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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査52巻5号

2008年05月発行

雑誌目次

今月の主題 自己免疫疾患の診断 巻頭言

自己免疫疾患の診断―基礎から臨床への実現,そして今後の発展へ

著者: 大島久二 ,   田中郁子

ページ範囲:P.487 - P.488

 約30年前までは,自己免疫による病気といえば関節リウマチや全身性エリテマトーデスをはじめとする膠原病くらいしか一般臨床家の間では知られていなかった.しかし,基礎研究の領域で免疫の仕組みが徐々に解明されるようになってから,膠原病のほかにギランバレー症候群・重症筋無力症等の神経疾患,バセドウ病・Ⅰ型糖尿病等の内分泌疾患,類天疱瘡等の皮膚疾患をはじめ多くの疾患が自己免疫により引き起こされていることが明らかとなってきた.さらに,近年ではこれまで全く学問的にも人的にも交流のなかった免疫と骨のつながりも明らかにされ,『Osteoimmunology』という領域が生まれるまでになってきた.

 このなかで最も進歩してきた流れは,当初は実験室で基礎的にそれらの病態の自己免疫異常が証明されていたものが,すべての実地臨床家が検査できるようになってきたことである.これは基礎研究から臨床応用まで到達できた好例である.さらに,実験室のやり方からどこでも確実に行える方法が確立されるためには,蛋白の精製,実験器具・測定機器の進歩など多くの努力が払われており,それらすべての集大成として,われわれは現在わが国のどこにおいても質の担保された優れた検査をすることができている.

総説

自己免疫疾患のサイトカインネットワーク

著者: 針谷正祥

ページ範囲:P.489 - P.495

 サイトカインはお互いの発現や機能を調節しあうサイトカインネットワークを形成する.自己免疫疾患においては,このサイトカインネットワークの破綻が病態形成に重要な働きをする.本稿では,T細胞,B細胞,樹状細胞におけるサイトカインネットワークおよび,代表的な自己免疫疾患である関節リウマチ(RA)および全身性エリテマトーデス(SLE)におけるサイトカイン研究の進歩を解説した.免疫応答の方向性を決定するサイトカインの制御は抗サイトカイン療法という新しい治療法として臨床応用され,多くの難治性疾患に劇的な治療効果をもたらしている.

膠原病の免疫異常と自己抗体産生のメカニズム

著者: 髙崎芳成

ページ範囲:P.497 - P.503

 膠原病の発症には遺伝および環境要因が関与し,それらによって自己免疫が誘導され,結合組織に炎症が起こると考えられている.自己抗体の出現はこの膠原病の代表的な免疫異常の一つであるが,その産生にも両因子が互いに絡み合いながら深く関与している.環境因子としてはウイルスを中心とする感染症,化学・物理学的刺激,妊娠・出産やストレスなどがあり,遺伝的要因としてはMHC(major hisocompatibility complex)をはじめとする免疫応答の要となる分子や,種々の生体内物質の遺伝子異常の関与が示唆されている.個々の患者の有する遺伝的な素因のうえに,上述の環境因子が作用し,自己抗原に対する免疫応答が誘導されると考えられているが,最終的な自己抗体の産生には抗原の構造・機能に関連しながら抗原自体の特異的な刺激が重要な役割を演じていると考えられる.

膠原病における自己抗体

著者: 平形道人

ページ範囲:P.504 - P.510

 膠原病の患者血清中には種々の細胞成分に対する自己抗体が検出される.これらの自己抗体は特定の疾患や臨床症状と密接に関連し,診断,病型の分類,疾患活動性・治療効果の評価,予後の推測など臨床的に有用である.そのなかで,リウマトイド因子(RF)や抗核抗体(ANA)は特異性が低いものの高感度で,膠原病,リウマチ性疾患のスクリーニング検査として有用である.しかし,これらは健常者や症状が明らかでない患者血清にも検出され,その適切な対処法を理解しなくてはならない.また,膠原病各疾患あるいは特定の臨床像と密接に関連する「疾患標識(マーカー)自己抗体」の臨床的意義を正しく把握することは,膠原病の早期診断,適切な治療方針の選択につながる.

