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雑誌目次

論文

臨床検査52巻8号

2008年08月発行

雑誌目次

今月の主題 自然免疫と生体防御レクチン 巻頭言

自然免疫と生体防御レクチン

著者: 松下操

ページ範囲:P.839 - P.840

 原始的な免疫系は今日の無脊椎動物に見られるように,マクロファージのような貪食機能をもつ細胞による非特異的な排除機構が主であったと想像される.そのような免疫系は進化して,高次に統合されたヒトの免疫系に至った.原始的な免疫系と比較すると,進化した免疫系の大きな特徴は特異性をもつことである.特異性は遺伝子再構成の結果作られる抗体やT細胞受容体の多様性から生まれる.抗体は特異的な認識分子として働き病原体に結合する.ヒトには原始的な免疫系と進化した免疫系の両方が存在する.前者が自然免疫,後者が獲得免疫であり,それぞれが働く時期に違いがある.感染初期には自然免疫が即座に応答し,ここでは好中球,マクロファージなどの食細胞やNK細胞などが関与する.抗体産生やT細胞の免疫応答が起こる獲得免疫は,病原体の感染後数日を経てから作動する.自然免疫には抗体のような高い特異性はないが,認識分子として働くパターン認識蛋白質と総称される蛋白質が存在する.病原体の表面には,細菌のリポ多糖,ペプチドグリカン,リポテイコ酸や真菌のβ-グルカンなどのように微生物に特有の成分があり,病原体関連分子パターン(pathogen-associated molecular patterns;PAMPs)と呼ばれる.これらを認識する蛋白質がパターン認識蛋白質である.

 レクチンは動植物や細菌など生物に広く見いだされる糖結合性蛋白質であり,動物レクチンの機能は発生・分化・免疫など多岐にわたっている.自然免疫に働く動物レクチンが近年次々と発見され,また重要性が明らかにされたことから,これを「生体防御レクチン」と呼ぶことが2000年に提唱された(特集 自然免疫を担う生体防御レクチン.蛋白質核酸酵素45巻5号2000).コレクチン,フィコリン,ガレクチン,ペントラキシンなどがこの範疇に含まれる.これらの生体防御レクチンはそれぞれが特徴的な構造をもつ蛋白質のファミリーである.例えば,コレクチンはコラーゲン様構造と糖鎖認識ドメインを併せもつ蛋白質のファミリーであり,マンノース結合レクチン(mannose-binding lectin;MBL),肺サーファクタント蛋白質(SP-A,SP-D)などの蛋白質が含まれる.また,フィコリンはコラーゲン様構造とフィブリノーゲン様構造をもつ蛋白質ファミリーで,ヒトではL-ficolin,H-ficolin,M-ficolinがある.生体防御レクチンはパターン認識蛋白質であり,それぞれが特有の結合性をもち,病原体表面のPAMPsである糖鎖に結合する.重要な点は,各々の生体防御レクチンは結合可能な糖鎖をもつ多種多様の病原体を認識できることである.このことは,ある病原体を複数種類の生体防御レクチンが共通に認識しうることを意味している.

総説

マンノース結合レクチン(MBL)とフィコリン(ficolin)の構造と機能

著者: 遠藤雄一 ,   松下操 ,   藤田禎三

ページ範囲:P.841 - P.850

 MBLとフィコリンは,N末端側にコラーゲン様ドメインをもつ多価レクチンであり,自然免疫において感染微生物などの表面糖鎖を認識する.MBLとフィコリンの糖認識は,それぞれC末端側に存在するCRD(糖鎖認識ドメイン)およびフィブリノーゲン様ドメインが担っている.MBLとフィコリンによるパターン認識は,両者と複合体を形成しているセリンプロテアーゼMASPを活性型にし補体系を活性化する.この経路は補体レクチン経路と呼ばれる.

