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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査50巻1号

2006年01月発行

雑誌目次

今月の主題 PK/PD解析を指標とした感染症治療 巻頭言

抗菌薬とPK/PD

著者: 岩田敏

ページ範囲:P.7 - P.8

1.感染症治療へのPK/PDの導入

 近年,薬物の効果を,薬物動態(Pharmacokinetics;PK)と薬力学(Pharmacodynamics;PD)の関係から理解しようとする考え方が導入されるようになり,薬剤の開発,臨床応用に利用されている.感染症治療に使用される抗菌薬の場合にも,耐性菌の出現や副作用の発現を最小限に抑えてより効果的な治療を行うという抗菌薬適正使用の観点から,PK/PDを指標とした抗菌薬投与法は重要視されている.抗菌薬の場合,降圧剤や抗痙攣薬のように,循環器系や中枢神経系など,直接人体に作用して薬効を発揮する薬剤とは異なり,人体に感染して悪さをしている病原微生物に作用して薬効を発揮するため,特定の病原微生物によって起きている感染症に対する効果を,in vitroの抗菌活性と体内動態から類推することが比較的容易である.特に病因微生物の消長により判定する細菌学的効果とPK/PD解析から求められる各種パラメーターとの間には一定の相関が認められる場合が多いようである.逆に,生体の感染防御機構の関与する度合が高くなる臨床的効果については,それらのパラメーターと必ずしも相関しない場合も少なくない.

 それでは抗菌薬の効果をより増強させるような投与方法,耐性菌を出現させにくいような投与方法,あるいは副作用が起こりにくい投与方法とはどのように考えていったらよいのであろうか.それらの詳細については,今回の特集の中で,それぞれの専門家の先生方が詳細に論じて下さっているので,そちらをお読みいただければご理解いただけるはずであるが,巻頭における読者の皆様への枕詞として,抗菌薬とPK/PDの関係について簡単に述べる.

総説

薬物治療におけるPK/PD解析の意義

著者: 鈴木小夜 ,   谷川原祐介

ページ範囲:P.9 - P.17

抗菌薬治療においては,従来よりアミノグリコシド系抗菌薬,グリコペプチド系抗菌薬の血中濃度モニタリングによる個別化治療が行われてきた.しかし薬物の効果は,薬物投与後の経過時間と血中濃度推移の関係(pharmacokinetics;PK)と,血中濃度と効果の関係(pharmacodynamics;PD)の両者に依存するため,これらを統合して定量的に評価するPK/PD解析により個々の患者におけるより理想的かつ科学的な薬物治療が実現する.〔臨床検査 50:9-17,2006〕

PK/PDを考慮した抗菌薬の適正使用とは

著者: 戸塚恭一

ページ範囲:P.18 - P.22

PK/PDの検討は有効性を高め,副作用の防止や耐性菌の抑制のために重要である.それぞれの抗菌薬のもつPKやPDの特性を生かして治療を行うことが抗菌薬の適正使用に結びつく.〔臨床検査 50:18-22,2006〕

抗菌薬治療における副現象とPK/PD―1.耐性菌の出現

著者: 満山順一

ページ範囲:P.23 - P.31

薬剤耐性菌は感染症治療における大きな問題のひとつである.耐性菌の出現を抑制するための研究は遅れていたが,近年,その出現を完全に抑制する濃度(Mutant prevention concentration;MPC)と選択濃度域(Mutant selection window;MSW)の考え方が見出され,pharmacokinetics/pharmacodynamics(PK/PD)の概念と組み合わせることにより,耐性菌の出現を理論的に解析しようとする試みがなされている.〔臨床検査 50:23-31,2006〕

抗菌薬治療における副現象とPK/PD―2.副作用の発現

著者: 堀誠治 ,   荻野弘美

ページ範囲:P.33 - P.39

抗菌薬の副作用のうち,PK/PD解析をふまえ発現の防止を考えられるものに,投与量(濃度)依存的に発現する副作用を上げることができる.これらのなかで,PKパラメーターと副作用発現との関連性が指摘されているものには,アミノ配糖体薬,グリコペプチド薬の腎障害などがある.今後,抗菌薬の副作用発現機序の解明とともに,PK成績と副作用発現との関連性の検討が進むことが期待される.〔臨床検査 50:33-39,2005〕

