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雑誌目次

論文

臨床検査51巻5号

2007年05月発行

雑誌目次

今月の主題 脂質 巻頭言

臨床検査と脂質:これからの脂質研究への期待

著者: 横溝岳彦

ページ範囲:P.457 - P.458

 臨床検査の項目に登場する「脂質」関連物質の数は極めて少ない.ルーチンの項目としては,中性脂肪(トリグリセリド),総コレステロール,HDL,LDL程度であろう.しかもHDL,LDLは脂質と蛋白質の複合体であり,分子量数十万の高分子である.一方,人体に存在する脂質の分子種は数万に上るものと想定されている.したがってわれわれはいまだに疾患における「脂質」の重要性を見いだせていないと考えられる.

 トリグリセリドは十二指腸や小腸から吸収されたのち血中をめぐり,過剰な脂質は脂肪細胞に蓄積され,必要に応じて効率の良いエネルギー源として利用される.飢餓にさらされることの多かった時代に,われわれ人類が備えることを余儀なくされた「脂質を体内に蓄え,必要に応じて利用する」システムが,栄養過剰の現代にはいわゆる生活習慣病の最大の危険因子として機能しているのは皮肉なことである.同じく悪玉と考えられることの多いコレステロールは,多数のステロイドホルモンの材料としても,細胞膜を構成する成分としても極めて重要な,生命維持に必須の分子でもある.われわれがいまだに脂質の重要性を十分認識できていない最大の理由は,様々な疾患やホメオスタシスの維持における脂質の役割の理解が不十分なためであろう.

脂質関連物質の作用機序

細胞膜受容体の脂質性リガンド:エイコサノイド,スフィンゴ脂質と新規抗炎症脂質

著者: 横溝岳彦

ページ範囲:P.459 - P.468

 生体内で微量にしか存在せず,半減期も短い生理活性脂質の研究は,分子生物学の手法を駆使した受容体の研究によって飛躍的に進歩してきた.ほとんどの脂質性リガンドは,細胞膜受容体・核内受容体のいずれかに結合してその生理作用を発揮するが,胆汁酸のように両者を利用する生理活性脂質も存在する.質量分析機の技術革新のおかげで,これまでに同定されていなかった新規の生理活性脂質・脂質性リガンドの同定も進んできた.また生理活性脂質の微量定量型の開発は,臨床医学の現場で新規の検査項目として使用可能になるものと思われる.また,受容体欠損マウスの表現型を出発点にした新規の創薬が期待される.〔臨床検査 51:459-468,2007〕

核内受容体を介した脂性生理活性物質の作用機序

著者: 加藤茂明

ページ範囲:P.469 - P.475

 性ステロイドホルモンをはじめとした低分子量脂溶性生理活性物質群をリガンドとする核内受容体群は,リガンド依存性DNA結合性転写制御因子として機能し,標的遺伝子群の発現を転写レベルで制御する.その結果発現制御される遺伝子産物が,これらリガンドの生理作用を担う.本稿では,この転写制御を,最近明らかにされつつある核内受容体と相互作用する転写共役因子複合体群の機能を中心に概観したい.これら複合体の本質的機能は,転写制御に伴う染色体構造調節・ヒストン修飾を行う本体であることが明らかにされつつあり1,2),核内受容体による染色体構造調節と転写制御の分子機構を紹介する.〔臨床検査 51:469-475,2007〕

脂質関連物質と疾病

脂質メディエーターと呼吸器疾患―気管支喘息,肺線維症を中心に

著者: 長瀬隆英

ページ範囲:P.477 - P.481

 気管支喘息,肺線維症などの炎症性肺疾患は,社会的にも極めて重大な疾患であり,治療薬の開発が切実に待たれている.リン脂質およびアラキドン酸を起点とする代謝産物であるPAF,プロスタグランジン,トロンボキサン,ロイコトリエンなどは脂質メディエーターと総称され,ごく微量で多彩な生理活性作用を呈するのが特徴である.脂質メディエーターは気管支喘息をはじめ,様々な呼吸器疾患の発症機序に関与することが明らかになりつつあり,呼吸器疾患の治療標的となることが期待される.〔臨床検査 51:477-481,2007〕