肺サーファクタント蛋白質(SP-A,SP-D)の免疫調節機能

著者: 黒木由夫 ,   山添雅己 ,   澤田格 ,   有木茂

ページ範囲:P.851 - P.859

 肺サーファクタントは,肺胞Ⅱ型細胞で合成され,肺胞腔に分泌される脂質蛋白質複合体で,その物理化学的表面活性作用により肺胞虚脱を防ぐことにより安定な呼吸を維持する生理活性物質である.肺は常に外界に開放しているので,肺サーファクタントによる生体防御機能は重要である.肺サーファクタント蛋白質のSP-AとSP-DはC型レクチンのコレクチンに属しており,レクチンドメインとコラーゲン様ドメインを有するハイブリッド分子で,肺における自然免疫機能を担っている.in vivoおよびin vitroの研究により,肺コレクチンによる免疫調節機能の分子機構が明らかになってきた.

新規コレクチンCL-L1,CL-P1,CL-K1の構造と機能

著者: 鈴木定彦 ,   大谷克城 ,   張成宰 ,   本村亘 ,   若宮伸隆

ページ範囲:P.861 - P.869

 コレクチンは動物界において幅広く保存されているコラーゲン様構造を有する動物C型レクチンであり,自然免疫のキープレイヤーとして活躍していることが知られている.最近,従来の遺伝子クローニング戦略では得ることができなかった新しいコネクチンファミリー蛋白質(新規コレクチン)が,リバースジェネティックスを活用したアプローチによりヒト組織からクローニングされた.本稿では,新規コレクチンのクローニングと構造および機能に関する最新の知見を紹介する.

ガレクチンと免疫調節

著者: 中村隆範 ,   西望 ,   東海林博樹

ページ範囲:P.871 - P.879

 ガレクチンはすべての脊椎動物に存在して,グラム陰性菌リポ多糖(LPS)など病原体を認識して感染菌を排除する機能ももつが,基本的には自己がもつ糖蛋白質や糖脂質の糖鎖を認識する糖結合蛋白質(レクチン)に属する.最近,ガレクチンは自然免疫細胞(顆粒球,マクロファージ,肥満細胞)などに直接作用して自然免疫機能を高めるとともに,T細胞の分化や機能調節を通じて獲得免疫機能に関与することがわかってきた.

各論

MBLと感染症,自己免疫疾患

著者: 塚本浩 ,   堀内孝彦

ページ範囲:P.881 - P.886

 マンノース結合レクチン(MBL)は,補体レクチン経路の活性化やオプソニン作用を介して免疫系と深く関わっている.MBL欠損症はすべての人種に5~10%存在し,免疫抑制状態にある個体では細菌をはじめとした感染症の危険因子となり,またMBL欠損症と全身性エリテマトーデスとの関連が報告されている.一方,血清MBL高値は,抗酸菌への感染や潰瘍性大腸炎と関連が報告されている.

細菌に対する感染防御におけるフィコリンの役割

著者: 高橋信二 ,   青柳祐子

ページ範囲:P.887 - P.892

 フィコリン-MASP複合体は,抗体の関与なしに補体系を活性化するレクチン経路の異物認識分子である.L-ficolinとH-ficolinは血液中に認められ,M-ficolinは好中球や単球の分泌蛋白質である.L-ficolinは試験管内で,臨床上重要なStaphylococcus aureusStreptococcus agalactiaeに結合し補体系を活性化することができる.フィコリンは,特に獲得免疫が不完全な新生児や乳児において感染防御に重要な役割を担っている可能性が示唆されている.

補体レクチン経路の腎疾患への関与

著者: 大井洋之

ページ範囲:P.893 - P.898

 第3の補体活性経路としてレクチン経路の存在が明らかとなり,腎疾患の病態においてもこの経路の関与が証明されている.腎炎ではIgA腎症や紫斑病性腎炎,また溶蓮菌感染後急性糸球体腎炎などの感染症に合併した腎炎において証明されている.慢性腎不全や維持血液透析患者においては血清MBLの変化が報告されている.またMBL欠損者が血液透析患者や健常人に同程度存在していることがわかっている.腎疾患におけるこの経路の病態や臨床像の位置付けについてはさらに検討が必要と思われる.

