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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査51巻10号

2007年10月発行

雑誌目次

今月の主題 白血球 巻頭言

白血球―その生体防御と疾患へのかかわり

著者: 中村三千男

ページ範囲:P.1029 - P.1030

 「白血球」の範疇に入る細胞は,好中球などの食細胞に限らない.この特集では,まず生体防御における白血球の時間・場所にわたる動きをケモカインのダイナミズムから鳥瞰し,食細胞の役割を位置づけた.自然免疫の観点から主に食細胞に焦点を絞ったが,新たに注目されてきたNKT細胞(natural killer T cell)にも触れている.

 本特集で取り上げた内容の生体防御における位置づけを表1にイタリックで示した.細菌やウイルスなどの寄生体の侵入が宿主にとって初体験であると,宿主はその自然免疫系で対処する.侵入直後から働く細胞は,そこに局在するマクロファージやたまたま遊走してきた好中球などに貪食される.ただ,効率よい貪食には,レクチン経路や第2経路などの補体系で寄生体がオプソニン化されないといけない.このシステムでの殺菌は秒~分のオーダーである.侵入直後から働く殺菌性液体成分としては,食胞内や,局所で構成的に作られ分泌されている抗菌ペプチド(例:デフェンシン)・抗菌酵素(例:リゾチーム)がある.局所におけるTLR(Toll-like receptor)を介したケモカイン・サイトカインによる自然免疫系細胞の活性化は時間~日のオーダーで成される.これら一連の機構が少なくとも初感染5日までは必須である.直径1μmのブドウ球菌が何の束縛もなく1個感染して1時間ごとに分裂できると仮定すると,5.33日でほぼ月と同じ体積を占める計算になる〔4π÷3×(0.5×10-9)3×224×5.33km3〕.白血球のかかわる自然免疫系がいかに重要であるかを改めて思い知らされる.これらの抗菌系は,獲得免疫系でも重要なエフェクターシステムとなっている.

総説

生体防御反応におけるケモカインによる白血球サブセットの華麗な動的制御

著者: 松島綱治

ページ範囲:P.1031 - P.1036

 生体防御反応としての炎症・免疫反応において特異的白血球の組織浸潤は必須である.その特異性を規定する分子群がケモカインである.また,この数年,炎症と免疫応答が概念的にも一体の現象としてとらえられるようになってきた.本稿では,炎症・免疫応答のダイナミズム,場の形成についてケモカインを中心に最近の情報も加えて概説する.

抗菌ペプチドとその作用メカニズム

著者: 長岡功 ,   François

ページ範囲:P.1037 - P.1045

 デフェンシン(defensin)やcathelicidinなどのペプチドは,はじめ抗菌作用をもつ物質として見いだされたことから自然免疫にかかわる分子として注目されてきた.しかし,その後の研究によって,これらのペプチドが獲得免疫にも関与する可能性が示唆され,今では自然免疫と獲得免疫の橋渡しをする生体防御分子として考えられている.さらに,それらの抗菌作用に着目して,ペプチド誘導体の感染症に対する効果が臨床的に評価されはじめている.

寄生虫疾患と好酸球・好塩基球

著者: 丸山治彦

ページ範囲:P.1047 - P.1052

 蠕虫性疾患で末梢血中の好酸球が増多することはよく知られているが,好酸球が寄生虫を破壊するのにどれほど貢献しているのかは,特に臨床症例の場合はっきりしていない.イヌ回虫症などでは,感染数が少なければ自然治癒することもあり,ある程度有効であろうと推測できる.対して肺吸虫症では,薬剤で治療しない限り治らない.好塩基球の寄生虫感染における役割は長く不明であったが,サイトカインの産生源としての重要性が認識されつつある.

マクロファージの殺菌機能

著者: 野村卓正 ,   光山正雄

ページ範囲:P.1053 - P.1058

 マクロファージは,発達した異物貪食作用と細胞内処理能によって,最も原始的な海綿動物から高等な哺乳類にわたるすべての多細胞生物の生体防御に必須の細胞である.より複雑な免疫系を獲得した哺乳類のマクロファージは,食作用に加えて多彩な機能を発揮するが,その根幹に食作用による異物排除があることに変わりはない.本稿では,感染防御における役割を中心にマクロファージの有する普遍的な殺菌機構について概説する.

