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雑誌目次

論文

臨床検査51巻4号

2007年04月発行

雑誌目次

今月の主題 悪性リンパ腫 巻頭言

悪性リンパ腫

著者: 池田康夫

ページ範囲:P.355 - P.355

 血液臨床に従事していて受ける印象として,近年,悪性リンパ腫をはじめとしたリンパ系腫瘍の発症頻度が増しているように思える.高齢化はその1つの要因であろうが,それ以外にどのような因子が関与しているかを推察し,検証していくために臨床疫学分野の充実が望まれるのだが,残念なことにわが国では“癌登録”でさえ,その必要性を万人が認めているにもかかわらずそのシステムができあがってない.もちろん,個々の腫瘍については,それぞれ学会を中心に登録が進んでいるところもあるが,会員にどの程度徹底しているのか?会員外の医師による診療の実態の把握など解決すべき点は少なくない.

 血液学の領域では,わが国には69年の歴史を誇る日本血液学会と49年の歴史を持つ日本臨床血液学会がそれぞれに活動を続けてきたが,過去5年の議論を経て,2008年にこの2学会が統合し,新しい学会として再出発することが決定され,現在,組織の統一に向けた具体的な作業が進んでいるところである.2学会を統一する理念・目的については既に理事会・評議員会などにおける議論を通じて,意見の一致がみられているところであり,新しい学会の果たすべき使命・新規の事業への期待が高まっている.血液疾患の登録システムの立ち上げとその実施も,重要な事業の1つに位置づけられている.

総論

悪性リンパ腫の分類―歴史的変遷とWHO分類

著者: 一迫玲

ページ範囲:P.357 - P.363

 悪性リンパ腫の分類は一般的に「すぐ変わってしまう」と評されるが,その現象の根底に潜むのは長期にわたって進歩と発達を重ねてきた,(1)科学全般,(2)臨床研究,(3)社会情勢であり,そしてそれらを分類作業に生かしてきた多くの研究者たちの頭脳であった.極論すれば,それらと並行して,悪性リンパ腫の分類もその影響を受けて変貌してきたといっても過言ではない.その後,現行のWHO分類に至るまでそれが続いているが,その方向性はこれからも変わることがないであろう.〔臨床検査 51:357-363,2007〕

悪性リンパ腫の発症機序

著者: 鈴木律朗

ページ範囲:P.365 - P.370

 悪性リンパ腫の発症原因には,遺伝子の異常が第一義的にかかわっている.宿主・環境・外来微生物が悪性腫瘍の3大要因といわれるが,そのいずれもが腫瘍細胞における遺伝子の異常に帰することができる.悪性リンパ腫の場合は白血病と並んで,遺伝子異常の中でも遺伝子転座が主要因となっているのが上皮系腫瘍と異なる点である.この遺伝子転座は,リンパ腫の病型によって異なることから,ある程度の遺伝子診断も可能になってきている.〔臨床検査 51:365-370,2007〕

各論

診断技術の進歩―その意義:免疫染色

著者: 齋藤生朗 ,   甫守正史 ,   坂本穆彦

ページ範囲:P.371 - P.376

 悪性リンパ腫の病理組織診断において,免疫染色は必要不可欠な手法である.新WHO分類に則った病理組織診断をするためには,HE染色・特殊染色で大きく5グループに分けたのち,それぞれのグループに合った抗体の組み合わせを選択するとよい.最終診断は免疫染色を含めた病理組織診断,細胞診診断,フローサイトメトリー,遺伝子再構成,染色体検索などの結果を総合して判断することが望ましい.〔臨床検査 51:371-376,2007〕

診断技術の進歩―その意義:表面マーカー

著者: 田丸淳一

ページ範囲:P.377 - P.381

 悪性リンパ腫の診断においては病理組織学的検索を軸とし,免疫形質学的あるいは遺伝子学的な補助検査が行われており,その補助検査法の1つであるフローサイトメトリーの有用性の認識が広まってきている.本稿では,このフローサイトメトリーから得られるデータ(scattergram)の読図とともに,その有用性について簡単に紹介したい.〔臨床検査 51:377-381,2007〕

