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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査49巻1号

2005年01月発行

雑誌目次

今月の主題 ミトコンドリア病 巻頭言

ミトコンドリア病

著者: 濱﨑直孝

ページ範囲:P.7 - P.8

ミトコンドリアはその代表的機能である好気的ATP合成能に加え多様な機能(アポトーシス,脂肪酸酸化,リン脂質合成,ステロイドホルモン合成等々)を有している.本来それらすべてのミトコンドリア機能低下に起因するあらゆる病態は広義のミトコンドリア病といえるが,ミトコンドリア病に関する本特集では,特に,ミトコンドリアDNAに焦点を当てた.その理由は,近年ミトコンドリアDNAの検査法が著しく発達したこと,今まで不明であったミトコンドリアDNA異常とミトコンドリア呼吸能異常との関係が明らかにされつつあること,ミトコンドリアDNAの多型と生活習慣病などの罹患に関する研究が進み,そのデータベースが非常によく整備され始めたこと,そして何よりも,現在知られているミトコンドリア機能異常症例の大部分はミトコンドリアDNAの異常に起因する疾病であることからである.

 ミトコンドリア病の概念は近年著しく拡大しており,古典的ないわゆる脳筋症という考え方だけでは,もはや,把握しきれない.ミトコンドリアはヒト個体において赤血球を除くほとんどあらゆる細胞に存在し,そしてほとんどの細胞はそのエネルギー供給の大部分をミトコンドリアにおける好気的ATP合成に依存している.それゆえに,理論的にはミトコンドリアの異常はあらゆる組織の機能異常に関与していると推測される.糖尿病,癌,老化,加齢に伴う神経変性,内分泌異常,心不全,血管障害など多くの疾病にミトコンドリアDNAの異常が病因になっている可能性は高い.これらの病態を理解するうえでも,古典的なミトコンドリア脳筋症について十分に知っておくことは有用である.その理由はミトコンドリア機能低下に起因する疾病発症の基本構図は変わらず,古典的なミトコンドリア脳筋症の臨床的,病理組織学的,細胞学的,分子生物学的解析はこれから判明するいろんな疾病の病因の基本をなしていると考えるからである.個々の病態の表現形が典型的に現れている古典的なミトコンドリア病について,現時点で発症機序,病態などを知っておくことは将来に向けた新たな病態の発見と新たな検査法の開発に大切であると考えている.そのような観点で本特集をまとめてみた.

総論

ミトコンドリアDNA―その特徴,遺伝,ヘテロプラズミー,閾値効果

著者: 太田成男

ページ範囲:P.9 - P.15

〔SUMMARY〕 昨年,ヒト核ゲノムの全塩基配列が決定された.核ゲノムとは独立してミトコンドリアにも独自の短い環状のゲノムが存在している.短いということは重要ではないということではない.ミトコンドリアDNAは細胞に多数存在しており,それが核ゲノムとは別の独特の特徴をもつ.ミトコンドリアDNAの特徴を核DNAと比較しながら,最近のミトコンドリアDNAに関する概念の変貌を紹介する.〔臨床検査 49:9-15,2005〕

体細胞ミトコンドリアゲノム遺伝情報の維持

著者: 康東天

ページ範囲:P.16 - P.24

〔SUMMARY〕 ミトコンドリアDNA遺伝情報は好気的ATP合成に必須であり,それゆえその遺伝情報の維持は細胞が正常に機能し生存していくうえで必須である.しかしミトコンドリアは好気的ATP産生に伴う膨大な酸素消費に伴い,大量の活性酸素を産生しており非常に強い酸化ストレス下にある.その結果ミトコンドリアDNAは核DNAより強い酸化障害を受けており,体細胞における変異率が核DNAよりはるかに高いことが近年実証され,現在,その変異が加齢に伴う多くの病態に関与していると考えられるようになっている.〔臨床検査 49:16-24,2005〕

ミトコンドリア病の分類と診断

著者: 井川正道 ,   米田誠

ページ範囲:P.25 - P.32

〔SUMMARY〕 ミトコンドリアは,呼吸鎖を用いてエネルギー産生を行っている.ミトコンドリア病は,ミトコンドリアの遺伝的あるいは後天的障害により起こる疾患であり,臨床的特徴,生化学的異常,遺伝子異常による分類がなされている.脳・骨格筋・心臓などエネルギー需要が高い臓器を中心に多彩な症状が認められ,生化学・組織・生理・画像・遺伝子検査などでミトコンドリア異常を反映した特徴的な所見が得られれば診断となる.個々の所見・検査の特徴を理解することが診断に重要である.〔臨床検査 49:25-32,2005〕