慢性肉芽腫症―基礎と臨床

著者: 布井博幸

ページ範囲:P.1059 - P.1065

 慢性肉芽腫症(chronic granulomatous disease;CGD)患者の診断をこれまで行ってきた経験から,診断の際の好中球分離法,活性酸素産生能検査,各活性酸素産生因子の検出方法,遺伝子解析検査などでの注意点と患者解析結果の考え方などを述べ,日本におけるCGD患者の現状について報告する.

各論

食細胞機能異常症を示す遺伝性疾患

著者: 竹崎俊一郎 ,   有賀正

ページ範囲:P.1066 - P.1070

 原発性免疫不全症(primary immunodeficiency disease;以下PID)は稀な疾患であるが,極めて多種多様な病態が存在している.本章ではその中から慢性肉芽腫症(chronic granulomatous disease;CGD)を除いた食細胞機能異常症の病因・臨床像・臨床検査に焦点をしぼって解説する.

血管炎の病態と好中球

著者: 鈴木和男

ページ範囲:P.1071 - P.1080

 好中球は,活性酸素産生やmyeloperoxidase(MPO)が産生するOClによって感染防御にはたらく.しかし,血管炎患者血清中に上昇する自己抗体MPO-ANCAおよびMPOが発症に関与していることがMPOノックアウトマウスによって証明された.また,MPOの重鎖のNおよびC末端にエピトープをもつMPO-ANCAが病態の重症化と関連することが判明した.一方,急性進行性糸球体腎炎(RPGN)を自然発症する病態モデルSCG/Kjマウスや真菌分子C. albicans extract(CADS),C. albicans water soluble glycoprotein(CAWS)誘導の冠状動脈炎を誘発するマウスの解析から治療方法が検討されている.最近,MPO抗体が糸球体内皮細胞に直接反応してICAM-1発現を誘発することがわかったことから,in vivoでのMPO抗体の役割を知るために量子ドットを使ったトレーザ解析法が有用となってきている.

ミクログリアとアルツハイマー病

著者: 錫村明生

ページ範囲:P.1081 - P.1084

 グリア細胞の1つであるミクログリアは,貪食細胞としてアルツハイマー病の発現に重要な働きをするベータアミロイドを処理するほか,神経栄養因子を産生し,神経保護にも働く.しかしながら,炎症細胞としての側面ももち,過剰な活性化は神経障害性作用も有する.ミクログリアの神経保護作用を損なうことなく,障害因子産生を抑制できれば,画期的な治療法になりうる.

NKT細胞と細菌感染

著者: 川上和義

ページ範囲:P.1085 - P.1089

 natural killer T(NKT)細胞は,T細胞でありながらNK細胞マーカーを発現する特異な細胞集団である.限られたレパートリーの抗原受容体を発現し,非古典的MHCクラスI分子であるCD1dに依存して糖脂質抗原を認識することで活性化を受け,迅速に大量のサイトカインを産生する.多くの研究によって,感染防御におけるNKT細胞の役割が解析されてきたが,複雑な機構の存在が予想されている.近年,細菌由来のNKT細胞認識糖脂質抗原の存在が明らかになり,感染防御免疫におけるNKT細胞の作用機序が解明されつつある.本稿では,これまでの知見をもとに,細菌感染におけるNKT細胞の意義について概説した.

話題

オートファジーによる殺菌

著者: 中川一路

ページ範囲:P.1091 - P.1095

1.はじめに

 自食作用(オートファジー)は,本来は,われわれのすべての体細胞が恒常性(ホメオスターシス)を維持するために働く機能の1つである.オートファジーの異常は,癌や神経変成疾患,発生や加齢などといった種々の病態にも密接に関与している.ところが,このオートファジーが,感染防御にも重要な働きを行っていることが明らかとなってきた.生体内に取り込まれた細菌などの異物の分解は,マクロファージや好中球といった貪食細胞による貪食(ファゴサイトーシス)作用によって細胞内に食胞として取り込まれた異物を分解するが,オートファジーでは細胞質内にまで入り込んだ異物の除去システムとして機能していた.本稿では,このオートファジーによる殺菌メカニズムについて概説する.

