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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査49巻8号

2005年08月発行

雑誌目次

今月の主題 これからの臨床検査技師教育を考える 巻頭言

診断科学と高度先進医療を担う臨床検査技師―研究者としての臨床検査技師育成の重要性

著者: 岩谷良則

ページ範囲:P.821 - P.822

糖尿病患者の尿が甘いことは古代インドでも既に認められていたが,その甘さが尿中のブドウ糖によるものであることは,1815年にミシェル・シュブルールによって解明された.そして尿糖検出法を最初に開発したのが,1902年に糖類およびプリン誘導体の合成に関する業績でノーベル化学賞を受賞したエミール・フィッシャーであった.その後,次々と尿中・血中の生体物質の検査法が開発され,現在の臨床化学検査に至っている.また1905年に結核の研究でノーベル医学・生理学賞を受賞したロベルト・コッホは,現在の臨床微生物検査の基礎を築き,1924年に心電図法の測定原理の発見でノーベル医学・生理学賞を受賞したウィレム・アイントーフェンは,現在の生理機能検査の基礎を築いた.このように20世紀初頭に医学に新しく登場した臨床検査は,初期は『医師』が診療の合間に診察室や研究室で検査を実施していたが,急速に発展・増大したため,病院のすべての検査をまとめて行う中央検査部が創設された.米国では1912年にコロラド大学附属病院に,日本では1950年に国立東京第一病院に作られた.そして,当初は『薬剤師』などが医師に代わって検査業務を担当したが,それに合わせて衛生検査技師法が制定された.しかし,臨床検査を専門に行う技術者の養成が強く望まれるようになり,1970年には臨床検査技師制度が新たに設けられ,『臨床検査技師』が検査業務を担当するようになった.しかし,欧米の臨床検査技師教育が早くから大学・大学院教育であったのに対して,国立の臨床検査技師教育施設は,3年制の医療技術短期大学部として整備された.このことが,日本の臨床検査学の研究の発展を妨げ,欧米に大きく水を開けられる結果となってしまった.

 幸い,2003年に国立のすべての臨床検査技師教育施設が大学へと移行した.これからは大学・大学院教育を受けた若い臨床検査技師を研究者としてしっかり育てる必要がある.それができれば,臨床検査の分野でも日本が世界をリードできるだろう.そのためには,臨床検査技師の卒前・卒後教育の体制をしっかりと整理していく必要がある.

歴史

臨床検査の歴史と担当職種の変遷

著者: 河合忠

ページ範囲:P.823 - P.826

〔SUMMARY〕 医療の基本は,医師と患者の直接的な接触が基本であり,問診,診察,検査による多種多様な情報により適切な診療が可能となる.そのうちでも,検査が最も客観性が高く,遠く紀元前400年頃から尿検査が利用され,近代医療では多種多様な検査が利用され,さらに一層高度化されている.検査は医師自身により行われたが,自前教育による補助員が,さらに近代では専門教育機関で教育を受けた有資格者が多くの検査を担当している.〔臨床検査 49:823-826,2005〕

卒前教育―現状と展望

現在の教育カリキュラムと国家試験

著者: 三村邦裕

ページ範囲:P.827 - P.833

〔SUMMARY〕 臨床検査技師教育は大きな転換期を迎えようとしている.それは社会の趨勢から高学歴化が進み,技術教育である臨床検査技師教育も専門学校から大学教育へと移行が進んでいることにある.2000年(平成12年)にカリキュラムの大綱化が行われ,それに伴い各養成施設の考えで教育内容が設定できるようになった.臨床検査学の学問的構築もなされようとする中,各養成施設の抱える教育に関する問題点について著す.さらにカリキュラムや国家試験についても触れる.〔臨床検査 49:827-833,2005〕

臨床検査学の研究

著者: 岩谷良則

ページ範囲:P.835 - P.838

〔SUMMARY〕 国立の臨床検査技師教育施設がすべて3年制教育から大学・大学院教育へ移行した.早晩,臨床検査技師が臨床検査学の研究の中心になるだろう.さらに検体検査のみならず生体検査も実施できる「日本の臨床検査技師」は,診断科学の専門家として,個々の医療機関の特色に合わせた最も適切かつ効率的な検査診断システムを構築する研究を推進するだろう.そして単に医療の高度化だけではなく,医療効率を高めて経営改善にも貢献し,21世紀医療の要になると予想される.また高度先進医療分野にも進出し,ノーベル賞級の研究者が育つことを期待する.〔臨床検査 49:835-838,2005〕