各論―抗体と疾患

抗CCP抗体の臨床的意義

著者: 北原加奈子 ,   川合眞一

ページ範囲:P.511 - P.517

 関節リウマチは,関節滑膜の慢性炎症を主病変とする自己免疫疾患であり,進行すると関節破壊に至る.その診断はアメリカリウマチ協会の分類基準に基づいて行われるが,早期例ではこの基準を満たさないことも珍しくない.リウマトイド因子(RF)は分類基準に唯一含まれる血清学的マーカーであるが,関節リウマチ以外の疾患でも陽性となりうる.近年,特異性の高い自己抗体として抗CCP(環状シトルリン化ペプチド)抗体が注目されている.抗CCP抗体検査は,関節リウマチの早期診断に加え,その予後予測にも役立つ可能性が示唆される.

抗デスモグレイン抗体と天疱瘡

著者: 石井健

ページ範囲:P.519 - P.524

 天疱瘡(pemphigus)は,皮膚,粘膜の水疱,びらんを主徴とする臓器特異的自己免疫疾患である.表皮細胞間の接着が障害された結果,表皮,あるいは,粘膜上皮内に水疱が形成される.天疱瘡患者血清中には,IgGクラスの表皮細胞膜表面に対する自己抗体が存在し,その標的抗原は,細胞接着分子であるデスモグレイン1(Dsg1)およびデスモグレイン3(Dsg3)である.近年,血清中の自己抗体検出を目的として,組換えDsg1,Dsg3蛋白を用いたELISA法が開発され,天疱瘡の診断,病型分類,病勢の評価に利用されている.

抗アミノアシルtRNA合成酵素抗体症候群

著者: 吉藤元 ,   三森経世

ページ範囲:P.525 - P.530

 皮膚筋炎・多発性筋炎(PM/DM)では病型分類が重要であるが,PM/DMにおいて多様な自己抗体がみられ,自己抗体により分類する試みがなされてきた.PM/DMに特異的な抗アミノアシルtRNA合成酵素(ARS)抗体は6種類報告されている.抗ARS抗体陽性例では筋症状のほかに間質性肺炎,レイノー現象,多発関節炎,発熱,機械工の手など共通の病像がみられる.また筋病変・肺病変ともにステロイド反応性は良好だが再燃しやすい.抗Jo-1抗体はELISAや二重免疫拡散法で測定できるが,その他の抗ARS抗体は主にRNA免疫沈降法が用いられ,研究室レベルでの測定にとどまっている.

Guillain-Barré症候群と自己抗体

著者: 柴田護 ,   森田陽子

ページ範囲:P.531 - P.539

 Guillain-Barré症候群(GBS)は感染後に引き起こされる急性ニューロパチーで,比較的頻度の高い神経免疫疾患である.一部の症例は,Campylobacter jejuni感染後に発症し,同菌のリポオリゴ糖と末梢神経に存在するガングリオシドとの間の分子相同性による自己抗体産生が原因と考えられている.本稿では,GBSの病態における抗ガングリオシド抗体の役割に関して最近の知見を中心に解説する.

甲状腺疾患と免疫異常

著者: 髙橋育克 ,   吉村弘 ,   伊藤公一

ページ範囲:P.540 - P.545

 甲状腺疾患において免疫異常が関与する病態には,橋本病(慢性甲状腺炎),バセドウ病,無痛性甲状腺炎が挙げられる.これらの疾患は急激な炎症や破壊を伴うことは少なく,激しい炎症所見を伴ったとしても可逆的かつ一過性であり,いわゆる膠原病とはかなり異なる病態を呈する.その診断は,甲状腺ホルモンの増減による症状,甲状腺腫の変化および甲状腺機能検査,自己抗体の測定により行われる.

糖尿病と自己免疫異常

著者: 竹田孔明 ,   谷澤幸生

ページ範囲:P.546 - P.550

 1型糖尿病の多くは膵ラ氏島に対する自己免疫反応により発症する.この自己免疫による1型糖尿病患者血清には,様々な膵β細胞自己抗原に対する自己抗体が認められ,臨床的に重視されている.また,その発症には遺伝因子が関与しており,特定のHLAとの相関が認められている.本稿では,1型糖尿病の診断,予知における自己抗体,HLAの有用性について解説する.また,1型糖尿病のサブタイプである緩徐進行1型糖尿病や1型糖尿病をはじめとした様々な自己免疫疾患を合併する多腺性自己免疫症候群についても考えてみたい.

