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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査49巻6号

2005年06月発行

雑誌目次

今月の主題 院内感染制御 巻頭言

今後の感染制御について―有効性の医療(EBM)からリスク管理の医療(PSM)へ

著者: 武澤純

ページ範囲:P.589 - P.590

1. Evidence-based院内感染対策の問題・課題・限界

 EBMは専門職や権威者などが提供する科学的根拠の脆弱な医療を排除して,臨床疫学が提供する強い根拠に基づいて,医療の標準化(その結果として患者転帰の改善)をもたらした.また,そのことによって医療提供システムに大変革を引き起こしたと評価されている.しかし,一方ではEvidenceと名が付けば,すべてを信じ,臨床経験や患者の嗜好までも排除する人種の登場を招いたのも事実である.そこでは,EBMの神髄であるcritical appraisalが忘れ去られ,Evidenceがあるかないかの形式的な議論が横行することとなる.

 薬剤を含めて,単独の医療行為でEvidenceが存在するものは多くても20%といわれている.それ以外の医療行為や単独医療行為の複合されたものではEvidenceは全く存在しない(ましてわが国から発信された院内感染に関する論文で根拠の強いものは皆無に近い).つまり,われわれの日常医療の80%はいわゆるEvidenceのない世界で行われている.さらに困難な問題は,EBMでは,医療工程の評価は患者アウトカムまたはそれにつながるプロセス指標で行う点である.標準化の不十分な医療を前提に患者アウトカムを評価基準として臨床試験を行うと,有意差をもった結果が出ることはほとんどない.仮に有意差が出たとしてもNNT(number need to be treated)は莫大な数となり,事実上臨床現場に導入する価値はないと判定される.

総説

CDCガイドラインに基づく院内感染対策

著者: 矢野邦夫

ページ範囲:P.591 - P.599

〔SUMMARY〕 日本の院内感染対策においてもCDCガイドラインが頻用されるようになってきた.CDCはすでに400以上のガイドラインを公開しており,院内感染対策すべてを網羅している.これらのガイドラインは莫大な数のエビデンスに基づいて作成されており,科学的な院内感染対策を実践するためには不可欠であるといえよう.従来から行われてきた慣習的な感染対策を見直し,真に有効な感染対策を実行するためにはぜひとも必要なガイドラインである.〔臨床検査 49:591-599,2005〕

院内感染制御におけるICTの役割

著者: 朝野和典

ページ範囲:P.601 - P.606

〔SUMMARY〕 感染制御と臨床感染症は異なるアプローチをする.感染制御とは感染症が発症する前の予防に主眼を置き,臨床感染症では発症した感染症の診断と治療を行う.このように感染症科と感染制御部は異なるアプローチをするが,独立した感染症科のないわが国では,感染制御部がこの両方を受けもつ場合が多い.臨床微生物検査部においても,ICTの一員として従来の検査とは異なるシステムが要求されている.〔臨床検査 49:601-606,2005〕

感染制御の経済―感染のコストと予防への投資

著者: 福田治久 ,   今中雄一

ページ範囲:P.607 - P.614

〔SUMMARY〕 エビデンスに基づいた感染制御のあり方を論じる研究がなされる一方で,限られた資源の中で最大の効果を得るには,効果とともに費用を適切に評価していく必要がある.このテーマは社会的重要性が大きいにもかかわらず未開拓の研究領域といえよう.本稿は,感染制御の各種対策に要する費用,抗生剤使用量削減による経済的な影響の分析,感染制御システムの維持に要する費用計算結果などを提示し,感染制御に関する安全性の確保・維持に関する重要な理論・概念と費用推計について論じる.〔臨床検査 49:607-614,2005〕

技術解説

院内感染多発事例の分子疫学解析

著者: 関口純一朗 ,   藤野智子 ,   切替照雄

ページ範囲:P.615 - P.621

〔SUMMARY〕 分子疫学解析は,EBMに基づいた院内感染対策の基礎となる手法である.その解析手段として,最も有効な手法の一つがパルスフィールドゲル電気泳動法(PFGE)である.PFGEは,制限酵素によって切断した染色体DNAを,交互に電場をかけながら電気泳動させることで効率良く分離する方法で,複数の菌株同士が同一かどうかを判定することができる.ここでは,PFGEの技術と実際の院内感染事例の解析を述べる.〔臨床検査 49:615-621,2005〕