マクロファージのTLRシグナル

著者: 牟田達史

ページ範囲:P.1096 - P.1100

1.はじめに―哺乳動物における自然免疫の役割

 われわれ哺乳動物が備えているいわゆる免疫系は,後天的に遭遇した異物に適応して獲得する生体防御機構であることから,適応/獲得免疫系と呼ばれる.一方,すべての多細胞生物が生まれながらにしてもつ生体防御機構が,自然免疫系である1).適応/獲得免疫系を備えている脊椎動物では,初期感染防御において補助的な役割を果たしている原始的な免疫系であると従来考えられてきた自然免疫系は,脊椎動物でも最初に体内に侵入した微生物を認識し,サイトカインや共刺激分子の発現を介して,獲得免疫系の活性化を誘導する極めて重要な役割を果たしていることが,近年の研究によって明らかになった2).ウサギに抗原を免疫し,抗血清を作成した経験をお持ちの方は,抗原を注射する前にアジュバントと混合したことを思い出していただきたい.結核菌の死菌などを含むアジュバントは,自然免疫系を刺激する役割をもっていたのである.

 獲得免疫系は,抗原分子の詳細な構造を識別できるのが特徴であるが,この識別は,ゲノムの組み換えによって生じる膨大な種類の抗原受容体,抗体分子によって行われる.一方,自然免疫系では,ゲノムに含まれる有限の分子を用いて,数知れない異物の認識を行う必要がある.そのため,自然免疫系では,感染微生物の表面に存在する共通抗原の分子パターンを標的とした認識(パターン認識)によって生物学的評価を行う.近年,哺乳動物におけるパターン認識にかかわる受容体が発見されているが,なかでも研究が進んでいるのが,Toll-like receptor(TLR)である.

細胞遊走能測定法の原理とその応用―微量でリアルタイムかつ高解像度の測定法を求めて

著者: 山内明

ページ範囲:P.1101 - P.1105

1.はじめに

 白血球は主に生体防御を担う細胞群であり,最近では骨髄系・リンパ系とも細かく分類され,それぞれに特異的な機能の解析が進んでいる.その一方で,すべての白血球に共通に備わっている機能もある.「細胞遊走」はその代表例である.細胞遊走の進化上の歴史は古く,海綿などの二胚葉性動物で既に上皮細胞と内側の襟細胞と呼ばれる層の間にアメーバ状の細胞がみられることが報告されている.これら生体防御反応のほか,細胞の移動は,生殖・個体発生,分化,組織修復など,生命現象を支える重要な事象となっている.この稿では,白血球だけでなく,ほとんどすべての細胞種の基本的な機能である「細胞遊走」について,その測定方法と最新の知見を解説する.

慢性肉芽腫症の遺伝子治療への取り組み

著者: 岡田真由美 ,   奥山虎之

ページ範囲:P.1106 - P.1110

1.慢性肉芽腫症(chronic granulomatous disease;CGD)の病因
 好中球は,体内に微生物が侵入した際に,局所に遊走し,活性酸素を産生し殺菌を行う.CGDは,好中球の活性酸素産生能が欠損している先天性免疫不全症である.活性酸素産生に主要な役割を果たす酵素NADPHオキシダーゼは,細胞膜上のgp91phox,p22phoxのヘテロ二量体と細胞質内に存在するp67phox,p47phox,p40phox,Racp21から構成されるが,CGDではそのうちgp91phox,p22phox,p67phox,p47phoxのいずれかを欠損する.患者は,乳児期から重症な細菌および真菌感染症に反復罹患し,諸臓器に肉芽腫を形成するのが特徴である.遺伝形式は,gp91phox欠損型は,X連鎖性遺伝(このためX-CGDという),他の3病型は常染色体劣性遺伝である.X-CGDは,X連鎖性遺伝のため患者のほとんどは男性で,母親が保因者であることが多い.保因者の末梢血好中球は,正常な細胞と異常な細胞とが混在するモザイクを呈し,その割合は,Lyon効果の程度によって決まる.保因者であっても,正常な好中球の割合が5%あれば,感染症に罹患しても重症にはなりにくい.

Noxファミリーの調節機構

著者: 宮野佳 ,   水上令子 ,   住本英樹

ページ範囲:P.1111 - P.1115

1.はじめに

 Nox(nicotinamide adenine dinucleotide phosphate oxidase;NADPHオキシダーゼ)ファミリーは,NADPHから電子をもらってスーパーオキシド(O2)等の活性酸素をつくる一群の酵素である.ヒトではNox1からNox5(Nox2は別名gp91phox)の5分子種に遠縁のDuox1とDuox2を加えた7つのメンバーが知られている.これらは多様な発現パターンを示し,生体内で重要な役割を果たしている(表1)1,2).一方で,活性酸素は基本的に生体にとって有害であり,その無秩序な生成を避けるために,Noxの活性は厳密に制御されていなければならない.本稿では,Noxの活性制御の仕組みについて,最新の知見をもとに述べる.

