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雑誌目次

論文

臨床検査53巻3号

2009年03月発行

雑誌目次

今月の主題 臨床検査コンサルテーション/診療支援 巻頭言

臨床検査のコンサルテーション/診療支援―臨床検査部門の潜在力を発揮し医療へのさらなる貢献を!

著者: 米山彰子

ページ範囲:P.259 - P.260

 医療における臨床検査の重要性は改めて言うまでもない.疾患の診断にも治療効果判定を含む経過観察にも不可欠である臨床検査は,まさに医療の根幹を成すといっても過言ではない.一方で,臨床検査部門が院内で独立して検査を担当するようになり,機器の進歩や検査手順の確立,精度管理の充実により臨床検査が順調に運用されるようになると,臨床サイドにとっては診療端末や依頼用紙で検査をオーダーすれば苦もなく結果が戻されてくるのが当たり前になっている.検査部門が縁の下の力持ちに徹し,精度の高い検査がユーザーにとっては水や空気のように当然のものとして提供されることは,ある意味で望ましい状態である.しかし,検査部門側も臨床側もそれで満足してしまっていないだろうか? 臨床側からは検査に携わるスタッフの顔がみえず,逆に検査室からは患者さんや臨床医の様子や要望がわかりにくい状態になっていないだろうか? 臨床医が検査の実態や内容を十分理解できないまま,オーダーと結果の表面的なやり取りに終始し,検査を十分生かせなかったり思わぬピットフォールにはまったりすることを避けなければならない.医療関係者に「検査は結果さえ出れば誰がどのようにやっても同じ,安くできればそれで良い」と思わせてはいけない.検査部門と診療部門とがコミュニケーションを密にし,専門的知識をもった臨床検査技師や検査医が臨床現場に密着して検査に手をかければ,より臨床に役立つ検査を提供することができ,検査結果に付加価値を加えることができる.病院に働く職種のうち医師や看護師は患者さんにとって最も身近だが,臨床検査技師は薬剤師や放射線技師ほどには知られていない.臨床検査技師より清掃スタッフの方が認知度が高いという調査結果をみて非常に残念に思った.臨床検査医も医師の間ですら十分知られているとは言えない.検査部門のスタッフは黒子の役割に甘んじることなく自らの仕事や力量を周囲にアピールし,患者さんのためによりよい検査を提供するとともに,検査を十分に活用してもらえるよう努力したいものである.

 検査部門が医療により大きな貢献をするために,臨床検査を通じた診療支援の充実,検査技師のチーム医療への参画などに力を入れる施設が増えている.診療支援の具体的な内容としては,臨床検査についての情報提供,患者さんの病態やユーザーのニーズに即した検査上の配慮・工夫,検査結果を臨床により役立つ形で提供する,検査結果に臨床的に有用なコメントを付ける,検査法や検査結果の解釈さらには検査計画等について専門的立場から質問に答えたり相談にのったりすること,などが挙げられる.どのようなことが臨床に役立つのか,各施設が手探りで工夫していると思われるが,他施設の実情を知る機会は少ない.そこで今回の主題として「臨床検査コンサルテーション/診療支援」を取り上げた.各検査分野でどのような診療支援が可能か,コンサルテーションや検査相談をどのように行うか,他施設の経験を参考に自施設での実践の手がかりにしていただければ幸いである.

総説

ルーチン検査の中での診療支援

著者: 矢冨裕

ページ範囲:P.261 - P.266

 臨床医から依頼された臨床検査の結果を,精確に,そして,早く届けることは,臨床検査に携わるものに課せられる基本である.しかし,臨床検査がますます高度になっている現在,検査のプロフェッショナルには,それ以上のことが望まれている.単なるデータだけでなく,それに加えて,臨床的有用性の高い付加価値をつけた検査結果の提供が求められている.また,臨床検査の最新かつ的確な情報の提供も,日常診療業務に多忙を極める臨床医が,検査側に求めていることと思われる.このような検査室側の貢献は,チーム医療の意識の高まりとともに,さらに要求されていくことと予想される.