病院給食による食中毒と検査

著者: 小澤一弘

ページ範囲:P.623 - P.629

〔SUMMARY〕 食中毒とは食べた食品中に有害な成分が混入あるいは付着し,それが体に悪い影響を与えることであり,広い意味から考えれば食を介しての感染症とも考えられている.原因としては細菌,ウイルス,化学物質,自然毒などによるものであるが,その大部分は細菌によるものであった.しかし,近年ノロウイルスによる食中毒が大きな問題となっており,その予防および対策が,集団給食,病院給食にとって急務となっている.〔臨床検査 49:623-629,2005〕

院内感染制御と病院環境

感染対策を考慮した病院設計

著者: 小林信一

ページ範囲:P.631 - P.635

〔SUMMARY〕 病院設計の段階で,院内感染対策を考慮することは,Evidence-based Medicine(EBM)に基づいた院内感染対策を行ううえで大変重要なことである.しかしながら,これまで実践できた施設はかなり限られるのが現状である.国立成育医療センターでは,当初から感染管理委員会が病院設計や設備・備品に対して種々の提案を行い,多くのことが実現した.このことにより,今後の病院設計は院内感染対策を考慮して行うべきであるという見解が広まるきっかけとなることが期待される.〔臨床検査 49:631-635,2005〕

感染症制御支援システム

著者: 森野光雄

ページ範囲:P.637 - P.643

〔SUMMARY〕 近年,情報技術(IT)の高度化により医療のIT化が進行している.同時に,院内感染防止対策の重要性から感染対策チーム(ICT)の活動への期待が高まっている.様々なICT活動のなかで,日常的に院内で発生する感染症の発生動向を把握するシステムとして,サーベイランスを実施することが望まれるが,サーベイランスの実施には患者に関わる多様な情報の収集に多大な労力が必要とされる.ICT活動の限られた時間のなかで効果的に院内感染対策を実施するためには,情報システムの活用が欠かせない.〔臨床検査 49:637-643,2005〕

院内清掃を考え直す

著者: 森澤雄司

ページ範囲:P.645 - P.649

〔SUMMARY〕 病院における院内清掃は,環境整備の基本であり,Spaulding分類に応じた消毒・滅菌の考え方を遵守して,環境表面を高頻度接触面,低頻度接触水平面,低頻度接触垂直面に分類した合理的で科学的な根拠に基づく清掃を実施するべきである.医療法・第15条2項に定められるように,清掃業務を委託する際には病院の責任で委託業者を選定して,病院は主体的に環境整備のために院内清掃の充実を図るべきである.〔臨床検査 49:645-649,2005〕

話題

真空管採血法ガイドライン

著者: 大西宏明 ,   渡邊卓

ページ範囲:P.651 - P.654

1. はじめに

 2004年7月,日本臨床検査標準協議会(JCCLS)は,わが国で初めて標準採血法ガイドラインを発行した1).本稿では,院内感染制御というテーマに基づき,真空管採血における感染のリスクと,ガイドラインに示されている感染の防止策を中心に解説する.

バイオテロとその対策

著者: 加來浩器 ,   賀来満夫

ページ範囲:P.655 - P.659

1. はじめに

 バイオテロとは,微生物(およびそれが作り出す毒素)ならびに疾病媒介動物(蚊,ダニ,ノミなど)を意図的に散布して,政治的・宗教的・経済的にパニックを引き起こし,社会を混乱に陥れる行為である.近年,SARS,鳥インフルエンザ,狂牛病といった様々な感染症が,新興・再興感染症として国内外で問題となっているが,バイオテロは,自然流行の場合と異なる感染経路をとることから,広い意味での新興・再興感染症といえるだろう.欧米の感染症関連学会では,20世紀の冷戦直後からバイオテロの脅威が取り上げられており,軍・民挙げて対策が講じられてきた.米国では,1999年8月にニューヨーク市内でウエストナイル熱の患者が発生した際,疾病管理予防センター(Centers for Disease Control and Prevention;CDC)での実地疫学調査の訓練を終えた専門家(EISオフィサー:epidemiology intelligence service)が直ちに派遣され,バイオテロを想定した対策がとられた.また2001年の同時多発テロの翌日(9月12日)には,CDCが各州にバイオテロアラートを発し,主要な医療機関での拡大サーベイランスを行うよう指示した.10月には実際に炭疽菌テロの発生をみたが,その後も白い粉や猛毒リシンを用いた封筒事件が頻発しており,今後もバイオテロがいつ起こるともわからない状態となっている.このようにバイオテロ対策の先進国である米国では,常にバイオテロを念頭にした感染症危機管理体制がとられており,①兆候の早期発見システム,②被害の局限化,③院内感染制御,④検査体制の整備などに重点を置いている.

