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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査49巻13号

2005年12月発行

雑誌目次

今月の主題 メタボリックシンドローム 巻頭言

メタボリックシンドローム

著者: 池田康夫

ページ範囲:P.1623 - P.1623

動脈硬化を基盤にして発症する心筋梗塞,脳梗塞は癌とならんでわが国の死因のトップを占め,その予防・治療法の確立が急がれている.2002年のWHOの報告によれば,これら動脈硬化性疾患の増加は,わが国を始めとする先進国のみならず,発展途上国においても21世紀の解決すべき最大の課題であることが指適されている.

 これらの疾患は,動脈硬化プラークの破綻をきっかけにして,閉塞性血栓が形成されることにより致死的な臓器障害がもたらされる疾患と理解され,アテローム血栓症(atherothrombosis)と呼ばれる.したがって,その対策としてプラーク形成,破綻の機序を解明し,それに関与する因子に介入することが重要である.

総説

メタボリックシンドロームの疾患概念

著者: 松澤佑次

ページ範囲:P.1625 - P.1627

〔SUMMARY〕 一個人に複数のリスクファクターが集積するいわゆるマルチプルリスクファクター症候群が,動脈硬化性疾患のハイリスク病態であることが明らかになり,これをメタボリックシンドロームという疾患概念で予防医学の大きなターゲットにすることが世界的なコンセンサスとなった.本病態の最上流には,飽食と運動不足を背景にした内臓脂肪の蓄積があることから,日本および国際委員会より内臓脂肪蓄積(ウエスト周囲径で代用)を必須項目とした診断基準が2005年4月相次いで発表された.本稿ではそれらの疾病概念について歴史的な背景,意義について解説する.〔臨床検査 49:1625-1627,2005〕

メタボリックシンドロームの診断基準

著者: 寺本民生

ページ範囲:P.1629 - P.1638

〔SUMMARY〕 メタボリックシンドロームの診断基準が,発表された.これはLDLのリスクを肯定したうえで,さらに心血管病を予防しようという観点から世界的な要請により登場した診断基準である.この診断基準に従えば,その頻度は一般人口の10~25%であり,このような集団の心血管病の発症頻度は一般の2倍以上と予測され,ハイリスクと考えられる.しかし,本診断基準は完全なものではなくこのシンドロームの本態の解明とともに,より明確なものとなることを期待したい.〔臨床検査 49:1629-1638,2005〕

脂肪組織における遺伝子発現

著者: 前田和久 ,   船橋徹

ページ範囲:P.1639 - P.1647

〔SUMMARY〕 世界で最初のヒト脂肪組織遺伝子発現情報データベースは,ヒトゲノムプロジェクトにおいて構築され,2つの大きな特徴が明らかにされた.1つが分泌臓器としての脂肪組織の特性,つまりアディポサイトカインの概念であり,もう1つが同データベースよりクローニングされたアディポネクチンをはじめとする脂肪組織特異的遺伝子のもつ大きなインパクトである.本稿ではこれらアディポサイエンスの中核を担う因子とメタボリックシンドロームとのかかわり合いについて総括したい.〔臨床検査 49:1639-1647,2005〕

メタボリックシンドロームの疾患

糖尿病

著者: 山田信博

ページ範囲:P.1649 - P.1655

〔SUMMARY〕 2型糖尿病の増加は疫病的な増加であり,心血管イベントは主要な死因となっている.種々の危険因子のなかでも,心血管イベント抑制のEBMのはっきりした高脂血症,高血圧管理は厳格に行われるべきである.2型糖尿病患者を対象にした前向き研究JDCS(Japan diabetes complication study)において,糖尿病患者に虚血性心疾患が増加していることが示され,血糖管理に加えて,脂質代謝異常や高血圧の是正の重要性が明らかとなっている.〔臨床検査 49:1649-1655,2005〕