医療スタッフ向けのコンサルテーションに対応できる臨床検査医の育成―日大病院臨床検査医学科On-call conference記録の分析から

著者: 熊坂一成

ページ範囲:P.267 - P.274

 On-call conferenceは,臨床検査医を目指す研修医のための優れた研修法の一つである.コンサルテーションの内容を記録し,定期的なconferenceで個々の対応が適切であったか否かをauditすることは,検査医の在り方(role)に関して大きなインパクトを与える.臨床検査医の主たるclientsは,臨床医と臨床検査技師である.臨床検査医の育成には,臨床検査専門医と各分野の専門技師の指導と協力が必要である.われわれの実際の活動が,1996年4月1日改正診療報酬点数の検体検査管理加算の実現につながった.現在,最も切実な問題はこの分野の後継者が全国的に枯渇状態であることである.

患者向け検査相談

著者: 原田健右 ,   北島勲

ページ範囲:P.275 - P.279

 近年,インターネットを通じて医療情報を容易に入手することが可能となり,検査に関する情報も誰でも簡単に手に入れられるようになった.患者は自分の検査結果のみならず検査関連事項について多様な情報が入手できるようになった.一方,診療現場では,多岐にわたる検査の意義とその結果について医師が患者に直接説明し,十分納得してもらうだけの時間を確保することは困難であるのが現状である.本稿では,「検査情報の提供」という一つの枠組みの中で,検査相談室とチーム医療担当技師・検査医が連携するシステムを確立するうえでの「検査相談・情報室」の重要性を強調した.さらに,病院検査室から患者向けに,どのような情報を提供できるのか,またその手段やその問題点さらに将来像を議論した.

各論

4.病理診断科外来の実際

著者: 谷山清己 ,   尾下聡子 ,   斎藤彰久 ,   倉岡和矢

ページ範囲:P.357 - P.359

1.はじめに

 標榜化された病理診断科では,患者本人またはその保護者から直接の説明を求められれば,わかりやすく説明しなければならない1,2).多くの病理医がこのことに不慣れであるが,最近では,各地から病理外来を実践しているという情報も聞かれるようになってきた.筆者は,10年以上前から病理外来を実践しており3~5),本稿では現状や工夫について報告し,その期待される効果を説明する.

1.分野別のコンサルテーション/診療支援

一般・生化学・免疫血清検査

著者: 山田俊幸

ページ範囲:P.280 - P.284

 一般・生化学・免疫血清検査は,臨床的興味としては一般的で,専門性が高いとはいえない領域である.それだけに検査室・検査専門医の活躍が期待される領域といえる.血清蛋白分画のパターン,検出されたM蛋白,その後の検査の進め方において適格なsuggestionが求められる.酵素活性・アイソザイムの異常,脂質データ異常への対処についても同様である.また.検査医学に独特な分析学上の知識背景をもって臨むことはいうまでもない.

凝固検査

著者: 小宮山豊 ,   吉賀正亨 ,   正木浩哉 ,   高橋伯夫

ページ範囲:P.285 - P.288

 凝固系検査に関連したコンサルテーションは様々であるが,DICの評価,凝固亢進の評価,異常APTT/PTの評価,線溶能の評価についてわれわれの経験をもとにコンサルタント活動について述べる.DIC関連の凝固線溶マーカーの日常検査結果における対応は,パニック値の迅速報告や情報収集が重要である.原因不明の血小板減少症における血栓性血小板減少性紫斑病,へパリン起因性血小板減少症を検査診断することが重要であり,臨床症状と検査値を合わせた考察が検査の有効性を増す可能性を示す.さらに血栓性素因関連検査,APTT異常延長と後天性血友病などの検査診断を述べ,臨床検査部門の診療支援に関して考察する.