各論

薬物動態シミュレーションプログラム

著者: 木村利美 ,   矢後和夫

ページ範囲:P.41 - P.47

臨床においてPK/PDパラメータを活用するためには,抗菌薬の投与設計に伴うパラメータの変動を算出しなければならない.薬物動態推移をシミュレーションするためには薬物動態をコンパートメントモデル式に当てはめ,電卓あるいはコンピュータによる非線形最小二乗法などを用いてパラメータの算出を行う.コンピュータによる薬物動態シミュレーションを行う場合,PEDA, MULTI, ClinKinetcsi-K, USC*PACKなどが利用できる.〔臨床検査 50:41-47,2006〕

PK/PDパラメータを用いた臨床検査室からの抗菌薬治療支援情報の提供

著者: 阿部教行 ,   小松方

ページ範囲:P.49 - P.54

臨床検査室から抗菌薬治療支援情報の提供を充実させるには,CLSIブレークポイントを使用した評価だけでなく,患者個々の特徴に応じたPK/PDブレークポイントを提示できる技術が必要となる.国内の臨床第I相試験成績に基づきPK/PDブレークポイントを算出したところ,CLSIブレークポイントより2~5管低いMIC値を示すことを見いだした.PK/PDブレークポイントは,同一抗菌薬でも腎機能や抗菌薬の用法用量が異なるたびに自由自在に変化させることができる.今後臨床検査室にもこのような考え方が普及し,検査結果に基づいた抗菌薬療法の確実性がより向上されることを期待したい.〔臨床検査 50:49-54,2006〕

腎不全患者における抗菌薬の体内動態に基づいた感染症治療

著者: 古久保拓

ページ範囲:P.55 - P.62

現在臨床で用いられている抗菌薬のうち腎排泄型のものは少なくなく,腎機能あるいは血液浄化法に応じた投与設計が必要である.しかし,その投与設計において薬物動態学的あるいは薬動力学的特性を考慮しなければ,効果を引き出すことができないばかりか,副作用のみを出現させることになりかねない.また,腎毒性を有する薬剤では腎機能が残存した腎不全患者には選択しないことも重要な選択肢である.〔臨床検査 50:55-62,2006〕

呼吸器感染症治療におけるPK/PDの考え方

著者: 二木芳人 ,   吉田耕一郎

ページ範囲:P.63 - P.67

呼吸器感染症の主要原因菌は,院内感染のみならず市中感染でも著しい耐性化傾向を示し,それらを治療するべき新規抗菌薬の開発も停滞している.われわれは手持ちの抗菌薬をより理論的かつ効果的に用いてこれら耐性菌感染症を治療すると同時に,これ以上の耐性化を遅らせる努力をしなければならず,PK/PD分析はそのために有益である.ただし,呼吸器感染症の原因菌あるいは病態は多彩であり,それぞれに応じた設定が必要である.〔臨床検査 50:63-67,2006〕

泌尿器科領域感染症治療におけるPK/PDの考え方

著者: 村谷哲郎 ,   松本哲朗

ページ範囲:P.69 - P.74

尿路感染症治療に相関する薬物動態パラメーターについては,いまだ明確なデータが示されていない.血中濃度,組織内濃度,尿中濃度,尿中累積量のいずれが相関するのか,現段階ではデータが少なく不明である.PK/PDの考え方を尿路感染症治療に利用した方法として,Urinary bactericidal titerと日本化学療法学会の尿路感染症におけるブレイクポイントがあり,これらに加えて,淋菌性尿道炎におけるTherapeutic time(治療時間)について言及した.〔臨床検査 50:69-74,2006〕

小児科領域感染症治療におけるPK/PDの考え方

著者: 豊永義清

ページ範囲:P.75 - P.85

小児科領域は新生児期から学童期までの長い年齢にわたっており,薬物の体内動態の違いは明らかである.近年,薬物動態と薬力学の関係(PK/PD)から臨床効果を理解しようとする研究が進められ,小児科では特に至適投与量,投与間隔の設定では一助になり得る.慢然とした薬剤選択こそ,耐性菌の増長の原因であり,臨床効果を産み出さない.年齢に応じたPK/PDパラメータを各薬剤毎に理解し,投与計画をすることが小児科での適切な医療の基になるのであろう.〔臨床検査 50:75-85,2006〕