ミトコンドリア病DNA診断のバイオインフォーマティクス―ミトコンドリアDNAデータベース

著者: 田中雅嗣 ,   福典之 ,   武安岳史 ,   藤田泰典 ,   伊藤雅史

ページ範囲:P.33 - P.43

〔SUMMARY〕 日本人672個体のmtDNAの全塩基配列を決定しミトコンドリアゲノム一塩基多型データベース(mtSNP)を構築した.さらに海外の1,267個体のヒトミトコンドリアDNA(mtDNA)全塩基配列データを取り込み,合計1,939人の多型データを検索可能にした.一方,ミトコンドリア病におけるmtDNA変異のデータベースとしてはMITOMAPがある.これらのデータベースを比較することにより日本人集団における多型と病因となる変異とを鑑別することが可能になった.本稿では,mtSNPデータベースの利用方法を解説するとともに,肥満と糖尿病に関連する多型について紹介する.〔臨床検査 49:33-43,2005〕

ミトコンドリア病の臨床検査

ミトコンドリア病の組織診断―ゴモリ染色,活性染色,免疫染色

著者: 後藤雄一

ページ範囲:P.45 - P.49

〔SUMMARY〕 ミトコンドリア病の診断において,組織診断は有力な情報を提供する.典型的な病理所見である,赤色ぼろ線維(ragged-red fiber),高SDH活性血管(strongly SDH-reactive blood vessel),シトクロームc酸化酵素欠損線維のいずれか,もしくはその組み合わせを検出することが肝要である.〔臨床検査 49:45-49,2005〕

ミトコンドリアDNA突然変異の病原性の評価―サイブリッド作製

著者: 石川香 ,   陳柱石 ,   中田和人 ,   林純一

ページ範囲:P.51 - P.58

〔SUMMARY〕 ミトコンドリアDNA(mtDNA)の突然変異がミトコンドリアの呼吸機能に与える影響を直接検討するためには,核ゲノムによる呼吸機能への干渉を除外する必要がある.そのためには,mtDNAを欠損したρ0細胞にミトコンドリアを移植するサイブリッド作製が,非常に有効な手段であると考えられる.今回,健常者の血小板からサイブリッドを作製することによって呼吸機能の正常範囲を決定し,mtDNAの病原性突然変異を特定するための重要な足がかりを得ることができた1).〔臨床検査 49:51-58,2005〕

ミトコンドリアDNA全周塩基配列決定―ダイレクトシークエンス法

著者: 和田結 ,   栢森裕三 ,   濱﨑直孝

ページ範囲:P.59 - P.64

〔SUMMARY〕 ミトコンドリアには核とは独立した約16kbpの環状DNAが存在する.そのミトコンドリアDNAの様々な変異がミトコンドリア病ばかりでなく,Ⅱ型糖尿病の原因となることも明らかとなっている1,2).ミトコンドリア病の主要な病因変異をもたないがミトコンドリア病が強く疑われる場合には,ミトコンドリアDNAの全周塩基配列を調べる必要が生じることがある.また,全周塩基配列を調べることによりミトコンドリアDNAの遺伝子多型を検索することも可能である.〔臨床検査 49:59-64,2005〕

ミトコンドリア遺伝子A3243G変異の高感度検出法―Peptide Nucleic Acid-assisted allele-specific Polymerase Chain Reaction法

著者: 浦田美秩代 ,   栢森裕三 ,   濱﨑直孝

ページ範囲:P.66 - P.70

〔SUMMARY〕 ミトコンドリア遺伝子変異のなかで,MELASや糖尿病の原因として知られるA3243G変異の検出は診断的な価値が大きい.A3243G変異は同一細胞内に正常型と異常型が共存しており,しかも,検査材料として使用される末梢血白血球ではその変異率が低いために,測定法としては高感度な方法が望まれている.本稿では,2004年にわれわれが開発したA3243G変異の簡便で高感度な定量法を紹介する.〔臨床検査 49:66-70,2005〕

話題

癌とミトコンドリア遺伝子異常

著者: 西川学 ,   井上正康

ページ範囲:P.72 - P.77

1. はじめに

 近年,多数の癌遺伝子や癌抑制遺伝子がクローニングされ,発癌の分子機構が飛躍的に解明されつつある.しかし,これらの遺伝子の異常が発癌の第一義的原因であるケースは限られており,総括的な発癌の分子機構には依然として不明な点が多い.最近,癌組織でミトコンドリア遺伝子(mtDNA)の変異が蓄積している現象が判明し,発癌におけるmtDNA変異の意義が注目されている.本稿では,肝発癌とミトコンドリア遺伝子変異に関してわれわれの研究室での知見を中心に紹介する.

