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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査54巻2号

2010年02月発行

雑誌目次

今月の主題 の診断と臨床応用 巻頭言

Helicobacter pyloriの診断と臨床応用

著者: 浅香正博

ページ範囲:P.131 - P.132

 胃内には塩酸が存在するため,細菌の生育には適さない環境が作り上げられており,胃には細菌は生息できないと考えられてきた.1982年,オーストラリアの熟練の病理学者Warrenと若い消化器病医のMarshallによってはじめてヒトの胃粘膜よりらせん状桿菌が分離培養され,当初Campylobacter pyloridisと呼ばれていたが,その後Helicobacter pylori(H. pylori)という名称に変更された.本菌と胃粘膜病変とのかかわりが次第に明らかになっていくにつれ,胃炎,胃潰瘍など胃の病気の多くに本菌がかかわっていることが明らかになってきた.

 H. pylori感染を診断するための診断法には,内視鏡検査を必要とするものとしないものに大別される.内視鏡検査を必要とする診断法は,内視鏡下に胃粘膜を観察しながら,生検鉗子を用いて組織を得る方法である.

総論

Helicobacter pyloriの基礎知識

著者: 前田愼

ページ範囲:P.133 - P.140

 Helicobacter pyloriは1983年に発見されたグラム陰性桿菌である.高齢者の60%以上が保菌者であるが,若年者の感染率は次第に低下している.診断は迅速ウレアーゼ試験・鏡検法・培養法・尿素呼気試験・血清抗体測定法などで行う.わが国では胃・十二指腸潰瘍(または瘢痕)に対してプロトンポンプ阻害剤(PPI)+アモキシシリン(AMPC)+クラリスロマイシン(CAM)による一次除菌療法,PPI+AMPC+メトロニダゾール(MNZ)による二次除菌療法が保険適用である.病原因子としてBabAやSabAなどの接着因子,CagA/cagPAIやVacAなどの細胞障害因子があり,その存在や変異による疾患への関与が示唆されている.

Helicobacter pyloriの疫学

著者: 菊地正悟

ページ範囲:P.141 - P.145

 Helicobacter pyloriの感染源は感染しているヒトの胃である.主に小児期に感染し,経口感染だが口→口か便→口かは未解明である.小児期のベッドの共有や上下水道の未整備など,劣悪な衛生状態で感染率が高くなる.感染菌のDNAのパターンを比較する研究で,母子感染ときょうだい間感染が多いことが明らかにされている.国によって抗原性が異なることがあり,抗原抗体反応を用いる検査の精度に影響するので注意が必要である.

Helicobacter pyloriのかかわる病因

著者: 田中昭文 ,   高橋信一

ページ範囲:P.146 - P.150

 Helicobacter pylori(H. pylori)感染により細菌側因子(病原因子)と宿主因子(免疫応答)との複雑な相互作用により組織学的胃炎を起こすばかりでなく,消化性潰瘍,胃癌,胃MALTリンパ腫などの多様な臨床病態が引き起こされると考えられる.H. pyloriの病原因子としてVacAによる直接細胞障害,Ⅳ型分泌機構を介したCagAなど菌体成分の胃細胞内へ注入などによる機序などが徐々に解明されてきた.今後さらなる検討が期待される.

Helicobacter pylori感染と免疫応答

著者: 林俊治 ,   下村裕史 ,   平井義一

ページ範囲:P.151 - P.157

 Helicobacter pyloriは小児期に胃に感染し,多くは生涯にわたる持続感染となる.この感染において,血中抗体価は上昇し,胃粘膜での特異IgAも確認できるものの,胃からの除菌は起こらない.感染胃は慢性胃炎となっており,胃内での免疫反応がかえって粘膜傷害を起こしていると考えられている.感染胃粘膜ではTh1反応が優位となっており,TLRを代表とする自然免疫系の賦活やIL-8などによる非特異免疫反応も,これと関連しながら持続的粘膜傷害を起こしていると思われる.ワクチンの検討も行われているが,ヒトでの実用化にはまだ多くの問題がある.

各論

どのような手順でHelicobacter pyloriの診断を行っていくのか?