造血器腫瘍

著者: 米山彰子

ページ範囲:P.289 - P.293

 造血器腫瘍診療に対する診療支援としては,血算,末梢血液像,骨髄像,特殊染色,フローサイトメトリー,遺伝子・染色体検査等を対象に,標本作製や検体処理,病態に応じた過不足のない検査項目の選択や解析,コメントや診断の付与などを挙げることができる.血液専門の臨床検査専門医がこれらすべてに総合的にかかわり強力な診療支援を行うことも可能である.それぞれの施設の血液疾患診療や血液内科医の状況,検査部門の状況に応じた診療支援が充実することが期待される.

感染症

著者: 稲松孝思

ページ範囲:P.295 - P.298

 感染症関連の検査のコンサルテーション時,臨床サイドと検査室側にはかなりの認識の差がある.それを埋めるものとして,感染症の専門医がいるが,抗菌薬適正使用のための検査室での診療支援についてもその認識は必要である.臨床現場では経験的治療が不可欠であるが,その診療支援における迅速診断,細菌培養検査の意義と限界,検出菌が起炎菌かコロニゼーションかコンタミネーションかの判断と常在菌叢,薬剤感受性検査について述べた.刻々と変わる患者の変化に即応する情報提供が望ましい.

染色体・遺伝子検査

著者: 松下弘道 ,   矢部みはる ,   宮地勇人

ページ範囲:P.299 - P.303

 東海大学医学部付属病院臨床検査科では,血液疾患の診療支援として染色体検査や白血病キメラmRNAなど遺伝子検査を行っている.骨髄検査やリンパ節における形態学的所見を中心に作成される血液総合診断書を通じて,疾患病態に応じた染色体・遺伝子検査の選択的利用を推奨するとともに,これらの検査所見に不一致がある場合には,結果解釈や遺伝子解析を中心とした必要な追加検査の推奨を通じて,確定的な疾患診断に至るまでのプロセスを支援している.新WHO分類の改訂により,血液疾患の診断・分類がさらに染色体・遺伝子異常中心となる今日,個別症例において適切にコンサルテーションを行いながら診断プロセスを支援することが重要である.

輸血

著者: 牧野茂義

ページ範囲:P.304 - P.308

 輸血部は輸血検査を行い,適切な輸血用血液製剤を出庫するばかりでなく,適正輸血のための輸血コンサルテーションに対応している.さらに,外科の待機手術に対して自己血輸血の採取・保管・管理を行い,自己フィブリン糊の提供を行っている.血液内科の造血幹細胞移植に関しては,HLA検査やCD34陽性細胞の測定をはじめ,末梢血幹細胞の凍結保存・管理を行い,顆粒球輸血の放射線照射やドナーリンパ球輸注療法の細胞処理など細胞療法にかかわり,「輸血・細胞治療部」として臨床支援を行っている.

病理

著者: 田村浩一

ページ範囲:P.309 - P.314

 病理が取り扱う業務には,細胞診,組織診(生検および手術材料),術中迅速診断,病理解剖がある.病理からの情報は,良悪性の判定のみならず,治療方針決定のための病型や組織型分類と病期分類,予後や治療効果の予測,治療の効果度判定など,患者の診療に直結するものであり,加えて病院の医療の質を検証し,向上させることにもつながっている.病理側が十分な診療支援を提供するためには,各臨床科と病理間の適切なコミュニケーションが最も大切である.

2.検査相談の実際

北里大学

著者: 染谷洋子 ,   狩野有作

ページ範囲:P.315 - P.317

1.はじめに

 北里大学病院臨床検査部では,診療部門の要望に応え,診療支援を目的とした「検査情報(相談)室」を1995年7月に開設1)した.当初,北里大学病院ではイントラネットや院内情報システムが整備されておらず,専任の臨床検査技師2),臨床検査医3)(当番制)が常駐して,検査情報の提供および臨床検査に関する相談に対応していた.現在までの12年間で,臨床検査部を取り巻く医療環境と情報システムは大きく変貌を遂げた.現在の検査情報室は,活動目的および基本方針こそ開設当時と同一であるが,臨床検査部を取り巻く外的および内的状況の変化に適応しながら,現在の体制を確立している.