心不全とミトコンドリアDNA

著者: 井手友美 ,   筒井裕之

ページ範囲:P.78 - P.81

1. はじめに

 ミトコンドリアは,エネルギー代謝を行う細胞内小器官である.そして,心筋細胞は,その個体が生命として活動している限り,休むことなく弛緩と収縮を繰り返し,常に多くのATPを必要とするため,ミトコンドリアを多く含んでいる.近年,ミトコンドリアDNAの異常によって,心臓がポンプ機能を障害される病態,すなわち心不全においても,その病態形成,進展に,スーパーオキサイド(O2-)やハイドロキシラジカル(OH・)などの酸素ラジカルによるミトコンドリア機能不全が関与していることが明らかとなり,さらに病態形成においてミトコンドリアDNAが重要な役割を果たしていると考えられる.本稿では,ROSを介して,心不全におけるミトコンドリアDNAの病態への関与について,概説する.

MELASの新しい治療法―L-アルギニン

著者: 古賀靖敏

ページ範囲:P.83 - P.88

1. はじめに

 ミトコンドリア病(ミトコンドリア脳筋症)は,細胞のなかのエネルギー産生の中核であるミトコンドリアの異常で脳や筋肉の機能が低下する病気である.この一病型であるMELAS(mitochondrial myopathy, encephalopathy, lactic acidosis and stroke-like episodes)は,小児期に脳卒中様の発作を繰り返し,ひいては,精神運動面の退行をきたし,早期に死に至る慢性進行性の難病である.本症における脳卒中発作の成因は,血管説および細胞機能不全説などいまだ不明な点が多い.われわれは,脳卒中発作の成因に血管説が大きく関与しているという仮説のもと,L-アルギニンを投与し,脳卒中に起因する種々の症状が劇的に改善することを発見報告した.MELAS患者では,血管内皮機能が有意に低下しており,本来もっているはずの動脈の拡張機能が傷害されていた.さらに,MELAS患者急性発作時には,血漿中のL-アルギニンや生体内での動脈拡張機能に中心的役割を果たす一酸化窒素(NO)の代謝産物(NOx)が有意に低下しており,かつADMA(asymmetrical dimetyl arginine)が相対的に増加していることがわかった.MELAS患者の脳卒中様発作急性期にL-アルギニンを静注することで,脳虚血からくる神経症状が注射後30分以内に劇的に改善した.また,脳卒中様発作寛解期の患者で,L-アルギニンを内服することで,患者の脳卒中様発作の重症度および頻度を有意に低下することが判明した.MELASに対するL-アルギニン療法は,発作急性期の静注による特効薬的効果のみでなく,発作間歇期の予防的内服薬剤としても期待される.

MELASにおけるA3243G変異とtRNA修飾異常

著者: 桐野陽平 ,   鈴木勉

ページ範囲:P.89 - P.95

1. ミトコンドリア病におけるtRNA研究の必要性

 ミトコンドリア病においてtRNA分子の研究が必要とされるようになったのは,数多くの症例でミトコンドリアDNA(mtDNA)上にコードされるtRNA遺伝子の変異が見出されたからである.これらの変異はMITOMAP(http://www.mitomap.org/)で一覧できるが,現在までに約100箇所のtRNA遺伝子変異が,疾患に関連する変異として報告されている.これらの変異のなかには,外来細胞由来の核と患者由来のmtDNAを融合させた人工融合細胞(サイブリド)を用いた研究により,ミトコンドリアの呼吸活性や蛋白質合成の異常を引き起こす直接の原因であることが実験的に証明されているものも多い.しかし,tRNA遺伝子変異と疾患とのつながりが多く判明してくるのに反して,変異がどのようにtRNAの機能を阻害しミトコンドリア機能異常を引き起こすのか,その詳細な分子レベルでの機構は未解明であった.その大きな要因として,ミトコンドリアtRNAは細胞内に非常に微量しか存在せず(細胞質のtRNAの100~1,000分の1),変異をもつtRNAの構造・機能の解析が技術的に困難であることが挙げられる.