著者: 加藤元嗣 ,   浅香正博

ページ範囲:P.159 - P.163

 Helicobacter pylori感染の診断法には,培養法,鏡検法,迅速ウレアーゼ試験(RUT),PCR法,抗体測定法,尿素呼気試験(UBT),便中抗原測定法,内視鏡診断法などがあり,用いる検体や診断方法が多種多様である.しかし,gold standardとなる検査法がないので,一般的に複数の診断方法による総合診断が行われている.それぞれの診断法には特徴があるので,それらを理解してH. pylori感染の診断を行うことが重要である.日本ヘリコバクター学会のガイドラインを参考に,保険適用で示されている手順で診断を行うのが一般的である.

抗体反応測定法

著者: 工藤俊彦 ,   金辰彦 ,   藤浪斗 ,   西川潤 ,   宮嵜孝子 ,   杉山敏郎

ページ範囲:P.164 - P.168

 Helicobacter pylori(H. pylori)感染診断には,内視鏡検査を用いる侵襲的検査法と,内視鏡検査を用いない非侵襲的検査法の2つがある.検査施行者および被験者の立場からすると,「非侵襲的」で「迅速」,「簡便」な,さらには「正確」な検査法が最も好ましいと考えられる.血清抗H. pylori抗体および尿中抗H. pylori抗体測定法はいずれも非侵襲的で比較的簡便な方法であるが,用いるキットによってその精度が大きく異なっていることや,H. pylori感染診断には非常に有用であるが,除菌直後の除菌判定には適さないなどの留意点を十分理解して使用すべきである.

尿素呼気試験

著者: 大原秀一

ページ範囲:P.169 - P.172

 尿素呼気試験(UBT)はHelicobacter pyloriが有するウレアーゼ活性を利用した低侵襲な間接的診断法である.生検組織を用いる診断法が点診断であるのに対し,UBTは胃全体のH. pyloriの有無が診断可能な面診断であり,その診断精度は高く特に除菌判定では必須の診断法である.UBTに影響する代表的な因子としてPPIと口腔内ウレアーゼ活性がある.前者はPPI服用中や中断直後の偽陰性に注意すべきであり,後者は偽陽性の要因となる可能性があったがフィルムコーティング尿素錠剤の開発でほぼ解決されたと考えられている.

迅速ウレアーゼ試験

著者: 鈴木秀和 ,   斎藤義正 ,   日比紀文

ページ範囲:P.173 - P.175

 迅速ウレアーゼ試験は,Helicobacter pyloriのウレアーゼ活性を利用して,内視鏡検査時に生検することで診断する方法であるが,その簡便性ばかりでなく,内視鏡検査が終わって,その日のうちに結果を伝えることができ,治療を開始することも可能である点で実地臨床には大変適した検査である.内視鏡医が生検から判定まで自分で行えるというのも非常に実用的であり,多くの医師が利用している実態がうかがえる.

Helicobacter pyloriの病理診断

著者: 太田浩良 ,   羽山正義

ページ範囲:P.177 - P.181

 胃生検組織を用いたHelicobacter pylori(H. pylori)の検出法(鏡検法)には,胃粘膜の組織学的変化を観察できる利点がある.鏡検法によるH. pyloriの検出には,①内視鏡医により適切な部位から生検がなされること(幽門大彎中部と体部大彎中部の2か所),②鏡検者がH. pylori感染胃粘膜にみられる病理組織像(表層粘液細胞の細胞形態を変化,好中球浸潤)を捉え,③適宜,特殊染色を併用して判定することが重要である.

Helicobacter pyloriの薬剤耐性

著者: 沖本忠義 ,   村上和成

ページ範囲:P.183 - P.186

 現在,わが国のHelicobacter pylori感染症の除菌治療は,プロトンポンプ阻害薬と2種類の抗菌薬の組み合わせ(アモキシシリン+クラリスロマイシンもしくは,アモキシシリン+メトロニダゾール)で行われている.H. pyloriの抗菌薬に対する薬剤耐性は除菌率にかかわる重要な因子である.特にクラリスロマイシン耐性菌は20%後半まで増加しており除菌率に影響を与えている可能性が高い.今後の除菌治療を考えるうえで,H. pyloriの抗菌薬に対する薬剤耐性の現状を知ることは重要である.