痛風の分子病態

著者: 赤星透 ,   竹本毅

ページ範囲:P.1116 - P.1120

1.はじめに

 痛風は尿酸塩結晶〔monosodium urate monohydrate(MSU)crystals〕により惹起される代表的な結晶誘発性炎症性疾患である1).痛風では,第一中足趾節関節や足関節などに急性の関節炎が惹起される.障害関節には発赤,腫脹,疼痛などの急性炎症症状が顕著に認められる.痛風の症状は強く,患者は痛みのため歩行困難となり,障害部位に触れるだけでも強い痛みを訴える.一方,痛風性関節炎の症状は一過性であり,多くは治療の有無にかかわらず1~2週間で自然軽快することが臨床的な特徴である.

 痛風はヒポクラテスの時代から既に認識されていた古い疾患である.その後の多くの研究は,関節腔内に析出した尿酸塩結晶が好中球浸潤を引き起こし,好中球を介した急性炎症が痛風病態の中心を形成していることを明らかにした.しかし,生体内で析出した尿酸塩結晶が起炎刺激となる機序などはいまだ不明であった.近年の痛風研究の進歩により,痛風の分子病態の詳細が明らかになりつつある.特に,貪食細胞〔マクロファージ(Mφ)や好中球〕が自然免疫機構を介して尿酸塩結晶を認識することにより,急性炎症が惹起されることが明らかにされた.これらの研究成果は,痛風の分子病態の解明のみならず,生体内における尿酸塩結晶の生理的・病態的意義に新たな展望を開くものと考えられる.

 痛風の急性炎症病態には,①尿酸塩結晶の組織沈着と関節腔内への脱落,②貪食細胞による尿酸塩結晶の認識,③好中球の浸潤・活性化による急性炎症の発現,④急性炎症の収束の4つの過程が考えられている.本稿では,最近の研究成果に基づいて,これらの炎症過程のメカニズムを概説する.

ミエロペルオキシダーゼ(MPO)の抗菌活性

著者: 荒谷康昭

ページ範囲:P.1121 - P.1125

1.はじめに

 ミエロペルオキシダーゼ(myeloperoxidase;MPO)は,主に好中球のみに存在しており,その含有量は細胞の乾燥重量の5%にも達する.単球にもわずかに存在しているが,その他にMPOの存在が認められる組織細胞は知られていない1,2).好中球が不活性化状態のときはアズール顆粒内に貯蔵されている.ヒトのMPO遺伝子は,17番染色体に14kbの単一遺伝子としてコードされており,12個のエキソンから構成される.骨髄における顆粒球の分化の際,前骨髄球と前骨髄単球だけが活発にMPOを発現し,骨髄球の初期段階で発現は停止する.したがって,成熟好中球では,MPO蛋白質は大量に蓄積されているが,遺伝子の発現は停止している.MPOは,まず80kDaの単一ペプチドとして翻訳されたのち,シグナルペプチドが除去され,N-結合型糖鎖が付加して90kDaの不活性なアポプロMPOになる.アポプロMPOは小胞体上でヘムが結合して活性のあるプロMPOとなり,エンドソームまたは顆粒に移行するとプロペプチドが分解された後,59kDaのαサブユニットと14kDaのβサブユニットに切断され,それぞれ2本ずつが結合しておよそ150kDaの成熟型となる3)

 活性化した好中球は,食細胞NADPH(nicotinamide adenine dinucleotide phosphate)オキシダーゼ(Nox2)により酸素からスーパーオキシド(O2・-)を,次いで自発的あるいはスーパーオキシドディスムターゼによりO2・-から過酸化水素(H2O2)を産生する.MPOは,食胞内あるいは細胞外に放出されて,H2O2と塩素イオン(Cl)から次亜塩素酸(HOCl)が産生される反応を触媒する(図1).生体内の他の組織では,活性酸素はミトコンドリアの電子伝達系の漏れとして生じているが,好中球はむしろ積極的に活性酸素を産生している細胞である.