チーム医療

著者: 依藤史郎 ,   岩谷良則

ページ範囲:P.839 - P.842

〔SUMMARY〕 高度化し専門化する医療の中で,安全性を優先させながら質の高い医療を実践するためにはチーム医療が不可欠である.卒後に第一線の病院で働き始めるとすぐにチーム医療に取り組まねばならず,卒前に概念と実施方法を十分に教育しておく必要がある.そのためには,医療の中心である患者を常に意識させるためのベッドサイド教育と,多くの医療職種がどこで何をしているのか病院内の各現場に入り込んで見せることが効果的である.〔臨床検査 49:839-842,2005〕

医療経済

著者: 杉原茂

ページ範囲:P.843 - P.849

〔SUMMARY〕 医療費抑制や医療制度改革に向けた動きが活発であるが,こうした流れに主体的に対応しより良い医療を実現するためには,背景にある経済的要因や経済学の考え方を理解することが重要である.経済学によると,医療制度改革の目的は,やみくもに医療費を削減することではなく,コストに見合ったベネフィットを生み出す効率的な医療サービスの提供を促進することである.現在提案されている政策のうち,医療保険における自己負担の拡大,診療報酬制度の改革,市場メカニズムの導入,医療の標準化の推進について批判的に検討する.〔臨床検査 49:843-849,2005〕

卒後教育―現状と展望

一般病院における臨床検査技師の卒後教育

著者: 今村文章

ページ範囲:P.851 - P.854

〔SUMMARY〕 めざましい発展を見せる医療業界の中,臨床検査の分野においても同様である.また第4次医療法改正,臨床検査技師に関する法律,個人情報保護法,患者意識の変化などにより技術はもちろん,精度の向上,チーム医療への参画などを求められ,業務も昔と比べ複雑化していることから臨床検査技師の貢献すべき領域もこれまでと異なりつつある.これらの要求に応えるためには自主的,あるいは組織的かつ継続的な生涯教育の享受にほかならない.〔臨床検査 49:851-854,2005〕

大学病院における臨床検査技師の卒後教育

著者: 戸塚実

ページ範囲:P.855 - P.858

〔SUMMARY〕 臨床検査技師の卒後教育も他の職種と同様に,大学病院だけが実施するものではない.現実的には厳しいものがあるにせよ,それぞれが系統的な卒後教育カリキュラムを整えることが必要である.大学病院のカリキュラム作製に当たっては,大学病院であることを明確に意識し,検査部の理念の実践および技術と知識のレベルアップを目指すのはもちろんのこと,育成した人材を世に送り出すことも視野に入れたものであるべきと考える.〔臨床検査 49:855-858,2005〕

臨床検査関連学会と学術賞

著者: 立脇憲一

ページ範囲:P.859 - P.863

〔SUMMARY〕 日常検査業務に必要な検査方法を習得するには,臨床検査技師会に入会し,開催される勉強会や研修会に参加することが最も手っ取り早い近道である.加えて,技師として高度先進医療の技術基盤を支えていくためには,自ら臨床検査関連学会に入会し,さらに高度な専門知識や技術を修得し研究していくことが望まれる.そして,研究活動などから生まれた優れた業績に対しては,栄えある各種の学術賞などが授与される.ぜひ多くの臨床検査技師の方々が受賞されることを期待する.〔臨床検査 49:859-863,2005〕

期待される活動領域と技師教育

臨床検査部・病理部・輸血部

著者: 松尾収二

ページ範囲:P.865 - P.868

〔SUMMARY〕 臨床検査技師は他職種にない技能を有しており,期待される活動領域も感染対策,栄養管理などチーム医療と称するもの以外に,病棟担当技師,診療情報管理,臨床研究の推進,医師・看護師教育など限りなく広い.これからは臨床検査室で働く臨床検査技師ではなく,病院で働く臨床検査技師でなくてはならない.他職種との連携や患者との接触がますます必要となる中,技師教育は問題解決能力,感受性,人としての態度といった基本的な教育がより大事になるだろう.〔臨床検査 49:865 -868,2005〕