話題

生物学的製剤:リウマチ治療の新時代を切り開く

著者: 金子敦史 ,   衛藤義人

ページ範囲:P.551 - P.555

1.はじめに

 2003年7月わが国初の関節リウマチ(rheumatoid arthritis;RA)に対する生物学的製剤,インフリキシマブ(レミケード®)が使用可能となり,RAの治療目標は疾患活動性の制御に限らず,骨関節破壊進行の抑制と可能な限り寛解を目指すものに変わった.これは単にインフリキシマブがRAに対するわが国初の抗サイトカイン製剤という特質だけでなく,RA全体の治療戦略を大きく変えるきっかけを創ったからである.同時期に市販された免疫抑制剤レフルノミド(アラバ®)は死亡例を含め薬剤性肺障害が予想外に多く発生し,“日本人には使用を慎重にすべき”となり衰退したが,その反面,インフリキシマブおよびエタネルセプト(エンブレル®)の2剤のTNF阻害薬の後押しができたことでメトトレキサート(methotrexate;MTX)の普及が著しい.1990年代に使用頻度が高かった古典的抗リウマチ剤〔conventional DMARD(disease modifying anti-rheumatic drug)〕のうち,注射用金剤(シオゾール®),ブシラミン(リマチル®),スルファサラゾピリジン(アザルフィジンEN®)に取ってかわってMTXが多く使用され,効果がなければ増量,さらには生物学的製剤との併用といった新しい治療戦略に変化したからである.このような動きを専門家の間では,不治の病と言われたRAという疾患に対し,寛解を現実のゴールにしたことから「関節リウマチのパラダイムシフト」と呼ぶ.

 また,新しいTNF阻害薬2剤の有効性と安全性のエビデンスは,世界にも類をみない全例市販後調査(postmarketing surveillance;PMS)1,2)という結果でまとめられた.インフリキシマブの5,000例,エタネルセプトの7,091例がすでに集計され公表されている.特にTNF(tumor necrosis factor)-αは生態防御に深く関与する分子であることから,TNF阻害薬は投与早期の感染症に関して注意喚起が必要(表)と報告されている.

 本稿ではTNF阻害薬の安全性については別稿に譲り有効性を中心に解説し,第1線の臨床医のRAの治療に対する考え方がどのように変わったか,そしてわが国のRA患者の6割近くの治療に当たっている整形外科医の新たな役割について述べる.

免疫と骨:骨免疫学Osteoimmunologyの幕開け

著者: 林幹人 ,   中島友紀 ,   高柳広

ページ範囲:P.556 - P.560

1.はじめに

 哺乳類の成体では免疫系の細胞が骨髄でつくられることは古くから知られており,また,関節リウマチ(rheumatoid arthritis;RA)などの自己免疫性疾患や血液系の疾患では,正常な骨の構成が失われうることは以前から報告がなされている1~3).これらのことからも“免疫”と“骨”という二つの生命の根幹となるシステムが相互に影響しあっていることは明らかであるが,具体的に免疫系が骨そのものに与える影響,または骨代謝系が免疫系に与える影響についての分子レベルでの研究は進んでいなかった.1972年,刺激を受けたヒト末梢血白血球は培養液中に破骨細胞制御因子を産生する,という報告がなされ4),この報告が免疫系と骨代謝系の間の関係を指摘する最初の証拠であった(後にIL-1βがこの因子に含まれることが示された5)).この発見の後,多くのサイトカインや受容体,シグナル伝達経路,転写因子が免疫系および骨格系において,ともに重要な役割を果たし,骨代謝系と免疫系が複雑に絡み合った関係にあることが次第に明らかになっていく.このような潮流のなか,2000年のNature誌上でChoiらはこの研究分野を「骨免疫学」と名づけ,免疫学と骨生物学の境界領域を位置づけたのである6).骨免疫学は免疫システムと骨代謝システムとの分子相互作用メカニズムの解明および両システムの共通制御メカニズムの理解に焦点をあてている.骨代謝にかかわる細胞の中でも破骨細胞は造血幹細胞から分化した単球/マクロファージ系前駆細胞に由来する,免疫系と骨代謝系をつなげる最も重要な細胞である7)

