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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査49巻11号

2005年11月発行

雑誌目次

今月の主題 肝臓癌の臨床検査 巻頭言

肝臓癌早期診断のために

著者: 小俣政男

ページ範囲:P.1175 - P.1176

B型肝炎,C型肝炎の新規感染患者は激減した.しかしながら,慢性の感染症によって惹起される肝癌の死亡に関しては,いまだ上昇を続けている.最近の肝癌死亡者数は,34,000人と報告された.現在は8割がC型肝炎,一方B型肝炎は1割となり,この肝癌死亡の主たる原因は肝炎ウイルス感染症,中でもC型肝炎によるものが相対的に増えていることが判明している.C型肝炎の感染から発癌までは30~40年,時には60年を経て癌が発生する.したがって,この肝癌への道のり,すなわち自然史が明確にされた現在において,癌発生を予防,治療し,更には再発を抑止する肝細胞癌のPrimary,Secondary,Tertiary Preventionがそれぞれの段階においてより効率的に行われることが求められ,またその努力がなされてきた.

 今回の特集は,このPrimary Preventionを視野に入れた特集号であり,肝癌の早期診断をいかに行うか,という点において,それぞれの領域のエキスパートにご担当いただいた.

総説

肝臓癌発生の疫学

著者: 田島和雄

ページ範囲:P.1177 - P.1183

〔SUMMARY〕 癌の要因として感染症が注目されるようになったが,なかでも腫瘍ウイルスは多くの臓器で発癌の主役をなしており,特に,肝臓癌の原因となる肝炎ウイルス(HBV,HCV)は疫学的にも予防対策の対象として最も重要である.日本の肝臓癌は過去20~30年の間に急増し,最近ではウイルス感染の予防対策が効を奏し,罹患率も減少傾向を示してきた.しかしながら,日本の肝臓癌はHCV感染が主原因で今後も多くの肝臓癌の犠牲者が出てくるので,慢性肝炎から線維化による肝硬変に移行していく過程を抑制する抗ウイルス剤を中心とした効果的な治療が重要になってきた.さらに,肝臓癌の進展過程を早期に発見し,早期に効果的治療を施す二次予防対策にも期待できる.〔臨床検査 49:1177-1183,2005〕

肝細胞癌原因の推移

著者: 黒松亮子 ,   高田晃男 ,   佐田通夫

ページ範囲:P.1185 - P.1191

〔SUMMARY〕 わが国における肝細胞癌(肝癌)の主な原因は,B型とC型肝炎ウイルス感染であり,全体の90%を占めている.これまでの推移をみると,HBs抗原陽性例は,1970年代には全体の30%台を占めていたが,2000年以降には,10~15%に低下している.一方,HCV抗体陽性例は,1990年以降,全体の70~80%を占め,いまだに低下は認められない.HBs抗原もHCV抗体も検出されない,いわゆる非B非Cの肝癌症例の占める割合は徐々に高くなっている.非B非C肝癌の原因として,B型肝炎ウイルスの潜在感染,アルコール性肝障害に起因する肝癌の他に,最近では,NASHとの関連が注目されている.〔臨床検査 49:1185-1191,2005〕

肝臓癌画像診断の進歩

著者: 上嶋一臣 ,   工藤正俊

ページ範囲:P.1193 - P.1199

〔SUMMARY〕 肝の画像診断においては,ソフトウェア,ハードウェア面の技術革新と,細胞機能性造影剤の開発により,存在診断のみならず質的診断,特に分化度といった従来は病理学的にしか診断しえなかった病態を診断することが可能となってきた.これにより慢性肝疾患を背景に発生する肝細胞癌患者において,肝予備能を考慮したきめ細やかな治療戦略を立てることが可能になった.また治療効果もより厳密に判定することが可能となり,追加治療の是非も容易に判断可能となった.〔臨床検査 49:1193-1199,2005〕