プロスタノイドと免疫性皮膚疾患―接触皮膚炎,アトピー性皮膚炎

著者: 椛島健治

ページ範囲:P.483 - P.491

 生理活性物質であるプロスタノイドは皮膚の定常状態,あるいは各刺激に伴い合成され,その受容体発現も皮膚に認められている.各プロスタノイドはcontext dependentに,時には互いに相反する作用を発揮し,生体のホメオスタシスの維持や皮膚病態の形成に関与している.プロスタノイドは産生された近傍で作用するオータコイドの一種であるため,副作用の少ない薬物療法につながる可能性が高い.今後はプロスタノイドの病態生理学的役割のさらなる解明とその臨床応用が期待される.〔臨床検査 51:483-491,2007〕

脂質代謝異常と疾病

メタボリックシンドロームと脂質代謝異常

著者: 羽田裕亮 ,   山内敏正 ,   門脇孝

ページ範囲:P.493 - P.498

 メタボリックシンドロームは,内臓脂肪蓄積からアディポサイトカインの分泌異常とインスリン抵抗性をきたし,動脈硬化性疾患がもたらされる高リスク群である.脳梗塞・心筋梗塞といった動脈硬化性疾患の予防のために厳密に管理していく必要がある.メタボリックシンドロームにおける脂質代謝異常の治療は高脂血症一般の治療に準じるが食事療法と運動療法は血圧・血糖にも通じるため総合的に治療していく必要がある.〔臨床検査 51:493-498,2007〕

高LDLコレステロールと疾病

著者: 上田之彦

ページ範囲:P.499 - P.505

 高LDLコレステロール血症は虚血性心疾患に代表される動脈硬化性疾患の最大の危険因子である.高LDLコレステロール血症は,家族性高コレステロール血症(FH),家族性複合型高脂血症(FCH),常染色体劣勢遺伝性高脂血症(ARH),アポ蛋白B結合部欠損症といった遺伝子異常によって引き起こされるほか,コレステロールの過剰摂取や甲状腺機能低下症,ネフローゼ症候群,原発性胆汁性肝硬変,閉塞性黄疸,糖尿病,クッシング症候群,薬剤性でも二次性に引き起こされる.血液中に蓄積したLDLは,血管内皮の機能障害を引き起こすとともに,酸化変性されてマクロファージに取り込まれ,泡沫細胞を形成し,粥状動脈硬化を引き起こす.〔臨床検査 51:499-505,2007〕

低HDLコレステロールと疾病

著者: 河村彰 ,   朔啓二郎

ページ範囲:P.507 - P.513

 低HDLコレステロール(HDL-C)血症が動脈硬化の危険因子として認識されるようになって久しいが,HDLの代謝経路の解明が進んできたのは比較的最近のことである.高LDL-C血症に対する心臓病一次予防,二次予防の大規模臨床研究が多数行われてきたのに対し,低HDL-C血症に対する予後や治療効果をみた臨床研究は少ない.また,低HDL-C血症だけを認める場合に治療の対象になるか,HDL-Cは増加すべきか否かなどは,いまだ議論が多い.本稿では,HDLによる動脈硬化防御の分子機構,低HDL-C血症の成因およびその治療法,治療効果について概説する.〔臨床検査 51:507-513,2007〕

ステロイドホルモンと生活習慣病

著者: 柳瀬敏彦

ページ範囲:P.515 - P.522

 脂質,代謝系に影響を与えるステロイドホルモンとして,糖質コルチコイド(GC),性ステロイド(テストステロン,エストロゲン)を取り上げ,概説した.GCは,ヒトではその過剰症が副作用としての高脂血症,糖尿病の発症につながる.一方,性ステロイドには抗肥満作用があり,加齢に伴う性ステロイドの低下は生活習慣病,特に内臓脂肪型肥満を基盤とするメタボリックシンドロームの発症の重要な背景要因となっている可能性がある.〔臨床検査 51:515-522,2007〕

