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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査53巻1号

2009年01月発行

雑誌目次

今月の主題 ウイルス感染症─最新の動向 巻頭言

ウイルスと感染症

著者: 岩田敏

ページ範囲:P.7 - P.8

 Virusはラテン語で「毒」を意味する言葉である.医療倫理の根幹を成す患者の生命・健康保護の思想,患者のプライバシー保護,専門家としての尊厳の保持などを謳った「ヒポクラテスの誓い」で有名なヒポクラテスは,病気を引き起こす「毒」という意味でこの言葉を使ったとされている.日本では最初,日本細菌学会によって「病毒」と呼ばれていたが,1953年に日本ウイルス学会が設立され,本来のラテン語発音に近い「ウイルス」という表記が採用された.感染症の発症に細菌以外の病原体が関与していることを最初に示したのはロシアのディミトリ・イワノフスキーで,彼は1892年にタバコモザイク病の病原が細菌濾過器を通過しても感染性を失わないことを発見し,それが細菌よりも微小な,顕微鏡では観察できない存在であることを示した.その後1935年にアメリカのウェンデル・スタンレーがこのタバコモザイク病の病原であるタバコモザイクウイルスの結晶化に成功し,この結晶が感染能を持っていることを示した.こうした発見や研究に端を発し,ウイルスに関する様々な研究が進められてきた訳である.

 ウイルスは,他の生物の細胞を利用して,自己を複製させることのできる微小な構造体で,蛋白質の殻とその内部に詰め込まれた核酸から成っており,細胞をもたないことから,生物学上は非細胞性生物または非生物として位置づけられている.ウイルスは持っている核酸の違いから,大きくDNAウイルスとRNAウイルスに分けられる.ウイルスはそれ自身単独では増殖できず,他の生物の細胞内に感染して初めて増殖可能となる.また,他の生物の細胞が2分裂によって対数的に数を増やすのに対し(対数増殖),ウイルスは1つの粒子が感染した宿主細胞内で一気に数を増やして放出される(一段階増殖).ウイルスの増殖は通常,ウイルスの細胞表面への吸着→細胞内への侵入→脱殻(だっかく)→部品の合成→部品の集合→感染細胞からの放出,というようなステップで行われる.ウイルスの細胞表面への吸着は細胞表面のレセプターを介して行われ,インフルエンザウイルスが気道上皮に高い親和性を持つのは,気道上皮細胞のシアル酸糖鎖がインフルエンザウイルスのレセプターとなっているからである.

総論

ウイルスの病原性発現機構

著者: 西山幸廣

ページ範囲:P.9 - P.16

 ウイルスの病原性発現には様々な要因が関係している.宿主側,ウイルス側の諸要因に加えて侵入経路や感染ウイルス量なども病原性発現に重要な影響を与える.ウイルスは多様性に富み,感染から発症に至る経過も極めて多彩である.RNAウイルス,レトロウイルスではゲノムが不安定で,変異による毒力(virulence)の変化や宿主ジャンプ(species jump)に伴う強毒化が自然界で認められる.本稿では,いくつかのウイルスを具体例として挙げ,その病原性発現機構について概説した.

ウイルス感染と自然免疫

著者: 藤井暢弘 ,   横田伸一 ,   横沢紀子 ,   岡林環樹

ページ範囲:P.17 - P.27

 ウイルス感染に対する生体の防御機構は,感染初期においては自然免疫系が機能し,感染後数日を経て獲得免疫の成立に至る.自然免疫としては,まず生体に恒常的に存在している,補体,生体防御レクチン,NK細胞等がウイルスや感染細胞に対応する.さらに,病原体関連分子パターン(ウイルス蛋白や核酸)を上皮細胞,血管内皮細胞や免疫担当細胞に発現している病原体認識受容体(TLRsやRIG-I等)が感知しサイトカインの産生誘導が生じ,サイトカインネットワークを介して免疫担当細胞の成熟・活性化を起こし獲得免疫の成立を促す.一方,サイトカインの一種であるインターフェロンは強力な抗ウイルス効果でウイルスの増殖・拡散を阻止する.しかし,ウイルスはこれらの自然免疫系の多くの機能を抑制・撹乱する戦略を構築し,両免疫機構から逃れる能力を備えている.

