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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査52巻4号

2008年04月発行

雑誌目次

今月の主題 歯科からみえる全身疾患 巻頭言

歯科からみえる全身疾患

著者: 金子明寛

ページ範囲:P.367 - P.368

 口腔常在細菌叢は多数の菌種が存在し,不顕性の嚥下性肺炎の原因菌となる.嚥下性肺炎以外にも近年の疫学報告では歯周病関連細菌が,様々な疾患に関与していることが報告されている.口腔常在細菌叢のなかの1/3以上は連鎖球菌属が占めている.嚥下性肺炎の原因菌は連鎖球菌属のほか,各種の嫌気性菌の関与も考えられる.Streptococcus属をはじめとする主要な口腔常在菌は付着能が強いのが特徴である.唾液には1ml当たり109の菌が存在し,歯周ポケットには1010以上の菌が存在する.口腔内細菌は口腔の各部位で細菌叢を構築している.各部位の主な細菌は,唾液:Streptococcus salivarius(20%),Streptococcus mitis(20%),舌背:Streptococcus salivarius(20%),グラム陽性線状微生物(20%),プラーク(歯垢):Streptococcus mutans(0~50%),Streptococcus mitis(15%),歯肉溝:グラム陽性線状微生物(35%),Veillonella属(10%)である.

 唾液,舌背の細菌叢は類似し,嫌気性菌の細菌叢に占める割合は低い.プラーク(歯垢)ではStreptococcus mutansの占める割合が高く,viridans streptococciの占める割合が比較的高い.歯肉溝では嫌気性グラム陰性桿菌の占める割合が高い.

総説

生活習慣と歯周病のかかわり

著者: 伊藤公一

ページ範囲:P.369 - P.374

 超高齢化社会を迎えるにあたり,口の健康と丈夫で美しい歯を生涯保ち,快適で豊かな生活を送るためには,歯周病の予防や治療が不可欠である.歯周病は感染症と生活習慣病の2面性を有しているので,歯科医療従事者による治療に加え,患者自身による自助努力が必要で,食習慣や生活習慣を見直し,不適切な場合には改善しなければならない.歯・口の健康を保つことが全身の健康の維持・増進に繋がり,QOLを高めることができる.

口腔細菌が関与する全身疾患

著者: 島内英俊

ページ範囲:P.375 - P.380

 口腔細菌が関与する全身疾患について,歯周病とのかかわりを中心に解説した.歯周病がリスクファクターとなる全身疾患としては,①心血管疾患(CHD),②脳血管疾患(CVD),③四肢末梢血管閉塞を生じるバージャー病,④糖尿病,⑤早産/低体重児出産,⑥誤嚥性肺炎,⑦骨粗鬆症,⑧掌蹠膿胞症,⑨高脂血症(血清脂質異常症),⑩肥満が挙げられる.またそのメカニズムとしては,①歯周病原菌や局所産生された炎症性サイトカインの血行への侵入,②CRPなど肝臓での急性期蛋白産生上昇が想定されている.

全身疾患に伴う口腔粘膜病変

著者: 森裕介 ,   槻木恵一

ページ範囲:P.381 - P.387

 口腔粘膜病変が部分症状として出現する全身疾患には,①感染症,②免疫・アレルギー・膠原病,③血液・造血器疾患,④その他の疾患など,様々なカテゴリーの疾患があり,この中にはわが国の特定疾患に定められているものや致死性のものが多く含まれている.口腔粘膜病変は可視的であり,かつ他覚的な情報が得られるという点で,これら疾患の早期発見・診断における重要な手がかりとなる.

う蝕の現状と新しいう蝕予防の展開

著者: 花田信弘

ページ範囲:P.388 - P.392

 小児う蝕が減少しているが,成人・高齢者のう蝕の減少は認められていない.小児う蝕はミュータンスレンサ球菌の早期感染の有無が発症に関係するが,成人・高齢者のう蝕では砂糖を含む食品の摂取頻度や就寝前の摂取などの生活習慣が発症に大きく関与している.また,成人・高齢者は生活習慣病に罹患し,一部の人はその合併症あるいは副作用としてう蝕が生じる.砂糖はう蝕の発症を通して,結果的に全身疾患に関与すると考えられる.

