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雑誌目次

論文

臨床検査51巻3号

2007年03月発行

雑誌目次

今月の主題 血管超音波検査 巻頭言

血管の超音波検査―技術の進歩を振り返って

著者: 谷口信行

ページ範囲:P.235 - P.236

 現在診療に欠かせなくなっているX線CT,MRI,超音波のなかで,超音波検査の歴史は最も古いものである.もともと魚群探知機や金属探傷器として利用されていた超音波が,医療に役立つ検査として考えられるようになったのは戦後の1940年代末から1950年代初めであり,当時は脳のAモード表示,胆石のAモード表示について報告されている.その後,Bモード法の開発に伴い,心臓ではMモード法の導入,腹部ではcontact compound scannerが使用された.われわれにとってその後の大きな進歩となったものは1970年前半にあり,1971年にオランダのJ.C. Somer氏と日本の入江喬介氏が,同時期に別々の地で電子リニア型探触子を開発し,いまでは当たり前の技術であるリアルタイムでの画像表示が可能となった.一方,ドプラ法の進歩は1950年代後半の里村茂夫氏,仁村泰治氏らの取り組みが最初である.血管については同じ施設の金子仁郎氏らが脳血流の研究目的で頸動脈を対象に研究を行っている.その後,これらの技術は,1980年にわが国の滑川孝六氏によるカラードプラ法の発明へと続くことになる.臨床的に血管領域でいつ使われ始めたかは定かでない部分があるが,断層像については1970年代中ごろから,血管の狭窄性病変について超音波像と血管造影が比較されるようになっている.さらに,1984年にはintima media complex thickness測定が行われ,現在の隆盛へと続いている.

 さて,当院での血管の超音波検査の様子を振り返ってみると,1980年代の血管の検査の主流はメカニカルセクタ式の走査法で,主に頸動脈を対象に検査が行われていた.これはそのころから多く検査されていた乳腺・甲状腺用の探触子をそのまま利用する形で行われたもので,甲状腺検査の応用的な意味合いであり,件数もそう多くはなかった.その後,カラードプラ法が可能な7.5MHzの電子リニア型探触子の出現により,血管内部の血流を目にすることができ,狭窄性病変の評価がいっそう容易となったことを覚えている.最近では,装置とアプリケーションの改良進歩により,その分解能が向上しいっそう画像がよくなってきている.一方,下肢の静脈の検査は動脈のそれに比べずっと少なく,電子リニア型探触子が登場した当時でもほとんど検査依頼がなった.これは,この時期にはわが国での深部静脈血栓症の発生自体が少なかったためと,この領域で超音波検査が有用であるとの認識がなかったためと考えている.ところが,ご存知のようにその後の時代の変化から,現在では,肺塞栓が疑われるもの,下肢の腫脹のあるものだけでなく,術前後,長期臥床の患者での検査依頼が増加し,本疾患で有用な検査として重宝されている.

総論

血管を対象にした超音波検査の基礎的知識

著者: 原田烈光

ページ範囲:P.237 - P.242

 超音波による血管検査には,Bモード法による血管の形態検査とドプラ法による血流動態の機能検査に大別される.さらにドプラ法は,ドプラ信号のスペクトル分布を速度波形として表示するパルスドプラ法と,血流の二次元分布を実時間で画像化するカラードプラ法がある.その後,血流検出感度を改良したパワーモードが実用化され,最近では,空間分解能が改良された血流表示モードも実用化されている.ここでは血管を対象にした超音波検査における装置の基本性能と画像特性,制約,さらに計測上の留意点を概説する.〔臨床検査 51:237-242,2007〕

動脈硬化の病態と血流動態―動脈硬化の病理とそれに伴う流速波形の変化の基礎(生理)