話題

Helicobacter pyloriと特発性血小板減少性紫斑病

著者: 藤村欣吾

ページ範囲:P.187 - P.191

1.はじめに

 特発性血小板減少性紫斑病(idiopathic thrombocytopenic purpura;ITP)は主として皮膚や粘膜の紫斑を主体とする出血症状を示す後天性の血小板減少症である.厚労省「血液凝固異常症に関する調査研究班」における平成18年度のITP臨床個人調査表によると,慢性に経過するいわゆる慢性型は成人に多く,特に女性が男性の2.5倍多い.新患発生は人口10万人当たり1.88人,罹病患者は人口10万人当たり13.21人で新規発症症例の年齢分布は男女とも26~31歳と,さらにより大きなピークを51~80歳に認め,罹病症例では51~75歳に大きなピークを示し,ITPは昭和40年台に比し,中高年齢者に多い疾患に様変わりしている1)

 本症の発症には血小板膜に対する自己抗体が産生され血小板が破壊されることによる免疫性血小板減少機序が関与することが明らかにされてきた.それに伴ってITPの治療は副腎皮質ステロイドを中心とした免疫抑制療法や血小板破壊場所,ならびに抗体産生の中心的役割を果たす脾臓の除去(摘脾療法)が定着している.

 一般に自己免疫現象の引き金は不明であるが,最近感染症がその候補になっている事例があり,ITPの一部においてはHelicobactor pylori(H. pylori)感染が病態に関連している可能性が示唆され,多くの知見が報告されている.

小児領域のHelicobacter pylori感染

著者: 戸板成昭 ,   今野武津子

ページ範囲:P.192 - P.194

1.はじめに

 現在,Helicobacter pylori(H. pylori)感染は成人における胃癌の主なリスクファクターの一つとされている.その多くは幼児期に感染が成立し,長い経過ののちに萎縮性胃炎,腸上皮化生を経て胃癌へと進展していく場合がある.小児期のH. pylori感染の特徴を理解し,早期に診断・治療を行うことは将来的な発癌を予防することにほかならない.さらにその診断において,小児では内視鏡検査のような侵襲的診断法は一般病院の小児科では困難なことが多く,非侵襲的検査で陽性所見が得られたら,確定診断と除菌療法に関しては専門医にコンサルトする必要がある.日本ヘリコバクター学会では2009年から学会認定医制度が発足しており,公開される予定であるので,それにより専門医にコンサルトすることが可能になる.

 本稿では,小児領域におけるH. pylori感染の臨床像や診断法などに関し,その特徴と成人との違いについて概説する.

Helicobacter pyloriと胃・十二指腸疾患以外とのかかわり

著者: 塩谷昭子 ,   今村祐志 ,   畠二郎 ,   春間賢

ページ範囲:P.195 - P.197

1.はじめに

 1993年に,Helicobacter pylori(H. pylori)感染による消化管外病変の概念がはじめて提唱されて以来,心血管疾患をはじめ,血液疾患,皮膚疾患,自己免疫疾患,神経疾患,肝胆膵疾患などの種々の全身疾患との関連性が報告されている(表1).また除菌治療の有効性が報告されている疾患として,特発性血小板減少性紫斑病(idiopathic thrombocytopenic purpura;ITP),若年者鉄欠乏性貧血,慢性蕁麻疹等皮膚疾患,偏頭痛,遺伝性血管浮腫などが挙げられる.しかしH. pylori感染との関連性について科学的根拠が十分に証明されている疾患はない.消化管外病変とH. pylori感染との関連性についてITP(他稿に譲る)以外の注目されている疾患を中心に概説する.

Helicobacter pylori除菌による胃癌予防

著者: 上村直実

ページ範囲:P.199 - P.202

1.はじめに

 Helicobacter pylori(H. pylori)の出現以来,わが国の国民病とされてきた胃癌の概念が大きく変化している.H. pylori感染が胃癌の発症に深く関与していることが明らかになり1),さらに最近,わが国において早期胃癌に対する内視鏡的治療後のH. pylori除菌による異時性胃癌抑制効果を検討した大規模な無作為化比較試験(randomized controlled trial;RCT)の結果2)がLancet誌に報告され,除菌による胃癌予防が現実的なものとなっている.胃癌の予防という観点では,一般的には食生活改善による予防法が注目されているが,本稿では,H. pyloriと胃癌との関連についての現状を概説し,除菌による胃癌予防の可能性を考察する.