各論

肝臓癌診断へのアプローチ

著者: 小林功幸 ,   坂口孝作 ,   中村進一郎 ,   田中弘教 ,   白鳥康史

ページ範囲:P.1201 - P.1205

〔SUMMARY〕 わが国の肝細胞癌はB型肝炎ウイルス・C型肝炎ウイルス感染を成因として発症するため,肝癌の早期発見のためには,肝癌の高危険群の設定と綿密なスクリーニングが重要である.本稿ではウイルス別高危険群の設定および実際のスクリーニングから確定診断に至るまでに必要な腫瘍マーカーの測定と画像診断のアプローチの方法について概説する.〔臨床検査 49:1201-1205,2005〕

肝臓癌高危険度群の設定

著者: 吉田晴彦 ,   建石良介 ,   小俣政男

ページ範囲:P.1207 - P.1210

〔SUMMARY〕 わが国では毎年3万人以上が肝臓癌(肝細胞癌)を発症しているが,その約8割はHCV陽性,1割がHBV陽性である.したがって,HCVおよびHBV感染を調べることによって,肝臓癌の9割を囲い込むことができる.C型肝臓癌患者の約8割はF3以上の肝線維化を示し,血小板数は13万以下である.血小板減少を示すHCV感染者は前向き調査でも非常に高い発癌率を示しており,肝臓癌の超高危険度群と呼ぶべきである.〔臨床検査 49:1207-1210,2005〕

肝臓癌の腫瘍マーカー―1.AFPとL3分画

著者: 青柳豊

ページ範囲:P.1211 - P.1217

〔SUMMARY〕 肝癌早期診断を目的にアルファフェトプロテイン(AFP)は広く計測されており,その陽性率は60%を越えている.しかしながら,軽微な上昇は肝硬変などにおいても認められ,その特異性に問題を有していた.この問題を解決する目的でL3分画の測定が用いられており,特異性向上に寄与している.この目的以外にもL3分画は肝癌の生物学的悪性度の指標として,肝癌の予後推定因子としての意義が明らかにされている.〔臨床検査 49:1211-1217,2005〕

肝臓癌の腫瘍マーカー―2.PIVKA-Ⅱ

著者: 藤山重俊

ページ範囲:P.1219 - P.1224

〔SUMMARY〕 PIVKA-Ⅱ(protein induced by vitamin K absence or antagonist-II)はdes-γ-carboxy prothrombin(DCP)とも呼ばれている肝細胞癌に高い特異性を有する優れた腫瘍マーカーであり,AFPやAFP-L3分画と相関がなく互いに相補的な関係にある.B・C型慢性肝炎や肝硬変などの肝細胞癌高度危険群のフォローアップに際しPIVKA-Ⅱの定期的な測定は肝細胞癌の早期診断につながる.また,肝細胞癌の生物学的悪性度の指標,門脈浸潤・予後予測,治療法選択上も有用で,さらに画像診断に加えてPIVKA-Ⅱや他の腫瘍マーカーの推移をみることによって,治療効果の判定がより的確になるとともに,他の検査所見に先駆けて上昇することもあるため再発のよい指標となる.〔臨床検査 49:1219-1224,2005〕

肝臓癌治療成績と腫瘍マーカーの推移―1.内科的治療

著者: 建石良介 ,   椎名秀一朗 ,   寺谷卓馬 ,   中川勇人 ,   赤松雅敏 ,   吉田英雄 ,   山敷宜代 ,   峯規雄 ,   近藤祐嗣 ,   今村潤 ,   増崎亮太 ,   吉田晴彦 ,   小俣政男

ページ範囲:P.1225 - P.1230

〔SUMMARY〕 肝細胞癌患者の多くが,肝硬変を合併しているため,肝機能を温存しながら同時に局所根治性も期待できる経皮的局所療法が,わが国で開発され発展してきた.3cm以下3個以下という条件に限れば,切除に匹敵する生存率が報告されている.肝細胞癌の腫瘍マーカーとしてAFP,AFP-L3,PIVKA-IIの3種が測定可能であるが,その中でもAFP-L3は,局所療法後の画像で描出されない遺残癌の検出に威力を発揮した.3種の腫瘍マーカーいずれもが,腫瘍径や腫瘍数といった癌の進行度とは独立した予後因子であった.特にPIVKA-IIは,門脈腫瘍浸潤を予測するという独自の性質をもっていた.〔臨床検査 49:1225-1230,2005〕

