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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査54巻5号

2010年05月発行

雑誌目次

今月の主題 薬剤耐性菌制御の最前線 巻頭言

薬剤耐性菌制御の最前線

著者: 草野展周

ページ範囲:P.455 - P.456

 抗菌薬は感染症治療において多大なる貢献を果たし,現代医療においては必須のものとなっている.しかし,抗菌薬の使用は薬剤耐性菌が出現する原因になりうる.20世紀に入って抗菌薬が発見され,製造されるようになってからは,薬剤耐性菌の存在自体は,珍しいものではなく,抗菌薬が開発され,臨床の場に導入されれば,患者から分離されるようになっている.さらに,抗菌薬の使用頻度とその使用量が増加するとともに耐性菌の頻度は高くなる傾向にある.近年,複数の薬剤系統に耐性を示す多剤耐性菌による感染症が増加の傾向にあり,臨床の場においても治療に難渋するような症例の増加が認められるようになってきている.一方,抗菌薬の開発は1990年代より頭打ちの傾向にあり,多剤耐性菌感染症の治療に対しては,今後開発される新規抗菌薬に期待することがむずかしい状況になっている.また,臨床においては免疫を低下させる治療を行う頻度も高くなっており,予防も含めて抗菌薬が多用される機会は増加し,さらに,同系統の抗菌薬を繰り返し投与される可能性は高い.そのため,今後も臨床検査の場においては多様化した多剤耐性菌に遭遇する機会は増加すると考えられる.

 多剤耐性菌対策で重要なのは,耐性菌を増加させないように抗菌薬を適正に使用することであるが,分離された場合には,感染対策として拡大防止策を実施する必要がある.しかし,耐性菌は薬剤耐性検査を実施しなければその存在を把握できないというジレンマがある.さらに,特殊な薬剤耐性機序では追加試験が必要なものがあり,通常の臨床検査でどこまで対応するかが問題になってきている.また,感染対策においてはいかに耐性菌を保菌の状態で早期に発見し,早期に施設内での拡大防止策を開始するかが重要になっている.

総論

薬剤耐性菌の国内外の動向

著者: 荒木伸子 ,   栁原克紀

ページ範囲:P.457 - P.463

 医療技術の発達とともに,易感染宿主での日和見感染症や院内感染のリスクは,以前に比べずっと高くなった.感染症治療には抗菌薬療法が用いられるが,各種抗菌薬に対する薬剤耐性菌が次々と出現しており,治療に難渋する症例も多い.施設や診療科において,考慮すべき耐性菌やその分離状況を把握しておくことが必要とされている.本稿では,耐性化が問題となっている菌に焦点を当て,国内外の動向を概説する.

多剤耐性菌の機序

著者: 後藤直正

ページ範囲:P.464 - P.472

 重要な抗菌薬耐性メカニズムは大きく4種類(①抗菌薬作用点の親和性の低下と作用点の保護,②抗菌薬の不活化,③膜透過性の低下,④能動的排出)に分けることができる.MRSA,バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)や多剤耐性緑膿菌(MDRP)では複数の耐性メカニズムが集積しているのが現状である.感染制御には,これらの耐性メカニズムを正確に理解することが必要である.

グラム陰性菌におけるβ-ラクタマーゼ

著者: 石井良和

ページ範囲:P.473 - P.480

 β-ラクタマーゼはβ-ラクタム系薬を加水分解する酵素である.本酵素は,AmblerによってクラスA~クラスDまでの4種類に分類された.最近,クラスAおよびクラスDの酵素のなかにオキシイミノセファロスポリン系薬やカルバペネム系薬を分解する酵素が出現してきた.本稿では,基質特異性拡張型β-ラクタマーゼやカルバペネマーゼを含めて,β-ラクタマーゼの性質および検出法などに関して解説する.