発症に先立った免疫異常

著者: 赤星透 ,   和田達彦

ページ範囲:P.561 - P.563

1.はじめに

 生体においては,外来性の異物が侵入すると免疫反応を介して異物を排除することにより,生体の恒常性を維持している.一方,自己成分は免疫学的寛容と呼ばれる機序により,免疫反応から攻撃を受けないように守られている.しかし,生体における免疫学的寛容が破綻すると,自己成分に対する免疫反応が惹起され,自己免疫疾患が発症する.自己免疫疾患では,T細胞などの免疫担当細胞の異常に加え,血清中に自己成分に対する様々な抗体(自己抗体)が出現する.自己抗体は必ずしも自己免疫疾患の症状や臓器障害を引き起こす原因物質ではない.しかし,血清中の自己抗体の存在は,自己免疫疾患の診断や予後判定などに重要な情報となる.近年,発症前の患者血清中にも自己抗体がすでに存在することから,自己抗体の測定は疾患の発症予測にも有用であるとの報告がなされている1,2).本稿では,発症に先立った代表的な免疫異常について解説する.

ループス腎炎の新病理分類

著者: 古城昭一郎 ,   佐田憲映 ,   槇野博史

ページ範囲:P.565 - P.568

1.はじめに

 全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus;SLE)は原因不明で,多臓器に免疫複合体が沈着することで臓器障害を起こす自己免疫疾患である.膠原病のなかでは関節リウマチに次いで多く,2002(平成14)年度末の厚生労働省特定疾患登録患者数は52,452人であり,わが国における罹患率は10万人あたり8~10人と推定されている.男女比は1:9~10と圧倒的に女性に多く,発症年齢は20~40歳代であることが多い.

 SLEが原因となって生じる腎病変を総称してループス腎炎といい,SLE患者の50~80%に合併する.日本透析医学会の報告によるとわが国ではSLEを原疾患として透析導入されている患者数は毎年300人程度認められており1),ループス腎炎はSLE患者の予後を大きく左右する病態の一つである.臨床症状は多彩で無症候性の血尿のみのものからネフローゼ症候群や急速進行性糸球体腎炎を呈するものまで様々であり,なかには腎炎としての臨床徴候を示さず腎生検を行うとループス腎炎の組織所見を認める症例もあるが,一般的には尿異常もしくは腎機能低下があれば腎生検を行い,組織障害の程度を評価し治療方針を決定することになる.組織所見としては糸球体病変が主であり,免疫複合体がメサンギウム領域・内皮下・上皮下などに沈着することにより炎症が惹起されるが,尿細管・間質病変・細小動脈病変を伴うことも少なくない.

 以前からループス腎炎の分類としてWHO分類などが提唱されてきたが,2003年にInternational Society of Nephrology/Renal Pathology Society(ISN/RPS)の後援により新分類が提案され,約4年が経過した.

 今回は新分類の解説をしたうえで,新分類に対する現在までの文献的な評価および当科での新分類による予後の検討について述べる.

自己免疫疾患と肺高血圧症

著者: 片山雅夫

ページ範囲:P.569 - P.572

1.はじめに

 肺高血圧症(pulmonary hypertension;PH)は肺動脈圧が異常に高い状態であり,WHOの定義では「右心カテーテル法による平均肺動脈圧が安静時に25mmHg以上のもの」とされている.PHは進行すると右心不全をきたす予後不良の疾患と捉えられている.PHは稀な疾患と考えがちだが,自己免疫疾患の代表的疾患である膠原病においては高率にPHを合併することが知られている.欧米ではlimited typeの強皮症(systemic sclerosis;SSc)で最も発現頻度が高く,予後も悪いことが報告されている.一方,日本においては混合性結合組織病(mixed connective tissue disease;MCTD)で合併率が高く,MCTDにおいてPHは予後を規定する最大の合併症である.PHは膠原病のみでなく,発生頻度に差はあるが広く自己免疫疾患に伴ってみられることが知られている.しかし,誌面の都合上,本稿では膠原病性PHを中心にその診断と治療について概観していきたい.