間質性肺炎と肺サーファクタント蛋白質

著者: 高橋弘毅 ,   千葉弘文 ,   大塚満雄

ページ範囲:P.899 - P.903

 間質性肺炎の診断は画像所見に依るところが大きい.しかし,約10年前に肺サーファクタント蛋白質SP-AとSP-Dが臨床検査法として臨床現場に導入され,診断精度は明らかに向上した.多臓器に普遍的に存在するLDHと異なり,SP-AとSP-Dは肺で主に産生されるため,血清値の上昇は肺病変の存在と進行を直接的に反映する.これらの特異的バイオマーカー検査が本疾患の早期発見,治療効果判定,予後予測に役立つ場面が増えつつある.また,画像診断と組み合せて使用することにより,診断効率が上昇することも知られている.さらに新知見として,SP-C遺伝子変異で発症する家族性間質性肺炎,自己抗体の出現と関連し悪化する間質性肺炎が明らかになった.

炎症におけるpentraxin3の役割

著者: 奥谷大介

ページ範囲:P.905 - P.910

 pentraxin(PTX)3は同じ仲間であるC反応性蛋白質(CRP)と同様に免疫や炎症において重要である.PTX3は炎症に反応して,血管内皮細胞やマクロファージなどの全身の細胞より産生されるため,肝臓のみで産生されるCRPと異なり,局所的な感染や炎症に敏感に反応する.正常な状態では,血液中のPTX3レベルは極めて低いが,炎症が起こるとそのレベルは急激に上昇する.臨床においてPTX3の血清レベルが特定の炎症性疾患の重症度,治療や予後などと相関すると報告されている.

話題

最近の補体測定法

著者: 畑中道代 ,   北野悦子 ,   北村肇

ページ範囲:P.911 - P.916

 補体の測定には,測定内容によって,補体活性を測定する方法と,補体蛋白としての濃度を測定する方法の2つに分けることができる.前者はさらに活性化経路参加成分を一括して測定する方法と単独の補体成分の活性を測定する方法がある(表1).

相補性ペプチドによる炎症の制御

著者: 今井優樹 ,   岡田則子

ページ範囲:P.917 - P.920

1.はじめに

 生物は,細菌やウイルスなどの微生物の体内への感染・侵入に対して,補体やToll-like receptor(TLR)に代表される自然免疫系の生体内防御機構を活性化させ,それらを体内からすばやく排除する仕組みを備えている.自然免疫がひとたび病原体の感染を感知すると,免疫応答に必須な炎症性サイトカインが産生され,生体内で炎症反応を引き起こし,免疫系にかかわる細胞を,感染局所に動員して病原体を排除する.しかし一方で,これらの防御反応の異常亢進により,アレルギーや自己免疫疾患が誘発されたり,重症化した場合には敗血症,播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation;DIC),多臓器不全(multiple organ failure;MOF)などの全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndrome;SIRS)病態へと進展する.現在まで,様々な敗血症の動物実験モデルが作られ,またいくつもの薬剤の臨床試験が行われてきたが,いまだに臨床の場における敗血症などの過剰な炎症反応に起因する致死的病態を改善する薬剤は登場していない.

 本稿では過剰な炎症反応を制御することを目的に創出された相補性ペプチド(complementary peptide)について概説するとともに,相補性ペプチドの今後の可能性について述べる.

人工糖脂質を用いたレクチンの糖鎖結合性測定法

著者: 高崎(松本)綾乃 ,   山口(藤田)陽子 ,   中田宗宏

ページ範囲:P.921 - P.925

1.はじめに

 細胞表面には,蛋白質や脂質と結合した形で様々な糖鎖が存在している.レクチンなどの糖鎖認識分子は,この糖鎖と相互作用することで,生体を組織する細胞集団の形成や,細菌やウイルスなどの感染,また,異物表面の糖鎖を認識して排除する自然免疫などといった様々な生物学的イベントに関与している1,2).このような糖鎖認識分子と糖鎖の役割を理解するためには,その相互作用を調べることが重要である.レクチンによる糖鎖認識を調べるためには,糖鎖を固相に固定化する必要があるが,糖鎖それ自体は高い親水性をもつため,そのままでは固定化が困難である.本稿では,糖鎖に脂質を化学的に結合させることで固定化を可能とした人工糖脂質の作製と,それを用いたレクチンの糖鎖結合性測定法について述べる.