感染制御部

著者: 浅利誠志

ページ範囲:P.869 - P.871

〔SUMMARY〕 病院は病原菌の巣窟である.外来には結核,麻疹,赤痢患者などが訪れ,さらに,病室には易感染性患者と耐性菌感染患者が混在しているため,院内は多種多様な微生物の交差感染の場となっている.これら院内の感染制御は,正確かつ迅速な感染症検査と検査データの疫学統計が行われて初めて成り立つため,有能な検査技師を育成することが感染対策強化の基本である.さらに,複雑多岐にわたる感染制御業務をこなす感染制御担当官(ICP)として,臨床検査技師が注目されている.〔臨床検査 49:869-871,2005〕

高度先進医療部門

著者: 笠井泰成 ,   前川平

ページ範囲:P.872 - P.873

〔SUMMARY〕 高度先進医療は数多くの基礎研究と技術開発を礎として,その成果の上に成り立っている.なかでも,最新の知識や技術を集約した細胞治療や再生治療は,専門化された教育訓練を受けた多くの医療スタッフにより構成され,実施されるチーム医療でもある.臨床検査技師にとっても専門的な知識や技術だけでなく,生命倫理に対する確固たる見識が必要とされ,これらの先進医療開発分野も新たな活躍の場として期待できる.〔臨床検査 49:872-873,2005〕

これからの臨床検査技師に望むこと

著者: 林正好

ページ範囲:P.875 - P.877

〔SUMMARY〕 臨床検査技師の役割は技術の進歩,時代背景,取り巻く環境の変化などに合わせ,時々刻々変わってきている.過去は分析技術や測定原理そのものを追求し,そのことで医療に貢献してきたが,21世紀になり時代は技師にそのようなことを求めなくなった.本稿では,現在,将来を含め検査技師に求められるスキルと新たな役割について,検査の歴史的な役割の変遷を交えながらまとめた.〔臨床検査 49:875-877,2005〕

医療機器の研究開発から見た臨床検査技師教育

著者: 北口暢哉

ページ範囲:P.879 - P.882

〔SUMMARY〕 体外循環による血液浄化デバイス,とりわけ,白血球除去治療器を例にとって,EBMの流れの中で,明確な作用機序が体外循環除去治療器にも求められるようになったことを述べる.それを踏まえ,医療機器メーカに就職される臨床検査技師の皆様へ望むこととして,細胞機能,骨髄幼若細胞,免疫細胞サブタイプのバランスなどに関する深い知識を挙げる.さらに,疾患とその血液性状に対する知識,および患者様の心を想いいたせる人間性の修得も期待したい.〔臨床検査 49:879-882,2005〕

大学・研究機関の教育・研究者

著者: 長村洋一

ページ範囲:P.883 - P.888

〔SUMMARY〕 臨床検査技師が法律上明確にされたのは1970年(昭和45年)であり,歴史的には40年以上経過しているが,4年制課程による教育制度が充実し始めたのはまだ最近のことである.そのため,大学および研究機関において,現在トップとして活躍している臨床検査技師の数はまだ少ない.ここでは,4年制以外の臨床検査技師養成機関の卒業後,現在大学の教授として活躍している人と,1970年(昭和45年)当初4年制教育課程を経て臨床検査技師となり,現在教授として活躍している人を主として取り上げ紹介をする.そして,学歴の壁を乗り越えて頑張っている多くの臨床検査技師と4年制教育を受けて臨床検査技師となっている方々の懸命の努力が,臨床検査技師を技師が教育する態勢の確立へ向かって確実なものにしつつあることを浮き彫りにする.〔臨床検査 49:883-888,2005〕

外国の医療と臨床検査技師

米国の医療と臨床検査

著者: 坂野弘太郎

ページ範囲:P.889 - P.894

〔SUMMARY〕 日米の医療事情の違いもあり,それぞれの臨床検査には類似点も多いが,様々な差異も見受けられる.日本の臨床検査は,包括医療を始めとする医療環境の変革のなか,効率化やコスト削減が至上命題となっている.今後とも医療の質の維持,向上に欠かすことのできない適切な臨床検査を推進するため,短期的な施策に加えて教育や啓発などの中長期を見据えた施策を検討するための他山の石となる情報もあるかもしれない.〔臨床検査 49:889-894,2005〕

諸外国の臨床検査と臨床検査技師教育

著者: 近藤弘 ,   狩野元成 ,   巽典之

ページ範囲:P.895 - P.898

〔SUMMARY〕 欧米,アジア・オセアニア諸国から回答を得た臨床検査技師とその教育制度に関するアンケート調査の結果をもとに,これら諸国とわが国の現状を比較した.さらにカナダ,米国に関しては現地での聞き取り調査,文献などをもとに臨床検査技師の資格と教育制度についての具体例を示し,スウエーデンに関しては文献から歴史的経過を辿った.これらの情報をもとに,今後,わが国における臨床検査技師教育が目指す方向性について考案した.〔臨床検査 49:895-898,2005〕

