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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査53巻9号

2009年09月発行

雑誌目次

今月の主題 脳磁図で何がわかるか? 巻頭言

脳磁図の現状と未来

著者: 橋本勲

ページ範囲:P.971 - P.972

 脳磁図(magnetoencephalography;MEG)を用いた中枢神経系の基礎研究と臨床研究はわが国が世界をリードする数少ない分野の一つである.脳磁図はSQUID(超伝導量子干渉素子)磁束系を用いて脳内の神経活動に伴って発生する磁場信号を非侵襲的に記録したものである.錐体細胞の尖頂樹状突起に脱分極,過分極が生じると細胞内,細胞外に電流が流れる.細胞外電流を記録したのが脳波であり,細胞内電流により生じる磁場を記録したのが脳磁図である.

 頭部は脳,脳脊髄液,頭蓋骨,頭皮の4つの層からなり,それぞれの導電率は異なる.したがって,頭皮上の電極から記録される脳波は異なる導電率による歪みを逃れることが出来ない.しかし磁場は4つの層を真空中と同じように透過できるため,歪みが生じない.これにより脳磁図の高い空間分解能がもたらされる.また脳波と同じく脳磁図は神経活動をリアルタイムに観測でき,ミリ秒(msec)以下の高い時間分解能を有する.さらに脳磁図は非接触計測であるために,脳波と比べてその検査時間が短縮されることは重要な点である.100チャンネル以上のSQUIDセンサーと同じ数の脳波電極を貼りつける手間と時間を想像していただきたい.

総説

脳磁計システムの開発と現状

著者: 上原弦

ページ範囲:P.973 - P.980

 脳磁計(magnetoencephalograph;MEG)はヒトの脳神経活動による微小な電流が発生する磁場を感度の高い磁気センサで検出し,脳活動を観察する装置である.本稿では,脳磁計についてその測定の原理と構成を解説し,脳磁場の測定の例を紹介する.

脳磁図のデータ解析

著者: 望月正幸 ,   奥村栄一

ページ範囲:P.981 - P.987

 脳磁計測は,脳神経細胞群の電気的活動に起因する信号を直接捉えることができ,その高空間分解能,高時間分解能,非侵襲性という特長から,近年脳機能診断や脳科学研究で注目を集めている.脳磁計測により得られた脳磁データに対して時間加算平均,電流源推定などを行うことでより明確な脳活動情報を得ることができる.本稿では,これらの脳磁データの解析について解説する.

誘発脳磁図とは

著者: 柿木隆介

ページ範囲:P.989 - P.995

 誘発脳磁図の概要について述べる.誘発電位(脳波)に比べ,空間分解能が高いことが最大の長所だが,頭皮に垂直な方向の双極子の記録が困難であること,深部組織の計測が困難であることなどの短所がある.しかし,電場は容積伝導するため,誘発電位では,記録された反応の解釈が困難である場合が多いのに比し,磁場はそのようなことがないので,記録の解釈は非常にシンプルである.誘発脳磁図の長所と短所をよく理解して,基礎研究,臨床研究を行うことが重要である.本稿では,その1例として,顔認知に関連する誘発脳磁図研究について紹介する.

脳磁図による脳病変の機能診断

著者: 中里信和

ページ範囲:P.997 - P.1002

 脳磁図を用いて誘発反応や事象関連反応を計測することにより,体性感覚・聴覚・視覚などの機能診断が可能である.脳磁図では,空間解像度の高さを利用した大脳皮質の機能マッピングが特に普及している.局在診断以外の応用分野としては,主要成分の潜時変化や振幅変化に着目することによる脳機能の定量的診断がある.ここでは脳腫瘍・脳卒中など,脳の器質的病変を伴った症例における誘発脳磁図の実例を紹介し,その有用性について概説する.