各論

口腔乾燥検査

著者: 王宝禮

ページ範囲:P.393 - P.396

 近年,歯科に口腔乾燥を訴える患者が増加している.その背景には,ストレスや薬物の長期投与などが考えられている.口腔乾燥症を診断するにあたり,問診,触診,口腔内審査にはじまり,検査が必要である.口腔乾燥症の検査には唾液によるガムテスト,サクソンテストがあり,自己免疫疾患を疑う場合には血清検査(自己抗体検査)および小唾液のときには病理組織検査が必要となる.

口臭検査

著者: 宮本尚

ページ範囲:P.397 - P.401

 口臭を主訴とする患者の来院理由としては,他人からの指摘,自分で気がついた,あるいは他人の仕草など様々である.このような患者の多くは,まず「臭いがあるかどうか」次いで「その臭いはどの程度のものなのか」「その原因は何に由来するのか」を,口臭測定器などを使った検査によって客観的な数値として知ることを望む.したがって,十分な問診を行った後,口腔内診査,官能検査,口臭測定器による測定,唾液流量の測定,舌苔付着量の測定などを行い,その原因が生理的口臭,口腔由来の病的口臭,全身由来の口臭,口臭恐怖のいずれに該当するかを診断することになる.

口腔領域の感覚評価

著者: 小林明子

ページ範囲:P.403 - P.410

 口腔領域の感覚評価は臨床診断に必要であるが,その報告は少ない.われわれは圧感受能,2点弁別閾,温冷覚,電流知覚閾値,味覚,VAS,マギル疼痛質問表,心理テストなど複数の検査を行って,できるだけ口腔感覚を詳細に客観的に評価すべく模索しており,その概要を報告する.

噛むことから始めるアンチエイジング

著者: 吉野文彦 ,   吉田彩佳 ,   杉山秀太 ,   小林杏 ,   李昌一

ページ範囲:P.411 - P.416

 アンチエイジング(抗加齢)医学とは,これまで医学が対象としていた「病気の治療」から,「健康な人のさらなる健康」を目指すプラスの医療で,「病的な加齢」を予防する医療である.今回の研究で,噛むことを含めた口腔機能を生かすことが病的加齢の原因である酸化ストレスを減弱させるという知見を得た.また,この口腔機能低下を招く口腔疾患である歯周病と顎関節症における酸化ストレスの関連性についても報告した.今後これらの疾患を防ぐ「歯の健康」を目指すアンチエイジング歯科医学を実践し,アンチエイジング医学に貢献する口腔内科学へ発展させたい.

メタボリックシンドロームと歯周病―口からはじまるカラダの健康法

著者: 佐藤聡

ページ範囲:P.417 - P.422

 歯周病は中高年に多く見られる慢性疾患として広く認識されている.歯周病では,直接的な原因である歯周ポケット内の嫌気性細菌と,これに対する宿主の感受性とのバランス,さらに遺伝的,環境的因子等の関与が明らかとされている.近年,慢性歯周炎とメタボリックシンドロームとの関連も報告されている.本稿では歯周病の病態とその発症のメカニズムを通し,近年明らかにされてきたメタボリックシンドロームとの関係を解説する.

インプラント治療の現状と新たな潮流

著者: 菅井敏郎

ページ範囲:P.423 - P.429

 オッセオインテグレーション(骨結合)の概念に基づいたインプラントの臨床応用が開始されて40年以上が経過し,その臨床成績の高いことからインプラント治療は歯科治療の一分野として確立されてきた.インプラント治療に際しての骨造成手術やティッシュエンジニアリングの応用,さらに手術支援装置などの開発によって,インプラント治療はより安全で確実なものへと発展している.

