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雑誌目次

論文

臨床検査51巻2号

2007年02月発行

雑誌目次

今月の主題 尿路感染症の診断 巻頭言

尿路感染症

著者: 岩田敏

ページ範囲:P.129 - P.130

 尿路感染症は腎臓から尿道に至る尿路に起きる感染症の総称で,上部尿路感染症である腎盂腎炎,下部尿路感染症である膀胱炎,尿道炎,前立腺炎,精巣上体炎などがある.下部尿路感染症においては,性行為感染症(sexually transmitted disease;STD)としての位置づけも重要である.多くの場合,尿路感染症は上行性感染,すなわち外陰部の細菌が尿道に侵入し,膀胱,尿管,腎盂と上行性に侵入して感染が成立する形を取り,血行性感染により起きることは少ない.一方,新生児や高齢者では尿路感染症がフォーカスとなり,いわゆるurosepsisの形で敗血症に進展する場合も多く,特に高齢者では救命救急センターに敗血症性ショックで運び込まれる症例の中で一定の割合を占めている.これらの症例の中には手遅れとなり救命できないケースも多々あることから,早期発見・早期治療が重要である.また小児の尿路感染症においては,膀胱尿管逆流に代表される尿流障害を伴っている場合が多く,気づかずに放置しておくと感染を反復して腎実質の不可逆的な障害をきたし,末期腎不全に陥る場合もあるので,やはり早期に的確に診断し,早期治療を行うとともに,尿流障害の有無や腎実質の変化の有無について画像診断などを用いて診断することが重要となる.STDについては,感染を放置すればパートナーを感染させることはもちろん,パートナーを介してさらに社会に広がる可能性が高いこと,感染者自身の不妊に繋がる可能性があることなどから,早期診断と早期治療は社会的な重要性を含んでいる.また性交渉の低年齢化に伴い,STDに感染する年齢も低年齢化しており,小学校高学年から高校生にかけての児童・生徒や,保護者,教職員に対する教育活動を通して,STDに関する正しい知識を普及し,STDの感染を予防することも重要な問題である.そのためにも,やはり簡便で精度の高い診断法の普及が重要となる.

 尿路感染症の診断は,従来から尿を用いた一般検尿および尿培養により行われており,現在においても本質的にその方法に変化はないが,診断のための標準的な基準作りが,泌尿器科領域を中心に行われている.また一方では,遺伝子診断などを利用した迅速診断検査も,STDを含む尿路感染症の診断に一般検査室レベルで導入されるようになってきた.今月号では,尿路感染症の診断に焦点を当てて,各分野の専門家の先生方から,従来から行われている検査方法の有用性の再確認と標準化の問題,比較的最近行われるようになった迅速診断法,遺伝子診断法などの検査の特徴と意義,尿路感染症の診断に必要な画像診断の実際と診断的意義について解説していただくことにした.また診断・治療・管理面で成人とは異なる点のある小児の尿路感染症については,小児泌尿器科の立場から項を別にして解説していただいた.

総論

尿路感染症の診断―最近の進歩

著者: 堀野哲也 ,   小野寺昭一

ページ範囲:P.131 - P.135

 尿路感染症は迅速な診断・治療を必要とする感染症の1つである.尿路感染症の診断には臨床所見と膿尿,細菌尿を証明することが必要であり,近年,簡便かつ迅速な検査方法が報告されている.しかし,これらの検査方法は偽陽性・偽陰性率が従来の検査方法と比較して高く,検査結果の判定には注意が必要である.また,細菌尿や膿尿だけで診断せず,臨床症状および臨床所見を注意深く観察することが肝要であることに変わりはない.〔臨床検査 51:131-135,2007〕

尿路感染症における診断・治療の標準化

著者: 松本哲朗

ページ範囲:P.137 - P.141

 尿路感染症の診断・治療においては,その標準化が必要である.尿路感染症の症状は,他の疾患と紛らわしいことも多いので,検尿を必ず行って,診断しなければならない.また,治療においては,抗菌薬の適正使用に心がけ,必要な薬剤を十分量,短期間投与し,不必要な投薬は行ってはならない.特に,耐性菌が分離されることの多い複雑性尿路感染症では,急性増悪時に限り抗菌薬の投与を行い,尿培養感受性検査成績を参考に,投与薬剤を選択しなければならない.〔臨床検査 51:137-141,2007〕