バンコマイシン耐性の機序

著者: 片山由紀 ,   平松啓一

ページ範囲:P.481 - P.487

 1986年に初の臨床分離バンコマイシン耐性腸球菌(vancomycin-resistant Enterococci;VRE)が報告されて以来,VREは世界中に蔓延している.そのグリコペプチド耐性機構は主に,トランスポゾンTn1546により水平伝達されるvanA遺伝子タイプであることが明らかになった.さらに,vanA遺伝子はメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)にも伝播し,2002年には米国で初のバンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌(vancomycin-resistant S. aureus;VRSA)が分離された.しかしVRSAの流行性はまだ低く,ほとんど米国だけに限られている.一方,世界各国で分離されるMRSAにおいては,徐々にそのバンコマイシン感受性度が低下しており,ついにバンコマイシン中等度耐性(vancomycin-intermediate S. aureus;VISA)とその前駆体であるヘテロVISA(heterogeneous-VISA;hVISA)が出現した.VISAとhVISAは世界中に存在しており,それらはグローバルレギュレーター遺伝子上の変異により引き起こされる特有の耐性機構を保持している.

各論 〈多剤耐性菌の検出とその意義〉

多剤耐性肺炎球菌

著者: 千葉菜穂子 ,   生方公子

ページ範囲:P.489 - P.495

 肺炎球菌は呼吸器感染症の起炎菌として分離頻度の高い細菌であり,時に致命的ともなりえる侵襲性感染症の主要な起炎菌でもある.薬剤耐性肺炎球菌が世界的に問題となっている.いくつかの系統の薬剤に耐性化した肺炎球菌を多剤耐性肺炎球菌(MDRSP)と呼び,本稿ではその耐性メカニズム,特に“菌の質的変化による薬剤耐性化”の機構について述べた.多剤耐性菌の増加は,肺炎球菌感染症に対する治療薬,特に経口抗菌薬の選択肢を徐々に狭めてきている.感染症対策の基本は予防にあり,7価コンジュゲートワクチンの早期の定期接種化が望まれる.

市中感染型MRSA

著者: 山口哲央 ,   松本哲哉

ページ範囲:P.497 - P.503

 MRSA(methicillin-resistant Staphylococcus aureus)は院内感染症の主要菌であったが,近年,市中感染症からも検出されるようになってきている.市中感染型MRSA(community acquired MRSA;CA-MRSA)は大部分が皮膚・軟部組織感染症を引き起こすが,時に壊死性肺炎や敗血症,壊死性筋膜炎といった致命的な疾患を引き起こす.米国では,USA300と命名されたクローンが急激に増加傾向にあり,現在,CA-MRSAは最も注意すべき病原体の一つとして考えられている.疫学そのほかの解析にはSCCmecタイピング,パルスフィールドゲル電気泳動(PFGE),MLST(multi locus sequence typing)などが用いられているが,日本におけるCA-MRSAの現状については不明な点も多い.今後,国内においてもCA-MRSAがさらに拡大し,深刻な状況に陥る可能性もあるため,慎重な対応を取っていく必要がある.

ESBL産生菌

著者: 村谷哲郎

ページ範囲:P.505 - P.512

 ESBLとは,主にプラスミド上に存在する外来性のβ-ラクタマーゼであり,ペニシリンだけでなく第4世代を含むすべてのセファロスポリンおよびモノバクタムを分解可能なclass Aまたはclass Dに属するβ-ラクタマーゼのことである.ESBL産生株に対して,MICが低いセファロスポリンを使用した場合,有効であったという報告も存在するが,無効であったという報告や再発率が高いという報告も存在する.したがって,ESBL産生株であることが判明した場合にはこれら以外の薬剤を選択すべきである.病院内でのアウトブレイクに関する報告も多く,スクリーニング,確認試験を行い,治療薬選択ならびに病院内感染対策に活かすべきである.

MBL産生菌

著者: 竹村弘

ページ範囲:P.513 - P.518

 メタロ-β-ラクタマーゼは,カルバペネム薬をはじめとして,モノバクタムを除くすべてのβ-ラクタム薬を加水分解する酵素である.様々な菌種のグラム陰性桿菌でメタロ-β-ラクタマーゼ産生菌が報告されているが,わが国ではプラスミドを介して伝達するIMP-1型β-ラクタマーゼを産生する緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)が中心である.メタロ-β-ラクタマーゼ産生菌感染症は現状では稀であるが,現在使用可能なすべての抗菌薬に対して高度耐性を示す菌による感染症も起こりうるので,その動向については厳重な監視が必要である.