トピックス

ビスフォスフォネートと顎骨壊死

著者: 米田俊之

ページ範囲:P.431 - P.435

1.はじめに

 ビスフォスフォネート(bisphosphonates;BP)は,石灰化抑制作用を有する生体内活性物質ピロリン酸と類似の構造をもつ化合物である1).BPの最大の特徴は投与経路,投与方法にかかわらず,骨に沈着して骨ミネラルと強固に結合し,破骨細胞に選択的に取り込まれ,メバロン酸経路の阻害を介して破骨細胞にアポトーシスを誘導することにより骨吸収を抑制することである.すなわち,BPは破骨細胞による骨吸収を特異的に抑制する薬剤である.BPは骨粗鬆症,高カルシウム血症,骨パジェット病,線維性骨異形成症,骨形成不全症,臓器移植後に見られる骨量減少,無重力における骨量減少,透析中の患者に見られる腎性骨異栄養症などの様々な骨疾患の治療薬として広く使用されている.さらにBPは腫瘍随伴性高カルシウム血症,あるいは乳癌,肺癌および前立腺癌,多発性骨髄腫に見られる骨転移や骨関連事象(skeletal-related events;SRE)の予防や治療,また特記すべき効果として骨痛の軽減,さらに癌治療によって誘発される骨量減少(cancer treatment-induced bone loss;CTIBL)などに対しても有益な作用を示す1).BPはその特異な化学構造のため骨以外の臓器にはほとんど分布せず,長期間投与による副作用や合併症は食道粘膜炎以外には特に報告されていなかった1)

 近年,高カルシウム血症や骨転移の治療のために長期間にわたってBPの投与を受けている癌患者が,抜歯などの歯科治療を受けたあとに顎骨壊死(bisphosphonate-related osteonecrosis of the jaw;BRONJ)が誘発されるとの報告が見られるようになった2,3).現時点ではBRONJ誘発のメカニズム,特にBPとの関係は不明であり,ようやく病態,症状に関して一定の見解が定まりつつある段階で,適切な予防法,治療法はいまだ確立されていない.

 本稿では,このようなBRONJの現状,その発症メカニズムに関する考察および対応策について述べる.

唾液と腫瘍マーカー―唾液混入が再発乳癌マーカーCSLEX値に与える影響

著者: 蓑手哲 ,   清川巌 ,   藤田利之 ,   高山千香夫 ,   片山勝博

ページ範囲:P.436 - P.440

1.はじめに

 腫瘍マーカーは,血清診断において癌の早期診断の有用性には否定的であるものの,進行癌の診断と治療経過観察では癌の形態診断学を補う有力な補助診断法として臨床の場で活用されている.CEAやCA19-9,CA15-3のように多くの腫瘍マーカーは,糖鎖あるいは糖蛋白質を認識するモノクローナル抗体によって検出される.このように臨床的に重要な腫瘍マーカーではあるが,種類によっては,生理的変動要因として性差や妊娠・性周期やその他(血液型・喫煙等)があることが知られている1).例えば膵癌・胆道癌などの各種消化器癌で上昇するCA19-9では,加齢や性周期,妊娠などによる影響は受けない2).しかし,CA19-9は血液型物質Lewis a(Lea)にシアル酸が1個ついたシアリルLeaであるために,日本人に4~10%存在するLea陰性者においてLewis酵素活性の欠如からLea糖鎖が構築されず,胆癌患者においても陰性となることが報告されている3).さらにLe,Se遺伝子の影響を受け,遺伝子型によって正常値が異なることも知られている.

 腫瘍マーカーを物質により分類すると蛋白質,ペプチド,ステロイド,糖鎖などに分けられる.なかでも糖鎖抗原は汎用されているため,正常皮膚や汗に存在する糖鎖抗原の混入が偽陽性の影響を受けやすい.生体内に自然存在する糖鎖抗原として唾液が挙げられるが,唾液の混入により測定値に大きな影響を受ける腫瘍マーカーのあることが報告されている4)

唾液ストレス関連成分の迅速分析法

著者: 田中喜秀

ページ範囲:P.441 - P.449

1.はじめに

 現代社会では「ストレス」という言葉が浸透し,日常会話でも頻繁に使われるようになった.仕事や勉強,職場・学校・近隣での人間関係,家庭の諸問題等々がストレスの要因(ストレッサー)となり,多くの方々が精神的ストレスを感じているものと思われる.過度なストレスを受けている場合には,①各個人がストレスに対応できる能力を向上させる,②各個人をとりまく周囲の人(家族,友人,同僚など)がサポートしてストレスを軽減させる,③ストレス軽減に向けた社会的支援を利用するなどして,心身症,神経症,うつ病などに罹らないようにできるだけ未病の段階で防ぐことが望ましい.一方で,ストレスの全くない生活では活気も失われてしまい,心身ともに健康で豊かな生活を営むことはできない.つまり,ストレスは「人生のスパイス」といわれるように,適度なストレスの範囲内で上手く付き合うことが大事である.