ウイルス感染と発癌

著者: 有海康雄 ,   加藤宣之

ページ範囲:P.29 - P.35

 ヒトの約15%の癌はウイルス性であり,これまでEpstein-Barrウイルス,ヒトパピローマウイルス,B型肝炎ウイルス,C型肝炎ウイルス,ヒトT細胞白血病ウイルス1型,ヒトヘルペスウイルス8型/カポジ肉腫関連ウイルスの6種類のヒト癌ウイルスが知られていたが,最近新たに発見されたメルケル細胞ポリオーマウイルス(MCV)を加えて7種類となった.癌ウイルスは,細胞増殖能の亢進(Rbの機能抑制),アポトーシスからの回避(p53の機能抑制),そして,細胞の不死化(テロメラーゼの活性化)の三つのステップにより,細胞を癌化する.ウイルスの癌遺伝子産物は発癌には必要であるが,さらに他の因子や宿主遺伝子の変異も必要である.

各論 〈ウイルス感染症の新しい診断技術〉

核酸検出法を用いたウイルス感染症診断法の臨床応用(PCR法,LAMP法)

著者: 中山哲夫

ページ範囲:P.37 - P.43

 遺伝子検索はpolymerase chain reaction(PCR)の普及により身近なものとなってきた.しかしながら,thermal cyclerを用い2~3時間が必要で,迅速性に問題がある.60分間以内で結果の出るreal time PCR法も開発され遺伝子数の定量的検索も可能であるが,高価な機器が必要であり,ベッドサイドへの応用には至っていない.近年わが国で開発されたloop-mediated isothermal amplification(LAMP)法は独創的なprimerを設定し2本鎖をはがしながらDNA合成を進めるBst polymeraseを用いて60~65℃の一定温度で反応を進め,1時間以内で結果を得ることが可能である.LAMP法は特異性,感度も高く感染症の遺伝子レベルでの迅速診断の可能性を持つ発展性の高い検査法と考えられる.LAMP法の臨床応用を解説する.

ウイルス感染症における迅速診断検査(POCT)の位置づけと今後の方向性

著者: 本村秀樹 ,   森内浩幸

ページ範囲:P.45 - P.52

 迅速診断検査(point-of-care testing;POCT)の出現によって,ウイルス感染症の診療は大きく変革した.臨床医が早期にその場で診断できるので,患者自身に特異的な治療(例えば,インフルエンザの場合はノイラミニダーゼ阻害薬の投与)を直ちに開始し,周囲への感染拡大を防ぐ措置(例えば,ノロウイルスであれば徹底した施設内感染防止策)を取り,そして疫学的情報をリアルタイムで把握できるようになった.また日常的な感染症だけではなく,SARSコロナウイルスのような新興病原体を,検疫所のような水際で捕らえることもできるようになった.

〈感染症ごとにみたウイルス感染症の診断と対策〉

B型・C型ウイルス性肝炎

著者: 芥田憲夫 ,   熊田博光

ページ範囲:P.53 - P.60

 本稿ではB型・C型肝炎における最新の治療ガイドラインを示す.まず,B型慢性肝炎の若年例はinterferon(IFN)長期あるいはentecavir(ETV)が原則で,中高年例の核酸アナログ未使用例もETVが第一選択である.C型慢性肝炎の初回治療例で,高ウイルス量はPEG-IFN・リバビリン(RBV)併用療法,低ウイルス量はIFN単独療法が第一選択である.B型・C型肝炎の治療は各種薬剤の長所・短所を十分理解したうえで,生命予後を改善できる治療を選択していく必要がある.