 一方国内では,地下鉄サリン事件を経験したにもかかわらず,本格的なバイオテロ対策が講じられるようになったのは21世紀になってからである.現在,各省庁・機関でバイオテロへの対応が整備されつつあるが,防衛庁においては“生物戦への対応”を念頭に整備を進め,“バイオテロ発生時にも対応”できるように準備しつつある1).本稿では,バイオテロの趨勢と共に,検査室が果たすべき役割や問題点について概説したいと思う.

結核の感染制御

著者: 佐々木結花

ページ範囲:P.661 - P.664

1. はじめに

 感染制御とは,感染症の発生を未然に防ぎ発生した感染症を制圧することであるが,結核は感染制御が困難な疾患と考えられる.なぜならば,結核は,空気感染であること,感染の有無の明確な判定ができないこと,潜伏期間が長期であること,既感染者は宿主の免疫能により発病の可能性が変化すること,社会的偏見が根強く,最新の知見と社会的常識に大きな差異があり,環境整備・診断後対応の標準化が困難であること,という現状があり,一筋縄ではいかない感染症であるという印象が強い.そのため,感染制御と同時に様々な問題に対応する必要がある.

海外からの感染症の院内感染制御

著者: 川名明彦

ページ範囲:P.665 - P.669

1. はじめに

 かつて日本国内でも赤痢,腸チフス,マラリア,寄生虫などによる感染症が多数見られた時代があるが,医学の進歩と衛生状態の改善により,現在これらの疾患は減少あるいは消失したかに見える.しかし海外では,熱帯・亜熱帯地域を中心にこれらの感染症が依然として流行しているばかりでなく,近年新種の感染症が出現している地域もある.現在日本から海外に出かける旅行者の数は毎年約1,500万人,海外から入国する外国人の数は約500万人1)と膨大な数にのぼり,海外でこれらの感染症に罹患する機会も増大している.航空機による高速移動のため,潜伏期間中に帰国することも十分可能であり,帰国後に発病する例もしばしば見られる.一般に日本の医療従事者は,海外の感染症に関して十分な知識を身につけていない場合が多く,診断やその管理に困惑しがちである.本稿では,これらの感染症の院内感染対策に焦点を絞ってまとめた.

今月の表紙 臨床生理検査・画像検査・18

乳腺疾患―DCIS,微小乳癌

著者: 尾本きよか

ページ範囲:P.586 - P.588

 非浸潤性乳管癌(ductal carcinoma in situ;DCIS)とは,乳管由来の癌細胞が乳管内小葉内に留まっていて間質への浸潤がみられないこと,すなわち癌の構成成分が乳管内癌巣のみの乳癌のことをいう.通常リンパ節や他の臓器に転移することはなく,手術で原発巣を取りきれれば完全に治すことができるとされる.しかし,たとえ浸潤性乳管癌であっても,発見された時点でその大きさが十分に小さければ,治癒する可能性は高い.それゆえDCISや微小乳癌の早期発見は大事であり,それらの超音波所見を日頃から理解しておくことは重要と考える.

 乳癌取扱い規約によると,腫瘍(原発巣)の大きさはT1≦2cmと定義されている.すなわち2cm以下の小さい段階で発見し,切除できれば病期分類のうえからも比較的良好な予後が期待できる.今回はまず小さな乳癌,特に1cm以下の浸潤性乳管癌の超音波像を提示する.図1は腫瘍径7mmと小さいが辺縁粗雑な低エコー腫瘤で,この写真だけからでは浸潤所見は明らかではない.しかし,別方向からの観察で周囲組織の引き込み像があったり,内部にわずかではあるが血流シグナルを認めたことより,悪性を考えた症例である.図2の腫瘍も径8mmと小さいが,縦横比が1以上と大きく,境界部に高エコー帯,すなわちハローを認めることより,乳癌と診断することは容易であろう.

コーヒーブレイク

大衆の心と文芸

著者: 屋形稔

ページ範囲:P.630 - P.630

 昨年NHKの大河ドラマでは新選組を1年間やっていたようであるが,視聴率はどうだったのであろうか.実は殆ど視る気がしなかったので,昔から幕末ものが好きなのにどうなってしまったのかと気にはしていたのである.