自発脳磁図とその異常

著者: 石井良平 ,   栗本龍 ,   池澤浩二 ,   レオニデスカヌエト ,   高橋秀俊 ,   中鉢貴行 ,   疇地道代 ,   岩瀬真生 ,   武田雅俊

ページ範囲:P.1003 - P.1009

 現在,臨床検査としての自発脳磁図の測定は,主に脳神経外科領域における術前・術後の評価として実地臨床において有効に用いられている.器質的脳病変を有する患者の徐波活動や,難治性てんかん患者の発作間歇期の棘波や鋭波などの突発性異常波について,脳磁図を用いてその波形の観察や脳内での発生源推定を行うことで,脳外科手術の成績向上に大きく寄与している.また,最近では統合失調症や認知症などの精神神経疾患において脳の局在異常を同定し,その病態解明に役立てる研究が相次いで報告されている.器質的脳病変に関する内容は前稿「脳磁図による脳病変の機能診断」に,てんかん領域に関する内容は次稿「てんかんスパイクの磁場源解析(成人)」に譲るとして,本稿では,このような自発脳磁図の特徴と,主に精神科領域への臨床応用として,統合失調症と認知症を中心に概説した.

てんかんスパイクの磁場源解析(成人)

著者: 亀山茂樹 ,   村上博淳

ページ範囲:P.1011 - P.1017

 脳磁図(magnetoencephalography;MEG)は,現在てんかん焦点の局在診断に最も応用され,てんかん外科においては特に期待の大きい術前評価の一つである.焦点の可視化はMEGの最大の武器である.MEG解析での問題点は,主として発作間欠時のてんかんスパイク解析であり,真にてんかん原性を反映するようにスパイク定義を明確にしてそのダイポールの磁場源を解析することが重要である.また,ダイポールの局在のみではなくそのモーメント方向も重要な情報であることを忘れてはならない.MEG解析の基本を理解して焦点局在診断と焦点切除のためのガイドとして役立てることが大切である.

各論

聴覚野の情報処理

著者: 湯本真人

ページ範囲:P.1019 - P.1026

 脳磁図(magnetoencephalography;MEG)は脳波同様,脳神経細胞群の電気的活動を高時間分解能で捉えることのできる検査法だが,左右の聴覚野の活動がいずれも頭頂付近に電位のピークを作るのに対し,磁場分布はそれぞれの半球に分離して生成されるため,MEGは聴覚野の活動を記録するのにより適している.音高知覚は,場所説と時間説の神経機構で相補的に行われる聴覚系の基本的な情報処理だが,これらに関連する聴覚野の活動をMEGによって捕捉することができる.また,聴覚記憶やイメージとの誤差検出など,より高次の処理も聴覚野で行われている.本稿では主に聴覚野のみによって行われているこれらの情報処理に焦点を絞り,MEGの関連研究を挙げつつ概説する.

脳磁図と機能MRIによる優位半球同定と言語機能野の局在

著者: 鎌田恭輔 ,   太田貴裕 ,   川合謙介 ,   斉藤延人

ページ範囲:P.1027 - P.1033

 本稿では脳磁図(MEG)と機能MRI(fMRI)という機序の異なる機能画像の組み合わせにより,信頼性の高い言語機能マッピング法を確立した.対象は頭蓋内疾患を有する138症例である.文字読みMEGは単語を黙読して計測し,単一ダイポールモデルを用いて側頭葉内の文字認知ダイポール数を比較した.語想起課題fMRIでは有意なfMRI信号変化を示すピクセル数の比較を行った.文字読みMEGは上側頭回近傍部と紡錘回に認知ダイポールの集積を認め,その成功率は86.5%であった.語想起課題fMRIは優位側の上・中前頭回に強い活動を認め,82.0%の成功率であった.MEGとfMRIの併用により優位半球の同定成功率は95%となり,Wada testと比較して十分臨床応用が可能と考えられた.本法が確立することにより言語機能局在を詳細に把握することができ,脳神経外科手術計画立案に大きく貢献するものと期待できる.