著者: 舛形尚 ,   千田彰一

ページ範囲:P.243 - P.249

 動脈硬化には血管内皮機能障害や動脈壁硬化といった機能的側面と動脈壁肥厚や血管内腔狭小化・狭窄・閉塞といった形態的側面があり,血管エコーにはそれぞれに応じた検査法がある.動脈の機能的異常は動脈硬化の早期から生じることから,その指標であるflow mediated dilation(FMD)やstiffness parameter βは生活習慣病による動脈硬化の早期診断や生活習慣病治療による動脈硬化の進展抑制効果判定に用いられる.一方,動脈硬化が動脈狭窄・閉塞といった形態的異常をきたすまで進展して閉塞性動脈硬化症,頸動脈狭窄症などの動脈硬化性疾患を発症した場合は,動脈の狭窄部の描出,狭窄率計測あるいは血流波形記録から狭窄部位推定を行って保存的治療,interventional radiology(ステント留置術),外科的手術などの治療計画を立てる.〔臨床検査 51:243-249,2007〕

動脈疾患

頸部動脈の超音波検査の手順と描出法

著者: 松永宏明 ,   尾本きよか ,   谷口信行

ページ範囲:P.251 - P.256

 近年,高齢化・生活様式の変化により,日常的に動脈硬化に起因する疾患に遭遇する機会が増えている.また,メタボリック症候群に対する啓発や,頭部画像診断の発達,脈波伝播速度(pulse wave velocity;PWV)検査の普及もあり,一般住民の動脈硬化性疾患への関心は近年急速に高まっている.臨床の現場でも,頸動脈超音波検査の有用性が高まり,多くの施設で行われるようになってきた.頸部血管の解剖,頸動脈超音波検査のポイントについて概説する.〔臨床検査 51:251-256,2007〕

頸動脈硬化性病変の超音波像―プラーク,壁肥厚

著者: 鈴木ひろみ ,   川井夫規子

ページ範囲:P.257 - P.261

 頸部血管超音波検査は,脳梗塞や動脈硬化のリスク患者における頸動脈硬化の評価に有用な検査である.頸動脈は体表に近いためエコーで容易に観察できる.内中膜複合体の肥厚は早期動脈硬化を表し,全身の動脈硬化度の指標となるほか,スタチン製剤などの動脈硬化進展抑制の治療効果判定にも有用である.エコーでは,プラークの内部性状の評価が可能であり,潰瘍形成や低輝度,不均質なプラークは脳梗塞を生じやすい.脳梗塞の責任血管病変となる頸動脈高度狭窄,閉塞の診断はもちろん,頸動脈硬化のスクリーニングとしても最適な検査である.〔臨床検査 51:257-261,2007〕

高安病の病変―総頸動脈病変を中心に

著者: 藤岡和美

ページ範囲:P.263 - P.270

 高安病は1908年に眼科医の高安右人が最初に報告した疾患で多くは若い女性が罹患する.大動脈とその分枝に狭窄,拡張,閉塞を生じる大型血管炎であり,発症原因は不明であるが,ウイルス感染,遺伝的要因,自己免疫的な要素が多因子的に関与している.症状が非特異的であるため長く診断されずに経過することが稀ではなかったが,最近は超音波検査を中心とする画像診断の進歩に伴い本症の早期診断,治療が可能となった.さらに炎症の程度,活動性の評価が重要とされ,超音波を用いた検討もなされてきている.そこで本稿は筆者が経験した症例を中心に,文献的考察も含めて高安病の特徴について超音波所見を中心に記載したい.〔臨床検査 51:263-270,2007〕

四肢の動脈疾患

著者: 中島美智子 ,   山本哲也

ページ範囲:P.271 - P.278

 四肢の動脈疾患,特に動脈硬化の判定に使われる検査としては脈波伝播速度(pulse wave velocity;PWV)や足関節・上腕血圧比(ankle brachial pressure index;ABPI)が広く知られている.画像診断としては空間分解能,時間分解能に優れたマルチスライスCT(multidetector-row CT;MDCT)が注目されている.一方で超音波検査も疾患の同定,治療効果や合併症の有無の判定,異常を認めた場合にはその程度も観察することが可能でありニーズは益々増加している.また,最近は様々なソフトを搭載した装置が現れており,血管内エコーとともに新たなアプローチが行われている.脈管診療を専門に行う技師の養成も始まっており,今後発展が期待される.〔臨床検査 51:271-278,2007〕