 血液や尿などの生化学的検査は,病気の診断,治療,早期発見や予防にいまや不可欠な存在である.しかしながら,うつ病などの精神疾患,未病のストレス状態などを定量的に評価できる生化学的指標は確立されていない.血液中には生体のストレス応答時に放出される成分も含まれるが,例えば穿針採血自身がストレス負荷となり,真のストレス状態を正しく評価・診断できないことが予想される.そのうえ,ストレス評価は病気の診断・検査のように必ずしも病院で行うものではなく,日常生活の場(フィールド)で血液検査を簡単にできるとは言い難い.そこで,ストレスフリーで簡単に採取できる唾液が注目され,ストレス指標の研究や迅速分析を組み込んだ製品開発が進められている.本トピックスでは,まずは唾液ストレス関連成分について概説したうえで,製品化された唾液アミラーゼ計測装置と次世代の分析ツールとして期待されているラボチップ分析システムを中心に紹介する.

唾液クロモグラニンAによるストレス計測評価

著者: 中根英雄

ページ範囲:P.451 - P.454

1.はじめに

 ストレスを客観的,定量的に評価する方法は,精神科や心療内科をはじめとする臨床分野,公衆・労働衛生学などの基礎医学分野のほか,心理学や人間工学などの分野で求められている.そのための方法の1つとして,ストレスによって濃度が変化する体液中の物質の生化学計測法が確立されており,主にコルチゾールやカテコールアミンに代表されるストレスホルモンが測定の対象とされている.このうちコルチゾールは,視床下部―下垂体―副腎皮質軸のストレス反応に基づいて分泌され,血中から唾液に効率よく移行することが知られており,唾液中コルチゾールの測定にはELISA(enzyme-linked immunosorbent assay)などの簡便な方法が確立されている.唾液は,サンプリングに伴う苦痛がほとんどないためサンプリング自体がストレスとならないこと,頻繁なサンプリングが可能であること,さらに,サンプリング場所を選ばないため屋外での実験にも適していることなどの利点がある.しかしながら,後述の通り,自動車運転やコンピューター作業のような日常生活で生じるストレスを評価する際には,コルチゾールでは十分に検出できないことがある.一方,カテコールアミンは,交感神経―副腎髄質系のストレス反応を反映しており,ストレスに対する応答性はコルチゾールに優る.カテコールアミンを測定する検体としては,通常,血液または尿が使用されるが,唾液での測定は困難である.そのため,両者の長所を併せ持つ新規なストレス指標,すなわち,交感神経系のストレス反応を反映し,かつ,唾液で測定可能な指標物質を探索した.

 クロモグラニンA(CgA)は,主に副腎髄質クロム親和性細胞をはじめとする神経内分泌細胞に存在し,カテコールアミンの貯蔵や分泌に関与する可溶性蛋白質である1).また,ヒト唾液中には,CgAに特異的な配列を持ったペプチドに対する抗体と反応する蛋白が存在することが確認された2).そこで,唾液CgAのストレス指標としての特性を検討し,その結果,唾液CgAが精神的ストレスに対して高感度かつ特異性が高い指標であることを確認した2).本稿では,唾液CgAのストレス応答性に関するわれわれの検討と,最近の知見をふまえた唾液CgAの分泌メカニズムに関する考察,そして,唾液CgAによるストレス評価をめぐる最新の動向について紹介する.

糖アルコールとデンタルプラークコントロール

著者: 三宅洋一郎 ,   板野守秀 ,   矢納義高

ページ範囲:P.455 - P.458

1.はじめに

 デンタルプラークは現在バイオフィルムの1つとして扱われることが多くなった.もちろん,そのとおりなのであるが,バイオフィルムという用語が医・歯学の分野で一般的になるずっと以前の1960年代からデンタルプラークの研究は精力的に進められてきた.まだ不明な部分は多く残されてはいるが,バイオフィルムの中でも最もよく研究されているものの1つということができる.

 デンタルプラークはう蝕,歯周病の原因となるのみならず,誤嚥性肺炎等の全身疾患を引き起こす.デンタルプラークを原因とする様々な疾患の予防のためにはデンタルプラークコントロールが必須であるが,その概容についてまとめるとともに,糖アルコールを用いたデンタルプラークコントロールについて考えてみたい.

ラクトフェリンによる口腔症状の緩和

著者: 玉置幸道 ,   北村政昭 ,   清水友 ,   安藤邦雄

ページ範囲:P.459 - P.464

1.ラクトフェリンとは何か?