今月の表紙 代表的疾患のマクロ・ミクロ像 悪性腫瘍・2

胃癌のマクロ・ミクロ像

著者: 海野みちる ,   小松京子 ,   坂本穆彦

ページ範囲:P.126 - P.129

 わが国の胃癌罹患数は2003年の統計によると,男性第1位,女性第2位で,男女計では第1位である.2007年の死亡数においても肺癌に次ぐ第2位を占める悪性腫瘍である.40歳以上の男性の死亡原因は消化器系の癌が多く,70歳以降は肺癌や前立腺癌が増加する.女性では乳癌・子宮癌・卵巣癌で,高齢になるにつれて消化器系や肺癌などが増加する.5年生存率は,約60%である.

 胃癌の原因には,塩分の過剰摂取や喫煙,Helicobacter pyloriの持続感染などが原因とされている.

シリーズ-ベセスダシステム・2

パパニコロウ・クラス分類の意義と限界

著者: 越川卓

ページ範囲:P.203 - P.208

パパニコロウ・クラス分類からベセスダシステムへ

 パパニコロウ・クラス分類1)は,特に細胞診を専門とする人でなくても医学を学んだ人であれば誰でも知っているというほどよく知られた分類で,わが国においては長年にわたり子宮頸部細胞診を中心に細胞診全般において広く用いられてきた.一方,米国においては,すでに20年ほど前に子宮頸部細胞診の新しい報告様式としてベセスダシステムが提唱されている2,3).そのきっかけとなったのが,1987年11月2日のウォールストリートジャーナル(ニューヨークで発行されている米国の日刊新聞)に米国の子宮頸部細胞診検査の問題点が暴露された事件であった.米国ではPap test(パップ・テスト:パップはパパニコロウの頭文字をとった略語)あるいはPap smear(パップ・スメア)と言えば一般の人でも子宮頸部細胞診検査のことだとわかるほどよく知られた検査であるが,その検査で見落としが多く診断精度が低いという問題点が指摘され,社会問題にまで発展する大事件となった.

 この事件が契機となって,1988年12月には米国メリーランド州ベセスダにある国立保健研究所(National Institute of Health:NIH)において子宮頸部細胞診に関するワークショップが開催されることとなったが,そこで新しく提案された子宮頸部細胞診の報告様式がベセスダシステムである.その後若干の改良が加えられて2001年には2001ベセスダシステム4)が提唱され現在に至っている.ベセスダシステムの概要については,前号(54巻1号)の坂本穆彦教授(杏林大学)の論文を参照されたい.

シリーズ-検査値異常と薬剤・1

薬剤投与が臨床検査値に影響を及ぼす作用

著者: 片山善章

ページ範囲:P.209 - P.212

はじめに

 今日の医療において臨床検査は診断・治療方針の決定になくてはならないことは,誰もが認めている事実であるが,その臨床検査値は正確度,精密度が保証されていなければならない.しかし臨床検査値の正確度,精密度は図に示すように各種要因により変動する.これらの変動要因は各種問題がある.検査試料については,採取時の被験者の条件,採取法,処理法,保存法.試薬・標準品については,その品質,調製,保存.測定法の選択は特異性,再現性.測定環境条件は光,温度.計測機器の精度.器具の材質や清浄度.分析操作技術は技術者の技量などである.

 これらの要因をクリアして正確性・精密性の保証された検査値が得られるが,検査室では「検査試料」がどのような条件であったものかは不明であることが多い.検査試料は検査以前の問題として,被検者の条件,検査試料の採取と保存などの取扱い方によっては検査値に誤差が生じて正しい検査値が得られなく,重大な誤りをおかすことになる.すなわち被検者の食事,運動,採血時の解糖阻止剤,抗凝固剤などの適切な選択,検査試料の経時変化,溶血,採血部位,採血時間,そして,最も重要な問題点は検査室側にとっては投薬にまつわる検査値への影響がある.また,投与薬剤が測定に物理的,化学的に干渉することも大きな問題点である.