肝臓癌治療成績と腫瘍マーカーの推移―2.外科的治療

著者: 久保正二 ,   田中宏 ,   竹村茂一 ,   山本訓史 ,   裴正寛 ,   市川剛 ,   新川寛二 ,   高台真太郎

ページ範囲:P.1231 - P.1234

〔SUMMARY〕 肝細胞癌(肝癌)切除例における腫瘍マーカーと肝癌再発の関係について検討した.術前腫瘍マーカーが陽性であった症例のうち78%が術後陰性化した.腫瘍マーカーが術後陰性化しなかった症例では術後早期に肝癌再発がみられた.多くの症例で再発時における陽性腫瘍マーカーは術前陽性腫瘍マーカーと一致していたが,異なる症例や再発時腫瘍マーカー陰性例もみられた.術後遠隔転移例はPIVKA-II陽性例に多かった.〔臨床検査 49:1231-1234,2005〕

話題

造影超音波による肝臓癌診断

著者: 山田昌彦 ,   飯島尋子 ,   森安史典

ページ範囲:P.1235 - P.1239

1.はじめに

 肝腫瘍のスクリーニングには超音波検査のBモード診断が大変重要であることはいうまでもないが,近年,造影超音波検査は診断や治療への応用に対して大きく発展,進歩している.造影剤を用いる超音波検査は,1980年代に始まったCO2動注による方法により1)急速に発展した.

 1999年9月から経静脈的造影剤であるレボビストが使用できるようになった.これにより,外来でも造影超音波検査ができるようになり,肝腫瘍の診断と治療に大きく寄与するようになった.

 本稿では肝臓における腫瘍性病変のレボビスト造影超音波検査の有用性と鑑別診断について概説する.

Realtime Virtual Sonography(RVS)―RVSとは? 何の役に立つのか? その本質とは?

著者: 岩崎隆雄 ,   下瀬川徹

ページ範囲:P.1241 - P.1245

1.はじめに

 超音波検査の長所は,①プローブを当てさえすれば画像が出てくるリアルタイム性と簡便性,②無被曝,③装置がコンパクトで移動可能,経済的,などである.このような特性を生かして,肝癌に対するラジオ波焼灼療法(Radiofrequency ablation;RFA)1)のような経皮的低侵襲治療の多くは超音波ガイド下に施行されている.しかし,超音波検査はCTやMRIに較べて客観性において劣っているというという批判も常に存在する.われわれは,超音波のリアルタイム性を損なうことなく超音波検査の客観性を確保しうる,理想的な画像診断装置Realtime Virtual Sonography(RVS)システムを世界で初めて開発した.

今月の表紙 染色体検査・5

羊水染色体検査

著者: 三好彦雄

ページ範囲:P.1172 - P.1174

羊水染色体検査は出生前の胎芽期や胎児期の胎児由来細胞を妊婦から経腹壁的に採取し,細胞形態学的な手法によって染色体レベルの異常を検出する技術である.

 すなわち,染色体異常の有無を検査で知ることにより周産期や出生後の処置にあらかじめ備えるといった目的のための検査である.今回,妊娠後半における羊水染色体検査について,当施設にて経験した一症例をもとにその検査技術手法を中心に紹介する.

コーヒーブレイク

先達の横顔(その2)

著者: 屋形稔

ページ範囲:P.1200 - P.1200

 元札幌医科大助教授の佐々木禎一さんは一口でいうと斯界の快男児である.アルコールは全然駄目であるが宴会ではジュースなどで人の3倍位アルコールを飲んだような顔でよく駄弁り人をケムにまいていた.つき合いの始まった頃,札幌の会合で付近のスキー場に連れて行かれ,われわれを尻目にスキーを履いたままで空中回転を何度もしてみせた.聞けば札幌のジャンプ場の花形で,三浦雄一郎氏などと昔から親交があったらしい.