話題

抗菌薬の開発におけるPK/PD解析の応用と標準化―1.非臨床試験

著者: 宮崎修一

ページ範囲:P.87 - P.90

1.はじめに

 抗菌薬の開発において,従来健常人における複数の投与量でのpharmacokinetic(PK)に関する検討成績および小規模な用法・用量と薬効との関係成績を基に,臨床での投与量が設定されてきた.最近,欧米では臨床での用法・用量の設定を目的とした薬効にかかわる非臨床PK/PDパラメータ値の算出,および同系統既存抗菌薬の臨床での用法・用量を基に治験での用法・用量が設定されている1~3).日本においても,この考え方が導入されつつあり,臨床での用法・用量設定のための非臨床試験であるin vitroおよびin vivo試験系から目的に応じて選択し,試行している1,2)

 この臨床での用法・用量設定のための各種試験系の標準化すべき内容について,欧米でのガイダンスを参照しながら日本での現状を概説する.

抗菌薬の開発におけるPK/PD解析の応用と標準化―2.臨床試験

著者: 佐々木緊

ページ範囲:P.91 - P.97

1.はじめに

 抗菌薬開発および抗菌薬療法とpharmacokinetics(PK)/pharmacodynamics(PD)とのかかわりについてはいろいろな場面において密接な関係を有している.新規抗菌薬の開発の場面においては,開発薬の用法・用量の設定の際に必要となり,開発の初期の段階で得られるin vivo PK/PD検討成績とヒトでのPhase1試験の体内動態成績(PK成績)とを総合的に勘案して,開発薬の適正な用法・用量を考案する.

 また抗菌薬療法の場面においては,抗菌活性を最大限に生かす用法・用量を考慮し,副作用をできるだけ少なくし,耐性菌の出現を防止するために適切な投与方法を考案する際にPK/PD解析が関係してくる.

 抗菌薬開発においてPK/PD解析の概念を導入し活用することは海外はもとより国内においても定着しつつあるが,このような事例について国内および海外での現状の一端を紹介する.

今月の表紙 細胞診:感染と細胞所見・1

コイロサイトーシス

著者: 住石歩 ,   海野みちる ,   坂本穆彦

ページ範囲:P.4 - P.6

1920年頃にパパニコロウが確立した細胞の形態から悪性腫瘍の診断をしようとする細胞診は,悪性腫瘍の早期発見を目的とした医療現場や集団検診の中で発展を遂げ,スクリーニング検査として広く普及している.厚生労働省は2004(平成16)年3月「がん検診に関する検討会中間報告」をまとめたが,この中で,子宮頸部の細胞診による子宮頸部がん検診は“現在のところ,検診による子宮頸部がんの死亡率減少効果があるとする十分な根拠があるとされており,精度の高い検診手法である”と記載されている1~3)(図1).子宮頸部癌は浸潤癌になる前に,細胞診により上皮内腫瘍の段階で発見することができる.上皮内腫瘍は軽度異形成・中等度異形成・高度異形成・上皮内癌に分けて表記されることもある.近年,子宮頸部扁平上皮癌では,その病態にhuman papilloma virus(HPV)が関与することが疫学的に明らかにされた.わが国の「子宮頸癌取扱い規約・改訂第2版」組織分類では“HPV感染による細胞異型であるコイロサイトーシスは軽度異形成に含まれる”と明記されている4)

 コイロサイトの特徴は,扁平上皮細胞の核の周囲が大きく抜け,細胞質辺縁が厚く肥厚する点であり,パパニコロウ染色でライトグリーンやオレンジ色に染まる.核は単核および多核で,核の不整が観察される細胞もある(図2~4).パパニコロウ染色による光学顕微鏡標本では,ウイルスを見ることはできないが,in situ hybridization法により,ドット状に染まるHPVを確認することができる(図6,7).HPVが扁平上皮細胞に感染するときは,まず基底細胞に感染し,少ないDNAだけで潜伏する.表層の分化した細胞では,潜伏していたDNAの1万倍以上のコピーにまで増え,キャプシドもつくられ自らをウイルスとして形成している.このとき細胞・組織学的にコイロサイトーシスとして観察される(図5~7).