視覚性運動刺激に誘発される脳磁場反応がもつ情報

著者: 金桶吉起

ページ範囲:P.1035 - P.1039

 種々の視覚性運動刺激に誘発される脳磁場反応の解析により,反応の頂点潜時は速度に反比例し,またこの潜時の変化は同じ刺激であれば速度にのみ依存することがわかった.また運動方向も反応波形に表現されており,波形データから刺激の運動方向を読み取ることも可能である.さらに運動方向の情報は速度情報とは独立に表現されており,これはヒト脳が運動情報処理において方向と速度を別々に行っている可能性を示す.このように脳磁場波形には多くの情報が含まれており,今後の波形処理方法が発展すれば脳磁図の神経科学への貢献や臨床応用の可能性がより高まると期待される.

ヒト体性感覚野からの高周波振動と臨床応用

著者: 尾﨑勇 ,   橋本勲

ページ範囲:P.1041 - P.1048

 正中神経刺激による体性感覚誘発脳磁界(somatosensory evoked fields;SEF)の初期皮質反応が低周波成分N20mと600Hz高周波振動(high frequency oscillations;HFOs)から成り立っていることについて解説した.N20m成分と体性感覚HFOsの発生起源についての仮説とHFOsの臨床応用に関する最近の研究をレビューするとともに,今後の展望について考察を加えた.

運動関連脳磁場

著者: 矢澤省吾 ,   長峯隆

ページ範囲:P.1049 - P.1055

 脳磁図計測は空間分解能と時間分解能に優れ,非侵襲的な高次脳機能の評価を可能にした.そのなかで体性感覚,聴覚,視覚刺激などと異なり,運動に関しては研究の焦点によりその記録課題の設定が異なる.運動関連脳磁場は,運動に先行して緩徐な磁場変化が出現し,運動直前後に急峻な波形を形成し,それらの成分から運動と反対側の運動野に信号源を検出できる.近年はその背景脳磁場活動により運動皮質の興奮性を様々な課題を用いて検出する努力がなされている.

小児てんかんの磁場源解析

著者: 藤原久子 ,   大坪宏

ページ範囲:P.1057 - P.1064

 小児神経科領域のなかで小児てんかんの占める割合は大きい.脳磁図(MEG)は,てんかん棘波の電流源の双極子推定を行うことで,小児てんかんの診断・治療において重要な役割を占めるようになってきている.小児に特異的なてんかんとてんかん症候群では,てんかん棘波の局在部位と性質をMEGで評価できる.小児難治性てんかんの多くが側頭葉外てんかんであり,神経移動障害の病理所見を示すが,このような症例においても,MEGはてんかん焦点を正確に同定でき,難治性てんかんに対する外科的治療におおいに役立っている.小児の発達・学習障害などにもMEGによる脳機能障害の解明を行う研究がなされている.本稿では,小児に特異的な良性てんかんの診断,難治性てんかんの外科的治療の術前検査,発達・学習障害へのMEGの応用について述べる.

話題

ヒト聴覚野の等周波数帯

著者: 尾﨑勇 ,   多喜乃亮介 ,   橋本勲

ページ範囲:P.1065 - P.1072

1.はじめに

 空気などの媒体がほかの物質との境界で急激に動くときに音は発生する.ある音を聞いたときに,われわれは音がどこから発生したかと同時に,音の特徴から発生源が何かを解析することになる.われわれが知覚する特徴として,音の強弱のほか音高(ピッチ,pitch)があるが,ピッチは高いまたは低いという知覚で,音の周波数に一致する.しかし,自然界には単一の周波数からなる音はほとんどない.ヒトの音声はフォルマントと呼ばれるいくつかの周波数のピークをもつほか,小鳥や楽器の音には独特の音色(timbre)があり,これらは音の周波数スペクトラムのパターンによって特徴づけられる1).したがって,音声の母音や楽器音の認知には,ピッチの解析に加えて,音の周波数スペクトラムのパターンを脳内で再現する必要がある.

 本稿では,音周波数スペクトラムのパターンが神経系でどのように解析されるのかについて述べるとともに,聴覚皮質における音再現地図(tonotopy)・等周波数帯(isofrequency bands)の意義と関連する聴覚誘発脳磁界(auditory evoked magnetic field;AEF)の研究について概説する.