トピックス

胆汁酸による肥満抑制機構―甲状腺ホルモン活性化とエネルギー代謝

著者: 渡辺光博

ページ範囲:P.523 - P.527

1.はじめに

 驚くべきことに,ギリシャ時代に胆汁酸は哲学と医学の分野に登場していた.ヒポクラテスは人体における体液の基本組成を「血液,粘液,黄色胆汁,黒色胆汁」の四つに分類し,そのいずれかが過剰になると性格を左右すると記している.例えば,黒色胆汁過剰の場合,暗い気質,憂鬱,非社交的,感受性が強く,黄色胆汁過剰の場合,怒りやすい,短絡的,エネルギッシュで活動的な性格になる,と.現在,われわれが胆汁酸と称しているのはこの黄色胆汁であり,約2,400年前の性格と関連付けた見方が,われわれの研究に一致しているところがあるのは非常に興味深い.しかし,この優れた洞察に溢れた研究はその後発展をみず,数年前まで,胆汁酸は単に食事により摂取されたコレステロール,脂質をミセル化し,それらの消化吸収に関する物質として考えられてきた.

 しかし,動物の肝臓,胆囊に含まれる胆汁酸は作用メカニズム不明のまま古代ギリシャで医薬品として用いられ,インドに伝わり伝統的医学アーユルヴェーダにも登場し,シルクロードを経て,中国,さらには東の果て日本へと伝来され,今日まで用いられている最古の医薬である.

HDLコレステロール,LDLコレステロール測定の標準化に関する最近の話題

著者: 花田寿郎

ページ範囲:P.529 - P.531

1.はじめに

 現在,検査施設によって検査方法,機器,試薬等の違いにより基準値や判定値が異なっており,このような状況を是正する動きが,最近,国内外で急速に起こっている.国際的な活動としては国際度量衡委員会(CIPM),国際臨床化学連合(IFCC),国際試験所認定機構(ILAC),世界保健機関(WHO)が中心となって,2002年にJoint Committee on Traceability in Laboratory Medicine(JCTLM)が発足した.JCTLMは臨床検査測定項目それぞれに対応する標準物質を作製し,それを基準として正確性を確保し標準化しようとするものである.JCTLMには日本からも日本臨床検査標準化協議会(JCCLS)および産業技術総合研究所が発足当初から参画している.一方,国内においてもほぼ同じ時期に臨床検査の標準化を目的にJCCLSが臨床検査標準化基本検討委員会を設立し,JCTLMに対応する国内委員会としても活動している1)

 さて,臨床検査においてHDLコレステロール(HDL-C),LDLコレステロール(LDL-C)は動脈硬化,心筋梗塞のマーカーとして重要な検査項目となっている.日本で開発されたこれらの直接法試薬は汎用自動分析装置で測定可能であることから,世界中の臨床検査の場で貢献している2)

 本稿では,HDL-C,LDL-C測定における標準化の現状(基準分析法と標準物質)と,新たに取り組んでいる臨床検査標準化基本検討委員会での標準物質作製の現状について概説する.

技術

HDLコレステロール,LDLコレステロールの測定技術に関する最近の進歩

著者: 杉内博幸 ,   松嶋和美 ,   安東由喜雄

ページ範囲:P.533 - P.539

1.はじめに

 高脂血症と動脈硬化との因果関係に関する研究は,1977年,Gordonらが米国のボストン郊外の地域住民5,000人以上を対象に実施した長期疫学追跡調査“Framingham Heart Study”が最初である1).その後,多くの疫学調査が実施され,それらの結果から高密度リポ蛋白コレステロール(HDL-C)は動脈硬化のアンチリスクファクターとして,低密度リポ蛋白コレステロール(LDL-C)はリスクファクターとして注目されるようになり,その測定は動脈硬化の予防,診断や治療には不可欠な検査となっている.わが国では動脈硬化の原因となるメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の急増に伴い,2008年4月から40歳以上の健診の義務化が実施され,トリグリセライド(TG),HDL-C,LDL-Cの測定が基本健診項目に指定される.このため,今後,ますますHDL-C,LDL-Cの測定精度の向上が必要不可欠なものとなり,精度管理の徹底や標準化の進展が要求されている.最近,筆者らは自動分析装置で測定できるHDL-C,LDL-Cホモジニアス法を開発した2,3).その後,原理の異なるホモジニアス法が次々と開発され,これらは世界中に普及している.

 本稿では,ホモジニアス法の測定原理を中心として,従来法との比較や測定法の評価など,最近の話題を交えて概説する.