診断技術の進歩―その意義:分子生物学的解析

著者: 大島孝一

ページ範囲:P.383 - P.388

 これまで造血器腫瘍や固形腫瘍の診断には,細胞や組織の形態が決定的な役割を果たしてきたが,最近の分子生物学の進歩により,DNA,RNA,蛋白,機能解析レベルの検査法が飛躍的な進歩を遂げ,腫瘍細胞に特異的な変異を検出できるようになり,現在,古典的な病理形態診断に加えて,図1のような多数の分子生物学的解析法が出現している.診断にあたり,数多くの検査項目から最も適した組み合わせを選び出し,迅速に診断にたどり着かなければならなくなった.〔臨床検査 51:383-388,2007〕

診断技術の進歩―その意義:染色体分析

著者: 三浦偉久男

ページ範囲:P.389 - P.394

 染色体分析はゲノム全体を解析する形態学である.リンパ性腫瘍は染色体転座形成部位と細胞増殖部位とが異なる.前駆B細胞腫瘍の染色体異常は融合蛋白産生型で,成熟B細胞腫瘍の主たる染色体異常は免疫グロブリン遺伝子との脱制御型である.それに対し,T前駆細胞腫瘍の染色体異常はT細胞受容体と転座する脱制御型で,成熟T細胞腫瘍の染色体転座は極めて多様な融合蛋白産生型である.染色体分析により腫瘍化初期の異常を同定することは,治癒指向型の分子標的療法に必須である.〔臨床検査 51:389-394,2007〕

リンパ節生検時の注意,検体の取り扱い

著者: 淡谷典弘

ページ範囲:P.395 - P.397

 悪性リンパ腫の診断には,リンパ節あるいは腫瘍組織生検は必須であり,的確な診断のためには適切な処理が要求される.HE染色による病理所見が診断の中核であることに揺るぎはないが,診断の補助,治療方針や予後予測因子としての細胞表面形質,染色体検査,分子生物学的検査の占める重要度が増している.検体はすぐにホルマリン固定するのではなく,分割して固定する部分,細胞浮遊液にする部分,凍結保存する部分に分ける.細胞浮遊液はさらに細胞表面形質,染色体検査・分子生物学的検査などの遺伝子検査,培養検査として提出する.〔臨床検査 51:395-397,2007〕

悪性リンパ腫の治療戦略とそのEBM―ホジキン病

著者: 矢野尊啓

ページ範囲:P.399 - P.407

 ホジキンリンパ腫では,臨床病期が最も重要な予後因子であり,限局期ではABVD療法2~4コースと局所放射線照射が行われ,90%以上の患者に長期生存が得られる.進行期ではABVD療法6~8コースが標準的治療とされるが,長期生存は70~80%にとどまり,予後不良と予測される例ではより強力な化学療法が検討されている.再発例,治療抵抗例では大量化学療法併用自己末梢血幹細胞移植の適応を考慮する.Rituximab,抗CD30抗体などの新たな薬剤も試みられつつある.〔臨床検査 51:399-407,2007〕

悪性リンパ腫の治療戦略とそのEBM―非ホジキンリンパ腫 (1) B細胞性

著者: 岡本真一郎

ページ範囲:P.409 - P.415

 B細胞性非ホジキンリンパ腫の中で頻度が高い疾患は,び慢性大細胞型リンパ腫(diffuse large cell lymphoma;DLCL)と濾胞性リンパ腫(follicular lymphoma;FL)である.DLCLでは標準的化学療法(CHOP療法)によって根治が期待できるが,進行病期の治癒率は30~40%と満足できる成績ではない.FLにおいては,化学療法が奏効するものの,根治あるいは生存期間の有意な改善を期待することはできず,症状が悪化するまで経過観察をするといった消極的な立場が主流を占めてきた.しかし最近,rituximabなどの抗体製剤の開発や新たな造血幹細胞移植法の開発によって,両者の予後は大きく改善した.〔臨床検査 51:409-415,2007〕