今月の表紙 腫瘍の細胞診・10

子宮体部の細胞診

著者: 北澤暁子 ,   海野みちる ,   坂本穆彦

ページ範囲:P.1024 - P.1027

1.子宮内膜の周期的変化

 子宮内膜は腟上皮と同様に周期的な変化を示す.下垂体前葉から分泌される卵胞刺激ホルモンにより,卵巣からエストロゲンおよびプロゲステロンが分泌され,性成熟期の内膜は,増殖期・分泌期・月経期を周期的に繰り返す.

 子宮内膜の粘膜は基底層と機能層に分けられ,機能層だけが図1のような変化を示す.子宮内膜は正常な状態でも,上記のような劇的な変化を繰り返している.さらに,年齢による形態変化も加わるため,子宮内膜細胞診はそれらを加味したうえで判定する必要がある.

シリーズ最新医学講座 臓器移植・10

腎移植

著者: 尾本和也 ,   田邉一成

ページ範囲:P.1127 - P.1134

はじめに

 腎不全,特に慢性腎不全に対する治療としての生体腎移植の進歩は,シクロスポリン,タクロリムスといったカルシニューリンインヒビターなどの免疫抑制剤の進歩によるところが大きいのは周知の事実である.例えば,移植医療が開始された30年前の時点では血液型不適合移植は禁忌であったが,現在は拒絶反応を抑制するための予防や対策を講じることで可能になってきている.このような進歩の一方で,移植医療には提供者(ドナー)が必要であることは生体腎移植の開始当初より変わりようのない事実で,健常者であるドナーについての選択や適応については詳細に検討する必要があり,安全に移植を行えるドナーとレシピエントを選択することが移植医療の治療の第一歩となる.また,移植後は拒絶反応の有無に注意し,常に血液検査や超音波検査にて状態をモニターしながら,拒絶反応が疑われた場合,速やかな治療が必要となってくる.本稿では生体腎移植の適応基準,移植手術の実際,移植後のフォローについてポイントを述べることとする.

研究

受動的閉眼時の脳波変化について

著者: 北野俊雄

ページ範囲:P.1135 - P.1138

 0~6歳の男女99人について,自発的閉眼と受動的閉眼試験における後頭部基礎律動の周波数変動を比較したところ,自発的閉眼の57%,受動的閉眼の49%に周波数の増加が認められ,周波数変化率はそれぞれ平均1.11,1.12だった.受動的閉眼による後頭部基礎律動の開閉眼変化率が自発的閉眼に認められた変化率に近似であり,本法は有用と考えられた.

子宮adenomatoid tumorにおけるcalretininとpodoplaninの発現:免疫組織化学的研究

著者: 清家彩花 ,   本田知子 ,   新宅雅幸

ページ範囲:P.1139 - P.1143

 子宮,精巣上体などに発生する稀な良性腫瘍であるadenomatoid tumorの組織起源については,中皮細胞由来が定説化している.中皮細胞のマーカーとして近年用いられるようになったcalretininとpodoplaninが子宮に発生する本腫瘍に発現しているかどうかを免疫組織化学的に検討した.子宮体部adenomatoid tumor 10症例全例において,腫瘍細胞にcalretininとpodoplaninの強い発現を認めた.Calretininでは核と細胞質の両者に,podoplaninでは細胞質に陽性像が見られ,腺腔に面する細胞質の表面には毛羽立ちが見られた.染色感度はpodoplaninのほうがcalretininよりも勝っていたが,podoplaninはリンパ管内皮細胞に陽性を示すため,特異性ではcalretininのほうが優れていた.両者に対する抗体を用いた免疫組織化学は,本腫瘍の確定診断や病変の浸潤範囲の判定に有用であることが示された.

学会だより 第48回日本臨床細胞学会総会

診療過程における形態学的診断の真の役割

著者: 水谷奈津子

ページ範囲:P.1144 - P.1145

 第48回日本臨床細胞学会総会が,千葉大学大学院医学研究院胸部外科学の藤澤武彦先生を会長として,2007年6月8~9日,千葉県幕張メッセ国際会議場にて開催された.参加者約4,000人,一般演題(口演71題,示説175題)シンポジウム5題,ワークショップ11題,教育講演12題など盛大に行われた.今回は,“医療安全セミナー”,“感染症とリスクマネジメント”と私たち医療従事者にとって日々話題になっている内容があり,また細胞像から画像を推測するという教育セミナー“乳腺細胞診に役立つ画像診断学”,そして“細胞診断,病理診断と矛盾する経過を取った症例”という今回初の試みの症例検討と,細胞診に従事する私たちにとってとても気になるワークショップ“細胞診と診療報酬”と目が離せない内容であった.他に班研究報告,アジアフォーラム,スライドセミナー,細胞検査士要望教育シンポジウムなど多彩であった.