 臨床化学会の重鎮でもあったが身の軽いことも驚くべきで,頻繁に私達のあまり名も知らない国々に出かけ,臨床検査の交流と普及を心がけていた.定年真近に小樽市で開いた臨床化学会総会には肴と酒で,そして石原裕次郎の小樽を満喫させてくれた.

病気とうまくつき合うこと

著者: 寺田秀夫

ページ範囲:P.1218 - P.1218

 今年もそろそろ年賀状の準備にとりかかる時期になった.私は毎年患者さんやその家族から沢山の年賀状をいただき非常に有難いことと思っている.

 特に自分の最愛の夫や妻を亡くされた配偶者の方,また血液のガンで御子息を大学生時代に亡くされた御両親などから毎年変らずお葉書をいただくと本当にうれしく,医者冥利につきる思いである.

シリーズ最新医学講座 臨床現場における薬毒物検査の実際・9

データーの整理・報告書など分析終了後のポイント

著者: 宮城博幸 ,   牧野博 ,   吉澤美枝 ,   司茂幸英 ,   江上照夫 ,   梶原正弘 ,   大西宏明 ,   渡邊卓

ページ範囲:P.1247 - P.1255

はじめに

 薬毒物検査の分析レベルは大きく分類して3つ存在する.搬送時にトライエージや各種キットを用いて簡易的に施行するスクリーニング検査,次にこのスクリーニング検査の結果を受けて薬物を特定する定性検査(例えばトライエージでBAR陽性を示した検体について,どのバルビタール酸なのかを特定する場合),最後にその薬物の濃度を明らかにする定量検査(前述の検体でフェノバルビタールと同定後,この薬物の血中濃度が25μg/mlであるというような数字データーまで求められる場合)である.例えば,当院3次救急外来に急性薬物中毒(誤用,乱用を含む)疑いで搬送されてくる症例を例にとって示す(表1).3次救急患者全体の約10%,年間200件前後の症例が薬物中毒疑いである.その症例のほとんどに対して当院薬毒物分析室(以下分析室)では何らかの分析を行い,結果報告を行っている.図1に過去3年間のREMEDi-HSによる分析結果を示す.このグラフからわかるように,当院における中毒起因薬物のほとんどが抗うつ薬や抗精神病薬などの精神神経作用薬であり,中毒の原因も精神疾患や自殺を目的とした症例が多数を占めている.このような症例の多くは,初期治療として胃洗浄・腸洗浄・活性炭投与などを行い,意識レベルの低下を認めなければ,多くの場合翌日には救命センターから退出あるいは退院することになる.また,服薬情報も本人(あるいは家族)から聴取されることが多いため,薬毒物分析としてはスクリーニング検査のみで済むケースが多く,特に起因薬物の同定検査を必要としない症例が全体の70%を占めている.一方,原因不明の意識障害や説明のつかない代謝異常,酸塩基平衡障害などの症例では迅速な中毒起因薬物の同定が必要になる.また,血中濃度により,治療方針が変わるアセトアミノフェンなどの場合は可能な限り定量検査まで施行する必要がある.

 今回は,この3つの分析レベルの解釈のポイントと,結果を報告する際の注意点,データー整理のポイントなどについて,述べてみたいと思う.

編集者への手紙

EA50結合組織染色法―改良法

著者: 佐々木政臣

ページ範囲:P.1256 - P.1257

1.はじめに

 EA50を用いた結合組織染色法は1994年筆者らが開発した染色法1)であるが,エオシンの色調が薄く,ライトグリーンが強く染まり過ぎることがある.今回,EA50液にピュアエオシン液を加えることで両者のコントラストが良好になったので報告する.