 ラクトフェリンは1939年に発見された,牛乳から単離された分子量約8万の糖蛋白質で,乳,涙など各種の分泌液および成熟好中球の顆粒に含まれている.特に,人の初乳はラクトフェリンを多量に含み,新生児は一日あたり7~10グラムのラクトフェリンを摂取している.個々の乳成分は単に栄養要求を充足するばかりでなく,多様な生理的機能性を持っている.哺乳類のなかで,人はラクトフェリンに対する依存度が非常に高いと推定される.

 ラクトフェリンは表1に示すように免疫賦活作用1),抗炎症作用2),鎮痛作用3),抗菌活性4),発癌予防5),癌による血管新生阻害6),脂質代謝改善7)などの多種多能な機能を有することが明らかとなり,免疫的寛容を導入する作用,癌ならびに慢性炎症により誘導される血管新生を阻害する作用,内因性および外因性のμオピオイド効果を増幅する作用など,多様な面を併せ持つ多機能蛋白質である.

今月の表紙 臨床微生物検査・4

ペニシリン耐性肺炎球菌

著者: 八田益充

ページ範囲:P.362 - P.365

 肺炎球菌はヒトの鼻咽頭に常在しているが,肺炎や気管支炎,副鼻腔炎,中耳炎などの広義の気道系感染症のほか,敗血症や髄膜炎などの致死的感染症の原因としても重要である.菌体の最外側にある莢膜多糖体の抗原性により,90の血清型に分類されている.

 グラム染色では,グラム陽性の双球菌あるいは短い連鎖状の球菌として認められる.肺炎球菌感染症におけるグラム染色の有用性は高く,良質の検体において,多数の多核好中球とともにこのような菌を認め,貪食像が確認できる場合,肺炎球菌による感染症の可能性が極めて高い.ある報告では,血液培養が陽性となった肺炎球菌性肺炎患者において,抗菌薬投与前の良質な喀痰のグラム染色の感度は80%であった(喀痰培養の感度93%)1).肺炎球菌による髄膜炎では,髄液グラム染色の感度は90%であった2).肺炎球菌性肺炎患者におけるグラム染色の一例(治療前,治療後)を図1に示す.

随筆・紀行

大相撲哀歌

著者: 屋形稔

ページ範囲:P.450 - P.450

 平成19年春頃まで大相撲は毎場所欠かさずテレビ観戦する習わしであった.これは遠く昭和10年頃のラジオ放送以来であるからファンといってよかったし,戦時下の旧制高校時代に東京の戸山学校で開かれた全国高校相撲大会には単身出場した思い出もあるくらいである.

 自分の書いたエッセイにも昔立浪三羽烏といわれた双葉山,羽黒山,名寄岩の思い出,近くは北の富士,琴錦,安芸の島をとりあげたが,そのなかで大相撲の醍醐味を考えるのは楽しみであった.ところが近年は外人力士の強さのみ目立つということばかりではなく,魁皇はじめ体格もよく力もあるわが国出身力士達が気魄も技もない不甲斐なさは目を蔽うばかりであった.ついには堪忍袋の緒が切れて春頃から一切視聴をうち切ってしまった.

シリーズ最新医学講座・Ⅰ 糖鎖と臨床検査・4

セレクチンと糖鎖

著者: 内村健治

ページ範囲:P.465 - P.471

はじめに

 リンパ球のリンパ節へのホーミングおよび白血球の末梢炎症部位への血行性移入は,1991年に提唱された多段階の分子シグナルによって厳密に制御されている(図1)1,2).すなわち,ターゲットとなる組織の血管内で血液中を流れる細胞は,セレクチンとその認識リガンドである細胞表面糖鎖の蛋白質-糖鎖の比較的弱い相互作用を利用し,血管内皮細胞上でローリングと呼ばれる現象を示し流速を減少させる(第1段階).その後,内皮細胞上に提示されたケモカインとローリング細胞上のケモカイン受容体が結合し,ローリング細胞に活性化シグナルが入る(第2段階).このシグナルがローリング細胞上のインテグリンを活性化し,内皮細胞上の細胞接着分子との蛋白質-蛋白質の結合を利用し強固な接着を引き起こす(第3段階).最終的に細胞は,血管内皮細胞層をすり抜けて血管外遊走し組織内へ移入する(第4段階).本稿では,この多段階モデルの最初のステップであるセレクチンとそのリガンド糖鎖について述べる.ケモカインのシグナル機構,およびインテグリンの活性化については他の総説3)に詳しい.

