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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査49巻12号

2005年11月発行

雑誌目次

特集 臨床検査のための情報処理技術の進歩

序文 臨床検査のための情報処理技術の進歩

著者: 市原清志

ページ範囲:P.1279 - P.1280

 近年の急速な技術革新により,臨床検査の世界は瞬く間に大きく様変わりした.すでに自動化が進んでいた基本的な化学検査に加え,凝固検査や免疫血清検査や超微量分析法であるイムノアッセイまでもが全自動化されるようになった.また単に自動化の範囲が拡がっただけではなく,測定装置や測定系の改良により高感度化・高精度化が進み,より低い濃度をより微量な検体量で,しかもより迅速に測定可能となった.さらには検体搬送システムの急速な普及で,自動分析装置間で検体がベルトに乗って流れるようになり,検査業務に必要な人員数は明瞭に減少した.この省力化は,検体前処理システムの導入により,血清の遠心分離や試料分注といった領域にも及ぶようになった.このような,めまぐるしい進歩が瞬く間に起こった背景に,情報技術(information technology;IT)の進歩があったことは言うまでもない.確かに,産業革命以来,技術革新は恒常的に起こっているとはいえ,ひと昔前の技術進化は5年や10年単位であったものが,いまや過去10年のそれが1年や2年単位にスピードアップしている.これはまさにコンピュータのハード・ソフト両面での革命的な進化の賜である.またインターネットを介して世界規模でリアルタイムに情報を共有できるようになったことも,予想外に速い技術革新や情報活用の気運を高めている.

 このような大きな時代の流れから,臨床検査室における検査技師の役割も大きく変遷しつつあり,今求められているのは,①検査だけではなく,臨床の現場をよく知りチーム医療の一員として活躍できる能力,②検査診断学に精通し,それをもって臨床支援できる能力,③高度にシステム化された検査室の情報を的確に制御し,その情報資源を有効に活用できる能力などである.このうち,③の能力は,臨床検査室の現場で強く求められながら,その人材は極めて乏しく,臨床検査分野における情報技術の現状と将来を見据えた対応策が必要と考えられる.

1章 臨床検査の技術的評価の考え方と統計処理法

1. トレーサビリティと不確かさの概念

著者: 細萱茂実 ,   尾崎由基男

ページ範囲:P.1283 - P.1288

はじめに

 測定による値の付与は,測定の対象に対する測定体系が確立されている場合に整合性をもって論じることができる.ここで言う測定体系とは,一般の計測または計量の分野のトレーサビリティ連鎖に対応する.この逆の流れを校正の階層段階と言い,測定の対象である特定の量すなわち測定量に関する基準測定操作法と標準物質で構成され,上位の標準から測定量の値が伝達され,また,その不確かさが受け継がれる.この階層の中で,ある水準における測定の結果の信頼性は不確かさによって定量的に表現される.

 不確かさの解析は国際標準化機構(ISO)が中心となり,編集した国際文書「計測の不確かさ表現に関するガイド(GUM)」1)に基本的に従う.この新しい概念は法定計量や応用物理など計測に関係する多くの国際組織で用いられ,分析化学の分野でも分析値に不確かさを併記して値の信頼性を示すことが国際ルールとなりつつある.

 ここではトレーサビリティ連鎖と不確かさに関する基本的な考え方,日常検査値の不確かさ,標準物質の認証値や管理物質の表示値の不確かさ,また,分析法の校正(キャリブレーション)の不確かさなど,臨床検査に関連する不確かさ評価法を中心に述べる.

2. 一要因分散分析と精密度の正しい推定法

著者: 細萱茂実 ,   尾崎由基男

ページ範囲:P.1289 - P.1292

はじめに

 臨床検査値は病態による変動以外に,生理的変動や技術的変動など様々な要因で変化する.検査値の変動に影響を与える要因の存在を確認し,また,影響の程度を知ることは重要である.それらの現象を正しく解析するためには適切な調査や実験で得たデータに,適正な統計解析を施すことが必要である.その際に有効な手法が,観測や実験に伴う誤差を上手に管理し,効果的・効率的に実験を計画する実験計画法であり,また,それらデータを解析する分散分析法である.ここでは分散分析の最も基本となる一要因分散分析について概説し,本法による測定法の精密度推定への適用について述べる.

3. 枝分かれ分散分析による変動成分解析

著者: 山田輝雄 ,   岩崎学 ,   加野象次郎

ページ範囲:P.1293 - P.1296

はじめに

 実験精度を統計的方法で評価する場合,実験の反復(replication)が重要なことは,実験計画法の創始者R.A. Fisherの3原則の中で述べられている(図1)1).さらに,処理(treatment)の中に含まれる系統的変動を偶然変動に転化するための無作為化(randomization)も必須の条件となる.反復と全実験の無作為化を満足する実験配置を完全無作為化法(completely randomized design)と言うが,多数処理の反復実験を完全無作為化することは,現実的には極めて困難なことが多い.このような場合には無作為化をいくつかの段階に分けて行う分割実験(split-plot design)が利用される.

 分割実験のうち,対応のない変量因子を2つ以上取り上げ,実験順序を木の枝分かれのような形状で決める配置を枝分かれ実験(nested design)と言う1~3).枝分かれ実験の分散分析(analysis of variance;ANOVA)は,計測界における「不確かさ」の概念4)が臨床検査領域を含め5,6),広く一般化されつつある中で,統計的不確かさ(Aタイプ)の推定法の1つとして,最近注目されるようになってきている.

4. 重回帰分析による臨床検査の変動要因の解析法

著者: 市原清志

ページ範囲:P.1297 - P.1306

調査研究における要因分析上の偏り:交絡と交互作用

 臨床検査の測定意義を評価する場合,測定値がどのような要因で変動するかを調べる必要がある.変動要因が年齢,性別,体型,飲酒,喫煙などの個人の身体・生活習慣特性である場合,一群の健常者について注目する特性値と当該検査値とをセットで集め,どれがその検査値の変動に関係しているかを調べる(生理的変動要因の解析).また,変動要因がある病態の程度を表す計測値,例えば血圧,肥満度,HbA1c(糖尿病),クレアチニン(腎機能),中性脂肪(高脂血症)との関係をみる場合,目的とする病態を持った一群の患者を集め,患者の特性値(年齢,性別などの個体特性と病態検査値)と当該検査値をセットで記録し,どの要因(特性値)がその検査値の変動に関係しているかを調べる(病態変動要因の解析).これらの解析は,研究デザイン的には,横断的な調査研究に相当する.調査研究では,常に変動要因間に明瞭な相互関連があることが多く,目的とする検査値と個々の特性値との関係を個別に比較しても無意味である.これは,個別分析では特性値の相互関連を考慮できないためで,分析上の偏りが生じ,無意味な結論を導く可能性が高くなる.その偏りは,統計学的には,大きく交絡と交互作用に分類される.以下に2つの偏りの典型的なパターンを例示する.

 図1は免疫グロブリンG(IgG)の値が喫煙や性別でどう変わるかを調べた調査研究である(データは表1を参照).図左からは喫煙群ではIgGは明瞭に低く,かつ図右から男性は女性に比し値が低いことが示されている.しかし,喫煙者には男性が多く,図1では性差に左右され,IgGと喫煙との直接的な関連性を読めない.それを明確にするにはデータの層別化が必要である.図2は男女別に喫煙とIgGの関係をみたものだが,男性だけでみても(左の2つの分布図),また,女性だけでみても(右の2つの分布図),喫煙者ではIgGが低値であることがわかる.これに対して,喫煙者だけ(1,3列目の分布図),または非喫煙者だけ(2,4列目の分布図)に限って男女のIgG値を比較すると,いずれも差がないことがわかる.このことから,喫煙はIgGの低下と関連した要因と考えられるが,図1右で認めた性差は見かけ上のもので,男女で喫煙率が違っていたためと判断される.このような現象を交絡(confounding)と呼び,“IgGの男女差の分析において,喫煙習慣が交絡していた”と表現する.また,こうした偏りを生む裏の因子(この場合,喫煙習慣の有無)を交絡因子と呼んでいる.