尿路感染症における迅速診断と精密同定診断

著者: 川上小夜子 ,   斧康雄 ,   宮澤幸久

ページ範囲:P.143 - P.149

 尿路感染症の迅速診断法には,尿中の白血球数(膿尿)を検査する方法,尿中の細菌数を検査する方法,および目的とする病原体の抗原を検出する方法などがある.精密同定診断としての遺伝子検査法は2時間以上を要するが,目的とする病原体を高感度に検出することが可能で,近年複数の方法が開発されつつある.〔臨床検査 51:143-149,2007〕

総説

小児尿路感染症診断における特殊性

著者: 宮田曠

ページ範囲:P.151 - P.158

 小児尿路感染症は幼若年齢に多く尿路奇形や尿流障害を合併していることが多い.そのため画像診断や泌尿器科医との連携が必要である.また,診断のための採尿方法や検尿所見の解釈も大切である.〔臨床検査 51:151-158,2007〕

尿路感染症の遺伝子検査

著者: 江崎孝行 ,   大楠清文

ページ範囲:P.159 - P.163

 性生活の多様化に伴いSTD感染症診断は尿道炎だけでなく,咽頭炎も診断の対象になっている.初期の第一世代の尿道炎の遺伝子検出法はそのまま咽頭炎診断には適用できない.Neisseria,Mycoplasma,Haemophilusの菌種は上気道に多種類いるからである.これに対応して,頻度の高い淋菌とクラミジアの両方を検出する第二世代の遺伝子診断が臨床診断薬として登場している.さらに患者の立場に立ったSTD全体を一度に診断する第3世代の遺伝子検査の登場も期待される.〔臨床検査 51:159-163,2007〕

各論

尿一般検査

著者: 今井宣子

ページ範囲:P.164 - P.168

 尿一般検査は患者に負担を与えることなく迅速に結果が得られることから,尿路感染症の診断および経過観察をするうえで極めて有用な検査である.尿路感染症がある場合,尿は混濁し,ときには異臭(腐敗臭)を発する.尿試験紙法では,白血球反応は陽性になることが多く,硝酸塩還元能の強い細菌が多数存在すれば亜硝酸塩は陽性になる.蛋白は軽度陽性,潜血反応が陽性になることもある.尿沈渣検査では,多数の白血球,細菌・真菌のほかに,移行上皮細胞,赤血球,組織球などを認めることがある.〔臨床検査 51:164-168,2007〕

グラム染色

著者: 山中喜代治

ページ範囲:P.171 - P.176

 尿路感染症原因微生物証明の主役として多用されるグラム染色検査の利点は,簡易,迅速,安価である.しかし実施者の判断能力や,染色手技によって成績が左右されることも否定できない.筆者開発の『グラム染色neo-B & M法』は,染色時間や操作にこだわることなく明瞭な染色像が得られ,グラム陽性・陰性の判断に悩むことはない.このグラム染色検査をさらに有効利用するには,コメントを含めた迅速報告である.〔臨床検査 51:171-176,2007〕

細胞診

著者: 金城満 ,   奥村幸司 ,   山田博

ページ範囲:P.177 - P.183

 細胞診の本来の目的は悪性腫瘍のスクリーニングであるが,時に一部の感染症では細胞像から明らかになることがあり,今回は感染症の病原体の種類から見た細胞診における診断の可能性とその特徴について述べた.従来のPapanicolaou染色ではある程度の推測にならざるを得ないが,封入体は1つの特徴像である.また,細胞転写法により特異抗体を用いた免疫染色は感染症の細胞診断に有用である.〔臨床検査 51:177-183,2007〕