トピックス

ISO規格による認定臨床検査室の認定シンボル

著者: 河合忠

ページ範囲:P.1258 - P.1258

2005年8月から,いよいよJCCLS/JAB臨床検査室認定プログラムが正式にスタートし,9月5日に初めて5つの臨床検査室が認定された.ISO適合性認定制度の枠の中では,認定された施設は認定機関のロゴマークを様々な形で使用することができる.それによって,ISO国際規格の要求事項を満たしていることが主治医や患者等の関係者が容易に識別することができ,それだけ対外的に信頼性をアピールすることができる仕組みとなっている.

 今回ISO15189に基づいて認定された5つの臨床検査室および今後認定された臨床検査室については,(財)日本適合性認定協会(JAB)の認定シンボル(図1)を検査報告書または一部の広告媒体に明記することができる.認定シンボルの使用については原則として任意であって,認定された臨床検査室の意向に委ねられているが,認定シンボルの使用は,認定された範囲内の部署名で,認定範囲に含まれている検査項目に限って使用が許されている.認定シンボルの使用権は下請負業者(外注先または“ブンランチ・ラボ”)にはなく,もちろん非認定の機関または申請中の機関は認定シンボルを使用できない.図1の認定シンボルの使用に当たっては,認定臨床検査室がJABと使用に関する契約を締結する必要があり,締結後はJAB登録リストに掲載される.様々な細かい規定があるので,JAB NL410-2005(改3:2005年08月19日)「認定シンボル使用等に関する規定(試験所等用)」(www.jab.or.jpからダウンロード可能)を参照する.ここでいう「試験所等」には,試験所(testing laboratory),校正機関(calibration laboratory)および臨床検査室(medical/clinical laboratory)が含まれる.

外リンパ瘻の診断マーカーとしてのCochlin-Tomoprotein(CTP)

著者: 池園哲郎

ページ範囲:P.1259 - P.1263

1.外リンパ瘻とは

 「外リンパ瘻」は耳鼻咽喉科診療以外ではあまり知られていない病名で難聴,耳鳴り,めまい,平衡障害など様々な症状を呈する疾患である1).外リンパ瘻は外傷性難聴,内耳梅毒,ウイルス(ムンプスやVZV)性難聴,薬剤性難聴などと同様に発症原因に基づく診断名である.内耳疾患の病名で一般的によく知られているのは,突発性難聴,メニエール病などであるが,これらは症候学的診断名であり,特発性であることがその診断基準に明記されている.これらの症例の中に外リンパ瘻が少なからず含まれていることが以前より指摘されており本稿で述べるCTP検出法が確定診断に役立つことが期待されている.

 内・外リンパは内耳の中を満たす液体で,それぞれ内リンパ腔(図1の赤い部分),外リンパ腔(図1の青い部分)に存在する.音波は空気の振動としてリンパへ伝わり蝸牛有毛細胞を刺激し音として知覚される.またリンパの流動は半規管を刺激し平衡機能を司っている.つまり内耳のリンパは,聴覚・平衡機能を司るために決定的に重要な働きをしている.外リンパ瘻は,外リンパが内耳から中耳へ漏出することによって,内耳の生理機能が傷害される疾患である.漏出部位は,前庭窓,蝸牛窓と呼ばれる内耳窓や内耳のmicro-fissureなどである.

学会だより 日本臨床検査自動化学会第37回大会

臨床支援としてのデータマイニングと検査機器の流れ

著者: 武田悟

ページ範囲:P.1265 - P.1265

9月28日(水)から30日(金)にかけ横浜のパシフィコ横浜において,杉浦哲朗先生を大会長とし「先端医療を支える臨床検査―さらなる自動化への取り組み」をテーマに第37回の日本臨床検査自動化学会第37回大会が開催された.

 私自身は28日の技術セミナーには参加できませんでしたが29日の一般演題から参加させてもらいました.本学会では最先端の検査情報や検査機器・試薬を知ることができとても楽しみな学会でもあります.また,いつもながら一般演題をはじめ特別講演やシンポジウム,技術セミナー,サテライトセミナーなど充実した内容に主催者の精力的な運営が垣間見え感心させられました.