5. 検出限界と定量限界の設定法

著者: 細萱茂実 ,   市原清志

ページ範囲:P.1307 - P.1313

はじめに

 内分泌機能検査,腫瘍マーカー,急性相反応蛋白などは分析法の最少検出能力が臨床的にも重要な意味を持つ.しかし,微量濃度域に関する分析性能の評価方法は必ずしも標準化された状況下にあるとは言い難く,現場では少なからぬ混乱がある.一方,国際標準化機構(ISO)は,測定方法の検出能力に関する国際規格(ISO 11843)を定めており1~4),日本工業規格(JIS)にもそれに準じた規格(JIS Z8462)が規定されている5~7).それらは広く一般的な化学分析を対象とした内容であり,臨床検査の領域にそのまま適用するには若干の問題がある.そこで,日本臨床化学会(JSCC)のクオリティマネジメント専門委員会では,ISO規格やNCCLS(米国臨床検査標準協議会,現在の名称はClinical and Laboratory Standards Institute, CLSIと変更されている)の検出限界・定量限界評価法(EP17-P)8)を基本として,臨床検査用の新たな指針設定を進めている9).これら定量分析法の検出限界・定量限界設定法に関する国際・国内規格の概要について整理し解説する.

6. 臨床検査の方法間比較法

著者: 市原清志

ページ範囲:P.1315 - P.1325

はじめに

 臨床検査の技術的評価において,検討している測定法と他の測定法(従来法や標準法)の間で値を比較することが多い.これを方法間比較(method comparison)と呼ぶが,その比較法には回帰直線と偏差図の2とおりの方法が用いられる.ここで,回帰直線には複数の求め方があり,その区別がわかりにくい.また,一部の臨床化学の雑誌では,特定の比較法の利用を要求するケースがあり,論文投稿に際して混乱が生じている.本稿では各回帰直線の求め方の違いと,状況に応じた使い分けを整理して述べるとともに,偏差図の使い方と解釈についても触れる.

2章 臨床検査の診断的有用性の評価法とEBLM

1. EBLMで要求される研究デザイン

著者: 石田博 ,   井上裕二

ページ範囲:P.1329 - P.1334

はじめに

 EBMが言われるようになって久しいが,検査の感度・特異度,尤度比,ROC曲線などの診断特性(diagnostic accuracy)の推定を目的とする診断検査領域の研究は治療効果などの研究に比べて方法論で大分後れを取っているのが現状である.すなわち,多数のシステマティックレビュー(SR)において一次研究の質の低さが指摘されており,現時点でSRを行うことは時間の浪費とさえ言われる状況にある.しかし,診断検査は臨床診断を行うための重要な情報で診療現場にとって欠かせないものである一方で,その多くが明確なエビデンスなしに活用されている現状から,その研究論文の質の向上は急務である.

 以下では,特に診断特性についてのエビデンスの質を低下させるバイアスとその影響など研究デザインにおいて考慮すべき点,および臨床で活用できる明確な研究報告とするためのチェック項目について解説する.

2. 検査の有用性の指標とROC分析

著者: 久繁哲徳

ページ範囲:P.1335 - P.1340

EBLM

 現代の医療にとって,検査は病気の早期発見から診断,経過観察,さらに治療判定まで欠くことができない1~3).と言うのも,検査により不確実な医療判断を減らすことができるからである.しかし,日常利用されている検査は,果たして患者に害でなく利益をもたらしているのであろうか? 特に医療費の高騰に伴い,有害無益な医療,不適切な医療の利用に対しては,厳しい批判が寄せられている.

 検査の適切な利用は古くて新しい問題であり,いまだに解決をみていない.“根拠に基づく検査医学”(evidence-based laboratory medicine;EBLM)は,この問題に対する新たな対応である.EBLHは最新で最善の根拠を把握し,正確な検査の適切な利用を支援する4).その鍵は患者の利益となる検査の選択と利用にある.

3. 多重ロジスティック分析による診断的有用性の評価法

著者: 市原清志

ページ範囲:P.1341 - P.1353

臨床検査の診断的有用性の評価と患者対照型研究

 1. 患者対照型研究

 臨床検査の究極の目的は,その測定値から特定の病態の有無を診断することにある.したがって,検査の臨床的有用性を評価するには,その診断能を評価する必要がある.このためには,検査で診断しようとする病態を有する個体群(疾患群)を明確な規準で選別し,同時に,その病態を疑ったが,そうではなかった個体群(非疾患群注1))を集めて,2群がどの程度的確に分別できるかを調査する必要がある.この種の調査研究のデザインを広義に患者対照型研究注2)と呼ぶ.

 注1) 実際に検査が利用される状況が,検診など健常者を対象として広く行う場合には,健常群を非疾患群とすることができる.一方,検査の適用が病気を疑った対象に限定される場合には,検査を行ったが,その病態を否定された群を非疾患群とし,現実に見合った検査の診断能を求めることが要求される.

4. メタ・アナリシス:サマリーROC曲線

著者: 石田博 ,   井上裕二

ページ範囲:P.1355 - P.1361

はじめに

 診断検査では,その診断特性の優劣を示す指標として感度・特異度,尤度比,ROC曲線などが提示される.この診断特性を施設ごとに得ることは稀であり,その検査についての研究結果から得るのが一般的である.しかし,研究によって示される感度,特異度は程度の差はあれ,異なることが多い.そのため臨床の現場でEBMを実践するには,真の診断特性値はどのようなものか,また,診療の現場で活用するためにはどのような条件があるのかを知ることが重要である.メタ・アナリシスは過去の研究からもたらされた複数の結果を統計的な手法を使って定量的な統合値を求める解析手法であり,システマティックレビュー(systematic review)でサマリーを作成する重要なステップである.

5. 判断分析による臨床検査の情報価値の解析

著者: 井上裕二 ,   石田博

ページ範囲:P.1363 - P.1368

はじめに

 臨床検査の情報価値は検査結果が診療方針を左右する情報を提供するか,治療を開始するか否かを決断する判断材料になるかどうかで決まる.患者が病気を有すれば直ちに治療するし,なければ治療しない.病気を有するか否かが曖昧であれば,検査することで新たな診断情報を得て,病気の可能性が高ければ治療することになる.これは日常診療でしばしば直面する問題であり,診断を確定することよりも患者の病状が治療適応かどうかを判定することが優先される場合も多く,診断が不確定な状況では確率に基づいて診療方針を決めることになる(図1).

6. システマティックレビューの方法

著者: 三宅一徳

ページ範囲:P.1369 - P.1374

はじめに

 システマティックレビュー(systematic review,以下SR)は現存する妥当な臨床研究のデータをすべて系統的(システマティック,systematic)に収集し,その内容を吟味し,適切な研究データの成績を統合することで,1つの結論を得る手法である.適切に実施されたSRの結論は複数の研究の統合によってサンプル数が増加するため,単独の臨床研究より信頼性の高いエビデンスとなりうる1)

 SRの概念は1994年以降急速に普及し,コクラン共同計画2)がその中心となって数多くのSRが行われてきた.既存の臨床研究のSRには限界や問題点も指摘されている3)が,その基礎はいわゆるEBM(Evidence Based Medicine)4)と表裏一体であり,信頼性の高い疫学データを見いだし,効果的・効率的に利用しようというコンセプトは共通したものと言える.

 SRの進め方を図1に示した.この手順はいわゆるEBMのステップと類似する.しかし,日常診療の場で臨床研究データを活用しようというEBMに比べ,エビデンスの確立と公開を前提とするSRでは,より系統的(systematic)で,明確(explicit),かつ再現性が高い(reproducible)手順が求められ,最後にデータの統合というプロセスが加わる.

