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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査51巻1号

2007年01月発行

雑誌目次

今月の主題 乳癌と臨床検査 巻頭言

乳癌と臨床検査

著者: 坂本穆彦

ページ範囲:P.7 - P.8

 WHOの解説によれば,乳癌はヒトの癌のなかでは最もよくみられるものの一つであり,女性に発生するすべての癌の約4分の1を占めるという.乳癌は西欧化したライフスタイルと関係があり,したがって,経済が発達している国では高頻度でみられる.他のリスクファクターとしては早期の初潮や晩期の出産が挙げられている.乳癌の発生には遺伝的要因が関与する場合もある.
 早期発見と治療の進歩のおかげで,いくつかの国では乳癌の死亡率が低下傾向を示しだした.cDNA発現プロファイルを用いることによって,個々の患者についての臨床経過の予測も可能となりつつある.

総説

乳癌診断のアルゴリズム

著者: 福島久喜 ,   伊坂泰嗣 ,   伊東大樹 ,   中山英里 ,   松田実 ,   呉屋朝幸

ページ範囲:P.9 - P.13

 乳癌診断のアルゴリズムは,診察にはじまりマンモグラフィや超音波検査の画像診断を経て細胞診,組織診によって確定診断を得るといってよい.しかしながら,これら相互の整合性があってこそ最終診断といえるので正常乳房の解剖,構造や組織学,癌の発生,増殖を知ることにより症状を考え,診断を進めていくことが望まれる.〔臨床検査 51:9-13,2007〕

乳癌の治療の選択

著者: 武山浩

ページ範囲:P.15 - P.22

 現在乳癌は日本では女性の癌のなかで罹患率第一位となっており,社会の関心も高い.癌の治療は手術,放射線治療,化学療法(抗癌剤治療)が基本とされているが乳癌はこれらの治療すべてが有効な疾患とされている.また乳腺組織は卵巣ホルモンが作用する標的臓器であるため,これら治療に加えて卵巣ホルモンを阻害するいわゆる内分泌療法(ホルモン療法)が約60~70%の乳癌において有効である.これらの治療法の選択について診断から治療の流れに沿って概説する.〔臨床検査 51:15-22,2007〕

WHO乳腺腫瘍組織分類とわが国の乳癌取扱い規約分類の相違点

著者: 菅間博 ,   寺戸雄一 ,   藤原正親

ページ範囲:P.23 - P.29

 乳癌は,わが国の女性の腫瘍による死因の第1位である.乳腺腫瘍のWHO分類は,2003年に「病理と遺伝学:乳腺と女性生殖器の腫瘍」の表題に変更され,病理学と遺伝学の進歩を取り入れたものに改訂されている.その後,わが国の乳癌取扱い規約も改定されているが,病理組織分類の枠組みは最新のWHO分類には対応していない.本稿では乳腺腫瘍の分類を,WHO分類(2003年)と乳癌取扱い規約(第15版)分類との主要な相違点を中心に解説した.具体的には,浸潤性乳管癌NOS(非特殊型)と浸潤性乳管癌の亜分類,浸潤性乳癌の分化度と悪性度判定,乳癌の前駆病変,乳管内乳頭状腫瘍,小葉癌の定義とその亜型について説明した.今後,マンモグラフィー検診の普及に伴い早期乳癌患者が増加することが予測される.癌の前駆病変の概念導入など,他の女性臓器腫瘍との整合性のとれた分類が乳腺腫瘍にも望まれる.〔臨床検査 51:23-29,2007〕

乳癌診療における細胞診の意義と限界

著者: 黒住昌史

ページ範囲:P.30 - P.34

 穿刺吸引細胞診(FNAB)は乳癌の有用な治療前診断法として長く認められてきた.しかし,最近になってFNABに替わる診断法として針生検が広く行われるようになって,FNABと針生検との使い分けが模索されている.現在では治療前診断法として針生検は必須になり,組織診断ばかりではなくホルモンレセプターやHER2状況も検索されている.一方,FNABはspecificityの高いことが評価されており,「癌でない」という除外診断法としての有用性が強調されている.今後は理学所見,画像所見とFNABを組み合わせたtriple testが乳癌検診の標準的な方法になると思われる.〔臨床検査 51:30-34,2007〕