今月の表紙 臨床微生物検査・8

アシネトバクター・バウマニー

著者: 遠藤史郎

ページ範囲:P.836 - P.838

 Acinetobacter属はacineto=無動性の,bacter=桿菌という意味をもつ,好気性のグラム陰性短桿菌である(図1).大きさは1.0~1.5×1.5~2.5μmであり,生化学的性状としては,カタラーゼ陽性,オキシダーゼ陰性のブドウ糖非発酵菌である.ドリガルスキー改良培地(BTB培地)などでよく発育し,コロニーはスムーズでやや濁った印象があり,ほかの腸内細菌科のコロニーよりもやや小さいコロニー(図2)を形成することが多い1)Acinetobacter spp.は通常,環境や土壌に広く生息し,病院内の環境(人工呼吸器,人工透析器,空調システム,床など)に加えて家庭の洗面台など湿潤な室内環境からも検出され,上気道,消化管,尿路,膣などにも定着するといわれている.したがって,しばしば健常人の皮膚,特に湿った部位である腋窩,会陰部,足趾間などに常在しており,Larsonらの病院職員の手の常在菌に関する報告によると最も多く検出されたグラム陰性菌はAcinetobacter属であったと言われている2)

 現在,Acinetobacter属には20以上の種(species)が含まれている3).報告によって若干頻度は異なるものの,臨床材料から最もよく検出されるのはAcinetobacter baumannii(genomic species 2)であり,検出されたAcinetobacter属の約70%を占め,喀痰などの呼吸器由来の検体からの検出が約半数を占める4,5).特に,髄液ではNeisseria meningitidis,喀痰ではHaemophilus influenzaeとの鑑別が重要であると言われている6)

シリーズ最新医学講座・Ⅰ 糖鎖と臨床検査・8

癌グライコーム研究へのレーザーマイクロダイセクション法の応用と大腸癌組織に見いだした新規な酸性糖脂質糖鎖構造

著者: 是金宏昭 ,   宮本泰豪 ,   谷口直之

ページ範囲:P.927 - P.934

はじめに

 真核生物における蛋白質の多くは,その機能発現に生合成後の修飾およびプロセッシングが必須であることが明らかになってきている.病態形成をはじめとした様々な生命現象を分子レベルで理解していくにはゲノム中心の研究に加えて,これを補う蛋白質翻訳後修飾の研究が必要不可欠である.リン酸化,メチル化,硫酸化,ニトロ化,ニトロシル化など,多様な翻訳後修飾反応の中で,糖鎖付加反応は最も高頻度な修飾形態の一つであることが知られている.細胞の糖鎖構造は生理的状態や病態に依存して質的および量的に大きく変動する.例えば癌化に伴う細胞表面糖鎖の癌性変化は古くからよく知られており,これらの癌関連糖鎖の中にはCA19-9として知られるシアリルLea糖鎖のように,すでに腫瘍マーカーとして実地医療で利用されているものもある.近年,盛んになっている臨床癌試料を用いた糖鎖の発現プロファイリングの試みは,新規腫瘍マーカーの開発や治療標的分子の発見につながる可能性がある.しかし,臨床癌試料を用いて糖鎖プロファイリングを行う際に,注意,解決しておかねばならない点は多い.本稿では癌グライコーム研究において,今後,盛んに利用されると予想されるレーザーマイクロダイセクション(laser microdissection;LMD)法の有用性についてと,われわれが大腸癌の糖脂質構造解析の過程で発見した新規の酸性糖脂質構造について概説したい.

シリーズ最新医学講座・Ⅱ 臨床検査用に開発された分析法および試薬・8

組換え蛋白の検査への応用:標準物質,抗原,変異酵素など

著者: 松尾雄志 ,   新井秀夫

ページ範囲:P.935 - P.944

はじめに

 遺伝子工学の基礎となる分子生物学が一部の方々に敬遠されている原因の一部に用語の問題があるように思います.原語をそのまま理解する習慣が希薄なことも理由の一つでしょう.英(米)語が幅を利かせている遺伝子工学分野のサイエンスであるMolecular Biologyを,「日本語にならない言葉を使っている」という理由で無視して理解することを放棄しておられる老学者もおられます.もとより独断と偏見ですが,無理やり日本語にすることで禍根を残すよりも,原語そのままか,それに近いカタカナ表記がよいのではないかとも思っています.いずれにしても英語圏の評価を受けないと日本人自身が評価しない(できない)ので,特定の分野のサイエンスでは早い時期からこれを前提とした教育をしないと,後塵を拝することが多くなるのではないでしょうか.もとより日本語学者のお叱りを受けることを覚悟の上です.ということで,筆者が初めて耳にしたとき,紛らわしいと感じていた言葉を最初に説明させていただきます.また,例外はありますが,カタカナ表記(原語)というスタイルを取らせていただきます.