 以下ではステップごとにその実際と注意点を述べる.

3章 臨床検査情報の収集と管理法

1. 臨床検査情報システムのためのデータベース構築法

著者: 片岡浩巳

ページ範囲:P.1377 - P.1382

はじめに

 データベースは交通機関の予約システムやクレジットカードによる支払いシステムなどのように生活のあらゆる場面で利用されている.臨床検査領域でも自動分析装置をはじめ病院情報システムなどで利用され,必要不可欠な基幹システムとなっている.一般ユーザからみたデータベースは,システムのアプリケーションに組み込まれた特定の機能しか利用することができないが,その舞台裏では様々なデータベースの解析が行われ意思決定などの情報源として利用されている.例えば,コンビニエンスストアなどでは,全国のチェーン店の売り上げデータを収集し,大規模なデータベースを構築している.このデータベースを解析することにより,人気商品は何か,地域性は何か,季節性など,それぞれの関連性について集計処理し,経営の効率化や顧客のニーズを的確に捉えている.臨床検査情報システムでも同じようにデータベースの解析を行って臨床にエビデンスを積極的に提示すべきであるが,データベースが持つ多角的な検索機能を利用している施設は皆無に近い.これは業務用データベースが多角的な検索に耐える設計が行われていないことに加え,危険防止のためにユーザのアクセス権限を制限している実情のためである.もう1つの問題は,データベースへの問い合わせ言語に精通した技術者が職員に存在しないことも大きな要因と考えられる.

 本稿では,このような背景からデータベースの基本的な仕組みの理解を目標に,臨床検査情報システムの検査結果を焦点にしたデータベースの設計法について解説する.

2. 臨床検査情報活用に必要なSQL文の使い方

著者: 片岡浩巳

ページ範囲:P.1383 - P.1389

はじめに

 関係データベースは1970年にEdger, F. Codd博士によって考案された理論1)で,今,最も多くの分野で利用されている.この関係データベースは関係代数(relational algebra)と関係論理(relational logic)を基礎理論2,3)としており,21世紀になった現在でも揺るぎのない革新技術とされている.情報技術は目覚ましい発展を遂げているが,少なくとも今世紀中は主力として利用される技術であると考えられている.また,正しく設計されたデータベースを利用すると,論理的な質問であれば,どのような複雑な質問であっても解くことができる.データベースに対して質問を行うための言語としてSQL(Structured Query Language)4~6)がある.このSQLを自由に使いこなしてデータベースを探索する技術を習得すれば,複雑な件数集計や病態解析までも短時間に処理して結果を得ることが可能である.

 本稿では関係データベースの基礎理論である関係代数とSQLを対応させながら解説し,臨床検査情報システムを使った実践的な問い合わせの事例を示し,この分野の習得の重要性について述べる.

3. IHE(Integrating the Healthcare Enterprise)―臨床検査への展開

著者: 岡田裕善 ,   大江直樹

ページ範囲:P.1391 - P.1397

概 要

 1. IHEとは

 医療連携のための情報統合化プロジェクト(Integrating the Healthcare Enterprise;IHE)は1999年にアメリカで北米放射線学会(Radiological Society of North America;RSNA)と保健医療情報・管理システム協会(Healthcare Information and Management System Society;HIMSS)のもと発足した.その後,2001年に日本でもIHE-Japan(IHE-J)が発足し,そしてこのIHEプロジェクトはヨーロッパIHE-Europe(IHE-E)やアジア・オセアニアIHE-Asia・Oceania(IHE-AO)などに拡がっている.

 現在,IHE-Jには日本医療情報学会(JAMI),日本医学放射線学会(JRC),日本放射線技術学会(JSRT),日本画像医療システム工業会(JIRA),日本保健医療福祉情報システム工業会(JAHIS),医療情報システム開発センタ(MEDIS-DC)などが参加して医療機関における情報システムの連携を進めるプロジェクトとして活動している.

4. 臨床検査に関する倫理指針と個人情報保護

著者: 西堀眞弘

ページ範囲:P.1399 - P.1404

医の倫理

 医療には人が人を相手に行う行為であること,人の生死にかかわること,傷や苦痛を与えることが避けられないこと,予測できないことがあまりにも多いこと,進歩には人体実験が不可欠であることなどの特徴があるため,特別な倫理性が要求される.そこで,これまでに様々な倫理規範が作られており,成文化された医の倫理規範の例を表1に,それらのポイントを表2にまとめておく.臨床検査が医療の一環として行われる以上,当然これらの遵守が基本となる.

 表2のうち上から3つまでは患者と医療従事者だけの間で守ればよいことである.ただし4番目に挙げたとおり,たとえその両者が合意したとしても,第三者に対して守るべき規範にはずれたことはすべきではない点に注意を要する.

5. 検査室のネットワークとセキュリティ技術

著者: 長嶋宏和

ページ範囲:P.1405 - P.1414

はじめに

 検査システムのセキュリティとして多くの場合,検査システム端末としてのパソコンに対するセキュリティが進められてきたが,既に多くの施設で検査機器がネットワークの一部としてネットワークに直接繋がっている状況において臨床検査情報として守らなければならない範囲が非常に広くなっている(図1).この項ではネットワーク技術を中心にセキュリティ対策としての取り込みを論じる.

コラム JLAC 10(日本臨床検査医学会臨床検査項目分類コード)

著者: 櫻林郁之介

ページ範囲:P.1415 - P.1415

1. JLAC10とは

 日本臨床検査医学会の「検査項目コード委員会」では,検査項目のコード化の歴史は古く,1963年に既に故樫田良精博士が「中央臨床検査項目分類コード」が出されたのが最初である.その後,1986年から作業が開始された臨床検査項目の分類コードは検査室の電子化に対応できるコードとして,「統一コード検討会」との共同作業で多くの労力の結果,1990年に「日本臨床病理学会臨床検査項目分類コード(JLAC8)」を世に出した.その後改訂されて,1997年JLAC 10となり2002年の改訂を経て今日に至っている.

2. 臨床検査項目分類コード(JLAC 10)の概要

 本コードは5つのパーツから成り立っている.すなわち,分析物コード(5桁),材料コード(3桁),測定法コード(3桁),識別コード(4桁),結果識別コード(2桁)である.これらを組み合わせて,1つの検査項目のコードが決定されるため,結果が複数でてくるような検査項目は17桁で表現される(日本臨床検査医学会ホームページに掲載されている).

その一例を示すと,

 血清単純ヘルペスIgG抗体価(ELISA法)は5つのコードを組み合わせると,

 5F190-1431-023-022(これに結果識別2桁を足して合計17桁)

となる.

コラム XMLとHL7

著者: 川真田文章

ページ範囲:P.1416 - P.1417

1. はじめに

 今日,保健医療は1人の医師がすべての医療行為や患者情報を掌握した時代から,医師とコメディカルとのチーム医療,中央検査室や検査センター,地域医療,在宅医療へと変貌し,保健医療情報は自己完結型から広域化・共有化へと進んでいる.また医療の効率化のためコスト計算を明らかにするとともに保健医療品質の計測化による質の向上を目指す必要がある.一方,システムベンダーにおいても,一社ですべての業務をカバーすることは困難となってきておりマルチベンダー化が進んでいる.これらを効率的に実現するには標準的なインターフェースが必要となり,保健医療情報の標準化は,患者中心の医療,効率的な医療を進めるに当たって,避けて通れないものである.ここでは,保健医療情報標準化で注目されるHL7(Health Level Seven)及び汎用的な記述方法XML(eXtensible Markup Language)について簡単に述べる.