HIV感染症

著者: 潟永博之

ページ範囲:P.61 - P.64

 わが国におけるHIV感染者数の増加は,とどまるところを知らず,特に,男性同性愛者間の感染が頻度を増している.様々な対策は,早期のHIV感染の発見につながっているが,感染者数のコントロールには程遠い状況である.HIV感染の診断は,ELISA法やPA法,またはイムノクロマト法でスクリーニング検査を行い,陽性であったら,確認検査としてwestern blot法を行う.Western blot法で判定保留の場合,初期感染のことがあるため,2週間以上経過した後,再検査を行うべきである.

インフルエンザ

著者: 新庄正宜

ページ範囲:P.65 - P.69

 最近10年の間に,インフルエンザの診断は迅速抗原検査によって,治療はノイラミニダーゼ阻害薬によって,大きな進歩を遂げた.インフルエンザは,飛び降りなどの異常行動,乳幼児のインフルエンザ脳症など,社会に大きなインパクトも与えてきた.最近では,鳥インフルエンザや新型インフルエンザが注目され,話題となっている.国・自治体レベルでその対策が講じられているが,課題も多い.

ノロウイルス感染症

著者: 片山和彦

ページ範囲:P.70 - P.76

 本稿では,世界中に広く分布し,年間数十万人から数百万人に及ぶ非細菌性急性胃腸炎患者を発生させ続けているノロウイルスの病態,ウイルスの性状,予防衛生について概説した.また,日進月歩の進歩を遂げる各種ノロウイルスの検査法は,感染の早期診断と汚染物質の隔離が有効なノロウイルスの感染予防に必須なアイテムである.超高感度核酸増幅法,簡便かつ迅速な診断法である抗原抗体反応に基づくELISA法,イムノクロマト法等の検査法に関して,有用性,将来の展望について概説した.

日本脳炎・ウエストナイル熱

著者: 髙崎智彦

ページ範囲:P.77 - P.81

 ウエストナイル熱は,脳炎に至らない場合は非致死性の発熱疾患であり,その鑑別疾患としてはデング熱やチクングニヤ熱が挙げられる.しかし,脳炎を起こすと日本脳炎と類似の臨床像を呈する.その病原体であるウエストナイルウイルス,日本脳炎ウイルスはともにフラビウイルス科フラビウイルス属の蚊によって媒介されるウイルスで抗原性が極めて近似であり,免疫学的に交差反応を示す.鑑別診断には病原体検査および血清学的検査を含めた実験室診断が重要である.

話題

感染症法の改正によるウイルス保管,移動の規制について

著者: 梅田浩史

ページ範囲:P.82 - P.86

1.はじめに

 「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成10年法律第114号)」(以下,感染症法)が改正され,生物テロや事故による感染症の発生・まん延を防止するための病原体等(病原体および毒素)の適正管理に関する新たな制度が2007年6月1日よりスタートした.本稿では,この制度の概要と施行後の状況について紹介する.

リアルタイムPCR法を用いた細菌とウイルスの網羅的検索

著者: 諸角美由紀 ,   岡田隆文 ,   生方公子

ページ範囲:P.87 - P.91

1.はじめに

 市中で罹患する急性呼吸器系感染症の主な起炎菌は,肺炎球菌,インフルエンザ菌,マイコプラズマ・ニューモニエ(Mycoplasma pneumoniae:マイコプラズマ),A群溶血性レンサ球菌(group A streptococcus;GAS),クラミドフィラ・ニューモニエ(Chlamydophila pneumoniae:クラミドフィラ),レジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila:レジオネラ)など様々である.これら原因菌の一部において,耐性化が急速に進行し,難治例や予後不良例が増加している1~3).適切な抗菌薬療法と同時に菌の耐性化を防ぐには,患者入院時に起炎微生物が短時間で確定されることが必要である.また,医療経済上からも抗菌薬投与の対象である細菌感染症と対象外のウイルス感染症とを短時間で区別することが,診断学上有用なはずである.