質量分析計を用いたエイコサノイドの一斉定量分析系の開発

著者: 北芳博 ,   清水孝雄

ページ範囲:P.541 - P.545

1.はじめに

 プロスタグランジン(prostaglandin;PG)やロイコトリエン(leukotriene;LT)に代表されるエイコサノイドは,アラキドン酸に由来する生体内代謝物であり,様々な疾患や生理機能にかかわる脂質メディエーターである1).生体内における脂質メディエーターの機能の研究において細胞や組織中における脂質メディエーター量を測定する必要性は高く,筆者らの研究室においても従来ELISAを用いて各種エイコサノイドの定量を行ってきた.ELISAによるエイコサノイド定量はキット化されているものもあり簡便であるが,特異的な抗体が存在しない(したがってキット化もされていない)エイコサノイドは測定できず,また一斉定量には不向きである.そこで筆者らは,微量の試料から種々のエイコサノイドを高感度で一斉定量することを目的として質量分析計を用いた一斉定量系を開発した2)

 本稿では,エレクトロスプレーイオン化(electrospray ionization;ESI)タンデム質量分析計(MS/MS)を用いた一斉定量分析系の原理と特性について解説するとともに,生体試料からの脂質抽出や前処理などの関連技術についても紹介する.

今月の表紙 腫瘍の細胞診・5

呼吸器腫瘍―1

著者: 市川美雄 ,   海野みちる ,   坂本穆彦

ページ範囲:P.454 - P.456

 呼吸器とは呼吸に関係する器官の総称で,鼻腔・副鼻腔・咽頭・喉頭からなる上気道と,気管・気管支・肺からなる下気道に区別される.

 細胞診の検体採取は,鼻腔・咽頭・喉頭などでは擦過・洗浄・穿刺吸引が行われる.気管・気管支・肺などでは喀痰・蓄痰のほかに,気管支鏡下での洗浄・ブラシ擦過・鋭匙・穿刺吸引がある.また,経皮的穿刺吸引生検および手術材料の組織捺印なども検査材料となる.一般的にはパパニコロウ(Pap)染色,ギムザ染色,PAS(periodic acid-schiff)反応,アルシアン青染色を行うが,必要に応じてグロコット染色や抗酸菌染色などの特殊染色や,免疫染色を追加する.

シリーズ最新医学講座 臓器移植・5

薬理ゲノミクスによる投与設計

著者: 増田智先 ,   乾賢一

ページ範囲:P.547 - P.552

はじめに

 臓器移植治療には,術後の免疫抑制療法が必須とされる.タクロリムス(FK506)やシクロスポリンなどのカルシニューリン阻害薬はほとんどの臓器移植後の免疫抑制剤として使用されており,その成績とともに臓器移植治療そのものの社会的認知度の向上に大きく貢献してきた.しかし,いずれの薬物も微量で強力な薬理効果を発揮する反面,狭い有効治療域を有することから,至適投与量設定を目的とした血中濃度モニタリング(therapeutic drug monitoring;TDM)が必要とされている.一方,頻回のTDMによる血中濃度コントロールが実施されているにもかかわらず,予後に直接影響する感染症の合併や重篤な副作用(中枢毒性,腎毒性,高血糖,高カリウム血症)を回避できない場合が多い1,2)

 生体に投与されたタクロリムスやシクロスポリンなどの免疫抑制剤は,主として肝臓に発現する薬物代謝酵素チトクロムP450 IIIA4(CYP3A4)によって代謝されること,代謝物および未変化体薬物は引き続きP-糖蛋白質(MDR1/ABCB1遺伝子にコードされる)を介して胆汁中に排泄されることが知られている.また,CYP3A4やP-糖蛋白質は小腸粘膜にも発現しており,経口投与されたこれら薬物の吸収過程における代謝・排泄を媒介することによって,薬物の吸収障壁として協働的に機能することから,経口投与された免疫抑制剤の血中濃度を支配する重要な生体因子として位置付けられている3,4).したがって,小腸のP-糖蛋白質やCYP3A4の同一患者における発現変動や個人差に関する情報は,タクロリムスの個別投与設計を行ううえで有用な指標になると考えられる.