京都府立医科大学

著者: 稲葉亨 ,   藤田直久

ページ範囲:P.318 - P.320

1.はじめに

 当院をはじめとする特定機能病院では医療の高度化・専門化が進んでおり,1人の医師が担当患者の診断から治療まですべてを網羅することは最早不可能に近いと思われる.一方,各担当医は電子カルテやインフォームド・コンセントの普及あるいは新研修システム下での医師不足等により日々忙殺され,患者からは「検査について主治医に尋ねたいけれどゆっくり話をする機会がない」という不満を耳にすることも多い.そこで,“患者の目に見える”診療支援の一環として,多忙な主治医に代わって臨床検査部所属職員が臨床検査全般に関する一般的な説明を行うことが可能ではないかと考え,約6か月間の準備期間を経て臨床部長会議で承諾を得た後,われわれは2005年1月に『検査相談室』を開設した.

慶應義塾大学

著者: 菊池春人 ,   大野明美

ページ範囲:P.321 - P.323

1.はじめに

 慶應義塾大学病院中央臨床検査部検査相談室での検査相談の実際について,その概略を述べる.これまで前担当者が講演で発表した回数も多く,また文献として報告したものもいくつかあるため1~4),ご存じの方も多いかとも思われるが,2008年度に場所の移転,担当者の変更など運用の変更があったので,それを含めて最近の状況を述べることとする.

順天堂大学

著者: 三宅一徳 ,   三井田孝

ページ範囲:P.324 - P.325

1.順天堂医院の臨床検査支援態勢

 順天堂大学付属順天堂医院は病床数1,020,一日外来患者数約4,000名の特定機能病院である.臨床検査部は臨床検査技師60名,一日平均検体数は血算約1,300本,生化学用血清約1,500本,心電図検査が一日約210件実施されている.

 当院の臨床検査支援態勢は臨床検査部スタッフと臨床検査医学科医師(7名,うち専門医5名)とが協働して構築されている.専門の検査相談担当部署や臨床検査外来などは設けておらず,検査部門別に対応する古典的なスタイルを踏襲している.

慈恵医大第三病院

著者: 平井徳幸 ,   白石正孝 ,   大西明弘

ページ範囲:P.326 - P.328

1.はじめに

 臨床検査コンサルテーション,臨床支援および外来患者対象の検査相談については,その必要性,業務内容・成果についてすでに多くの報告がある1~6)

 当院中央検査部では,2001年4月より患者サービスおよび診療支援の一環として,検査部専任医師および臨床検査技師により外来患者を主に検査相談窓口を開設した.開設当初から7年が経過し,検査・システムの内容および患者を含めた臨床側の環境も劇的に変化してきている.本稿では当院中央検査部における外来患者を対象とした検査相談の実際を中心に事例を含め述べる.

東京大学

著者: 下澤達雄 ,   盛田和治 ,   矢冨裕

ページ範囲:P.329 - P.332

1.はじめに

 現在,東京大学医学部附属病院では外来患者が一日3,500~4,000名,入院患者1,200名をかかえ,外来検体検査が一日約900名となっている.検査部は検体検査のみならず,生理検査(心電図,心エコー,腹部エコー,脳波,筋電図など)もカバーし,名実ともに臨床検査の中央部門として活動している.その活動の中に,検査コンサルテーションも含まれており,本稿ではわれわれの施設での現状をご紹介したい.

