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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査50巻9号

2006年09月発行

雑誌目次

今月の主題 高齢者の臨床検査値 巻頭言

高齢者の臨床検査値

著者: 片山善章

ページ範囲:P.955 - P.956

 わが国の人口動態をみると,高齢化と少子化が世界でも前例のないほど急速に進行していることが指摘されている.総人口に占める65歳以上の人口が7%になると「高齢化社会(aging society)」と定義され,14%に達すると「高齢社会(aged society)」と呼ばれるが,わが国の高齢者は1970(昭和45)年に7%であったのが,1994(平成6)年には14%と24年間で倍増した.この高齢化社会から高齢社会への移行は欧米に比して2~4倍のスピードであり,そして,平成17年度国勢調査では人口1億2776万人のうち21.0%を超えて,世界一の高齢社会になった.2020年にはわが国の老年人口は約26.9%に達する見込みである.この急増しつつある高齢者を誰がどのような形で看るかが重大な社会問題となってきている.

 ちなみに,1970年といえば革新系の自治体が65歳以上の老人が受診するときの自己負担を地方自治体が負担する,いわゆる“老人医療無料化制度”を実施し始めた年であった.これを追認する形で,1973年には政府も70歳以上の老人の自己負担を撤廃することになり,一般病院は「社会的入院」による長期間の入院患老が激増した.そのため高齢者の国民総医療費に占める割合も年々急増し,ついに老人医療費は全保険医療費4分の1(現在は老年人口増大によって3分の1以上となっている)を超すような状態となり,老人を多く抱える国保は財政的に重大な困難に直面することとなったことは誰もが知るところである.

老化・加齢と病気

身体的機能の加齢変化

著者: 巽典之 ,   近藤弘 ,   横田正春 ,   松本珠希

ページ範囲:P.957 - P.960

 高齢化に伴う心身機能評価は老化度の個人変動が多様であることと,評価項目の基準値・計測変動度が評価方法により異なっていることから,測定値の評価は慎重でなければならない.また,身体的加齢変化評価のための検査項目選択に当たっては,科学的妥当性が確立されていて,検査継続性があり国際性のあるものを抽出すべきである.〔臨床検査 50:957-960,2006〕

知的機能の老化・加齢変化―脳機能の加齢による変化

著者: 清和千佳 ,   阿相皓晃

ページ範囲:P.961 - P.969

 脳の老化が注目されるようになってきている.年老いて脳の機能が低下し,病気となる原因は多様であるが,その結果として老齢脳では神経細胞(ニューロン)よりもむしろ脳白質のグリア細胞,特に髄鞘(ミエリン)の減少が著しい.老化におけるミエリン化と脱ミエリン化にはミエリンのparanodal junction部位の異常とその部位に局在するリン酸化フォーム21.5kDa MBPアイソフォームの変化とその調節機構の解明が鍵となる.〔臨床検査50:961-969,2006〕

高齢者に多い病気

著者: 小西正光

ページ範囲:P.971 - P.979

 ほとんどすべての病気が加齢とともに罹患率が高くなるが,ここでは社会的に大きな問題となっている,介護および医療費の面から,高齢者に多い病気として,脳卒中,骨折・転倒を中心に,その実態,成因,予防方策について述べた.〔臨床検査 50:971-979,2006〕

高齢者の臨床検査値

高齢者の臨床検査値は必要か

著者: 岡部紘明 ,   宇治義則

ページ範囲:P.981 - P.986

 高齢者の臨床検査基準値の必要性と設定方法と表現方法について述べた.高齢者には潜在性の病態が存在するため臨床検査技術上での精度,正確度,サンプリング技術以前の問題として,母集団としての健常高齢者の選択と病院患者データの有効利用とがある.ADLや個人差を考慮して検査値を一定の基準に対する相対値として表現する方法が効率的である.〔臨床検査 50:981-986,2006〕

臨床検査値の加齢変化―数十万人の母集団から推定した結果の紹介

著者: 西田敏信

ページ範囲:P.987 - P.993

 多施設から収集した多数の臨床検査データを用い,同一方法,同一基準で計算した基準値の加齢変化図を比較検討した.このとき,施設間に差異と類似性が認められた.差異の原因として,施設間差と測定原理等に由来するものがあった.一方,成人,高齢者の基準値に認められる類似性を,年齢に由来するものと性別に由来するものとに区分した.臨床検査値を有効に活用するためには,尺度としての基準値だけでなく,ここに示した加齢変化に関する知識も必要である.〔臨床検査50:987-993,2006〕