悪性リンパ腫の治療戦略とそのEBM―非ホジキンリンパ腫 (2) T/NK細胞性

著者: 田野崎隆二

ページ範囲:P.417 - P.421

 T/NK細胞リンパ腫にはいくつかの組織型のものが含まれるが,欧米ではB細胞リンパ腫に比較して少ないために治療においては必ずしも細胞表面マーカーによる分類はされてなかった.このため,T/NK細胞リンパ腫に特異的な治療戦略はなく,EBMは乏しい.ただし,従来の抗癌剤治療では,ALK陽性ALCL以外は予後不良である.共同研究で積極的に症例を集積し,同種移植や新薬の有用性を明らかにすることが期待される.〔臨床検査 51:417-421,2007〕

話題

FDG-PET

著者: 新津望

ページ範囲:P.423 - P.427

1.はじめに

 悪性リンパ腫診療において,病期分類,治療効果判定などについて,様々な画像診断が用いられている.2002年に18F標識フルオロデオキシグルコース(fluorodeoxyglucose;FDG)-ポジトロン断層撮影法(positron emission tomography;PET)の保険診療が可能となり,わが国でも普及しつつある.しかし,すべての施設で施行可能ではなく,また保険適応も限られているため,今後悪性リンパ腫診療においてFDG-PETをどのように用いるべきかを検討する必要がある.また,悪性リンパ腫は,早期に適切な治療を行うことにより治癒可能な疾患である.悪性リンパ腫の治療を行うためには,適切な病理組織診断および病期診断を行い,予後予測因子に応じた治療方針の決定が必要である.現在,病理組織分類は,WHO分類が使用されており,Hodgkinリンパ腫,B細胞性腫瘍,T/NK細胞性腫瘍に分けられている.WHO分類では非ホジキンリンパ腫は35種類,Hodgkinリンパ腫は5種類に分類されており,また臨床的な進行度に応じて低悪性度,中悪性度,高悪性度に分けられ(表1),治療方針および予後も大きく異なっている.成人リンパ腫治療研究会(Adult Lymphoma Treatment Study Group;ALTSG)での頻度を図1に示す1).また,国際予後指標(international prognositic index;IPI)が提唱され(図2),その予後因子の1つとして臨床病期が入っているため,治療前に病期分類を適切に行うことが大切であり,そのためFDG-PETによる病期判定が期待されている.

 今回は,悪性リンパ腫の病期診断,治療効果の判定に対するFDG-PETの有用性を概説する.

膿胸関連リンパ腫

著者: 中塚伸一 ,   青笹克之

ページ範囲:P.429 - P.432

1.はじめに

 われわれは慢性膿胸患者の胸膜に悪性リンパ腫が発生することに注目し,1985年に胸部疾患専門病院である国立療養所近畿中央病院(現国立病院機構近畿中央胸部疾患センター)で調査を行った.その結果,1971~1985年に慢性膿胸として通院していた134名の患者のうち3名(2.2%)に胸膜悪性リンパ腫が発生していたことが判明した(図1)1).以下に列挙する理由から,われわれは胸膜リンパ腫発症の基盤として慢性膿胸の存在の重要性を指摘した.

 (1) 大阪および周辺地区の一般病院における2,500名を超えるリンパ腫および関連疾患の中には,胸膜リンパ腫は1例も認めない.

 (2) 日本病理学会編集の剖検情報のコンピュータ検索を行ったところ,胸膜リンパ腫症例はいずれも慢性膿胸からの発生であった.

 (3) わが国の胸部疾患関係の学会や雑誌に発表された胸膜リンパ腫症例は,すべて慢性膿胸からの発生であった.

 なお,欧米からの胸膜リンパ腫の報告例は文献上極めて稀であり,慢性膿胸から発生する胸膜腫瘍としては中皮腫や扁平上皮癌の報告が多い.