4章 臨床検査情報の収集とデータマイニング 1. 自動分類:clustering

1)クラスタ分析

著者: 荻島創一 ,   田中博

ページ範囲:P.1421 - P.1426

はじめに

 クラスタ分析(cluster analysis)とは,「分類対象の集合が与えられたときに,内的結合(internal cohesion)と外的分離(external isolation)が達成されるようなクラスタとよぶ部分集合に,分類対象集合を分割すること」である1,2).平たく言えば,ある集合を,類似した対象(サンプル)が同じ部分集合になるように分類することである.クラスタ分析は,クラスタ解析,クラスタリング(clustering)とも呼ばれる.クラスタ分析は分類例がない教師なし分類であり,一方,分類例のある教師あり分類には決定木,SVM(Support Vector Machine)などがある.

 分類するという行為は,人類が古くから行ってきた営みである.医学や生物学は分類の学問であると言っても過言ではない.人間は分類するという行為を通じて,森羅万象を理解しようとしてきた.1950年代になると生物分類学において,分類という行為を,先験的な知識なしに,主観的ではなく,客観的に行うこと(自然分類;natural classification)を主張する数量表形学(numerical phenetics)が登場し,今日のクラスタ分析が確立された.しかし,客観的な分類,すなわち自然分類は実現せず,1970年代半ばから'80年代はじめの生物分類学における分類情報量論争において,数量表形学は敗退したのである3)

 すなわち,クラスタ分析は,数理表形学が主張したように,先験的な知識なしに,主観的ではなく,客観的に分類することはできない.しかし,クラスタ分析は,主観的に選んだ属性に基づいて,集合を分類し,これにより集合の情報を圧縮することができるのである.この情報の圧縮は,実は,われわれが日常的に行っていることであり,例えば,名前や住所は分類による情報の圧縮はその最たるものであろう.

 クラスタ分析は,主観的な分類するという行為として,本質的には情報を圧縮するという行為として,人類にとって森羅万象を理解するための非常に重要な行為であることには変わりはない.このクラスタ分析には,サンプルの集合の階層的に分類する階層的クラスタ化法と,特定のクラスタ数に分類する非階層的な,分割最適化クラスタ化法の,大別して2種類の方法がある.前者では単連結法,完全連結法,群平均法,ウォード法が,後者ではk-meansクラスタ化法が代表的な方法として知られている.そこで,本稿では,階層的クラスタ化法,分割最適化クラスタ化法,クラスタ分析の意味すること,最適な分類数,次元の呪い,クラスタ分析による疾患分類について解説する.

2)自己組織化マップ

著者: 片岡浩巳

ページ範囲:P.1427 - P.1432

はじめに

 自己組織化マップ(Self-Organizing Maps;SOM)1)は,非常に強力なクラスタリング能力を持った解析法の1つで,Kohonenによって考案された技術である.SOMによる解析は,膨大なデータの中に潜むパターンを見つけ出す目的に適用することができる.また,パターンの類似性に応じた距離関係も視覚的に見ることができる.SOMは教師なし競合学習および近傍学習を基本原理としたクラスタリングアルゴリズムで,入力層と競合層の2層で構成されたニューラルネットワークの構造を持った機械学習システムである.競合層は特徴地図と呼ばれる2次元の地図が出力でき,複数のパターンが存在する膨大なデータを入力することにより,代表的なパターンを特徴地図上に展開できる.また,類似性の高いパターンが収束した結果を得られることから,パターンの解析や類似性の解析に優れた方法である.このほか,SOMの基本原理を発展させて開発された学習ベクトル量子化(Learning Vector Quantization:LVQ)2)がある.これはSOMを単純化し統計的クラス分類に応用したアルゴリズムで,クラスタリングではなく分類に属する教師あり学習システムである.本章ではLVQには触れず,SOMの基本原理の解説と,研究者向けのプログラムパッケージの利用法を紹介する.

2. 自動診断:classification

1)相関ルール

著者: 平田耕一 ,   原尾政輝

ページ範囲:P.1433 - P.1437

はじめに

 スーパーマーケットの購買データから,同時に購入される商品の組み合わせを発見するバスケット分析(basket analysis)により,例えば“野菜を購入する人は高い頻度で果物も購入する”,“パンを購入する人は高い頻度で乳製品も購入する”といったルールを見つけることができれば,商品陳列の位置やセット商品の設定などの販売戦略を立てることができる.上の例は因果関係が推測できる例であるが,“紙おむつを購入する人は高い頻度でビールを買う”のように,ときには思いもよらないルールが見つかることがある.このようなルールを相関ルール(association rule)と言う.

 相関ルールは購買データ以外のデータからも抽出することができる.本稿では,例として大阪府立急性期・総合医療センターのMRSAに対する薬剤感受性検査データの中で,抗生剤アミノグリコシド(AG),マクロライド(ML),カルバペネム(CBP),リファンピン(RFP)の感受性検査の一部である表1aを扱う.S,Rは感受性,耐性を表している.

 このデータから,例えば(AG=R)である確率は0.8であり,(CBP=R)である確率は0.5であることがわかる.また,(AG=R)と(CBP=R)が同時に成り立つ確率は0.4であることがわかる.さらに,(CBP=R)のときに(AG=R)となる確率は,(CBP=R)が出現する5個のデータのうち4個が(AG=R)なので0.8であるが,(AG=R)のときに(CBP=R)となる確率は,(AG=R)が出現する8個のデータのうち4個が(CBP=R)なので0.5である.

 ここで(AG=R)や(CBP=R)などをアイテム(item),(AG=R)(CBP=R)などのアイテムの列をアイテム集合(itemset)と言う.アイテム集合はアイテムが同時に出現していることを意味する.さらに,「(CBP=R)と(ML=R)が同時に出現しているならば(AG=R)が出現している」ということを(CBP=R)(ML=R)⇒(AG=R)と表す.形式的には,X∩Y≠0となるアイテム集合X,Yに対して,X⇒Yを相関ルールと言う.ここで,Xを前提部(premise),Yを結論部(conclusion)と言う.

 相関ルールの抽出には自然数のtidとアイテム集合のトランザクション(transaction)の組からなるトランザクションデータベース(transaction database)を用いる.例えば表1bのD1は,表1aのトランザクションデータベースである.

 アイテム集合Xに対して,Xを含むデータベース中のトランザクションのtidの集合をtid(X)と表す.さらに,supp(X)=|tid(X)|/|ディー|をXの支持度(support)と言う.例えば表1のディー1に対して,tid((AG=R)(ML=R)(RFP=S))={0,2,8}であり,supp((AG=R)(ML=R)(RFP=S))=3/10=0.3である.

 相関ルールX⇒Yに対して,supp(X⇒Y)=supp(X∪Y)をX⇒Yの支持度(support)と言い,conf(X⇒Y)=supp(X∪Y)/supp(X)をX⇒Yの確信度(confidence)と言う.例えば,表1のディー1に対して,r1:(AG=R)(ML=R)⇒(RFP=S)とr2:(AG=R)(RFP=S)⇒(ML=R)という2つの相関ルールについて考察する.supp((AG=R)(ML=R)(RFP=S))=0.3なので,supp(r1)=supp(r2)=0.3となる.さらにsupp((AG=R)(ML=R))=0.6なので,conf(r1)=0.3/0.6=0.5となる.一方,supp((AG=R)(RFP=S))=0.4なので,conf(r2)=0.3/0.4=0.75となる.

 次項では最小支持度(minimum support)σと最小確信度(minimum confidence)γ(0≦σ,γ≦1)を与え,supp(X⇒Y)≧σかつconf(X⇒Y)≧γとなるようなすべての相関ルールX⇒Yを抽出するAgrawalら1,2)の手法について解説する.

3)ニューラルネット

著者: 松戸隆之

ページ範囲:P.1445 - P.1452

はじめに

 Artificial neural network(以下ニューラルネット)は,生物の神経系の性質を取り入れた並列計算システムのモデルである.神経系とコンピューターはいずれも情報を処理するシステムであるが,神経系はコンピューターにはない以下のような特徴を備えている.