編集者への手紙

Epstein-Barrウイルス検出のための簡易なin situ hybridization法

著者: 引野利明

ページ範囲:P.945 - P.946

1.目的

 Epstein-Barr(EB)ウイルス感染はバーキットリンパ腫をはじめとして,上咽頭癌,日和見リンパ腫,胃癌など多くの疾患に関与していることが明らかとなってきており1),EBウイルス感染の有無を調べる検査法は今後さらに重要性が増すと思われる.今回,病理組織材料を対象としたEBウイルス検索に繁用されているin situ hybridization(EBER-ISH)法を従来法以上に簡略化した方法でもEBウイルスが明瞭に検出できたため,その方法を紹介する.

海外文献紹介

肝細胞増殖因子は肺癌細胞におけるアポトーシス誘導因子の下方調節を介してシスプラチン抵抗性を高める

著者: 鈴木優治

ページ範囲:P.850 - P.850

 著者らはこれまでに肝細胞増殖因子(hepatocyte growth factor;HGF)がしばしば病巣組織において過剰発現し,HGFレベルが腫瘍ステージおよび予後の不良と正相関することを見いだした.HGFは上皮細胞および癌細胞の成長と移動を仲介する肺栄養因子であり,著者らの報告した結果はHGFが腫瘍増殖,侵潤,肺腺癌の進行に不可欠な役割を担っていることを示唆している.本研究では,アポトーシス誘導因子(apoptosis inducing factor;AIF)の遺伝子発現および肺腺癌細胞におけるシスプラチン感受性に及ぼすHGFの影響について検討した.AIFの発現は免疫組織化学および免疫蛍光顕微鏡を用いて測定した.HGFの添加はAIFの発現を抑制し,シスプラチン抵抗性を高めた.その影響はHGF受容体およびその下流の影響物質,FAK(focal adhesion kinase)を介してなされた.FAK遺伝子欠失はAIFの発現および薬剤感受性を高めた.一方,FAK遺伝子の再導入は薬剤抵抗性を回復させた.これらの結果はHGFがFAKの活性化およびAIF発現の下方調節をするためにc-Metを介してシスプラチン抵抗性を誘導する可能性を示している.

乾燥血液スポットにおけるサクシニルアセトン,アミノ酸およびアシルカルニチンの組み合わせ新生児スクリーニング

著者: 鈴木優治

ページ範囲:P.886 - P.886

 1型チロシン血症(tyrosinemia type 1;TYR1)は未治療であれば早期死を引き起こす.この疾患の新生児スクリーニング(newborn screening;NBS)は診断マーカーのサクシニルアセトン(succinylacetone;SUAC)分析の問題から疑わしい.著者らはフローインジェクション質量分析装置による乾燥血液スポット(dried blood spots;DBS)においてアシルカルニチン(acylcarnitine;AC),アミノ酸およびSUACを同時定量する新規分析法を開発した.アミノ酸とACはアイソトープラベルしたアミノ酸およびAC内部標準物質を含むメタノール0.3mlでDBS切片から抽出し,ブタノール/塩酸で誘導化した.SUACは濾紙残留物からアイソトープラベルしたSUAC内部標準物質を含むヒドラジン溶液0.1mlで抽出した.これらの抽出物を質量分析装置で測定した.分析時間は1~2分であった.SUACはTYR1患者11人の過去のNBS試料で増加していた(13~81μmol/l).対照13,521例のDBSにおけるSUAC平均濃度は1.25μmol/lであった.アミノ酸およびACの日常分析へのSUAC分析の導入により偽陰性の危険率のない,迅速で経済的なTYR1のスクリーニングが可能になる.