高血圧

著者: 矢野裕一朗 ,   島田和幸

ページ範囲:P.1657 - P.1666

〔SUMMARY〕 メタボリックシンドロームの構成因子の1つである高血圧は,他の因子とは若干異なる意味合いを成す.メタボリックシンドロームの基本概念が“内臓肥満”と“インスリン抵抗性”であるとすれば,高血圧を合併するケースの中には,それらを満たさない例も多数存在するからである.高血圧は様々な要因から成る異質的な疾患であり,メタボリックシンドロームの中での高血圧が,必ずしも他の因子と共通した病態から派生するとは限らないが,いずれにせよ高血圧を含むメタボリックシンドロームは予後が悪いことは明確である.そのようなある種の限界を踏まえたうえで,本稿ではメタボリックシンドロームにおける高血圧の病態・治療について検討する.〔臨床検査 49:1657-1666,2005〕

腎障害

著者: 吉川理津子 ,   和田淳 ,   槇野博史

ページ範囲:P.1667 - P.1673

〔SUMMARY〕 メタボリックシンドロームの臓器障害の1つである腎障害には,肥満関連腎症(ORG)と各代謝異常に伴う二次性の腎障害があり,その機序は,肥満に伴う腎血漿流量の増加や高インスリン血症,レニン・アンギオテンシン系の活性化から惹起される糸球体高血圧が主な病因と考えられている.また,全身性動脈硬化性病変を早期に検出しうるとされる微量アルブミン尿は,メタボリックシンドロームでも高率に認め,様々な血管合併症を予測するためのマーカーとして有用と考えられる.〔臨床検査 49:1667-1673,2005〕

メタボリックシンドロームの臨床検査

アディポネクチン

著者: 岡内幸義 ,   中村正

ページ範囲:P.1675 - P.1681

〔SUMMARY〕 メタボリックシンドロームの治療は動脈硬化性疾患の予防を目標に据えたものであるが,各危険因子の源流に存在する内臓脂肪蓄積の解消が重要となる.内臓脂肪蓄積に引き続くアディポサイトカイン,特にアディポネクチンの分泌異常が直接・間接的に動脈硬化に影響を及ぼしていることが判明しており,現在その測定系も確立している.アディポネクチンを疾患マーカーとして早期に捉え,また治療標的として臨床応用することが重要である.〔臨床検査 49:1675-1681,2005〕

レプチン

著者: 河合俊英 ,   島田朗

ページ範囲:P.1683 - P.1688

〔SUMMARY〕 レプチンは肥満遺伝子産物として発見され,視床下部に働きかけ摂食量と体重増加を抑制し,肥満および体脂肪量の調節に関与する.加えて,レプチンが視床下部や末梢組織に直接働きかけて多彩な生理作用を発揮することも明らかとなった.肥満,高血圧,糖尿病,免疫系などへ影響を及ぼすレプチンはメタボリックシンドロームのマーカー,治療標的として注目されている.〔臨床検査 49:1683-1688,2005〕

レジスチン

著者: 山内敏正 ,   門脇孝

ページ範囲:P.1689 - P.1695

〔SUMMARY〕 レジスチンは肥満で増加するアディポカインである.レジスチンTgは,インスリン抵抗性,欠損マウスはインスリン感受性であった.レジスチンは,肝臓でAMKを不活化させ,糖新生を増加させる.脂肪組織では,SOCS3を増加させ,インスリン抵抗性を惹起させる.ヒトにおいて,レジスチンはマクロファージに発現している.レジスチンには相同性は高いが組織分布が異なるRELMα,βが存在し,RELM βのTgは高脂肪食下で,MAPKの活性化を介して,肝臓でインスリン抵抗性を惹起し,糖尿病,高脂血症,脂肪肝を呈する.〔臨床検査 49:1689-1695,2005〕

内臓脂肪

著者: 宮崎滋

ページ範囲:P.1697 - P.1706

〔SUMMARY〕 メタボリックシンドロームは,内臓脂肪蓄積を源流とし,糖尿病,高脂血症,高血圧を伴い,動脈硬化を促進し,心血管疾患,脳梗塞を引き起こす複合的病態である.日本の診断基準にもあるように,腹部周囲径(内臓脂肪蓄積)が必須項目となっており,内臓脂肪蓄積の判定が診断に重要である.簡単な方法として,現在腹部周囲径が測定されているが,今後さらに精密な測定法の開発が期待されている.〔臨床検査 49:1697-1706,2005〕