臨床検査分野におけるデータマイニング技術の現状について

著者: 星野忠

ページ範囲:P.1266 - P.1267

日本臨床検査自動化学会第37回大会が,9月28日(水)~30日(金)の3日間,パシフィコ横浜を会場として開かれました.大会長は杉浦哲朗教授(高知大学)で「先端医療を支える臨床検査―さらなる自動化への取り組み」をテーマに1,854名の参加者を迎え,連日熱心な討論が繰り広げられました.機器・試薬展示は例年通り,会場に隣接した展示ホールを使い日本臨床検査医学会との合同開催で行われました.出展は91社,入場者は7,043名(昨年は6,800名)とメーカーとユーザーとの情報交換の場として活況を呈していたようです.

 今回私は,4つ企画されましたシンポジウムの中でシンポジウムⅣの「自動化検査部門におけるデータマイニング技術の活用」に参加しましたのでその内容について紹介します.私がデータマイニングという用語を知りましたのは2~3年位前で,おそらく多くの読者の方もその言葉の意味をご存じの方はまだ少ないのではないかと思われます.最初は,本シンポジウムの座長も務められました岡田正彦先生(新潟大学)から「データマイニングの手法」についてお話を伺いました.データマイニングとは,一般には膨大なデータからルールやパターンを抽出し,その中から有用な知識を発見する行為を意味することをいうそうですが,実は明確な定義がないことが特徴の一つでもあるとのことでした.具体例として米国のビジネス界のお話と岡田先生が開発された「相関重みつきエントロピー法」の研究事例が紹介されました.2題目は市原清志先生(山口大学)から「情報の可視化がもたらすマイニング効果」について,市原先生が開発された汎用統計ソフトStatFlexの機能について具体例をスライド上で実際に動かして示されました.また,データマイニングを行うに当たっては情報の可視化とその技術の開発が重要であると強調されました.3題目は岡田先生といっしょに座長を務められました片岡浩巳先生(高知大学検査部)から「蛋白電気泳動波形と血球粒度を対象としたデータマイニング技術の活用」について,実際の臨床検査の応用事例として血清蛋白分画泳動波形や白血球粒度の多次元データを対象として示されました.この中で,高速類似検索システムを用いることで膨大なデータの中から迅速にルールやパターンを抽出しそれらの関連性を体系化できることを示され,今後の臨床検査の病態解析研究に欠かせないツールとして利用される可能性について述べられました.4題目は,稲田政則先生(虎の門病院検査部)から「QC Chart Mining」について実践的に精度保証に適用した事例が紹介されました.QC Chart Miningとは,「管理試料の時系列観測データから特徴的なパターンを抽出し,長期的かつ技術評価の観点で,工程異常の発見と問題解析を行う行動」と定義され,内部精度管理データを対象とした解析例が示されました.このシンポジウムの最後は,横井英人先生(香川大学)から「データマイニング研究の最前線・アクティブマイニング」について文部科学省の特定領域研究「情報洪水時代におけるアクティブマイニングの実現」プロジェクト(2001~2005)の研究成果についてお話を伺いました.本研究は肝疾患患者を対象とした医療情報を用い,理・工学分野の研究者がデータマイニング実施したものであり,医学領域についての知識を補完することに非常に苦労された実例を示されました.また,研究中困難であった問題として,検査データに関しては約20年間に渡るデータを用いたため,検査機器,試薬変更時のデータの換算,統合について触れられ,今後このような研究を行うにあたって重要なことはデータベースの設計や後処理を念頭に置いた情報の保存に十分留意する必要があるなど幾つかの課題が述べられました.最後の全体討論からは,本日示されたデータマイニング技術を臨床検査分野に取り入れることにより,データベースに蓄積された膨大なデータをもっと有効に活用することで,今後よりアクティブな診療支援を行える可能性を感じることが出来ました.いずれ本誌においても「データマイニング」の特集が組まれるようですので,そこで改めて勉強してみようと思っています.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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