 (1) 並列計算:神経系は多数のニューロンが同時に並行して動作することによって情報を処理する.現在の大部分のコンピューター(ノイマン型コンピューター)では,1個の演算装置(CPU)がすべての計算を逐次的に実行している.

 (2) 自己組織性:神経系には環境や経験に順応して自律的に新しい機能を獲得したり機能を向上させる学習能力が備わっている.コンピューターは人間が作ったプログラムをただ忠実に実行するだけである.

 (3) 頑健性:人間の脳は,健常者でも毎日数万個のスピードでニューロンが減少し続けていると言われるが,このことによって脳の機能が著しく影響を受けるようなことはない.コンピューターは1ビットのデータの誤りが生じただけでプログラムが誤動作を起こす.

 これらの特徴のため,ニューロンの動作速度はCPUの100万分の1程度であるにもかかわらず,脳は認知や行動に伴う高度な情報処理についてコンピューターよりはるかに高い能力を示す.ニューラルネットの研究は,このような神経系の特徴を効果的に取り入れることによって,従来のコンピューターとは異なる,新しい原理に基づく計算システムの構築を目指している.

 現在までに様々なタイプのニューラルネットが考案されているが,本稿では自動診断システムの構築という観点から階層型ニューラルネットについて解説する.

2)決定木(decision tree analysis)

著者: 横山茂樹

ページ範囲:P.1439 - P.1443

はじめに

 決定木(けっていぎ,decision tree)は分類や予測を行う場合によく使用される手法であり,あるターゲットとなる項目(目的変数)を説明する重要な要因(説明変数)を,ある“基準”に基づき分類し自動抽出する手法で,決定木生成アルゴリズムとしては,CHAID,CART,C5.0などを用いるデータマイニングの中心的手法の1つである.

 現在,医療施設では臨床検査データ,診療記録データ,インシデントデータなどの大量データが蓄積されている.決定木は,このような医療分野の事例データの中から特徴や規則を抽出する手法として幅広く利用されている1~3)

 また,感染症制御分野においても,MRSA感染,熱傷感染症,菌交代,耐性菌感染などのリスク因子解析のため,決定木,相関ルールなどにより感染症制御データベースの中から,感染症制御に役立つリスク因子を抽出することができる4~6,9)

 近年,データベースの大容量化・高速化に伴い,リレーショナルデータベース(RDB)とデータマイニングを統合し,決定木をRDBで表現することで,SQLクエリによる多角的探索や,臨床検査医学領域の知識発見支援システムへの応用が可能となり,大規模なデータマイニングを実施できるようになった7,8)

 本稿では感染症制御データベースからのサンプルデータを基に,決定木について解析例などを交えてわかりやすく説明する.

3. データマイニングの事例

1)検査過誤の防止―デルタチェックと自動再検のアルゴリズム

著者: 山田輝雄 ,   加野象次郎

ページ範囲:P.1453 - P.1457

はじめに

 検体取り違いに起因する検査過誤の検出は,Nosanchukら1)に端を発する単項目デルタチェック(Delta Check;DC)とIizukaら2),Furutaniら3)によって提唱された多変量デルタチェック(Multivariate Delta Check:MVDC)の2つの流れがある.

 DC法は,患者データの今回値と前回値の変化量(デルタ)から検査過誤を検出するという考え方に基づいている.それに対し,多変量判別分析を応用したMVDC法は,理論的には優れていると言われるが,1980年代当時のコンピューター能力では負荷が大き過ぎるという指摘から,松岡ら4)はMVDC法を簡便化した累積デルタチェック(Cumulative Delta Check;CDC)を提案した.しかし,DC法が,よりシンプルで手軽に利用できることから,現在このDC方法が広く支持されているようである.

 臨床検査領域で日常取り扱うデータは,互いに関係を持ちながら多次元的母集団を構成している.このような多変量データが折りなす多面的空間から目的情報を精度良く,効果的に引き出すためには一変量解析を繰り返すより,多変量解析が有用なことは自明であろう.本稿では,データマイニング手法の1事例として多変量デルタチェックを取り上げ概説する.

2)出現実績ゾーン法

著者: 千葉正志

ページ範囲:P.1459 - P.1464

はじめに

 臨床検査で活用されている精度管理は検査結果の品質を保証する管理手法である.その方法としては管理物質を用いる方法が主流であり,その測定結果を確認した後に患者試料を測定する方法が多く用いられている.少なくとも,この方法で多くの系統的誤差は解消されてきた.このほかに個別結果検証法として検体取り違いなどの間違い防止などに有効とされている異常値チェック,特定項目による相関チェック,過去の結果と比較するデルタ・チェックなどがある.今回は,この個別結果検証法の1つである出現実績ゾーン法1,2)を紹介する.

3)QC Chartマイニング

著者: 稲田政則

ページ範囲:P.1465 - P.1470

はじめに

 QC Chartマイニングとは内部精度管理で蓄積された管理試料の時系列観測データから特徴的なパターンを抽出し,長期的な技術評価の観点で,工程異常の発見と問題の解析を行うこととして定義される精度管理活動である1,2).“QC Chartマイニング”という言葉は管理図データからの知識発見を意図した造語であり,臨床検査分野におけるデータマイニングの先駆的な研究成果の1つとして認識されつつある.

 本項では,QC Chartマイニングの方法論の概要を示したうえで,従来の精度管理の問題点とQC Chartマイニングによって実現される新しい精度管理の体系を述べる.

4)潜在基準値法による日常検査情報の活用

著者: 市原清志

ページ範囲:P.1471 - P.1485

はじめに

 異常値を含む大規模な検査情報から,データマイニング手法を使って,健常とみなしうる個体を選び出し,その情報を基準範囲の設定,生理的変動要因の分析(短期・長期個体内変動幅の設定,季節変動の分析),精度管理に応用する方法論を,筆者は総称して潜在基準値法と呼んでいる.基準範囲の設定に利用する場合,異常値の割合の少ない健診情報から出発する潜在異常値除外法と,異常値を多く含む日常検査情報から出発する潜在異常値抽出法に分けて考えることができる1,2).両者は基本的に同じ原理に基づいているが,異常値の割合の違いから,その除外法が異なったり,年齢の偏りに対する補正の必要性などの点が異なる.潜在基準値法を生理的変動の分析に用いれば,測定値の性差の有無,加齢変化の有無,個体内変動幅の算出などを日常検査情報から行うこともできる.また,精度管理に利用する場合,潜在基準値平均は測定値の長期的な変動の分析に利用しうる(潜在基準値平均法3)).本稿では潜在異常値除外法と潜在基準値抽出法を中心に,目的に応じた方法論の実際,妥当性,適用限界,発展性について解説を行う.また,エクセルを使った簡略法も紹介する.

5)白血球粒度のパターン解析

著者: 片岡浩巳

ページ範囲:P.1486 - P.1494

はじめに

 フローサイトメトリーから得られる白血球粒度データは,白血球をリンパ球,単球,好中球,好酸球,好塩基球に分類することができ,一般的な臨床検査のスクリーニング検査として幅広く利用されている.通常,これらのデータは分画比率として報告され,粒度パターンの詳細は報告されることはない.しかし,それぞれの粒度パターンには,細胞の成熟度や疾患によって,様々なパターンが存在している背景から白血球粒度を画像として報告する施設が多くなっている.ところが,画像として報告した場合,目視の判断に頼るしかなく,それらのパターンの識別は主観的な方法で判断するしかなかった.

 本研究の目的は白血球粒度の生データを解析可能な形式でデータベースに記録し,データマイニング技術を駆使して,白血球粒度のパターンを客観的に吟味できる診断支援システム1)を構築することである.本研究では白血球を構成する各分画の成分を数学的なモデルとして取り扱い,それらの成分を分離後,クラスタリング技術を利用して,隠されたパターンを網羅的に把握できるシステムを開発した.本稿では,この情報を元に分画別のパターンについての類似検索システムや診断支援システムに応用した事例を紹介する.