 近年,外来診療の場で一部の細菌やウイルスを調べることができる迅速診断キットが普及しつつある.しかし,その感度には限界があり,偽陽性を示す例も予想以上に多いといった問題点もみられる.このような背景から,臨床での診断を目的としたリアルタイムPCR(polymerase chain reaction)法が開発され,世界的に注目されている4~7)

 本稿では,われわれが構築した呼吸器感染症原因菌の6菌種と,呼吸器系ウイルス13種類を同時に検策するリアルタイムPCR法について述べ,将来の微生物検査のあり方について言及する8~10)

ヒト・メタニューモウイルス感染症

著者: 原好勇 ,   渡邊浩

ページ範囲:P.92 - P.96

1.はじめに

 呼吸器ウイルス感染症の原因ウイルスには,ライノウイルス,インフルエンザウイルス,パラインフルエンザウイルス,コロナウイルス,アデノウイルス,RSウイルス(respiratory syncytial virus)などがある.しかし,いまだ同定できないウイルスも多く存在する.ところが最近,“ヒト・メタニューモウイルス(human metapneumovirus;HMPV)”1)やヒトボカウイルス2),コロナウイルスNL633),コロナウイルスHKU14),Melakaウイルス5)などの新しいウイルスが続々と発見されてきている.HMPVは2001年にオランダの研究グループにより発見されたウイルスで,SARS(severe acute respiratory syndrome)の流行時には,その病原体である可能性がいわれた時期があった.しかし,その後の研究により普通の「かぜウイルス」の一つであることがわかり,10歳までにほとんどの人が感染し,抗体を獲得することが明らかになってきた.本稿では,HMPV感染症6)の現況について,その診断と対策を中心に概説したい.

ヒトボカウイルス感染症

著者: 石黒信久 ,   遠藤理香

ページ範囲:P.97 - P.104

1.はじめに

 2005年9月,スウェーデンの呼吸器感染症患者の鼻咽頭液から抽出したDNAを元に新しいウイルスがクローニングされた1,2).このウイルスは,塩基配列からパルボウイルス科パルボウイルス亜科ボカウイルス属に分類され,ヒトボカウイルス(human bocavirus;HBoV)と名付けられた.本稿では,HBoVのウイルス学的特徴,HBoV感染症の疫学,臨床症状,検出法,抗体測定法と血清疫学,治療法を概説したうえで,実際の症例を紹介したい.

ヒトパレコウイルス感染症

著者: 伊藤雅 ,   山下照夫 ,   皆川洋子

ページ範囲:P.105 - P.110

1.はじめに

 ヒトパレコウイルス(human parechovirus;HPeV)はピコルナウイルス科パレコウイルス属〔Genus Parechovirus:par(a)=傍,echo=エコー〕に分類される1本鎖のRNAウイルスである.同ウイルス科には,他に小児麻痺の原因となるポリオウイルスや無菌性髄膜炎,手足口病,ヘルパンギーナの原因となるコクサッキー,エコーウイルス等が属するエンテロウイルス属,呼吸器疾患の原因ウイルスが属するライノウイルス属,A型肝炎の原因ウイルスが属するヘパトウイルス属,胃腸炎患者から検出されたアイチウイルス1)が属するコブウイルス属のほか,カルヂオウイルス属(脳心筋炎ウイルス等),アフトウイルス属(口蹄疫ウイルス),エルボウイルス属,テッショウイルス属等,多数の重要な動物ウイルスが属している.

 パレコウイルス属は,ヒトパレコウイルス(HPeV)とユンガンウイルス(Ljungan virus;LV)の二つの種から成る.HPeVは1956年に小児夏季下痢症の病原体として分離されたエコーウイルス22型およびエコーウイルス23型2)がウイルス学的特徴から1999年にパレコウイルス属として独立し,ヒトパレコウイルス1型(HPeV-1)および2型(HPeV-2)と改名された3~11).主に小児の胃腸炎や呼吸器疾患患者から分離される.現在のところ6種類の血清型/遺伝子型が存在し,世界各国から検出報告がなされているが,わが国からはHPeV-1とHPeV-3の報告が多い.LVは,1999年に報告された野ネズミbank vole(Clethrionomys glareolus)から検出されたウイルス12)で二つ以上の血清型が知られている.2007年には子宮内死亡胎児(intrauterine fetal death;IUFD)の脳と胎盤から免疫組織化学的にLV抗原の存在が報告され,人獣共通感染症の可能性も示唆されている13)

