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雑誌目次

論文

臨床検査50巻4号

2006年04月発行

雑誌目次

今月の主題 検査室におけるインシデント・アクシデント 巻頭言

検査室におけるインシデント・アクシデント

著者: 片山善章

ページ範囲:P.363 - P.364

筆者は医療の現場から離れて,現在は学生教育に携わっているが,医療福祉論の中でも医療事故について取り上げられているので,医療事故に関することには常に意識して情報を入手しようと努力している.

 今月の主題「検査室におけるインシデント・アクシデント」を企画して巻頭言を執筆するにあたり,苦慮していたところ,2006年3月9日の朝日新聞に2005年の1年間の医療事故に関して「医療事故の死亡,昨年143件 全国272病院で」の見出しで掲載されている記事が目に触れた.

総論

医療におけるヒューマンエラー

著者: 河野龍太郎

ページ範囲:P.365 - P.374

医療システムは安全管理が不十分であるため,①エラー誘発要因が多く,②エラー発生後の多重防護壁が弱いという特徴がある.エラー対策はシステムで考えなければならない.医療システムにおける検査は,産業システムにおけるセンサーの役割とよく似ている.センサーの故障はシステムに大きな問題を引き起こす.同様に検査におけるエラーは患者の治療に致命的な影響を与える.検査のエラーは発見が非常に難しいので,エラーが起こらないようにシステムとして管理しなければならない.〔臨床検査 50:365-374,2006〕

リスクマネジメント・インシデント・アクシデント

著者: 村井隆三

ページ範囲:P.375 - P.380

臨床検査は,診療サービスの「縁の下の力持ち」である.臨床検査におけるリスクマネジメントとしては,①患者取り違い,②感染,③検体の適切な取り扱いが重要と考えられる.「人は誰でも間違える」という前提に立った安全管理,そして「すべての検体には,感染性があるもの」という前提にたったスタンダード・プリコーションの考え方に基づく感染対策が求められている.〔臨床検査 50:375-380,2006〕

臨床検査室のメディカルマネジメント・インシデント・アクシデント

著者: 三浦信彦

ページ範囲:P.381 - P.386

われわれ,医療に携わる者は患者にいかなる損害も与えてはならない.すべての検査技師がそう認識している.しかしどんなに注意を払っても「人は誰でも間違える」.ミスをゼロにすることはできない.できないとわかっていても,ゼロにする努力を怠ってはならない.そのためにはミスを犯した情報をすべて収集し,原因の把握と事実を記録することである.記録した情報を検査技師全員が共有し,検討を行い,再発防止の対策を実施し,ミスゼロに近づけるようリスクマネージャーら安全管理者はその状況を管理しなくてはならない.〔臨床検査 50:381-386,2006〕

臨床検査に関係する諸法規と医療事故

著者: 三村邦裕

ページ範囲:P.387 - P.394

臨床検査技師の業務は医療の進歩とともに高度化し,より専門性が高くなってきた.次第に職種も確立し,そして地位も向上して社会にも認められる医療従事者となった.それに伴い業務に関する責任も自らが負わなければならない時代となった.臨床検査技師は膨大な検体と検査情報に囲まれ,医療過誤,インシデントに遭遇することが日常茶飯事の職種である.本稿では臨床検査に関係する諸法規を解説し,医療事故にかかわる実例を紹介することで,今後の臨床検査における過誤が少しでも少なくなることを期待して執筆した.〔臨床検査 50:387-394,2006〕

各論

生理機能検査分野におけるインシデント・アクシデント

著者: 新井浩司 ,   佐藤清 ,   増田喜一

ページ範囲:P.395 - P.403

生理機能検査分野におけるインシデント・アクシデント対策は,予防的措置を含め,対象者が「人」であるため,単純なマニュアル化は非常に困難である.この分野におけるリスクマネージメントを実践するためには,臨床検査部門のみならず施設全体の取り組みとして,まずは多部門間連携を推進し相互理解を行わなければ,良質かつ安全な医療を患者に還元することは困難であろう.今回多部門間連携を推進する一手法として,CIIならびにCIRを提示した.〔臨床検査 50:395-403,2006〕