インスリン抵抗性

著者: 荻野淳 ,   齋藤康

ページ範囲:P.1707 - P.1712

〔SUMMARY〕 メタボリックシンドロームはインスリン抵抗性を基盤とした症候群と考えられている.インスリン抵抗性の評価には空腹時インスリン値,HOMA-Rなどの比較的簡便な方法から,グルコースクランプ法,SSPG法,ミニマルモデル法,インスリン負荷試験など多くの方法があり,それぞれの検査の特徴を十分理解したうえで行うことが重要である.〔臨床検査 49:1707-1712,2005〕

リポ蛋白異常

著者: 小竹英俊 ,   及川眞一

ページ範囲:P.1713 - P.1721

〔SUMMARY〕 メタボリックシンドロームは内臓脂肪の蓄積を基盤として生じる代謝異常の重積である.その病態にはインスリン抵抗性が存在する.このような変化は様々なリポ蛋白代謝異常を呈する.メタボリックシンドロームの表現型である高TG血症/低HDL-C血症の背景にはこのような病態が存在している.また,このような病態におけるリポ蛋白代謝異常では動脈硬化惹起性リポ蛋白が増加している.本章ではこのような変化について概説する.〔臨床検査 49:1713-1721,2005〕

今月の表紙 染色体検査・6

造血器腫瘍におけるFISH解析

著者: 大坪香里

ページ範囲:P.1618 - P.1621

蛍光in situハイブリダイゼーション(fluorescence in situ hybridization;FISH)法は,染色体検査の中では比較的新しく,1990年代に急速に普及した方法である.当施設でも初めに先天異常疾患を導入し,その後造血器腫瘍を対象に導入してきた.

 造血器腫瘍における染色体検査は,それまでG-band法が用いられていた.G-band法は,材料中の幼若細胞を培養し,紡錘糸形成阻害剤を用い,細胞周期を分裂中期で停止させることにより得られた分裂中期核が,検査の対象となる.したがって,分裂中期核が得られなければ検査ができないという特徴があった.その特徴を補う検査として,培養に頼らない間期核を対象とする間期核FISH法を導入した.近年では,市販プローブが充実し,さまざまな染色体異常・遺伝子異常に対応できるようになり,FISH法による疾患特異的異常の検出は,病型判断や治療における予後予測に役立つようになってきた1)

コーヒーブレイク

先達の横顔(その3)

著者: 屋形稔

ページ範囲:P.1656 - P.1656

 今年も暮れるが,本誌3月号の「私と臨床検査―先達の軌跡」は画期的な特集であった.11号にこれら先達の方々数名の横顔を草書体で紹介したが,すべての方々に触れたい位である.ただ佐々木匡秀,斉藤正行,仁木偉瑳夫さんが執筆後相次いで鬼籍に入られ,ご高齢とはいえ哀惜に堪えない.

 元京都府立医大検査部長の仁木さんは謹厳な検査一途の方であったがユーモア溢れる一面もあった.奥さんが新潟近郊出身の方で時々当方にも足を運ばれた.退任後も滋賀県の臨床検査発展に尽力されていたが,ご自分は得意でないゴルフに来いと近郊の有名ゴルフ場に招かれ一夜大いに飲んだのが思い出される.お別れする時ご当地特産の信楽焼の湯呑みを贈られたのを大切にしている.