世界的に使われているロタウイルスワクチン

著者: 中込とよ子 ,   中込治

ページ範囲:P.111 - P.116

1.はじめに

 ロタウイルス胃腸炎は毎年冬から春先にかけて乳幼児を中心に流行する(図1)1,2).嘔吐,発熱,下痢を主症状とし,ほとんどの乳幼児が3歳ごろまでに一度は罹患する.症例の2~3%に強い脱水症状が現れ,適切な医療が施されなければ生命にかかわることのある侮れない病気である.このように入院加療が必要な胃腸炎の症例の約半数はロタウイルスが原因であることが知られている2,3).発展途上国に目を転じると,社会基盤が脆弱で医療へのアクセスが悪いために,ロタウイルスは5歳未満の小児死亡の大きな原因である(図2)4).このためロタウイルスワクチンによる予防介入戦略が世界保健機関をはじめとする国際組織の優先課題になっている.すでに安全で有効性の高いロタウイルスワクチンが開発され,世界100か国以上で認可されている5,6)(図3).また,アメリカ合衆国,中南米(ブラジル,メキシコ,ニカラグアなど7か国),ヨーロッパ(ベルギー,ルクセンブルグ,オーストリア),オーストラリアなど世界12か国では乳幼児の定期予防接種に導入されている.

 本稿では,世界的に使われているロタウイルスワクチンの特徴と課題について解説する.

今月の表紙 帰ってきた真菌症・1

輸入真菌―Coccidioides immitisHistoplasma capsulatum

著者: 亀井克彦

ページ範囲:P.4 - P.6

1.はじめに

 本来,わが国に存在せず海外で風土病として発症がみられる真菌症を輸入真菌症という.具体的にはヒストプラズマ症,コクシジオイデス症,パラコクシジオイデス症,マルネッフェイ型ペニシリウム症,ガッティ型クリプトコッカス症,ブラストミセス症などが挙げられている.

 近年,特にコクシジオイデス症,ヒストプラズマ症を中心に急速に患者数が増加しており,一般病院でも遭遇する可能性が高くなっているが,これらの真菌はいずれも培養中の感染事故が起きやすく,その性質を熟知しておく必要がある.

シリーズ最新医学講座・Ⅰ 死亡時医学検査・1

死亡時医学検索の概略

著者: 清水一範 ,   江澤英史

ページ範囲:P.117 - P.122

はじめに

 死亡時医学検索と聞いて即座に頭に浮かぶ単語は「解剖」であろう.「解剖」は,死後検査として古来より確立された検査方法であり,その診断結果は絶対的な威厳を持つ.しかしながら解剖は,侵襲性である,拘束時間が長い,解剖専門医不足などの問題により実施件数は減少の一途をたどっている.2007年の厚生労働省の統計では,解剖率は2.7%にまで低下している.これでは死者の四十人に一人しか解剖されていないことになる.一方,近年の画像診断の急速な進歩により,画像診断装置を使った死後検査が可能となった.死亡時画像診断と言われる「オートプシー・イメージング(autopsy imaging;Ai)」がそれに当たる.死亡時画像診断は,非侵襲性である,拘束時間が短い,画像診断医のみならず臨床医でも実施が可能などの点で「解剖」を凌駕している.Aiの出現により死亡時医学検索は複数のアイテムを持つこととなった.これにより死亡時医学検索の精度や実施能力,適応範囲が大幅に拡大することとなる.死亡時医学検索は,今大きく変わろうとしている.