 さらに今年は細胞検査士会が発足して40周年であり,9日の夜には隣接するホテルニューオータニで記念式典が行われた.

今後の子宮癌検診の方向性について

著者: 片岡秀夫

ページ範囲:P.1146 - P.1146

 本学会のテーマは「臨床細胞学―より高きものをめざして」である.学会長が命名したとおり,細胞診断学は,①体から自然に剥がれ落ちた細胞を集め診断する剥離細胞診,②目的の部位を擦過し細胞を採取して診断する擦過細胞診,そして,③体の中の目的の臓器や腫瘤に対して針を刺し,特定の部位より細胞を採取し診断する穿刺吸引細胞診と大きく内容が広がってきた.近年,一応の細胞診断が確立したといえる段階に近づいたと思われるが,さらに免疫組織化学が加わったことで細胞の由来等の検索が容易になり,今後は遺伝子検索の方法が加わることが予想される.

 子宮癌検診における細胞診の重要性はいうまでもないが,日本における子宮癌検診の大きな問題点の1つは,受診率が欧米の約80%に比べ,日本は13~20%と非常に低いことであり,さらにその受診者は比較的同じ人が受診しているという事実である.したがって,子宮癌検診の早期発見において非常に有効な手段であるはずの細胞診も,近年陽性率は低下傾向である.また,今1つの問題は,仮に受診率が上がった際にその検体を診断する細胞検査士が少ないことも解決しなければならない問題である.結果として8割を超える検診を受けない人たちの子宮癌発生により,1990年頃までは減少傾向であった子宮癌死亡者数も,現在は平行に推移していることも理解しやすい.

海外文献紹介

Haemophilus influenzaeは好中球壊死を誘導する:慢性閉塞性肺疾患における役割

著者: 鈴木優治

ページ範囲:P.1045 - P.1045

 非莢膜Haemophilus influenzaeは慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者の気道で安定期と悪化期の両期に普通に見いだされている.また,COPD患者の痰には多数の好中球とエステラーゼのような好中球産生物も検出されている.なぜH. influenzaeが多数の侵潤好中球の存在下においてCOPD患者の肺に増殖するかは知られていない.著者らはH. influenzaeと好中球間の異状な相互作用がCOPD病理学に影響するかどうかを検討した.非莢膜H. influenzaeの臨床分離物は健康なボランティアからの好中球と生体外でインキュベートし,呼吸性バースト活性,サイトカインとケモカインの産生,細菌の貪食能と殺傷能および好中球のアポトーシスと壊死を測定した.H. influenzaeは好中球により貪食され,それにより呼吸性バーストおよび好中球走化性因子IL-8が活性化された.しかし,好中球自身は細菌を殺傷するというよりは壊死し,細胞外にそれらの顆粒成分を遊離した.H. influenzaeと好中球の相互作用の後で産生される,好中球由来のIL-8は肺へさらなる好中球の侵潤を引き起こし,それにより炎症性応答を増幅した.

非糖尿病ボランティアにおける空腹時涙液グルコース濃度の質量分析法

著者: 鈴木優治

ページ範囲:P.1065 - P.1065

 グルコースは涙液成分と認識されているが,その濃度や血液グルコース濃度との相関には不一致がいまだに見られる.文献による正常涙液グルコース濃度(メジアン)は0~9.1mmol/l(110~280μmol/l)の範囲にある.著者らは試料のサンプリング法と分析法を改良し,これらの不一致の解決を試みた.分析は質量分析装置を備えた液体クロマトグラフィを用い,被検者25人から得た涙液1μl中のグルコースを測定した.涙液はミクロキャピラリーと細隙灯顕微鏡を用いて採取した.空腹時涙液グルコースのメジアン(範囲)は28(7~161)μmol/lであった.各人の涙液グルコース測定の標準偏差は平均涙液グルコース濃度とともに比例的に変化し,概ね平均値の1/2であった.本研究で得られた涙液グルコース濃度は非糖尿病者について報告された値よりも低値であった.コンタクトレンズの使用者と非使用者間に涙液グルコース濃度の有意差はなかった.血液と涙液の空腹時グルコース濃度には,有意の相関(r=0.50)が認められた.本法は他の涙液成分の研究に応用でき,他の疾患の状態のモニタリングに役立つものと考えられた.

