今月の主題 ホルマリン固定パラフィン包埋標本からどこまで遺伝子検索は可能か?
巻頭言
ホルマリン固定パラフィン包埋標本からどこまで遺伝子検索は可能か?
著者:
笹野公伸
ページ範囲:P.713 - P.714
近年の分子生物学あるいは細胞生物学の進歩には目覚ましいものがあり,科学的に極めてインパクトのある多くの研究成果が発表,報告されている.特に従来かなりの時間,労力が必要であった分子/細胞生物学的技法が機器,試薬の進歩により平易にしかも短時間で施行が可能になってきており,多くの臨床検査に応用され目覚しい成果を上げてきている.もう一つ特記すべきこととして,これらの新しい検索の対象が従来分子生物学あるいは細胞生物学的検索がかなり困難ではないのかと考えられてきた臨床検査対象にも日々拡大されようとしている現況が挙げられるのではないかと考えられる.すなわちRNA, DNAなどの遺伝子および蛋白質の検索対象は従来,血液や新鮮凍結組織などのようにあまり変性がない試料に限られていた.しかし近年の技術,技法の進歩により変性がある程度加わっている実際に病理診断に用いられている試料他が対象になってきている.
病理診断に従事する者にとっては迅速診断や細胞診などの場合を除くと10%ホルマリン固定パラフィン包埋標本が検査対象のほとんどを占めている.加えて今後ますますその重要性が増してくると考えられるtranslational researchの領域においてもこのことは大きなimpactを有している.すなわち悪性腫瘍の症例などに関してはたとえ分子生物学,細胞生物学的な成果は報告はされていても,従来多くの患者の新鮮凍結標本などの検体が入手困難であったことから予後などの臨床病理学的な因子との関連性をretrospectiveに得るのが困難であり,せっかくの基礎的な知見も十分に患者に還元するのが困難な状況が続いてきたのは否めない.しかし10%ホルマリン固定パラフィン包埋標本を用いることによりこの点がかなり克服される可能性が出てきている.このことは今後癌の領域などのtranslational researchでより多くの10%ホルマリン固定パラフィン包埋標本が研究対象になろうとしていることも示している.