6)フラクタル次元解析

著者: 丹羽欣正

ページ範囲:P.1495 - P.1500

フラクタル次元とは

 フラクタルとは特徴的な長さを持たないような図形,構造,現象などの総称で,自己相似性(ある物体をどんなに細かく分割してみても,元の形と同じものが現れる)の性質を持つ.フラクタルの性質を持つものは複雑な地形など自然界にも多数存在するが,特に生物学的複雑さに,より多く認められることが知られている.このフラクタル図形を定量的に表す尺度がフラクタル次元である.

 フラクタル次元は一次元である“線”から二次元である“平面”に至る曲線(パターン)の複雑さを数値的に表現したもので,限りなく細かい構造を持ち,小数点で表す次元である1)

5章 バイオインフォマティックス

1. 遺伝子解析ソフトBioEditとバイオ情報の検索ツール

著者: 渡部省二

ページ範囲:P.1503 - P.1510

はじめに

 1970年代に組換えDNA実験が可能になって以来,遺伝子の研究は爆発的に進展した.遺伝子の配列データは指数関数的に増加し,わずか四半世紀の間にヒトを含む多数の生物の全ゲノム配列が決定されるまでになった.これらの膨大な生物情報を扱う生物情報学Bioinformaticsという新しい分野が生まれた.これらの配列データを検索・解析して何らかの研究を行うためにはコンピューターが不可欠である.これらの配列データを扱うための様々なソフトが開発され,様々なツールがインターネット上にある.本稿ではこれらのインターネット上の遺伝子・蛋白質解析ツールのいくつかを紹介するとともに,自分のパソコンで遺伝子配列を扱うための無料の遺伝子解析ソフトBioEditを紹介する.

2. マイクロアレイによる遺伝子発現情報の解析

著者: 田中博 ,   荻島創一

ページ範囲:P.1511 - P.1517

はじめに

 1990年代後半,ヒトゲノムをはじめ,様々な生物種のゲノムの解読が進行するなか,細胞内の転写産物を網羅的に解析するための技術としてマイクロアレイ(microarray)が登場した.数千から数万個の遺伝子発現を同時に観察することができるため,細胞内の転写産物の総体,すなわちトランスクリプトーム(transcriptome)の解析が可能になったのである.

 マイクロアレイの基本原理は,ゲノムスケールの,大規模なハイブリダイゼーションである.マイクロアレイはDNAチップとも呼ばれ,ガラススライドやシリコンの上にDNA分子を高密度に配置(アレイ;array)したものである.このDNA分子に,サンプル中のmRNAをハイブリダイズさせ,その強度から遺伝子発現を観察するというものである.

 このマイクロアレイによる遺伝子発現情報の解析には,大きな特徴がある.それは,劣決定問題(underdetermined problem)であるということである.典型的な臨床研究では,数千から百万件の症例を用いて,高々数十から数百個の変数を説明するが,マイクロアレイによる遺伝子発現情報の解析では,高々数十件のサンプルを用いて,数千から数万個の変数を説明しようとするのである.このように,症例・サンプル数に対して,説明しようとする変数が多過ぎるため,観察された遺伝子発現を説明しうる多くの答えが導かれてしまうのである.

 劣決定の性質をもつデータから,興味深い変数や変数間の関係を見いだすには,高次元のデータ(空間)を探索する機械学習(machine learning)の手法を用いるのがよい.機械学習の手法とは,例えば,音声や顔,指紋などの高次元のデータの自動認識で用いられており,具体的には,決定木,SVM(Support Vector Machine),ニューラルネットワークなどがある.

 これらの機械学習の手法を用いることで,マイクロアレイの遺伝子発現情報とサンプルの臨床情報の高次データから,例えば,疾患を臨床的に意味のあるサブグループに分類することができる.これにより,適切な治療,投薬,予後予測の実現が期待されている.決定木やSVM,ニューラルネットワークにより,疾患群の遺伝子発現プロファイルの特徴を学習させ,実際の臨床検査に役立てようというわけである.しかし,現実には,マイクロアレイの実験はまだ高価であり,これを臨床で一般的に検査法として利用するのは医療経済的に困難であるが,発見しにくい癌の診断に用いるなど,近い将来,実現するだろう.

 本稿では,こうしたマイクロアレイによる遺伝子発現情報の解析について,マイクロアレイ技術,正規化とフィルタリング,発現変動の有意性の検定,クラス識別,転写上流配列解析との統合と転写ネットワーク推定,CGHとタイリングアレイについて解説する.

3. 配列情報の解析法

著者: 荻島創一 ,   松前ひろみ ,   田中博

ページ範囲:P.1519 - P.1523

はじめに

 2003年にヒトゲノムの解読が完了するなど,様々な生物種のゲノム情報,さらには,トランスクリプトーム,プロテオームなどのオミックス情報の蓄積が進む今日,配列情報の解析はこれらオミックス情報の解析の基礎をなすものとして非常に重要である.

 配列情報の解析は,DNAの塩基配列の決定が進むに従い,1960年代後半からなされるようになり,木村資生の中立進化説1)に基づく分子進化学が生まれ,成功を収めた.1980年代に入ると,Sanger法などDNAの塩基配列の決定技術の進歩による配列情報の増大と,ムーアの法則注1)で呼び表される計算機の指数関数的な高性能化により,生命情報学(Bioinformatics)と呼ばれる新しい分野が生まれ,配列整列を基礎に,相同性検索や多重配列整列,遺伝子発見,細胞内局在予測,モチーフ検索・発見をはじめとした,様々な配列情報の解析法が研究されてきた2)

 配列情報の解析法は,基本的に,相同性と規則性を手がかりにするものである.相同性とは,生物が共通祖先から進化してきたことから,配列が共通の祖先をもつことである.配列セット中に何らかの相同性を見いだすことができれば,共通の祖先をもつ配列は同じ機能をもつことが期待されるため,例えば,未知遺伝子の機能予測につながる可能性がある.一方,規則性は,配列がもつ特徴的なパターンであり,配列中に何らかの規則性を見いだすことができれば,例えば,真核生物におけるエキソンとイントロンの境界の配列に規則性を見いだすことができれば,真核生物のゲノムについてエキソン-イントロン構造の予測につながる可能性がある.

 具体的には,相同性を手がかりとする解析には相同性検索や多重配列整列が,規則性を手がかりとする解析には遺伝子発見や細胞内局在予測などが挙げられる.また,その両方を手がかりとする解析にはモチーフの検索・発見などが挙げられる.本稿では,こうした配列情報の解析について,まず,配列整列,動的計画法,相同性検索,多重配列整列,分子進化系統樹の推定について解説する.

コラム バイオインフォマティックスを用いた疾患Omicsによる疾患マーカーの開発

著者: 近藤格

ページ範囲:P.1524 - P.1526

1. はじめに

 様々な生命現象の背景にある分子の有り様をDAN,mRNAそして蛋白質のレベルで網羅的に調べる研究が盛んに行われており,それぞれゲノミクス(genomics),トランスクリプトミクス(transcriptomics),プロテオミクス(proteomics)と呼ばれている.本稿では疾患に関連した異常を分子レベルで網羅的に調べる研究を「疾患Omics」としてまとめて扱い,筆者の考える「疾患Omics」の目ざすところ,バイオインフォマティクスの位置づけと期待される成果の臨床検査への応用の展望について述べる.