断層像とドプラ法を用いた血管の狭窄と閉塞の評価法

著者: 金田智

ページ範囲:P.279 - P.284

 狭窄病変は血管内腔の狭小化と血流速度の増加,閉塞は内腔と血流信号の消失から判断する.評価に当たっては治療法の選択に結びつく情報を得ることが重要である.内頸動脈病変では血栓内膜摘除術の適応を決めるために内頸動脈遠位の径に対する狭窄率(NASCET法)で計測する.また狭窄部の最高血流速度が200cm/secを超える場合にはNASCET 70%以上の狭窄と判断する根拠となる.一方,下肢動脈の場合は狭窄率よりも病変の長さが重要である.腸骨動脈から膝窩動脈までの部位で,高度狭窄または閉塞の長さが3~5cmと短ければ経皮経管血管形成術(PTA)の適応,10cmを超える場合は外科的手術の適応と,とりあえず憶えておくとよい.〔臨床検査 51:279-284,2007〕

静脈疾患

下肢静脈の解剖と検査手順

著者: 平井都始子 ,   山下奈美子 ,   吉田美鈴

ページ範囲:P.285 - P.292

 骨盤下肢静脈の解剖,静脈超音波の方法と手順について概説した.静脈は変異が多く,プローブの圧迫により容易に扁平化し,血流が遅いなどの特徴がある.そのため静脈の検査では,プローブによる圧迫法,呼吸やミルキングによる血流の誘発などの技術を習得し,横断走査と縦断走査で丹念に観察することが肝要である.〔臨床検査 51:285-292,2007〕

下肢深部静脈血栓症

著者: 保田知生

ページ範囲:P.293 - P.304

 近年,深部静脈血栓症の発生頻度は年々増加していることが報告され,初期診断における超音波検査の重要性は増している.さらに超音波機器開発各社の画像技術の開発にも進歩が認められ,従来検出できなかった微少な深部静脈血栓症にも対応できるようになりつつある.しかしながら,現在でも静脈壁構造が十分に描出できない,形成されたばかりの急性血栓は描出困難である,退縮し閉塞してしまった静脈は描出できない,など今後解決すべき問題も多い.そのほか静脈の名称についても国際的に用語統一はまだ実現されていない1).これらの不確定要素を前提として現在の超音波検査による深部静脈血栓症の確定診断の方法について概説する.〔臨床検査 51:293-304,2007〕

その他の静脈疾患―頸静脈,上肢静脈,皮静脈炎

著者: 松村誠

ページ範囲:P.305 - P.312

 上肢/頸部に発生する主な静脈疾患は血栓症,静脈瘤,形成異常である.下肢静脈に較べて頻度は低いが,静脈血栓(特に頸静脈血栓)は最近,増加傾向にあり,日常診療においてしばしば遭遇する.いずれも超音波検査は診断に有用であるが,特に深部静脈血栓は理学所見や自覚症状がない例でも発生し,時に肺塞栓を引き起こすことから超音波による早期診断の臨床的意義は大きい.また,上肢/頸部の静脈は中心静脈へのアクセス血管として多用されるが,穿刺に伴う重篤な合併症を引き起こす危険性があり,超音波検査は穿刺前の血管解剖診断,安全な穿刺ガイド,モニターとして応用されている.〔臨床検査 51:305-312,2007〕