各論

HER2

著者: 梅村しのぶ

ページ範囲:P.35 - P.39

 HER2検査は,抗HER2抗体療法(trastuzumab)適応決定に必須である.近年,種々の化学療法,ホルモン療法剤との併用効果や,原発性乳癌に対する有効性などが報告され,その臨床的重要性が増してきている.

 FISH法はIHC法に比較して,より厳密な精度管理が必要であるが,結果や評価の再現性は良好である.IHC法は,使用抗体の特徴をよく理解して利用することが重要である.また,いずれの方法においても,組織化学における基本的な留意点,すなわち組織の固定や標本作製,染色方法においては前処理の過熱温度や時間,反応温度や時間などが重要である.また,現在わが国においては,保険収載されていないが,CISH法が最近注目されており紹介する.〔臨床検査 51:35-39,2007〕

ホルモン・レセプター:ER,PgR

著者: 飯原久仁子

ページ範囲:P.41 - P.47

 乳癌診療におけるホルモンレセプター(hormone receptor;HR,estrogen receptor;ER,progesterone receptor;PgR)の検索はホルモン療法の効果予測に極めて重要であり,現在は免疫組織化学による検索が行われている.しかしながら使用する抗体や,検索方法は各施設にまかされているのが現状で,また腫瘍細胞陽性率の判定は病理医によりばらつきがあり,日本においても標準化が検討されている.一方,ホルモンレセプターの分子病理レベルの解明も基礎研究の発展により進んでおり,核内受容体,特にERの転写制御の分子機構,すなわちリガンド依存的な転写共役因子群との相互作用,エストロゲン受容体シグナルと増殖因子シグナルとのクロストーク,またエストロゲン応答性の遺伝子群の詳細な研究が注目されている.〔臨床検査 51:41-47,2007〕

針生検組織診―臨床病理学的位置付けと新しい病理報告様式

著者: 土屋眞一

ページ範囲:P.48 - P.54

 針生検(マンモトーム生検含)は近年,乳癌の診断には欠かせないツールとなっている.この普及につれ,第15版乳癌取扱い規約(2004年)に“針生検報告様式”として病理学的診断基準が収載されているが,得られる検体が微小であること,病理診断が難しい乳管内病変が多くを占めていること,腫瘤性病変のみならず非腫瘤性病変(主に微小石灰化病変)もその対象となることなどから,採取方法と適応および,その病理診断には十分な理解と知識とが必要である.〔臨床検査 51:48-54,2007〕

センチネルリンパ節生検

著者: 上田重人 ,   津田均

ページ範囲:P.55 - P.60

 センチネルリンパ節(SLN)生検は臨床的にリンパ節転移の見られない早期乳癌の手術療法において腋窩リンパ節郭清を省略できるかどうかをみる方法として世界的に広く行われている.SLNの同定にはアイソトープ(RI)法,色素法またはRI法と色素法の併用法が多く行われている.わが国ではほとんどの場合,SLN転移の有無は術中の病理診断か細胞診で検索され,転移陰性ならばリンパ節郭清を省略し,転移陽性ならば郭清を追加する.問題点としてSLN同定不能例やSLN転移陰性で非SLN転移陽性例(偽陰性例)がありえること,術中病理診断における転移の見落とし(術中診断の偽陰性),0.2mm径以下の転移巣や免疫染色の意義が未確定であること,などが挙げられる.〔臨床検査 51:55-60,2007〕

乳腺細胞診の検体処理法(吹き出し法,剥がし法,すり合わせ法,圧挫法,オートスメア法)の検討

著者: 前田昭太郎 ,   柳田裕美 ,   片山博徳 ,   内藤善哉

ページ範囲:P.61 - P.69

 わが国では乳腺腫瘍の確定診断に際し,最初に穿刺吸引細胞診が行われるのが一般的である.その理由は穿刺吸引細胞診の正診率が高く,簡便かつ安価であり,また迅速な診断が可能であるなど患者にとって組織診と比較して利点が多いことによる.