輸血検査におけるインシデント・アクシデント

著者: 曽根伸治

ページ範囲:P.405 - P.415

近年,血液新法の施行や各種指針の改訂で,輸血検査,輸血用血液の供給などの輸血療法の実施に関して,一定の基準が設けられてきた.輸血では,患者からの採血,検査,血液の依頼・保管・供給,照合,輸血の実施および記録などのすべての行為や輸血に関する知識などに誤りがあると重大な医療過誤を招くことがある.そのため,検査の自動化,輸血オーダリング・システムの導入,コンピュータクロスマッチ,輸血手順書の配布,リストバンド装着や携帯端末システムでの照合確認,輸血の記録保管などの対策が実施されている.〔臨床検査 50:405-415,2006〕

微生物検査室におけるインシデント・アクシデント対策

著者: 西功 ,   豊川真弘 ,   浅利誠志

ページ範囲:P.417 - P.424

微生物検査室では,結核患者,腸管感染症患者および輸入真菌症患者の検体など感染リスクの極めて高い病原微生物を扱うため,常に標準予防策の概念を念頭に置き各検査工程に適した業務感染防止に各自が努めなければならない.また,業務中の不注意や未熟な手技・知識による起因菌の見逃し,誤報告などにより患者に不利益が生じないよう,常に正しい知識と技術の習得を心がけ,新たな耐性菌感染症や新興・再興感染症などに対応する必要がある.〔臨床検査 50:417-424,2006〕

病理検査の危機管理:Learn from the Errors

著者: 小林忠男 ,   西野俊博 ,   植田正己 ,   津田幸子 ,   馬場正道

ページ範囲:P.425 - P.432

細胞診を含む病理検査業務の範囲は,手術や生検で患者から採取された臓器・組織・細胞から顕微鏡標本を作製し,病理診断に至る工程のことをさす.病理技師や病理医がかかわる医療事故の報道などからもわかるように,病理検査業務は生命と直結する重大なアクシデントの可能性を常にはらんでいる.その意味からも,臨床現場と同様のリスクマネージメントの考えが必要である.病理部門におけるインシデントおよびアクシデントの起こる過程を辿ると,検体の採取から始まり,検体の受付―標本作製―病理診断―診断結果の返却―標本の保存―標本の貸し出しおよび返却,とその幅は広い.しかし,病理検査の検体は,固形臓器や体液など形状や大きさが多種多様で一元的に必ずしも扱えない.また,直接検体にIDや番号をつけることができないことより,厳格にはそれぞれの工程における作業手順の確認を繰り返し行うことが望ましい.病理技師や病理医が一定の医療水準を確保できるだけの知識と技術を備えることと同時に,各臨床部門や他の職種との連携を深めて病院全体として情報を共有化し,他人事と考えずに医療安全対策を推進する必要がある.また,すべての医療機関で情報を共有化し,エラー事例から学び続けてお互いに注意を喚起するなど,全国レベルでも病理検査危機管理対策を構築することが望まれる.〔臨床検査 50:425-432,2006〕

血液検査・化学検査・免疫検査などにおけるインシデント・アクシデント

著者: 山本慶和

ページ範囲:P.433 - P.441

今日の診療現場ではその日の検査データに基づく診療が定着しつつあり,検査データの迅速性,正確性の要望は高まっている.診療は一人ひとり個別であり,検査データを提供する側はその一人ひとりのデータについて迅速性をもって正確性と信頼性を保証することは容易ではない.インシデント報告は犯人探しではなく,インシデント事例情報を共有し,事故の防止策を講じ,事故を減少させることが基本的姿勢である.また,直接患者と接する場面では検査室の信頼性および患者の安全・安心を配慮した対応が必要である.検査過誤を未然に防止するための個別データ保証の管理方法には極端値チェック,項目間相関性チェック,デルタチェック,CDCチェックなどがある.血小板の異常値の検出に前回値チェック方法を用い極異常値速報する応用例が示すごとく,個別データ保証の管理は過誤の検出と病態異常の検出と表裏の関係にあることを示した.異常値の疑いが生じた時には臨床に連絡を取って確認し合える信頼関係を築くことが,臨床検査技師に求められている.〔臨床検査50:433-441,2006〕

話題

日本医療機能評価機構の審査を受けて―検査科の取り組みと受審前後の評価

著者: 前田富士子

ページ範囲:P.443 - P.448

1.はじめに

 日本医療機能評価機構(以下,評価機構)による審査は,1997年7月の第1号の病院認定に始まり,大病院から中小の病院まで様々な施設が受審している.それぞれの施設により受審内容の詳細は異なるであろうが,「病院の医療提供の改革」(①患者の視点の尊重,②質が高く効率的な医療の提供,③医療の基盤整備)に審査の重点が置かれており,「良質の医療」を提供するために必要な内容が受審項目の中に凝縮されていると考えられる.