ヒト赤血球コリンエステラーゼ活性の個人内安定性

著者: 鈴木優治

ページ範囲:P.1084 - P.1084

 赤血球コリンエステラーゼ活性(RBC-ChE)の臨床測定は殺虫剤や神経剤のような抗コリン作用性の有機リン化合物への暴露の最も鋭敏な生物マーカーとして有用である.この酵素の個人間変動の特徴は極めてよく把握されているが,個人内変動の大きさについてはいまだに論争されている.個人内変動の正確な測定はRBC-ChEの測定頻度を確定するために極めて重要であり,著者らはこの点について検討するため,RBC-ChEの定期的な測定を要求される職場で働く男性46人を対象として回顧的にRBC-ChE活性の個人内変動を追跡した.RBC-ChE活性の測定は同一の検査所の技術者がpHメータ法により行った.対象とした労働者46人における平均就業期間は20年であった.RBC-ChE活性の平均値は0.77(範囲,0.59~0.99)delta pH units/hであり,その活性の平均標準偏差は0.03delta pH units/h(CV=3.9%)であった.各労働者のRBC-ChE活性と時間との関係は,回帰式の平均の傾きが0.0010delta pH units/h/yearであり,無視できる大きさであった.これらの結果は,RBC-ChE活性が長期にわたり安定であることと,RBC-ChE活性測定の適当な頻度に関する運用方法を明らかにした.

コーヒーブレイク

ある神経学者への追憶

著者: 屋形稔

ページ範囲:P.1090 - P.1090

 昭和33年にサンフランシスコのカリホルニア大病院に留学した.当時そこには日本の留学生は五指にも満たぬ寂しさであったが,前年に神経学教室に東大から椿忠雄という人が1年間滞在し既に帰国したが優れた方だったと聞かされた.これが先生との最初の縁であった.

 昭和42年頃私は母校の検査部助教授で悪戦苦闘していたが,この年新設された神経内科の教授として着任したのが先生であった.教室員は一人もなく私の母教室から志願者が募られスタッフになった.主任の西川さんが東大で椿さんと同じ内科出で神経学にも少なからぬ関心を抱いていたせいであった.合同の懇親会で温泉場へ行き椿さんが私の民謡に感歎の声を惜しまれなかったのを覚えている.

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あとがき

著者: 岩田敏

ページ範囲:P.1150 - P.1150

 関東地方では遅い梅雨明けを迎えるとともに,連日の猛暑日が続き,お盆休みが始まったこの週末には,各地で熱中症や水の事故が相次ぎました.甲子園では高校生達の熱い戦いが行われています.このあとがきを書いている今,もうすぐ終戦記念日を迎えようとしている8月の半ばは,夏真っ盛りのように見えますが,実は既に立秋を迎え,ふと気がついてみれば随分と日が短くなっていることがわかります.「臨床検査」51巻10号が読者の皆さまのお手元に届く頃には,日本列島はきっと涼しくなっていて,夜明けや日暮れの時刻は,今よりもずっと遅くなっていることと存じます.この夏,夜空に久々の天の川とペルセウス座流星群を見せてくれた奥日光は,ゆっくり訪れる紅葉を楽しむ人々で賑わっているかもしれません.

 今月の主題は「白血球」です.白血球は生体を感染症から守る免疫機構の重要な担い手となっていることは皆さんご承知のとおりです.白血球のうち好中球・マクロファージの役割というと細菌を貪食・殺菌する作用が有名ですが,マクロファージは食細胞としての貪食殺菌能を発揮するだけではなく,異物断片の抗原情報をTリンパ球にあたえ,増殖活性化し特異的な免疫応答を誘導します.これにより活性化したT細胞はヘルパーT細胞となり,様々なサイトカインを産生します.サイトカインはB細胞の分化と抗体産生を高めるなど様々な免疫細胞を活性化し,感染防御に重要な役割を果たします.またこれらの特異的白血球の,侵襲を受けた組織への浸潤には,多くのケモカインが関与していることも解明されて参りました.感染症や悪性腫瘍に対する生体防御反応としての炎症・免疫反応の中で,白血球は最も基本的な部分を担っているということができますが,最近になって解明されてきたことや,まだ解明されていないことも沢山あるようです.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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