 乳腺細胞診の検体処理法としては通常吹き出し法,剥がし法,すり合わせ法が行われているが,どの処理法を行うかは施設によって異なる.しかし穿刺吸引材料の処理法によって細胞所見が異なるため,それぞれの処理法の特徴(長所,短所)を熟知していないと細胞診断上思わぬ落とし穴に陥るおそれがある.そこで本稿では,それぞれの検体処理法における細胞所見の特徴について解説した.

 乳癌では組織型診断のみならず,予後推定因子の検索も治療上,極めて重要である.当病理部では穿刺吸引細胞診で組織型診断を行うと同時に,細胞診材料を用いて①予後推定のための免疫染色(ER,PgR,HER2),②CISH法によるHER2遺伝子増幅,過剰発現の解析を行っているが,そのためには自動細胞収集装置を用いて細胞診標本を作製するオートスメア法が特に有用である.これらの事実は必ずしも周知されていないため,簡単に言及した.〔臨床検査 51:61-69,2007〕

トピックス

乳癌検診の現状

著者: 森本忠興

ページ範囲:P.71 - P.76

1.はじめに

 欧米では,乳癌罹患率は増加しているが,乳癌死亡率は減少している1).この乳癌死亡率低下の原因は,マンモグラフィによる乳癌検診の普及により早期乳癌が増加したことやEBMに基づいた術後補助療法が行われるようになったことが挙げられている.一方,わが国では,女性乳癌死亡・罹患率ともに増加しており2),2000年3月の「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」(老健第65号)や2004年4月の改訂(老老発第0427001号)の通達により,40歳以上女性のマンモグラフィ導入検診が勧告され,やっとマンモグラフィ検診がスタート台に立ったところである.

 癌の二次予防としての乳癌検診の目的は,早期発見することによる対象の乳癌死亡の減少にある.欧米では,前述のごとく,1990年以降の十数年間に20~30%の乳癌死亡率低下がみられている.マンモグラフィによる乳癌検診受診率が70~80%に及び,早期乳癌の増加による乳癌死亡の減少が統計で明らかにされ,乳癌検診の目的がすでに達せられているといえる.

 さて,マンモグラフィ検診には,高品質のマンモグラムで,精度の高い読影を行うことが必須条件であり,そのための精度管理が重要である.米国では,1992年にMQSA(Mammography Quality Standard Act, Public Law 102-539)が制定され,マンモグラフィ導入施設の精度管理の徹底が実現されているが,わが国ではマンモグラフィ検診の精度管理に関する法的な制限はない.筆者らは,わが国での乳癌検診にマンモグラフィを導入するに当たって,マンモグラフィ検診精度管理中央委員会(以下,精中委)を設置し,精度管理の活動を進めてきた.本稿では,精中委の設立経緯や活動状況を紹介し,わが国の乳癌検診の現状と課題について述べる.

乳癌診療の患者向け“ガイドライン”

著者: 高塚雄一

ページ範囲:P.77 - P.79

1.はじめに

 EBM(Evidence-based Medicine)の実践に際しては,多忙な医療従事者が必要な情報を迅速に取得し,かつ正しく吟味し,個々の患者に適用することは容易ではない.これらを支援するツールとして診療ガイドラインがあり,ここでの大切なことは医療者サイドと患者・家族とが,良好なコミュニケーションの下で,まずはガイドラインに基づいた標準診療をお互いに十分に理解・納得しておくことである.