富山大学

著者: 原田健右 ,   北島勲

ページ範囲:P.333 - P.334

1.検査相談の対象

 当院の検査部所属医師とコメディカルスタッフが中心に相談を受け付けている.また当検査部のインターネットサイト(http://www.hosp.u-toyama.ac.jp/clla/)に検査相談専用メールアドレスを公開し,医療従事者のみならず患者さんや一般市民の方々からの電子メールによる相談も受け付けている.

福岡大学

著者: 大久保久美子

ページ範囲:P.335 - P.337

1.はじめに

 福岡大学病院では1998年4月に検査相談室を開設した.直接の契機は,病院オーダーリングシステムの導入に伴い,検査部への問い合わせが急増することが予想されたためであったが,当時,検査部の業務として「診療支援」という概念が注目されていたことも関係があったと思われる.開設後10年間の活動について報告し,検査相談室の役割と効果について考察したい.

市立岸和田市民病院

著者: 杉山昌晃 ,   朝山均

ページ範囲:P.338 - P.339

1.はじめに

 近年,臨床検査は,診療報酬の改訂に伴う検査実施料の削減と収益性を重視した関係から外注化という厳しい環境にある.一方,臨床検査技師にはチーム医療への積極的な参画が求められている.当院の検査相談室は,「何の検査をしているの?」「そんなに採血するのですか?」など採血室での患者さんとの会話をきっかけに,良質で安心できる臨床検査の提供を目的にチーム医療の一つである検査相談室の開設を計画し,2002(平成14)年10月から稼動している.

虎の門病院

著者: 佐藤真由美 ,   稲田政則 ,   米山彰子

ページ範囲:P.340 - P.341

1.はじめに

 当院の検体受付管理科では,20年以上前から,診療支援として医療スタッフ向けの検体検査マニュアルや,患者向け検査説明書などの整備を行う一方で,医師,および他の医療スタッフからの検査相談に対応してきた.現在,担当者は臨床検査技師1名で,検体受付管理科に所属する他の2名とローテーションで対応している.相談件数は一日に20~30件で,ほとんどは電話によるものである.その場ですぐに返答できる案件については即答し,確認,調査が必要な案件については,後刻,改めての報告としている.調査,確認後の報告も,電話での口頭回答が多く,必要に応じて資料提供,および面談をすることもある.専用の書式による文書報告は行っていない.患者向け相談も同じスタッフが担当しているが,頻度は1~2か月に1件と低い状況にある.

天理よろづ相談所病院

著者: 畑中徳子 ,   松尾収二

ページ範囲:P.342 - P.344

1.検査情報室と患者相談室

 当院では2002年に“検査情報室”を開設し,院内スタッフを対象とした検査に関するすべての相談窓口とした.これは電話対応の窓口を一つにし情報の一元化を図ることで,より質の高いコンサルテーションを提供できると考えたこと,また顔の見える検査室を目指してのことであった1).開設当初は,医師1名,技師3名で業務に当たっていたが,現在では技師2名(十数人からの当番制)で行っている.検査マニュアル,勉強会の資料,自施設での検討データ,相談内容とその回答などをデータベース化したことで,多くの内容に即答できている.

 一方,患者を対象とする“患者相談室”であるが,本格的な開設に向けて準備中である.現在は,患者向けの検査パンフレット20種類(至急報告書の内容について1種,基準範囲1種,生体検査6種,病気と血液検査の関係12種)を採血および生体検査の待合の2か所に設置し,自由に取ってもらっている.検査データを片手に相談にみえる患者さんには,パンフレットを使って検査の意味を説明している.