異常変動発現率の高い検査

著者: 深津俊明

ページ範囲:P.995 - P.1001

 高齢者では日常生活の行動能力(activity of daily living;ADL)の違いが臨床検査値に影響を及ぼし,個体差が大きくなる傾向がある.一般成人の基準値より少し外れた値を直ちに病的な異常と判断することはできない.高齢者では症状が定型的でないことも多く,臨床検査は客観的指標として有用であるが,臨床検査値と自覚症状や重症度とは必ずしも相関しないことに注意が必要である.〔臨床検査50:995-1001,2006〕

介護老人保健施設で得られる高齢者臨床検査値

著者: 近藤弘 ,   大下弘介 ,   兵頭弘美 ,   巽典之

ページ範囲:P.1003 - P.1008

 介護保健制度の施行により施設サービスは経年的に拡充されてきた.このうち特に介護老人保健施設は病状安定期で入院治療の必要はないが,リハビリテーション・看護・介護を必要とする要介護者を対象としているため,入所時の施設医による診断や入所後の病状変化時など臨床検査が利用される機会は多い.そこで本稿では要介護者が介護老人保健施設に入所する際に実施する臨床検査を基に,介護老人保健施設で得られる臨床検査値の特質および介護老人保健施設における基準値設定に関して記述する.〔臨床検査 50:1003-1008,2006〕

臨床検査値に及ぼす生活習慣(特に食事,飲酒,喫煙との関係)

著者: 青木芳和

ページ範囲:P.1009 - P.1013

 食習慣,喫煙習慣,飲酒習慣,運動習慣など,日常の生活習慣の蓄積が臨床検査値に及ぼす影響を職域健診受診者を対象として調査した.その結果,食習慣のうち緑黄色野菜・果物の摂取はWBC,Hb,Hctを減少させ,魚・肉・大豆製品など高蛋白食は血圧を上昇させた.油を使った料理の摂取はγ-GT,TG,GLU,血圧を低下させた.牛乳・乳製品の摂取はBUN,TCを上昇させ,海草・小魚類の摂取はRBCを減少させたが,AST,γ-GT,血圧を上昇させた.飲酒習慣はAST,γ-GT,HDLC,BMI,血圧を上昇させた.喫煙はWBC,Hb,Hctを増加し,γ-GT,TGも増加させたが,BUN,HDLCは減少させた.そのほか,運動習慣はTGを減少させ,HDLCを増加させた.睡眠不足はRBCを減少させ,γ-GT,GLU,SBP,DBPを上昇させた.以上のように,生活習慣は臨床検査値と密接に関連していることが示唆された.〔臨床検査 50:1009-1013,2006〕

沖縄在住百歳の臨床検査値

著者: 鈴木信

ページ範囲:P.1015 - P.1024

 臨床検査の著書および臨床検査会社の手引書のいずれにおいても,高齢者の臨床データ基準値ないし正常値は最高齢80歳までの記載しかない.平均余命80代の時代を迎えた今日,90歳・100歳の超高齢者は珍しくなくなった.しかし大半が病的ないし疾病罹患者である.そのデータを成人の基準値と対比するのではなく,健常超高齢者データを基準にしなければならない.本稿で示す健常百寿者データは生理的老化の限界値を示すものと考えられるので,超高齢者研究の参考として利用されれば幸甚である.〔臨床検査 50:1015-1024,2006〕

高齢者検診成績の臨床検査値

著者: 菅沼源二

ページ範囲:P.1025 - P.1033

 臨床検査の成績は,判定基準なしには評価しがたい.特に高齢者の臨床検査値に対する健康度の評価基準とするための基準値については,従来議論の絶えない問題である.