 日本乳癌学会においても,2003年4月から乳癌診療ガイドラインの策定に取り組んでおり,2004年6月の『1.薬物療法』に続いて,2005年6月には『2.外科療法』,『3.放射線治療』,『4.検診・診断』,『5.疫学・予防』がすでに発刊されている.このたびの『乳がん診療ガイドラインの解説(2006年版)―乳がんについて知りたい人のために』1)は,これら既存のガイドラインを基にして,患者・家族を中心とした円滑なチーム医療の展開(すなわちEBMの実践)を目的として作成されたものである.

ザンクトガレン・コンセンサスレポート

著者: 堀井理絵 ,   秋山太

ページ範囲:P.81 - P.83

1.はじめに

 ザンクトガレン・コンセンサス会議は,2年に1度スイスのSt. Gallenで開催される早期乳癌の初期治療に関する国際会議である.この会議では,予後因子,治療効果予測因子に関する最新の研究結果や経験を踏まえた早期乳癌の術後薬物療法に関する治療指針が,エキスパートによるコンセンサスとして提示される.至近では,2005年1月26日から27日に会議が開催され,その時点でコンセンサスの得られた治療指針が2005年10月のAnnals of Oncology誌にザンクトガレン・コンセンサスレポートとして掲載された1)

 本稿では,この2005年のコンセンサスレポートについてリスク分類を中心に解説する.

乳腺細胞診の新報告様式

著者: 越川卓 ,   所嘉朗 ,   鈴木緑 ,   小林雅子 ,   村上裕美 ,   岡田恭孝 ,   佐々木英一 ,   細田和貴 ,   北村淳子 ,   谷田部恭

ページ範囲:P.85 - P.90

はじめに

 細胞診においては1988年に婦人科細胞診でベセスダシステムが発表されてパパニコロウのクラス分類の問題点が指摘されて以来,従来から広く用いられていたパパニコロウ分類に代えて記述的な報告様式を用いるという傾向が強まってきた.このような流れのなかで,乳腺細胞診に関しても1990年代後半には欧米において新しい報告様式が提唱されるようになった1,2).わが国においても,土屋,垣花ら3)を中心に日本臨床細胞学会や日本乳癌学会においてパパニコロウのクラス分類に代わる乳腺細胞診の新しい報告様式が検討され,その結果2003年に“乳腺における細胞診および針生検の報告様式ガイドライン”4)が発行された.このガイドラインでは細胞診,針生検ともに同様の報告様式を使用することを提唱している.

 本稿では乳腺細胞診のガイドラインに示された新報告様式の概要を解説するとともに筆者らの診断成績などを参照しながら新報告様式の特色について紹介する.

乳がん看護認定看護師―検査・診断過程における看護師の役割

著者: 阿部恭子

ページ範囲:P.91 - P.93

1.はじめに

 乳癌が女性の臓器別癌罹患率の第1位となり,乳癌検診に対する様々な啓発活動が行われるに従って,乳癌検診への関心は高まってきている.そして,視触診単独の検診から,マンモグラフィあるいは超音波検査などの画像診断併用乳癌検診へと移行しつつあり,より精度の高い検診が求められている.検診によって,「所見あり」もしくは「要精密検査」となった受診者に対して看護師は慎重にかかわる必要がある.しかし,多忙で煩雑な外来看護の場では,乳癌の診断がつき,病名と治療方針を説明するいわゆる告知の場面への看護師の関心が高く,検査・診断過程に対しては目を向ける余裕がないことが多い.乳癌診療におけるチームアプローチの重要性が高まっている現在,看護師は,検査・診断過程の知識を深め,受診者(患者)の不安を緩和する心理的サポートを重視する必要がある1,2).

 2005年10月から,「乳がん看護認定看護師」の教育が始まり,乳癌患者・家族へのスペシャリティの高い看護を提供することによって,乳癌患者・家族のQOLの向上と乳癌診療の質の向上に貢献することが期待されている.