シリーズ最新医学講座・Ⅱ iPS細胞・1

iPS細胞の樹立と今後の展望

著者: 小柳三千代 ,   山中伸弥

ページ範囲:P.123 - P.128

はじめに

 ヒトES(embryonic-stem)細胞の樹立が報告されたことにより,細胞移植治療へ向けての研究が世界中でさかんになった1).これは,ES細胞の高い自己複製能と多分化能,すなわち多能性幹細胞としての性質による.なぜなら,①多能性幹細胞を体外で必要なだけ増殖させ,②目的の細胞へ分化させ,③患者に移植する,ことが可能になれば,多くの患者を治療できると考えられているからである.しかしながら,ES細胞は①②を満たすが,③に関しては拒絶反応が起こる可能性があり,これを回避することが重要である.このために患者自身から採取した体細胞から,多能性幹細胞を作成することが望まれる.

 これまで,体細胞から多能性幹細胞を作成する方法は,二つ報告されていた.一つは,体細胞から遺伝情報を持った核を採取し,未受精卵の核と入れ替えるという“核移植”であり2),もう一つは,体細胞とES細胞を“細胞融合”させてES細胞様の細胞を作成する方法3,4)である.しかしながら,これらは卵子提供や胚の使用,クローン個体作出の可能性といった倫理的な問題や,四倍体細胞からのES細胞由来の染色体の除去など技術的な問題がいまだ解決されていない(図1).

 このようななか,当研究室では,胚や卵を使用せずにマウスの線維芽細胞から直接ES細胞様の性質を有する細胞を得る研究に着手した.

私のくふう

グリメリウス染色の変法

著者: 樋浦賢太郎 ,   遠藤浩之 ,   石原法子 ,   金子千之

ページ範囲:P.130 - P.131

1.はじめに

 グリメリウス染色は,1968年にGrimeliusによって膵臓ランゲルハンス氏島α細胞を染める染色法1)として発表された.現在では神経内分泌顆粒の染色法2,3)としても広く用いられている.しかし,本染色法は種々の染色条件に影響を受けやすく,特殊染色の中でも技術的に難しい染色法と思われる.そこで,われわれはグリメリウス染色の変法を試み,良好な結果が得られたので報告する.

学会だより 日本臨床検査自動化学会第40回大会

もっと機器試薬メーカーに国際競争力を!

著者: 木村聡

ページ範囲:P.132 - P.133

日本発,世界の安心へ

 毒入り冷凍食品が話題をさらう中,第40回日本臨床検査自動化学会は,筑波大学の桑 克彦准教授を大会長に10月9日から3日間,パシフィコ横浜で開催された.検査実務を担う人材が多数参加するこの学会は,機器・試薬メーカーが大きな比重を占めている.入場者数は一万人を超えるが,その過半数はメーカー関係者.機器試薬業界の発展なしに,臨床検査の発展はないのである.今回,大会長の肝入りで,業界の国際競争力をつけるパネルディスカッションが開かれた.キーワードは「日本発,世界の安全・安心へ」である.

 いずれのパネラーも,聞き応えある内容で,お役所の方からも心強い本音が語られた.以下は各氏の発言をまとめたものである.筆者の理解,調査に沿って並べたため,多少の齟齬が生じているかも知れないが,ご容赦願いたい.

臨床検査のイノベーション―フロンティア技術の応用

著者: 桑克彦

ページ範囲:P.134 - P.135

 日本臨床検査自動化学会第40回大会が,当方の大会長のもとで,2008年10月9~11日にパシフィコ横浜の会議センター,ならびに2008日本臨床検査自動化学会・日本臨床検査医学会共催展示会が同展示ホールで開催された.本大会は,臨床検査の自動化に関するメインイベントである.

 臨床検査の自動化は,先駆的な技術の応用の積み重ねにより今日の興隆をみている.本学会の発展の経緯も自動化の進歩に裏付けられている.大会テーマの「臨床検査のイノベーション―フロンティア技術の応用」は,「次代を担う臨床検査は,自動化技術の進歩により成され,安心で安全な保健・医療の発展を約束するもの」との大会長の強い思いが込められたものである.このテーマにふさわしい価値と興奮に満ちた内容が披露された.