MDアンダーソンがんセンターの臨床検査技師

著者: 田部陽子

ページ範囲:P.899 - P.902

〔SUMMARY〕 米国癌専門病院MDアンダーソンがんセンター(MDACC)検査部の臨床検査技師の業務を概説した.MDACC検査部は,その高収益性に支えられて優れたマンパワーと分析機器,先進的なコンピューターシステムを有し,業務の充実を進めている.臨床検査技師の業務内容は,有する資格によって異なり,MDACCでは,特に専門知識と技術を有する臨床検査技師の育成に努め,先進的検査の開発と実施に力を入れている.〔臨床検査 49:899-902,2005〕

話題

LAMP法の特長と開発の経緯

著者: 納富継宣

ページ範囲:P.903 - P.906

1. Loop-mediated isothermal amplification(LAMP)法の開発の経緯1,2)

 遺伝子検査技術開発への取り組みは,社内では1980年代中頃より始められていた.ラジオアイソトープ標識したDNAプローブを用いたハイブリダイゼーション法によるものである.1990年頃には,結核菌の遺伝子検査試薬の開発に一旦成功したが,そのころ,PCR法やNASBA法などの原理的には1分子の核酸も検出可能な遺伝子増幅法が相次いで開発され,培養不要で検出する時代に入ったため,単なるハイブリダイゼーション検出だけの時代は終わった.遺伝子検査には遺伝子増幅法が欠かせない技術であることから,社内でも増幅法自体の考案から研究が進められた.当グループでは,数えれば10種以上の増幅原理が考案されたが,いくつかは原理面の欠陥があり,いくつかは既に特許が存在していた.またいくつかは検討を行ったが,実用レベルには達しない程度のものであった.やはりPCRと肩を並べ,あるいは凌駕するような技術は無理ではないかと思われた.遺伝子検査関連で方法論以外の研究への方向転換も模索し始めていたが,しかし増幅法について考える習慣は続いており,何とかならないものかと思案は続けていた.PCRのように温度サイクルをさせずに増幅させるには,やはり鎖置換型合成酵素を使うことになるだろう.DNA合成反応が進めば二本鎖になってしまうが,でも反応を連続させるにはどうすればいいか.複数の酵素は使用したくない(条件設定が複雑になるので).考えの方向性は,これまでの数々の経験(研究そのものの成果が出たわけではないが,遺伝子増幅にとっての重要な知見が得られていた)により,かなり明確になってきていた.あるものを壊す反応ではなく,無いものを新たに作る反応系であること,一定温度での反応であること,従来の方法にないメリットがあること,反応系自体がシンプルであることなどである.

 あるとき,机に向かい,紙に2本鎖状態のDNAを書いて考えていたところ,「あれ,くるっとDNAの3′末端をループを作って自身にハイブリダイズさせると,自己を鋳型とした合成が進むではないか」ということをあらためて認識した.でも,どうやってこのような構造にするのか,鋳型そのものに相補的な部分がないといけない.プライマーの5′末端にその相補部分をあらかじめくっつけておくといいのではないか? そうすると,合成反応が進んで戻ってきたときには,プライマーの部分の相補鎖も合成され,その末端が3′になって,自分自身にループを作ってアニールして自己を鋳型として合成が進む.そこで,センス鎖,アンチセンス鎖の両方のプライマーにその部分をつけて,また鎖置換型酵素を使用したときの反応について,シミュレートして紙に書き続けていったところ,うまい具合に後述するLAMP法の起点構造ができ,この起点構造はさらに進むと再び合成され,原理的に反応がうまく回転する(つまり,放っておけば勝手に複製反応が進行する)ことがわかり,図1のLAMP法の原理図を書き上げた.