 本稿では,乳がん看護認定看護師誕生までの経緯と乳がん看護認定看護師の役割について,さらに乳癌のチーム医療における看護師の役割を述べる.

更年期障害に対するホルモン療法における乳癌の発生

著者: 加耒恒壽 ,   河野善明 ,   萩原聖子

ページ範囲:P.95 - P.98

1.はじめに

 現在,更年期女性に対するエストロゲンとプロゲステロンを併用したホルモン補充療法(hormone replacement therapy;HRT)が乳癌発生のリスクの増加を伴うことは疑いの余地がない状況である1).1997年にCollaborative Group on Hormone Factors in Breast Cancerは51の疫学研究の分析から乳癌のリスクがホルモン治療を受けている女性で増加することの強いエビデンスを示した2).また乳癌のリスクは投与期間が長くなれば増加し,治療の中止で減少すると報告した.さらに2002年7月に大規模な無作為コントロール試験であるWomen’s Health Initiatives study(WHI)ではエストロゲンとプロゲステロンを併用したホルモン補充療法で乳癌の発生が増加したが,一方,エストロゲン単独療法では乳癌の増加はみられなかった3,4).これらの結果を受けて,乳癌発生のリスクが予想を超えたため,研究からこのエストロゲン・プロゲステロン併用療法のプログラムが中止された.米国でもこのことはメディアで大々的に取り上げられ,ホルモン補充療法を受ける女性が激減した.

 本稿ではまず更年期障害に対するホルモン療法における乳癌の発生について大きな影響を与えたWHIの研究3)の内容を詳しく述べ,さらに重要な知見が得られた100万人を対象とした英国Million Women Studyの結果報告5)とわが国における状況についてふれる.

最新の画像診断

著者: 古澤秀実 ,   難波清

ページ範囲:P.100 - P.104

1.はじめに

 乳癌の画像診断というテーマは,あまりに深遠であり限られたスペースで論じることは困難であることをまずお断りせざるをえない.しかも「最新の」という場合,最新の検査法,検査機器の意味のみならず,最新の診断の進め方の意味をも含むと考えられる.画像診断の意義,目的を論ずるうえで,前者の意味に重点を置いた場合,その最新の検査法,検査機器に関してそれぞれの専門家をも差し置いて原理からの詳細な解説することはおよそ不可能であり,さらには本特集が読者の目に触れる頃にはすでに最新とはいえなくなってしまう可能性もあるので,本稿では主に後者を意識しながら前者についても触れていこうと思う.

 さて,乳癌の画像診断には乳癌発見のためのスクリーニングから,再発巣に対する治療効果判定診断まで幅広く,大きく分類すると「存在診断」「形態診断」「質的診断」「機能診断」「効果判定診断」に分けられ,それぞれの意義,目的が微妙にオーバーラップしているが,診療現場で画像診断を用いる場合には,症例と目的に応じた臨機応変な対応が肝要である.そして,現在汎用されている検査法,検査機器から研究中のものまで,乳癌の画像診断のゴールが病理組織像への肉薄であることに異論を挟む余地はなく,病理診断が治療に直結しているように画像診断も治療に直結したものでなければならない.この観点から,当然のこととしてより高性能,低侵襲,易操作性,省スペースかつ廉価な検査法,検査機器の開発,運用が要求されている.

今月の表紙 腫瘍の細胞診・1

乳腺良性腫瘍

著者: 水谷奈津子 ,   海野みちる ,   坂本穆彦

ページ範囲:P.4 - P.6

 乳腺腫瘍の診断には穿刺吸引細胞診(fine needle aspiration cytology;FNAC)は有用な検査法の一つである.簡便かつ患者への負担が少なく,質的な診断も得られる.そのため,乳房レントゲン撮影(マンモグラフィー)や超音波検査とともに,FNACは主要な検査として位置付けられている.

 乳腺腫瘍の組織型は多彩である1,2).良性腫瘍は経過観察となることがあるため,画像診断やFNACの役割は大きい.それには十分な量の細胞採取とアーチファクトの少ない標本作製が必要である.