シリーズ最新医学講座 臨床現場における薬毒物検査の実際・10

情報収集とネットワーク

著者: 福本真理子

ページ範囲:P.1723 - P.1729

はじめに

 臨床検体の薬毒物分析をする際,重要な情報は何かを考えると,中毒患者から得られる臨床情報と,対象となる起因物質に関する中毒情報の2つに分けることができる.検体採取の際収集される患者情報とは,中毒発生日時と状況,その後の症状,処置,搬入時の状況,検体採取時刻と薬毒物摂取後推定経過時間,中毒起因と推定される物質の情報,蘇生室でのスクリーニング検査の実施の有無と結果などであり,直接検査部での分析結果を左右するわけではないが,分析結果を評価し,次の段階の分析の方向性を決断するうえで重要な情報である.しかし,蘇生室の主治医やスタッフが知り得たそれらの情報が,必ずしも,検体とともに情報として検査部まで届くとは限らず,緊急処置の中,診療録にも記録が残らない場合も多々見られる.せっかくの分析結果を診断や治療に活かすために,各施設では中毒患者検体用の依頼書や中毒カルテ(本シリーズ1を参照)を決め,情報の記録保管に努めたり,定期的に救急スタッフと分析担当者とのカンファレンスを行ったりする工夫がなされている.中毒医療の診断,治療にかかわるすべてのスタッフにとって重要な患者情報と分析結果の記録と活用は,施設全体のシステムの課題であり,薬毒物分析担当者としてその必要性を強く提言していく努力が必要である1)

 本シリーズでは,特に「1.検体採取から保存まで」2)の項に患者情報の取り扱いについて具体例が詳細に紹介されていることから,本稿では,起因物質に関する中毒情報について限定して解説する.薬毒物分析の担当者として,専門性を磨くために備えておくとよい中毒情報や,分析業務に有用な化学物質に関する情報源やツールを紹介し,さらに分析業務の向上のために活用できる講習会や学会,ネットワーク作りについて解説したい.

トピックス

注目されるヒトパピローマウイルス遺伝子型タイピング

著者: 髙橋正宜

ページ範囲:P.1730 - P.1734

1.今なぜヒトパピローマウイルス遺伝子型タイピングか

 子宮頸癌の罹患のリスクが若年層に上昇し,それが性行為によるヒトパピローマウイルス(HPV)感染の機会の増加に起因することが認識され,現在効果的子宮がん検診の対象が30歳以上から20歳以上に引き下げられて細胞診が推進されている.前癌病変から子宮頸癌への進展は遅く,早期発見による早期治療が必須であることは周知の事実で,精度管理の高い施設における細胞診の実施が厚生労働省のがん検診実施のための指針にも指摘されている.これには適正な精度保証を有する細胞診の標準化とHPV遺伝子型タイピング(genotyping)が重要な課題となってきた.具体的には細胞診標準化として適切な採取器具を用いて細胞を十分に収集し,固定保存できる液状細胞診(Liquid-based Cytology; LBC)が導入され,HPV genotypingにより高リスク型の感染か否かを診断し前駆病変の対策を講じることが効果的と考えられている.

2.細胞診におけるコイロサイトーシスとベセスダシステム

 かつてHPV感染は外性器の尖圭コンジローマを意味し簡単な電気焼灼や凍結切除術で治療されていたが,子宮頸部に病変の頻度が高いflat condylomaの存在と細胞診による診断の重要性を強調し始めたのはMeisels, Fortinら1)(1976)で,超微形態的にウイルス粒子を立証したのはDellaTorreら2)(1978)である.Meiselsによれば軽度異形成low-grade squamous intraepithelial lesion(LSIL),CIN1として判定される症例の70%はHPV感染にかかわるもので,組織再生や炎症による増殖性変化が残りを占めるという.ベセスダシステム(Bethesda System)では再生や炎症による反応性病変をreactive changeとしてまとめ,また起因不明な核肥大などをASCUS(atypical squamous cells of undetermined significance)と命名し,これをLSILと区分しているが実際にはその判別にはgrey zoneのものが少なくない.日母分類IIIaも人により判定の変動が大きく広いスペクトラムを有している.べセスダシステムアトラス3)の図説に偽コイロサイトーシス(psudokoilocytosis)が記載され,核周囲明庭の境界が不明瞭な所見を反応性変化群に入れて辺縁が厚く境界明瞭な所見のものをHPVによるLSILとしているが遺伝子レベルの根拠を示して記載してはいない(図1~3).今やASCUS, LSILにわたる細胞病理学的変化に分子生物学的根拠を確認することが不可欠であり,genotypingによるリスク因子を知ることは治療目的から極めて重要な課題といえよう.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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