POCTを通じて見た日本臨床検査自動化学会第40回大会

著者: 〆谷直人

ページ範囲:P.136 - P.137

 日本臨床検査自動化学会第40回大会は,2008年10月9日(木)から11日(土)までの3日間,筑波大学大学院人間総合科学研究科の桑克彦先生のもと,パシフィコ横浜会議センターと同展示ホールで開催された.

 大会テーマは自動化技術の進歩によって安心で安全な保健・医療の発展に期待を込めた「臨床検査のイノベーション―フロンティア技術の応用」であり,特別講演にはじまり,先端技術,検体検査,特定健診,血液検査の4つのシンポジウム,産官学協同によるパネルディスカッション,2会場での機器・試薬セミナー,2日間でランチョンセミナー10題とサテライトセミナー7題,4つの委員会(科学技術,遺伝子・プロテオミクス技術,POC推進,チーム医療実践推進)による技術セミナーと盛り沢山の企画で,一般演題も340題と多くの発表がなされた.また,展示会は臨床検査関係では国内最大規模であり,今回はこれまでに最大のスペースに104社が出展し,連日多数の入場者で盛況であった.

Coffee Break

私の取得した2つの学位―その目的と効果

著者: 佐々木禎一

ページ範囲:P.44 - P.44

 私は昭和32年(1957年)に「医学博士」を,そして同37年(1962年)に「理学博士」と二つの学位(ともに旧制)を取得した.私は昭和26年(1951年)北大理学部化学科(生物化学専攻)を卒業したが,学生時代スポーツや学生運動に熱中しあまり勉強しなかった.それゆえもう少し研究室で勉強を続けたかったので,札幌医大微生物学教室の助手として任官することとなった.一方,医学部へ進んだ中学時代の級友たちは学部4年の後1年間インターンとなり,医師国家試験に合格して医局に入っても,任官するまでにかなりの年月を要することから段違いのスピードであったと言えよう.

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あとがき

著者: 岩田敏

ページ範囲:P.140 - P.140

 新年を迎え,地球は温暖化しているとはいえ,日本列島の冷え込みは一段と厳しくなって参りました.インフルエンザの流行も各地から伝えられるようになり,いつものような日本の冬を迎えております.病院では発熱で救急外来を受診する患者さんが増え,高齢者の方を中心に,肺炎や心血管障害で入院される方で,入院病床はかなりタイトな状況となっていますが,このような状況になるたびに,いわゆる救急患者のたらい回しがまた起きないかと,立場上は少々不安になってしまいます.先日も知人の葬儀の最中に,倒れられた参列者がいらっしゃり,救急車を要請したのですが,患者さんを収容した後,葬儀会場の前に20分以上停まったままでなかなか発進しませんでした.おそらく収容先を探すのに手間取っていたものと推察されます.東京のど真ん中で,周りにはいくつもの大学病院がある状況でのことであり,つい先日の妊婦さんの事例を思い出してしまいました.自分自身も救急対応に当たることのある立場からは,現場の状況がよく分かるのですが,人手の面も含めて,システム的な見直しが必要なのかも知れません.

 今月号の主題として取り上げた「ウイルス感染症」は,最もポピュラーな感染症であり,焦点を当てる範囲も広いので,どのような企画にしたらよいか迷いましたが,最新の動向ということで,基礎・疫学・診断・治療・予防の各観点から,最近の進歩とウイルス感染症を制御するための動向について,専門家の先生方に解説していただきました.ウイルス感染症への対応は,病原診断や特異的治療が難しかったことから,これまでは予防や感染防止対策が中心で,診断・治療面では細菌感染症と較べて方略が少なかったのですが,近年の診断法や治療法の進歩により,一般臨床の場で対応できる手段がかなり増えております.今月号では,基礎的な内容のほか,新しい診断法や最近になって分かってきたウイルスの感染症,そして現在臨床上問題となるウイルス感染症への対策についても取り上げてございますので,是非ご一読いただき,検査医学に携わる読者の皆様の今後の活動の参考にしていただければ幸いです.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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