学会だより 第41回日本臨床検査自動化学会大会

検査データの保証は“足元から診療における評価まで”

著者: 山本慶和

ページ範囲:P.213 - P.213

 日本臨床検査自動化学会第41回大会は「臨床検査新時代への展開:システムと匠の融合」をメーンテーマとして,2009年10月8日~10日までの3日間,パシフィコ横浜会議センターおよび同展示ホールで開催された.台風の接近で急遽8日の科学技術セミナー,POC技術セミナーが9日に変更されるハプニングがあったが,プログラムは順調に進行した.

 科学技術セミナーは,「科学技術委員会マニュアル:生化学自動分析装置の異常データの事例集,緊急検査を中心として」が開催された.最初のセミナーでは筆者(天理よろづ相談所病院)が症例を提示し“検査データの読むプロセス”として,①症例の最も重要な検査データは何か?(全身状態,呼吸機能,心機能,腎機能,肝機能,代謝機能など).②上記の異常値所見を一元的に説明できるか? ③臨床側にどのような臨床所見・症状を確認したいか? ④病態把握・診断に必要な追加検査何か? を取り上げ,データの読み方を紹介し,患者の病態の理解,重要な症状の確認には4点のプロセスが有用であるとした.

Coffee Break

1977年(昭和52年)Furano Alpine Skiing World Cup(WC)スキー大会に役員として参加して

著者: 佐々木禎一

ページ範囲:P.158 - P.158

 前報で述べた様に,私はBarcelonaでの国際スキー連盟(FIS)congressに出席し,種々のトラブルのなかFISのAlpine Course Sub-Committee(alpine course専門委員)となり,1972年の冬季札幌五輪で私は日本側のFIS役員として種々重要な役目を果たし,貴重な経験を積んだ.この冬季五輪の成功で,札幌はこの分野で国際的に高い評価を受け,ノルディック種目(ジャンプなど)を中心に種々の国際大会を依頼されるようになった.

 そして札幌五輪の5年後(1977年),北海道富良野(北の峰スキー場)でFISの“Alpine Skiing World Cup”(WC)が開催されることが決まった.当然ながら私はFIS役員としてこれに参加することとなったが,今回はその際の貴重な体験を紹介しよう.

随筆・紀行

追憶

著者: 屋形稔

ページ範囲:P.198 - P.198

 遥か遠い昔の思い出がある.

 田舎の小学生の頃,音楽(唱歌)の時間はありきたりの童謡合唱で,田舎のワラシたちにも退屈な時間だった気がする.女の先生も袴をはいてオルガンを弾きながら歌を教えてくれた頃である.

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あとがき

著者: 池田康夫

ページ範囲:P.216 - P.216

 今月号の特集は「Helicobacter pyloriの診断と臨床応用」であるが,菌発見の経緯,それ以後の研究の展開を振り返ってみると,実に様々な教訓をわれわれにもたらしてくれて興味深い.単なるH. pyloriに関する基礎的・臨床的事項を知ること以上に,臨床的意義をもつ新知見がどのような工夫,苦しみ,努力,熱意のもとに生まれたかを学ぶことができる.研究者のみならず,医療に携わる人々,特に若い人々にぜひ知ってもらいたい.

 2005年にH. pyloriの発見でノーベル医学生理学賞を受賞したBarry J Marshall博士が,ピロリ菌が慢性胃炎,胃潰瘍の原因となりえることを証明するために,自らピロリ菌を飲み,実証を試みたことはあまりにも有名である.ノーベル賞を受賞する3年前の2002年にMarshall博士が慶應医学賞を受賞し来日された折に,ご夫妻とお話をする機会を得て,菌を飲まれた経緯を聞かせてもらった.奥様はその実験をされたことを後から聞かされ,もし事前に知らされていたら絶対に許さなかったと話された.Marshall博士は臨床医であり,現在もなおクリニックで消化器疾患患者を診療しているとのことだが,患者治療にかける情熱は熱いものがあり,その情熱が危険ともいえる実験に博士を駆り立てたのだなと感じた.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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