主観的な感覚―体性感覚野における意識的な情報処理の表出

著者: 井口義信 ,   橋本勲

ページ範囲:P.1073 - P.1078

1.はじめに

 主観というみえざる内面世界を,脳神経活動から客観的に捉えようとする研究が進んできている.そこには,記憶,情動,報酬期待を題材とした多くのアプローチがあり,感覚野,連合野,皮質下領域の複合的な活動が俯瞰的に示されている.本稿の視点は,この脳内構成のなかでの感覚野の役割である.感覚野は,単なる感覚入力の受け手ではなく,行為や志向を背景とした意識的な情報処理の担い手であり,そこには,感覚の心象表現を形成する実行単位としての働きがあると考えられる.

 本稿では,「主観」を評価する切り口として,同じ感覚入力でも状況によって異なった受け止め方が生じることを題材とする.筆者らが行った体性感覚誘発脳磁界(somatosensory evoked magnetic fields;SEFs)の研究を軸に,①注意のスポットライト,②相対的な感覚,③触感のイメージ,について感覚野の詳細な活動を示し,その神経機構が,脳の可塑的変化や学習・訓練による統合的処理と関連することを述べる.

脳深部白質からの磁場信号の計測

著者: 木村友昭 ,   尾﨑勇 ,   橋本勲

ページ範囲:P.1079 - P.1083

1.はじめに

 近年の非侵襲的な脳機能マッピングによって,ヒト大脳各領域の機能分化の様子が明らかになりつつある.一方で,個々の領域にモジュール化した独特の機能を求めることを,骨相学の再現と批判する向きもある1).むしろ各領域間の情報が双方向性に伝達され,全体がハーモニックに共鳴するプロセス自体にこそ,脳における情報処理の本質があると考えられる2).しかしながら,非侵襲的な脳機能マッピングの一つである脳磁図(magnetoencephalography;MEG)では,検出可能な脳内信号は主として大脳皮質内の錐体細胞の興奮性/抑制性シナプス後電位(EPSP/IPSP)のみであると考えられ,脳白質における活動電位を含め,錐体細胞以外を起源とする信号に関する検討はほとんどなされてこなかった.

 しかし近年,測定システムや解析技術の発展により,MEG測定の対象は従来考えられていたよりも広がりをみせている.錐体細胞の近傍に位置する,抑制性介在ニューロン起源と思われる高周波振動がMEGで記録可能になっている3)ほか,小脳の活動に伴う磁場信号の報告4)も散見される.最近筆者ら5)は,正中神経電気刺激による体性感覚誘発脳磁場(somatosensory evoked fields;SEFs)を詳細に分析して,一次体性感覚野起源の初期成分出現に先立ち,刺激対側視床から大脳白質を上行するインパルスを反映する磁場信号を見いだした.本稿ではその概要について紹介する.

脊髄磁場計測と臨床応用

著者: 川端茂徳 ,   四宮謙一 ,   大川淳

ページ範囲:P.1085 - P.1089

1.はじめに

 近年,MRIなどの画像診断装置の進歩によって脊髄の圧迫や髄内病変などの形態的な異常は容易に把握できるようになった.しかし,高齢者などでは加齢変化により脊柱管が狭窄し脊髄が圧迫されていても,脊髄機能障害をきたさないことも多く,画像のみで脊髄機能障害を診断することはできない.

 脊髄機能診断法としては体性感覚誘発電位,経頭蓋磁気刺激筋誘発電位,針筋電図などの電気生理学的検査が現在一般的に行われているが,おおまかに脊髄障害の有無を診断できるのみで,詳細な障害部位診断は困難である.詳細な脊髄障害高位の診断には脊髄誘発電位によるインチングが有用である(図1)が1~3),体表からの測定では正確な診断ができないため4,5),硬膜外腔など脊髄の近傍に電極を設置する必要がある.電極の挿入は侵襲的かつ熟練を要するため,診断のために気軽に行う検査とはいいがたく,広く用いられていないのが実状である.

 一方,脳の分野では神経磁界測定が脳磁図計として臨床応用され,脳機能が体表から非侵襲的に測定されている6).電流は髄液・軟部組織で拡散し,骨組織で減衰するなど周囲組織の影響を大きく受けるのに対し,磁界は周囲の生体組織の影響を受けないため,神経磁界測定は電位測定に比べ体表から神経活動を評価するのに適している.