 当院は大阪府北部,箕面市の自然豊かな環境に立地しており,2003年9月に日本医療機能評価機構による受審(Ver 4.0)を終え,2004年1月に複合病院(一般,療養)の認定を受けることができた.病院の各部門の総力を結集した受審であったが,検査科としての取り組みを振り返り,受審準備に入る前と受審終了後の質の評価を行った.

個人情報保護と臨床検査技師

著者: 永井正樹

ページ範囲:P.449 - P.454

1.はじめに

 今や高度情報化社会の進展に伴い,時間や場所を問わず世界規模で情報の検索や交換が行えるようになったが,そこにはリスクが存在する.ネットワークからの不正侵入による機密情報や個人情報の漏えい,不正取引などの犯罪を生むことがある.一般に個人情報漏えい事件の特徴は,大量の情報が流出することであり,漏えいされた情報によるプライバシー侵害などの被害が拡大することにある.

 そこで,個人情報を保護するための仕組みづくりが必要とされ,「個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法,以下「法」という)」,「行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(行政機関個人情報保護法)」および「独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律(独立行政法人等個人情報保護法)」が施行されるに至り,責任と権限,個人情報の収集・利用・管理方法,教育,監査の徹底などを明確にすることが求められ,違反した場合は,主務大臣による中止勧告・命令など(法第34条)が,さらに従わない場合には罰則規定も盛り込まれた(法第56条).

今月の表紙 細胞診:感染と細胞所見・4

トリコモナス

著者: 住石歩 ,   海野みちる ,   坂本穆彦

ページ範囲:P.360 - P.362

トリコモナス目は原生生物(原虫類)動物鞭毛虫網に属し多数の属と種が含まれるが,人に寄生するのは4種で,代表的なものに腟トリコモナスがある.この虫体は長径7~23μm,短径6~12μmの楕円形で5本の鞭毛を有する.4本は遊離鞭毛として前方に伸び,他の1本は体中央部まで後方に伸び,体表との間に波動膜を形成している.体内には楕円形の核を1個有するが,ミトコンドリアはもたない.体前端から縦に走る軸索は後端から突出し,虫体は縦2分裂で増殖する.囊子(cyst)は作らず,栄養型のみが存在する1)

 ここでは腟トリコモナス(Trichomonas vaginalis)について述べる.トリコモナスは世界中にみられる感染症で,わが国では女性の数%に感染がみられる.男性は感染した女性からのみ感染する点が,他の性感染症(sexually transmitted disease;STD)との違いである.

コーヒーブレイク

里山考

著者: 屋形稔

ページ範囲:P.416 - P.416

日本海という海原,信濃川という大河に囲まれた新潟の風景はそれなりに悪くない.しかし60年以上前に里山ばかりの福島の片田舎から進学のため移り住んだ新潟では,緑の少ない異和感と寂しさに暫くの間悩まされたものである.

 わが故郷はいま思うと最も日本らしい懐かしい風景というべきであろう.あの“兎追いしかの山 小鮒釣りしかの川”という絶唱にぴったりであった.一見変哲もない小山や小川,かぶと虫の沢山とれる松林を無心にかけ廻った日々は常に胸中に在り,長じて益々強く何者にも代え難いものとして棲みつくようになった.

 同じような風景は6里程離れた母の実家のあった山村まで続いており,徒歩や自転車で度々往復した.そこには徳川時代から連綿と続いた漢方医の先祖の墓が並んでいた.その里で数百年生計を営んでいたと思うと,一木一草,田んぼのあぜ道にも親近感があった.