尿路感染症の画像診断

著者: 五味達哉 ,   長基雅司 ,   角尾美果 ,   寺田茂彦 ,   寺田一志 ,   甲田英一 ,   桑島章

ページ範囲:P.184 - P.188

 尿路感染症の診断は臨床所見および尿,血液生化学所見からなされることが多い.しかし診断装置の進歩により画像診断が行われる機会が増えている.このため,より詳細な情報が得られるようになっているが,画像診断が行われたがために偽疾患を作りだしてはならない.そのためには,それぞれの画像の特徴を理解し,診断する必要がある.この稿では日常遭遇する機会の多い急性腎盂腎炎を中心に画像の特徴を記載する.〔臨床検査 51:184-188,2007〕

起炎微生物における薬剤耐性とその検出法

著者: 渋谷理恵

ページ範囲:P.189 - P.196

 難治性の尿路感染症では,抗菌薬の長期投与や尿道カテーテル留置などの要因が重なり,薬剤耐性菌の増加が生じている.近年,分離される耐性菌においては,その耐性メカニズムおよび耐性遺伝子の多様化が報告されており,感染症治療はますます複雑な状況となっている.これら耐性菌感染症に対する効果的な抗菌薬選択の視点からも,耐性遺伝子の検出・同定を可能とする検査法が今後さらに重要になってくるものと思われる.〔臨床検査 51:189-196,2007〕

膀胱尿管逆流症・逆流性腎症の診断と管理

著者: 浅沼宏 ,   宍戸清一郎 ,   佐藤裕之 ,   實重学

ページ範囲:P.197 - P.204

 膀胱尿管逆流症(vesicoureteral reflux;VUR)は,小児における尿路感染症の基礎疾患として最も多い疾患である.原発性VURは,VUR gradeが低いほどまたは患児の年齢が低いほど成長に伴い自然治癒する期待ができる一方,breakthrough UTIを併発する場合や高度VURの持続や,すでに腎瘢痕が認められる場合は手術療法の適応となる.また,VURが消失してからもその後に逆流性腎症として蛋白尿,高血圧や腎機能障害を生じることがあり長期的な経過観察が必要である.〔臨床検査 51:197-204,2007〕

話題

Kova Slideを用いた尿路感染症の迅速診断法

著者: 平岡政弘

ページ範囲:P.205 - P.207

1.はじめに

 尿路感染症を疑った場合,尿沈渣鏡検法による膿尿の有無の検索が一般によく行われている.しかし,この方法による尿路感染症の診断精度は,感度約80%,特異度約85%と満足できるものではない.例えば,発熱した乳児における尿路感染症の頻度は約5%といわれているが,尿沈渣法で膿尿を認めても本当に尿路感染症である可能性(陽性一致率)は約20%に過ぎない.これは,尿沈渣法による膿尿の診断精度が低いことに加えて,膿尿が本当に存在しても尿路感染症であるとは限らないこと,つまり尿路感染症とほぼ同じ頻度で他の原因によって膿尿がみられるということに起因する.

 尿路感染症の診断は,あくまで尿中に有意な数の病原性細菌を認めることによるものであり,一般には適当な尿検体の定量培養によっている.しかし,尿の細菌培養の結果判明までには1日以上の時間を要し,臨床の場ではより迅速な診断法が求められている.

 Kova Slideを用いた検尿法は,ディスポーザブルの計算盤に非遠沈尿を入れて,尿中の細菌数と白血球数を鏡検にて算定するものであり,要する時間が約1分と極めて迅速で,診断精度も満足できるものであり,尿沈渣法に代わる尿路感染症の診断法と考えられる.特に乳幼児においては,尿路感染症に特異的な症状がなく,その診断は唯一検尿所見に依存しているため,Kova Slideを用いた検尿法が有用である.以下に,Kova Slideを用いた尿路感染症の診断法について述べるが,その詳細については拙著1)を参照されたい.

尿路感染症とバイオフィルム

著者: 門田晃一 ,   公文裕巳

ページ範囲:P.209 - P.212

1.はじめに

 尿路感染症は細菌感染としては最も頻度の高い感染症であり,泌尿器科医に限らず多くの臨床医が日常的に遭遇する疾患の1つである.その診断は比較的容易であり,尿路基礎疾患の合併がない単純性尿路感染症では抗菌薬治療に対する反応性も良好である.一方,基礎疾患を背景に発症する複雑性尿路感染症では,感染の成立にしばしば細菌バイオフィルムが関与し,抗菌薬治療に抵抗性を示す.したがって難治性や再発を繰り返す症例では,尿路基礎疾患が潜んでいることを念頭に置く必要がある.実際,尿路感染症が膀胱腫瘍や尿路結石の発見の契機となることが少なくない.また,尿路感染症は院内感染症として頻度が高く,特にカテーテル留置尿路感染症では細菌バイオフィルムの形成により慢性持続感染が成立し,交差感染の汚染源となることに注意を要する.