今月の表紙 腫瘍の細胞診・4

悪性リンパ腫の細胞診

著者: 住石歩 ,   海野みちる ,   坂本穆彦

ページ範囲:P.350 - P.353

 血液リンパ系腫瘍は,1832年にHodgkinの記載した脾臓とリンパ節に発生する悪性腫瘍「ホジキン病」の報告に始まる.その後,細胞組織形態から,Rappaport分類・Rye分類・Kiel分類などが生まれた.国際的共通分類として,1982年にはWorking Formulation(WF)が発表された.日本ではAdult T-cell lymphoma(ATLL)を含むLymphoma Study Group:LSG分類が提唱された.2001年にはRevised European-American Classification(REAL分類)をさらに発展させ,血液リンパ系腫瘍を多方面から包括した新WHO分類が完成した.これには形態学的検索に加え,染色体や遺伝子情報,フローサイトメトリーやモノクローナル抗体による免疫表現型などが盛り込まれている.WHO分類は悪性リンパ腫を細胞起源からB細胞腫瘍・T/NK細胞腫瘍・Hodgkinリンパ腫に大別しているのが特徴である1~3)

 悪性腫瘍におけるEB virusの関与は,バーキットリンパ腫が有名であるが,癌患者のリンパ節にも陽性像が認められている(図1).

シリーズ最新医学講座 臓器移植・4

免疫抑制剤

著者: 大塚一幸

ページ範囲:P.433 - P.441

はじめに

 1954年,Merrillによる一卵生双生児間腎移植の成功は,移植された腎臓が長期にわたって機能し,生体の健康を保つことができるということを証明するとともに,移植成績が遺伝的類似性に左右され遺伝的非類似性(組織適合の違い)による拒絶反応(免疫反応)の抑制が成功の鍵を握ることを示した.以後,臓器移植の普及と発展は免疫抑制剤開発に依存しているといっても過言ではない.

 最初の免疫抑制の試みは,Murryらにより全身X線照射が行われたが,感染症併発のためすべて失敗に終わった.

 1960年代に入ると,抗癌剤として開発された6-メルカプトプリン(6-mercaptopurine;6-MP)に免疫抑制作用があり,ヒト移植への適応の可能性が示されたが,副作用の強いことから臨床応用までには至らなかった.しかし,6-MPのイミダゾール(imidazole)誘導体アザチオプリン(AZA)に,6-MPと同様の免疫抑制作用を持ちながら副作用の少ないことが明らかになり,1962年Murry,Merrillらのグループにより腎移植への臨床応用が行われた.以後20年間臓器移植における中心的な免疫抑制剤として移植普及に大きな役割を果たした.その後,StarzlやMurryらにより別々にAZAとステロイド剤の併用により合併症の軽減と著明な生着延長が報告され,以後この薬剤の組み合わせが標準的な免疫抑制療法となった.また,1960年後半に開発された抗リンパ球血清も急性拒絶反応の抑制に貢献した.しかし,AZAとステロイド剤の組み合わせではステロイド剤高投与量のため,重症の副作用が発生し,AZAに変わる免疫抑制剤の開発が望まれた.

 1976年,Borelら1)はノルウェー南部の土壌から分離した微生物の代謝産物であるシクロスポリンA(ciclosporinA;CsA)に骨髄抑制作用がなく,強力な免疫抑制作用のあることを報告した.1978年にCalneら2)により腎移植に応用され,さらにStarzlら3)は,CsAと少量のステロイド剤を使用することにより致命的な合併症の少ない優れた免疫抑制療法のできることを明らかにした.これより腎移植ばかりでなく肝臓移植,心臓移植,膵臓移植も可能となった.さらに,CsAよりもはるかに強力なタクロリムス(tacrolimus)が発見され,1989年Starzlら4)により,その抑制力はCsAでは抑えきれない肝移植の進行中の拒絶反応をも抑制することが明らかにされた.タクロリムスの出現により,CsAでは困難であった小腸移植も可能となった.

 免疫学の進歩とともに,T細胞上のCD3に対するモノクローナル抗体ムロモナブ(muromonab;OKT-3)5),活性化T細胞のCD25のみに反応するキメラ抗体バシリキシマブ(basiliximab),ヒト型抗体ダクリズマブ(daclizumab)6,7)も開発され,合併症の少ない使いやすい抗体療法が行われつつある.

 最近では副刺激経路,接着分子に対する化合物や抗体も開発され,免疫寛容導入の可能性も検討されている.