3.臨床検査科外来の実際

岩手医科大学

著者: 諏訪部章

ページ範囲:P.345 - P.347

 筆者が岩手医科大学医学部臨床検査医学講座に着任した2001年5月以来,「医師は患者を診察すべきである」とのスローガンのもとに,検査(専門)医としての検査部での業務以外に,一般診療への参加を模索していた.その結果,2004年6月より「総合診療外来」の担当が実現し,①紹介状を持たない患者の振り分け,②健診で異常値を指摘された患者の受け皿,③一般健康診断(職員検診を含む),などの診療業務を行ってきた.しかし,「総合診療科」は正式な標榜科ではないため,院内措置として「総合診療外来」の看板を掲げていた.また,いわゆる「総合内科」のように病棟患者を受け持たず,入院が必要な患者は関係する内科に紹介していた.院内では「総合診療外来」として単独の収益を毎月集計し運営委員会などに報告されていたが,保険請求上は他の内科に含めて行われていた.

 2008年4月1日から医療機関が標榜・広告できる診療科の一つとして「臨床検査科」が新設され,当院でも4月1日から「臨床検査科」の標榜を開始したがこれは全国的にみても迅速な対応であった.その要因として,われわれ検査(専門)医が外来を担当する下地ができていたことが大きかったが,そのほかに当院では当時ナンバー内科から臓器別診療科への再編の動きがあり,それに連動できたのが幸いであった.これまで当院の内科は,いわゆるナンバー内科をそのまま外来で標榜していたため,患者にはわかりにくいものであった.そこで,2008年4月から,第一内科は消化器・肝臓内科に,第二内科は循環器・腎・内分泌内科に,第三内科は呼吸器・アレルギー・膠原病内科のように再編されることになった.また,これまで中央臨床検査部の一部門であった病理診断部門が「病理診断科」として独立した.この流れを受けて「臨床検査科」の標榜も可能になった.

群馬大学

著者: 森村匡志 ,   青木智之 ,   村上正巳

ページ範囲:P.349 - P.351

1.はじめに

 群馬大学医学部附属病院は,病床数715床,1日の外来患者数は約2,000人の北関東の中核病院である.検査部には35名の臨床検査技師が配属されており,月平均約320,000件の検査を行っている.臨床検査専門医4名を含む10名の検査部医師が在籍している.

 当院では,2002(平成14)年6月に検査部外来が開設された.検査部に隣接する核医学科の診察室を空いている曜日に使用し,検査に関するコンサルテーションならびに診療を行うことを臨床主任者会議に提案し,検査部の診療部門として「検査部外来」が承認された.以来,火・水・金曜日の午前中に外来診療を行い,院内の各診療科あるいは他の医療機関からの紹介患者の診療を行うとともに,検査全般に関するコンサルテーションに応じている.

止血機能検査相談外来(大阪市大病院血液内科)

著者: 佐守友博

ページ範囲:P.352 - P.356

1.はじめに

 臨床検査科が標榜科として認められた.筆者は現在,月に1回(第2水曜日)だけ,大阪市立大学医学部附属病院(以下,大阪市大病院)外来棟2階の血液内科における「止血機能検査相談外来」を担当している.これも,臨床検査科外来と呼べるものの一つのパターンであると思われる.この外来は,止血機能検査に限ったものであり,月に1回だけの診察日という特殊なケースでもあるが,直近3年間を振り返ってその内容を報告する.

話題

遠隔画像コンサルテーション

著者: 白石泰三 ,   米田操

ページ範囲:P.360 - P.362

1.はじめに

 遠隔画像コンサルテーションの対象には放射線画像,病理組織および細胞診画像,その他臨床画像(皮膚,眼科領域など)が含まれるが,ここでは病理画像に限って概説する1).また,本題は遠隔画像コンサルテーションであるが,病理診断自体が主治医から病理医へのコンサルテーションである,との位置づけもあり,病理医間の狭義のコンサルテーション以外に,遠隔病理診断やカンファレンスを含めて解説する.なお,日本テレパソロジー・ヴァーチャルマイクロスコピー研究会からはテレパソロジー運用ガイドラインが公表されているので参考にされたい2)