 本稿では,生体肝移植治療におけるわれわれの臨床経験を含め,薬理ゲノミクスの側面から免疫抑制剤の個別化投与設計について論じる.

研究

バセドウ病における肝機能検査値の変動について

著者: 松本優香 ,   池田直子 ,   鷲尾洋子 ,   小野律子 ,   峯尾真澄 ,   河本知恵 ,   森田新二 ,   網野信行 ,   窪田純久 ,   深田修司 ,   宮内昭

ページ範囲:P.553 - P.557

 未治療バセドウ病患者は健常対照に比し血中ALT,ALP,γ-GTPは有意な高値を示し,ALB,BIL,LDH,CKは有意の低値を示した.ALTは26.7%,ALPは60.0%の患者で高値がみられた.AST,ALT高値は抗甲状腺剤治療開始後1か月目により顕著になったが,3~5か月後これらは正常化した.ALPは2か月後に平均値が最も高い値を示し,3~5か月後でもなお高値を持続した.ALTの1か月後の上昇は,推定罹病期間が6か月以上の群でより高く一過性であったことより,抗甲状腺剤による肝障害より,代謝状態の変化が大きく影響しているものと推測された.抗甲状腺剤内服後のALT 100IU/l前後の上昇では,治療法を変更する必要がないものと考えられた.

海外文献紹介

境界型糖尿病が認知症およびアルツハイマー病の危険率に及ぼす影響

著者: 鈴木優治

ページ範囲:P.468 - P.468

 多くの研究が糖尿病と認識の低下および認知症との関係を明らかにしたが,糖尿病と認知症のアルツハイマー病型との関係については論争中である.著者らは境界型糖尿病が認知症およびアルツハイマー病の危険率を高めるという仮説を立証するために,75歳以上で認知症および糖尿病のない1,173人の長期的なCommunity-based cohortにより認知症およびアルツハイマー病の発症状況について調査した.境界型糖尿病は随時血漿グルコース濃度が7.8~11.0mmol/lのものとし,データはCox proportional hazards modelsで解析した.9年間の追跡中にアルツハイマー病307人を含む397人が認知症を発症した.47人は境界型糖尿病と同定され,境界型糖尿病は認知症およびアルツハイマー病のadjusted hazard ratioと関係していた.層別分析ではAPOEε 4対立形質の非保有者間だけに境界型糖尿病とアルツハイマー病との強い関係が示唆された.境界型糖尿病と重度の収縮期高血圧間の相互作用がアルツハイマー病の危険率に影響していた.境界型糖尿病は認知症とアルツハイマー病の危険率の増加と関係していた.

リチウムのPOCTのためのミクロチップキャピラリー電気泳動

著者: 鈴木優治

ページ範囲:P.491 - P.491

 リチウムは双極性気分障害の治療に対する最も重要な気分安定剤である.リチウム治療の短所は薬剤濃度範囲が狭く,薬剤モニターが必要になることである.血漿や血清のリチウムは通常,イオン選択性電極で測定されるが,最近,リチウムのPOCTが開発された.この方法はポルフィリン化合物の光吸収の変化を測定することに基づいており,50μlの試料を必要とする.著者らは全血のような複雑な試料の化学分析に有望な方法であるミクロチップキャピラリー電気泳動法(CE)がリチウムのPOCTとして応用できるかどうかについて検討した.はじめに指からの血液採取器にはガラスキャピラリーを採用した.さらに,新しい使い捨て血液採取器となるよう工夫し,病院における臨床的標準として試験した.これらの血液採取器のミクロチップは血液細胞の移動を防ぐ完全な濾過膜を備えている.このような血液採取器とミクロチップCEの組み合わせはPOCTによるリチウム測定を可能にした.この新規の方法によるリチウム測定を患者5人で検討したところ,電解質は20秒以内に分離でき,リチウムの検出限界は0.15mmol/lであった.