シリーズ最新医学講座 臓器移植・1

移植と免疫応答

著者: 清野研一郎

ページ範囲:P.105 - P.111

はじめに

 臓器移植とは,各種臓器の高度な機能低下,すなわち臓器不全により生命の危機もしくは著しいQOLの低下に瀕した患者を救う効果的かつ最終的な治療方法であり,不全臓器をドナーから提供された臓器で置換し機能回復を図る.現在臨床で行われているのはヒトからヒトという同じ種間で行われる同種移植である.通常,同種異系すなわち他人の臓器を移植されると,レシピエントの免疫系がそれを異物と認識することで強い免疫応答,すなわち拒絶反応が引き起こされる.よって,一卵性双生児間の移植を除き,適正な免疫抑制剤の使用が同種臓器移植にとっては必要不可欠である.

 本稿ではこれら同種異系臓器移植後に起こる免疫応答の基礎をまず概説する.さらに,拒絶反応を乗り越え免疫抑制剤なしにも移植臓器が生着する現象,すなわち免疫寛容のメカニズムと研究の最前線を解説し,臓器移植後免疫抑制療法に関する今後の展望についても触れたいと思う.

編集者への手紙

ALT優位の血清アミノトランスフェラーゼの肝外組織由来の可能性

著者: 小林正嗣 ,   木村隆

ページ範囲:P.112 - P.115

1.はじめに

 成人男性において血清アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(aspartate aminotransferase;AST)およびアラニンアミノトランスフェラーゼ(alanine aminotransferase;ALT)の軽度上昇例の頻度が高いことについて,筆者は先に,脂質代謝関連蛋白,特に中性脂肪水解酵素(triglyceride lipase)の産生に伴うアミノトランスフェラーゼの誘導の亢進(産生の増大)の可能性を推定した1,2).しかし,今日,ヒトの中性脂肪水解酵素については,肝性リパーゼ(hepatic triglyceride lipase;HTGL),リポ蛋白リパーゼ(lipoprotein lipase;LPL)およびホルモン感受性リパーゼ(hormone sensitive lipase;HSL)のほかに,あらたに脂肪組織などにおける脂肪トリグリセライドリパーゼ(adipose triglyceride lipase;ATGL)の存在とそのアミノ酸構成が明らかにされたことから,本稿では,これらの最近の知見に基づき,先の記述1,2)を訂正する.

乳癌細胞診標本を用いたCISH法によるHER2/neu遺伝子検出の基礎的検討

著者: 片山博徳 ,   前田昭太郎 ,   工藤光洋 ,   内藤善哉

ページ範囲:P.116 - P.117

1.目的

 乳癌の免疫療法薬であるTrastuzumab(Herceptin®)の治療適応の判定にはHER2/neuの過剰発現・遺伝子増幅の解析が必要であり,また,St. Gallen 2005において,乳癌のリスク因子としてHER2/neuの過剰発現・遺伝子増幅の有無も追加された1).今回,光学顕微鏡により観察が可能であるchromogenic in situ hybridization(CISH)法を用いて,乳癌細胞診材料におけるHER2/neu遺伝子の検出について基礎的な検討を行った.

学会だより 第38回日本臨床検査自動化学会大会

久々の神戸の地で基礎と調和した実践の学会

著者: 山舘周恒

ページ範囲:P.118 - P.118

 日本臨床検査自動化学会第38回大会は2006年10月11日から13日までの3日間,渡辺直樹教授(札幌医科大学臨床検査医学)を大会長として神戸国際会議場で開催された.当大会に先立って第9回アジア臨床病理学会が開催されたこともあり,例年より100題ほど多い344題の一般演題数と約2,300名の参加者を得て活気ある大会となった.