今月の表紙 染色体検査・2

先天異常染色体解析例

著者: 西島裕和

ページ範囲:P.818 - P.819

 ヒトの染色体分析は1970年以降CasperssonらによるQ分染法の開発を契機に,C,G,Rなどの様々な分染法が開発され発展した.これを受けて当施設では1976年より染色体検査を導入し,1978年にG分染法をルーチン検査に取り入れ,さらに1982年にC,Q,Rの各種分染法を導入した.また,1990年代に入り遺伝子マッピングや分子レベルにおける染色体構造異常の解析手法として,蛍光in situハイブリダイゼーション(fluorescence in situ hybridization;FISH)が急速に進展した.当施設でも1992年より先天異常疾患を対象にFISH法を導入し,その後血液疾患,固形腫瘍を対象にルーチン検査の中に取り入れ,臨床の様々な分野からの要望に対し精度の高い検査結果を提供できるように心がけてきた.

 さて前回はルーチン検査としては最も新しいSKY法の解析例が紹介されたが,今回は多くの施設で用いられているG分染法とFISH法を併用した解析例を紹介する.

コーヒーブレイク

戦友歓談

著者: 屋形稔

ページ範囲:P.850 - P.850

 むかし戦の庭で勲功を立てた人には金鵄勲章というものが贈られた.平和日本にはこういうものはないが様々の形で勲章は存在しているようである.縁がないと思っていた不肖のわが輩にも昨秋文部科学省を通して瑞宝章というものが下賜された.

 本人よりも新潟近辺の臨床検査を通じて関わりあった人々が,わがことのように歓んでくれた.その挙句震災復興が一段落した年明け2月に,市内のイタリヤ軒というホテルに集まって歓談の宴を開いてくれることになった.案内は新潟市近辺に限定されたらしいが,新旧検査部の医師,技官,検査技師,技師学校卒業生,医師会,検査技師会等々のいわばこの道の戦友というべき人々が一堂に会しての和やかな会となった.人々は予測しなかったようであるがこの一週間後に私は傘寿の日を迎えることになっており,この偶然をひそかに歓んだ.

シリーズ最新医学講座 臨床現場における薬毒物検査の実際・6

確認分析法(HPLC, LC/MS)

著者: 工藤恵子 ,   鮫島一郎 ,   石田知己 ,   池田典昭

ページ範囲:P.907 - P.917

はじめに

 和歌山の毒入りカレー事件やその後に頻発した毒物混入事件を契機に,臨床現場における薬毒物検査の重要性が認識され,旧厚生省が全国73の救命救急センターに分析機器を配備したのは1998年(平成10年)度のことである.このとき最も多くの施設に配備されたのが蛍光X線分析装置とならんで,高速液体クロマトグラフィー(HPLC)であった.あれから6年が経過し,配備された分析機器を用いた薬毒物分析が順調に行われている施設も多数存在する一方,分析を開始してみたものの思ったように結果を得ることができず,現在では全く分析が行われていない施設も見受けられる.また,機器の配備は行われなかったが,独自に分析機器を購入して薬毒物分析を立ち上げた施設もある.このような状況下,今一度基本に戻り「臨床現場における薬毒物検査の重要性」を再認識し,より実用性の高い分析を行うことは重要であると思われる.

 本稿では,HPLCと高速液体クロマトグラフィー/質量分析法(LC/MS)の原理を簡単に紹介すると同時に,これらの分析機器を用いて「できること・できないこと」,さらに機器を使用するうえで最低限知っておきたい注意点について,実際の臨床症例における分析経験も交えながら解説する.

学会だより 日本超音波医学会第78回学術集会

循環器領域:心機能と動脈硬化をクローズアップ

著者: 田中伸明

ページ範囲:P.919 - P.919

上記学術集会が,2005年5月20日(金)~22日(日)の日程で東京国際フォーラムにおいて開催されました.私は主に循環器領域のセッションに参加しましたが,その範囲内での私の印象を報告させていただきます.

 本学術集会会長は,菅原基晃先生(東京女子医科大学附属日本心臓血圧研究所基礎循環器科)でしたが,「画像と機能の超音波」をキャッチフレーズに掲げられ,全体的な印象としては,本学会の特徴でもある工学領域と医学領域の連携とバランスがとれた内容であったと思います.たとえば,シンポジウム1と4は,いずれも今話題のストレインを扱いながら,1ではTissue elasticity imagingがテーマで心筋以外を対象としたストレインについて,一方では基礎技術的な立場から,他方では臨床家の立場からのご発表をうまく組み合わせた構成でした.シンポジウム4では,心機能評価の面から注目を集めている心筋ストレインについて,ライブデモンストレーションを交えながらの進行で,最後には心臓力学の権威である菅弘之先生(国立循環器病センター研究所所長)の特別発言をいただくなど,こちらも趣向を凝らした構成でした.