シリーズ最新医学講座・Ⅱ 臨床検査用に開発された分析法および試薬・4

共役酵素を用いる測定方法の開発

著者: 笠原靖

ページ範囲:P.472 - P.477

1.はじめに

 酵素を試薬に使用する生化学検査は酵素活性測定と物質測定に大別される.いずれも発色,UV,蛍光および発光などの最終検出に至る工程のなかで,2つ以上の酵素が使用される場合,これらの酵素を共役酵素と呼んでいる.

 体液中の物質を測定する例では,往時脚光を浴びた血清総コレステロールの酵素法測定1)がある.従来の化学反応と分離分析を要した煩雑な測定が,血清と3つの酵素,コレステロールエステラーゼ,オキシダーゼ,ペルオキシダーゼと発色試薬を混合するだけの操作で,わずか15分で結果を得る方法である.これを期に酵素を用いた検査法の操作手順の簡素化や精度の改善を試みる研究が注目された.メーカーの研究者もコレステロールの酵素法に,大いに刺激を受けたものである.

 ここでは物質測定ではなく酵素測定に共役酵素を用いた例について,われわれが開発した血清アンジオテンシン-1変換酵素(angiotensin-1 converting enzye:EC3.4.15.1;以下ACEとする)と,その実現のため合成した新基質と共役酵素から発展した血清コリンエステラーゼ(psudo cholineesterase:EC3.1.8;以下ChEとする)など,一連の酵素測定法を紹介したい.

海外文献紹介

レムナントリポ蛋白質コレステロールを測定するための均一系分析法の開発

著者: 鈴木優治

ページ範囲:P.387 - P.387

 トリグリセライドが豊富なレムナントリポ蛋白質(TRL)の定量は冠状動脈疾患の危険率評価および高リポ蛋白血症3型の診断に有用である.レムナント様粒状コレステロールの免疫分離操作は最近広範に評価されているが,日常検査におけるTRL測定の有効な方法は達成されておらず,前処理なしに血清および血漿のTRLコレステロールを測定できる分析法が必要である.著者らは中間密度リポ蛋白質(IDLs)を含むVLDLレムナント(VLDLR)分画に優れた選択性をもつ界面活性剤をふるいわけし,リポ蛋白質およびそれらの粒子径分布をゲル濾過により調べた.開発した簡便な均一系分析法の性能はHitachi-7170分析機により評価した.Polyoxyethylene-polyoxybutylene block copolymerはVLDLRおよびIDL分画に選択性を示し,コレステロールエステラーゼの存在下でIDL粒子からapo Eおよびapo C-Ⅲを除き,IDLsの粒子径分布を小さくした.ホスフォリパーゼDはカイロミクロンレムナントへの反応性を改善した.健康者の血清における本均一系分析法と免疫分離分析法との相関はr=0.962(n=160),y=1.018x-0.01mmol/lと良好であった.

内皮機能障害およびC-Reactive Proteinは本態性高血圧における糖尿病の危険因子である

著者: 鈴木優治

ページ範囲:P.396 - P.396

 2型糖尿病および本態性高血圧は冠状動脈疾患の主要な危険因子である.また,糖尿病患者や高血圧患者では,動脈硬化症に至る初期段階において内皮機能障害が証明されている.著者らは前腕内皮機能障害が本態性高血圧患者において2型糖尿病の独立予測因子であるかどうかについて研究した.研究では,初診時に2型糖尿病がなく,グルコース代謝に影響することが知られる薬剤を服用せず,高血圧治療を受けていない白人外来患者400人(男性183人,女性217人,年齢22~60歳)を被検者として登録した.内皮依存血管拡張はアセチルコリンの動脈内注入により検査し,インスリン抵抗性はHOMA(homeostasis model assessment)により見積った.追跡期間中に患者44人が2型糖尿病に進行し,発症率は2.4例/100患者-年であった.Cox多変量回帰分析による解析では,アセチルコリン刺激による前腕血液流量ピーク百分率の増加およびC-Reactive Proteinのみが2型糖尿病の独立危険因子になった.アセチルコリンによる血管拡張の応答障害は本態性高血圧患者の2型糖尿病への進行を予測する.