 大会初日の夜の技術セミナーは,例年の「科学技術」「遺伝子検査技術」「POCT」に新たに「チーム医療実践」が加わり,4種類のセミナーが開催された.このテキストは学会ホームページ(http://www.jscla.com/)からダウンロードできるが,科学技術セミナーではISO 15189取得でも重要な要件となっている“不確かさ”を,遺伝子検査技術セミナーでは“HIV薬剤耐性検査,オーダーメイド医療,固形腫瘍の遺伝子診断”,POCセミナーでは“POCTとMSBG”,チーム医療セミナーでは“糖尿病療養指導士,CRC,NSTでのチーム医療へのかかわり”をそれぞれテーマとして実践的な講義が行われた.

分析装置の新たな機能,そして個人とチームから学ぶ

著者: 米田孝司

ページ範囲:P.119 - P.120

 2006年10月11~13日に開催された本学会は渡辺直樹大会長のもと4年ぶりに神戸へ会場を移し,一般演題344題,大会登録者約2,300名と盛会であった.一日目にはチーム医療実践セミナー,科学技術セミナー,遺伝子検査技術セミナー,POCセミナーがあり,実践的な技術セミナーということもあり平日21時遅くまで多くの方が参加していた.筆者は2006年5月の医学検査学会(島根)でのPOCセミナー講演に続いて,POCTコーディネータ取得のために,血糖測定でのPOCT対応機器およびSMBGの6機種(3社)を用いて実習し,実試料による影響因子や測定値の違い,機器の特性と適正使用について学んだ.血糖測定器に測定誤差を認めた症例報告においては,臨床的に許されると思われる血糖誤差(約10%)から解釈するPOCTとSMBGの違いのアドバイスがあった.

 二日目・午前は,ゲノム解析で有名な東京大学医科学研究所・中村祐輔教授の「オーダーメイド医療の確立に向けて」と題した講演を聞いた.薬剤に対する薬理効果や副作用の個人差は薬物代謝・運搬・レセプター・シグナル伝達などに関与するSNPが要因であり,その情報に基づくオーダーメイド医療実現化の国際プロジェクトの成果報告があった.数百万か所のSNPアレル頻度とタグSNPの整備,安く多くのSNPを素速く解析する技術,研究の有効利用など現状および将来展望を述べ,血液から60分以内でSNP分析できる機器の開発についても報告があった.

海外文献紹介

β細胞の漸進的悪化とともに血清Visfatinは増加する

著者: 鈴木優治

ページ範囲:P.69 - P.69

 Visfatinは主に内臓脂肪組織により分泌される新規のアジポカインであり,2型糖尿病で増加することが示されているが,インスリン感受性との関係は分かっていない.インスリン分泌異常が2型糖尿病でみられる代謝異常の進行に寄与することから,著者らはVisfatinがヒトのインスリン分泌に関係すると仮定し,このことを明らかにするために非糖尿病男性118人および2型糖尿病患者64人を対象として断面研究を実施した.また,長期にわたる1型糖尿病患者58人についても検討した.非糖尿病者では,循環Visfatinは独立的にインスリン感受性ではなくインスリン分泌と関係しており,グルコースへの急性インスリン応答だけでVisfatin変動の8%が説明された.また,OGTT30分値とも関係があった.2型糖尿病では,循環Visfatinは増加していたが,この関係はHbA1Cを考慮すると大きく弱められた.結局,循環VisfatinはHbA1C値の調整後では長期にわたる1型糖尿病患者でも増加することがわかった.循環Visfatinはβ細胞の漸進的悪化とともに増加していた.