リポカリン-2はヒトでは肥満,インスリン抵抗性および高血糖と関係する炎症マーカーか

著者: 鈴木優治

ページ範囲:P.527 - P.527

 リポカリン-2は25kDaの糖蛋白質であり,種々の腎障害の早期発見の有用なマーカーである.この物質が脂肪組織と肝臓で顕著に発現されることから,著者らはその肥満関連病理との関係について検討した.検討では,肥満マウスおよび痩せた同腹子のmRNAおよび血清リポカリン-2を定量するためにreal time PCRとイムノアッセイを用いた.また,血清リポカリン-2と種々の代謝物質および炎症物質との関係について過去の研究参加者から募集した229人を対象に解析し,糖尿病患者32人においてはインスリン感作薬剤であるrosiglitazoneの血清リポカリン-2への影響について評価した.肥満マウスでは痩せた同腹子と比較して,脂肪組織および肝臓のリポカリン-2のmRNA発現とその循環濃度は有意に増加していた.これらの変化はrosiglitazone投与後には正常化した.ヒトでは,循環リポカリン-2は脂肪蓄積,トリグリセライド血症,高血糖,インスリン抵抗指数およびCRPと正相関し,HDL-コレステロールとは負相関した.血清リポカリン-2は肥満とその代謝性合併症に密接に関連した炎症マーカーである.

コーヒーブレイク

故旧忘れうべき

著者: 屋形稔

ページ範囲:P.514 - P.514

 「故旧忘れうべき」という小説を昔読んだ記憶がある.私にも少年時に出会い今に至るまで糸のようにつながれているU君のことは忘れ去ることができない.

 東北の田舎町の中学校に入った級友のなかに別の町から来た彼がいた.ごつい体格をしており間もなく全町の少年角力大会に出場して優勝したU君は一躍クラスの人気者になったが,間もなく剣道部に入ってここでも頭角をあらわした.私は柔道部に入り稽古を共にできなかったが,3年生の頃体育の時間に相撲試合があり彼ととり組まされた.小兵の私が鮮やかな腰投げで彼を一回転させたときは,仲間も自分も一驚を禁じえなかったものである.

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あとがき

著者: 濱﨑直孝

ページ範囲:P.560 - P.560

 今月の主題は「脂質」です.脂質に関する最近の話題としては,メタボリックシンドロームに関係する健診の話題があります.厚生労働省が「標準的な健診・保健指導プログラム」を2006年に発表しました.このプログラム発表では,厚生労働省は,健診・保健指導に関する方針を,これまでの「プロセス重視の保健指導」から「結果を出す保健指導」に変える劇的な方針転換を明らかにいたしました.すでに,2006年4月に法律が成立しており,2008年4月から新しい制度が始まります.この新方針では,結果を出す保健指導を中心に据え,保健指導対象者の選別を病院ではなく健診で行おうという,完全な予防医学的視点を高らかに謳っております.2008年4月といえば,あと1年弱の時間的猶予しかなく,現在,各関連部署や諸学会などで2008年4月の新方針スタートに向けて鋭意準備を行っているところです.準備を開始してみると,いろいろなところで問題点が浮き彫りになり,2008年からのスタートを危ぶむ声もありますが,厚生労働省のこの新方針は国民の福祉・医療の観点からは正しい方向転換だと思いますので,関連している多くの人々の努力で,是非,成功させなければならないと考えております.

 最近は,「脂質」に対する特集はいろいろな雑誌や学会などで取り上げられています.その理由は上記メタボリックシンドローム,生活習慣病に関連して,取り上げられてきたと推測されます.本号主題の「脂質」は,疾病に関係してメタボリックシンドロームの話題は一部にありますが,本題はそれとは少し趣を変えております.最近,世間的に話題になっている「脂質」は脂肪としてわれわれの体内に蓄積するものに関する話題でありますが,実は,われわれの体の中には微量にしか存在せず,半減期も短く,でも,重要な生理活性を示す「脂質」が存在しており,それらは生体内で代謝やホメオスタシス調節に重要な役割を果たしていることがだんだんとわかってきました.このような“脂質”に関する研究は,膜蛋白質研究の進歩,微量生体成分分析技術の向上,遺伝子工学的手法の発展のおかげで最近は著しく進歩しています.本号では,このような「脂質」に注目して主題を組ませていただきました.はじめて耳にするような言葉などが多く,馴染みにくいかもしれませんが,当代第一流の研究者にわかりやすく解説していただいておりますので,じっくりと読んでいただければ幸いです.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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