今月の表紙 帰ってきた真菌症・3

Aspergillusの有性型

著者: 矢口貴志

ページ範囲:P.256 - P.257

 アスペルギルス症はカンジダ症と並び重要な真菌症である.その原因菌の約70%をAspergillus fumigatusが占めているが,近年,その関連菌種の有性型(teleomorph)であるNeosartorya属に含まれる種が病原菌として報告されている.また,同症原因菌の1つであるA. nidulansにおいても子のう胞子(有性胞子)が形成されればEmericella属として扱われE. nidulansと呼ばれる1)

シリーズ最新医学講座・Ⅰ 死亡時医学検査・3

死亡時画像(Ai)とCT

著者: 塩谷清司 ,   河野元嗣 ,   菊地和徳 ,   植田光夫 ,   高柳美伊子 ,   早川秀幸

ページ範囲:P.363 - P.367

死後CT

 近年,世界的に解剖率の低下が深刻な問題となるに従い,死後画像が解剖の代替手段となりうるかどうかを検証するために,2000年頃から本格的な研究(日本ではオートプシーイメージング1,2),欧米ではバーチャルオートプシー3))が始まった.オートプシーイメージングを戦略,システムとすると,postmortem CT(死後CT)はその戦術の一つである.日本における死後CTは,1980年代半ばから主に救命救急病院で施行されはじめ,現在数多く施行されている4).この日本に特異的な状況は,監察医制度が十分に普及していないこと5),CTの普及率が世界一6)という二つの理由による.

 現在,日本の監察医制度は大都市でしか施行されておらず,人口の85%が監察医制度のない地域に住んでいる.監察医のいる地域の救命救急病院では,来院時心肺停止状態で搬送され心肺蘇生術を施行するも死亡した患者(=異状死)は,監察医が解剖を施行することによって死因が正確に診断されている.反対に監察医がいない地域の救命救急病院では,これらの異状死に解剖を積極的に施行することができないため体表面からの観察だけで死因を推定せざるを得ず,正確な死体検案書を作成することは困難である.一方,日本には世界中のCT装置の半数近くが設置されていると言われている.そこで,監察医のいない地域でも死因を正確に診断しようとする,そして,‘解剖はしてほしくないが死因は知りたい’という遺族の気持ちに応えようとする救命救急医が,苦肉の策として死後CTを利用するようになった.

シリーズ最新医学講座・Ⅱ iPS細胞・3

iPS細胞利用の有効性・安全性評価

著者: 花園豊

ページ範囲:P.369 - P.374

はじめに

 京都大学の山中伸弥教授がたった4つ(または3つ)の遺伝子をレトロウイルスベクターで導入することによってヒト細胞の初期化(リプログラミング)に成功した.こうして得られた人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell;iPS細胞)を再生医療に応用できないか,その期待が一気に膨らんだ1).それからまもなく,アメリカのグループが,iPS細胞を使ってマウスの先天性貧血やラットのパーキンソン病モデルを治療したと発表した2,3).iPS細胞の応用研究は,世界中で非常に厳しい競争になっている.せっかくの国産技術なのだから,できれば応用も含めて日本国内で開発していきたいものである.その際,iPS細胞利用の有効性と安全性を的確に評価することが必要になる.

資料

臨床研究(試験・治験)コーディネーター(Clinical Research Coordinator;CRC)は臨床検査技師技術の集大成

著者: 横山錬藏 ,   河野健一 ,   笠井宏委

ページ範囲:P.375 - P.380

 昨今,検査業務の自動化が急激に波及し,臨床検査技師にはより専門的なスキルを求められる状況の中,新たな職域への挑戦の道しるべとなるべく,「臨床検査技術の集大成」ともいえる臨床研究(試験・治験)コーディネーター(以下,CRC)について,臨床検査技師の立場で考えられる得意・不得意な部分を紐とき,考察を含め,主なCRCの業務,CRCになるための研修,国内外でのCRC認定制度を中心に紹介いたします.