話題

血管壁計測の新技術

著者: 長谷川英之 ,   金井浩 ,   市来正隆 ,   手塚文明

ページ範囲:P.313 - P.317

1.はじめに

 動脈硬化症における様々な病態は,血管壁に生じた動脈硬化性プラークの物理的な脆弱性(易破裂性)により引き起こされると考えられている.特に急性心筋梗塞・不安定狭心症・突然死など心血管イベントの発症は,脂質に富むプラークの壁が破裂し,血栓形成による血管内腔の一時的な狭窄あるいは閉塞に起因すると考えられており,プラークの易破裂性/安定性は動脈硬化の診断における重要なポイントの一つである.CTやMRI,従来の超音波断層法などはいずれも動脈壁の形状の観察が主であるが,もしプラークの機械的特性を計測し,易破裂性を経皮的に評価できれば,心筋梗塞や脳梗塞の発症を抑制できるものと期待できる.しかし,血管の硬さ(機械的特性の一つ)として臨床の場で従来測定されてきたものは,脈波伝搬速度(pulse wave velocity;PWV)1),動脈の内径変化の計測から算出された動脈壁の弾性率やstiffness parameter2)などの,血管長軸方向や横断面円周方向での平均的弾性特性であり,動脈硬化病変の局所弾性特性を評価できる臨床応用可能な方法は開発されていなかった.これに対し,われわれが開発した「位相差トラッキング法」では,心臓・血管壁の内部数百μm(超音波の波長オーダ)の厚さの層ごとの瞬時的な厚み変化(1拍内での数~数十μmの厚み変化)を経皮的に高精度に計測でき,壁にかかる脈圧を考慮することで,血管壁の層別の弾性率を描出することができる3~6)

 本稿では,位相差トラッキング法について概説するとともに,経皮的に計測できる弾性率断層像から動脈壁内の組織を同定する非侵襲組織性状診断法“電子的染色法”7)について述べる.

血管超音波検査におけるWave intensityの意義

著者: 仁木清美 ,   菅原基晃

ページ範囲:P.319 - P.324

1.はじめに

 超音波診断装置は,血管病変の画像診断において,画像の緻密性,自由な方向に連続して描出できることなど,他の診断装置にはない性能を持っている.血流速度計測が加われば,機能的評価も可能である.Wave intensity(WI)を用いると,計測部だけでなく,計測部位の中枢側と末梢側がどのように干渉しているかを調べ,心臓血管系に潜む病変をさぐることができる.

 WIは新しい評価法であるが,圧情報が必要なため,臨床応用が難しかった.われわれは,エコートラッキングシステムを用いて,非侵襲的にWIを計測するシステムを作成した1,2).エコートラッキングで求めた血管径変化波形を圧で較正して血圧波形として,同時に計測した血流速度波形からWIを求めるものである.本稿では,まず,WIの簡単な解説を行い,次いでWIを用いた新しい知見,そして,超音波装置で計測したWIの臨床応用を提示する.

他の検査法からみた超音波検査の使いかた―CT,MRIとの比較,超音波が有利なのはどのような点か

著者: 篠原真木子 ,   陣崎雅弘 ,   大熊潔 ,   栗林幸夫

ページ範囲:P.325 - P.332

1.はじめに

 本稿では,血管超音波検査の長所と短所について,他の画像検査(CT,MRI)と比較をしながら解説する.また,様々な血管疾患について超音波検査の有利点を述べ,超音波検査(ultra sonography;US)に適した症例を呈示する.

今月の表紙 腫瘍の細胞診・3

尿路上皮癌の細胞診

著者: 住石歩 ,   海野みちる ,   坂本穆彦

ページ範囲:P.232 - P.234

 尿路系臓器である腎臓の腎盂・尿管および膀胱の膀胱三角部は中胚葉発生,膀胱三角部を除く膀胱および尿道は内胚葉発生である.

 構成する上皮細胞は,臓器や部位により異なる.前立腺と近位尿細管は腺細胞が,腎盂から末梢の尿路は尿路上皮で被覆されているため,尿には多彩な細胞が出現する.

シリーズ最新医学講座 臓器移植・3

「臓器再生」の展望

著者: 谷口英樹

ページ範囲:P.333 - P.337

臓器再生とは?