 筆者らは神経磁界測定を脊髄に応用して体表から非侵襲的に脊髄障害部位診断を行うことを目標に研究・開発を進めている.脊髄は脳に比べて深部に存在し磁界が小さいことなどから,ヒトの脊髄誘発磁界はこれまで測定が困難であったが装置の進歩により測定が可能になり,現在臨床応用間近なレベルに近づいている.

今月の表紙 帰ってきた真菌症・9

表在性皮膚真菌症原因菌・1

著者: 矢口貴志 ,   西村和子

ページ範囲:P.968 - P.970

 感染が表皮(特に角質層),爪,毛髪,または重層扁平上皮の表層にとどまり,皮下組織や粘膜下組織に侵入しない真菌症を表在性皮膚真菌症という.本症を原因菌別に分類すると,主要なものは皮膚糸状菌症,表在性カンジダ症,皮膚マラセチア症に分類される.その他,稀な疾患として黒癬やAspergillusFusariumScopulariopsisによる爪,皮膚の感染もある.

 皮膚糸状菌症には,白癬,黄癬および渦状癬の3疾患が含まれる.このうち黄癬および渦状癬のわが国での報告例は皆無といってよく,白癬が慣例的に皮膚糸状菌症と同義語的に用いられている.主な原因菌は,Trichophyton(白癬菌),Microsporum(小胞子菌),Epidermophyton(表皮菌)の3属で,大分生子の形態は特徴的で,属,種の同定に基準となっている.

 本号,次号(10月号)と2回にわたり表在性皮膚真菌症原因菌を取りあげるが,本号は白癬の原因菌を,次号は白癬菌のうち有性型として判明しているArthroderma属,黒癬の原因菌について解説する.

映画に学ぶ疾患

「ベンジャミン・バトン」―寿命遺伝子

著者: 安東由喜雄

ページ範囲:P.1056 - P.1056

 高木由臣氏の『寿命論―細胞から「生命」を考える』によると,ヒトの寿命というものを明快に規定している.そもそも生命体の寿命には,それぞれに規定された「プログラム寿命」があるという.これに対し「エラー寿命」は,疾病などにより短縮されてしまう寿命をいう.だからこの「定義」によれば,今後医学や科学の進歩により平均寿命は延びても,プログラム寿命は同じことになる.最近診療をしていると,高齢者,特に90歳以上の老人が急激に増えていることを実感する.明治の初め日本人の平均寿命は40数歳であったものが,現在ははるかに80歳を超える.今から40年ほど前は,わが国の100歳以上の長寿者は100人そこそこであったが,現在はその300倍以上の人々が生きている.

 このままいくとヒトの平均寿命は限りなく延長するかにみえるが,過去の統計などを元に冷静に推論すると,そうではないようである.過去には150歳を越える長寿者がいた記載があるが,100年以上も昔の統計はずさんで,生年月日を正確に証明する資料がないため,正式にギネスブックには認定されていない.現在認定されている長寿世界一は,122歳のフランス人であるようだ.では長寿日本一の年齢の推移はというと,111~116歳で推移しており,それ以上延びていく気配がない.かつて泉重千代氏が120歳を超えていたと報道されていたが,その後の鑑定により,109歳で死亡したと考えられている.ギネス同様日本人も120歳前後が「プログラム寿命」ということになるらしい.現在,日本人の平均寿命は,80歳代に突入しているが,医学の進歩や,社会のセキュリティーの改善などを駆使してもやっとあと30数年分寿命が延びる余地があることになる.

シリーズ最新医学講座・Ⅰ 死亡時医学検査・8

救急医療における死後画像検査の役割

著者: 小林繁樹 ,   種山英記 ,   宇田川王男

ページ範囲:P.1091 - P.1096

はじめに

 突然発症した重篤な病気や事故による大怪我により,短時間のうちに人が死亡した場合,その原因を知ることは疫学的に,また社会的(事件性の有無など)に,さらに遺族にとっては心情的にも極めて重要である.このような事例の典型例として救急救命センターにおける来院時心肺停止(cardiopulmonary arrest on admission;CPAOA)があるが,本稿ではこのCPAOA症例における死後の画像検査の有用性と問題点について述べる.

