癌と卵巣癌を伴う家系の80%以上において何らかのBRCA1の変異が存在する.その一方で一般(散発性)乳癌におけるBRCA1,BRCA2の体細胞変異は極めて稀であり,一般乳癌への関与は現在に至るまで不明である.
 BRCA1は癌抑制遺伝子であることから,当初は細胞増殖を抑制する機能を担うと推定され,BRCA1が欠損すると細胞増殖が活性化するのではないかと考えられていた.しかしBRCA1のノックアウトマウスでは細胞増殖が低下しており,染色体の構造異常などがみられた.同様の現象がBRCA2ノックアウトマウスでも観察された.こういったことから癌抑制遺伝子には細胞増殖を制御するタイプ(gatekeeper)だけでなく,ゲノムの安定化に働くタイプ(caretaker)が存在することが提唱された4).BRCA1,BRCA2は典型的なcaretaker型の癌抑制遺伝子といえる.
 BRCA1とBRCA2に共通する最も重要な機能としてDNA修復によるゲノム安定性維持が挙げられ,それらの変異による機能不全は修復機構の破綻を引き起こし,発癌へ結びつくと考えられている.さらにBRCA1,BRCA2は遺伝子発現における転写調節という機能も有しており,そのメカニズムが少しずつ明らかにされてきているが,この役割における変異と機能不全との関係についてはいまだ不明な点が多い.本稿では主にこの転写調節におけるBRCA1とBRCA2の役割について,発癌機構への関与を含め概説する.

シリーズ最新医学講座・Ⅱ 病理診断に役立つ分子病理学・6

婦人科癌

著者: 飯原久仁子 ,   坂本穆彦

ページ範囲:P.711 - P.718

はじめに
 婦人科癌には,子宮頸癌,子宮体癌,卵巣癌があり,発癌に関与するであろう遺伝子異常は多く報告され,予後の推測や,治療の目安となる結果が散見される.日常の病理診断において,p53やKi-67など免疫組織化学で確認できるものについては診断の有力な手掛かりになるものや,予後の推測に役立つものもある.婦人科領域の各腫瘍についての最近の分子病理学について知見をまとめた.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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