癒着胎盤と画像診断
著者:
長谷川潤一
,
松岡隆
,
市塚清健
,
関沢明彦
,
岡井崇
ページ範囲:P.485 - P.487
癒着胎盤とは
胎盤は,子宮腔内の脱落膜の上の絨毛膜から形成される.この時,脱落膜は絨毛の侵入を適度に食い止め筋層まで達しさせない.そして胎児の分娩後は,脱落膜が存在することによって胎盤が容易に剝離,娩出される仕組みとなっている.何らかの原因による脱落膜の欠損によって,胎盤は直接子宮筋に侵入して癒着胎盤となる.侵入の程度によって楔入胎盤(placenta accreta),嵌入胎盤(placenta increta),穿通胎盤(placenta percreta)に分類される.妊娠子宮には母体の多量の血液が循環しているため,胎盤のトラブルは出血多量の原因となり,妊産婦死亡が胎盤異常に起因するものは約1割に達すると言われている1).癒着胎盤もその異常のひとつである.頻度は2,500例に1例と言われているが,穿通胎盤などの侵入程度の深い症例以外は,分娩前の診断が困難である.診断がついていないため胎盤の剥離処置を行うことによって急激な多量出血やDICの発症をきたし,母体死亡に至ることがあること,また,止血のために子宮全摘を余儀なくされる場合もあることなどから,高次の医療施設でのインテンシブな管理が必要なハイリスク疾患である.
癒着胎盤は,初めての妊娠や正常な子宮体部に付着する胎盤には合併しにくく,子宮下部に胎盤のある前置胎盤や既往帝王切開を含む子宮手術既往のある症例に発症しやすい2).これには脱落膜の形成不良が関連すると示唆されている.また,Clarkeらの報告には3),前置胎盤における癒着胎盤の頻度は1回の既往帝王切開での24%に対し,3回以上の既往帝王切開では67%に上昇すると述べられている.近年の帝王切開率の上昇から,癒着胎盤は今後増加する可能性があり,診断と管理の重要性も高まると思われる.