 2008年から40~74歳の被扶養者を含む全被保険者に対して,内臓脂肪症候群を中心とした健診義務化の医療制度が法制化される.継続的な受診成績を持つ,高齢受診者の健康評価のためには個人の基準値による,個人のプロファイルの設定を提言した.〔臨床検査 50:1025-1033,2006〕

話題

認知症発症・予防の現状

著者: 矢冨直美

ページ範囲:P.1035 - P.1038

1.はじめに

 認知症は,記憶障害および注意障害や言語障害,実行機能障害などの認知機能が,社会生活や職業生活に支障をきたすまでに低下した状態である.その最も大きな原因となっているのは,認知症の約60%を占めるアルツハイマー病(Alzheimer disease)である.次いで認知症の15%を占める脳血管障害である.これらの混合型を含めると二つの疾患が認知症の原因疾患の85%を占める.したがって,認知症予防を考えるならば,この二つの疾患の予防が重要である.ここでは,認知症予防の研究の現状とそこから導かれる認知症予防の方法について述べ,認知症予防にかかわる施策の現状を考えてみたい.

若年性認知症

著者: 植木彰

ページ範囲:P.1039 - P.1041

1.はじめに

 認知症は後天的に記憶・認知機能が障害される疾患の総称である.認知症の最大の危険因子は加齢であり,発症率は65歳以降5歳ごとに約2倍ずつ指数関数的に増加し,80代の有病率は約20%である.日本には約170万人の認知症患者がいると推定され,その大部分はアルツハイマー病(Alzheimer disease;AD)か脳血管性認知症である.若年性認知症は若年期の認知症という意味であり,特別な疾患があるわけではなく,高齢者の場合と基本的には変わらない.しかし,働き盛りでの認知障害は社会からの離脱を意味し,本人,家族に与える心理的,経済的,社会的影響は深刻である.若年性とは18歳から64歳までを指しているが,介護保険では40歳から64歳までを指している.

今月の表紙 細胞診:感染と細胞所見・9

ランブル鞭毛虫(Giardia lamblia)

著者: 山下暁子 ,   海野みちる ,   坂本穆彦

ページ範囲:P.952 - P.954

 細胞診検体でランブル鞭毛虫をみることは比較的稀である.しかし,本症は輸入感染症や免疫不全疾患の合併症として無視できない感染症である.

コーヒーブレイク

歳月

著者: 屋形稔

ページ範囲:P.1034 - P.1034

 1984年に「行きかふ年」というエッセイ集を上梓したことがあった.芭蕉の奥の細道の名文「月日は百代の過客にして行きかふ年もまた旅人なり」が心にしみ入っていたのであろう.しかし当時はそんなに深く考えて付けたわけではなかった.

 最近は老年に達したせいか人生における歳月の重みが常に感じられてならない.生まれおちてから常に死に向かって歩み続けていく人間にとって,どうにもならない歳月の流れは深刻である.

シリーズ最新医学講座・Ⅰ 法医学の遺伝子検査・9

遺伝子検査による人獣鑑定

著者: 中村博明 ,   今村真二 ,   室友紀 ,   湯浅勲

ページ範囲:P.1043 - P.1050

はじめに

 法医鑑識の分野において検査対象の生物試料がヒト由来であるか,あるいは他の動物由来であるかを識別する人獣鑑別は重要な検査項目の一つである.ABO式血液型抗原が主たる個人識別のマーカーであった頃,資料からABH抗原を検出したとしても,その検査を実施していなければ,それは物的証拠にならなかった.なぜならば,それらの抗原は自然界に遍在しているからである.

 従来,ヒトの証明には抗原抗体反応を利用した血清学的手法が用いられてきた.現在は,イムノクロマトグラフィーの原理に基づいた臨床検査用のヒトヘモグロビンなどの判定試薬・キットが高感度で迅速な検査法として利用されている.

 ヒト以外の動物種を決定する必要性も時折あるが,各種動物に対応する特異性の高い抗血清は市販されていない.したがって,種々の環境下にさらされる生物試料を取り扱う検査者にとって,抗ヒト血清に対して陰性反応を呈した場合,その結果がヒト以外の動物に由来することを示すものなのか,あるいはヒト由来であるにもかかわらず汚染や腐敗などによって判定不能に陥っているのかを判断することは容易ではない.さらに,このような手法は,血液,唾液,精液などの体液やその斑痕に対しては有効であるが,微細な骨片,歯牙片,毛髪(獣毛)への応用は困難であり,これらの硬組織資料については熟練を要する形態学的手法によって判断していた.