コーヒーブレイク

川が語る

著者: 屋形稔

ページ範囲:P.32 - P.32

前にも本欄で触れたことがあったが,10年程前から同門の有志と年1回6月頃旅をすることにしており,光風会と名づけている.常連は信州大(遺伝)S君,昭和大(検査)K君,自治大(検査)Y君である.2005年はY君の当番で日光の奥,湯西川温泉に集まった.

 平家落人伝説の地だけあって幽邃の山奥で,会津山地にも絡がる.最近の大河ドラマ源義経の北陸,奥州への逃避行も哀れであるが,源平の戦さに敗れた平家が厳しい手を逃れて辺境の地を求めて身をかくした物語はさらに哀れである.

シリーズ最新医学講座 法医学の遺伝子検査・1

総説・法医学領域の遺伝子検査法の変遷

著者: 赤根敦

ページ範囲:P.99 - P.105

法医鑑定

 ほとんどの大学(大学院)の法医学教室では業務として法医解剖(司法解剖,行政解剖)などの法医鑑定業務を行っている.法医解剖の目的は犯罪関与の疑いのある死体の死因を(外因死であればその手段を含めて)鑑定することであるが,身元不明の死体の場合には個人識別という鑑定事項がこれに加わる.また,事件・事故現場で発見された血痕,精液斑などの斑痕試料についても,誰由来のものであるかの個人識別を行う.

 人体の個人識別は,警察が所持品等で捜査するが,同時に身体から得られる種々の医学的な特徴(先天性身体特徴,多因子遺伝形質,後天性身体特徴)を調べて確認をとる.先天性身体特徴とは単一の遺伝子で決定される遺伝形質(メンデルの法則に従って遺伝される身体の各種構造や機能)で,血液型やDNA多型が該当する.多因子遺伝形質とは複数の遺伝子が関与する形質で,環境の影響を受けるものを含み,容貌,体格,指紋などが該当する.後天性身体特徴とは出生後の人生で体に刻まれた個人的特徴で,傷痕,手術痕,歯の治療痕,刺青などである.多因子遺伝形質と後天性身体特徴とが個人の特定に決定的であるが,死後変化で識別できない場合や特徴的な所見がみられない場合もある.そのような場合を含めて個人情報として有用なのが先天性身体特徴である.

研究

ダイオキシンにより羊膜上皮細胞で誘導される遺伝子のDNAマイクロアレイとQuantitative Real-Time PCRによる探索

著者: 安部由美子 ,   小亀浩市 ,   寒川賢治 ,   宮本薫

ページ範囲:P.107 - P.112

DNAマイクロアレイとQuantitative Real-Time PCRにより,胎児由来細胞であるヒト羊膜上皮細胞でダイオキシンにより誘導される遺伝子を検索した.ダイオキシンの標的遺伝子として知られているCYP1A1とCYP1B1とともに,インターフェロン誘導性遺伝子の発現量の増加が認められ,今回の方法は,ヒトの胎児胎盤系へのダイオキシンの作用を探索する上で有用と思われる.

追悼

佐々木匡秀先生の思い出―最後の一仕事をしよう

著者: 只野壽太郎

ページ範囲:P.114 - P.115

1981年佐々木匡秀(ささきまさひで)先生は高知医科大学,私は佐賀医科大学の臨床検査部に赴任しました.小さな大学付属病院だけに,何か特色がないと埋没してしまうと考えて出した結論は,当時の国立大学病院で,何処もやっていなかった24時間365日の検査体制を作ることでした.

 ところが開院初年度の検査技師数はわずか12人,このため徹底的な検査の自動化が必要と考え,佐々木先生は手作りのベルトラインシステム,私は搬送ラインとハンドリングロボットを組み合わせた自動検査システムを開発・導入しました.佐々木先生は,当時同じように自動化に取り組んだ浜松医大の菅野剛史先生,秋田大学の故上杉四郎先生を加えた臨床検査自動化4人組を代表し,このシステムを広めるため,自作のビデオを携えて世界各国でキャンペーンを始めました.この結果,搬送ラインを組み込んだ自動分析装置は,世界中の大規模病院で,自動検査システムの無い検査室は見つけられないほど普及しました.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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