6章 画像情報・波形情報の解析法

1. 心電図の自動解析とそのアルゴリズム

著者: 金子睦雄

ページ範囲:P.1529 - P.1540

はじめに

 心電図自動解析の歴史は研究が始まってから,はや半世紀を迎えようとしている1).現在,自動解析付心電計は様々な医療機関に広く普及し,心電計市場の8割以上を占めるまでに至っている.また,ホルター心電図検査2)も,24時間で10万心拍以上となるデータを分析するには,自動解析機能は必要不可欠となっている.そこで,ここでは心電計とホルター心電図解析装置の心電図自動解析アルゴリズムについて簡単に説明する.

2. 動脈硬化検査(CAVI)

著者: 山本智幸 ,   原田昌明 ,   山西昭夫

ページ範囲:P.1541 - P.1546

はじめに

 動脈硬化を客観的に評価する検査方法として動脈波伝播速度(Pulse Wave Velocity;PWV)計測がある.PWVは心収縮期に駆出された血液によって大動脈の血管径が大きくなり拡張期に元に戻る動きが末梢側に伝わっていく速度を示している.したがってその速度は2点間における距離を同一位相になる時間で割れば求められる.動脈が硬いほど大きくなり,動脈硬化の指標として古くから測定されてきた1).ここではPWV測定の歴史を振り返り,生体情報であるがゆえの不規則性を再現性ある測定にするように工夫がなされてきたことを述べるとともに,最近開発されたPWV測定から血圧に依存しない動脈硬化度評価を可能にした血圧脈波検査装置CAVI搭載VaSeraTMVS-1000(フクダ電子(株))で行っているデジタル処理された波形からPWVを求めている解析方法について説明する.

3. 多チャンネル光イメージング法の臨床応用

著者: 田村守

ページ範囲:P.1547 - P.1555

はじめに

 近年,人脳機能計測に“光トポグラフィー”の言葉がしばしば聞かれる.タイトルをあえて“光イメージング”にしたのはいくつかの理由がある.1つは“光トポグラフィー”が長い間学術用語としてではなく,一企業の商品名として使われたことと,その意味する画像に関して多くの問題があり,特に臨床上,何らかの“診断法”として用いるにはいまだ時期尚早との考えを筆者が抱いていることによる.もちろん基本的な本計測法の持つ高いポテンシャルは自明である.ここでは本計測法の持つ問題点を説明しながら,最終目標である“光トモグラフィー”の第1歩を紹介したい.

 なお,ここでの主題である,光による脳機能計測の基本原理は,“脳神経系が賦活されるとその局所血流が増加する”に基づく.この血流増加による酸素化,脱酸素化,および全ヘモグロビン量の変動を,光(近赤外光)で追いかけるのが光イメージングである.したがって人の頭部における光の吸収測定が基本である.ここでは,この原理に基づいた近赤外光による人の脳機能計測を,一般にFunctional Near-infrared Spectroscopy(fNIRS)と呼ぶ1~6)

4. 脳磁図(MEG)

著者: 柿木隆介 ,   渡辺昌子 ,   三木研作

ページ範囲:P.1557 - P.1562

はじめに

 脳磁図あるいは脳磁場(magnetoencephalography;MEG)は脳磁図(場)計測装置(脳磁計と略称される)を用いて記録される脳内の磁場活動である.近年,急激に普及し,現在は世界で100台近くの大型脳磁計が稼働している.特徴的なことは欧州,特にドイツに多いこと(15台近く),日本でも30台以上が稼働しており世界一であることである.この数年間に中国,韓国,台湾にも導入された.また,導入を予定あるいは申請している施設は数多く,神経科学,臨床神経生理学の分野では最も注目を集めている機器の1つであることは間違いない.もう1つの顕著な特徴は,北米では現在十数台しか稼働していないことであり,機能的磁気共鳴画像(functional MRI;fMRI)に圧倒されている点である.これらについては「現状と問題点」の項で詳述したい.

 MEGの紹介をするには,一般的に広く普及している脳波(electroencephalography;EEG)と比較して説明するの最も良い方法であろう.大脳皮質錐体細胞樹状突起の先端部から基部に向かって興奮性シナプス後電位,すなわち細胞内電流が流れる.電流が流れるとその周囲には必ず磁場が生じる.したがって,EEG(電場)とMEG(磁場)は同一の現象を異なる方法で見るものと言ってもよいかもしれない.しかし,両者の決定的な違いは空間分解能である.脳と頭皮の間には脳脊髄液,頭蓋骨,皮膚という導電率が大きく異なる3つの層がある.したがって脳で発生した電場は大きな影響を受け,頭皮上に置いたEEG電極から正確な脳の活動部位を知ることは困難である.しかしMEGの場合,磁場は導電率の影響を全く受けないため,記録条件が良好ならばmm単位で活動部位を正確に知ることができる.これがMEGの最大の長所である.また,MEGはEEGと同様にミリ秒単位の高い時間分解能を有する.

 MEGの最大の問題点は,脳から発生する磁場が地磁気あるいは周囲磁気(電車,エレベーターなどにより発生する)などの1万分~1億分の1程度の極めて微小なものである点である.そのため,高性能の磁気シールドルーム,超伝導量子干渉素子(SQUIDと略)などのハイテクノロジーが必要となる.もう1点は,その価格である.建物の改造費や周辺機器(高性能コンピューターなど)を含めると,機種や環境にもよるが設置には2~5億円は必要である.また,超伝導状態を維持するための液体ヘリウム代金と機器(コンピューターを含む)の保守管理料などの維持費が最低でも年間1,000万円以上は必要である.

5. 超音波カラードプラ法とその画像解析アルゴリズム

著者: 近藤祐司 ,   谷口信行

ページ範囲:P.1563 - P.1569

はじめに

 ドプラ法による断層像という意味の“ドプラ断層”の研究は30年ほど前から行われている1,2).当初はMモードだけの表現であったが3),これをBモードで実現できたのは,デジタル化技術の進歩が大きく寄与していると言えよう.デジタル素子の開発は超音波機器にDSC (Digital Scan Converter)の導入を可能にし,また,DSCはカラーモニターを使用することによる色表現も可能にした.デジタル化に伴い高性能なAD変換器(Analog to Digital変換器)が登場し,高容量のメモリが競うように市場に投入された.これら周辺環境の発展によって,今日のようなマイコンやDSP(Digital Signal Processor)の登場を待たずしてもカラードプラ開発が可能になったと言うことができる.

 カラードプラ法は1982年に技術発表され4,5),その翌年には製品が販売された.当時ドプラ法と言うと,いわゆるパルスドプラ法の解析方法がFFT化されスペクトラム表現がようやく可能になったところであった.しかしながら,このスペクトラムドプラ法は使用方法が難しいことや表示データの解釈が難解であるがゆえに,一部の専門家にしか使われていなかった.研究対象としては重要視されていながらも,広く普及させるには心臓の中の血流状態を一目で把握できるような,直感的に受け入れられるドプラ法が切望されていた.臨床家のこうした期待と技術の発展がちょうどよく歩調をそろえたことが,技術発表からわずか1年での製品化を導いたものと思われる.いわばM (Medical)とE (Engineering)の思惑が一致して開発が進められた好例であろう.そして,カラードプラ法が認知されるとともに,専門機器であったスペクトラムドプラ法も必須の機能として受け入れられ普及することになった.

6. 超音波画像立体構築―超音波診断装置による最新3D/4D技術

著者: 橋本浩

ページ範囲:P.1571 - P.1575

はじめに

 超音波診断装置は生体の任意の方向に超音波を照射し,その受信信号から生体の内部構造や対象の動きを知ることができる.一般の診断装置では送受信する方向を電気的に変えながら超音波を照射し,断層像を得ている.

 超音波診断画像を用いた三次元画像構築は30年以上前から世界各国で研究開発されている.その当時は,単一振動子による手動接触コンパウンドによる手法から,やっと電子スキャンが実用化され,探触子を動かさなくても二次元画像が得られるようになった時代である.二次元断層像が得られれば次は三次元,というのは当然の流れと言える.超音波三次元画像装置は既に1975年には商用化されているが,プローブの位置を検出するための大きなアームと画像処理のためのコンピュータ,そして,長い計算時間が必要とされていた1,2)

 以降,プローブの位置検出や高速三次元画像処理アルゴリズム,あるいは立体画像表示に関する研究が多くの施設で行われ,現在の形に近い本格的な三次元画像装置が開発されたのは,1990年代になってからである.