 近年の法医学領域へのDNA分析の導入によって,上記の問題点を解決する種々の人獣鑑別法が報告されている.DNA分析を応用した鑑別法の特徴は,①ヒトの証明,②ヒト以外の動物種の推定・識別,③体液斑痕に限らず硬組織への応用,④極めて微細・微量な試料からの検出が可能なことである.

 本稿では,人獣鑑定の現状について概説するとともに,われわれが検討してきたミトコンドリアDNA(mtDNA)のD-loop領域の解析に基づく識別法を述べる.加えて,各種事件現場から持ち込まれる未知試料の鑑定事例について紹介する.

シリーズ最新医学講座・Ⅱ 耐性菌の基礎と臨床・8 主として市中感染で問題となる耐性菌・2

肺炎球菌・インフルエンザ菌(基礎編)

著者: 生方公子

ページ範囲:P.1051 - P.1056

はじめに

 市中呼吸器感染症の原因菌としての頻度の高い肺炎球菌やインフルエンザ菌において,薬剤耐性化が進行している.これらの菌にみられる耐性化の特徴は,菌の発育に必須の構成物,あるいはその構成物を合成するための酵素などが,その生存に差し支えない程度に変化して耐性化しており,“質的変化による耐性化”と呼ばれる.プラスミドやトランスポゾンに依存したβ-ラクタメースをはじめとする高いレベルの耐性を付加する耐性化とは本質的に異なっている1)

 一方,これらの菌は健常人の上気道からもしばしば分離され,常在細菌としての一面も有し,抗菌薬に曝されやすい環境下に棲息しているが,わが国における抗菌薬の開発状況とこれらの菌における耐性菌出現との関係をみると,ABPC(ampicillin)などの経口ペニシリン系薬に替わって経口セフェム系薬が繁用され始めた1980年代後半以降に急速に増加している.

 本稿では肺炎球菌とインフルエンザ菌にみられるいくつかの抗菌薬に対する耐性化機構と耐性化の現状について述べる.

肺炎球菌・インフルエンザ菌(臨床編)

著者: 岩田敏

ページ範囲:P.1057 - P.1064

はじめに

 肺炎球菌とインフルエンザ菌は,いずれも小児および成人の呼吸器感染症,敗血症,細菌性髄膜炎の重要な起炎菌であるが,近年β-ラクタム系薬の作用点であるペニシリン結合蛋白(penicillin binding protein;PBP)が変異した耐性菌が増加している.こうした耐性菌の増加は,日常臨床の場においては感染症の難治化・重症化に結びついており,臨床上重要な問題となっている.

 本稿では肺炎球菌とインフルエンザ菌による実際の感染症を紹介し,耐性菌増加の問題点と対策とについて述べる.

資料

病理領域で取扱う手術材料のデジタル画像化と画像管理のコンピュータ化

著者: 木村文一 ,   河村淳平 ,   鴨志田伸吾 ,   鈴木文子 ,   桑尾定仁

ページ範囲:P.1065 - P.1070

 近年,電子カルテの普及に伴い,病理検査室へのコンピュータシステムの導入が盛んである.結果,病理写真の記録もデジタル化へ移行しつつある.デジタル化により,作業の合理化や低コスト化の反面,撮影条件設定の困難さや大量の画像によるシステム負荷で悩まされることも多い.当院では高画質のデジタル画像を簡便に得ることが可能な撮影・画像管理システムを構築したので,その詳細を電子カルテとの関係も含めて紹介する.

学会だより 第47回日本臨床細胞学会総会

テーマは“臨床細胞学のNew Challenge” 降雨の横浜港を背景に細胞を診る人びとの充実した集会を認めた

著者: 飯島淳子

ページ範囲:P.1071 - P.1071

 去る2006年6月9~11日の3日間,神奈川県のパシフィコ横浜において,東海大学医学部長村義之先生を会長のもと第47回日本臨床細胞学会総会が開催された.降雨のなか,各地からの登録参加者は4,300人と盛会であった.

 日本臨床細胞学会では,細胞形態による診断ばかりでなく,癌化過程の遺伝子変異や癌遺伝子の異常発現に関する分子細胞学的研究,細胞診の自動化,遠隔医療の一環としてのテレサイトロジーなど,新しいテクノロジーの導入も行われている.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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