ヒト肥満におけるレチノール-結合蛋白質4

著者: 鈴木優治

ページ範囲:P.99 - P.99

 マウスによる研究で,脂肪組織はグルコースセンサーとして働き,細胞内グルコース濃度の低下に応答する循環因子であるレチノール-結合蛋白質4(RBP4)の放出を介して全身のグルコース代謝を調節することが示唆されている.このモデルはヒトにおいては確認されていない.RBP4は分離された成熟ヒト脂肪細胞において強く発現され,ヒト脂肪細胞を分化させることにより分泌された.動物データと違って,RBP4 mRNAは肥満女性の皮下脂肪組織では抑制調節され,循環RBP4濃度は正常体重,過剰体重および肥満女性においても同じであった.RBP4はいかなる肥満関連因子とも関係なく脂肪組織のGLUT4発現と正相関していた.5%の体重減少は循環RBP4に影響することなくわずかに脂肪組織RBP4発現を低下させた.間質性グルコース濃度が高い群および低い群において静脈グルコース濃度はOGTT中に同じであり,脂肪組織の基礎的なRBP4発現および血清RBP4濃度は同じであった.著者らの知見は脂肪と循環RBP4の調節におけるげっ歯動物とヒト間にある深遠な差異を指摘し,脂肪細胞によるグルコース消費がRBP4の調節における支配的な役割であるという概念と異なっている.

転写因子MITFは心臓の成長と肥大を調節する

著者: 鈴木優治

ページ範囲:P.99 - P.99

 MITF(microphthalmia transcription factor)発現の上昇は色素細胞,肥満細胞,破骨細胞を含むいくつかの細胞でみられる.MITFはこれらの細胞に特異的な遺伝子の調節において中心的な役割を担っている.そのmRNAは心臓に比較的高レベルで存在するが,その心臓における役割は調べられていない.著者らはMITFの特異的な心臓isoformが心筋細胞で発現され,β-アドレナリン性刺激により誘導されることを示した.異なるMITFの突然変異を持つ2系統のマウスにおいて,β-アドレナリン性刺激への肥大性応答として心臓重量/体重比は低下した.これらのマウスではβ-アドレナリン性刺激の後に突然死する傾向があった.15月齢のほとんどのMITF突然変異マウスでは,心臓重量/体重比,収縮機能および心拍出量が顕著に低下した.正常マウスに比べMITF突然変異マウスでは,β-アドレナリン性刺激はB-typeナトリウム利尿ペプチドを誘導しなかったが,心房性ナトリウム利尿ペプチドを増加させ,心臓ストレス応答が示唆された.MITFはβ-アドレナリン性誘導の心臓肥大において必須の役割を担っていた.

コーヒーブレイク

寮歌祭てんまつ

著者: 屋形稔

ページ範囲:P.70 - P.70

数年前にこのコラムに「青春の歌」と題して若い頃高吟した寮歌を中心に書いたことがあった.そのなかで永い間寮歌の集いを敬遠していることについて,藤沢周平のエッセイにある“大勢で歌うような歌いかたを嫌悪する心理”にも触れた.

 その私が2006年7月のある日新潟で行われた寮歌の集いに何十年ぶりかで参加してみようと思ったのは妙な心理であった.きっかけはこの種の集いは全国どこでも開かれ有志の誰もが参加でき,大学時代の親友が仙台の二高出身であったが遠くから行くから会いたいといってきた単純な理由である.それに彼についてやはりこのコラムに「永年の友」と題して書いたばかりであった.

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あとがき

著者: 坂本穆彦

ページ範囲:P.122 - P.122

 わが国の乳癌に関する歴史を遡ると,江戸時代の華岡青洲(1760~1835年)にゆきつく.青洲は世界に先がけて全身麻酔薬“通仙散”を完成し,それを用いて1804年に60歳女性患者の進行性乳癌の手術を行った外科医として知られている.

 現在の紀の川市(和歌山県)に「華岡青洲の里・歴史館」があり,青洲が診療を行い,弟子を指導した建物がきれいに再現され,公開されている.その当時の乳癌手術が,民家の普通の部屋で行われた実態がよくわかる.現在では清潔な産院の病室で行われる分娩が,かつては妊婦の自宅に助産婦が出向いて出産を介助し,家人がわかした金だらいの湯の中で新生児が産声をあげていたということを想起すれば,青洲の行った手術時の光景がリアルに体験できる.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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