 度々映像や舞台になった昔の新選組の切迫感や演技者の迫力を覚えているためというしかない.若い俳優達は人気はあるのだろうが理解力が段々遠くなっているのだろうか.歴史ものの小説や映画の中で私自身は幕末ものと忠臣蔵ものは特に興味深く,若い頃は時代もの作家になってみようかと思った位である.

シリーズ最新医学講座 臨床現場における薬毒物検査の実際・4

確認分析・総論

著者: 福家千昭

ページ範囲:P.671 - P.677

機器分析による確認ってなぜ必要なんですか?

 例を示して説明することにします.薬毒物中毒の疑いで意識レベルが低下した患者さんが搬送されてきました.救急医より薬毒物分析の依頼があり,血清,尿,胃洗浄液が送られてきました.薬毒物検索のために各種迅速検査を行ったところ,TriageでTAC(三環系抗うつ薬)が陽性という結果を得ました.この患者さんは三環系抗うつ薬の何を飲んだのだろうか? その血液中濃度はどれくらいだろうか? 結果が臨床症状と一致するのだろうか? さらに詳細な情報を得るために分析機器を使って確認しよう.ということになるわけです(図1).

 一般に,簡易検査法や迅速検査法により得られた結果は,その化合物や化合物群が含まれている可能性があるということを示しています.治療目的で医師の指示通り服用していても陽性となることもあります.

研究

HCV抗体陽性検体におけるHCVコア抗原測定法の有用性

著者: 太田和秀一 ,   浦田兼司 ,   緑川清江 ,   原田哲史 ,   田上高徳 ,   長谷川達朗

ページ範囲:P.679 - P.685

〔SUMMARY〕 HCVに感染しているか否かの診断方法は,最初にHCV抗体スクリーニングを実施する.HCV抗体陽性の場合,追加試験としてHCV核酸増幅検査などでウイルスの有無を確認する方法が今までの流れであった.2003年3月に新たな方法として,高感度HCVコア抗原測定法が開発上市され,同年の老人保健事業検診の肝炎ウイルス等実施要領にHCV抗体陽性者に対してHCVコア抗原測定法が導入され,肝炎ウイルス等実施要領のフローチャートも新しく改訂された.

 本稿では,病院のルチン検査においても同フローチャートを用いることが実行可能か否かを検証し,実行可能と考えられたのでその有用性について報告する.

学会だより 第94回日本病理学会総会

第94回日本病理学会総会に参加して

著者: 飯原久仁子

ページ範囲:P.686 - P.686

第94回日本病理学会総会は,横浜みなとみらいのパシフィコ横浜で4月14日(木)~16日(土)に行われた.例年のごとく平日にかかる学会で,勤務先が近いこともあり,日常業務の合間をぬって,あわただしく大学,学会と行き来しながらの参加となった.パシフィコ横浜は以前にも病理学会が開催された場所だが,東横線が延長開通されて便利がよくなった.会場が広いため初日は参加者数が少ない印象で,特に示説展示場と演説の会場が離れており,示説セッションが始まるまでの展示場は,人がパラパラといる程度であったが,セッションが始まるや例年のように会場は熱気につつまれた.セッションは17:30~18:30と遅い時間帯であったが,討議時間が延長されるグループが多く,閉場の時間が近いので終了するようにとのアナウンスがしばしば聞かれた.

 今回は,“病理学から科学・医療・社会への情報発信”というテーマが掲げられており,新しい試みとして日本内分泌外科学会,日本内分泌病理学会,日本乳癌学会との合同シンポジウムが開催された.チーム医療の必要性がますます高まるなか,多くの実践的な情報が提供された.臨床医,放射線科医,病理医の連携が効率よく機能している病院においては,より円滑にかつ迅速に病気の診断がされ,それぞれのよい関係は患者への負担の軽減,および効率のよい治療につながることが再認識された.より迅速かつ的確な診断ができるよう,これからも臨床医,放射線科医との連携を深めようと決意も新たにした.

動いていく病理学

著者: 高橋さつき

ページ範囲:P.687 - P.687

第94回日本病理学会総会は,4月14~16日,みなとみらいのパシフィコ横浜で行われた.例年関東の春は早く,4月には若葉であるが,今年は横浜で桜に間にあった.このあと東北で,と2度の花見ができた.

 2002年の春にも同じ会場で総会だったが,当時に比べ,みなとみらい線がひかれ,高層ビルが建ち並び,テナントも確実に増えて,中に吸い込まれているとどこの近代都市にいたのだったかと戸惑ってしまう.が,外に出ると太平洋側の日差しとともに吹き止まぬ風で,港,海の近くにいたのだな,と再確認する.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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