今月の表紙 腫瘍の細胞診・2

乳腺悪性腫瘍

著者: 水谷奈津子 ,   海野みちる ,   坂本穆彦

ページ範囲:P.126 - P.128

 乳腺病変における細胞診検査にはいくつかの方法がある.最も多く行われるのは穿刺吸引細胞診(fine needle aspiration cytology;FNAC)で,触知や超音波検査で確認された腫瘤に対して施行される.そのほか,乳頭の異常分泌を認める場合には,乳汁の直接塗抹や蓄乳したものを液状検体として検査する方法がある.また,パジェット病などの乳頭に病変が見られるときには,乳頭部を擦過した材料が用いられる.

 術前診断では,臨床経過・触診・画像と同様に細胞診は重要視されている.

シリーズ最新医学講座 臓器移植・2

異種移植

著者: 今野兼次郎 ,   小林英司

ページ範囲:P.213 - P.217

はじめに

 移植医療は,20世紀に最も成功した革命的医療と考えられている.この医療の進歩により多くの回復不可能に陥った臓器不全の患者の命が救われた.しかし,最近では移植後のQOLの向上にも繋がり,皮肉なことに,移植医療の普及が新たな観点から移植臓器不足の深刻さを浮き彫りにしている.1997年10月にわが国で臓器移植法(臓器の移植に関する法律)が施行されたが,心臓移植患者数の推移を見ても海外で移植を受ける患者がむしろ増えている1).この事実を考えるにあたり,この臓器不足の問題は日本に限ったことではなく,移植先進国である欧米ではもっと深刻である.移植臓器不足が低開発国などへ臓器を求める動きを助長し,社会問題を起こしている.臓器移植の問題を補完するために再生医療にも研究の目が向けられ,世界各国で盛んに研究が進められているが,臓器移植に代わる治療までには至っていない.古くから人工臓器の研究も行われているが,複雑な機能や構造を持った臓器を人工のもので代替することは技術的に非常に困難である.この分野でも生きた臓器の代替えまでは,一部の人工臓器を除いて,実用化には至っていない.

 移植臓器不足を解消すべく,ヒト以外の動物の臓器をヒトへ移植する「異種移植」が古くから注目されてきたが,前述の理由から,現在全く異なるレベルでの緊急性が出てきている.本稿ではまず,異種移植のドナー候補について基本的な点を述べ,それにかかわる問題点,さらに新しい試みを解説する.

私のくふう

偏性嫌気性菌の検出率を上げる方法:固形サンプル編

著者: 林俊治 ,   太田英孝

ページ範囲:P.218 - P.219

1.目的

 臨床サンプルから偏性嫌気性菌を検出するためには,酸素の存在しない嫌気状態でサンプルを輸送することが重要である.糞便などの固形サンプルを嫌気状態で輸送する方法としては,サンプル容器の中にCO2ガスを吹き込む方法が推奨されている1).しかし,ガスを吹き込むためのボンベが大きく重いため,一部の研究目的の検査を例外として,この方法はほとんど用いられていない.

 一方,ヘアスプレーの缶と同じぐらいの大きさのCO2スプレー缶が市販されている.これは水草の発育を促進するための商品であり,観賞魚を扱う店で安価で販売されている.そこで,このCO2スプレー缶をガスボンベの代わりに用いてみたところ,良好な成績が得られたので報告する.

偏性嫌気性菌の検出率を上げる方法:粘液サンプル編

著者: 太田英孝 ,   林俊治

ページ範囲:P.220 - P.221

1.目的

 臨床サンプルから偏性嫌気性菌を検出するためには,空気中の酸素との接触を避けながらサンプルを採取する必要がある.しかし,粘液をサンプルとして採取する場合,陰圧で吸引する必要があり,空気との接触を避けることが難しい.さらに,粘液中に空気を含んだ泡ができることが多く,これが偏性嫌気性菌の検出率を下げてしまう.そこで,流動パラフィンを用いて,粘液サンプルと空気の接触を断ってみたところ,良好な成績が得られたので報告する.