シリーズ最新医学講座・Ⅰ 法医学の遺伝子検査・4

マイクロサテライト(STR)

著者: 吾郷一利

ページ範囲:P.455 - P.462

はじめに

 ヒトDNAには,短いものでは1~数10塩基,また長いものでは数100~数1,000塩基にも及ぶ繰り返し配列が存在し,そのような反復配列部分は全DNAの30%に及ぶともいわれている.反復配列DNAは,サテライトと呼ばれている.これらのうち反復単位が数10塩基から6塩基までのものをミニサテライト,5塩基以下のものをマイクロサテライトと呼び分けている.反復塩基の繰り返し数に個人差のあるものがあり,メンデルの法則に従い遺伝することが知られている.この遺伝的多型は縦列型反復配列多型(tandem repeat polymorphism)といわれている.法医DNA検査におけるミニサテライトからマイクロサテライトへの変遷については,第1回の「法医学領域における遺伝子検査の変遷」に解説されているので参照いただきたい.ミニサテライトからマイクロサテライトへ移行した大きな要因は,マイクロサテライトが,PCR(polymerase chain reaction)による型判定により適していることが挙げられる.とくに複数のマイクロサテライトに対するプライマーを混合することによって多数の遺伝子を同時にPCR増幅でき,さらにPCR産物は塩基サイズが小さいため同時に電気泳動分析できることである.この方法はマルチプレックス(multiplex)法といわれている.変異反復配列部分が長いものでも200に至らないマイクロサテライトは,例えば,ミニサテライトであるD1S80を型判定するのに必要なゲルの長さで3座を同時に型判定できる.マイクロサテライトは識別能においては,ミニサテライトに劣っているが,マルチプレックス法を導入することで1回の検査あたりの識別能は高くなる.今日では10座以上のマイクロサテライトを同時にPCR増幅,型判定する高性能な検査キットが市販されている.マイクロサテライトの普及は,これら検査キットに負うところが大きい.マイクロサテライトはSSR(simple sequence repeat),あるいはSTR(short tandem repeat)とも呼ばれている.法医学領域では,一般的にSTRという用語が用いられている.

 犯罪捜査資料に関して,指紋制度に類したSTRによるDNAデータベースが諸外国において構築されている.わが国でも2004年12月から物体検査材料について,さらに2005年9月からは容疑者についての遺伝子情報のデータベース化がスタートした.このようなSTRを基にしたDNAデータベースの構築にともない,新たなDNA多型の導入はあっても,STR検査は今後も長期にわたり継続されるものと思われる.

シリーズ最新医学講座・Ⅱ 耐性菌の基礎と臨床・3 主として院内感染で問題となる耐性菌・2

緑膿菌(基礎編)―その耐性機構からMDRPに対する抗菌薬療法まで

著者: 舘田一博

ページ範囲:P.464 - P.467

はじめに

 緑膿菌は,ブドウ糖非醗酵のグラム陰性桿菌であり,ヒトに対しては主に日和見感染症としてその病原性を発揮する.本菌はもともと広く抗菌薬に対して耐性を示すことから,その抗菌薬療法はしばしば困難となる.重症の緑膿菌感染症に対してはカルバペネム薬,第三・第四世代セフェム系薬,ニューキノロン薬,アミノグリコシド薬,およびこれらの併用療法が行われてきた.ところが最近になって,これら抗菌薬すべてに耐性を示す,いわゆる多剤耐性緑膿菌(multiple drug resistant P. aeruginosa;MDRP)が出現し問題となっている.2004~2005年にかけて大学病院で続けざまにMDRP感染症のアウトブレイクが報告されたことは記憶に新しい.ここでは話題の耐性菌として緑膿菌を取り上げ,その抗菌薬耐性機構について解説するとともに,本菌に対する効果的な抗菌薬療法について概説する.

緑膿菌の抗菌薬耐性機構

緑膿菌(臨床編)

著者: 前田光一 ,   三笠桂一

ページ範囲:P.468 - P.471

はじめに

 緑膿菌は弱毒菌の1つであり健常者において感染症の原因菌となることは稀であるが,悪性疾患や免疫不全状態にある患者などには重篤な感染を引き起こす,いわゆる日和見病原体である.緑膿菌は病院内の様々な環境に存在することや,多くの系統の抗菌薬に対して耐性となりうる機構をもつなどの特徴を有し,院内感染の原因菌として非常に重要である.

感染経路

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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