VRE

著者: 長尾美紀 ,   飯沼由嗣

ページ範囲:P.519 - P.523

 本邦においてバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)は確実に増加しており,感染が拡大する前に対策を講じる必要がある.VREには一見,感受性菌と見間違えるものがあり,通常の検査では判定を誤る可能性があるので注意が必要である.VRE保菌者は多くが腸管内に保菌するが,通常の便培養では検出されず,発見がしばしば遅れる.さらに,手指衛生の不備や手袋・エプロンなどの個人防護用具が適切に使用されないと,VREは医療従事者の手指を介して容易にほかの患者に拡がるため,早期発見および早期隔離が対策の基本となる.

マクロライド耐性マイコプラズマ

著者: 成田光生

ページ範囲:P.524 - P.528

 肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)には,その菌体内ではプラスミドのような外来の遺伝子が機能しない,リボソームのオペロンが1組しか存在しない,などの特徴がある.また,本菌は直接的な細胞傷害性は弱く,その疾患発症においては,細胞膜に含まれるリポ蛋白による炎症性サイトカインの誘導,あるいは細胞質に含まれる様々な物質による免疫の修飾など,宿主側の要因が強く関与している.したがって,適切な治療が行われなければ重症化するほかの病原体における薬剤耐性化とは様相が異なり,菌自体の薬剤抵抗性が必ずしも重症化には直結していない.本稿ではマイコプラズマの生物学的特性を踏まえたうえで,耐性菌問題について解説する.

話題

耐性化防止のための抗菌薬療法

著者: 三鴨廣繁 ,   山岸由佳

ページ範囲:P.529 - P.538

1.はじめに

 感染症治療では宿主,病原菌,抗菌薬の関係が非常に重要である.例えば,宿主に注目すれば,膿瘍形成があると抗菌薬の効果はあまり期待できない.病原菌に関しても多くの耐性菌が出現している.したがって,感染症治療においては,抗菌薬の使い方が非常に重要となる.

PK-PDを考慮した抗菌薬療法

著者: 戸塚恭一

ページ範囲:P.539 - P.542

1.はじめに

 これまでに多くの抗菌薬が開発されて感染症の治療に貢献してきたが,一方で抗菌薬に対する新たな耐性菌も出現していることは事実である.これらの問題に対処するためには新薬の開発推進も依然として重要な課題であるが,現実的には容易なことではない.したがって,現状では感染対策などで耐性菌の拡がりを抑制するとともに,既存の抗菌薬をいかに適正に使用し,長持ちさせていくかが求められている.

 抗菌薬の適正使用には多くの事柄が含まれているが,最も重要なことは抗菌薬をいかに上手に使うかである.抗菌薬にはそれぞれの抗菌薬に特有の抗菌作用と薬物動態が存在する.これらの特徴を最大限に活かした薬物療法を行うことが重要になっている.このような考え方に基づいた学問分野が抗菌薬の薬力学-薬物動態(pharmacodynamics-pharmacokinetics;PK-PD)である.耐性菌の抑制には抗菌薬の有効性を高めることが最も重要であり,当初は抗菌薬の効果的な使い方についての検討が主に行われてきたが,最近,抗菌薬の使い方と耐性菌の関係についての検討も行われるようになってきた.

多剤耐性菌の感染対策

著者: 平松和史

ページ範囲:P.543 - P.546

1.はじめに

 肺炎球菌,インフルエンザ菌,緑膿菌,腸球菌,黄色ブドウ球菌など様々な病原体が複数の薬剤に対して耐性化し,その検出頻度の増加は臨床上重要な問題となっている.こうした多剤耐性菌の多くは病院,家庭,各種施設などにおいて交差感染し,拡散している.多剤耐性菌制御のためには抗菌薬の適正使用と同時に感染対策も当然のことながら重要な課題である.特に,病院などの医療施設において交差感染を防止することは,医療機関に課された重大な責務である.

 本稿においては病院や医療施設における多剤耐性菌の院内感染対策について,特に微生物検査室の果たす役割について最近の話題を含め概説する.

耐性菌の疫学調査のための方法論―広島地区での試み

著者: 菅井基行

ページ範囲:P.547 - P.551

1.はじめに

 薬剤耐性菌はいつの時代でも,感染症治療における重要な問題となっている.近年,新規抗菌薬の開発・市場への導入がなかなか進みにくいなかで,既存の抗菌薬を適切に使用することが求められている.それと同時に,感染制御の立場からは薬剤耐性菌の出現をいかに早く察知し,その伝播を防止するかも重要な課題である.しかしながら,日常の業務のなかで薬剤耐性菌が検出されても,その情報が個々の医療機関の中だけで閉ざされていると,みえてこないものもある.その情報を感染制御に十分に活かすためには地域での様々な工夫が必要と思われる.