フィブリノーゲンBβ鎖の変異型は有望な膵炎の長寿命マーカー

著者: 鈴木優治

ページ範囲:P.401 - P.401

 著者らはフィブリノーゲンの遺伝的変種の研究中に対照者の1人におおよそ128Daの分子量減少を伴う新しいBβ鎖の変異型を見いだした.その血漿試料は1週間前に急性膵炎を経験した個人に由来したが,血清アミラーゼ活性は正常に回復していた.そこで,変異型フィブリノーゲンの構造および膵疾患との関係について調べた.フィブリノーゲンは膵アミラーゼが増加し(114~1,826U/l),膵炎が推定された9人およびアミラーゼ活性が<56U/lの対照者の血漿から分離した.フィブリノーゲンBβ鎖はHPLC法により分離し,質量分析法により直接分析した.トリプシンとCNBrによるペプチドmappingおよびトロンビン処理を用いて128Daの分子量減少の位置が特定された.獲得されたフィブリノーゲンBβ鎖変異はC末端グルタミン残基の欠損によっていた.精製フィブリノーゲンが膵carboxypeptidase Aとともに加温されると,同一の変異が生じた.このBβ鎖変異は,高アミラーゼ活性を示した個人のうちの3人では,Bβ鎖の80%を占めたが,対照では5%にすぎなかった.フィブリノーゲンは循環半減期が4日と長く,膵疾患のマーカーとして有望である.

Coffee Break

幼少より得意としたスキーと水泳(潜り)

著者: 佐々木禎一

ページ範囲:P.430 - P.430

 私が学生時代にスキー選手として活躍したのを知っている人は案外多いと思われるが,もう一つの得意なものとして水泳を挙げることができる.ただし後者は素潜りで獲物をとるという特技で,幼少時代より父親に教わったものである.以下スキー歴を簡単に,潜りに就いて具体的に披露してみようと思う.

 ○スキー歴:私が生まれ育った小樽は山坂が多く,スキーに適していた.小学校入学前から家の前の丘陵地で毎日スキーをし,小学1年の時先生の命令で小樽天狗山の旧コース(幅50m,最大斜度32°,全長300mの公認アルペンコース)を直滑降で滑ったことがあった.中学校時代は戦時中でもあり,体操・教練の時間は脚にゲートルを巻いての雪中行軍のみであった.戦後昭和22年北大スキー部にアルペン選手として入ったが,戦績は全国トップには届かなかった.それでも「全国学生選手権」で入賞,「全日本選手権」や「国体」にも出場し,「全日本選抜回転競技大会」では4位入賞を果たした.また当時北大スキー部にはジャンパーが少なく,先輩の命令で他人のスキーを借り,インカレⅠ部にも出場し,伝統ある「宮様大会」で,一度も練習することもなく飛び,青年組飛距離で入賞し,先輩や仲間および他選手を驚かせた.卒業後は永く楽しむスキーをして来たが,老境に入ってからは「年をとると骨折し易く,折れると治りにくい」と言ってスキーから足を洗った.

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あとがき

著者: 片山善章

ページ範囲:P.480 - P.480

 「健康日本21」は「21世紀における国民健康づくり運動」の通称であり,今まで以上に健康を増進し,発病を予防する「一次予防」に重点をおいて,一人ひとりの自主的な生活習慣の改善を促す,新しい国民健康づくり運動であることはよく知られている.病気の早期発見や治療にとどまらず,「すべての国民が健康で明るく元気に生活できる社会」の実現を図るものである.2010年までに到達すべき目安として,9分野(栄養・食生活,運動・身体活動,休養・こころの健康,たばこ,アルコール,歯の健康,糖尿病,循環器疾患,がん),70項目の具体的な目標が厚生労働省から示されている.

 歯の健康に関しては,う蝕(虫歯)および歯周病に代表される歯科疾患として取り上げられており,「その発病,進行により欠損や障害が蓄積し,その結果として歯の喪失に繋がるため,食生活や社会生活等に支障をきたし,ひいては,全身の健康に影響を与えるものとされている.また,歯および口腔の健康を保つことは,単に食物を咀嚼(そしゃく)するという点からだけでなく,食事や会話を楽しむなど,豊かな人生を送るための基礎となるものである.」と述べられている.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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