形態診断,機能診断から治療へ―超音波のブレークスルーを求めて

著者: 畠二郎

ページ範囲:P.920 - P.920

日本超音波医学会第78回学術集会は,東京女子医科大学附属日本心臓血圧研究所基礎循環器科,菅原基晃教授を会長として,2005年5月20日~22日までの期間,東京国際フォーラムで開催されました.幸いなことに比較的好天に恵まれ,3,455名という多くの参加者により活気あふれる学会となりました.今回の学術集会では,菅原会長より「画像と機能の超音波」というキャッチフレーズが掲げられ,画像診断,機能診断,さらには治療応用における数々の新技術や新知見が報告されました.

 腹部領域の企画として,シンポジウム「腹部超音波診断の新技術」では肝線維化の評価,膵疾患へのelastographyの応用,3D表示,virtual sonography,次世代造影剤など,tissue characterizationからmicroperfusionの評価まで幅広い分野での知見が紹介されました.他に「子宮頸管の超音波所見とその臨床的意義」,「前立腺癌における超音波医学の進歩」,パネルディスカッションでは「超音波による膵疾患の診断」,「超音波による消化管疾患の診断」,「造影超音波の新しい映像手法とその臨床的有用性」,ワークショップでは「超音波内視鏡下穿刺による生検と治療応用」,「治療支援画像診断システムとしての超音波」,など各セッションにおいて活発な討論がなされました.一般演題も質の高いものが多く,多くの参加者を交えて活発な質疑応答がなされていました.また教育セッション,展示会場におけるメーカー各社からのフロンティア・テクノロジーの紹介と個々のレベルや興味に応じた盛りだくさんの学習機会が与えられていました.

第54回日本医学検査学会

求められているもの~それはチーム医療とマネージメントできる臨床検査技師

著者: 小林加奈

ページ範囲:P.921 - P.921

第54回日本医学検査学会は新緑が目に眩しい国立京都国際会館を中心に5月13日(金),14日(土)の2日間にわたり開催されました.メインテーマは「知恵と創造の未来をめざす」とし,経済的にも厳しい昨今,新しい知識,技術にふれ知恵と工夫で一層の発展と創造の未来をめざしていこうという流れが感じられました.

 シンポジウムⅡでは「これからどうする感染症検査室」と題して,様々な立場や視点からこれからの微生物検査室について提案をされました.検査センターは初期治療には不向きなため,塗抹検査や抗原検査などの迅速検査は院内で行うべきであり,医師からの信頼を得るには同じ目線と立場で診断・治療に本当に役立つ情報の提供が不可欠であること,そのうえで収益性に変わる付加価値が必要であり,不要過剰な検査を行わない技師の自覚とマネージメントが重要と話されました.また,チーム医療~他職種とのコラボレーションでは,看護師との連携が最重要であり,謙虚な気持ちでチームの一員としてコミュニケーションをとっていかなければいけないことや,臨床検査技師として活躍の場は検査室内だけではなく,創傷管理や栄養管理などチーム医療の一員として様々な分野があることが分かりました.シンポジウムⅣでは「検査室からの抗菌薬療法支援」として,抗菌薬治療の実際と日本におけるNCCLSガイドライン適応の限界,PK/PD理論を用いた検査室からの新しいアプローチについて活発な討論がなされました.その中でこれからは臨床評価できる臨床検査技師として,1名の技師が1症例を追いかける必要があるのではと提案されました.

臨床検査の専門性を発揮した臨床支援(参画)を目指す

著者: 宇治橋善勝

ページ範囲:P.922 - P.923

第54回日本医学検査学会は,2005年5月13日,14日の両日にわたり,地球温暖化防止会議でも有名な国立京都国際会館で開催された.学会期間中は晴天に恵まれ,学会場がある宝ヶ池周辺は新緑がまぶしく,回遊庭園での散策は日頃のストレスを癒してくれるものであった.

 本学会のメインテーマは「知恵と創造の未来をめざす」とされ,学会長の田畑勝好先生の熱意が盛り込まれたテーマであった.先生の熱意は学会長講演においても感じられ,現在われわれが使用している分析機器の基礎を築かれ,酵素法による臨床化学分析での研究成果や,新しい検査法の開発に対する情熱は驚くばかりであった.私も現在行っている日常の検査業務の中から疑問点を見つけ出し,知識の探求をすべきであると改めて考えさせられた.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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