脳脊髄液におけるモノアミン神経伝達物質代謝産物分析の臨床的有用性

著者: 鈴木優治

ページ範囲:P.946 - P.946

 血漿や尿のモノアミン神経伝達物質およびその代謝産物の測定は,通常神経芽細胞腫・褐色細胞腫の検出やモニター,低血圧症・高血圧症の評価に用いられている.これらの物質の測定は中枢神経系に影響する疾患の研究だけでなく,脳脊髄液(cerebrospinal fluid;CSF)で測定されるときにも役立つ.著者はセロトニンおよびカテコールアミン代謝に影響する一次的・二次的欠乏におけるモノアミン代謝産物のCSF像について研究した.代謝産物の分析は電気泳動法,HPLC(high-performance liquid chromatography)法,質量分析法などで行った.CSFのモノアミン代謝産物の測定値は,脳内モノアミン神経伝達物質の全代謝回転の瞬間値を示すだけである.これらの測定は全脳領域および脊髄内で起こる局部的な変化により蓄積された平均濃度を反映しているため,特定の脳領域や短時間あるいは日周期的に起こる変化における微細な異常を捉えられない.明確に定義され診断される疾患は一般に合成および異化経路に影響する疾患に限定されている.多くの症例でモノアミン代謝産物濃度の異常がCSFで見いだされた.

Coffee Break

遠い想い出―波瀾万丈の中学生時代

著者: 佐々木禎一

ページ範囲:P.880 - P.880

 私は昭和16年に庁立小樽中学(旧制)に入学した.この年の12月8日には,日本が米・英・蘭3国に宣戦を布告して大東亜戦争に突入したが,同じ頃由縁のある古い校舎が火災になった.われわれも効果ないのを知りながら雪玉を投げ込み,少しでも被害を少なくと努力したが校舎は焼け落ちてしまった.これをきっかけに私たちは1年目から波瀾万丈の学園生活が始まった.

 まず教室は焼失して不足となったため,本校から歩いて15分くらいの場所にあった「海員養成所」の校舎を間借りしての授業生活に入った.したがって毎日朝方本校に集合してから全員並んで移動するという変則的な何か月かを送った.

随筆・紀行

佐々木さんのこと

著者: 屋形稔

ページ範囲:P.926 - P.926

 本誌に今年の新年から毎月面白いCoffee Breakを担当していられる佐々木禎一さんをめぐる私の思い出話を書きたい.

 大分以前になるが全国の大学や病院に検査室が普及し始めた頃,札幌でも全国規模の会があり,責任者が集まった.時折りしも冬の盛りで集会の余暇に近くの雪山でスキーを楽しむ会がもたれた.

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あとがき

著者: 濱﨑直孝

ページ範囲:P.948 - P.948

 20世紀半ばから今日に至るまで,生命科学研究の発展には目を見張るものがある.臨床検査領域では,1934年にフェーリングが,尿を分析することによってアミノ酸代謝異常を発見(フェニルケトン尿症の発見:Fölling A:Hoppe Seylers Z Physiol Chem 227:169-176, 1934)できることを明らかにし,当時の医学会に「生体成分の科学的な分析」すなわち現在の臨床検査医学の重要性を提示している.隔世の感があるが,今やEBMの実践に必須である臨床検査医学なしには,医療・医学は成り立たなくなっている.

 そのような生命科学研究発展の中でも,免疫学は,発展著しい代表的な領域の一つである.生体内で起こっている免疫学的事象は,かなりの部分が科学的に説明できるようになり,移植医療や生殖医療の今日の進展はその具体的成果である.一方で,免疫はまだ解明すべき点が多く残っている学問でもある.地味な自然免疫はすでに解明済みの領域と考えている人々が多いのかもしれない.しかしながら,自然免疫細胞膜にあるTLR(トールライクレセプター)の発見・解明により,自然免疫細胞が侵入微生物の糖鎖やウイルスのRNAなどのパターンを識別し,防御をしていることがわかってきた.まだまだ,われわれ人間が知りえていることは,自然現象のほんの一部に過ぎないのである.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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