 本稿では一般的な疫学研究の方法論ではなく,筆者らが広島地区で数年前から実施している耐性緑膿菌の疫学調査を紹介することで,地域での疫学調査の重要性・有効性について論じてみたい.

今月の表紙 代表的疾患のマクロ・ミクロ像 悪性腫瘍・5

子宮頸癌のマクロ・ミクロ像

著者: 小松京子 ,   海野みちる ,   坂本穆彦

ページ範囲:P.450 - P.453

 現在の「子宮頸癌取扱い規約」1)では(第2版,1997年),子宮頸部腫瘍は,上皮性腫瘍と関連病変,間質性腫瘍,上皮性・間質性混合腫瘍,その他の腫瘍,続発性腫瘍とに分類されている.上皮性腫瘍は扁平上皮病変,腺上皮病変,その他の上皮性腫瘍とに分類される.

 子宮頸部悪性腫瘍のうち最も多いのは扁平上皮癌で約77%といわれており,次いで腺癌が約15%(2001年度産婦人科学会腫瘍登録による)である.WHOの分類は2003年に改訂されており(新WHO分類),扁平上皮癌,腺癌ではともに微小浸潤癌が独立して付け加えられ,扁平上皮癌の組織亜型として基底細胞様癌,扁平上皮移行上皮癌が加えられている.また,腺癌の組織亜型として,粘液性腺癌のなかにこれまでの内頸部型,腸型と並列に,minimal deviation adenocarcinoma(MDA),絨毛腺管状乳頭腺癌,印環細胞癌が加えられ,特殊型の神経内分泌腫瘍はカルチノイド,異型カルチノイド,小細胞癌,大細胞神経内分泌癌に分けられた.本稿では扁平上皮癌,腺癌,小細胞癌の症例を提示する.

シリーズ-検査値異常と薬剤・4

―臓器・組織に対する薬剤の影響―心臓,肺,脳および凝固線溶機能の治療薬の当該機能に対する副作用

著者: 片山善章

ページ範囲:P.553 - P.562

はじめに

 投与された薬物は注射のように直接的あるいは消化器官から吸収され,肝臓を経て血中に入る.その後,標的器官・組織に到達し薬理作用を示す.大部分の薬物の代謝は肝臓で行われ,血液から腎臓を経由して尿へと排出される.また,一部は胆汁とともに消化管に分泌されて糞便中にも排泄される.したがって,ほとんどの薬物は肝機能,腎機能に障害を与える場合が多い.

 本シリーズ第一回「薬剤投与が臨床検査値に影響を及ぼす作用」で,①直接的な薬物の影響と,②間接的な薬剤の影響があり,後者は薬剤の本来もっている薬理作用あるいは副作用によって,生体内で検査の対象となる成分の濃度を変えてしまうことであるが,特に副作用により“薬剤の検査値への影響”が生じ,検査値が予期せぬ値として変動し,期待されない検査値が得られてしまうと述べた.

 今回の“心臓,肺,脳,血液凝固線溶機能に対する薬剤の影響”は後者のことを総論として述べることになるが,影響する薬剤は無作為に取り上げるのではなく,標記の機能を治療する薬剤を選択して,その副作用を中心に述べることにする.薬の副作用(有害作用)について述べるに当たって,薬剤の投与経路が影響するので,薬物の吸収,分布,代謝,排泄について簡単に触れておく必要がある.

Coffee Break

あの頃の血糖検査法(Hagedorn-Jensen法)から便利なo-toluidine法への脱却

著者: 佐々木禎一

ページ範囲:P.488 - P.488

 昭和38年(1963年),私は10余年過ごした札幌医科大学微生物学教室から,附属病院中央検査部に移った.この当時の検査部は改築前で狭く,使用中の机,各種ピペット,試験管などのガラス器具はとても清潔とはいえなかった.また,古株の権力をもった年輩の技師が中心で,組織的にも技術的にも前時代的の感は免れなかった.こんななか,私に課せられた目標は組織の充実と近代化であり,また私の担当する生化学検査関係では課題も多かった.