研究

Porphyromonas gingivalisTannerella forsythensisおよびTreponema denticolaよりも病態特異的なAP24の歯周診断指標としての意義

著者: 長谷川秀夫 ,   坂本光央 ,   野村明子 ,   田中庄二 ,   町野守 ,   辨野義己 ,   坂上宏 ,   安井利一

ページ範囲:P.381 - P.388

 現在700種以上の口腔細菌種が同定されている.そのうち培養可能な細菌は50%程度に過ぎない.近年,われわれは,従来歯周病の初発因子と考えられている病原性細菌Porphyromonas gingivalisTannerella forsythensisおよびTreponema denticolaよりも病態特異的な難培養細菌AP24を発見した.本報では,その歯周診断指標としての有益性を報告する.

Coffee Break

国際会議ではじめての英語発表(その2)

著者: 佐々木禎一

ページ範囲:P.348 - P.348

 「仮性結核菌症に関する第1回国際会議(First Interational Meeting on Pseudotuberculose)」の2日目(1963年6月25日)に,今度は私自身の発表があった.その表題は“Immunochemical studies on the isolated strains of Pasteurella pseudotuberculosis in Japan.”Sasaki T, Nagai T, Itagaki K, Tsubokura Mであったが,今度は昨日の経験から落ち着いて発表でき,座長(Knapp教授)にtext中の訂正箇所3か所を告げて始めた.途中,Mollaret教授から「持ち時間は10分」と告げられ,ベルも鳴ったが,落ち着いて“Few minutes more”と言って終了を急いだ.O抗原多糖体の化学的分析などの報告は少ないせいか,拍手も多く内容も褒められ,Ⅵ群の菌株の分与と米国から特殊なO抗原の分析の依頼を受けた.

 そして最終日の6月26日は分類に関する演題が中心で,最後にMollaret教授が「菌株の交換と集中化,データの交換の必要性」を述べ,またWHOに“Culture center”の設置を働きかけたい」とまとめた.この後一同そろって偉大なPasteur博士の墓も見学した.私も一応気にしていた初めての国際会議での英語発表は,依頼されていた坪倉博士の分も含めて,好評裡に無事終了することができた.その後,私は現役時代に数十回英語口演を行った.

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あとがき

著者: 濱﨑直孝

ページ範囲:P.390 - P.390

 今月の主題は「臨床検査コンサルテーション/診療支援」です.企画は虎の門病院中央検査部の米山彰子先生にお願いいたしました.先生は,現在,日本臨床検査医学会の常任理事であり,医療における臨床検査医学の果たすべき役割とそれをどう実践すべきかを真摯に考え,積極的に取り組んでおられます.その意味でも今月の主題の企画担当者として正に最適な先生だとおもいます.

 言うまでもなく,臨床検査医学とは,日進月歩の生命科学研究の成果を活用してヒトの生体成分の分析を行い,その結果から経験だけに頼らず学的・演繹論理的に医療を行うための学問領域です.生命科学研究の発展著しい最近の50年余りの間に徐々に盛んになってきている医学領域です.臨床検査医学はまだ新しいが故に,医学・医療の中ではまだ役割が十分に定着していないともいえます.ただ,目標としての臨床検査医学の役割は実に明快で,生体成分の分析結果から,臨床家へ診断・治療指針を提示することです.そのような活動目標の大きな柱が「臨床検査コンサルテーション/診療支援」になると考えられます.臨床検査医学が十分に育ちあがった暁には,各疾病について“診断・治療の標準的プロトコール”を提案・実践してゆくのが臨床検査医学の重要な役割になるはずです.昨年に厚生労働省から標榜科として「臨床検査科」が認められたのは,このような臨床検査の役割を見据えてのことであると考えられます.また,これも昨年から始まった特定健診・保健指導「メタボリックシンドローム対策」も臨床検査医学の役割を認識しての結果であると考えられます.牛歩ではありますが徐々に成果は実りつつあります.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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