 現在では診断装置の画質やフレームレートの向上,コンピュータの処理速度向上と専用プローブの開発により,実時間表示することが可能になっており,多くの領域で用いられるようになった.これらの超音波診断装置における三次元画像構築は,CTやMRなど他のモダリティと同じく,ボリュームデータの取得,三次元画像再構成,表示という順で処理されている.4DあるいはReal Time 3Dと呼ばれる実時間三次元画像表示もこの手順の繰り返しである3,4)

 本稿では超音波診断装置における三次元画像構築に関して,この処理手順に従って説明し,最後に最新の3D/4D関連技術を紹介する.

7. 細胞診の自動化のアルゴリズム

著者: 山内一弘

ページ範囲:P.1577 - P.1583

はじめに

 Papanicolaou GNによって,細胞による診断方法の可能性が報告されてから70年が経過し,また,vaginal smearの染色法が発表されてから今日まで60年近い歳月が流れた.この間,固定・染色された細胞を人が顕微鏡を用いて検査(検鏡)し判定するという原則には変化がなかったが,細胞採取法や細胞収集法の開発,染色,封入の機械化から,最新の知見に基づく細胞形態の認識に至るまで,それぞれの分野で細胞診の基本的,技術的な進歩がもたらされてきた.しかしながら近年,細胞診自動化の装置の開発が進み,それが実用化の域に達すると,ついには細胞診の根本原則にも変更が加えられるようになり,いよいよ細胞診の世界にも新しい潮流が起こり,その流れは勢いを増して新しい世紀へ突入している.

 細胞診自動化の究極の目的は機械的に最終判定を行うことにあろうが,そのような完遂型の装置開発にはこれまで著しい困難を伴ってきた.そこで画像解析に優れて連続作業が可能な装置と,判断能力に優れている人間とのそれぞれの長所を有効に生かして,実務的な細胞診断装置を開発するという方向に近年基本姿勢の転換が行われた.そこでは,悪性および異型細胞を拾い出すという過去の設計方針から,異常でない細胞を分別・除外するという方針に改められ,異常の可能性のある場合には,その検鏡を人に委ねられることになった.

 1955年の米国CYTOANALYZERをはじめとして,いろいろな機器が開発発表されてきた.日本においても1960~1980年代細胞診断自動化研究班が活発に研究されていたが,実用化されたのは田中昇グループのCYBESTのみであった(表1).

 このような細胞診自動化装置は,これまでの細胞診精度への疑問を背景に,米国で受け入れられ,既に1985に年Food&Drug Administration(FDA)の承認を得て,現在実用化の時代を迎えている.わが国においても,既に1980年代より導入され,現在一部の施設において実用化され使用されている.

7章 検査室の経営分析と管理に必要な情報処理技術

1. 経営分析に関する基礎技術

著者: 髙橋淑郎

ページ範囲:P.1587 - P.1596

はじめに

 病院経営分析は病院の経営活動の状況やその成果を分析し,評価することが主となる.したがって,これまでは病院の経営内容を財務諸表などの経営数値を中心に分析・検討することが主となってきた.しかし,財務データは過去のデータであり,それは将来を示すものではないことなどから,病院経営を全般的に把握して客観的にみるには,病院の財務的数値や職員の活動を示す数値などのほかに,病院活動の非財務的なデータ,例えば組織,労使関係の良否,院長の管理能力,診療圏分析,意思決定機構あるいは診療の内容,看護の内容あるいはその病院の職員のやる気,業務プロセス,ブランド力などまで入り込み,できるだけ客観的に検討し,経営面,診療面など多角的に総合的に見出していき,客観的に現状をみることが求められる.

 それがあって,改善プログラムを提案し,それを実行し,コントロールしていけるのである.したがって病院の診療と経済性のみではなく,その病院の発展性,継続性および安全性などを財務,非財務のデータを使って総合的に分析するものでなければならない.

 病院の経営をみる場合,分析主体が誰であるかによって分析目的が変わってくる.一般に病院の内部者と外部者に分けて考えることが多い.内部者が行う分析を内部分析,外部者が行う分析を外部分析と言う.内部分析は病院内部の経営管理者の立場から行われる分析で,外部分析は病院の外部の利害関係者,例えば金融機関の融資担当者,取引業者,監督官庁などが分析するものを言う.

 本稿では,病院の内部者が分析することを中心に記述する.

2. 経営分析に必要とされる情報処理技術―損益分岐点分析

著者: 渡邊達久

ページ範囲:P.1597 - P.1601

はじめに

 2004年『病院会計準則』が改正されたのは,病院経営者からみると大きなできごとであった.それは貸借対照表(Balance Sheet:B/S),損益計算書(Profit and Loss Statements:P/L),キャッシュ・フロー計算書(Cash Flow Statement:C/F)といった財務諸表が改正され,それぞれの医療機関で作成基準が統一されたことで,病院経営の実態がガラス張りになったことである.つまり,企業会計で言うところの財務会計が統一されたのである.しかし,検査室経営という立場から考えると,外部関係者に対して公開する財務会計より,病院内部の経営管理に携わる関係者に対し,経営の意志決定に役立つ情報を提供し,経営に役立てることを目的とした管理会計のほうがより重要であると考える.管理会計は財務分析,損益分岐点分析,予算管理などの手法を通じて展開される.今回はその中でも比較的検査室でも導入のしやすい損益分岐点分析を紹介する.

3. 経営分析に基づく検査室マネジメント―アマチュア検査部長 悪戦記

著者: 藤原睦憲

ページ範囲:P.1603 - P.1613

はじめに

 最近テレビや新聞で連日,日本道路公団発注の鋼鉄製橋梁工事を巡る談合事件が大々的に報じられている.小生など人格が卑しいために,ついつい一流ゼネコンの談合課課長のことがうらやましいと思ってしまう.毎月タダで御馳走にありつけ,ゴルフもできて,実にVery Nice&Very Deliciousな業界でいいと.いくら薄給の医師と言えども考えるだけで倫理委員会に査問されそうな気もするが,卑しい性で仕方ない.

 橋や道路それぞれにワイロか政治献金か知らないが,何%かがきちんと決まっていて何十年も行われていたとの報道.プロ中のプロの建設大臣ですら《ワイロ》とか《政治献金》とかの言葉の定義をよくわかっていないと見えて,時々逮捕される始末なので,小生などわからないのは当然かもしれない.

 上記の財政投融資資金の入り口である郵政はどうであろうか.やはりVery Nice&Very Deliciousな業界でうらやましい.職業に貴賤はないが,天下の一流病院である有明の癌研診療部長よりはるかに高給を取る人が何万人もいると聞いては,心中穏やかではない.ヤマト運輸や佐川急便の人たちが2~3倍の高給なら納得するが,財投の不良債権に年数千億円の税金が補塡されていて,かつ特定郵便局長の地位も世襲制とのこと.8月8日に郵政関連法案が参議院で否決されたが,「今後も財投を通じ公社,公団の非効率な官のシステムは温存され,郵政公社の肥大化を危惧」と日経新聞が報じていた.全くそのとおりだと思う.

 一方,われわれ医療関係の頂点に立って指導している厚生大臣は逮捕されたなどということはこれまでにない.やはり人格高潔な人物が歴代就任されているのだと,何となく誇らしげに感じる.大臣が高潔なために検査部の運営も現実的に厳しいのかと,ひがみっぽく考えてしまう今日この頃である.

 さて,そろそろ本編のVery Niceではない業界のお話に入ろう.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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