 今,目の前に腕を切り落とされた患者が運び込まれて来たとする.ある外科医は,切り落とされていた腕を縫合し,“再建(reconstruction)”しようとするであろう.また,ある外科医は,より質の良い別な腕を調達し,その腕による“置換(replacement)”を試みるであろう.この患者に,異なるコンセプトによる治療が可能であるとしたなら,それはどのようなものだろう.一つの可能性は,再び新しい腕を生やしてやることである.この治療コンセプトが,“再構成(reconstitution)”である.

 20世紀後半の臨床医学が指向したのが,臓器移植や人工臓器などによる「臓器を置換する医療技術」の実現とその実践であった.その最も成功した例は,腎不全患者に対する人工腎臓(血液透析)と腎臓移植であり,現在では腎臓の機能が廃絶したことが原因で命を失う患者は稀である.人工透析で腎機能を代替しながら,より生活の質を上げるための治療を望めば腎移植を選択するという,人工臓器と臓器移植が車の両輪となった腎不全患者に対する医療が確立している.ところが,移植用臓器の絶対的な不足や完全埋込み型人工臓器における技術的限界などが明らかになっており,今後の飛躍的な展開を期待することが困難になりつつある.

資料

臨床検査室におけるISO 9001認証取得―佐賀大学医学部附属病院検査部でのQMS構築と導入効果

著者: 川崎誠司 ,   南雲文夫 ,   青木洋介 ,   出原賢治 ,   木村信一 ,   渡邊達久

ページ範囲:P.339 - P.343

 佐賀大学医学部附属病院検査部では,運営改善のための方策としてISO 9001に基づく品質マネジメントシステムを構築し,(株)BSIジャパンにより認証登録された.構築に当たって,文書管理手法として電子媒体による管理法を採用し,効率化を図ることができた.運用面では,検査結果の品質の維持・向上に限定されない総合的品質マネジメント活動が展開されるようになり,本規格は検査室の運営改善のための有力な手段となりうることが確認された.

海外文献紹介

血清アルブミンのESR法:癌診断とモニターの新しい試験

著者: 鈴木優治

ページ範囲:P.249 - P.249

 癌細胞により放出される蛋白質は血清アルブミンに結合でき,その構造と機能を変化させる.著者らは血清アルブミンのこれらの変化が癌の診断とモニターに有効かどうかを評価するためにESR法(electron spin resonance spectroscopy)により検討した.検討にあたり,スピン捕捉には16-doxylstearic acidを用い,健康者,血液腫瘍患者,非血液腫瘍患者,胃腸系慢性疾患患者,肺疾患患者,糖尿病患者および肝硬変患者の血清アルブミンの立体配座の違いをESRスペクトルにより比較した.診断感度と特異度は癌患者と健康者の判別ではそれぞれ87.4%および95.7%であり,癌患者と慢性疾患患者の判別ではそれぞれ87.4%および85.7%であった.幾人かの患者ではアルブミンの立体配座の変化はアルブミンのESRスペクトルの異常の程度と疾患重度の臨床的および病理学的評価間に良好な一致を示した.血清アルブミンのESRスペクトルは癌患者において診断的有用性をもつ鋭敏で非侵襲的技術であり,モニターにも使用できる.

ビタミンB12の著しい濃度増加はIgG-IgM-ビタミンB12複合体に起因する

著者: 鈴木優治

ページ範囲:P.304 - P.304

 血清ビタミンB12濃度は肝疾患,骨髄増殖性疾患などで増加する.著者らはこれらの疾患ではない患者において非常に高濃度の血清ビタミンB12を最近発見したので,アフィニティクロマトグラフィ,SDS-PAGE,MS,ELISAによりその原因について検討した.健康者および貧血治療のためにビタミンB12を最近投与された患者の血清では,Protein Gカラム溶出液中のビタミンB12濃度は74pmol/l未満であったが,46歳の前頭側頭の認知症男性患者の血清では,溶出液中のビタミンB12濃度は7,380pmol/lであった.この患者の血清には,クロマトグラフィとSDS-PAGEによる検討で見かけの分子量が76kDaの異常なビタミンB12結合蛋白質が見いだされた.この蛋白質は質量分析によりIgMのheavy chainであることがわかった.さらに,ELISAにより患者の溶出液中に存在するIgMはIgGと結合しIgG-IgM免疫複合体を形成していることがわかった.この症例はIgG,IgMおよびビタミンB12からなる免疫複合体に帰する高ビタミンB12濃度を有する珍しい患者の存在を証明した.