 今回は当時血糖検査法として用いられていたHagedorn-Jensen(H-J)法の実情と,これより簡易で特異性の高いo-toluidine-ホウ酸(o-TB)法への脱却の経過を紹介しようと思う.

映画に学ぶ疾患

「ディア・ドクター」―胃癌

著者: 安東由喜雄

ページ範囲:P.504 - P.504

 ファジーという点でいうと,医療の右に出るものはなく,日々の診療は,1+1=2といった具合にクリアカットに処理できないことばかりだ.同じ病気でも患者ごとに,顔が違うように症状は微妙に異なる.だから正確な医学知識の伝授だけでは患者を満足させることができない.数多ある慢性疾患はすぐに病態が変化しないものも多く,詳細な検査データの変化を説明すると患者はかえって不安になる場合もある.

 「うそも方便」とまではいかないが,それに近い説明も時として必要なことがある.その山あいの小さな村には1,500人ほどの村人しか住んでいない.長らく無医村だったこの村に,3年ほど前,五十歳を過ぎた伊野修(笑福亭鶴瓶)という“医師”がやってきて診療所を始めるようになった.村唯一の総合診療所には,年寄りの腰痛,膝痛から内科疾患全般,小児の患者が詰めかけていた.映画「ディア・ドクター」の話である.伊野“医師”は,赴任して以来,場当たり的な処置をしたが,何とかぼろを出さずにやりくりし,場合によっては「名医」と崇められたりもしていた.そんななか,伊野は,一人暮らしの未亡人で,最近,胃の具合が悪く,体重が減ってきているかづ子の病状が気になって仕方ない.素人目にも悪い病気のようだ.検査の結果は予想通り,胃癌であった.しかし彼女から,「東京で医師としてバリバリ診療している娘には心配や世話をかけたくない.お願いだから娘の前で一緒に嘘をついてほしい」と懇願される.かづ子は夫を数年前に喪い,生きる気持ちも弱っていた.

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あとがき

著者: 岩田敏

ページ範囲:P.564 - P.564

 感染症に対する抗菌化学療法の進歩には目覚ましいものがありますが,一方で抗菌薬の使用に伴い,各種の薬剤耐性菌が出現してくることは自然の摂理であり,避けられない事実でもあります.実際の臨床の現場では,薬剤耐性菌の耐性機序を解明することで,耐性菌にも有効な新しい抗菌薬が開発されたり,薬剤耐性菌が出現しにくい投与方法が工夫されたりしております.今月の主題は「薬剤耐性菌制御の最前線」ということで,薬剤耐性の機序,問題となっている薬剤耐性菌,薬剤耐性菌をコントロールするための方略など,薬剤耐性菌とその対応に関する最新の情報が提供されています.ご企画は岡山大学病院中央検査部の草野展周先生にお願いし,実際に現場で活躍している専門家の先生方に,基礎・臨床それぞれの立場から解説していただきました.様々な分野で臨床検査医学に携わる読者の皆さまにとって,きっと役立つ内容だと思いますので,是非ご一読いただければ幸いです.

 さて,2009年4月にメキシコで発生が確認され,以降全世界に伝播したブタ由来インフルエンザウイルスA(H1N1)による新型インフルエンザも,年が明けてからは急速に患者数が減少し,わが国においてもついに終息宣言が出されました.この間,現場の医療機関では,刻々と変わる行政からの情報に翻弄されながらも,それぞれのご施設ができる限りの力を注ぎ込んで,ほとんどの人たちが初めて経験する新型インフルエンザのパンデミックに対応されたことと存じます.流行が終わってみれば,重症度などの点で,わが国においてはこれまでの季節性インフルエンザとそれほど大きな違いはないように受け止められてはおりますが,小児では急速に呼吸状態が悪化する肺炎例が多数みられるなど,「やっぱり新型は違う!」という印象でした.第2波の流行は今年の秋口からではないかと予測されております.WHOの勧告により,今年のインフルエンザHAワクチンには,パンデミックを起こしたブタ由来インフルエンザウイルスA(H1N1)が含まれる予定です.第2波の流行が始まる前に,多くの国民の皆さんがワクチン接種を完了しておくことが必要だと考えます.また,インフルエンザに罹患した場合,肺炎球菌感染症を併発し重症化することが知られているので,あらかじめ肺炎球菌ワクチンの接種を受けておくことも重要です.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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