今月の表紙 臨床微生物検査・5

薬剤耐性インフルエンザ菌

著者: 矢野寿一 ,   平潟洋一 ,   賀来満夫

ページ範囲:P.484 - P.486

 インフルエンザ菌は肺炎などの市中呼吸器感染症の主要な原因菌の一つであり,急性中耳炎・副鼻腔炎や小児化膿性髄膜炎を起こす菌としても重要である.近年,β-ラクタム系薬のみならず,キノロン系薬など他系統の抗菌薬にも耐性を示す,多剤耐性のインフルエンザ菌が分離され始めている.

シリーズ最新医学講座・Ⅰ 糖鎖と臨床検査・5

癌関連性糖鎖抗原―CA19-9を中心に

著者: 宮崎敬子 ,   井澤峯子 ,   神奈木玲児

ページ範囲:P.573 - P.583

はじめに

 単クローン抗体の技術は未知の抗原の研究にとって画期的な方法であった.従来の多クローン性抗体を用いた研究では,抗原の純度が抗体の良否を決めていたが,単クローン抗体の作成技術の導入により,純品の抗原が必ずしも必要でなくなり,極端な場合には細胞全体を抗原に用いて研究を進めることが可能となった.例えば,癌細胞を免疫して多数の単クローン抗体を得て,その中から癌細胞とは良く反応するが非癌正常細胞とは反応しない抗体を選択すれば,その単クローン抗体は「癌関連抗原」を検出する抗体と見なすことができる.このような方法を用いた研究から次々と新しい癌関連抗原が見いだされたが,その多くが糖鎖であったことから,糖鎖の癌関連抗原としての重要性が広く認識されるに至った.

シリーズ最新医学講座・Ⅱ 臨床検査用に開発された分析法および試薬・5

血清中無機質の酵素反応を利用した測定法

著者: 片山善章

ページ範囲:P.585 - P.593

はじめに

 現在,電解質の日常検査法として,Na,K,Clはイオン選択電極法,Caは化学的比色法,酵素法,Mgは化学的比色法,酵素法,無機リン(inorganic phosphorus;IP)は化学的比色法,酵素法が利用されている.また,微量金属の鉄,銅,亜鉛などはキレート発色法が利用されている.

 最近,これらの電解質の酵素法が報告されているので,それらの測定原理を中心に述べる.また,電解質,微量金属の測定可能な酵素反応を示す.

海外文献紹介

遊離脂肪酸とインスリンは1型糖尿病者の心筋の基質代謝を調節する

著者: 鈴木優治

ページ範囲:P.495 - P.495

 正常者の心筋層は血漿基質レベルおよびホンモン環境に適合して基質代謝の優先順位を変化させるが,1型糖尿病の心筋層はエネルギーを遊離脂肪酸(free fatty acid;FFA)代謝に強く依存している.非糖尿病者における心筋のグルコース(Glu)利用とFFAの利用,酸化および貯蔵に影響する条件が1型糖尿病においてこれらの状態を変化させるかどうかは不明である.著者らは1型糖尿病者の心筋GluおよびFFA代謝が血漿FFAおよびインスリン(Insu)レベルの変化により操作されるという仮説を試験するために,PET(positron emission tomography)を用いて非糖尿病者および1型糖尿病者3グループの心筋酸素消費,GluおよびFFA代謝を測定した.1型糖尿病者は対照者よりも酸素消費が高く,心筋Glu利用速度/Insuが低かった.また,Glu利用は血漿Insuの増加およびFFAの減少とともに増加した.心筋のFFA利用,酸化およびエステル化速度は血漿FFAの増加とともに増加した.血漿Insuの増加は心筋FFAのエステル化速度を低下させたが,エステル化FFAの割合(%)を増加させた.