 tRNAは,mRNA上の遺伝暗号をもとに蛋白質を合成するという翻訳反応過程に必須の機能性RNA分子である.tRNAは対応するアミノ酸をその3′末端に結合し,リボソーム上でmRNAのコドンをアンチコドンで認識して対合することで,mRNAの塩基配列どおりにアミノ酸を重合させる役割を担っている.tRNA分子は転写後に様々な修飾を受けることによって成熟し,初めてその機能が発現する.修飾塩基は高次構造の保持や,酵素・因子からの認識に必要であり,特にアンチコドンとその周辺の修飾塩基は遺伝暗号の解読を支配する重要な役割を演じている1~3).このように,tRNAが機能を果たすためには修飾という成熟過程を経なければならないため,ミトコンドリア病発症の分子機構に迫るにはtRNA遺伝子変異をただの塩基配列の変化としてのみとらえるのではなく,成熟過程を踏まえた総合的な異常を考慮する必要がある.したがって,実際の細胞内の成熟した変異tRNAの構造・機能の解析が不可欠である.

今月の表紙 臨床生理検査・画像検査・13

腎のびまん性変化の超音波像

著者: 谷口信行

ページ範囲:P.4 - P.5

腎は,脂肪組織(脂肪被膜と呼ばれる)により囲まれる後腹膜の実質臓器で,さらにその周囲は前後のGerota被膜と呼ばれる線維性被膜に挟まれる(図1).その超音波像は,中心の高エコーの部分とその周囲の実質に当たる低エコーの部分に分けられる.実質エコーはさらに皮質部分と,髄質部分に分けられるが,後者はその解剖学な形態から錐体部とも呼ばれている.描出条件の良い例を拡大して腎の細部を観察すると,髄質部の乳頭から腎盂に近い髄質内帯部は低エコーであるが,皮質に近い髄質外帯部の輝度はあまり低くない(図2).超音波検査で描出される低エコー部は,造影CTで描出される錐体の大きさに比べて小さく観察される理由は,このためと考えられる.また,錐体の低エコー内に,尿細管の走行に沿った縦方向の線状エコーが観察される.

コーヒーブレイク

継続と断念

著者: 屋形稔

ページ範囲:P.44 - P.44

 健康法も色々あるが,手近なのにラジオ体操がある.この効果は目立たないが決して小さくない.1928年に昭和天皇の即位を記念して始められたというから,私にとって一生の伴侶となった.テレビ普及前にも近くの広場や小学校校庭に集まってやっていたのも懐かしい風景である.

 それにしてもテレビで見る指導女性達はすべて一時代前の日本女性に見られなかった伸びやかで均整のとれた姿態である.生活変化もあり街中で見る女性達もなべてグラマーとなり男性もいわゆる裕次郎型体型が普通になった.そんなことを考えながらゴルフや信濃川畔の速歩とともにラジオ体操を継続している.お蔭で心身ともに健やかである.

トピックス

腎性尿崩症

著者: 五十嵐隆

ページ範囲:P.97 - P.99

1.はじめに

 腎は必要に応じて尿を濃縮する.腎における尿濃縮の機序が障害された結果,血漿浸透圧よりも低い浸透圧の尿を大量に排泄する状態を腎性尿崩症という.尿の濃縮には,Henleのループ上行脚でのNa,Clの再吸収(対向流増幅系),髄質部の血漿流量や尿素のリサイクリング,バソプレッシン(AVP)の脳下垂体後葉からの分泌と集合管での水チャンネル動員などの機序が関与している.すなわち,髄質の浸透圧濃度を高めることとAVPによる集合管での水チャネルの作動の2つの条件が必要である.特にAVPは尿濃縮の律速因子として最も重要である.

資料

低酸素脳症の経過観察において超徐波および中心頭頂部優位の律動性δ波を呈した一例

著者: 原まどか ,   大熊相子 ,   北野俊雄

ページ範囲:P.101 - P.107

〔SUMMARY〕 窒息後の低酸素脳症において,一過性の超徐波および中心頭頂部優位の律動性δ波が認められた.超徐波は,後頭部優位の広汎な皮質~髄質障害によりもたらされた波と考えられる.中心頭頂部優位の律動性δ波は,波形や出現様式からFIRDAに類似する遠隔波の一種と考えられ,大脳基底核障害の二次的変化により出現したと考えられる.病後期には,前頭部に強く生じた脳萎縮によりもたらされたと考えられる高振幅δ波が認められた.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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