学会だより 第53回日本臨床検査医学会学術集会

改正感染症法案と微生物検査の精度維持

著者: 友田豊

ページ範囲:P.222 - P.222

 第53回日本臨床検査医学会学術集会が2006年11月9日から3日間にわたり,青森県弘前市の弘前市民会館・弘前文化センター・ホテルニューキャッスルで開催された.本学会の青森県での開催は初めてであり,また,中間法人となって最初の開催であった.さらに今回は,数年続いた日本臨床化学会との連合大会といった形式をとらず,地元青森県医学検査学会との合同開催とし,地元技師会員が多数参加した活気ある地元密着型の学術集会であった.

 今学会のメインテーマとして掲げられたのは「臨床検査ルネサンス」であり,臨床検査の活性化と復権,新たなる飛躍への意気込みを感じさせるプログラム構成であった.内容としては,「臨床検査の未来を切り開く新しい検査」に関するシンポジウムに大きく時間を割り当てるなど近未来を見据えたものであり,高品質な臨床検査成績を提供するためのシンポジウム,教育講演に力を入れていた.

話題のメタボリックシンドロームを検査する

著者: 佐藤尚武

ページ範囲:P.223 - P.223

 第53回日本臨床検査医学会学術集会は保嶋実会長のもとで,11月9日~11日の日程で弘前市にて開催された.今年はこの時期まで比較的温暖だったこともあり,会場近くの弘前城址公園の紅葉が色鮮やかであり,参加者の目を楽しませてくれた.

 本稿では多彩なプログラムの中から,初日の午前に第一会場で開催された,シンポジウム「生活習慣病と臨床検査」について記す.

診断法の開発推進と教育について

著者: 舩渡忠男

ページ範囲:P.224 - P.224

1.公募シンポジウム

 「臨床検査医学」の意義は,新しい検査診断法を研究開発し,その臨床的有用性を明らかにすることである.本シンポジウムは,数年前に企画され,毎年継続的に行われており,公募であることが特徴である.本学会では「臨床検査の未来を切り開く検査」と題して,14演題がエントリーされ2日間にわたって最も広い会場で行われた.各演者らの意気込みが感じられる素晴らしい内容であった.ぜひ,各会員が本学会で発表することを目標として研究を推進していただき,臨床検査全体の活性化につながることを期待したい.

海外文献紹介

HIV陽性/エイズ患者における液状栄養補充のウイルス量および血液検査値への影響

著者: 鈴木優治

ページ範囲:P.158 - P.158

 注意深く選択された栄養補充は生活の質を高めることができる.微量栄養素の補充はHIV-1感染者にとっては重要な予防と治療の対策であると考えられている.β-カロチンの毎日の補充はわずかではあるが,統計学的に有意にWBCやCD4+T細胞を増加させる.また,ビタミンCやEの大量投与はウイルス減少をもたらすことなどが報告されている.著者らはHIV陽性/エイズ患者の免疫状態および血液検査値への栄養補充の影響について,患者35人を対象として3か月にわたり検討した.栄養補充物はコキンバイザサ抽出物,グレープフルーツ種子抽出物,sitosterolおよびsitosterolin,β-カロチン,ビタミンE,B1,B2,B6,B12などからなり,患者はこれを1日に2回服用した.ウイルス量は栄養補充時間とともに有意に減少した.血液検査のMCVおよびMCHCは有意に増加し,栄養補充はこれらの血液検査値の改善に有効であった.しかし,栄養補充はCD4+T細胞数の回復には効果がなく,細胞数は病気の進行とともに著しく減少した.