 AZAはプリン核酸合成の新生経路(de novo pathway),再利用経路(salvage pathway)の両経路を抑制するがリンパ球は前者のみを使用しており,この経路のみを抑制し,かなりリンパ球選択的に分裂増殖を抑制するミゾリビン(mizoribine;MZ)8)や,ミコフェノール酸モフェティル(mycophenolate mofetil;MMF)9)が開発されている.特にMMFの場合,CsAとの併用により拒絶反応の発症率が少なく合併症の少ない免疫抑制療法が確立している.主な免疫抑制剤の一覧表(表1),また作用点(図1)を示した.

 わが国における最近の腎移植における主な免疫抑制プロトコルは,低容量のカルシニューリン・インヒビター(CsA/タクロリムス,MMF,バシリキシマム,低容量のステロイド剤の4剤併用療法である.本文ではこれら薬剤の薬理作用とPK/PD(Pharmacokinetics/pharmacodynamics)について記述する.

資料

国内で販売されている10種類の高感度キットを用いた異なるHBV genotype由来HBs抗原の検出(続報)

著者: 水落利明 ,   岡田義昭 ,   梅森清子 ,   水沢左衛子 ,   山口一成

ページ範囲:P.443 - P.446

 前報(49巻9号,1039-1042,2005)に続き,国内で販売されている高感度HBs抗原検出キットを用いて,現在報告されているすべてのHBV genotype(A,B,C,D,E,F,G,H)1)由来のHBs抗原の検出を行った.前報と同様に,genotype間での感度差はあるものの,現在国内で販売されている高感度検出キットは,すべてのgenotypeに由来するHBs抗原を検出できることが確認された.

コーヒーブレイク

秋の落葉に坐す

著者: 屋形稔

ページ範囲:P.382 - P.382

 2006年の秋も深みゆく10月中頃,会津から新潟平野そして日本海へと流れる阿賀野川の中流の山中である集まりがあった.それは数十年前まで私の在籍していた大学病院内科のホルモン検査の研究を中核にして存続していた研究室の集いである.毎年秋に1回周辺県のどこかで開かれ各々の過去,現在,未来を語り合うが,数十年間飽きもせず開かれ出席率も50%を超える楽しい会である.

 この年は鹿瀬という地の角神温泉が選ばれ,附近は戊辰戦争の激戦の跡であった.数十年前は近くの昭和電工の排水が原因とされる水俣病が発生して芳ばしくないイメージの土地ともなった.しかし私自身そこの診療所に数回出張させられたり懐かしくもある土地で,何より風光明媚といってよい.

CMLとCKD

著者: 寺田秀夫

ページ範囲:P.398 - P.398

 近年医療の領域での略語は膨大になり,専門領域が異なるとその意味がわからず,また誤った意味に取り違える場合も少なくない.

 すでに従来から1つの確立した病名として用いられてきたCMLと,最近登場しその内容がいまだ漠然としているCKDについて,少し説明してみたい.

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あとがき

著者: 池田康夫

ページ範囲:P.450 - P.450

 慢性骨髄性白血病の治療は,イマチニブ(グリベック®)の登場により変化し,致死的と思われていた疾患が外来における投薬で容易にコントロールでき,治癒が望める状況になってきている.本薬剤の標的が疾患特異的キメラ遺伝子bcr/ablであることから著しい治療成績につながったと思われる.一般に悪性腫瘍に対する分子標的療法は,これまでの細胞毒性の強い抗癌剤と異なり,著しい骨髄抑制をきたすこともなく,患者に優しい治療と考えられがちであるが,ゲフィチニブ(イレッサ®)の例でも明らかになったように,間質性肺炎など思わぬ致死的副作用が出現することもある.当該疾患にのみ特異的に発現している遺伝子や蛋白を標的にして新薬が開発される場合は良いが,腫瘍細胞と正常組織での発現量の差を利用して標的分子が選択され,開発された薬の場合は思わぬ副作用の出現も念頭に置きつつ,承認後に慎重かつ迅速に市販後調査を行う必要がある.どのような治療にもリスクは当然伴うものだが,新しい医薬品の場合,承認後になって明らかになることもしばしば経験されるため,医師はリスク/ベネフィットの考え方を十分に患者に説明することが必要であると同様に,情報の蓄積のために全力を尽くすことが不可欠である.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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