シリーズ最新医学講座・Ⅱ iPS細胞・8

iPS細胞からの心血管細胞の分化誘導とその応用

著者: 山下潤

ページ範囲:P.1097 - P.1103

はじめに

 虚血性心疾患を中心とする心疾患および脳血管障害は日本における死因のそれぞれ第2位(10万対126)と3位(10万対102)を占め,両者を合わせると第1位の悪性新生物(癌)(10万対254)に肉薄する.一方,国民医療費では,虚血性心疾患と脳血管障害を合わせると悪性新生物を上回り(2兆5千億vs 2兆3千億円)(以上,厚生労働省「平成16年度国民医療費の概況」),心血管系疾患は,現在および未来にわたり日本の医療が取り組むべき最重要研究課題の一つと考えられる.

 また,心筋症は原則的に心移植しか根治療法がなく,かつ日本における移植待機患者の9割を占める非常に重要な心再生医療のターゲットである.自国以外での臓器移植を原則禁止する方向のWHOの方針や日本における臓器移植法改正なども相俟って,幹細胞による心筋再生は医学的にも政治的にも重要性が増している.

 近年の幹細胞生物学の発展を背景とした再生医療研究において,血管および心臓は最も急速に研究の進展が認められる臓器である.すなわち,様々な新しい心血管幹細胞・前駆細胞の発見や心血管分化機構の解析,さらには前駆細胞をヒトに用いた再生医療の試みまで,基礎研究から臨床応用に至る幅広い知見が蓄積されてきた.なかでも血管は,骨髄細胞や末梢血細胞の虚血組織への移植,という細胞移植治療がすでに臨床の場にも応用され成果を挙げており,近年の再生医療の発展において先駆的役割を果たしている.

 本稿はそのなかで万能の幹細胞として期待されるES細胞および最近樹立された新しい多能性幹細胞,iPS細胞からの心血管細胞分化誘導とその応用に関する知見を中心に概説する.

Coffee Break

北大予科にせっかく入学したのに臨時休講が続く

著者: 佐々木禎一

ページ範囲:P.1018 - P.1018

 今私の手元には粗悪な紙質の古い通信物が数枚ある.これらは「そろそろ身辺整理」と先日車庫の中から探し集めた古い時代の各種資料中にあった北海道帝国大学豫科(以下北大予科)時代の終戦直後の葉書や連絡文書であった.こんな資料があるのは記憶にあったが,その実物の擦れがかったガリ版の文字を拾い読んで,懐かしく昭和21~22年頃を思い出した.

 私は昭和20年北大予科に入学,その直後戦争が終わり,厳しい敗戦直後で学校は燃料(石炭)もなく,学生たちは食糧もないどん底の生活をしいられ,やむなく講義は無期休講となった―せっかく希望しながらなかなか講義はできなかった当時の逆境を想い出すことができる.手元にある資料は文面は片仮名で,数字は漢字が中心であった.以下資料ごとに時系列的に紹介してみよう.

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あとがき

著者: 伊藤喜久

ページ範囲:P.1106 - P.1106

 今月の話題は脳磁図です.脳研究の発展も相俟って,随所から新しい展開が生まれていて雑誌「臨床検査」が目指す近未来の検査の眺望が広がっています.

 小学生の頃,細い銅線をエボナイト棒に巻きつけ電池をつけて,モーターを回転させました.電流を流すと磁場が生じ,逆に磁場を変化させると起電力が生じる,電流の方向と磁場との関係はフレミングの左手の法則による,高校の物理の授業のひとこまです.ほとんど講義のなかった学生時代には,たまたま開いたGuytonの生理学書に,神経線維は電線のようなもので,刺激によりaction potentialが生じ電流が流れ情報が伝達されるとありました.そうか神経伝達の電流をとらえるのが脳波,電磁波をとらえるのが脳磁波,しぼんだ海馬が少しよみがえりました.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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