糖尿病と非糖尿病カリブ人における肝機能障害の血清アディポネクチン濃度と酵素マーカー

著者: 鈴木優治

ページ範囲:P.163 - P.163

 低アディポネクチン濃度は,血漿アラニンアミノトランスフェラーゼ活性上昇と関係する.著者らは,糖尿病患者および非糖尿病者における血清アディポネクチン濃度とアラニンアミノトランスフェラーゼとの関係について,2型糖尿病患者56人および非糖尿病者33人を対象として検討した.測定はアラニンアミノトランスフェラーゼ,アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ,アルカリホスファターゼ,グルコース,インスリンについて行った.血清アディポネクチン濃度は糖尿病患者のほうが非糖尿病者よりも低かったが,アラニンアミノトランスフェラーゼおよびアルカリホスファターゼは両グループ間に差はなかった.

 女性非糖尿病者は,血清アディポネクチン濃度が女性糖尿病患者よりも高値であったが,アラニンアミノトランスフェラーゼに差はなかった.糖尿病患者と非糖尿病者において,アディポネクチンとアラニンアミノトランスフェラーゼに相関はなかった.低血清アディポネクチン濃度は,糖尿病患者の肝機能障害に有効なマーカーとはいえなかった.

母親の血清,臍帯血および母乳中のアディポネクチンとレプチン

著者: 鈴木優治

ページ範囲:P.188 - P.188

 アディポネクチンとレプチンはアディポカインと呼ばれ,臍帯血,胎盤および胎児組織において,これらの物質の存在は胎児成長における役割を示唆している.著者らは大集団内で母親の血清,臍帯血および母乳中のアディポネクチンおよびレプチンを測定し,それらの相関を調べた.検討は分娩6週に母乳サンプルが採取できた母親766人で行った.母親血清,臍帯血および母乳中のアディポネクチン濃度の中央値は,それぞれ8.6mg/l,30.6mg/l,10.9μg/lであった.同様にレプチン濃度の中央値はそれぞれ12.8μg/l,7.8μg/l,174.5ng/lであった.出生体重,在胎年齢に応じた出生体重および重量Indexの増加によるレプチン増加は,臍帯値において統計学的に有意であったが,臍帯血アディポネクチンは出生体重だけにしか関係がなかった.両アディポカイン濃度は母乳と母親血清において中程度に相関していた.アディポネクチンおよびレプチンの濃度は,母親血清と母乳中のアディポカイン濃度だけが中程度に相関しながら母親血清,臍帯血および母乳において激しく変動していた.

コーヒーブレイク

医のこころの書

著者: 屋形稔

ページ範囲:P.170 - P.170

 最近発刊された「死ぬときは苦しくない」(講談社)という書は,まことに読みごたえのある一冊であった.著者の永井友二郎氏は現在88歳でお元気に三鷹市で実地医家として診療に従事されている方である.千葉医大を卒後海軍軍人として太平洋戦争に出征,九死に一生を得て帰還後一貫して患者中心の医家として過ごされ,永い診療体験から人間の死について考究された人生観を書いている.

 日本臨床内科医会は実地医家を全国組織として支えている会で,私の永年の畏友で臨床検査に造詣の深い菅原真氏(秋田市開業医)が副会長をしている.永井さんは最近本医会の学術記念学会で「医療の本道を目指して」という教育講演も行い絶讃を博しておられる.これらから窺える姿勢は,医療の基本は病人の住むその地域において医師が患者とゆっくり言葉を交わし,その病人の人間を理解することにある.病人が何に困り,医師に何をして欲しいと思い,何をして欲しくないと思うか,医師がこれをよく理解することが医療の原点である趣旨を述べている.

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あとがき

著者: 岩田敏

ページ範囲:P.228 - P.228

 節分を迎え,春の到来が待たれる毎日ですが,読者の皆様におかれましては益々ご清栄のこととお慶び申し上げます.

 今月の主題は「尿路感染症の診断」です.尿路感染症は日常よく遭遇する感染症ですが,その診断と治療においては近年様々な変化も認められております.診断面ではSTDも含めて迅速診断法の進歩や診断の標準化が進められていますし,治療面では耐性菌やバイオフィルムなどの難治化要因を考慮した治療法,より効果的な抗菌薬の投与法などが考えられています.臨床検査の現場においてもこうした変化を良く理解したうえで,より臨床に即した形で検査を進めていくことが求められております.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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