低身体活動はFTO rs9939609の体脂肪蓄積への影響を強める

著者: 鈴木優治

ページ範囲:P.524 - P.524

 脂肪量および肥満に関連したFTO遺伝子の変異がBMIおよび肥満と関係することが示されている.著者らはFTO変異の肥満,2型糖尿病および関連遺伝子型を含む代謝特性への影響について検討した.FTO rs9939609の多型性を5研究グループからなる約1.8万人において解析した.2型糖尿病群3,856人および正常なグルコース耐性対照群4,861人の検討では,rs9939609 minor A-alleleは2型糖尿病と関係があった(odds比1.13).この関係はBMIの調整によりなくなった(odds比1.06).中年者17,162人では,A-alleleは過重体重(odds比1.19)および肥満(odds比1.27)と関係があった.さらに,体重,ウエスト,脂肪量および空腹時血清レプチンのような肥満関連の量的特性はA-alleleキャリアにおいて著しく上昇していた.FTO rs9939609遺伝子型と身体活動には相互作用が認められ,身体的不活発の同形接合体のリスクであるA-alleleキャリアは同形接合体T-alleleキャリアに比べてBMIが1.95±0.3kg/m2増加していた.

呼気凝縮物中のH2O2定量の高感度化学発光法

著者: 鈴木優治

ページ範囲:P.594 - P.594

 H2O2は酸化剤と抗酸化剤が不均衡となる酸化ストレスの推定上のバイオマーカーである.著者らは呼気凝縮物中のpicomol/lレベルのH2O2を高感度,選択的,簡便,迅速に定量する新規のフローインジェクション化学発光(FI-CL)法を開発した.このFI-CL法は他の金属イオンや西洋ワサビのペルオキシダーゼ(horse radish peroxidase;HRP)に干渉されない,複合体K5[Cu(HIO6)2]により触媒されたアルカリ媒体中において,低濃度のルミノール(10-7mol/l)が低濃度のH2O2(<10-8mol/l)により酸化される反応に基づいている.至的条件下では,1.0×10-10~1.0×10-8mol/lの範囲のH2O2が定量でき,その検出限界(3σ)は4.1×10-11mol/lであった.5mmol/l H2O2の相対標準偏差(RSD)は3.2%,添加回収率は97.8~102.0%であった.本法でリウマチおよび健康なボランティアの呼気凝縮物中の痕跡量のH2O2を直接定量したところ,リウマチ群(n=11)と健康者群(n=11)のH2O2濃度には統計学的有意差が認められ,前者のほうが高値であった.9時30分~16時30分にかけてのH2O2の日内変動は14時30分頃にピークを迎え,女性よりも男性のほうが高値であった.

Coffee Break

30回以上も続いている“いとこ会”

著者: 佐々木禎一

ページ範囲:P.518 - P.518

 わが家の母方のルーツは,既述のように「小林家」という道南乙部村の旧家である〔本誌52巻(2008年)1号52頁参照〕.その後,この一族の兄弟,姉妹ならびにその子供達は小林と名のり,一方ここから佐々木家その他に嫁いだ家族側もかなりの人数になり,ともに道央や道南を中心に広く散らばって住んでいる.

 正確な記録はないが,30余年位前に各地にいるこれら末裔の中から,「佐々木家・小林家いとこ会」をやろうとの意見が出て,それ以来毎年札幌,三笠/夕張を会場に,このユニークな集いが持たれ,すでに30余回に及んでいる.最近は近隣の温泉に1泊しての集いが多くなり,お互いの幼少時代の想い出話や,親戚一同の近況,そして序々に老境に入った会員の現況報告をし,また幹事が趣向を凝らしたゲームに夢中になり,昔の盆踊りの輪までできる盛況さであった.

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あとがき

著者: 坂本穆彦

ページ範囲:P.596 - P.596

 免疫機能が異常に亢進すると,過敏症やアレルギーが引き起こされる.また自己の組織に向けられた異常な免疫反応によっては,自己免疫疾患が招来される.ところで,5月の候は前者に関連した国民病である花粉症がようやく下火に向かうが,患者のひとりである筆者もほっとしているところである.他方,自己免疫疾患の発症と季節との関連はあまり取りざたされていないようである.

 自己免疫疾患にはグレーブス(バセドウ)病,グッドパスチャー症候群のように人名が冠されたものがいくつかある.このなかで,日本人の名にちなんだ橋本病は,国際的にも十分に定着した病名となっている.症候群には人名を用いるのは一般化しているが,○○病では人名を避ける流れにある.高安病や木村病などには以前の面影はない.そのなかにあって,臓器特異的自己免疫疾患の代表として橋本病の名がある.橋本病は,人名のついた病名では世界中で最も患者数が多い疾患と思われる.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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