アルブミンとグロブリンに結合したHomocysteine(Hcy),Cysteine(Cys),Cysteinylglycine(CysGly)の分布

著者: 鈴木優治

ページ範囲:P.332 - P.332

 血漿HcyやCys濃度は冠状動脈疾患や神経疾患の危険性と関係がある.血清中のHcy,Cys,CysGlyおよびglutathioneの大部分はジスルフィドを介して蛋白質に結合し,アルブミンは主要な結合蛋白質と考えられている.著者らはアルブミンとグロブリンに結合したチオール含有アミノ酸およびペプチドの割合について検討した.検討は健康成人のプール血清および血漿を分画し,蛋白質分画と過剰のCysGly,Hcyおよびグルタチオンとのインキュベート前後におけるHcy,Cys,CysGly含量を測定した.血清では蛋白質結合アミノ酸のうち,Hcyの12%,Cysの21%,CysGlyの33%はグロブリンに結合し,血漿ではこの割合はわずかに増加した.グロブリンは血清中の交換可能なジスルフィドおよびチオールの16%程度を含んでいた.結合アミノ酸の多くはトランスフェリンではなく,HDLおよびα1-酸性糖蛋白質に検出された.過剰のHcyまたはglutathioneに曝されると,結合アミノ酸の交換が起こり,交換速度はアルブミンのほうがグロブリンよりも速かった.

コーヒーブレイク

北の国へ

著者: 屋形稔

ページ範囲:P.318 - P.318

 猛暑だった8月の末,かねて計画していた北海道の道東1週間の旅に出た.今を去ること,50年ほど前に2年続けて旅した阿寒,摩周の美しい湖畔を家内にも見せたいと思ったのである.

 当時は内科の医局長という職責に課された,付属看護学校の修学旅行に校医として同行したのである.若い女性ばかりの集団で気骨も折れ,夜行も含めた鉄路の旅で体力も必要だったが楽しい旅であった.今は当時の鉄路はほとんど影をひそめ,広大な原野の中を直線道路がどこまでも走る風景であった.数年前道南,道央をレンタカーで走ったが今回は家内に反対され高いタクシー代に目をつむって走ってもらった.

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あとがき

著者: 片山善章

ページ範囲:P.346 - P.346

 私は昭和51(1976)年に新設の愛媛大学医学部付属病院に出向命令で赴任しましたが,その頃の超音波検査装置は毎年,性能が新しくなり,また,超音波検査による診断がどんどん進歩して行った時期であった.『前年度に導入した装置の性能は翌年度には古い装置になり,診断装置としては十分な情報が得られない,性能がグレードアップした装置を購入しなければならなかった』そんな超音波画像診断幕開けの時代であったように思う.したがって,毎年,更新するための予算が必要であったことを思い出す.したがって,専門分野でない私には超音波検査いえば装置の性能が重要であるのだと,今でも信じている.

 超音波検査装置は,大きく分けて,超音波を発生させ反射した超音波(エコー)を受信する仕組みを持つ探触子(プローブ)と,受信したデータを処理する部分と,画像を表示するディスプレイからなる.今では,探触子にもいろいろな種類があり,リニア型探触子:体表面の視野が大きい,肋間走査が困難.コンベックス型探触子:体表面の視野が大きい.肋間走査が比較的可能.セクタ型探触子:体表面の視野が狭い,肋間走査が簡便など,その当時はリニア型,セクタ型の探触子が中心であったように思う.その機能は超音波の送信と,生体内で反射し戻ってきた超音波の受信を行い,臓器や用途によってこれらの探触子を使い分ける必要があると担当技師が言っていた.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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